【収穫祭】祭の夜の裏側で

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月31日〜11月05日

リプレイ公開日:2004年11月04日

●オープニング

 冷たい石畳の部屋の中、星々の明かりが差し込む。
 この季節のノルマンの夜は厳しい。少年は冷たさで赤く痛む耳を手で多い、鉄格子越しに空を見上げた。
「‥‥そろそろ収穫祭の季節だね。きっとパリの街なんて凄い賑わっているんだろうなぁ」
「でも、わたし達には関係のない事だよ。『あいつ』がわたし達を‥‥逃がすわけないじゃない」
 部屋の隅にできた水溜りを眺めていた少女が、吐き捨てるように答える。
 少女の体には無数の傷跡があった。転んで出来たものではない、『人為的に』つけられたものだ。

「そうだねぇ、逃がさないだろうねぇ。でもきっと、お祭では美味しいものが沢山食べられるんだよ。いいなぁ‥‥」
 別の少女が宙に向かって言う。ひどく痩せていて、満足な食事を与えられていない事は明白だ。

 星を眺める少年は両手を組んだ。目を閉じて、自分を見ているかどうかもわからない神に祈りを捧げる。
「お願い、神様‥‥。ぼく達を‥‥助けて‥‥!」

●冒険者ギルドにて
「よう、兄弟。ご機嫌かい?」
 毎度お馴染み、胡散臭いギルド員が君に話しかける。

「‥‥おい、こら、逃げるなよ! 依頼の話だって! ‥‥あ? 収穫祭を楽しみたい? いや気持ちはわからねえでもねえけどよ‥‥」
 言ってコホンと咳払いをすると、ギルド員は急に真面目な顔になって君に話を持ちかけた。

「どうだ、兄弟。いっちょ『正義の味方』ってヤツになってみる気はねえか‥‥?」
 君はとりあえず、彼からの話を聞くことにした。


「人身売買をやってるアホの摘発をして欲しいんだよ。場所はここから二日ほどいった所にある、貴族の屋敷だ。
 ‥‥そうだよ、そこの館の主人がイカレた性癖の持ち主らしくてな、ガキを『買って』自分の欲望のはけ口にしてるらしい。」
 君の顔がこわばる。

「とあるスジからの情報じゃあ、新たに二人ガキを買ったそうだ‥‥。今頃はガキどもを乗せた馬車がそいつの屋敷にいっているところか‥‥?
 ガキを増やして、自分の屋敷で収穫祭でも楽しみなさるおつもりかね‥‥? おぞましいったらありゃしねぇ。」
 ギルド員の瞳に映るランプの光が風で揺れる。彼は怒っているようだった。
「‥‥どうだ、正義の心ってヤツがムクムクともたげてくるだろう?
 血の繋がりも何の関係もねぇガキどもだが、そいつらの為に命をかけてみる気はねえか?」

●今回の参加者

 ea5254 マーヤー・プラトー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7522 アルフェール・オルレイド(57歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea7596 禍 閻水(41歳・♂・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea7602 リーン・クラトス(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea7794 エスウェドゥ・エルムシィーカー(31歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7980 蓁 美鳳(24歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

「‥‥今後は気をつけてくれ」

 禍 閻水(ea7596)が少々呆れたようにアルフェール・オルレイド(ea7522)に言う。
「いやぁ、すまなんだ。わしとした事が、保存食を忘れるとはな、わっはっは!」
 アルフェールは笑っているが、笑い事ではない。食糧の確保は命の維持にかかわる最も重大な事項である。突撃娘ティズ・ティン(ea7694)もそうであったが、保存食を忘れたこの2名は、余分に食糧を持ってきた者から少々融通してもらう事になった。

「おー、あれマーヤーさんと違う?」
 蓁 美鳳(ea7980)が指差す先には、馬にまたがったマーヤー・プラトー(ea5254)の姿が見える。どうやら無事に偵察を終えてきたようだ。
「‥‥さて、これで必要な情報は概ね揃うね」
「そうだね。後は細かい部分を煮詰めて‥‥実行あるのみだ」
 リーン・クラトス(ea7602)にエスウェドゥ・エルムシィーカー(ea7794)が答える。

「よし、変態ジジイめ‥‥黒き獅子の名にかけて許さん!」
 相麻 了(ea7815)は何故か周囲の面々を睨みつける。
「‥‥怒りは筋肉に緊張を生み、迅速な行動を妨げる。任務の遂行だけを考えろ」
 禍は無表情に応対した。普通は敵を睨むものだろう、と思いながら‥‥。

●夜半 ―とある貴族の邸宅、表にて
 屋敷にノック音が響く。

「‥‥ぅん?」
 正面玄関を通りかかった使用人が振り向いた。はてな、こんな時間に来客だろうか? ドアを少しだけ開けて外の様子を伺う、と‥‥。

 なんと、ロングソードを壮大に振りかぶった厳つい男がいるではないか!

「な、うわ‥‥!!!?」
 悲鳴をあげようとしたその瞬間、けたたましい爆音と共に木製のドアが粉々に吹っ飛んだ。
 相麻の『微塵隠れ』による土煙の中から複数名の人影が飛び出してくる。
「はっはっは、ごきげんよう! 礼儀正しくノックをして押しかけてやったぞ!?」
 アルフェールは自分の得物をぶんぶんと振り回して大声を張りあげる。

 哀れな使用人は腰を抜かして奥へと逃げてゆく。入れ違いで、爆音を聞きつけた用心棒どもがドヤドヤと武器を片手に飛び出してきた。
 6人、7人‥‥8人。陽動は成功している、いや、成功『しすぎ』だろうか? おびき寄せられた敵の数が多すぎる。

「なんだ、テメ‥‥ェ!!?」
 用心棒の一人が言いかけたところでマーヤーのチャージングが炸裂。少しでも数の不利を埋める為の、有無を言わさぬ先制攻撃。
 用心棒の一人は胸部を貫かれると、そのまま後方まで突き飛ばされた。

「うぉぉぉぉ!!!!」
 チャージングで態勢を崩したマーヤーに別の用心棒が斬りかかる、が、禍の蹴りが横から飛び出し、彼を守った。

「‥‥! すまない!」
「気にするな‥‥。雑魚はこちらで引き受ける、首領格の方を頼むぞ。」
 マーヤーに背を向ける形で、禍は静かに左腕の黒い革手袋を外す。毒の染み込んだ左手と、彼自身の持つ殺気がその姿を現した。


「黒き獅子の名は、伊達じゃぁないんだよッ!!」
 その禍の側では相麻が鞭で応戦している。彼は鞭の二刀(この場合は『鞭』か?)流という変則的なスタイルだったが、何せ装備が重くて10秒に一回攻撃するのがやっとだった。それが二つの手に鞭を持つ事の利点を殺してしまっているので悔やまれる。
「相麻さん、そんなん二つ持ってても無駄やん! 捨てぇや!!」
 敵の攻撃を回避しながら蓁がすかさずツッコミを入れる。


「子供達の笑顔の為に‥‥今は戦おう」
 剣を構え直し、アルフェールと並んだマーヤーは眼前に現れた男を睨みつける。
 身の丈はおおよそ2m、ジャイアントソードで武装した男。彼がこの用心棒達のリーダーだろう。

「なぁにが、子供達の為にだ‥‥! テメェらは俺達の為に死んでりゃぁいいんだよ!!」
 リーダー格の一撃がアルフェールに襲い掛かる。が、彼は素早く武器で攻撃を受け止め、そのまま身を翻して斬り返す。
「っ!! と危ねえ危ねえ‥‥」
 攻撃は当らない。相手もかなりの腕前のようだ。アルフェールは大きく息を吸うと、雷鳴のような声で高らかに戦の口上を読み上げた。

「さあ、かかってこい『小僧』! 正義の名にかけて、この剛剣で成敗してやろう!」
「ほざけジジイ! 肉の塊にしてやるッ!!」

●夜半 ―とある貴族の邸宅、裏にて
 リーン、エスウェドゥ、ティズが廊下を小走りで移動している。この3人は、マーヤーが得た情報を元に裏手から侵入していたのだった。
 リーンは侵入前にフレイムエリベイションをエスウェドゥ、ティズにかけたが、この魔法、他人にかけるには専門以上の技術を要するために随分手間取った。もっとも、それで時間をくったおかげで用心棒の全員が下の階にいる陽動組の応戦へと出払ってくれているわけだが。

「もう、せっかくさらわれた子供の練習とかしたのに‥‥!」
 ぷりぷりと怒っているのはティズ。売られる子供のふりをするつもりだったが、一緒にいる仲間が全く申し合わせてくれないのでどうしようもなかった。
「はは‥‥、まあ、それはまたの機会にでも‥‥」
 苦笑しながらエスウェドゥは最後の扉に手をかける。2階の屋敷はあらかた調べつくした。貴族がいるとすれば、あとはこの部屋しかない。
「準備はいいかい‥‥?」
 後ろの二人が頷くのを確認すると、エスウェドゥは静かに扉を開け、滑り込むように内部へと侵入した。

「‥‥あれ?」
 ティズが素っ頓狂な声をあげる。部屋に人影は全くなかった。暖炉の火のはぜる音がけがむなしく響く。
「‥‥大丈夫だよ。これは多分‥‥」
 リーンが本棚の近くで何かを探している。数分も立たないうちに、彼女は隠し扉のカラクリを解き明かした。本棚の一つがスライドし、新たな入り口が出現する。
「‥‥よくわかったな」
「インフラビジョンのおかげだね、一つだけ変な動きをする人の形があったから」
 入り口の先を覗き込む、石畳の螺旋階段は、この屋敷の地下へと続いているようだった。
「行こう、子供達が心配だ」

●夜半 ―とある貴族の邸宅、表にて2
「チク‥‥ショオ‥‥‥‥」
 リーダー格の男の手から、武器がするりと抜け落ちる。アルフェールのスマッシュがその男の額を捉えたのだった。筋肉質の巨体が、床にどすんと倒れた。
「わしにかかれば、ひよっこ同然! 手ごたえのない相手だったな‥‥」
 汗だくになったアルフェールがニッと笑って武器を収める。
 1、2人、用心棒の中には途中で逃げ出す者がいたようだが、結局は真正面からの殲滅戦の形になってしまった。勝つことは出来たが、こちらの負傷も甚大である。
 戦闘技術がまだまだおぼつかない相麻と蓁の負傷は特に酷かった。
「グッ‥‥痛ってぇ‥‥‥」
 相麻は左わき腹に刺さった短剣を抜き、苦痛に顔を歪める。
 マーヤーからヒーリングポーション 、リカバーポーションを受け取ると一気に飲み干し、傷を癒す。
「とほほ‥‥こりゃぁ、完全に赤字やわ‥‥」
 重傷を負った蓁もポーションを飲み、朦朧とした意識を取り戻す。兎跳姿という素晴しい奥義は持っていたが、あれは短いスパンで何度も使える代物ではない。
「‥‥命がある分、黒字と考えるんだな。これを使う事に躊躇するものではないよ」
「そういう事だ‥‥」
 マーヤーの言葉に禍が続く。彼は再び手袋ををはめなおしていた。彼の蛇毒手は2名の用心棒を麻痺さしめていた。

「とほほ‥‥そんな、殺生な‥‥」

●地下の牢獄前で
「くっ‥‥これは、予想外だったな‥‥」
 エスウェドゥは頬の傷を手で拭い、ナイフを構えた。彼の眼前にたたずむ男は不敵に微笑み、細身の剣で優雅に構える。
「貴族たるもの‥‥剣術はたしなみとして体得しておくものさ‥‥?」

 牢獄に入れられた子供達は男の姿に恐怖していた。呼びかけるリーンの声に反応する事もなく、青ざめた表情でひらすらに震えている。
「‥‥子供たちを欲望のはけ口にした代償、絶対に払わせてやる!」
 睨むリーンの視線も何のその、貴族の男は3人の冒険者に臆する様子もなく、的確に剣撃を打ち込んできた。対するエスウェドゥはフェイントアタックを織り交ぜて変則的な攻撃を繰り出していくが、ここぞという一撃に限って退けられてしまう。

「‥‥無理だ」
 子供の一人がぽつりと呟く。
「やっぱり無理なんだ。逆らう事なんてできっこないんだ‥‥」
 別の子供がつられて呟く。
「もうダメだ。あきらめ‥‥」
 言いかけたところで、言葉が止まる。

 地面に突っ伏していたティズが立ち上がろうとしていたからだ。相手の攻撃速度に追いつけずに喰らった一撃で、口の中は切れ、鼻から出血していた。

「‥‥大丈夫、お姉ちゃんが今、助けてあげるから。もう大丈夫」
 子供達にそれだけ言うと、少女はロングソード一本でかの変態貴族に反逆する事にした。
 フレイムエリベイションの効果はとうにきれていた。関係ない。相手は武装した大人だった。関係ない。

「いっっっくよぉぉ〜ッ!」
 左足で大地を蹴飛ばし、右足で勢い良く相手の間合いに踏み込む。剣が空を切り裂き、貴族の男が放つ剣撃とぶつかり激しい火花を散らす。
 呼吸を省略してすぐさま次の一撃を放つ、相手の攻撃をいなして突き返す。

 その姿は子供達からすれば涙が出るほど頼もしかった。

「マヌケが! 大人しくしていれば我がコレクションに加えてやったものを!!」
「そんなのこっちから願い下げだよっ!!」

 勝機、エスウェドゥも素早く前線に加勢する。

「むっ‥‥!」
 二人を同時に相手する事になり、貴族の形成が少しずつ悪くなっていく。そして‥‥。
「ぐあっ!!!?」
 エスウェドゥのブラインドアタックEXが男の腕を捉えた、続くティズの攻撃で武器は弾き飛ばされ、石畳の床に放り出される。

「‥‥勝負ありだ。動くな。この場で首を斬られたくなければね‥‥」
 エスウェドゥがナイフを男の首元に突きつける。勝敗は決した。

●後日談
 冒険者達の働きにより、子供達は全員無事に保護された。リーン、及び冒険者ギルドの尽力によって、子供達は全て教会の孤児院が引き取るとの事である。(この際、手続きのミスにより危うくティズまで孤児院入りしそうになったのは関係者のみぞ知る事だ)
 貴族の男については、後日しかるべき罰を受ける事だろう。領地は既に没収され、彼は今では牢屋に閉じ込められている。
 ‥‥以上が、収穫祭の喧騒の裏側で活躍した冒険者達についての報告書である。

 なお、この依頼に参加した者全員に、『黒薔薇の人形』達には気をつけたまえ、という貴族の男からの手紙が牢獄より届いたようであるが、それが何を意味するのかは不明だ。