【開港祭】偽りのマーメイド

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月06日〜11月11日

リプレイ公開日:2004年11月10日

●オープニング

 ―――ドレスタットから2日程いった所にある、とある入り江にて

「ウェッヘッヘッヘ‥‥‥! とうとうやりましたねぇ、兄貴!」
「ああ、全くだぜ。これで俺たちゃ大もうけだ!」
 鼠のような顔をした男と、ひときわ体の大きい男が愉快そうにゲラゲラと笑う。二人の海賊が見つめる先には、黒く冷たい牢獄に入れられたクレリックの女性が力なく横たわっている。

「‥‥さて、と、レイディ。よろしいかな? これから俺たちは、とある貴族の旦那のトコへ商談にいくわけだが‥‥。アンタは俺の言うとおりに、魔法でマーメイドに化けるんだ。」
 マーメイドに関しては以下のような伝説がある。『人魚の肉を食べた者は不老不死になれる』と。
 この伝説が真実なのかどうかは定かではないが、これが原因で、マーメイドの肉を裏で求める者、人魚の肉と偽って別の肉を売る詐欺師、が後をたたないのは事実である。

「言う事きかなきゃ‥‥わかるよなぁ?」
 体の大きい男は、左手に掴んでいた子供を女性の前につきつける。子供の顔は恐怖で引きつっていた。
「やめて! その子は関係ないでしょう!!?」
「‥‥そうだなぁ、コイツはアンタとは関係ない。このガキは俺が小間使いとして買ったモンだからだ。でも、神に仕えるアンタはこの子を見殺しにする事はできるのかねぇ?」
 クレリックの女は男を睨みつける。が、もはや八方塞がり。言う通りにするしかなかった。

「‥‥なに、殺しゃぁしねえよ。旦那への証明としてマーメイドのアンタを見せた後は、どうとでも誤魔化せるさ。」
 男はうすら笑いながらそう言う。だが‥‥。
(「‥‥なぁ〜んてな。俺たちのコトがバレちゃあ都合悪いし、どう転んでも死んでもらうがね。」)
 よもや、こんな事を思っていようとは。


「‥‥そういやぁ、兄貴。そろそろドレスタットの方じゃあ開港祭ってのがやってるらしいですぜ?」
「ああ、確かそうだったな。‥‥。別に急いで貴族様んトコに行く義務はねえ、商談成功の前祝いといっとくか?」
「そいつぁ名案!」
 鼠顔の男がパチンと指を鳴らして飛び上がる。まあ、単に騒ぎたいだけなのだろうが。
「おい、ジャン! ジャンはいるか!?」
「へい、親分!!」
 一体どこに潜んでいたのかはわからないが、まだ10代後半もいかない小柄な少年が飛び出してくる。
「‥‥おめえ、ちょっとドレスタットまでひとっ走りして酒と食糧を買ってこい!
 馬車は適当に向こうで借りるんだ!いいな!!?」
「へい、親分!!」
 少年は威勢良く返事をすると、その足でドレスタットまで駆け出していった。

 出発の間際、檻に入れられた女性をちらりと見ながら‥‥。

●冒険者ギルドにて
「ようこそ兄弟。ギルドの沙汰も金次第。あたしらはアンタを歓迎する。」
 筋肉質で威勢のよさそうな女性が君に声を掛ける。何かこのセリフ、パリでも聞いたことがあるような気がするのは気のせいだろうか?
「‥‥開港祭で、巷じゃあてんやわんやの大騒ぎさ。中には裏でよろしくねぇ事をしている連中もいるようだが、ね?」
 ギルド員の女性はふふん、と鼻をならしてさらに続ける。

「‥‥どうよ、兄弟? ここいらでその『よろしくねぇ事』をしている連中をいっちょシバき倒してみる気はないかい?」

 出された依頼はクレリックの女性の救出。

「‥‥あの、どうかお願いします! あの人を、助けてやってください!!」
 カウンターの近くにいた少年が君に駆け寄り、突然頭を下げた。何事かと思って君は彼に尋ねてみる。

「‥‥え、オレの名前? あ、ジャンっていいます。この依頼を出したモンです‥‥」

●今回の参加者

 ea2248 キャプテン・ミストラル(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5798 ヴィーゼル・シュタイン(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7724 ウィンディー・ベス(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8038 ブラッド・スカル(62歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8237 アンデルフリーナ・イステルニテ(25歳・♀・ファイター・パラ・イスパニア王国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「ふむ‥‥。思ったよりも保存食の需要はあったようですね」
 少々驚いたようにファル・ディア(ea7935)が呟く。保存食を準備していなかった者は思いのほか多く、彼が用意した食料はすっかりと消費し尽くされる事になったからだった。

「ははぁ‥‥。だ、大丈夫ですよね、皆さん? 頼んますよ‥‥?」
 その様を不安げにジャン少年が見つめる。
「あはは‥‥。大丈夫、大丈夫っ! ‥‥うん。きっと、多分、おそらくは、あるいは‥‥」
 その不安はけらけらと笑うアンデルフリーナ・イステルニテ(ea8237)によって吹き飛ばされた。後半部分の言い回しは依頼人には聞こえなかったようだ、問題はない。

「しかし‥‥。なんでまた、こんな依頼を出したの? あなた、海賊でしょう?」
 アンの側にいた、エルザ・ヴァリアント(ea8189)が言葉を続ける。彼の真意を探りたいらしい。

「え、な、なんでそんな事きくんすか‥‥?」
「‥‥気になさる事はありませんよ。ちょっとした懺悔だと思って下さい。
 たとい貴方が海賊の一員だとしても、彼女を助けたいというその行いで、神は貴方のこれまでの罪を許して下さいます‥‥」
 何故か動揺するジャンを、ファルが静かになだめる。

 少年は口をもごもごさせた後、急にニヤけて顔を赤らめた。
「ふふん、なるほど。『ホの字』というワケじゃな?」
 ヴィーゼル・シュタイン(ea5798)が遠慮なく少年の本心を言い当てる。ニヤけたり冷やかしたり苦笑したりする冒険者たちに、ジャン少年は馬車の手綱を握りつつ悶えるしかなかった。

●ドッキリ救出大作戦 (命名 by ヴィーゼル)
 海賊達のアジトが近くなってきたところで、冒険者たちは陽動をする組と、潜入してクレリックの女性を救出する班に分かれた。
「‥‥頼むぞ」
 ウィンディー・ベス(ea7724)の言葉に、ジャンは小さく頷くとゆっくりとアジトの中へ馬車を進ませていった。

 ―――
「こんにちは〜♪ 今日はよろしくお願いしますね〜♪」
 ニコニコとアンの営業スマイルが炸裂する。周囲には首領をはじめ、海賊らがほとんど勢ぞろいしていた。
(「ああ、もう、そうよね! そうに決まってるわよね! この馬車は宴会用のお酒やら食糧を積んでいるんですもの! それが着いたら、連中みんな喜んで馬車に集まってくるに決まっているわよねぇ!!」)
 心の中で絶叫しつつ、同じくにこやかな笑顔でエルザも海賊どもに愛想をふりまいている。
 後ろでウィンディーが顔を引きつらせているが、見つかったのでは仕方が無い。
「よっしゃあ! オメェ等、宴をはじめるぞ!! 準備を始めろー!!」
 首領の声に、おー、と男達が歓声をあげる。

 ―――
「そろそろ‥‥ですかね」
 武具の点検を終えたドロシー・ジュティーア(ea8252)が口を開く。かみ締め続けていた唇から血がにじむ。
 もうかなりの時間、アジトの中からの笑い声やら歌声を聞き続けている。宴も随分盛り上がっていることだろう。

「‥‥己が欲望の為に、罪も無い女性を売ろうとは‥‥灸を据えて差し上げなくてはなりませんね」
 そう言って、ファルは静かにグットラックの詠唱を始めた。
「‥‥神よ、この勇敢なる者達へ、貴方の大いなる祝福と勇気を与え賜え」
 これにて襲撃の準備は万端、あとは実行あるのみ。
「罪人のあるところこそ、黒の教えに叶うもの‥‥。行くかね」
 ブラッド・スカル(ea8038)の言葉に全員が頷き、アジトへの侵入を開始する。

 ―――
 宴は今や最高潮に達していた。ドックに入った船の甲板の上で、海賊達はてんやわんやの大騒ぎである。海賊の一人が、よった勢いにまかせてウィンディーの胸に抱きついている。いかん、彼女の額に青筋が。
「よっしゃあ! ジャン、ここいらでオメェ、一発芸を‥‥」

「あいや、待たれい!!」

 首領の言葉は遮られた。
「あぁん!? ‥‥何だ、テメェは!?」
 声のするほうを見ると、船の手すりで女が腕を組んで仁王立ちしている。服装からして、同業者のようであるが‥‥。
「私は七風海賊団七代目頭目キャプテン・ミストラル! 私利私欲のためにマーメイドさんを捏造しようなど言語道断! 海の神様はお怒りです! そのマーメイドさん、お返し願いましょうか!」
 宴の喧騒を一撃で吹き飛ばさんばかりの大声で、我等がキャプテン・ミストラル(ea2248)は堂々と戦の口上を読み上げた。ロングソードを抜剣すると、剣の切っ先を首領の首先に向けてかかってこいと挑発する。
「丘から攻めてくる海賊ってのは初めて見たが‥‥」
 首領の下まぶたが怒りで痙攣する。宴を邪魔された上に喧嘩まで吹っ掛けられた彼の怒りは頂点に達していた。海賊達は一斉に臨戦態勢にはいる、一方でブラッドらをはじめとする冒険者達も駆けつける。
「野郎ども! たっぷりとお相手してやんな!!」

 ―――
「あー、もう! これじゃあこっそりもヘッタクレもないさね!」
 叫ぶアンに続き、エルザ、ウィンディー、ジャンらがアジトの中を全力疾走で駆け抜ける。目指すは囚われのクレリックのいる牢獄。ジャンの案内でほとんど迷う事無く突き進む事が出来ている。
「ここっす!!」
 ジャン少年が通路の先のドアを指差す。ドアにさしかかるや否や、エルザがヒートハンドで強引に鍵をぶち壊して侵入する。
 そこにはいた、かのクレリックが。拘束されて大分疲労しているようだが、突然現れた冒険者たちをしっかりと見据えている。側には彼女の世話を任されたのか、小間使いの子供が怯えた表情で冒険者達を見上げてる。
「あなた方は‥‥?」
「は〜い、囚われのクレリックさんを助けに来た冒険者で〜す♪」
 軽快な調子でアンが答える。それを聞いてかの女性は安堵の表情を浮かべ、大きくため息をついた。
「ささっ‥‥早く逃げた方がいいっす‥‥。そうしないと‥‥」

「そうしないと、また捕まっちまうもんなぁ? へへっ‥‥」
 一同が仰天して背後を振り返る。そこには仲間の海賊2名を引き連れた、鼠顔の男‥‥。

「──火霊よ、その尊き御魂の片鱗を‥‥きゃああッ!!?」
「おおっとぉ! 余計なコトはせんでいいぜぇ!? 嬢ちゃん!?」
 エルザの詠唱に対し、鼠顔の男が高速詠唱で強引に割り込む。水の塊が激突し、エルザは突き飛ばされた。それを合図に部下の海賊が襲い掛かってくる。
「‥‥私好みの悪党みたいだね‥‥楽しめそうだ」
 その逆境を楽しむかのように、ウィンディーが剣を大上段に構える。相手の攻撃を紙一重でかわすと、お返しと言わんばかりに強力な一撃をお見舞いした。

 ―――
「貴様ら如きに錬金術は勿体無い、これで十分じゃぁぁぁぁぁ!!!」
 甲板ではヴィーゼルのアイスブリザードが炸裂し、海賊達を怯ませる。広範囲に攻撃できるこの魔法は、大人数を一度に相手するにはうってつけである。
「あなた方海賊に、神の王国の住人たる資質があるか試そう」
 ヴィーゼルに負けじとばかり、ブラッドもディストロイで海賊に一撃を見舞う。しかし前に出すぎた。側面から別の海賊が彼に斬りかかる。
「‥‥むっ!!?」
 刹那、ドロシーが割り入って敵の攻撃を受け止めた。
「安心して魔法を使って下さい! 我が剣は護りの剣、海賊の下っ端風情が私を抜く事はありません!!」
 海賊は小さく舌打ちをすると、今度はその攻撃の矛先を彼女に向けた。

「おい、さっきまでの威勢はどうしたよ?」
「‥‥‥」
 海賊の首領と、ミストラルが対峙する。オフシフトによって攻撃の当たる心配は殆どなかったが、逆にこちらが攻撃に転ずるチャンスもなかった。

(「‥‥一対一じゃ、苦しいかな?」)
 そう思いつつ、相手から視線を外して遠くを見る。視線の先ではアンが逃走準備完了の合図を送っている。

(「‥‥潮時だね」)
 ミストラルが剣を収める。そして懐に手を入れ‥‥。

「痛デェッ!!!?」

 突然、首領の男が身をかがめる。ミストラルの放ったダーツが彼の顔に突き刺さったのだ。
「偽マーメイドさんは頂きました! これからは、もっと真っ当な生き方を考えた方がいいですよッ!」
 言ってから更にダーツをもう一発。次いでやる事は決まっている、踵を返して三十六計逃げるが勝ち。ミストラルの声を合図に冒険者達は全速力で駆け出した!
 冒険者らの意外な(しかし適切な)行動に海賊たちは仰天し、次にうろたえた。首領の男が大声でげきを飛ばす。
「なっ!? 畜生! 何やってんだ、野郎ども! 追え、追え―――――ッッ!!」

 しかし追跡はかなわなかった。冒険者達は無事に逃げおおせたのだ。
 ジャン、クレリックの女性、小間使いの子供を含む潜入組は馬車でさっさと逃げてしまっていたし、陽動を担当していた冒険者らも暗闇の中、ドレスタットに向けて足早に逃走している。宴会明けの海賊どもに、長距離の追跡を行うだけの体力を残している者は一人もいなかった。


 かくて、救出劇は一応の成功をみる。首領をはじめとする残党が残る形とはなったが、今回で手ひどい被害を受けた彼らは、当分表立った行動はできない事であろう。
 クレリックの女性は、無事に所属する教会へと帰り着く事ができた。ジャン少年や小間使いとしてこき使われていた子供は一時的に教会が保護するとの事である。
「ジャン君、これを‥‥」
 教会での別れ際、ファルがジャンに一枚の手紙を渡す。
「これは‥‥?」
「推薦状です。行く当てが無いのなら、これを使って教会で働かせてもらいなさい」
「えっ、あ、その‥‥。すんません、ありがとうございます!」
 少年は喜んで礼を言った。目が少し涙ぐんでいる。ファルは少年の肩を叩き、微笑んだ。



「‥‥。また‥‥死に損なったな‥‥。酒場に行って、酒でも飲むか‥‥」
 ウィンディーは小さく溜息をつくと、空を見上げた。その金髪が潮風にたなびく。もう目の前にはドレスタットの街が広がっていた‥‥。