【ドラゴン襲来】復讐のマルグレーテ

■ショートシナリオ


担当:夢想代理人

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月30日〜12月07日

リプレイ公開日:2004年12月03日

●オープニング

 血塗れた夕焼け。粉砕された我が家。頭の奥をぶん殴るような血の臭い。マルグレーテは現状を把握するのに数分を要した。

「マルグレーテ‥‥気を、落とすでねぇだよ」
 横では何か村長が喋っているが、上の空。
「オラぁ、見た事ある‥‥。あれはフィールドドラゴンで間違いねえ‥‥」
 駆けつけた猟師が誰ともなしに呟く。『ドラゴン』、その単語を聞いた途端に村中の者がざわめきだした。
 だが、そんな事は彼女にとってはどうでもよい。早く家の下敷きになった家族を救出せねば‥‥。マルグレーテという名の村娘は、動揺する村人をよそにたった一人で瓦礫を片付け始めた。
「お母さん、お父さん‥‥兄さん‥‥!」
 今思えば、この作業は村の他のものがするべきであった。

「‥‥! うわぁぁっぁ‥‥! ‥‥ぁあ、あぁぁぁぁぁぁああっっっ!!!!!」
 家の下から出てきたのは、押し潰されたただの肉の塊だったのだから。変わり果てた家族、マルグレーテは嘔吐した。視界が涙で歪む、慟哭が止まらない。
「こんな事‥‥こんな事、ただ事じゃあねえだよ。本来、フィールドドラゴンってのは人様に襲い掛かるほど、乱暴じゃあねえはずなんだ‥‥」

 だからどうした。マルグレーテは思う。だからどうしたというんだ。やがて家族に対する悲しみは止み、次いで彼女の中で竜に対する怒りと憎しみが産声をあげる‥‥。
 この瞬間から、『ただの村娘』は『ただの村娘』である事を捨てた。

「殺してやる‥‥殺してやるぞ!! ドラゴンめ!!!」

●冒険者ギルドにて
「ええい、ド畜生め! 一体何だっていうんだ!!」
 筋肉質なギルド員の女性が依頼書を眺めての第一声。ドレスタットのギルドには、ドラゴンが関連した事件が多数報告され始めていた。

「おおっ!? 丁度いいトコにいたぜ、兄弟! ほれ、依頼受けてみる気はねえか? ドラゴンだぞ、ドラゴン!」
 ギルド員の女が君と強引に肩を組み、依頼書を指差す。
「よしよし‥‥ん、ああ、アレなんてどうよ?」
 彼女が指差した依頼書。それはとある村娘からの依頼。
「家族をドラゴン殺されたっていう奴からの依頼だよ‥‥。仇討ち、復讐、言い方は色々あるけど、まあ、そんなとこさ‥‥

 ここから3日程行った先の森で、2匹のフィールドドラゴンが徘徊しているらしい。そいつを退治するんだよ。ただし条件がある‥‥それは‥‥」
「それは‥‥。最後のとどめを‥‥私にやらせて欲しいの」
 ギョッとして君が後ろを振り向くと、幽霊のように一人の女が立っていた。年は10代半ば、肩上まで短くした赤毛の髪。寝不足か、あるいは別の理由か、目の下にはひどい『くま』ができていて、ギョロリとした目つきはどこか近寄りがたい雰囲気を放っている。

「私はマルグレーテ‥‥その依頼を出したの。あなた達、冒険者さんには‥‥ドラゴンを私が殺せるくらいまで弱らせて欲しいの‥‥。殺しちゃダメよ? 私がやるんだから」
 それだけ言うと、マルグレーテはうすら笑いを浮かべながら、ふらふらとギルドの奥にある椅子へ歩いていってしまった。まさかずっとここにいるつもりだろうか?

「‥‥。ま、まあ、依頼人は見ての通り、ちとアレだがよ。報酬はそれなりに弾む」
 ギルド員の女はバツが悪そうに笑う。

「‥‥で、どうする。この依頼、受けるのか?」

●今回の参加者

 ea7469 エレナ・スチール(18歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8076 ジョシュア・フォクトゥー(38歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8106 龍宮殿 真那(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8411 近藤 継之介(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8791 カヤ・ベルンシュタイン(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8930 アルベスト・ヒギンズ(27歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea8991 レミィ・エル(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「なによ‥‥これ」
 依頼人マルグレーテの第一声は辛辣なものだった。何せハーフエルフが8人中3人もいるのだから。(エヴァリィ・スゥ(ea8851)だけはフードで顔を隠している為、ただのエルフか人間と見られているようだ)

「確かに、私は‥‥ハーフエルフです。其れゆえに様々な迫害を受けてきました。
 あなたとは少し違いますが‥‥似」
「‥‥黙って。ハーフエルフが私に話しかけるんじゃないわよ、耳が腐る」
「なっ‥‥」
 復讐を思いとどまらせようとするカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)の善意も軽く踏みにじられた。
 依頼人は村の出身。そう、ハーフエルフに対する露骨な差別が当たり前の環境で育った人間なのだ。

「‥‥ドラゴン退治だけなら、心躍る依頼なんだがなあ」
 ジョシュア・フォクトゥー(ea8076)が頬を指で掻きながら呟く、隣に居た龍宮殿 真那(ea8106)は苦笑交じりにその呟きに答えた。
「少女に復讐の道を歩ませる訳にはいかん‥‥やれる事はやろうではないか」

●かの村にて
「消えろ!! あんたなんかに話すこたぁ何もないよッ!!」
 村の老婆は大声をあげ、アルベスト・ヒギンズ(ea8930)に生ゴミを投げてよこした。髪が逆立ち、瞳が赤くなり始める彼を急いでエレナ・スチール(ea7469)が引っ張って村から離れる。

 結局、情報収集は近藤 継之介(ea8411)ら人間の3人が引き受け、残りは村の外で待つしかなかった。ハーフエルフに対する迫害の根は、深い。


 場所は移り、いよいよ一同はドラゴンが潜むという森へ差し掛かる。
「‥‥戦いとは、いかに冷静になるかが大切なことだ。感情で戦うだけなら、これから戦うドラゴンと同じだからな」
「黙れうるさい。狂化なんかする、あんたらハーフがご大層な事ぶちまけないでくれる?」
 マルグレーテはレミィ・エル(ea8991)の言葉を一蹴する。レミィは肩をすくめてため息を一つついた。

「まあいい‥‥。それでは、罠を作ってドラゴンをおびき寄せるか‥‥」
「‥‥少しなら罠、作れますから、お手伝いします。‥‥。レミィさん?」
 手伝いを申し出たエレナだが、動きの止まったレミィを見て戸惑う。
「『動きを止める様なトラップ』って‥‥具体的に何だ?」
 その発言を聞いて一同が重い沈黙に包まれる。そう、『具体的に』どのような罠を作るかまで決めていなかったのだ。これでは動きようが無い。

「‥‥ど、どどどどうしよう」
 わたわたと慌てふためくエヴァリィとは対照的に、近藤は遠くの茂みを睨みながら静かに、しかし全員に聞こえるよう呟く。
「どうやら、考えている暇はないようだな‥‥」
 遠くの茂みがざわめき、曲線を描くように背丈の低い草がなぎ倒されてゆく。それの意味する事を一同は瞬時に判断し、一斉に戦闘態勢へとはいった。

「速い‥‥」
 アルベストが茂みを注視しながら、険しい表情で言葉を漏らす。相手は己の倍はあろうかという移動速度。緊張が心音のリズムを速める。
「でも、ここからならわたしく達の方が先手をとれますわ。トカゲなんぞに、遅れなどとるものですか」
 先手をとった方が有利になるのは戦の原則。冒険者達は速度で負けていたが、射程距離ではドラゴンに勝っていた。
 狂化の兆候が発現し始めたレミィは弓矢を構え、ぞっとする程冷静な手つきで動く茂みへと狙いを定める。
 膝をついたカヤも中指と人差し指をまっすぐに伸ばし、同様に狙いを定めた。
「オーラ充填‥‥完了。目標、フィールドドラゴン‥‥距離、問題無し‥‥秒読み開始。3、2、1、0‥‥」

「「Feuer(発射)!!」」
 二人の一撃が茂みめがけて炸裂する。瞬間、けたたましい咆哮とともにかのフィールドドラゴンが飛び出してきた!
「‥‥出たな。かかってこい、相手をしてやる!」
 エレナのバーニングソードで強化した武器を持つ近藤が前に進み、ミドルシールドで相手の攻撃をいなして素早く斬り返す。出血の痛みに怒り狂うドラゴンがうなり声をあげて近藤を威嚇する。
「油断するでないぞ! もう一匹が騒ぎを聞きつけてやってくるやもしれぬ!」
 姿のないもう一匹のドラゴンを警戒する龍宮殿が皆に檄を飛ばす。そして噂をすれば何とやら、別の方向からフィールドドラゴンが物凄い勢いで突撃してくるではないか!
「テメーの相手はこの俺だ!!」
 ジャイアントのようにたくましい体を持つジョシュアが飛び出し、飛び掛ってきたドラゴンを受け止めて地面に叩きつける。体重だけで言えばジョシュアの方が勝っていた。体勢の崩れたドラゴンにすかさずアルベストがポイントアタックで追撃をしかける。
「ハッ!!」
 龍宮殿も相手の懐に飛び込み、ダガーで攻撃を加える。だが、悲しいかな。彼女の腕力と、今の武器ではドラゴンにかすり傷を負わせるので手一杯。そしてかすり傷では相手は倒せない。


 勝負は長く、辛いものだった。だが数で勝る冒険者らが確実に二匹のドラゴン達を追い詰めてゆき、やがて勝敗は決することとなる。
「オオオオォォォォッ!!!」
 近藤の放ったスマッシュが炸裂し、一匹のドラゴンに致命傷を負わせる。返り血を浴びる彼の表情は揺るがないが、息を切らし、汗だくとなっていた。

「これでキメてやるぜ‥‥!」
 ジョシュアは負傷して動きの鈍くなったドラゴンの首根っこを素早く掴む。暴れる相手も何その。次の瞬間、彼は離れ業をやってのけた。
「ぅりゃぁぁああああぁぁっっ!!!」
 フィールドドラゴンの体が宙に浮く。背骨と筋肉でその全重量をささえるジョシュアの傷口から血が噴き出す。
 それがどうした、彼は思う。ここまできたらやってやる。
「ブッ‥飛び‥‥やがれえェェェッッッ!!!!」
 そのまま相手をぶん投げ、地面に叩きつける。凄まじい振動。

 土煙の晴れた後、ドラゴンは仰向けになってぐったりとその場に倒れこんでいた。

●復讐のマルグレーテ
「問題は、ここからですね‥‥」
 戦線には加わっていなかったエヴァリィが皆に合流し、隣の龍宮殿に言う。
 龍宮殿が彼女を見れば、その瞳が赤くなりかかっている事に気がついただろうが、龍宮殿はドラゴンとマルグレーテの方に気を取られていてそれどころではなかった。
「うむ‥‥できれば竜も彼女も救いたいが‥‥」


「流石は冒険者さんね‥‥。舞台としては完璧だわ」
 二匹のドラゴンが大量に血を流し、死に掛かっている光景を前にしてマルグレーテは満足そうにほくそ笑む。
 ドラゴンのうち一匹にはアルベストが剣を突き刺して残していた。本当は急所を狙い突き立てる予定だったが、ドラゴンの知識を持たぬ彼には急所の位置がわからなかった。

「お前は‥‥復讐が済んだ後にどうする気だ‥‥? 『普通』に戻れるのか‥‥?」
 近藤の問いに、マルグレーテは狂気じみた微笑みで答える。
「‥‥『普通』って何? もう私は人じゃない。私は剣、ドラゴンを殺す一振りの剣‥‥。
 今回は貴方達の力を借りたけど、何年かかってでも強くなって、絶対にドラゴンをこの世界から抹殺してやる」
「‥‥そうか」
「そんなの、非現実的です‥‥」
 エレナの意見はもっともだった。ドラゴンはこの地上で最強と謳われる種族、人間一人が努力でどうこうなる相手ではない。
 だが、エレナの言葉も彼女の心には響かない。マルグレーテはドラゴンの前に突き進むと、アルベストの突き刺した剣を強引に引っこ抜いて投げてよこした。
「‥‥っ!?」
「いらない、返すわ‥‥自分で、武器は持ってきたから‥‥」
 取り出されるは一振りのショートソード。
「待て!! 竜を殺したとしても、おぬしの家族は帰ってこ‥‥」
 龍宮殿が言いかけたところで、振りかぶったショートソードがドラゴンの傷口へと突き刺さる。ドラゴンの方はもう抵抗する力も残っていないのか、悲痛な悲鳴をあげるだけだ。
「‥‥家族がかえってこないなんてわかってる!! 復讐は『相手を苦しませる為』にやるのよ!? はは、あははははははは‥‥!!!」
 返り血を浴びて興奮したのか、一人の村娘は執拗に何度も何度もドラゴンに短剣を突き刺す。

「クソッ! 見てられねーぜッ!!」
 舌打ちをしてジョシュアがマルグレーテとドラゴンの間に咄嗟に割ってはいる。少女の握った短剣が彼の腕に突き刺さる。
「なっ‥‥! 邪魔よ、どいて!!」
「そうはいかねえ‥‥。 今のおまえは、見てられねえんだよ」
 当然、揉み合いとなる。レミィはレミィで先にドラゴンを殺してしまおうと弓矢を構え、まさに一触即発の状況だ。


 誰もが最悪の事態を予想した。だか、それは一つの旋律によって大きく方向を変える‥‥。
「‥‥っ!?」
 マルグレーテが振り向くと、そこには歌を歌うエヴァリィの姿があった。月の精霊魔法、メロディーが静かに優しい旋律を奏でる。
 レミィの狂化はこれによって完全に沈静化した。再び平生の性格に戻り、ふと我に返る。
 ドラゴンたちにも効果があったのか、どこか穏やかな表情で横になっている。

 そして、マルグレーテは‥‥。
「刺されると痛いけどな。刺した方も‥‥痛いんだぜ?」
 ジョシュアの真っ直ぐな瞳が彼女を捉える。彼の肘からは血が滴っていた。
「ああ‥‥ぁぁぁ‥‥あ‥‥」
 少女の瞳から狂気が抜ける。もう大丈夫だろう、そう悟ったジョシュアは彼女の手から優しくショートソードを取ると、泣きじゃくるマルグレーテと共にドラゴンから離れた。

「ふむ‥‥。さて、後はこのドラゴンらの処置についてじゃが‥‥」
 頃合を見計らい、龍宮殿が口を開く。彼女はドラゴンをギルドで生け捕っておけないものかと考えていた。
 手当てをしようと二匹のフィールドドラゴンに近づくが‥‥。

「むっ‥‥?」
 ポーションを飲ませてやろうとするが、ドラゴンは頑として口を開かなかった。むしろ閉じた口で彼女を遠くへ押しやろうとさえしている。
「‥‥なんと、あくまで人の助けは借りぬという気か?」

 ドラゴンは答えない。

「いと誇り高き孤高の種よ‥‥。敵ながら、あっぱれな奴」


 ついぞ、ドラゴンを捕獲することはかなわなかった。二匹のフィールドドラゴンは寄り添うように互いの身を寄せ合い、静かに息を引き取った。
「できれば、死んで欲しくはなかったのですがね‥‥」
 カヤは小さくため息をつく。古の戦でドラゴンが脅威であったという話を思い出していた。