リベンジャー・ルゴルフ
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■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 1 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月20日
リプレイ公開日:2004年12月16日
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●オープニング
霧立ち込める森の中、一人の大男が巨剣を片手に歩を速める。
「へッくしょい!!!」
彼の名はルゴルフ。かつては海賊の首領だった男だ。もっとも、今では‥‥。
「親分〜、今日もまずまずの収穫でしたねい? もしかして俺たち、海より山の方が合ってるのかも?」
『山賊』の方に転職したようだが。彼に付き従う子分にとっては、海賊でも山賊でも儲かればどちらでも良いのだろうが、ルゴルフにとっては不本意な転職だったようだ。後ろで飛び跳ねる数名の子分たちを睨みつけ、ずかずかと森を突き進む。
「す、すんません。機嫌直して下さいよ、親分〜」
「くぅっ、うるせえ!! 海賊が山賊になっちまうなんて、笑い話にもなりゃしねえ!!
先代たちに合わせる顔がねーよ、チキショウ!! これも全部あのクソ冒険者どものせいだぜ!!」
そう、彼らはかつて開港祭の時に冒険者に一杯食わされた海賊団。マーメイドを捏造しようとしていた彼らは、疾風の如く現れた冒険者達に散々な目にあわされたのだ。
アジトの居場所がバレた手前、そこにとどまり続けている事もできない。出航の準備が不十分であった彼ら海賊団は、泣く泣くアジトと船を手放して今では山賊稼業に精を出しているのだった。
「と、とろこで親分。これからどこへ行くってんですか? 新しいアジトとは違う方向みてぇですけど‥‥」
「教会さ。『おとしまえ』をつけてもらいに行くのさ‥‥」
「おとしまえ‥‥だ、誰にッスか?」
「‥‥裏切り者、ジャンにだよ」
●冒険者ギルドにて
「よおっ、兄弟! 景気はどうだい?」
毎度お馴染みマッシブな女性ギルド員が君に声をかける。この挨拶の時は決まって彼女は依頼の話を持ちかけてくるのだ。
「今日は盗賊団の討伐依頼が出たぜ。どうよ、やってみねえか?
今回の依頼は‥‥教会の方からだなぁ。なんか最近、教会の周りに山賊たちが潜伏しているらしくてよ、危なくてしょうがねえから、退治して欲しいんだとさ」
「‥‥あの、どうかお願いします! 助けてください!!」
カウンターの近くにいた少年が君に駆け寄り、突然頭を下げた。はてな、この展開一度どこかで見たような気がするが‥‥。
「‥‥え、オレの名前? あ、ジャンっていいます。この依頼を出したモンです‥‥」
●リプレイ本文
「くあっ! やってしまったですよ‥‥」
「うわ、ボクもだよぉ‥‥。ご、ごめんちょっと待っててね!」
必要な保存食を買い忘れたキャプテン・ミストラル(ea2248)とアンデルフリーナ・イステルニテ(ea8237)が声を上げる。二人は他の仲間に言うと、街を出る前に急いで保存食の買出しに出た。
「ふうむ‥。このような調子で大丈夫なのだろうか‥‥」
ため息交じりにクリストフ・フォレストロード(ea5600)がぼやいていた。
「ギルドで聞いた所によると、まだ実害はないとのことだが‥‥。相違ないかね?」
挨拶も兼ね、ブラッド・スカル(ea8038)が状況の把握に精を出す。宗派が違った場合を憂慮していた彼であったが、この教会も黒派の教会らしく、彼はすこぶる歓迎されていた。
「ええ、まだ被害は何も‥‥。ただ、このまま付近に山賊に居座られては、気が気ではありませぬ‥‥。どうか、よろしくお願いいたします」
この教会の司祭長とおもわれる初老の男性が改めて一同に討伐を懇願する。顔に刻み込まれたシワの深さが、その悩みの程度を物語っているようだった。
「フフ‥‥まかせるがよい、我が万能の錬‥‥ゲフッ、ゲフフン! いや何でもないゾイ。ワシにとっておきの秘策がある、大船に乗った気持ちでいるがよいぞ!ハーッハッハッハ!!」
『私は錬金術師ではありません』と書かれた旗を背負い、全身を覆う黒ローブに黒覆面を身に着けたヴィーゼル・シュタイン(ea5798)が高らかに笑う。彼のあまりにイカレた服装に、教会の者は皆マジ引きしていた。ちなみにツッコむ者は誰も居ない。ボケ殺しだ。
「‥‥フッ、罠ってのは、こうやって作るんだよハ‥‥うごふっ!!?」
教会の外で罠の作成に精を出す相麻 了(ea7815)が腹を抱えてうずくまる。彼に手を回されたエヴァリィ・スゥ(ea8851)のハリセンの一撃が炸裂したのだ。ちなみに『柄』の固い部分で殴っている。本来の使用法とは違うが、純粋に相手をぶちのめしたい場合には非常に効率が良い。
「騒がしいな‥‥。真面目にやっているのか?」
教会から五木 奏元(ea8474)、そして二人の食事を持ったクリストフが出てきて、相麻らの作業具合を伺いに来る。
「‥‥うん、大丈夫です。相麻さんが変態だけど」
エヴァリィの何か誤解を招きそうな発言に五木とクリストフはやれやれと苦笑した。
「‥‥スゥ君。身の危険を感じたら、急所をしっかり狙って思い切りブッ叩いてやりなさい」
「ひ、ヒデェ‥‥」
エヴァリィの肩をポムと叩いて殴り方の指導をするクリストフ。相麻は、自分は敵と戦う前に死ぬかもしれないと思った。
「‥‥ミストラルさん、何やってるんスか?」
「何って‥‥。寝てるんですよ、いつ襲われてもいいようにね」
今回の依頼人、ジャン少年の問いにミストラルは大きく欠伸をしながら答える。何故か横では一緒にアンも寝ているが、彼女は単純に眠かったから寝ているだけかもしれない。
「何というか、緊張感がないですね‥‥。そんな事では神の国に‥‥」
彼女等に説教を始めるブラッドだったが、それはむしろ子守唄として効果をあげてしまったようだった。おもむろにディストロイの詠唱を始める彼をジャン少年は必死に止める。
●リベンジャー・ルゴルフ
―――冒険者たちが教会に滞在して2日目の夜。
突如として教会に張り巡らせた鳴子が響き渡る。
「「‥‥!!?」」
テントで寝ていた相麻、エヴァリィ両名が飛び起きる。テントから飛び出ると同時に森の奥から悲鳴が一つ聞こえてきた。相麻が結んでいた草に足をかけられ、転んだのだろう。
「来た‥‥」
「ハニーは教会に入ってな。なぁに、この非常時だ。種族がどうこうなんて気にしてられないだろうさ」
相麻の言葉にエヴァリィは頷くと、小走りで教会の方へ入っていった。
「さてさて‥‥」
相麻は身をかがめ、灯りが見える方へと前進する。一際大きな影、おそらくは彼が山賊の首領、ルゴルフだ。
「親分‥‥ジャンは教会にいますぜ」
子分の声色‥‥は聞いた事がないので、適当な声で彼に囁いてみる。結果は言わずもかな。
「‥‥このくだらねえ罠をはったのテメェか?」
一撃でバレた。だよなぁ、など思いつつ、彼の問いに暗がりから答える。
「はは‥‥気に入っていただけかな? ハニーと協力して作った愛の結晶なんだ」
「ああ、面白かったぜジョーカー(おふざけ屋)め。 ‥‥。ブッ殺してやるッ!!!」
突進するルゴルフ、相麻は大急ぎで印を結ぶと、かの忍法を発動した。
「忍法、微塵隠れ!!」
「うおおっっ!!?」
小規模な爆発と共に、砂煙が舞い上がる。煙が晴れる頃には、相麻の姿はどこにも見えなかった。
「お、親分‥‥」
「教会に行くぞ‥‥仕事の時間だ!!」
ルゴルフは青筋を立てながら怒鳴り散らした。
山賊たちは教会のドアを蹴り飛ばし、強引に突入する。
「なっ‥‥」
がらんとした聖堂。山賊たちは一瞬呆けにとられた。が、すぐにこの意味を悟る
「相変わらず悪さしてばっかりですねー! そんな人には、この七風海賊団頭目キャプテン・ミストラルが‥‥オシオキですよッ!!!」」
三日月の光をバックに、キャプテン・ミストラルがびしっと山賊たちを指差す。ちなみに『月に変わって』という下りがなかったのは記録者としては非常に残念だ。
「ふざけんな! 丘で動く奴が海賊を語るんじゃねえッ!!」
ルゴルフのもっともなツッコミが炸裂するが、そんな事はどうでも良い。船は彼女の心の中にあるのだから。
「七風海賊団、GO!!」
ミストラルの合図と共に、アン、そして山賊の背後から相麻が飛び出す。
「七風海賊団の団員アン! 宜しくねッ!!」
「我が名は『漆黒の獅子』、七風海賊団の切り札だ!」
アンのソニックブームが空を裂き、山賊の一人を斬り伏せる。相麻の一撃はルゴルフに受け止められ、つばぜり合いの状態となった。
「テメェが切り札だと‥‥? 笑わせんな!!」
強引に巨剣で押し倒され、そこへさらに追撃が加わる。床を転がり回避する相麻に、五木の助太刀が加わった。二人の得物から火花が飛び散る。
「あぁんっ!?」
「お前の相手はこの俺だ‥‥!!」
ジャイアント同士の超重量級対決、ここに堂々開催である。
「キョエー、ちょんわちょんわちょんわ! アイスブリザードッッ!」
「教会に仇なす者を放置しておくわけにはいきませんね‥‥。処分させていただく」
ヴィーゼルのアイスブリザード、そしてそれに続きブラッドのディストロイも放たれる。二人への攻撃はクリストフが受け流し、加えて彼のオーラソードが山賊の一人を貫いた。
「海を追われてもなお、他者から奪う行為をやめぬとは‥‥。情けない。手加減はせぬぞ?」
凄むクリストフの形相に、山賊たちはたじろいて後ずさりする。
「どけってんだよ、この野郎ォォッッ!!!」
「力尽くでやってみろォッ!!!」
ルゴルフ、五木の対決は一進一退の目まぐるしい展開を見せる。どちらの巨漢もその体の大きさからは信じられないほどに機敏な身のこなしを見せ、武器は振り回されるたびに空を切り裂く音を出した。
「援護しますよ、五木さん!」
ロングソードを構えたミストラルが駆け寄り、彼の援護にあたる。ノルド流のしなやかな動きが冴え渡り、巨漢二人の剣舞に花を添えた。
「ぬぅりゃあっっ!!!」
勝負は一撃で決した。示現流絶技、スマッシュEXがルゴルフの肩にめり込む。相手の鎖骨を砕く感触が五木の手に伝わってきた。
「力は互角でも、技では‥‥」
言いかけたところで、ミストラルの方に視線が移る。
「いや、連携も俺『たち』の方が上だったな‥‥」
「さあ、頭目の首は取りましたよーッ! 無駄な抵抗は止めなさい!!」
ミストラルは大声をあげ、勝敗の決した事を宣言する。山賊たちは倒れた首領の姿を認め、急激に戦意を失っていった。が、その時だった。
「まだ‥‥終わっ‥て‥ねえぞ‥‥」
肩から血を流すルゴルフがよろよろと立ち上がる。汗だくの顔は青ざめ、どう見ても激痛が彼を苦しめているとしか思えない。
「勝負はついた。もう抵抗しても無意味なのは、おまえが一番理解しているのではないか?」
言いつつも、油断なく武器を構える五木がルゴルフに降伏勧告をする。
「うるせえッ!! ここまできて‥‥! 引き下がれるか!!」
ルゴルフは武器を構えなおす。これは海の男としての、彼の意地か。
「親分‥‥!!」
「親分‥!」
彼の姿に勇気付けられたのか、再び山賊たちの目に活力が戻ってくる。
(「いかんな‥‥。このままでは殲滅戦になる‥‥」)
クリストフの心境は穏やかではない。ただでさえ血で汚れた聖堂で、更に死者まで出すのははばかられる。
じっとりと嫌な睨みあいが続く、その時だった。
「下らねェ‥‥。下らねェぜ‥‥あンた」
「何ッ!!?」
声がする方向をルゴルフが睨む。するとそこには黒革ベストにミニスカート。厚底ブーツと奇天烈な格好をしたエヴァリィの姿が。血の臭いに反応して狂化を起こし、瞳が真っ赤になっている。
ポロン、と竪琴を鳴らしながら、彼女は言葉を続ける。
「あンた、海の男の誇りはどこにいっちまったんだ‥‥? 丘に長く居続けたせいで、脳みそにカビでも生えたのかい?」
「‥‥んだとテメェ!!」
表面では凄むルゴルフだが、内面の奇妙な変化に戸惑っていた。エヴァリィのメロディーが彼の戦意を削いでいるのだった。
「海の男のなんたるか‥‥忘れたってんなら思い出させてやるよ! あたいの歌を聴けェェっ!!」
竪琴の弦がはち切れんばかりの勢いでエヴァリィは魂のビートを刻み始める。するとどうだろう。
「これは‥‥」
山賊、そしてその場に居合わせた者達の脳裏に海の景色がフラッシュバックしてくるではないか!
なつかしき原風景、潮の香り、楽しかった海洋の日々‥‥。歌と酒を愛した古き良き、愛すべき海賊の姿‥‥。
「‥‥‥」
「おじちゃん‥‥‥」
ルゴルフの目から涙がこぼれる。アンを始め、他の冒険者も既に戦意は喪失していた。山賊たちからすすり泣く声が聞こえる。
「Thank you‥‥」
烈しき熱気の歌姫、ここにあり。
●エピローグ
首領のルゴルフをはじめ、部下の山賊たちは全員お縄となった。教会を襲撃するという事をやってしまった手前、宗教裁判によって火あぶりの刑の可能性もあったが、既に毒気の抜けた彼らに今一度更生のチャンスを与えるべきだという判決により、死刑は免れた。かの教会の修復作業など、慈善活動に従事する判決がでたのだ、が‥‥。
「親分ーっ!!? い、いいんですかい、勝手に逃げ出しちまって!?」
「馬鹿野郎! 海の男が丘でチマチマんな事やってられっかよ! 俺たちゃ海賊だぞ!?」
「で、でももう船が‥‥」
「生きてりゃ何とかなるもんだ、絶対に海に戻るぞ! ついて来やがれ、野郎ども!! 心の帆を揚げろー!!」
「「「「「「「「お、オオオーッウ!!!」」」」」」」」
‥‥海でやけに気のいい海賊に出会ったら、それはもしかすると彼らなのかもしれない。