リベンジャー・デルタン
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■ショートシナリオ
担当:夢想代理人
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月20日
リプレイ公開日:2004年12月16日
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●オープニング
「た、頼む‥‥。後生だ、助けてくれ‥‥」
地面に腰をついてへたばった冒険者が目の前の女浪人に言う。彼女の後ろでは、既に亡き者となった彼の仲間達の体が横たわっている。
「‥‥どうするのだ?」
冒険者の命乞いには答えず、女浪人は刀を鞘に収めて自分の横にいる鼠顔の男に問いかける。
「‥‥もう貰える物は貰っちまったしなぁ。いいだろう、どこへなりと勝手に逃げな!」
その言葉を聞くや否や、冒険者は脱兎の如く逃げ出した。鼠顔の男やその部下たちはせせら笑いながらそれを見送る。
「‥‥フン」
「へへへ、どうも今回もありがとうございやした、ヤナギ先生。これは今回の授業料って事で‥‥」
面白くもなさそうに鼻をならす女浪人に、鼠顔の男が銀貨の詰まった革袋を渡す。
「‥‥海賊が山賊稼業に身をやつすなど、精の出ることだな」
ヤナギと呼ばれた女浪人は革袋を乱暴にひったくると、中身を確認して自分の懐にしまい込んだ。
「へへへ‥‥まあ、色々ありやしてね」
そう、彼らはかつて開港祭の時に冒険者に一杯食わされた海賊団。マーメイドを捏造しようとしていた彼らは、疾風の如く現れた冒険者達に散々な目にあわされたのだ。
アジトの居場所がバレた手前、そこにとどまり続けている事もできない。出航の準備が不十分であった彼ら海賊団は、泣く泣くアジトと船を手放して今では山賊稼業に精を出しているのだった。
(「ちっくしょぉぉ!! このアマ、ちっと強ぇからって図に乗りやがってぇぇぇ!! これも全部あのクソ冒険者どものせいだぜ!! 今度会ったらあいつらブッ殺してやる!」)
笑顔で媚びへつらう鼠顔の男の内心は穏やかではない。
●冒険者ギルドにて
「よおっ、兄弟! 景気はどうだ?」
毎度お馴染みマッシブな女性ギルド員が君に声をかける。この挨拶の時は決まって彼女は依頼の話を持ちかけてくるのだ。
「今日は盗賊団の討伐依頼が出たぜ。どうよ、やってみねえか?
なんか、ここ最近森を経由する街道で暴れまわっている連中がいるらしくてよ、商売もままならねえってんで、退治してくれってさ。
その盗賊団の中に、ジャパンから来たっつう女剣士がいるらしいんだがよ、そいつがめっぽう強いって噂なんだ。腕に自身があるなら、そいつと戦ってみたらどうだい?」
さて、この依頼どうしたものか‥‥?
「ああ、そうそう。それから一つおトク情報だ。その街道の近く、つまり森のどっかに盗賊団のアジトがあるって噂だ。この前瀕死で逃げてきた冒険者がそう言ってたぜ」
●リプレイ本文
「さてさて‥‥。情報によると、この辺りに彼らの拠点があるはずですが‥‥」
布で灯りを抑えたランタンを片手に、ルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)がぽつりと口を開く。
鬱蒼と茂る木々は空からの光を遮り、夕暮れともなると山はほとんど真っ暗であった。
「おい、あれじゃあないか‥‥? かすかにだが、煙が見えるぞ」
久是 戒斗(ea9448)が指差す方を見るが、他の者には少々わからない。久是のように卓越した視力を持つ、フェイト・オラシオン(ea8527)がその場に居れば同意したであろうが。彼女は彼女で、他の者達からは少し離れたところから付かず離れずついて来ている。何か意図があるのかもしれないが、そのココロは彼女のみぞ知る事だ。
「‥‥気を引き締めていこう。何も罠を設置しない程、連中もマヌケじゃあないはずだ」
レイ・ファラン(ea5225)の忠告に一同は頷いた。少し歩を進めれば、その警戒は早くも効果を挙げる。
「気ィつけてみれば何とやら、だな。ご丁寧に鳴子の罠ときたか」
「‥まどろっこしい事をするね‥‥。私は早く『お楽しみ』にありつきたいんだが‥‥」
早速罠を見つけたジョシュア・フォクトゥー(ea8076)の側ではウィンディー・ベス(ea7724)が小さくため息をつく。スリルホッカーな彼女ならではの台詞といえるだろう。明け方まで身を隠す適当な場所を見繕う為、鳴子のロープを潜り抜け、さらに前進したその時だった。
「きゃあっ!!?」
突然の悲鳴をあげるエルザ・ヴァリアント(ea8189)のすぐ前に矢が突き刺さる。他の者も仰天して矢が飛んで来た方向を見ると、そこには弓矢を構えた山賊(元海賊)がいた。
「なんだ、テメェらは!!」
「ふふむ、明け方まで悠長に待っていられなくなったか‥‥」
上からの声には答えず、シヴァ・アル・アジット(ea8533)は首をコキコキとならしながらラージハンマーに手をかける。次の瞬間、彼は渾身の力を込めて山賊のいる木に向けてチャージング、スマッシュをぶちかました。
「うわああぁぁぁっっ!!!?」
物凄い振動と爆音。木の幹に亀裂が入り、山賊はたまらず悲鳴をあげて樹上に張り巡らせたロープに飛び移り、するすると猿のような素早さでアジトの方角へと向かっていった。おそらくは、海賊の頃マストの上で作業をしていた者なのだろう。
「‥‥くっ、奇襲の機会を逃しましたね」
「いや、まだだ。寝込みというわけじゃあないが、突然の襲撃である事には変わりない。急ごう」
舌打ちするルイーゼにレイは静かに答えた。アジトに急行し山賊と戦うべく、全員が戦闘態勢に入る。
「グットラックをかけましょう‥‥。時間がありませんが‥‥」
シヴァ、ジョシュアにルイーゼがグットラックをかける。
「──火霊よ。その尊き御魂の片鱗を我が前に宿せ」
加えて、エルザのバーニングソードがそれぞれの武器に付与された。もっとも、専門の域の詠唱はまだまだ彼女には辛く、時間的な都合で、かの浪人と戦うレイとウィンディーに付与するまでが手一杯であったが。
かくて冒険者達は突入を開始する。
●リベンジャー・デルタン
「ぬぅんッッ!!」
アジトの安っぽい木造の門をシヴァが粉々に叩き潰し、全員がアジトの中になだれ込む。するとどうだろう、突然の吹雪が一同に襲い掛かってくるではないか!
「ぬぐおっ!?」
「きゃあっ!!?」
シヴァ、そして彼の後ろにいたルイーゼがたまらず小さな悲鳴をあげる。一同がアイスブリザードの洗礼を受け、視界が晴れたその時だ‥‥。
「‥! あの男は確か、海賊の‥‥!!」
エルザがかの鼠男の姿をみとめたのは。
「何が何だかわからねえが‥‥いや、そうでもないか。首を狙われる事なんてしょっちゅうやっているしな。とにかく、お客は歓迎してやるぜ、『俺たちのやり方』でな‥‥」
デルタンの言葉に反応し、部下達も武器を構えなおす。数はざっと見て8人。
「‥‥雑魚なんかに興味はない、あいつは‥‥『あいつ』は‥どこだ?」
ウィンディーが周囲を見渡すが、かの女浪人の姿は見えない。奥に居るのだろうか?
「ともかく、手はず通りに‥‥。任せましたよ?」
ルイーゼの言葉に、レイ、ジョシュア、ウィンディーは頷くとすぐに駆け出した。
「野郎ども! やっちまえ!!」
「どけってんだよ!! おまえ等と遊んでる暇はねえッッ!!!」
デルタンの言葉に応じて2、3名の部下が立ちはだかるが、どうという事はなかった。吼えるジョシュアのスープレックス。それに続くレイとウィンディーの攻撃によってほぼ一瞬でカタがつく。
「うぬらの相手は、わしらじゃよ!!」
これ以上の追撃を阻むべく、シヴァの化物じみた破壊力をほこるラージハンマーが炸裂して山賊の一人の頭蓋骨を叩き割る。山賊たちは一瞬怯んだが、デルタンの叱咤に勇気付けられると複数でシヴァに襲い掛かった。アジトは今まさに乱戦状態と化す。
喧騒の中心から少し離れたところ、身を隠すエルザがデルタンの様子を伺う。
(「前に吹っ飛ばされたお返しをしなくちゃ‥‥。気が治まらないわッ!」)
ヒートハンドの詠唱を完了したエルザが復讐を完遂すべく一気に駆け出す、だが‥‥。
「!? お前は‥‥ッ!」
驚くデルタンに掴みかかろうとしたまさにその時だった、彼の護衛についてた部下の一撃が彼女を捉える。ロングソードで斬られた右脇腹から血が噴き出すと、急激な脱力感と共にエルザは地面に崩れ落ちた。次いで熱を帯びた傷口から尋常ならざる痛みがこみ上げてくる。
「っぁ‥‥! がっ‥‥‥‥!!」
「兄貴‥‥無事で‥‥ぁがあああああっっっ!!!!?」
気を抜いた山賊へのしっぺ返し。エルザは男の足首を全力で掴んだ。すぐに顔を蹴られて振りほどかれたが、焦げた臭いがあたりに漂い始める。
「っこのアマ‥‥!!」
激昂した山賊が彼女へのトドメを刺そうとしたその瞬間、2本の刃が同時に山賊の手足を捉える。フェイトだ。
「ぐっ‥‥ぁ!!」
「この野郎!!」
デルタンは詠唱を一瞬で終え、ウォーターボムを放つ。フェイトは少し眉をしかめて膝をつかされるが、すぐに体勢を直すとデルタンに駆け寄り彼の両足をダガーで貫き、同時に頭突きをかまして彼の鼻をへし折った。これぞノルド流絶技、ダブルアタックEX。
「大将は落とした‥‥私たちの勝ちね」
静かに冷ややかにフェイトは呟く。氷のように冷徹な雰囲気とは対照的に、彼女の右の瞳は燃えるように紅かった。
「クソッ‥何だッてんだ畜生め! 兄貴はやられちまったし‥‥ここは親分のトコへ逃げるしかね‥‥」
「一体どこへ逃げるというんだ‥‥? ここでお前等は全員お縄になるんだよ」
「げっ!!?」
どさくさに紛れて正面の門から逃げ出してきた山賊が前を見ると、久是が仁王立ちして待ち構えていた。身長185cmの筋肉質な大男が武器を持って待ち構えているのだから、これはたまったものではない。
「ち、チキしょー!!」
「踏み込みが甘い‥それに‥‥遅いッ!!!」
やけっぱちになって襲ってくる賊の一撃を最小限の動きで受け流し、大上段に構えた刀を振り下ろす。勝負は一撃でついた。
●ヤナギ・ザ・スラッシャー
「‥‥一刀入魂‥!」
女浪人ヤナギがそう言って一歩踏み込んだ瞬間、ウィンディーの両太ももから血が噴水のように噴き出した。
「‥‥っ!!!!?」
一撃で重傷に追い込まれた。意識が遠のき、その場に崩れ落ちる。足がまだ繋がっているのは不幸中の幸いか。
デッドorライブもカウンターも、そしてオフシフトでさえも、相手の攻撃が『見えて』はじめて成立する技。そもそも彼女の剣速に目が追いつかなくては、カウンターもヘッタクレもない。
「はっ、悪いが見切らせてもらったぜ?」
(「やっべー、全然見えなかった‥‥」)
動揺を隠す為にあえて意気込むジョシュアの頬を嫌な汗がつたる。おそらくは、隣にいるレイも似たような心境だろう。
「‥‥フン。我が絶技をそうそう簡単に見切れるものか。『斬り、刻んで』やる‥‥」
ヤナギはねばっこい笑みを浮かべると、じりじりと間合いを詰め始めた。どう動くか必死に考えるジョシュアに、レイが耳打ちをする。
「‥‥な、おい、正気かよ!?」
「正気も何も、やるしかないだろ? 腹をくくろうぜ‥‥」
それだけ言うと、レイは剣を構えて前に歩み出た。彼の動きに反応するように、ヤナギは腰を深く落として居合いの体勢に入る。間の空間が殺気で満たされる。
「「‥‥ッ!!!」」
一閃。レイの胴体が横一文字に切り裂かれる。が、皮鎧とマントのおかげでなんとか持ちこたえる。そしてこの瞬間がまさに勝機。
「ゥおおおぉぉっっっっ!!!!!」
「なッ!!!?」
ジョシュアがヤナギに飛び掛る。必殺の技を繰り出した直後のせいか、彼女はまったく対応できない。回避しようとするヤナギを強引に掴み、今度はジョシュアの絶技が彼女を襲う!
「うりゃぁぁァァッッッ!!」
女浪人の体が宙を舞い、そのまま左肩から地面に激突した。この機を逃す手は無いとばかりに、ジョシュアはさらに突進する、が。
「がっ‥‥ぐ‥! おのれ‥‥ッ!!」
ヤナギの苦し紛れのブラインドアタック。だがこれは先程の攻撃に比べれば速さも威力も劣る、反射的にジョシュアは後方に飛びのいて攻撃をかわした。
「へ‥‥っ。どうだい、痛ぇだろ? 左肩の関節が外れたみたいだな」
だらりとぶら下がった左腕を庇うように、女浪人はジョシュアと対峙する。彼の後ろからは、レイ、そして彼のヒーリングポーションでなんとか出血を抑えたウィンディーも向かってきている。
「これまでか‥‥」
「‥‥何?」
ジョシュアが聞き返すと同時に、ヤナギは背を向けて一目散に逃げ出した。ぴゅうっと彼女が口笛を吹くと、茂みの奥から馬が飛び出してきて彼女の側につく。
「何だい、あの女‥‥。最初姿を見せなかったのは、万が一に備えて逃げる準備をしていたわけか‥‥」
ウィンディーの言葉を尻目にヤナギは馬にまたがる。
「走れば追いつけたかも‥‥。ったく、俺も甘いぜ」
ばりばりと髪を掻くジョシュアは小さく呟いた。
●エピローグ
かくて、山賊の一味は壊滅した。一味の頭的存在であるデルタンは部下ともども投獄。戦闘の際、1、2名の下っ端が逃走していたようだが、これはもう気にしなくともよいだろう。
だがこちらの被害も小さくは無かった。戦闘直後はルイーゼのリカバーが八面六臂の大活躍を見せ、回復要員のありがたみを改めて皆に知らしめる事となる。
山賊(海賊?)たちが貯めていた略奪品うんぬんは、元の持ち主に返されたり、山賊たちを引き渡した際に「証拠品」として(もちろんこれは建前だ!)騎士団に差し押さえられてしまったりと残念な結果に終わった。しょぼくれて座り込むレイ、シヴァの肩をフェイトがポムポムと叩いていたのはここだけの話である。