慈愛色の奉仕(邪眼)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:06月05日〜06月10日
リプレイ公開日:2007年06月13日
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●オープニング
「おじいちゃん! おじいちゃん」
ルフィアは泣き叫んでその骸を抱きしめた。それはもう冷たくなっていてまるで石か木のようであった。
周りにはたくさんの村のシフール達がいる。彼らはそれを遠巻きに眺めているだけであった。
「おじいちゃんを助けて‥‥ねぇ、おねがい‥‥」
涙でぐずぐずになった瞳で精一杯懇願するが、誰一人として近寄ろうとする人はいなかった。それどころか、その目で見つめられたシフール達はたちまちの内に顔をこわばらせて、その視界から逃げようとした。
「ねぇ、ねぇ」
呼びかけても誰も応えてくれない。
だけど、ルフィアの耳にはその心の声がうるさいほどに飛び込んでいた。
ルフィアちゃん、おじいさんを呪い殺しちゃったのよ。
優しい長老をどうして殺したりしたのかしら。
邪眼の持ち主はやはりこの村を不幸にするのね。
あの子は悪魔の子。生命を凍り付かせる瞳の持ち主。
冷たい視線に耐えられなくなって、ルフィアは骸の胸元にかじりつくように頭をうずめ泣いた。コボルトに襲われた記憶が、光を失った左目をうずかせる。
どうしてこんな目に遭わなければならないのか。そしてどうして一人でも村の皆に優しかった祖父を悼んでくれないのか。
強烈な悲憤が全身を走った。
ああ、この人たちが、憎い‥‥
「ルフィア‥‥」
その瞬間、優しく髪をなでる手が触れた。
はっと顔を上げると、倒れていたはずの祖父がこちらを見ているではないか。
「おじいちゃん、おじいちゃん!!!!」
歓喜のあまりに大きな声で叫ぶと、ルフィアはその腕にすがりつこうとして‥‥だが次の瞬間、それはグーになってルフィアの顔面を襲った!
「もう、ユーリ様! 寝相が悪いならルフィアさんと一緒に寝ないでくださいっ!!」
シスターの一人であるミルドレッドはルフィアの顔に薬を付けてあげながら、先輩に怒鳴りつけた。
昨日の夢の結末は怖い夢を見ないようにと一緒に添い寝してくれたシスターユーリの寝相の悪さによるものだということを知ったのは、もちろん夢の世界から追い出された直後のことであった。まだ裏拳だから良かったものの(それでも顔全面を強打したのだが)、寝返りをうたれていると今頃ミイラのように全身包帯だらけになっていたかもしれない。やっぱり人間とシフールが同じベッドで寝るものではないようだ。
「ゴメンナサイ」
ユーリも深く反省しているようで、ジャパンでは最大級の詫びの姿勢とされている土下座状態であった。見ているだけでなんだか痛ましく感じるその姿に、ルフィアもついつい毒気を抜かれてしまう。
「あ、でも、怖い夢途中で止まったから良かった‥‥」
「そんな事言わなくてもいいんだぜ。この際、ユーリの姐さんいびり倒してだなぁ」
「そうそう。慰謝料はらわんかい、ゴメンナサイで済んだら冒険者いらねェんだよ、って言うんだよ」
そう言うのは修道士の兄弟マクレーンとクレイル。盗賊であったところを捕まって更正の為にここで修行しているそうだが、小悪党ぶりはそのままのようだ。
教会というと、とても神聖な場所で厳格なイメージがあったが、この4人組を見ているとルフィアは心の闇も全部忘れてしまいそうになった。
「マクレーンさん、クレイルさん‥‥大好きなあの人に言いつけますよぉ」
「ひぎゃあ、すすす、すみません」
「うひぃぃぃ、ごごご、ごめんなさい」
「だいぶん立ち直ったようですね、ルフィアさん」
その夜、ミルドレッドはルフィアの寝顔を見て静かに言った。穏やかな顔で眠るルフィアはあどけないまだ10にも満たない子本来の可愛らしさがうかがえる。ぷにぷにとしたほっぺたにふわふわの髪、そばにいるだけで温かくなれるようなぽかぽかの肌。
そんなルフィアも最初は毎晩のように悪夢の絶叫をあげていたが、それも少しずつ間隔が開くようになってきたし、日中も知り合いがいなくて口数すくなだったが、それも改善されるようになってきた。笑顔はまだほとんど見せてくれないが、それも遠くない日のうちにみせてくれるようになるだろう。
「そうですね。あ、それじゃ、みんなでお勉強会をしようと思います」
「は、お勉強、会?」
きょとんとしたミルドレッドに、ユーリは無邪気な笑顔で応えた。
こんな時はたいていあまりいい思いつきではないときだ。
「そです。ルフィアさんはですね、すごく自分が奇異に見られた経験で内向的になっていると思うんです。表情も言葉もあまりでないのはそのせいかなーと」
「確かに、それはあるかもしれませんけど」
だからと言って勉強会ととどんなつながりがあるのやら。
「そこでもっと外向的に! と進めるのはいいんですけど、このままだと心の傷が癒えていないので、外向的になることは心の痛みも外にぶつけちゃうことになるかも。それじゃ解決にならないので、是非、慈愛の精神を学んでもらいたいと思うのですよ」
「それは名案ですね」
ミルドレッドは手をたたいてユーリの発案を歓迎した。
聖なる母セーラ神は慈愛の神だし、それによって人々が救われるという考えも教会に在籍する身としては問題ない。なかなか考えているではないか。
「互いに思いやる気持ちが育ったら、内向的でもきっと痛みを乗り越えて、人を幸せにする力に転化できますよね。本当の優しさを学ぶために。確かにお勉強会ですね」
「でしょ? ということで、ミルドレッドさん、さっそく講師の手配をお願いします」
こうし? てはい?
「は?」
「私たちが教えてもありきたりじゃないですか。私たちも常にお勉強なのです!! いろんな考えやアイデアを取り入れて、もっと助かる人を増やすのです! れっつ ねはん!」
まて、ユーリ。涅槃は仏教用語だ。
そうして依頼が舞い込んできたのはそれからすぐのことである。
依頼内容は、慈愛を教えられる人大募集! なんともアバウトな内容である。
●リプレイ本文
「お姉ちゃん!」
訪れた冒険者を見つけたルフィアは文字通り飛んでジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)にしがみついた。シフールの子供という小さな体だが、ぎゅっと抱きしめる力はとても強かった。密かな寂しさを露呈するかのように。
「ルフィアさん、お久しぶりです。 ユーリさん、皆さん、ありがとうございます。皆さんもお元気そうで‥‥何よりです」
続いて迎えに来た4人の修道士達の姿を認めて、ウェルス・サルヴィウス(ea1787)はセーラ神の印を切って礼をする横で、ルフィアに初対面を交わすブリジット・ラ・フォンテーヌ(ec2838)、シェアト・レフロージュ(ea3869)がルフィアに挨拶をしていた。
「ルフィアさん、すぐ迎えに来てくれましたね。私、とても感激しました。改めまして、ブリジットと申します」
ブリジットは嬉しかった気持ちを、と言うと、リコリスの入ったクッキーを一つ小袋から取り出すと、ルフィアに手渡した。人間用サイズなので、ちょっと大きすぎるかもしれないが、ルフィアは喜んでそれを受け取った。
「だって嬉しかったから‥‥」
クッキーで顔を隠して口元の様子は分からないが、きっと笑顔が浮かんでいる。照れ屋だけど、本当は感情を素直に表に出せる子なんだろうな。ブリジットはそう思った。
「ルフィアちゃん 初めまして シェアトって言います。気持ちが温かくなるお話、沢山聞きましょうね」
続いて、シェアトがルフィアに柔らかい笑顔で挨拶をすると、ルフィアも「うん」と小さくうなずいたが、少し緊張したような面持ちである。
慈愛なんて私にあるの? という小さな不信が緊張とともにふくれあがる。が、後ろから「わっ!!」と驚かされるとそれもはじけ飛んでしまった。
「きゃっ!?」
「音は伝わりますよね。空気って伝わるんですよ。緊張も伝わるし、アンニュイなのも伝わってしまいますしー。そして笑いのツボも伝染するのですよ」
最後だけ何か違う気もしたが、ああ、なるほど、とシェアトは気付いた。ルフィアは緊張を感じ取ったのだろう。それだけルフィアは感受性が強いのだ。
「伝わる、ね。確かにそうかも。慈愛っていうのももしかしたら‥‥」
そう言いかけたガブリエル・プリメーラ(ea1671)の言葉に同行していたラファエルが吹き出した。あんたに似合わない単語ねぇ、という言葉にガブリエルは拗ねてしまった。
●1時限目 聖なる人が教える幸せ
「ルフィアさん。顔色がよくなりましたね。表情もやわらかくなって」
デリカ母さんが作った可愛らしいヴェールを被ったルフィアはこくりと小さく頷いた。外に出ることもないのにもかかわらず、被っているのはアウル・ファングオル(ea4465)の薦めでもあった。このヴェールは左目を覆うようにヴェールを止めるリボンが走り、眼帯の役目をしているからであった。邪眼の力を少しでも封じられるかもしれない。そんな狙いも込められていることをルフィアはある程度感知したが、それ以上は何も言わなかった。
ウェルスの言葉は穏やかに続く。
「つらく悲しいこともありましたね」
「悲しい気持ち、怖い気持ち、怒る気持ち。みんなそんな顔するもの。お兄ちゃんも‥‥そうだね。笑った顔のまま泣いてる」
ルフィアの言葉にウェルスの胸はずきりと痛んだ。ルフィアのことを思って何もないような顔をしているつもりであったが、彼女の感受性、直感力はそれを凌駕していた。
「ルフィアさんはとても人の気持ちがよくわかるのですね。でも、それはどうしてだと思いますか?」
ネックレスの十字架を胸元で握り微笑むブリジットの言葉に、ルフィアは顔をうつむかせた。
「こんな眼を持って、いるから‥‥」
だけど、そんな彼女にガブリエルがそっと近づき、邪眼になってしまった目の目蓋に軽くキスをした。そのことはっと顔を上げると、ガブリエルはウィンクをして仲間たちを、そして窓から広がる世界に視線を向けるように手でうながした。
みんなの強いまなざしなルフィアに注がれる中、ブリジットが口を開いた。
「それは違います。ルフィアさんのことが心配だからです。そして少しでも今の自分がもっと好きになってほしいからです」
その心に一片の嘘偽りもない。ルフィアを憐れむ理由も含めて、ここにいる全員が元気になってもらいたい。自分をもっと好きになってほしいという願いが込められている。
「ルフィアさんは何れその左目と向き合わねばなりません。その日の為により豊かで強い心を育む事。それが私達のすべき事でしょう」
ジュネの言葉に、ルフィアはしばし呆然として、聞き入っていた。
分かっていたことだと思う。みんなルフィアのことが心配なことは。だけど、その親身な思いに改めて触れて、そり温かさを知って、泣くことで自分を被害者に追いやっていたことを自覚させられる。
「ですから、まずは自分を好きになる事、今の自分を受け入れる事から始めましょう。自分を大切に出来ない人が、他人を大切にする事は難しいのですから」
●2時限目 思いやりと労りの心
「皆が幸せになれるよう気持ちを込めてね、作ったんだよ」
明王院月与(eb3600)は災害地域への募金をするためのメニュー作成依頼で彼女自身が作った料理を差し出した。パイ生地に果物を詰めて焼きあげ、豊潤なフレーバーティーを一緒にしたものだ。パイには肉や野菜を詰めるのが普通なのだが、ここに果物を入れたり、ティーとセットという斬新なアイデアがふんだんに盛り込まれ、斬新すぎるのではないかという意見が出たほどの料理であった。
長く、そして心を震わせることの多かった講義は終わると感動の分だけ、疲れもやってくる。その上、掃除やミサの準備の手伝いなどの肉体労働も重なったのだから、この料理のなんとありがたいことか。ひっそり羽鳥とその愛犬銀河に乗って遊んだ疲れも混ざっているのだが。
「食べてもいい?」
「うん、いいよ。みんなで食べようね」
月与の言葉に、ルフィアははっと気づき、大きなナイフを使ってこのフルーツパイを切り取っていく。
「どうしたの?」
「さっき、ジュネお姉ちゃんから、他者の心の痛みを己の痛みとして受け止め、これを労わる事、って言われたの。みんなお腹減ってるから、わけわけするの」
本当は食べたいんだけど〜。
顔はありありとそう言っていたが、きゅっと口を真一文字に結んで、切り分ける姿に月与は吹き出した。
「大丈夫だよ。全員分あるから安心して」
ブリジットからも思いやりがとても嬉しかったですよ。と頭をなでなでしてもらっているルフィアに月与は話を始めた。
「ミーファっていうお姉ちゃんがいたの。デビルに騙されて悪いこと気づかないうちにたくさんしてしまって、それに気づいたとき耐えられなくなって自暴自棄になっちゃったの。でも最後には、皆が幸せになってくれる事が償いになると言ってくれたんだ。
あたいは微笑んで亡くなって行った彼女の想いを、彼女の遺した歌と共に伝えたいと」
♪気持ちは歌に 歌は空気に 愛は光に
歌は大気に溶け 全てを優しく包む
風は草木と共に歌う 喜びと希望の歌を
光は迷い人に照らす 生きる道を
全ては愛 悲しみと憎しみの連鎖を断ち切る優しき心♪
そう言って歌い始めた歌に、ルフィアはぽつりと漏らした。
「ミーファさんは、お姉ちゃんの傍にいる。謳ってくれたお姉ちゃんを守りたいんだと思う」
そして最後にいいな、と。
それを聞いて、ガブリエルがにこりと笑った。
「それじゃあ、作ってみない? 世界を知り人を知れば脆さと美しさが見えてくる。感じたことをそのまま音にのせてみましょう。それがあなたの歌になる」
「感じたことを歌に」
その顔は驚きよりも、できないといった拒絶のそれであった。だが、逃げているだけでは見えてこない本質がある。ガブリエルはためらいもなく軽やかな歌声を披露した。
♪教えて、あなたのこと
聞いて、わたしのこと
千差万別わたしのこころ、あなたのせかい
聞ける口、見れる目、感じる肌、痛むこころ、
脆いもの、醜いもの、それら全てが溢れるせかい♪
バードの操る魔法にメロディーという、心を左右する力を持つものがあるが、ガブリエルの歌声は魔力が無くても彼女の心を揺る動かす。
「歌の手伝いなら、私やシェアトも手伝えるし、頑張ろうね」
うなずいたルフィアに皆は満足して、改めてフルーツパイとティーセットをいただくことにした。いただけることに自然の恵みを。そして作り手の愛に。そして神に感謝の祈りを捧げて。
「いただきまーすっ!!」
早速楽しいお食事会が‥‥凍り付いた。
「う‥‥」
まずい。
作り主の月与がいるので皆、面と向かってまずいとは言わないが、明らかにその手がとまっていた。
「な、なんでしょう。斬新な味ですよね」
引きつった笑顔でそう言うもののねそれ以上言葉が見あたらない。香りも見た目もすごくいいのに。と、ウェルスはふと、パイの中から溶け出てきたものを見て引きつった。
「め、目玉‥‥」
大きめの魚から取り出されたのであろう、その物体をどうしていい物やら困り果ててしまう。
「目にいいらしいぞ。さすが月与。家事に強いだけあるな」
一人だけ、奇面(eb4906)だけが、何食わぬ顔でその怪しい味のパイを食べていた。疑惑の視線をものともせずに。
●お休み 私たちが求める真実
夜が来て慈愛の授業はもう終わり。月与とめいがルフィアの横で添い寝をしてあげている間のこと。
「ルフィアは精霊の森でコボルトにさらわれたことが邪眼になってしまった直接的な背景だ。そのコボルトはデビルと共に森に侵攻してきた。つまりデビルの可能性が高いだろう」
奇は手に収まっている蒼玉を見つめながら、そう言った。この蒼玉はルフィアの故郷である精霊の森に安置されていた宝物の一つだ。魔封じの宝玉と呼ばれあと二つ揃えば、効果を発揮するらしいのだが。
それはともかくとして、奇の言葉に少し調べ物のために先ほど教会に着いたアウルが頷いた。
「その精霊の森に今日行ってみましたが、シフールさん一人残らず亡くなっていましたよ。急に心臓発作でも起こしたかのようにばたばた倒れてました」
その言葉にそこに居た面々は愕然とする。ルフィアが集落の人たちに持っていた憎しみの感情が反応した‥‥?
「加えて、先日別件で知り合いになったプリエさんにバーニングマップを頼みました。示すのは、ルフィアさんの邪眼の発生原因。ですが、地図に灰は残りませんでした。とすると本人自身に原因があると考えるべきでしょう」
と言いつつも、アウル自身は伝説にあるようなものではないと考えていた。
だが奇の推論とアウルの得た情報を繋ぐものがたりない。
押し黙る中で、シェアトが少し周りに気を遣いながら、口を開いた。
「もしかしたら、邪眼ではないのかも、しれません」
その言葉にそこにいる全員の視線が集中した。ひどく今までの流れを飛び越える発想であったため、自信のないシェアトはますます言葉を出すのに臆病になってしまったが、ガブリエルに支えられて静かに話し始めた。
「昔、もう数百年も前、霊を見ることのできる一人の女性がいました。その人は霊とお話しして仲良くなることもできたそうです。だけど、周りの人は不気味がって彼女に近づこうとしませんでした。彼女を傷つける人もいました。霊は友達がいじめられているのを見かねて、怒りのあまり悪霊になって傷つけた人々の魂を抜き去り地獄に連れて行った‥‥」
「なるほど、悪霊がね。しかしいきなりじゃないですか?」
アウルの反論にシェアトは頷いて答えた。仰るとおりです。飛躍したお話だと思います、と前置きをして。
「邪眼はいくつも伝承があります。呪殺するもの、不幸を与えるもの、体を麻痺させたり、石化させたり、魅了するのも邪眼と呼ばれます。ですが、基本的にどれも即座に効果を発揮するんです。でも、奇さんも、おじいさんも即座に倒れたわけではありません。『誰もいないところで、本人も気付かないうちに』生命の灯を消されたとするなら、それは邪眼の力ではないと思います」
「確かに、部屋に戻ってからだ。体が動かなくなったのは。最初に見据えられた時に寒気が走ったが、それはルフィアによるものではなくて、どこかで見ていた霊によるものか」
奇がなるほど、と答えると同時にガブリエルもそうね。と呟いた。
「見えなければ、憑くことも離れることも自由だし。人が大勢いればルフィアの中に潜むか、またずっと離れたところにいればいいわけだし」
沈黙が降りる中、奇がふとあることに気がついて、小さく舌打ちをした。
「目は関係ないとするなら、先程のパイの材料に放り込んだ目の薬になる材料、意味がなかったのだな」
やっぱりお前か。そんなツッコミがすぐ入ったのは言うまでもない。
●3限目 祈りを決意に、歌を捧げて
♪あなたの息吹を受けて私は新しくなる
愛するあなたよ 私の内に清い心を作り、
新たなわたしは 救いの喜びを私に返す
私はあなたへの道を伝えよう 喜びがまた喜びを作り出すように
今日の感動のままに四恩を恵みで潤して♪
学んだことを形にして。悔しいことも悲しいことも全部新たに生み出して。
ミサの中でルフィアはそう歌った。
「ルフィアさん‥‥」
シェアトは小さいながらも一生懸命に歌うルフィアの姿をまぶしそうに見つめていた。他の仲間たちの話す様子も、その姿もまぶしかった。自分にはできないだろうな。
ふと、そんなため息が漏れそうになる。
「慈愛大作戦成功ですね。これも皆さんのおかげです。ありがとうございます」
「あ、いえ、私なんか何もできなくて。学びに来たくらいですから」
ユーリがお辞儀したのでシェアトは苦笑するようにしてそう言った。苦く思うのは自分の気持ちだからであって。それでもユーリはにこにこと笑っていた。
「そんなことありませんよ。ここに来ていただいた時点で、優しさに溢れていると思います」
「そんなこと‥‥」
ない。という前に、ユーリが言葉を紡いだ。
「セーラ様曰く。慈愛って誰にでも持っているものだそうです。だって関わろうと思う気持ちは、ルフィアさんや他の人を何とかしたいと思うからでしょう? それこそが慈愛ですよ」
そしてルフィアさんがそうしようと決めたように慈愛はきっとあなた自身を幸せにしますよ。と付け加えた。
「純粋な愛の感情でさえ、人に破滅の道を選ばせてしまうと考えた事は‥‥?」
アウルの問いかけにユーリはかんらかんらと笑った。
「たぶん、愛ゆえの破滅なら本人破滅とも思わないと思いますよ。恋は盲目〜♪」
調子っぱずれな歌にアウルはため息をついた。
本当の幸せも気持ちも、人によって異なっている。自分の視線と常識だけで考えるな、か。
アウルはもはや何も言わず軽く髪をかくだけであった。