【秘密のレシピ】小さな愛の手を受け止めて
|
■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月02日〜07月07日
リプレイ公開日:2007年07月15日
|
●オープニング
厨房で忙しく働いていたミーネに、お客だよ、と呼ばれてホールの方に出てみると、いつぞやの旅の少年エウレカが手を振っていた。
「お姉サン。新しい財布がやってきたのデス♪」
先日、財布をすり取られて無くしてしまった旅の少年エウレカが嬉しそうに差し出した新しい財布を見て、ミーネは思わず言葉が出せなかった。
財布を取られても、エウレカは全く気にする様子もなくそうしてニコニコとしている。新しい財布というのがどこかから拾ってきたのであろうすり切れたボロの水袋であったとしても、彼は嬉しそうにしている。そんな彼の表情を見てミーネは精一杯の笑顔を浮かべた。
「そう、良かったね。今度は取られないようにするんだよ」
「はい。それで前回食べられなかった御飯を食べようと思いマス。お姉さんのお薦めはなんですカ?」
わくわくとした顔で見つめられるとミーネもなんだか凝っていた心が氷解する。なんだか不思議な子だ。それは前から分かっていたけれど。
「今のおすすめはニョッキのトリコロールか蜂蜜漬け入りスズランパンかな。ほら、今、預言とかなんとかで災害があちこちに起こっているじゃない? その復興のためにね、この御飯の代金が使われるのよ。美味しいし、是非おすすめ」
「食べるだけでみんなの為になるんデスカ? それってすごいデス! それじゃ是非、ニョッキをお願いしマスっ。ニョッキ、ニョッキ、ニョッキ♪ 緑がニョッキ、にょっき、幸せにょっき、ニョッキ♪」
へんてこりんな歌を歌いながらエウレカは『新しい財布』をひっくり返して、中にあるお金をテーブルに広げた。
しかし出てくるのは小銭が一枚、二枚くらいなもので、後はきれいな小石や奇妙な形の種ばかりであった。
「これでお願いしマース」
「え、ぇと」
明らかに80Cもあるようには見えない。
それもそうだ。財布を取られたのはつい最近だし、旅をしているのだから、定期収入があるわけもない。お金があると考える方が間違いなのだ。
「‥‥ごめん、エウレカ。これじゃ足りないの」
裏口でこっそり食べさせることも考えたが、他の客も居る前でそんなひいきはできない。それにきっと彼は今回食べることができたら、明日もあさっても、できる限り、同じメニューを頼もうとするだろう。根本解決にはならない。
「お金、足りないですカ?」
「うん‥‥ごめんね」
気まずそうな顔をするミーネに、エウレカはきょとんとした瞳でミーネの顔とテーブルの上に広がった『お金』を少しの間見つめていたが、お金全部差し出すと、彼はまたにこりと笑った。
「それじゃ、これで買える分だけくだサイ。人のためにできることしたいカラ」
結局、1Cが募金箱に入れられ、残った1Cでシトロン・エト・ミールを差し出すことで話は決着した。
その夜ミーネは一人厨房に残って考えていた。
実際、冒険者からもいろんな要望が出ていた。例えばお酒がほしいとか、肉がほしいとか。
それにエウレカのように少ないお金でも、募金をしたいと考えている人がいるのは事実だ。できるだけその気持ちをくみ取って、また反映できるようにしなければならない。
「新しい募金メニュー‥‥できるかな」
冒険者とまた相談しよう。そしてできるだけいろんな意見を反映したメニューを作りたい。
夜の厨房で、ミーネは一人ギルドにもっていく依頼を頭の中でまとめていた。
●リプレイ本文
●
「がうがう! ‥‥よう少年。こいつらの作ったメシ、味見してやってみねえか」
カラット・カーバンクル(eb2390)の手の上で踊るどらごん君がそう語りかけるのをエウレカは目を丸くした。
「どらごんさんが優しイ‥‥?」
「クク、少年を餌付けして太らせ、食べごろになったら、いただきまぁす! って寸法だぜー」
その言葉にエウレカが笑顔を作ったのを見て、カラットは少しばかりあった『罪悪感』が氷解していくのを感じた。財布をすられた事件は知っている。カラット自身も盗賊だし、それで生計を立てているのだから罪悪感なんて感じることもないのだが、それでもどうしてだろう。少しばかり後ろめたい気がするのは。
「はイ、それじゃがんばって太るのですヨ」
あれ? 食べられちゃダメじゃん。
予想とちょっと違った反応にカラットは首をかしげた。
「い、いいのかよー?」
「どらごんさんが僕にご飯を食べさせてくれるって言ってくれまシタ。幸せデス。だから僕も幸せを差し上げたいのデス」
もふもふとどらごん君の頭をなでながら、そんなことをのたまうエウレカにカラットはすっかりモノがいえなくなってしまった。人が良すぎるというか、物事の道理が分かっていないというか。この子を詐欺にかけたらぼろ儲けできるんじゃないかという発想も浮かんでこなくもないのだが。
「カラット。一本とられてしまったの」
口が止まっているカラットを見て、青柳燕(eb1165)が軽く笑った。
「なんかもー、話がかみ合わないです」
「物差しが違うとはこのことだのう。さあ、試食の品もだいたい揃っちょる。早う、席に着かんと、二人とも食べるものがなくなるぞい」
奥の席を指さす燕にエウレカが少しだけ申し訳なさそうな顔で、彼女の顔をのぞき込んだ。
「あのー、できたら、お友達がいるんですけど、一緒に参加しちゃダメですカ?」
「ん、別にええぞ。料理もたくさんあるし構わんじゃろ」
その言葉にぱぁっと光り輝くような笑顔を浮かべるエウレカはすぐさま、勝手口を開いて、おーい、と呼びかけた。
するとやって来るわ来るわ。おじいさんおばあさん、荒くれの兄ちゃん、けばい姉ちゃん、ヒネた子供にその子分、野良犬、野良猫、野良鷹、野良ドラゴン、モグラにロバまでぽっこぽこ。どこまでが本物?
「お前さん、友達が多いの」
そのあまりにあまりな光景に思わず燕も呆然。わっさわっさと『シャンゼリゼ』に入ってこようとする彼らをすかさずモップを手にしたウェイトレス、アンリが止めに入った。
「入店禁止〜ぃ! お客様のご迷惑になります。それならお外でやってくださいっ」
ぽいぽいぽいぽぽーい。
入り込もうとした彼らも、エウレカも、依頼を受けた冒険者も、あげくミーネまで放り出されてしまった。ドラゴンだけはどこいってたのよポチ、とか呼んで、アンリのペット小屋に連れて行った気もするが、きっと一連のそれは夢だろう。うん、夢。
「とりあえず外でするしかないの。なに、テーブルを用意して、看板でも置いておけば格好はつくじゃろう」
燕は料理と木の板を両手に持って歩き始めたのであった。
試食会場は小さな広場へと移動する。
●
色んな生き物達が仲良くテーブルを囲む看板が掲げられたその向こうには、それより断然賑やかな光景が広がっていた。
「一品目は、あたいの肉まんだよ。それとすいとん。色んな人が気軽にたくさん食べられるようにって作ったんだ」
明王院月与(eb3600)考案の、大釜で作ったすいとんとてんこ盛りになっている肉まんが広場中によい香りをふりまく。
自称エウレカの友達もめいっぱい喜んでそれらの料理にとびついていく。
「むっほー。じゅーすぃぃぃ!!」
「具がたっぷりじゃぁ」
「はふはふ、がふんがふん」
もっぱら異国の料理である肉まんが大人気のようで、月与が後ろに立ったら完全に隠れて見えなくなるくらいの量を作ったにもかかわらず、それらはあっという間に人々や動物たちの胃の中に消えていく。
「肉まんって手軽だし、これならナイフやフォークがいらないのね。ノルマンの常識じゃ作れないなぁ。もっと勉強しなきゃ。これをノルマン風にできたら、シャンゼリゼでも使ってもらえるかな‥‥」
試食人数が急増したので、それに追われて大急ぎで調理しているミーネもこの料理各種には驚いたようで、料理の仕方をマスターすべく、食材や調理法を何度も繰り返して覚えようとしていることが分かった。
「すごい人気やなぁ、あっという間に消えてくわ。でも、うちの料理を食べへんうちにお腹一杯になったらあかんで! 伝承によって紡がれる料理各種のお目見えやっ」
詩人ジュエル・ランド(ec2472)は、ばばーんっとテーブルの上にかぶせられた布をとって、古の料理を披露した。
「何これ、生肉か?」
「阿呆なこといいなや、薄切り肉の湯引きっちゅう奴や。こっちの熱湯の中にさぁーっととおして、食べるんやで。歌はこうや。 海を踊る魚のように、肉よ湯の中で踊れ。ほのかな桜色が白くけぶるその魔法のような瞬間を見逃すな。自然がくれたこの恵みに感謝して〜♪」
ジュエルがそう言って、薄切り肉をさぁっと鍋にくぐらせると、軽く茹だった肉が姿を現すではないか。これを野良犬がぱくりっとかぶりつく。
その瞬間、野良犬独特のやさぐれた顔付きが一瞬とろける。うるんだ瞳、垂れ下がった目、ほっぺが赤らんでいる様子を見るだけで幸せになれる。
「ぁふ、わふ〜ん」
「ぉぉお、なんか見てるだけでうまそうだぞっ」
「なんか自分で料理する感ががあって面白そうっ」
幸せでたれきっている犬は燕が物珍しげにスケッチしているので、それはさておいて。
「まだまだあるでぇ。今度は酔っぱらいのメニューは。塩をグラスにつけてやな。おつまみ付きの酒。名前は考えてなかったけど、この幸せ犬にならって、『塩ぃ犬』や!」
「どんなんやねーんっ!!!」
ぅぉぃ!
と、みんなから突っ込みを受けながらも裏路地のみんなはお酒がみんな飲めるので、みんな次々とそのコップを手にとっている。
「とりあえず、シャンゼリゼにかんぱーい!」
ぐびぐびぐび。ぷっはぁぁぁぁ。男も女も動物も、この時ばかりはみんな揃っておっさん臭い。というか、動物にまで飲ませるな。
「ふふふ、ちょっと飲んだらついつい手が出てしまうのですよ〜。ぱたぱたぱた」
っと団扇で軽く煙りを仰ぐカラットからなんとも言い難い香ばしい臭いが漂ってくる。それと同時に、野良鷹が慌てて逃げ出した。本能的な危険を感じたからだろうか。
「さあ、焼き鳥はいかがー。肉に飽きたらチーズを使ったラスクもあるよー」
ヴェントリキュライはこんな時の呼びかけにも大活躍。わいわいがやがやしても、そっと囁けば声がかき消されることもなく。
「一杯の酒に一本の焼き鳥。うーん、ベストコンビじゃな」
「おーい、焼き鳥たりねぇ」
「鷹どこにいった〜。ばらせー! この際シフールでもかまわねぇ」
危険感知能力の高かった鷹はすでに屋根の上へ退避済み。焼き鳥への運命を回避できたのであった。そしてその代わりに危険の矢面に立たされたジュエルは。
「う、うちを食べたって美味しくないでっ!」
「昨日、マル秘伝承レシピにシフールのミルクワイン煮があるっていってたのを聞いてます」
カラットの陰謀により、ちゃきーんちゃきーん、とナイフとフォークが打ち鳴らされ、ジュエルに少しずつ近づいてゆく。
「ち、ちょっとまったぁ! こうなったら秘伝のレシピの紹介や。古ワインがあら不思議! さっぱりとおいしい飲み物に変身やっ」
切り札のごとく取り出す古ワインを香草を放り込んで作ったサワーの瓶を取り出した。
「うーむ、なんとも言えん味だな。古ワインより全然飲みやすいんだが‥‥」
一同が首をかしげながらも喉を潤す。というのもサワーにするにはちょっと酸味がききすぎているようだ。
とにもかくにもその間に、ジュエルは伝承レシピの実体験者にならないように脱出に成功したのであった。
「切り札だから、ウェディングケーキを出すのかと思ったよ」
月与の言葉にジュエルが口をとがらせた。
「砂糖が高すぎるからダメだっていうんや。そのくらいの融通きかしてくれたっていいのになぁ」
「この食材費、どっから出てると思ってんの‥‥」
それを聞いたミーネから、ドスの効いた声が返ってくる。おそらくシャンゼリゼからメニュー開発費として貰ったのも前回の募金メニューで好評を得た分のボーナスも今はもうすっからかんになっているに違いない。それどころか、依頼の費用だって怪しい気がする。
「まあ、できんものは仕方ないじゃろ。言うておる間に奴らも腹がいっぱいになっちょる様じゃ。明王院のすいとんを作る際にできたゼラチンで作ったスープを煮こごらせたもので一息ついておるよ」
「大きな鍋でいっぱい作ったから、きっといろんな味がしっかりしみこんでいて、おいしいと思うよ」
燕と月与は互いに顔を見合わせて、にっと笑顔を送りあった。
「しかしまぁ今回は色んな料理が出てきたの」
「あたしの作ったすいとんに肉まん、肉の湯引きに、焼き鳥に、ラスク。スープゼリーに。サワーに塩ぃ犬、だっけ。たくさんの人が食べてくれたし、良かった!」
「本当じゃのう」
燕はそう言いながら、自らが木版に描いたスケッチを見直した。
自称エウレカの友達の姿。
ミーネの料理を作り上げていく表情。
月与の大釜の前でお玉をもって呼びかける姿。
幸せそうな犬の顔、残った肉を巡ってナイフが交錯する姿。味見をこっそりするカラット。歌うジュエルの姿。
デッサンだけではあったが、それらが活き活きとして描かれている。
「それもこれもあのエウレカのおかげじゃな」
「不思議だよね。なんかドタバタするけど、みんな楽しんで周りにいちゃうんだよね。老若男女どこから人間、動物でも全然関係ないって感じで」
これが政務活動で悩んでいるお兄ちゃんお姉ちゃんにもできたら、みんなきっと和やかに過ごせるのになぁ。
そこで月与はエウレカがこちらを見ていることに気がついた。エウレカだけでなく、その周りにいるいろんな人やいろんな動物たちもみんなこっちを見ている。
「おいしかったデス。皆さんありがとうございマス」
「こんなに陽気になれたのはじめてだよ」
「これ少ないけど、もらっておくれ」
一人のぼろを纏った男が、胸元から金貨を一枚、渡した。
また一人、また一人、みんなそれぞれお金であったり、小粒の銀などをミーネや、冒険者達に渡していく。
「あ、あのこんなの貰うためにやってたわけじゃ」
「あんた達は楽しい食事を与えてくれた。金じゃ払い切れねぇもんをくれた。俺らに何の期待もせず、共に楽しむ時間をくれた。それに対して俺らが何かをしちゃ悪いかい?」
「預言だかなんだかしらねぇが、みんな不安な顔してやがる。だが、俺らは露程もまよわねぇ。俺らはあんた達の言葉を信じるからな」
「エウレカも友達もみんな皆さんが大好きですカラ」
与えることは 取ることより幸福であり
愛するのは 愛されるより美しく
そして 人を幸福にする