不和の瞳(邪眼)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月04日〜08月09日

リプレイ公開日:2007年08月19日

●オープニング


 ルフィアの左目はモンスターに捕らわれた経験を機に、視力を失った。周囲から邪眼と恐れられて、そのために故郷を追われたりしたり、苦しいことはあった。けれど、この修道院に入ってそんな悩みや苦しみも少しずつ軽減されているのがわかった。
 修道院の屋根に座って眺める光景が好きだった。この大地が思ったほか広いことを再認識させてくれるから。故郷は少し遠くて見えないけれど、吹いてくる風を肌に感じれば、故郷のことを思い出せそうかな。
「ルフィアさん〜」
 下から声が聞こえる。覗き込んでみると、同じ修道院に住まう3人の男女がこちらを見て手を振っていた。
「夕ご飯の支度をしますけれど、ご希望はありますか?」
 女性の修道士、ミルドレッドがそう問いかけてきた。その横にいる柄の良くない男の修道士二人はマクレーンとクレイル。盗賊上がりで改心の為にここに修養している。
「俺、焼き鳥が良いなー」
「ここに入ってから、肉ほとんど食べてないもんなー」
 交互に呟く二人の言葉を聞いて、ミルドレッドは呆れた声で二人をしかりつけた。
「罪を悔い改める私たちが、生命を奪うなんて、信者様が見たら生臭と呆れられますよっ」
「野菜だって生命あるものじゃないかよー」
「人間だって肉でできているじゃないかー」
 ブーイングを飛ばされるミルドレッドは思わずその反論に言葉を詰まらせていた。ある意味、それはそれで正論なんだろう。ミルドレッドも密かにたまにお肉を食べたいと思っている。だから思わず、口が止まるのだ。
 ルフィアは空を飛ぶスズメを見上げた。
 確かに命あるものを奪ったらいけないわけで、生命尽きたものならそれをありがたくいただくのは悪いことではないかもしれない。あのスズメがもし不意に死んだら、きっとマクレーンもクレイルも喜ぶかもしれない。

 死んで。

 そう思った瞬間、見つめていたスズメの羽ばたきが急に止まり、推進力を失って、地面に落下した。一緒に飛んでいた数羽も見つめると次々と落下し、3人の足下に落ちていった。
「その鳥なら‥‥食べていいかも」
 ルフィアの言葉に、3人は言葉を失っていた。


「ルフィアの力は日に日に大きくなってるよ。もうこんなところで置いておくのは危険だよ。スズメだけじゃなくて、僕らが殺される!!」
 修道士達のリーダー格であるユーリに向かってクレイルは叫んでいた。妙な胸騒ぎがして目覚めたルフィアに話の全容が漏れていることも、クレイルは気付いていないようであった。
「スズメさん、クレイルさんのために取ってくれたんじゃないですか。大丈夫ですよー」
「そんなことないよ。1年、2年したらどれだけあの目が成長しているかわからない!」
「まあ、食わしてくれるんなら構わない気もするけど‥‥」
 マクレーンはどっちつかずな雰囲気だが、クレイルは今にもルフィアを排斥しそうな勢いだった。
 そのクレイルが振り向いた。そこで彼はようやくルフィアがその話をじっと聞いていることに気がついたのだろう。みるみる血の気が引いて震えはじめる。
 邪眼の餌食になることに強い恐怖を抱いている。それは保身のために強い殺意へと変わりはじめていた。
「ルフィア‥‥」
 殺される。
 死にたくない。いやだ。

 イ・ヤ!!!

「が、ふっ!!?」
 突如クレイルの動きが止まった。胸をつかみながら、もう片手でルフィアをつかもうと手を伸ばす。
「ルフィアっ!」
「やめて‥‥」
 マクレーンがクレイルの体を抱きしめるが。クレイルの顔色がどんどん白くなり、度を超えて今度は土気色に変色しはじめた。それでもまだ目玉がこぼれ落ちそうな位に見開いて、にらみつけるクレイルは虚空の先にいるルフィアを握りしめようと躍起になっていた。
「る ふ ィィ、ィ、ィイぁ‥‥‥っ!!!」
「こないでっ!!!」
 びきん。
 何かが砕けたような音がした。それがルフィアの拒絶が作り出した心の衝撃音だったのか、それともクレイルの生命の灯火が消える音だったのか。
 いずれにせよ、一人の男の生命はそこで途絶えたのであった。



「マクレーンさんを探してほしい?」
「はい、弟のクレイルさんを失った苦しみから、ルフィアと同じ屋根の下に一緒にいられない、と飛び出してしまったんですよ。できたら仲直りしてほしいなと思ってですね」
 修道士のリーダーであるシスター・ユーリがほのぼのとした声で依頼したのは、飛び出したマクレーンの捜索であった。
「そのルフィアって子がいる限り戻らないんじゃないですか? マクレーンという男、最近、盗賊になって修道院の襲撃しないかって声をかけまくっているみたいですよ」
「別に修道院のモノが全部なくなっても大して困りませんけれど、仲直りしないと困るのはご本人達だなって思うんですよ。どこに行っても、誰かを殺しても、ルフィアさんの気持ちが晴れることはありませんし、クレイルさんの影が消えることもありませんから。要はそれが分かってもらえたらいいなーと思うんですけれどぉ」
 苦しみは正面から向きあって乗り越えない限り、悩ませ続ける。何のためらいもなくいつも通りの明るい顔でそう言い切ったユーリに受付員は感心の声を上げた。
「すごいですね。ユーリさん。同じ修道士達にそんな不幸なことがあったのに明るい顔でいられるなんて」
「そうでもありませんよ?」
 ユーリは笑って言った。
「笑顔をやめたら、涙が止まらないんですよ」
 その目の周りが少しだけ腫れていたことに、ようやく受付員は気がついた。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

アウル・ファングオル(ea4465)/ 羽鳥 助(ea8078)/ 十野間 修(eb4840

●リプレイ本文

●スラムにて
「おい、マクレーン。本当にあの教会に財産なんてあるのかよ」
 マクレーンが集めたちんぴらの一人が、不審そうな顔つきでそう言った。
「最近、その教会はゴーレム化に成功したなんて馬鹿馬鹿しい噂が立っているぜ。そんな妄想教会にお前も当てられたんじゃないのか」
「なんだとぉ!!」
 とりあえず、稼げればそれでいい、暴れれることができるのならばそれていいという連中が集まっていたマクレーンの仲間達はおかしな噂にまとまりを失い始めていた。それがパール・エスタナトレーヒ(eb5314)の流言の策であったことに気づく者すらいない。ただ自分の復讐を果たしたいだけのマクレーンにはその纏まりを正すだけの余力など残っていない。元々人の上に立てるような人物ではない彼にはまとめるだけの言葉も力も、そしてカリスマもない。
 マクレーンは勝手に話が進み、分裂し消えていく仲間達を見ることしかできなかった。
「ちくしょう‥‥」
「随分ふてくされているじゃないか」
 路地裏でふてくされているマクレーンにそんな声がかかったのは、もう夕暮れの事であった。分裂をまとめきれなかった彼の元には仲間はおらず、その顔は青あざだらけであった。
「誰だ、てめぇ」
 声の主は大宗院奈々(eb0916)であった。ショートカットの髪に、どことなく人を誘うような瞳。服はジャパンのそれであったが、それがかえって彼女のボディーラインをうまく隠し、それ以上に美しく見せていた。マクレーンの顔が一瞬ぼうっとしたことに気がついて奈々はくすり、と笑みを浮かべた。
「仲間を探しているんだろう? それならアテがあるから紹介してやるぞ」
「は、オレをそうして懐柔しようってんだろ。ルフィアを連れてきたお前がオレに協力するはずがねぇ」
 奈々とマクレーンは直接顔を合わせて対話することは今回が初めてであったが、ルフィアのことで教会を何度か訪れており、その時に顔は互いに知っていた。
「よく分かってるな。その通りだ」
 少しばかり苦笑いをして、それから奈々は手を差し伸べた。もう仲間もいない、兄弟もいない、身を寄せるところもないひとりぼっちの青年に。
「憎い気持ちはわかる。だけどそれを行動や態度に出さないことが大人ってものだろ。ルフィアはあんな力を得てもまだ子供。その力を恐れるなら、原因を究明するべきじゃないか?」
 マクレーンの深い悲しみを帯びた瞳を奈々はじっと見て、手を取ってくれる瞬間を待った。
 殴って気が済むならそれでもいいかとも考えたが、マクレーンの瞳の奥に宿っているのは感情の嵐ではなく、この世の無情を噛みしめる悲しさであることに気づいたから。
 そっとマクレーンは奈々の手を取り立ち上がった。

●墓地
 教会の裏手。静かに時間が過ぎるその場所で一人、碑の下で祈りを捧げるシフールの少女を、ガブリエル・プリメーラ(ea1671)は後ろからぎゅっと抱きしめた。
 言葉なんていらない。その肌のぬくもりと、抱きしめるためにこもった力がそれ以上に語るから。
 二人の真上を、風が木の葉を揺らして歩く。それをゆっくり10数えるほどの時間を過ごしてから、ルフィアが息を漏らした。苦しそうな、胸を締め付ける痛みに満ちあふれさせながら。
「みんな、いなくなっちゃう‥‥」
 抱きしめられても、どこか気力の抜けたような、憔悴した表情から顔色を変えないルフィアにジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)が声をかけた。
「辛かったですね‥‥」
 のぞき込んだルフィアの邪眼と忌まれている瞳は、見ただけで一瞬ぞくりとするような妖しさを放っていた。間違いなく、邪眼は彼女の中で成長している。
 物言わぬ思いが交錯する中、にゅっとガブリエルの手がネフィアの頬をつかみ、ぎゅーっと引き延ばされる。
「いふぁい!?」
「鳥のこと、聞いたけど。ちょっと軽率だったと思うわ」
「私もそう思います。時に他人に敵意を向けてしまう事。それは人である以上当たり前の事です。私だって例外ではありません」
 姉と呼んでも差し支えのないほどの親しい二人の女性から、真摯な眼差しで見つめられ、ルフィアは体を萎縮したが、顔はまっすぐ向いていた。
 自分たちの乗り越えてほしいという気持ちを受け止めようとしているのがわかる。
「貴方は望む望まずに関わらず、他者を制する大きな力を持ってしまいました。大きな力を持つものは、それを持たぬ者よりもより強く、己を律する責任が有ります」
 ジュネのその言葉に続いて、ガブリエルがぼぅ、と月の光を体にまとわせながら、その言葉の後を追った。
「私たちも他人の命を奪えるだけの魔法という脅威の力を持ってる。だからこそ、力って物がそれを持たない人に与える恐怖、そのさじ加減を気をつけてるの。命は絶ってしまったら、その人を大事に思ってた人たちと、続くはずだった未来に責任を背負わなきゃいけない」
「せき、に、ん?」
「そう。あなたにしかできない使命。あなたがしたことに対する償いを」
 ジュネは静かにささやいた。それと同時に、心の中のもう一人の自分が問いかける。今ここにいるのももしかすると、その責任から立っているのかと。
「中に入りましょう。しなければならないことは分かっているわね」
「お話を、すること」
 ルフィアはぽそりとそう言った。その言葉に、ガブリエルはにこりと笑ってつねっていた手を離し、建物の裏でこちらを覗っていた男に頭も向けず言った。
「こんな子に弟と同じ目を合わせて溜飲は下がるの?」


●教会
 ウェルス・サルヴィウス(ea1787)の発案により、ルフィアは生きた魚を目の前にして、ナイフを握っていた。
「その魚をその手で殺してください」
「本日の夕ご飯になるんですよー。ムニエルむにえるむにえる」
 こら。
 場の真剣な空気はユーリの一言で吹き飛んでいった。
「でもまぁ、間違いではないですよねー。僕たち、命を奪って自分の命をつないでいますのでー。そうでないと、シャンゼリゼの人なんかみんな大罪人ばっかりになってしまいますー」
 パールはからからっと笑ってそう言った。パール自身はルフィアの行動についてそれほど否定的ではなかった。
「‥‥命の責任って、いろんな命を奪っているけれど、どうやって責任をとるの?」
 ナイフを持ったままルフィアはふと顔を上げて、ガブリエルに尋ねた。
「奪った分だけお返しするのよ。そのものに返せなくたっていい。同じ事を返さなくてもいい。できることをすればいいのよ」
 そして無闇に力を使って他の命を脅かさないこと、ね。とガブリエルは答えた。
 ルフィアはこくりとうなずくと、少しだけ祈りを捧げて、そしてナイフを魚に差し入れた。必死で抵抗し、暴れるのを押さえ込みながら、ルフィアは涙を浮かべていた。
 命に重いも軽いもないのだ。

 その横ではマクレーンの母親の元から帰ってきたシェアト・レフロージュ(ea3869)がユーリに、ムニエルと叫ばせないように、事の次第を報告した。マクレーンとクレイルの母親はひどくショックを受けたようだが、それでも『人様に迷惑をかけて過ごしたんだ。当然の酬いさね』と笑って言ってくれた。ルフィアのことについては完全に理解できたわけではなさそうだが、事情のある子ということは理解してくれたようで、準備が整ったら訪問するということを約束してくれた。
「お茶菓子買っておかないとですね。マクレーンさんとクレイルさんのお母さんですから、肉類とか好きなんでしょうかね〜」
 天井を眺めながら、なんだかどうでもいいことに頭を悩ませるユーリを見て、シェアトは少しばかり遠慮しながら声をかけた。
「私から見る貴女の心は何処までも広くて強いけれど、でも‥‥苦しみを一人飲み込んで心を殺していないかと」
 シェアトの言葉を聞いて、ユーリはにこりと笑った。
「ありがとうございます。お優しいんですね。ふふふ、私は心を殺してなんかいませんよ。いろんなものをうっかり壊したり、寒いギャグで場を凍らせることはありますけど」
 それはシスターのリーダーとしてどうなのか。
 後ろに控えていたウェルスも静かに笑った。
「悲しいときは存分に泣いてもいいのですよ?」
「実は私の涙を見てみたいとか思っているんですねー? 愚痴を聞いてくれる方はいつでもその辺にいますので、大丈夫。」
 ばちっと似合わないウィンクをしてユーリは言った。愚痴を聞いてくれる方というのは、セーラ神のことなのであろうが、言うに事欠いて『その辺にいる』というのもどうかと思ったが、ウェルスは深くつっこまないことにした。ユーリは母の慈しみを誰よりも知っているのだろう。
「クレイルさんが亡くなったことは悲しいことでしたけれど、今はもう皆さんがいるので大丈夫だっていう実感があるんですよ。ありがとうございます。お返しは‥‥私からは何もできないので、セーラ様からもらってくれればと思います」
 とことん他力本願な彼女である。でも、彼女の笑顔にはもう曇りは見えない。
「なんだ、泣きそうになっていると聞いたが大丈夫そうだな」
 そこに入ってきたのは、マクレーンを連れた奈々であった。マクレーンはまだ気持ちの整理が付かずに普段の脳天気な雰囲気はかけらもみられなかった。だが。
「マクレーンさん‥‥」
「ルフィア。‥‥お前馬鹿だよ。自分で殺した人間の墓の世話するなんてよ。それなら最初から殺さなきゃよかったんだ。そうしたら‥‥そうすりゃ‥‥おれは」
 すっかり動かなくなった魚を見つめたままのルフィア、うつむいたままのマクレーン。二人とも目は合わせられなかったが、言葉は二人をつなぐ。
「ごめん、なさい‥‥」
「あやまんなよ。どうすりゃいいかわかんなくなるだろ‥‥情けなくなるじゃないか」
 両の手でしきりに頭をかきむしりながら、マクレーンは錯乱するように呟いた。彼自身も混乱からまだ脱しきれていない。ルフィアも命の奪う重さにまた耐えきれなくなっていた。じっとしたまま涙を魚に落としていく。
「おれは、おれは。おれはっ、おれはぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 その瞬間、ジュネがマクレーンの肩を掴んだ。
「私達の相対すべきは、ルフィアさんの左目に宿った『もの』、その物です。ルフィアさんの心を蝕み、ルフィアさんの周囲に恐怖を撒こうとするその『もの』こそ、クレイルさんの仇と言えるのでは無いでしょうか」
 その鮮烈な言葉が、教会を揺らす不協和音をぴたりと止めた。
「その通りだ。原因を究明すれば‥‥こんなすれ違いはさっさと終わる」
 礼拝堂につながる扉に立っていた奇面(eb4906)の言葉に、パールが目を大きくする。
「原因、あたり付けられたんですか?」
「来るといい。目で見ればわかるだろう」
 そうして、奇は歩き始めた。


●魔法陣内
 礼拝堂には、香木の煙が当たりを漂い、聖なる釘とホーリーフィールドによる結界が完成されていた。それを用意していたのは国乃木めい(ec0669)だ。
「これから邪眼の正体を露見したいと思います」
「今までの流れから言うと、邪眼を手に入れたルフィアの周りには怪奇な事件が起こり、ルフィアは孤立した。そして今回の事件、ルフィアの気持ちが人のために向かおうとすれば逆に不協和音が奏でられる。それからシェアトの言っていた悪霊の話」
 総合するに。
 結界に入るのを恐れて入ろうとしないルフィアにめいは言葉をかけた。
「これ以上悲しい思いをする人を出さない為にもルフィアちゃんも頑張って下さい」
 めいはすでにディテクトアンデッドで、アンデッドがこの教会に潜伏しているのは感じ取っていた。恐らくルフィアが嫌がるのもその辺りに関係があるという推測はすでにたっていた。
「ルフィアが元々素質的に何かしらの力は持っているのだろう。それが人の心を見抜く力や殺す力かどうかはわからんが。それを利用しようとするのがいてもおかしくあるまい」
 奇の言葉の間に説得されたルフィアが結界の中に入れられた。承諾はしたものの、今までの取り調べのことが頭をよぎるのか、親しい人間に囲まれていても彼女の不安げな顔はますますひどくなっていく。
「ワシも様々な依頼に参加してきたが、あいにく思い当たる点があってな」
 奇の言葉の横で、めいがレジストデビルを唱えて、そしておもむろに殺気に満ちた視線を送ったその瞬間。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 ルフィアの悲鳴と同時に、めいが胸を押さえた。心臓が鷲づかみにされて凍り付くような痛み。透明な死神の歩み音が聞こえる。
「か、は‥‥」
「小さなきっかけで、大きく破綻させるやり方を好む悪魔がいる。そいつが、もしくはそいつに取り憑かれていた人間が亡霊と化して同じ仲間を増やそうというなら理解はそう難しくない。デビルとの契約をこそりと囁いていたとしても、だ。ふん、広げてみればつまらんタネだ」
 奇は周りが慌ただしくなってもただ一人冷静に言葉をのべつづけた。
 めいの呼吸がどんどん荒くなる。結界によって軽減はされているようだが、それでも連続して起こる生命力の消失に、めいの体力はつき欠けていた。
「ルフィアさんっ!!」
 ウェルスが即座にかばった。ルフィアを抱きしめてめいを視界から消す。
「ぁああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「が、ごほっ」
 だが、その次の瞬間に、異変が起こったのは後ろで呆然と見ていたマクレーンであった。ルフィアの視界に入っている!
 今のルフィアは目に映る恐怖の存在を片端から消そうとする暴走する力の塊であった。ウェルスがかばおうとするが、頭を激しくふる彼女からめいとマクレーンの両方はなかなかカバーできない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!」
『お願い、貴方と仲良くしたいのっ、どうすればいいのか教えて?』
 それを止めたのはシェアトのテレパシーであった。力を発揮し続けるルフィアの左目はその瞬間、動きを止めた。

 騒ぎが収まったその中で、マクレーンは顔中に脂汗を流しながら、つぶやいた。
「こんなの相手に、どう付き合えっていうんだよ‥‥」
 それに力強く答えを紡げる者はいなかった。ルフィアの邪眼はその素質と悪しき存在からの与えられた力、そして何かしらの意識によって、暴走する力として目覚めはじめたのだから。