美し月の見(映)える夜
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2007年10月19日
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●オープニング
「ぃよ、い、しょっと!」
ふらふらしながらも、ミーネは古びたテーブルを置くと、力尽きたのかそのテーブルの上に上半身をそのまま突っ伏した。
「はー、思いついたが吉日、なんていうけれど、体力使うわ。これ」
そんな汗だくのミーネに秋涼な風が優し髪をなでながら、過ぎ去っていく。荒かった吐息を少しずつ宥めてくれる。秋の風にそんな優しい力があるのではないかと、ふと思わせる。
ごろんと机の上に仰向けになって見れば、豊かな雲とどこまでも広がっていきそうな青が視界一面に映る。今日もいい日が続きそう。体を起こしながら、石畳で少し補強されたパリの町並み。草を撫でていく風の音。それから視界を大地に向けるとセーヌ川の優しい流れ。
「ふふ、お茶会にはぴったり」
ミーネは思わずくすり、と笑みを漏らした。
もうお月様は半月になってしまったが、9月から10月にかけての月は他のどの月にも比べて明るい。そんな下でお月を眺めながら、友達と香りのいいお茶を飲むというのは、ミーネのちょっとした夢であった。どこかのおとぎ話のように月が見守る森の中にあるというお茶屋さんでもあればと思うのだが、まあこうやって自分で作っていくのも悪くない。
「お店で捨てるはずのテーブルを貰えて、費用も安くすんだし。うん、なんか今の夏から調子いいぞ」
幸せ貯金が底をついてなければいいんだけど。そんな思いもしたが、今はとりあえず、月下のお茶会にめいっぱい想像の翼をのばしたかった。果物たっぷりのお菓子を焼いて、もちよって。
「お月様と仲良くなれたらいいですネ」
突如、そんな声がして、現実世界に引き戻されたミーネは驚いてテーブルから跳ね起きた。あわてて辺りを見回すとぼろぼろの衣を着た少年がにこにこと笑顔でこちらを見つめていた。
「エウレカ! びっくりしたじゃない、もぉっ」
「テーブルさんとお話していたのを邪魔しちゃいましたカ?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけどね」
エウレカの言葉に、ミーネは曖昧に笑ってごまかした。想像の世界を知られるというのはちょびっと恥ずかしいものだ。ミーネは取り立てて訳もなく話題を変えようと頭を巡らせた。
「あ、そうそう。エウレカ。お茶会しない? 今度、ここでやろうと思うの。月光の下でね、ね、幻想的でしょ」
「本当ですカ? わーイ、参加しまス。お友達もたくさん」
「あ、お友達は、その、ほどほどにしてくれるとありがたいんだけどな‥‥」
エウレカのお友達といえばスラムにいるにーちゃん、おっちゃん、わんちゃんと何でも有りだ。エウレカ自身は嫌いではないが、年頃のミーネに曰くのある彼らはちょっと刺激が強すぎる。何より月下のお茶会が、単なるどんちゃん騒ぎになる可能性が高いし。
「ダメでス?」
上目遣いに見るエウレカの無垢な瞳。
ミーネは思わず心臓が沸騰してしまったかのように、顔を真っ赤にして慌てて手を振った。
「あ、いや、そのっ」
「せめてこの子だけでも一緒にいちゃダメですカ? 迷子なのでス」
エウレカはそういうと、両手を差し出した。ミーネは最初、『それ』に気づけなかったが、目を細めてじっと見つめると、彼の手のひらに何か小さな黄色い光が浮いているのがわかった。夜ならばもっとはっきりもするだろうが、昼下がりの今ではほとんどわからない。
「お友達? なんだろうエレメンタルフェアリーか何か?」
それにしても小さいし、卵かなにかだろうか。
「お月様の赤ちゃんですヨ。お月様からはぐれてここまで着ちゃったみたいなんでス」
言われてみれば確かに黄色は月明かりのそれに似ている気もする。
「うん、まあ、それくらいならいいよ。そっか、お月様の赤ちゃんかぁ。どうやってお月様の元に返せばいいか分からないけれど、ここからならよく見えるから、お月様も迎えに来てくれるかもしれないね」
「ハイっ♪ ありがとうございまス!」
エウレカは満月みたいに笑顔いっぱいに答えたのであった。
●
「それは、多分ブリッグルだと思うな」
シャンゼリゼの休憩時にであったジャパン人らしい吟遊詩人はそう答えた。ミーネと同年代くらいで活発な印象を与えたが、その目はどことなく神秘的な印象を与えた。
「ブリッグル?」
「うん、月のエレメンタル。こんな都市にはいないんだけど。奥手な少年少女にそっと恋の魔法をかけるキューピッドさんよ」
なんか聞いたことのある話だな。ミーネは首を傾げながらも、その詩人に問い尋ねた。
「タチが悪かったりしますか?」
「そんなことはないけれど、ちょっと無作為なところはあるかなぁ。月下のお茶会なんて、幻想的なところだったら乱痴気騒ぎになるかもね」
そりゃマズい!!!!!!!!
ミーネはがばっと立ち上がると、血の気の引いた真っ青な顔をして、あたりを見回した。
「た、退治、いや、お月様の元に返ってもらわないと‥‥!」
「どしたの? あ、ねぇ。それよりあたしが踊れるようなところない? できるだけたくさんの人に見てもらえるような場所‥‥」
「ご、ごめんなさいっ。また今度お願いしますっ! あの、その、き、急用ができましてっ」
ミーネは調理服を着ているのも忘れて、冒険者ギルドへと飛び込んでいったのであった。
●リプレイ本文
●
空は高々、月も煌々。波音静々、風も清々。
月灯りをうけて、セーヌ川のそばにテーブル一つが照り返す。よくよく見れば濁ったガラスに灯りが点り。
輪を作って、空を見上げる18の瞳。
想いよ届けと香の煙が一条、月の元まで柱を作る。
「ごめんなさい。本当はもっと早くにしたかったんだけど‥‥、足下大丈夫ですか?」
葉のさざめき、波の細波、夜鳥達の囁きにしばし耳を傾けていたミーネは、茶会に集まってくれた人たちの顔を見て、少しばかり申し訳なさそう。でも、今夜の客人が浮かべる優雅な微笑はこれ申し分なしのご様子。
「そんなの気にする必要ないわ。三日月のお茶会というのも良いじゃないの」
くすりと笑ってラファエル・クアルト(ea8898)さん。色ガラスの奥から見えるぼんやりした灯りはまるで地上の月。そこにローガン・カーティス(eb3087)さんの用意した月夜に咲く花が添えられて、幻想的な月世界。古ぼけたテーブルも縁取り鮮やかな刺繍が縫われて、みんなの笑顔も彩ります。
「パックさんって何か食べるんですかね」
パックさんとは月のエレメントで迷い子ブリッグルのお名前。
香り豊かな茶の水面を照らす月影、カラット・カーバンクル(eb2390)さんのお顔はパックさんの輝きによって照らされています。
「やっぱりお月様に返すのは、無理でした?」
「だいじょぶです。このお茶会が終わったら一緒にさよならするですよ♪ 一人じゃ寂しいですもの」
ラテリカ・ラートベル(ea1641)さんは、お花柄のクッションをパックに用意して、切り株で作ったサイドテーブルにご招待。ぽふぽふと跳ねながら、パックはクッションが気に入った様子でゆらゆらと止まっています。お月様の揺りかごベッドのゆらゆらとどっちが気持ちいいのかな?
「まあ、そのためにこの場所を選び出したんだしな」
闇夜に浮かび上がるような真っ黒に衣服と髪のセイル・ファースト(eb8642)さんは、同じように深い色をしたワイルドベリーティーを飲みつつお空を見上げました。胸が透くような穏やかな風に木々が少なくめいっぱい月明かりを受けられる空。人気はそこそこ、でも騒がしさもほどほどに。
「月明かりをたくさん受けられるいい場所ですわ。幻想的な空気に包まれて‥‥」
リリー・ストーム(ea9927)さんはセイルさんの肩に頭を預けて、静かに目を閉じて。思わずミーネさんがお茶をこぼしそうになって、大慌てして。
「と、とりあえずお腹もすいているだろうし、ケーキにしましょ。うん。あ、どうやってお月様まで還すの?」
熱い惚気にあてられて、月明かりの下でも頬を真っ赤にしたミーネさんが、お夜食代わりのパンケーキを取り出して、三角四角と切り分けていきます。ケーキのお月様からいくつもの星が生み出されて。テーブルに星が降ってきたみたいににぎやかになります。
「すごい包丁さばきね。さすが料理人だわ。あ、それなら焼き菓子も持ってきたから一緒に食べて」
ラファエルさんが星形ケーキにさらに小さなお星様を添えてみんなの手元に運びます。そしてエレメンタルフェアリーのロホとターニヤにも小さなお皿でプレゼント。二人の妖精は「たべるー、たべるーっ」と星を散らすような大はしゃぎ。
「まずはね〜」
そんな中で、ラファエルさんが語り始めました。
●
「遺跡の島? また随分遠いところからきたのねぇ」
ブリッグルの故郷は遙か北。ドレスタットのまだ向こう。エレメンタル達が集う不思議な島。
冒険者ギルドの記録文にも詳しく載っていなかった場所をピタリと言い当てたのはカラットさん。彼女の歩いた道をパックもまたふわりと照らしながらパリにやってきたようです。
「そんなところからよくついてきましたよね。なかなかの冒険者ですね。‥‥にしても遠すぎ!」
カラットさんも思わず溜息をついてしまいます。
緑豊かな遺跡の島は船を使っても往復10日はかかってしまうのですから。木々も違えば風の香りも違う遠い国からやってきたことに思わず感心しきりになってしまいます。
「元の場所に帰すのが難しいとなると、他の方法を探すしかないな‥‥」
ロホがパックを抱えてコロコロふわふわと飛び回る様子を見てセイルさんはふむ、と考えます。妖精のお友達と仲良く暮らせる場所ってどんなところ?
「お月様の元に返してあげるですよ!」
ラテリカさんが両手を挙げて提案します。いつもお空のいつものお月様。たくさんのバードさんが想いを込めて、心の扉を優しく開いてくれる優しい光の力を借りているのですから。月のエレメントであるブリッグルもきっとあのお月様が故郷に違いない。
「ブリッグルがよく出現する場所を調べてみる必要があるな。月に還すにしろ、新しい住処を用意をするにしても、それまで悪さをしないように見張っておく必要があるが」
「意思疎通はできませんの?」
尋ねるリリーにローガンは溜息をつきました。知能は高くないのです。鳥と同程度。3歩歩いたら忘れてしまっては注意も何もありません。
「大丈夫よ。ロホについててもらうから。きっと友達がいなくて寂しいのね」
「つーいーてーるーよー」
「ターニヤも一緒についてくれるだろうか。頼む」
「たのまれたー♪」
ローガンさんがそういうと、彼の脇から、浴衣を着たエレメンタルフェアリーのターニヤが嬉しそうにロホとパックのの元へと飛んでいき、赤と茶と黄色の光が飛んでいきます。軽やかに動く光を見ていると、なんだか楽しそう。そんな幻想的な光景を眺めるラテリカさんはぽつりと呟きました。
「飛び方を知らないではないですね。それじゃ、お月様の元まで行く道があるのでしょか」
「エウレカくんに聞いてみてはどうでしょう」
カラットさんの提案に続いてリリーさんも提案。
「吟遊詩人さんに聞いてみるのもいいわね。妖精のお気に入り場所をパリに作ることができるなら、夢みたいで楽しいことだと思いますわ」
「ラテリカも吟遊詩人ですよぅ」
「あら、そうだったわね。ごめんなさい。それじゃ始めましょう。妖精の都計画よ」
●
「それで、一番好みそうな場所を色々検討した結果、ここだったってわけさ」
セイルさんは少しぎこちなさそうにティーカップをテーブルに戻すと、ミーネさんに辺りを紹介しました。
「綺麗な水が流れていて、空が開けている場所。だけど、茂みとか木がなくちゃならない。それがなかなか無くてな」
「それでこの場所に‥‥」
ミーネさんは感動した様子で、真っ暗で静かな、でも、月明かりがシャンデリアのように心をどきどきさせて、風一つにも不思議と心がわくわくする気持ちを感じていました。空高いお月様が、今日のお茶会を知って祭の風を呼んでくれたのでしょう。風がわくわく、そわそわと囁きます。
「ここを探すのには随分苦労しましたわ。見つけるだけで2日もかかりましたのよ」
それだけ大好きなセイルさんと一緒の時間を過ごせたのでしょう。寄り添って交わす視線もいつもよりもなんだか濃密な感じ。お月様も照れて雲でお顔を隠してしまいます。他の人もなんだか照れてしまいますけれど、エウレカくんだけは何ら気にせずにこにこ笑って言葉を付け足しました。
「何もないけれど、全部あるところが嬉しいっていっていましタ。ここはパックさんのお気に入りの場所なんですヨ」
「なぞなぞみたいね。何もないけれど、なんでもある、って」
ミーネさんは困った顔をしながら、空いたカップにお茶を注ぎながら、周りを見渡します。
何もないというのは分かる気もするけれど、全部あるってどういうことなんだろう。頭の中で自然に慣れ親しんだもう一人の自分がささやきかけますが、うまく聞き取れません。わかるんだけど、言葉にならない。そんな感じ。
「様々なエレメンタルの力がよく感じられる場所ということだな。空がこれだけよく開けているから月も太陽も良く臨める。清流は近く水の香りもよくする。草木は良く萌え、風は通り調和を生み出す。夜でもそれほど寒くならないのは昼間の暖かさがまだ残っているからだな」
ローガンさんの説明にミーネさんははっとしました。そうそう。お茶会をしようとした時に考えていたことです。自然が楽しめる場所。全部あるっていうのはこいうことだったんだ。確かに近くの茂みからロホくんやターニヤちゃんのお友達が出てきても不思議ではない感じ。
「それにしても不思議。私、パリの良い眺めの場所は大抵知っているつもりだったのに。やっぱり気づかないこともあるんだなぁ」
感心しきりのミーネさんのつぶやきに、セイルさんとリリーさんはくすりと笑って、視線を交わし合わせました。
本当はもう少し鬱蒼としていたのですけれど、街を守るとブランシュ騎士団の分隊長であるフランさんが陰から応援してくれていたのです。そこでセイルさんが剣の代わりに鎌をもって少しきれいにしてくれたのは内緒。サイドテーブルの切り株も彼が作ったことはあえて言いませんでした。変な気を遣わせたらお茶会が心から楽しめなくなってしまいます。
だから、カラットさんもせっかくのお料理を遠慮しているエウレカくんに語りかけます。
「ちゃんと食べてるのかよー、ってどらごん君が心配していましたよ」
ボロボロの布から覗くエウレカくんの顔はいつも痩せた感じがあります。目だけはとても綺麗で、それがとても対照的に見えるのですけれど。そっと顔を触れると、長い旅からか古い傷がたくさんついていたり、耳が少し欠けていたりして、カラットさんはどきりとしてしまいます。
「ちゃんと食べて太ってくれないと食べられないじゃないかって言ってましたし〜、まだお料理はたくさんあるので食べた方がいいですよ!」
「そうよ。あ、私、お母様からお茶会向けにってお菓子や茶葉もいただいてきましたの。どうぞ召し上がって」
リリーさんが差し出した料理に、みんなはびっくり。たくさんの果物が色とりどりに散った大きな焼き菓子です。お空の星々にも負けないくらい豪華で、とっても良い香り。
「料理は食べるためにあるんだから、食べて食べて」
「そうですよー。食べることも幸せ一つだと思うですよ。みんなでお腹いっぱいなってお空を眺めるのもいいですから」
ローガンさんが持っていた青い鳥の羽根をもって微笑むのはラテリカさん。幸せを共有することの大切さを教えてくれたエウレカくんなんですから。
「そうですカ? それじゃいただきまス♪」
お祈り。そして。
がつがつがっ、ごきゅきゅきゅっ、もぐもぐもぐ、わっしゃわっしゃ、はむはむはむはむはむはむむはむはむはむ。
ごくん。
「ごちそうさまでした」
「はやっ!!!?」
思わずその勢いにみんな目が点になってしまいました。
「凄い勢いね。ロホ、ターニヤちゃんも一緒に食べたらどう?」
見ているだけで思わず笑みがこぼれそうになって、ラファエルさんがフェアリーさん達に声をかけました。
「そういえば、ブリッグルって何を食べるのかしら?」
「エレメントの中では、メイフェのように純粋な『力』に近い存在だから、特に食料を必要としたりはしないと思う。あるとすれば‥‥」
食べ物に飛びついたターニヤちゃんとロホくんと交代するように、ふわふわ舞っているのはセイルさんが飼っているメイフェのソルくんです。淡い光が二つ、螺旋階段を昇るように舞って不思議な光景。二つになったり一つになったり。星月夜に舞う光の舞に思わず皆見とれてしまいます
「あれ?」
「光が一つになっちゃった‥‥」
気がつけばソルくんの光だけが漂っています。パックくんの光は??
ソルくんは遊び相手が消えてしまって寂しくなったのか、ふわふわと皆のいるテーブルに戻ってきます。
「お月様の元に帰っちゃったですか?」
でもなんだか不意に消えて、あっけない感じ。
なんだか胸騒ぎ。
「ブリッグルの食べ物なんだが‥‥、人の恋心だという可能性がある。恋を実らせることで、幸せになるのはブリッグルの本能としてあるようだから、その幸せを糧にしているのかもな。キューピッドというのはあながち間違いでもないかもしれない」
「そすると、恋を隠してる方がいると、パックさんが頑張っちゃうかも知れないですね? えへへ、ラテリカは奥手な少女じゃないですからだいじょぶです」
「私も奥手な恋心抱いた少年‥‥でもないから困らない気がするし」
ラファエルさんも苦笑して言います。
「あら、それじゃ私は危険かもしれませんわ‥‥」
「ここの整備中に、俺に声をかけてきた女に斧突き付けてたじゃないか」
セイルさんは思わずツッコミをいれてしまいます。
と、すると‥‥???
「あ、ソルくんに憑依したんだわ!! 狙いはミーネちゃんよ」
「えええええっ!!!? や、ち、ちょっっ!?」
「こっらぁぁぁ」
カラットさんがすぐ気がつき、隠し持っていたハリセンで一閃、ソルくんをミーネさんから引きはがします。油断も隙もありません。
「三日月お月様がとても明るいから、頑張ったのでしょか‥‥」
もしかして恋のシーンを見そうになったのかも、と思うとラテリカさんもちょっとドキドキしてしまいました。
ドキドキさせた張本人のパックくんはソルくんから出てくると、なんだかさっきより元気そように跳ねながら飛び回っています。
「油断も隙もないな‥‥月に本格的に帰らせる方法を検討した方がいいかもしれない。もうすぐ月道も開くし、それを利用するべきか‥‥」
ローガンさんの言葉にラテリカさんが手を挙げます。
「今、すごく跳ねているですから、この気持ちをそのまま弾ませてあげれば、きっとお空まで飛んでいるです」
そういうとラテリカさんは、手拍子をうちながら、言葉を音符にしてパックくんに語りかけます。
すると、パックくんもひよよよーん、と高く跳ねます。気持ちがそのまま動きに現れているようです。ローガンさんはそれを悟ると、オカリナを取りだし優しい音色で伴奏します。
「ロホ、できるだけ上まで一緒について行ってあげるのよ」
ラファエルさんはお菓子の欠片を顔一杯に付けながら一緒に踊るロホに囁きます。
「なんか変なことになったな‥‥茶会っていうのはこんなものか?」
「うふふ、ハプニングはつきものですわ」
リリーさんとセイルさんは手拍子で。
「鳴らす物、鳴らす物‥‥これでいいかな」
カラットさんはハリセンならして。
恋をしたなら 幸せの踊りをしましょう。
ねえ、あなたと手を取り 軽やかステップ
今しか踊れないわ あの月が空に輝く間だけ。
ロホくん、ターニヤちゃん、ソルくん。
みんなが輪になってパックくんをお見送り。どんどん踊りは天高く、歌声もどんどん空彼方。
やがてパックくんは月の光に誘われて、月の光にとけこむようにして三日月の中に帰って行きました。
その後、その広場が何故か両思いになれるデートスポットとして、パリの人達に噂されるようになった、ということです。