紡がれる人(モンタージュ)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2008年02月02日

●オープニング

「あの、ここにソレイルさんという方はいらっしゃいますか? 騎士をされている30代ぐらいの男性なんですが」
 そんな質問をしてきたのはまだ成人もしていないであろう少年であった。何度も当て繕った服は土で汚れていたし、この時期でも微かに干し草の香りが漂ってくる。冒険者や旅仲間を探している、という感じには見えない。
 冒険者ギルドというのは、簡単に言えば互助団体のようなようなものだ。冒険者がその職務を全うに、そして円滑に進めることができるようにと設立されたものだ。もちろんメインは職の斡旋とそれに関わる事務が中心であるが、それ以外にも仕事はある。その中の一つが、冒険者の照会。
 家族や友人、また衛士達が特定の冒険者を探し求めている場合、こうしてギルドを通して面会できるように取りなしてあげるのだ。シフール便でもやりとりはできることでもあるが、彼らは手紙を運ぶだけであって、その他、相手がどんな様子であったとか、どこにいるのかなどを教えるようなことはしていない。
 少年もどうやらその目的でギルドの受付に立っているようであった。
「ソレイルさんね。30代で、騎士で‥‥。失礼ですが、どんなご関係?」
「僕、ソレイルさんに助けてもらったんです。山賊が僕たちの村に襲ってくるっていう事件があったんですけれど、町の人が反撃しようとした時、盗賊の一人が僕を人質にしたんです。それを救ってくれたのがソレイルさんで」
 受付員は町を襲う山賊を退治してくれという依頼があったことを思い出した。町の人を何人か人質にして危険な状態であった。確か、その緊迫した状況を打開したのは。
「代わりに私が人質になる、って言ってくれたソレイルさんがいなければ僕はもう死んでいました。その時、僕はひどい怪我で意識が無くって。お礼の一つも言えなかったんです」
 なるほど。嘘は言っているようではないし、受付員の記憶にも当てはまる部分がある。
 受付員はソレイルのことを思い出して、少しの間口をつぐんだ。
「ソレイルさんはここにいたけれど、今は遠いところにいっているんだ」
「そ、そうですか」
 残念がる少年を目の前にして、受付員は澄ました顔で、残念だったね。と小さく言った。
 それ以外の顔はできそうになかった。
 少年というものは、人をよく見ている。嘘をついているか、そうでないかくらい見破ってしまいそうだから。
「あ、あの、ソレイルさんという人はどんな人なんでしょう?」
「立派な人だよ。よく彼を知っている人はみんなそう言う」
 その言葉は正確ではない。受付員の心が騒いだ。
 立派な人、だった。だ。
「そうなんですか‥‥あの」
 ソレイルを知っている人がいて、その人物が現実のものだと認識できる喜びを少年は抱きしめている。
 だからこそいえないのだ。
 彼はもうこの世にいないということを。もう一人の心がわめくようにして、真実を語れという自分を押し倒す。
「詳しいことは私もよく知らないんだ」
「それなら、ソレイルさんのこともっと教えてくれる人いませんか?」
 ほら、嘘はつけない。
 君は彼の結末を知っている。しかもそれほど古い話ではない。
 真実を少年に伝えるべきだ。さぁ。
 彼はこの世にいないということを。自己犠牲の過ぎた彼は仲間の反感を買い、モンスターを目の前にして見捨てられたことを。そして口にするには忍びない最期を迎えたということ。
 記録文は今の出来事のように彼の最期を語る。


 なんだあのモンスターはっ。まるで歯がたたねぇっ。ここは一度立て直すべきだぜ。

「ダメだ。私たちが逃げれば、この先にいる人々が襲われるっ」

 そんなこと言っている場合? あたし達が逃げなきゃ誰があんな化け物のことを伝えられるのよ。

「目の前の生命を見捨てることなんてできない」

 あなたはいつもそれ。自分の生命を粗末にするのは勝手だけど、こっちの迷惑も考えなさいよ!!

 もういい、ほっとけよ。どうせ一度決めたら絶対にいうこときかねぇんだ。ソレイル。行くなら一人で行け。俺達は応援を呼ぶ。

「わかった‥‥応援、待っているぞ」


 ‥‥こンの、馬鹿野郎っ!!!!!!

 

「おじさん?」
 のぞき込む水晶のような瞳がとても綺麗で。
 葛藤する自分には眩しすぎる存在だった。
「あ、すまない。ともかく私からは何も言えないんだ。誰が詳しいのかもよく分からない」
「それじゃ、ここで冒険者の人に聞きます。僕は助けてくれた人のことを知りたい。そしてそんな人のようになり、同じ志をもって歩きたい」
 少年は強くそういうと、ギルドに姿を現した冒険者に声をかけ始めた。

 ソレイルさんのこと知っていますか?
 どんな人ですか? どんな姿をしていたのでしょう?
 どんなことでもいいから、教えてください。

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9589 ポーレット・モラン(30歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

エセ・アンリィ(eb5757

●リプレイ本文

紡がれる人(モンタージュ)

●生い立ち
 記録者:サーシャ・トール(ec2830)

「ソレイルさんのことを調べてくれたんですか? ありがとうございます」

 少しだけ、だけれどね。一人で調べるのは大変だろうから。
 ソレイル氏は、このパリに住んでいる騎士だったから、その生家から彼の生い立ちを聞くことができたよ。

「あ、少し待ってください。‥‥ソレイルさんのことを知ることができると思うと、ドキドキして」

 大丈夫かい?

「はい。大丈夫です。 お願いします」

 名前はソレイル・ランカスター。ソレイルは太陽という意味を込めて。
 貴族に仕える騎士の家系で兄弟は5人。その長男なんだ。本当はソレイル氏自身も仕える人生を歩むべく、小さな頃から騎士としての修行をずっと積んできたらしい。また、一家の長男として、色々要望されるものも多かったようだね。だけれど、彼はその責任を果たし、弟妹想いの青年になったらしい。

「僕と同じだ。あ、兄弟がいて一番上で‥‥でも、ソレイルさんと一緒にしちゃいけませんよね。僕の所は田舎の農家だし」

 気にすることはないんじゃないかな。どういう意志や希望を持っていたのかには生まれとかそういうものに隔たりはないと思う。
 進んで人のために自分を投げ出す性格はこのあたりから育ったようだね。
 騎士とはいえ、あまり裕福な家庭でなかったけれど、その分立派な騎士への憧れが強くあったようだ。弟妹家族を支えていくために、そしてそんな自分がなるべき姿として。
 彼はそのまま騎士となり、仕える予定であった貴族の元で、忠臣として仕えたんだ。その人たちにも話を聞くことが出来たけれど、本当に四六時中しゃんと背をはって、どんな行動も騎士道から外れない人だったって。立派すぎて近寄りがたい感じがあったみたいね。

「あれ、彼は冒険者として活躍されていたんじゃ‥‥」

 転機がおきたのは28歳の時。
 仕えるはずの貴族が没落してしまったんだそうだ。それで仕えるべき主を失って、それから冒険者に転職したそうだよ。
 最初の依頼は簡単な護衛依頼だったみたいだけど、ソレイル氏は一睡もせずに護衛し続けたっていうことで仲間から驚かれたんだそうだ。

「とても意志の固い人だったんですね」

 そうかもしれない。
 ソレイル氏の騎士としての師匠でもある彼のお父さんからコーディーさん宛にメッセージがあるよ。
「己に克つこと」
 ソレイル氏は我欲を極力捨てて、人助けの道を進んだといえるけれど、きっとコーディーさんには違うことを指していると思う。諦めないで。そして、ソレイル氏の目指した道を進むなら、目に見えるものだけでなく、その有り様を意識すること、だと思う。

「はい、ありがとうございました」


●彼が助けた人々
 記録者:ローガン・カーティス(eb3087)

「よ、よろしくお願いします」

 騎士ソレイルには偉大なる騎士と共にいた。どんな時でも彼はその騎士を見倣い、そして模範とした。
 仕えるべき主を失った騎士ソレイルは、その時、いくつもの道があった。彼は有能だったから、仕えて欲しいとお願いする貴族もいたし、親も家に戻ってきてほしいとも。
 迷ったとき、偉大な騎士はヒントをくれた。主人を亡くしたからといって、そのまま誰かの元に行くのが礼を重んじる騎士たるものか。と。
 その言葉を聞いてソレイル殿は新たな道を自分で模索することに決めたのだった。
 ところが、ソレイル殿はどうやって新しい道を探し出せばいいのか、皆目見当がつかなかった。騎士として仕える身では自分の道を探す旅なんて考える必要がなかったからね。
 他の人の要請を断ったばかりに、迂闊に他の人に相談することもできなかった。自分で街に出て、歩き回ったこともあったそうだ。普段知っている街も目的や立場が変われば全く違って見える。

「偉大な騎士さまは教えてくれなかったんですか」

 そういうものは自分で探すものだからね。ヒントはなかったみたいだ。
 ソレイル殿は街を歩き回り、色々な物を見て回り、聞いて回り、肌で感じようと決心した。
 しかし、彼は実直、というか、木訥というか。困っている人を放っておけないタイプはそうして見聞を広めると、大抵困った事に直面する物だ。

「悪い人が?」

 そう、彼を騙そうとやってきたんだ。
 しかし、ソレイル殿は‥‥全く騙されていることすら気づかずにお金を工面しようとしていた。しかし、ただ助けるだけが、騎士の助けとはいわない。弱者を助けるとはいえ、それ相応の努力も相手に課したという。
 冒険者ギルドで、共に山賊退治をしよう。とかね。騙そうとしていた人もびっくりだ。まさか山賊退治に誘われるとは思ってもみなかった。
 そこで初めて、彼は冒険者ギルド、そして冒険者の仲間達と出会うことができた。そして彼が騙されているのをうまく助けたのもこの仲間達だった。
 そんな彼らと出会って、ソレイル殿も大きく世界が広がったのだろう。今まで頼りにしてきた偉大なる騎士の声を聞く機会は減ってきたのだそうだ。

「偉大なる騎士さまに何かあったんですか?」

 仕えるべき主を捜し求めての冒険だったが、それも数年して変化を迎えた。自らの模範となるべき理想像に問いかけなくても、答えが自然に見いだせるようになったからだ。
 彼はようやく、一人の人間として歩き出したといえるだろう。


●彼の夢
 記録者:アンドリー・フィルス(ec0129)

「あ、あの、あの、大丈夫ですか?」

 むむ、大丈夫だ。歳のせいか涙腺がもろくなる。

「あの、良かったらこれ‥‥」

 かたじけない。
 ああ、そうだ、ソレイル殿の話であったな。
 今までソレイル殿の出生や、どんな人物であったかについては聞いてくれたか。

「はい。とても真っ直ぐな人だと感じました。でも、ローガンさんが教えてくれた物語では答えが自分で見いだせるようになったとか‥‥答えってなんなのでしょう」

 小さいときに立派な騎士に憧れを抱いていた。

「はい、ソレイルさんはその思い通りに立派な騎士だと思います」

 だが、彼自身も、立派な騎士というものがどういうものなのか、確信を持ち続けていた時間は短いように思うのだ。
 人を助けるのが騎士か。仕えるべき人の剣となり盾となるのが騎士か。それらが相反する場合はどうするのか。そんな想いがいつもグルグルと巡っていたようだ。
 少年はどんな騎士が立派な騎士だと思う?

「えと、多くの人を守れる人‥‥」

 多くの人を守るためには目の前の一人を見捨てるべきか?
 と、ソレイル殿も悩み続けていたようだ。彼は冒険者街に住んでいた。そこには大量の騎士に関する書物があったという。また、詩人に出会えば有名な騎士の逸話を必ず頼んだという。
 騎士をひたすら目指しているから。と多くの人は語っていたが、ソレイル殿の仲間の一人は違うと言っていた。何が一番良いのか、何が一番望みに叶うのか。常に苦慮していたようだ。だから、様々な書物を読み、常に騎士の物語に耳を傾けていたのだという。
 最後に答えを見いだしたというのは、その答えが解決したことを意味している。

「答えって‥‥?」

 目の前の出来事に命を賭ける。全力を尽くす。
 まだ見えぬ後先を怖れて躊躇しない。名誉と体裁にこだわらない。
 騎士はなるモノではなく、人から認められてそう呼ばれるものだと。自覚したのではないかな。
 そしてもう一つは少年に伝えたいことは、彼の心は君にも受け継がれているということを教えてあげたいと思う。生きとし生けるものは凡て死ぬ。でも、想いは人の心に残って伝えられまた生き続ける。
 意思は意志となり、遺志となって継がれていく。君はそれを継いでいる。



●最期
 記録者:ウェルス・サルヴィウス(ea1787)

 様々な想いと共に心にとめています
 あの方の歩まれた姿と命を
 この少年にも伝えることができるよう
 主よお導きを

「ええと、姿と命って‥‥?」

 お聞き下さい。
 ソレイルさんはもうこの世にはいらっしゃいません。

「ええっ? そ、そんな。だってギルドのおじさんは遠くにって‥‥そんな。そんな‥‥」

 ‥‥どうか、お気を確かにください。
 ですが、彼は単に消え去っただけではありません。
 彼が大切にされた人々、彼を大切に思った人々、そして勿論あなたの中にも。彼は生きています。

「‥‥‥分かっています」

 こうしてお話しをお聞きになろうとするのも、あなたの中のソレイルさんが確かに生きていることを、実感するためではありませんか?

「はい。すみません。取り乱して。‥‥話していただけますか? ソレイルさんの、最期‥‥。全部、聞かせて下さい」

 ソイレルさんはモンスターの被害が報告されている村へ仲間と一緒に赴きました。
 ですが、モンスターは彼らを狙っていたかのように道すがらで強襲を受け、あわや全滅の危機まで追い込まれたそうです。一端、引き返そうという提案がありましたが、ソイレルさんは先にある村の人達を思い、決して引き下がろうとはしませんでした。
 モンスターにも手傷を負わせていたからです。
 手負いになると、人も獣も怪物も見境が無くなります。獰猛なモンスターが逆上して村を襲うに違いない。そしてその血と肉を自らの血と肉にしようとする行動を少しでも止めたかったのでしょう。
 ソレイルさんは残り、そして他の仲間の方々は一端退却しました。

「それじゃ、ソレイルさんは‥‥」

 仲間達が増援を連れて、モンスターを討ち取った時、喉元に剣が刺さっていたとのことです。
 私には互いが互いの在り方を貫いたこと。そのどちらの気持ちも尊いと思っています。
 応援を呼ぶ人がいたからこそモンスターは倒され、ソレイルさんはそれを信じたはずです。互いに互いを信じていました。これを信頼というものだと私は思っています。
 仲間の方々からもお話を聞きました。
 深く悔いている言葉も聞かれました。ですが、その根底では互いの在り方を認めあった結果であり、互いを尊重した結果だと受け止めているようでした。
 私も冒険をしています。今日、あなたの前に、ソレイルさんのことをお話しするという依頼を受けて今ここにいるように。
 他にも冒険者として活動をしています。ソレイルさんのように、命の危険や人としての尊厳を脅かされる危機に直面することもあります。その中で、自分の命を賭すこともありました。
 今回、ソレイルさん、そして彼の仲間の方々から、私と私を助けてくださる方々のこと、その命と魂の重みを、改めて考えさせられました。

 ‥‥人の心は移ろいやすいもの。その中でも変わらぬものを共有し、それができなくても倣っていきたい。
 主よ。お導きを。


●メッセージを。
 記録者:ポーレット・モラン(ea9589)

「これがソレイル、さん‥‥」

 歳は40間近頃だろうか。壮年の男性がそこにいた。
 目は真っ直ぐと射抜くようにこちらを向いており、対面する少年の息を詰まらせるほどであった。
 白い物が混じり始めた髪はやや長く、後ろに流していた。同じような色をした髭は口の周りから顎へと繋がり、どことなく落ちぶれた印象を与えたが、元の育ちの良さは透けて見えた。
 彼が悩み続けた騎士。
 数奇な運命を辿った騎士。
 少年をここまで導いた。

 少年はしばらく息すらするのも忘れたようにして、その絵姿を眺めた。今までの想い、そして聞き入っていたたくさんの話が、この絵姿を通して、何かが心の中で結実していくようであった。
 身につけている鎧は傷だらけでボロボロだった。少しへしゃげてもいた。それだけ彼は傷を負い、それだけ何かを守ってきたのだ。

 少年が少し絵を持ち直すと、その背にメッセージが書かれていたことに気がついた。


少年よ。
ひと時逢ったきりの私の事を想い出してくれた事。
嬉しく思う。

知っての通り、私は既にこの世ではなくセーラ神の御許に居る。
あの場に留まった事は一片たりとも後悔していない。
怪物に親を殺された子供達を始めとした村人を放って置けなかったからだ。

だが、今。
私は自分の行いが仲間と家族の心に深い傷を残した事を知った。
私は自分に酔い、自身の技量の未熟さを、騎士道という名目で包み隠し、死んだのだ。

少年よ。
他人の孤独、苦しみ、哀しみを自分の事のように想うは大切なこと。

だが。
私のような、自分を想ってくれた人達の心を無にして意志を貫いた者を目指してはいけないよ。

君は、君になりなさい。


 少年はしばらくの間、そこから動けなかった。


●墓前にて

 その墓はとても綺麗だった。
 貴族の墓のようにとても豪華絢爛というわけでもなく、数多くの偉人のように偉業を讃えるものがあるわけでもない。
 どこにでもあるような。そしてその隣にあるしがない農夫の墓となんら代わりのないとても質素な墓であった。だが、綺麗だ。
 掃き清められた地に季節の花と餞が供えられている。どれもくたびれた様子はなく、つい最近上げられたものだということがわかる。墓碑もよく磨かれていて、まるで昨日今日亡くなったのではないかと錯覚させた。正面にはポーレットが描いてくれた肖像画が。それだけ、ソレイルが多くの人の心で生きているのだということを知らしめていた。
 今日は特に。彼と共に死線をくぐり抜けた仲間も静かに頭を垂れていたし、ローガンが鎮魂歌を奏で静かに流れる空気に浄めていた。ウェルスは祈る者として弔問の先達としての役割を果たしていた。

 そんな中に少年は立ち尽くしていた。

「ソレイルさん」
 少年もまた花を供え、静かに祈りを捧げた後、そう語りかけた。
「あなたにようやくお礼を言うことができますね」
 ポーレットから貰った手紙を胸に当てて、少年は静かに目を閉じた。
「少年、君は何になりたいのかな」
 サーシャに問いかけられた少年はゆっくりと呼吸しそして言った。
「あなたの意思に触れることができました。私はそれを志として進みたいと思います。あなたのようにはなれないけれど、自分に与えてくれたその光を自分のものとして暗闇に彷徨う誰かを照らしてあげたい。そう思うのです」
 冒険者の言葉を少しずつ、彼なりに受け止め、そして見つけた答えがそれだった。
「君が思えば、なんだってできるよ」
 アンドリーは微笑んでそう言った。
 少年は心から神様にソレイルに出会えたことと、そしてそれを伝えてくれる冒険者が今回出会えた人々であったことを心底良かったと思った。
 きっと、他の誰かなら、少年は後追い自殺をするような盲目的に自己犠牲を求める人間に成っていたかも知れない。
 生きる意味、それを受け取りつなげていく意味を、教えてくれた。なかなか自分一人では、また単純にその過程だけではそこまで悟れなかっただろう。

 メッセージをありがとう。紡がれる人よ。

 新たな騎士はこれから人生を紡ぎ出す。