空色の奉仕(おそうじ)

■ショートシナリオ&プロモート


担当:DOLLer

対応レベル:1〜4lv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2005年08月17日

●オープニング

 その『白』の教会は新しいシスターのおかげでちょっとした騒ぎとなっていた。
 彼女の名前はユーリ。とても明るく元気な彼女は人を救うために毎日いろいろなことを試している。
「今日はですね。町に行ってセーラ様のお話をして参ります!」
そういっては広場で大演説を行い、お咎めを受け。またある日は。
「今日はですね。食べ物を得ることができない人のために炊き出しをしたいと思います」
 といって、冒険者を巻き込んで、突然の炊き出しを開始したり。
 そんなとても微笑ましい努力は同胞の心配を積もらせる一方、確かに人々の心を掴みつつあった。費用と効果は著しく釣り合っていなかったが。
 そんな彼女が今日も元気に炊き出しへと出発したのがつい先刻。
 しかし、彼女は真っ青な顔をして戻ってきたのであった。
「おや、どうかしたのですか?」
「申し訳ありません。初志貫徹が望ましいことは分かっているつもりです。でもでも! 今日はお掃除をさせて下さいっ」
 言うが早いか否か、彼女は教会備え付けの掃除用具置き場にダッシュしようとした。
 しかし、彼女の暴走にも免疫ができつつあるクレリックのこと、即座に襟首をぎゅっと掴みその行動を制止させた。急ブレーキがかかって首が折れそうになり、潰れた声が聞こえても、クレリックは笑顔を崩さない。
「まぁ、落ち着きなさい」
「ぐるじいでず‥‥げふ」

「通りが汚い?」
「ええ、すごいんです。もう」
 ユーリを何とか落ち着かせ、掃除をしようという理由を問いただしたところ、出てきた言葉がこれだった。
 確かに毎日掃除をしている教会に比べれば、ストリートは綺麗ではないだろうが、堪えられないほど非道いはずがない。だいたいにして、ユーリも買い物に出かけたりしているのだから、今更汚いというのもおかしな話である。
「前回は公園で炊き出しをさせていただきましたが、他にできそうな場所を探していたら、道の至る所のゴミが目に入って‥‥ああ、思い出すだけで背筋が凍ります」
 身を震わせるユーリ。
「それで掃除というわけですね」
「はい。心の掃除は街の掃除からであります! ゴミがある状態を普通に思っていてはいけません」
 確かに、心の安寧は心のあり方と環境が相互に依存するという考え方はある。彼女の論理は間違っていないが、どうしてユーリがしようとすると際限なく不安が広がるのだろう、とクレリックは考えた。
「それでどこを具体的に掃除するのですか?」
「街全部です!!」
「却下」
 即答。
 あまりの速さに、さすがのユーリも言葉を無くして口をパクパクさせる。
「掃除屋に転職するなら止めはしませんが、街を掃除して回るだけで何日かかると思っているのです。それに街には治安の悪いところもありますし、あなたがやたらと立ち入ることのできない場所もあります。あなたが掃除していれば必ずやそういう場所に踏み込んでしまうでしょう」
「そんなこと‥‥」
 じろ。
「ありますね?」
「‥‥あります」
 有無を言わさぬ声に、ユーリは認めざるを得なかった。ちゃんと自分が行き過ぎることがあることを自覚しているらしい。しばらく唸っていたユーリだったが、ある程度考えがまとまったのか、顔を上げたかと思うと真摯な声で改めてお願いをした。
「じゃあ、公園だけでもさせて下さい。炊き出しするためにも、公園の衛生は保ちたいと思いますし、公園の美化は心の美化につながります」
「それならよろしいでしょう。ですが、あなただけが掃除して自己満足して終えることがないように。人が生きる限りどんな空間でも汚れるものです。続くことこそが尊いと思って、掃除をさせてもらうのですよ」
 クレリックはやや安心したトーンで、ユーリにそう告げた。そして頑張ってきなさい、とも。
「はい、頑張ってきます!」
 彼女の笑顔は幸せそうだった。

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea9108 サーリィ・シャーウット(36歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 eb2482 ラシェル・ラファエラ(31歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb3039 リディアローザ・ロイ・ルシエール(15歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「ユーリ、また何かやらかすんじゃないわよね?」
 ラシェル・ラファエラ(eb2482)はユーリから掃除用具を受け取りながら、そう尋ねた。以前にもユーリの奉仕活動に参加しているラシェルは、ユーリがまたロクでもないことをしようとしている、と思えてならなかった。
 だって、「白」の最終兵器と呼ばれる彼女だもの‥‥不安は募るばかりだ。
 だが、ユーリはきりっとまじめな顔をして返答したのであった。
「大丈夫です! 今日は公園のお掃除をするだけです。公共の場の美観を保つのは、人々の心に安らぎを与える一因となるのです。綺麗に綺麗に綺麗にして、天国な公園を目指しますよ!」
「天国‥‥?」
 やる気だけは十二分に伝わってくるのだが、妙な不安感を覚えるのは何故だろう。
 こいつぁ、何かある、とラシェルの中に、警戒信号が点った。
「それじゃ、みんなひとかたまりになって掃除しましょう。バラバラよりはまとまって徹底的にキレイにした方がいいでしょう?」
 暴走を一人では止められる自信を持てず、ラシェルは思いついたかのように提案した。
「あ、そうですね。それは名案です。ゴミと徹底抗戦しましょう! おー!!」
 一人でかなり盛り上がっているユーリに言いようのない不安を覚えるのはラシェルだけではなかった。ウェルス・サルヴィウス(ea1787)も元気フル回転のユーリの姿に苦笑混じりの笑顔を浮かべていた。
「ユーリさんのお気持ちと行動力には頭が下がります」
 と言いつつも、確かに、少し危なっかしいところはあるようですが‥‥と、思わずにはいられない。
「私は特別なことは何もできませんので、普通に掃除をさせていただきたいと思うのですが、他に何かお手伝いができそうなことはありますか?」
「それじゃ、ウェルスさんには牛を借りてきていただけますか?」
「牛‥‥ですか?」
 牛というと、あの体の大きい草食動物のことだろうか。どこから借りるというのでしょう? そもそも借りられるものなのでしょうか?
 予想外の出来事にに、戸惑った声を覚えるウェルスだが、ユーリは全く気にしない。
「はい、ぼさぼさの芝生を全部食べて貰うためにですよ。あっという間に芝生は綺麗になりますよー」
「ユーリ。それは綺麗になるんじゃなくて、残らず食べられるだけだと思うわ」
 後ろから素早くラシェルのツッコミが入る。
「ええ!? ダメですか? 名案だと思ったんですけど」
「そうですね。それに一度家畜が入っていたら、他の人も真似するかもしれませんし、何よりも公園に訪れた人々はいい気持ちしないでしょう」
 そもそも公園を放牧地にするということ自体不可能だろう、とは思いつつも、ウェルスはできるだけ穏便に納得してもらえるよう、言葉を選んでユーリに語りかけた。
「それもそうですね。わかりました。それじゃ普通に刈りましょう‥‥あとはゴミ拾いですね。よろしくお願いします」
「はい、かしこまりました」
 きっちり諦めて方向転換をしたユーリの様子にウェルスは小さな安堵のため息をつきつつ、掃除を開始したのであった。

●掃除と暑さ対策
 異常、とは言わないまでも、夏の暑さもピークの時季だ。日中の日差しは強烈だし、道の砂も焼けていて、触れると火傷しそうな熱さになっている。
「あっついねー。根を詰めちゃうと倒れちゃうよー」
 サーリィ・シャーウット(ea9108)は熱さ対策にマントを頭に被せながら、ゴミを集めに回っていた。
 一見すると、大したゴミはないように思われる公園であったが、注意して探してみれば結構な量があることが判明した。食べかすや使い物にならなくなった道具の部品など、至る所に点在していた。それを一つ一つサーリィは拾い集めていく。
「お掃除〜、お掃除〜、楽しいな〜♪ 綺麗になったら嬉しいな〜♪」
 歌のリズムにあわせてゴミは袋の中に消えてゆく。なかなかいい調子だ。
「お掃除〜、お掃除〜、楽しいな〜♪」
 それと同時に、今度は犬の鳴き声で相槌がはいる。おや?と顔を上げると、二匹の愛犬を連れたエプロンドレス姿のリディアローザ・ロイ・ルシエール(eb3039)も近くで掃除していたのであった。彼女は箒を持って道を掃き清め、愛犬アルとイーはその周りを楽しそうに走り回っていた。
 暑さもすがすがしさに変わってしまうそんな様子をサーリィが眺めていると、リディアローザもそれに気づいたのか、視線がぴたりとあった。
「お掃除はかどってる〜?」
「大丈夫です。お掃除は好きですから」
 リディアローザは小さく微笑んで答えたものの、暑さで疲労しているのを少し感じていた。できるだけ通気の良い丈の短いエプロンドレスを選んだもののハーフエルフであることを隠すために、耳は両サイドをリボンで結んでいるのが、暑さを感じさせる原因だろう。
「大丈夫? 宜休憩しながらお掃除しようよ。暑いから、適度に休憩した方がいいよー」
「ご心配かけてしまって、ごめんなさい」
「暑いのは避けられないし、仕方ないよ。あ、向こうの木陰にテントを立てているから、そこでちょっと休んだらどうかな?」
 それでも少し申し訳ない気が先に立つリディアローザは、それを固辞しようとしたが、ふと思い直して、柔らかに微笑んで申し出を受け入れた。
「ありがとうございます。そこで私ができることをしてみようと思います。アル、イー、行こう」
 アルとイーの元気な鳴き声が返事として返ってくると、リディアローザはテントのある方向へと歩みを進めた。
「やっぱり暑いときの掃除は大変だねー」
 そう言いいつつ、リディアローザを見送ると、サーリィは再びゴミ拾いを再開しようとした。
「あれ、袋が一杯になってる??」
 先ほどまではまだ幾ばくかの余裕があったはずの袋は、いまや完全にあふれかえっていた。しかし、よく見れば、ゴミでもないようなものまで一緒になって放り込まれているような気がするのだが‥‥?
 サーリィが首を傾げていると、ふと、横から悲鳴じみたやりとりが聞こえてきた。
「ユーリさん、それはゴミじゃありませんよ」
「公園の美観を損ねるものは全部ごみでえぇぇす」
 そこには、案内の立て札を引き抜こうとしているユーリと、制止しようとしているウェルスの姿があった。ユーリのそばに他にも色んなアイテムが落ちているところをみると、袋をいっぱいにした犯人はどうやら彼女のようであった。
「すみません、サーリィさん。少しお手伝いいただけませんか? ユーリさんが暑さでやられてしまったみたいなのんです」
「あらまぁ。ユーリさん、やっぱり根を詰めすぎちゃったんだね〜」
 見れば確かにユーリの目はぐるぐると回っていた。
「とりあえず、テントまで運ぼうか?」
「お手数かけます」
 サーリィは苦笑いを浮かべながら、ウェルスと共にユーリをテントまで運ぶのであった。
「ユーリさんの行動力には驚いていたのですが、なんだかどんどんエスカレートしていかれたので、つい‥‥」
「暑いから仕方ないよー。でも、お掃除する人が減っちゃったね。後で、歌いながら、手伝ってくれる人を募集してみるよっ。
 公園はみんなの場所〜、みんなで綺麗にするとみんなが喜ぶ〜、心の優しい人お願いします〜、一緒にお掃除頑張ろう〜、お掃除すれば心も綺麗になっちゃうよ〜♪」
 即興の曲を歌いながら、よいさよいさ、とユーリを運ぶサーリィの歌は、道行く人々の関心を買っているようではあったが、ウェルスは違う意味の視線が集まっているような気がして、少し恥ずかしかった。

●炊き出し
 特に暑さの酷くなる昼下がり、一同はテントやその木陰で休憩をしていた。虫の鳴き声こそ元気なものの、その他は動物一匹、人一人、日向で活動するという気にはなれない。そんな暑さである。
「みなさん、大丈夫ですか? お昼ご飯ができましたので、召し上がってください」
 リディアローザが腰を下ろす面々に向かって、声をかけた。彼女の背後からは、漂ってくる香りはさっぱりとしたスープのものだ。
「腐りやすいから、パンとワインくらいしかできないかな、と思ったんだけど、リディアローザのおかげで、冷製スープもできたわ」
 食器の準備をしているのは、ラシェルだ。今回の炊き出しの主な食料を提供してくれた彼女とリディアローザの精魂込めた料理により、簡素な昼食だったものは、随分と華やかさを感じさせた。
 川の流れで冷やしていたスープの鍋を、皆の待つテントへ運んできたリディアローザは辺りを見回した。
 そういえば確か参加者は自分を含めて5人だったはずなのに。
「おいしそー」
「こら、順番は守らないといけませんよ」
 気がつけば人はその倍以上に増えていた。一様に土埃にまみれ、汗をいっぱいかいていて、充足感に満ちた表情を浮かべているのは確かに、清掃奉仕を手伝ってくださった人々だ。
「三味線で、みんなでお掃除しよー♪ って歌ったら手伝ってくれる人ができたんだよー」
「子どもたちに、文字などを教え始めてしていましたら、彼らも掃除をお手伝いしていただけることになりまして」
 ウェルスは背中や腕にしがみついて離れない子供達に囲まれて、困ったような顔をしていた。触れあいにあまり慣れていないのか、困惑しきりだが、子供達はいっこうに気にした様子もなく、楽しそうである。
「あまりたくさんは食べられないかもしれませんが、皆さんの分はちゃんとありますからね」
 公園での小さなお食事会は、皆満面の笑みを浮かべて幸せそうであった。その様子を見て、ラシェルが呟く。
「掃除をしてさっぱりした中で頂くご飯の味は格別ね」
「心の掃除は、ゴミ拾いから、とユーリさんはおっしゃっていましたが、ごく普通のことなんですね。普通のことで、とても大切なこと‥‥」
 その言葉に応じて、リディアローザも満足そうに応えたのであった。