破魔の瞳(邪眼)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月12日〜01月17日
リプレイ公開日:2008年03月21日
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●オープニング
太陽は、未来をこっそり教えてくれた。
あの子はその力でデビルと苛烈な争いに身を置くようになる、と。
「ギギギっ!! テメェ、今更何のようだっ!!」
ネイルアトナードがその闇に一歩踏み込むと、敵意むき出しの声が飛んできた。金属をこすり合わせたような耳障りな音。そして、闇の一部から浮き上がるようにして赤い瞳が見据える。
「おや、随分な言い様でございますな」
「当然だっ! 我らはリディア様の僕。デビルじゃねぇ、デビノマニでもねぇ、契約すらしていないテメェなんか用はネェんだよ!!!」
口汚いののしりが続くが、ネイルアトナードはまるで気にした様子もなく、赤く光る目をゆらゆらと見渡した。
「とっくに塵となって魔界に戻った主を未だに慕うとは、健気でございますな」
「ンダトォ!!?」
一匹が首を突き出すようにして叫んだ。だが、それ以上は突っ込んでこない。実力のほどを知っているのだ。だからこうして壁をつくり、万が一の時には被害を分散させていつでも逃げる体勢を整えているのだ。ネイルアトナードは見るだけでこの雑魚達の心がどのようになっているか窺い知ることができた。
「聞きなされ」
ぎし。
美しい声色が闇中に染み渡りつつ響く。
水が冷やされて、氷となるように。闇を構成するデビル達を強ばらせ、縛り付ける。
「そなた達には力がある。今はまだ弱きけれど。あらゆる生命、あらゆる魔も最初は雪の下から現れた芽の如く小さなもの。
時を経て、機会を得て、芽は大樹へと成長する。主亡き今こそ機会。その手を血に染め、白き珠を奪いなされ。主より強くなった時。そなた達は服従するだけにあらず。力は降り注ぐ。大業、傲慢の名の下に」
針を刺すように向けられていた邪悪な視線が揺らいだ。
赤い目は変わらない。だが、その瞳に込められた思いは蕩けてしまい、自らの生んだ妄想の中にのめり込む。
ネイルアトナードはそして強く温かく闇にささやいた。
「町はずれの教会に、邪眼のルフィアがいます。彼女はまもなく萌芽の時を迎えます。今はシスターや冒険者の手に守られて、身を包ませているものの、いずれは邪悪を滅する強大な善たる戦士となるでしょう。堕としなさい。さもなければ引き裂きなさい。魔王はあなた達に褒美を与えるでしょう」
指向性を与えられた赤い瞳が強く輝いた。のし上がりたい、善を滅したい本能的な欲求が、ただ押し付けられ懊悩していた時の反動を得て解放されていく。
「ギギギギ!!!!」
「そうだ、奪え、殺せ」
「本能のままにっ!!!」
闇が一斉に羽ばたいた。数十もの翼が力強く上下し、魔力を得て飛散していく。
しばらくの騒乱の内、闇であった場所は本来の物静かな森に姿を戻していた。
「あのうちの一つでも、ルフィアに接触すればそれで良い。邪眼を得たきっかけのコボルト達の誘拐がデビルの意図も含んでいたことに直感するでょう。さすればそなたらが妾の言葉にきっかけを得たように、ルフィアもまた強力なデビルバスターとして目覚める。ふふふ、食らいあいなさい。そして終わらない善と悪の争いを続けなさい」
ネイルアトナードは婉然と微笑んだ。
●
「ミルドレッドお姉ちゃん」
ルフィアは同じ教会に寄宿するシスターミルドレッドにそう呼びかけた。
ここに来たときは、祖父を失ったショックと、コボルトに誘拐されたショックで光を失った左目を邪眼と忌まれ、言葉もまともに話さないような子だったのが。
ミルドレッドは、元気そうなその顔を見て、自然と頬が緩んだ。
ルフィアが両手で抱えるようにして差し出したのは、糊で固めた布で作られた鳥であった。その元になった布の大きさはきっとまだ成人でもないシフールの彼女には自分の身以上の大きさであっただろうに。額にへばりついた髪がその努力の跡を窺わせる。
「あら、オリヅル‥‥」
オリヅル。ジャパンの文化の一つだ。このツルという鳥が願いを叶えてくれるという話は、先日訪れたジャパンの娘から聞いたのを、ミルドレッドも知っていた。たぶんその時にルフィアは作り方を教えてもらったのだろう。
「お願い事を叶えてくれる鳥さんですよね。ルフィアさんは何かお願い事があるのでしょうか」
鶴を手に取り、ルフィアに顔を近づけて問いかけた。
「死んだ人の魂、この鶴に乗ってセーラ様の元に行って欲しいの。この目でたくさん殺しちゃったから、それだけ分作ろうと思うの」
そう。
ミルドレッドは目を細めて彼女の髪を撫でてあげた。
最初はそんなことを言えるほど心の余裕なんて無かった。殺意や拒否する心で相手を見つめるだけで死に至らしめる統制の効かない力に振り回されて、傷ついて、まともに顔を見てくれることもなかった。
だけれども。こんなにも成長したんだ。
邪眼の力はまだ消え去っていない。それ故に彼女は無意識に力を働かせないようにと言葉は少なく、感情の起伏もあまり豊かに表さない。でも、その一方で、こんなにも豊かな、人を思うことができるようになったことに喜びと驚き、そしてセーラ様の奇跡に感謝をした。
「ミルドレッドお姉ちゃん‥‥?」
「そうですね、きっと、きっと‥‥天に昇った人も、よろこんで、くださると‥‥」
それ以上は涙が詰まって言葉にできなかった。
人は変わるんだ。こんな小さな子でも。強くなれるんだ。
ミルドレッドはルフィアを撫でることも、鶴を持つこともできず、しばし、両手で顔を覆っていた。
歓喜にむせぶミルドレッドを見つめながら、ルフィアは薄ぼんやりと感じていた。
邪悪が迫っている。
この優しいシスターも、みんなを守ってくれる少し変わったもう一人のシスターも、お世話をしてくれた人達も、いい想い出も悪い想い出も、全てを奪って壊してしまう邪悪が迫っている。
瞳に宿っているのは亡霊。それも元英雄の、そしてルフィア自身の遠いご先祖様。
狂気に瀕したキロンは、力のみの存在となり、そしてその方向性はすべてルフィアの意志に任せた。もはや自分では敵味方の判断がつかないためだろう。
だからルフィアが滅したいと願う者に襲いかかる。敵意も、子供らしい反抗心も、強い悲しみも、怒りも、全部キロンはそれを殺害すべき敵だとして襲いかかる。その為、様々な人が彼女の周りから消えた。親代わりになってくれた祖父も、故郷の人々も。もうこの世には居ない。
でも、みんながそんな恐ろしい自分を守って、そして心のあり方教えてくれた。
今度は自分も守る側に立つんだ。
守ってくれる人たちはルフィアにとって大切な人だ。そんな人達を傷つくのを黙って見ていられない。
一緒に戦って、みんなと共に、みんなを守りたい。
「Lu F I A A Re y O u K i Ll th Em」
「y O u K i L l d eV Il w E mU s T Ki Ll t H E m aLl」
「y O u K i L l d eV Il w E H aV e E vI l Eyes」
●リプレイ本文
人は独りではないから
繋がりがあって ぬくもりがあって
それを繋ぐ愛があって
人は人と共に在る
教会襲撃。
その報に集った六名が、ひたすらに道を急いでいる。
中にはデビルの襲撃と聞いて駆けつけたアシャンティ・イントレピッド(ec2152)、ジル・ド・レ(ec1861)も含まれるが、他の四名は教会と縁がある。そこにいる人々の身を案じつつ、セブンリーグブーツで地を踏みしめていた。
ある意味通い慣れた道を辿っていた中で、最初に異変に気付いたのは大宗院奈々(eb0916)。愛馬の手綱を握り、セブンリーグブーツで進んでいた足を一瞬止め、彼方を見遣る。
その視線を追って、唯一愛馬に騎乗していたジルが目を細めたが、見えたのは薄い雲のようなもの。それも切れ端が漂っているような。
「なんだ?」
リンカ・ティニーブルー(ec1850)が問い掛ける。休みなしの強行軍がほんの少しばかりきつい辛いジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)と国乃木めい(ec0669)も視線を上げ、方角を確かめて眉をひそめる。
「デビルだ。姿が見えるだけで‥‥十五はいる」
奈々が薄い雲の正体を告げた。
時間はないという宣告に等しい。
六名が教会に到着したとき、雲とも見えたデビルの群れはその屋根に取り付こうとしていた。
「ちょうど二十」
奈々が数え直して、唸るように呟いた。教会の窓は堅く閉められていて、幾つかある入口も一つ二つを残して、開きにくいように細工していたようだ。
代わりに、それらの作業に従事していた人々が、空から現われた禍々しい群れにうろたえている。
「ここは任せろ。皆、中に入れ。出来るだけ奥にな」
リンカがデビルの群れから目を離さず、人々に告げた。彼女達でも、空を飛ぶデビルとやりあうのは難しい。それを何の武術の心得もない人々と共にでは、勝ち目などなかろう。それにリンカには、彼女個人の理由もある。乱戦は遠慮したい。
舌打ちしたい気持ちを堪えたのはジルで、人払いが出来なかったので気にすべきことが増えたと考えていた。教会といえど鉄壁の守りではなく、その中の人々を守るのは言うほど容易いことではない。
なにより、姿を消したデビルにそそのかされ、操られたりするものが現われたり、この先の様子を目撃してうろたえ騒ぐ輩が出て、そちらに気を取られることは避けたい。いま少し時間があれば、きっちりと言い聞かせて家路を辿らせられたろうに。
良く知るが故に、こちらの言いたいことを少ない言葉で察してくれるほんの数人を守るのと、顔もろくに知らぬ十数名を守るのは、あまりに危険度が違う。
だがバックパックを丸々教会から出てきた女性に投げ渡したアシャンティは、片目を器用に瞑って、こう言った。
「中のものは全部使っていいから。使い方はめいさん、よろしく」
叫ぶようにして、後は奈々の愛馬へとほんの数歩も走る。指し示された武器の封をしていた紐を解き、刀身だけを抜き出した。鞘ごと荷物から外している暇はない。
右の手に霞小太刀、左にマインゴーシュ、ナイトらしからぬ姿であろうと、気にしない。
その武装で、すでにジルが桃の木刀を構えた位置、デビルの群れが彼らを見下ろしている正面の入口近くに立ち塞がる。
「大丈夫。だいじょーぶ。冒険者の人が守ってくれるって言ってるんだから、信じようよ」
さあ、中に避難しようと呼びかける元気な声がして、うろたえていた人々が次々と入口をくぐっていく。なぜかデビルは、それらの人々を襲おうとはしない。
奴らが翼をはためかせ、歓喜とも取れる感情を露わにしたのは、入れ違いにシスターとシフールの少女が姿を見せた時。
「聖なる釘が二本あります。ルフィアさんを守って、結界を維持してください」
めいがアシャンティのバックパックを受け止めたミルドレットに早口で頼んだ。ユーリには中に逃げ込んだ人々の世話を。まとまって、出来るだけデビルが入りにくい場所にいて欲しい。
それは、ルフィアに対しても同じこと。危険などないところで、ことが済むのを待っていてくれればと願うのだが。
ミツケタと、だみ声が上がった。
ウバエ、コロセ、と。
それらの声は、まっすぐにルフィアを指していた。
聖なる釘を使っている暇がないと判断して、めいがホーリーフィールドを張る。
その白い輝きを目にして、デビルの半数が姿を消した。ジュヌヴィエーヴが唱えたのは、ディテクトアンデッド。姿を消していても、これでその位置を皆に伝えられる。
ただし、彼女は一人で、相手は十体だ。必ず間に合うとは限らないのは、誰もが承知のこと。
だから、ルフィアが狙いだというなら、一刻も早く安全なところへと思う者は多かったけれど、漏れ聞こえたのは正反対の言葉。
「私が中に行ったら、他の人があぶ、ない」
小さな身体を震わせながら、かすれた声が『逃げられない』と口にした。
でも、と重ねられた声はジュヌヴィエーヴとめいのもの。
「ルフィア、無理はしなくていいんだぞ。出来ることをきちんとやればいいんだから」
奈々も声を掛けるが、目はデビルの動きを追っている。見えないものの気配を追うことも、忘れてはいない。
その中で、ジルが発泡酒の樽を投げた。一瞬姿を見せたデビルを、木刀で叩き伏せる。
そうしながら、口にしたのは皆とは違う意見だ。
「本人が決めたことだ。後ろを向いている場合か。扉を閉めろ! シフールっ」
「ルフィアだ!」
名乗りあうこともままならなかったゆえの呼びかけに、リンカが噛み付いた。けれども行動は、入口目掛けて殺到しようとするデビルを射抜くこと。
「ルフィアか。思うことがあるなら、宣言してみるがいい。内に凝らせておいては、どんな思いも澱んでしまうよ」
皆が危ないから、中には戻らない。それならそれでもよい。ただそこに留まっているだけでも、奥の人々が少しでも安全になるだろう。そういう守り方もある。
ジルの語り掛けに押されたように、ルフィアがめいの顔を見返した。色違いの瞳が、涙を溜めている。
ぽろり。
零れたのは涙と、決意の言葉だ。
「ここにいる。皆を守りたい」
まだほんの僅かに開かれていた扉が、音を立てて閉められた。内側でユーリが人々に指示をしている声がかすかに届く。こんな時のため、扉の前に積む物を用意していたようだ。
これで中には逃げ込めない。
「私達がいいと言うまで、絶対に開けないでください」
ジュヌヴィエーヴが内側へと声を張り上げる。返事があったかどうかは、聞き取れなかった。
今まで様子を眺めていたデビルも、全てが飛び立った。姿を消したものも音は消せず、周囲に羽音が重なる。
入口を守るように、ルフィアを取り囲んで、ジル、アシャンティがそれぞれの得物を振るった。リンカは二人より少し下がって、外壁を背に矢を射ている。奈々は弓をアイスチャクラに持ち替えていた。
その輪の中心にルフィアがいて、めいとジュヌヴィエーヴが前に立つ四人に次々とレジストデビルを授ける。それが終われば、すぐにも怪我の治療が必要で、姿が見えないデビルの位置も知らせなくてはならない。
めまぐるしく状況は変わり、デビルを一体打ち伏せれば、別のものに傷を受ける。
入口に近寄ったデビルが呪縛され、それに刃を向ければ、見えないものに襲われる。
姿を消したものが多く、居場所を示す声が追いつかない。見えるデビルはあらかた退治しても、戦いが一向に終わる気配はなかった。
「大丈夫よ、まだ奥の手があるんだから。そういうのは、ここぞという時に使わなきゃ」
こめかみを切られたアシャンティが、出血は多くても痛くないのよと微笑んだ。その表情が一瞬強張って、オーラ魔法が発動する。すでに何度目か。でも奥の手だ。ルフィアの奥の手は使わせてはならないのだと、そのくらいは彼女もジルも察している。
もうそれしかないなんて状況は、作らない。
「右前方に二体、左斜め上、奈々さんっ!」
指示が間に合わず、奈々が肩口を切り裂かれた。浅いものだが、体勢が崩れる。ジルが目測で振るった木刀に中途半端な手応えがあって、その合間に奈々は姿勢を戻したが、敵の数が減ったわけではない。
ポーションを飲み下している暇もなく、もはや多少の傷は放置するしかないめいが、しきりにきょろきょろとするルフィアの様子に気付いた。
何か、視えている?
確証はないが、それならば、
「視えますか? 視えるなら、皆さんに教えてください」
その瞳が、ただ呪わしい力だけを持つのではないと、知らしめるため。知るため。
魔を打ち滅ぼす呪力よりも、物事の本質を覚ることが出来るのなら。人々が誤った道に踏み込まない様にする事が出来る。それは尊く、またその呪力は得たいと思っても得る事の叶わない稀有な呪力。
呪いではない、力。
「なんだぁ、何かあんのか?」
たいしたことはないよと示すように、奈々が場違いに明るく叫んだ。楽しいことなら、後で教えてくれよと言い置いた彼女の背に、ルフィアが叫ぶ。
「足元に、何かいる!」
奈々は躊躇わなかった。何がとも聞き返さず、呼び出したばかりのアイスチャクラを叩き付ける。
一瞬現われて、塵になって消えていく、毛むくじゃらの歪なもの。
にやりと、奈々が笑う。様子を目の端に捉えたジルも。
「ルフィア、その力はありがたい。私達には敵が見えないから、力を貸してくれ」
小難しい理屈など口にしている暇はないから、リンカが手短に、でも強い調子で願った。あるかも分からない邪眼以外の力を頼る言葉ではないから、顔を見ることは出来なくても声に力がこもる。
すでにあると、知ったから。
「お願いしますね。私一人では、とても手が回りません」
視えるのと感じ取るのとでは違うから、本当に助かる。それはジュヌヴィエーヴの偽らざる心情だ。ルフィアが戦うことには本当は賛成しかねるけれど、そんな辛いことはさせられないと思うけれど、それも事実だが。
背後の教会の中の人々を守らずして、一人だけ守り通すことも、また本意ではありえない。
「これが片付いたら、恋愛指南してやるからな」
「自分を中心に教えてくれればいい。ジュヌヴィエーヴ殿もよろしく」
「前にでたら駄目だよ。慌てて前のめりにならないでね」
目前にいる敵は、この世に現われてはならぬもの。それを倒すことは、神の御心にも叶うだろう。
なにより、人を傷付けるのではなく、守るために力を使えることが大事。
「私より前に出ては、皆の妨げになります。良く注意して」
めいにも注意され、身を乗り出していたルフィアが結界に気を配っているミルドレットの傍らに戻った。そうしながら、懸命に声を張り上げる。
敵の利点は、姿が見えないこと。それがなければ、ここに居合わせる冒険者達の敵ではない。
だから。
「右上、もう少し下っ」
「腰高、左横です!」
徐々に慣れてくる指示に、ジュヌヴィエーヴの魔法で感知される存在が減っていくのは早まった。めいが治療魔法を掛ける時間の余裕も生まれる。
やがて。
「もう、いない?」
「ええ、今のが最後ですわ」
多数の塵で、ほんの少し霞んで見える周囲を見渡して、ルフィアが恐々と尋ねた。力強く答えて、その小さな身体を抱き止めたのはジュヌヴィエーヴだ。めいはミルドレットの無事を確かめている。
「周囲を巡って、危険がなければ中に知らせないと。今頃、さぞかし緊張していることだろう」
中は静かだから、危険なことはなかっただろう。もう出てきても大丈夫だと、早く知らせてやらねば。
「「ルフィア」」
一緒に回ろうとリンカと奈々が声を掛け、しばし二人で見詰め合う。
「治療してもらえ」
リンカが奈々の傷を示して、笑いを堪えてるアシャンティと共にルフィアを連れて教会の裏手に回った。
教会の中に襲撃の終わりが知らされたのは、それからしばらく後のこと。
けれども、これで終わりかとの問いには、誰もそうだとは言えなかった。まだ現われていない、他の人々が探している少女のこともある。
だから、教会の護りは、まだ外せない。
ルフィアが、自分より大きな布を相手に懸命に動いている。形作られてくるのは、異国の鳥。作っている間のルフィアは、その瞳にも力を宿している。
でも、だけれども、その力は僅かな間しか続かない。まだ、心が揺れ動いているから。
『悪いものが視えるなら、皆に気をつけてねって‥‥』
悪しきものに絡め取られないように、人を、自分を導いていけるだろうか。
そう呟いたのも、きっと自分が絡め取られたくないから。
瞳の宿る決意の色が、時に薄れる。
心が揺れているのが、傍らにいても分かる。
それを見ているだけの時間も必要。だけど、傍にいる。姿はなくても、心が寄り添うように。
そうやって、皆はルフィアと心を繋いでいる。
人は独りではないから
繋がりがあって ぬくもりがあって
それを繋ぐ愛があって
人は人と共に在る
でも だからこそ闇は深い
人も 魔も 同じ闇の中
いつまでも ずっと喰らい合えば良い
愛が繋ぐというなら 諸共に堕ちていけ
いつだって、種はそこにある
全ての種はそこに
芽吹くのは まだ これから
(代筆:龍河流)