セイルとリリーの、結婚記念日
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月01日〜05月06日
リプレイ公開日:2008年06月07日
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●オープニング
「リリー、お前のことを愛してる‥‥っ!」
「あなた‥‥」
冒険者の酒場シャンゼリゼにて、そんなアツイ台詞を交わした二人の仲が、神の祝福をいただくようになった関係からはや一年がすぎようとしていた。
二人の仲睦まじい姿は『冒険者夫婦の鏡』だとか、『冬には暖炉の代わりになる』などと呼ばれるくらいに皆に知られていた。
それは冒険者だけでなく、二人の知名度に比例してそれ以外の人間にも十分知られているのである。
「はぁ〜」
冒険者の酒場『シャンゼリゼ』のカウンターで、もうすぐやってくるミュゲの日にちなんでスズランをより分ける作業をしながらため息を吐く少女もその一人。
できれば、そんな恋愛をしてみたいと思うものの。
「どうしましタ?」
少女は、カウンターの隣の席に座ってまぐまぐと口を動かすエウレカが笑顔でそう問い返した。
3人前分ぐらいの手料理を一瞬で平らげた上で。
その食べっぷりの良さは見てて嬉しくはなるが、どれだけ頑張っても、味わってくれないし。食べても食べてもほとんどスラムの住人然としたエウレカの肌にも体にも代わりがない。
できればわたしだって、『はい、あーん♪』とか‥‥としたって、お姉さんが子供に食べさせているようにしか見えない。なんかシチュエーションが足りないのである。いや、求めていること事態が間違っているんだろうけれど。
「セイルさんとリリーさんみたいな仲になれたらいいのになー。ほんと、見習いたいくらい」
「大丈夫ですヨ。いつも一生懸命なミーネお姉さんのお願いならきっと叶いマス」
本当に、悩みとか苦しみとか超越したような屈託のない子供そのものの笑顔。それがミーネの心を暗くした。
本人、自覚ないんだから。
思わず束ねているスズランの茎を握りつぶしそうになった時である。思わぬ客が飛び込んできたのは。
「結婚記念日?」
ミーネは、その言葉に目を円くした。
「ええ、ファーストさんところの結婚記念日だそうです。それでミーネさんにお願いしたいのですが」
黒く大きな瞳が心配そうにミーネの顔に飛び込んできた。シャンゼリゼの調理スタッフである以上、パーティーのような豪華な料理も手がけたことは何度もあったが、それはあくまでシャンゼリゼの仕事として舞い込んでくるわけで。こうして名指しでそう呼ばれるのは初めてであった。
声をかけてくれたのは鳳双樹(eb8121)。冒険者であり、ミーネとも以前から知己ではあった。
「え、あ、その、大したことできないかもしれませんけれど、いいんですか?」
ミーネはあたふたとお辞儀をすると、双樹はにっこりと笑った。
「普段からお世話になっている2人に是非パーティを催したいんです。ミーネさんはお二人には会った事ありましたよね? それでもし良かったらエウレカくんと‥‥」
双樹が最後まで言い切るまでもなく、ミーネは依頼人のたおやかな手をぎゅっと握りしめて答えた。
「是非っ!」
セイルとリリーには、一緒にパーティーをしていただいたこともあるし、できれば何かの形でお返しはしたい。日もちょうどミュゲの日に重なる。自らも他人も幸せを願うこのミュゲの日に、二人の記念日をお祝いさせてもらえるのは本当に神様からお示しくださっているようだ。
ちょっぴり心の奥では、ひたすらマイペースというか、のほほんとしたエウレカが二人のアツアツの雰囲気を浴びて、ミーネの心に気付いてくれたらなおラッキー。
そんな邪心はさておいて。
「エウレカくんも来てくれますか?」
「もちろんデス。とびっきりのプレゼントをお渡ししたいのデス♪」
そんな答えに双樹は、頷いて言葉を続けた。
「リリーさんから形に残る物をと聞いてますので、誰かにあげる為のプレゼントを皆で考えて作ってみようという企画も前日までやりたいと思います。リリーさんからというだけでなく、参加される方にもそれぞれの大切な方に渡せるような物を皆で考えたいなって思っていますので、よろしくお願いしますね」
「はいっ! せっかくの結婚記念日。素敵なパーティーにして、セイルさんとリリーさんに喜んでもらえるようにがんばらなきゃ!」
想い出に残る一日を。
みんなが幸せになる一日に。
もうすぐミュゲが咲くその日に。その日はやってくる。
●リプレイ本文
「‥‥結局、帰ってなかったんだな」
妻のリリー・ストーム(ea9927)と歩を共にしながら、セイル・ファースト(eb8642)はそう独りごちた。
「あら、でも素敵じゃありません? 恋人達が生まれる広場なんて」
目を閉じ、心の踊り出すような喜びをその抑揚を声に含めて応えたリリーの様子には戦乙女だと謳われるその威風はしばし羽を休めているのが窺える。
「ブリッグルは思いを遂げる手伝いをしてくれるんですって」
「じゃあ、オレ達には必要がないな」
リリーの肩をぐっと抱き寄せたセイルの腕に体のバランスを崩しそうになり、リリーは少し驚いた顔をしたが、すぐに厚い胸板に長い髪を垂れ寄せ、抱き寄せた男の腕に手をおき、気持ちよさそうにそのぬくもりを感じていた。
「ところで、その指、どうしたんだ?」
添えられたリリーの手に包帯が何重にも巻かれていることに気付いてセイルが問いかけた。
リリーはほの温かい気持ちが一気に燃えさかるように顔を朱にして、にこり、と笑顔を作った。
気付かなかったのか、気付かないフリをしてくれたのかセイルはしばし瞳の奥を透かすように見た後、気をつけろよ、という言葉で締めくくった。
そんな夫の態度が何よりもリリーには好ましかった。
「セイルさーん、リリーさーん。こっちですよー」
広場から聞き慣れた声が聞こえる。
仲間達だ。二人が目をやればそこには見慣れた人たちが少しばかりお洒落をして、二人に向かって手を振ってくれていた。
●
「まーずーは、結婚一周年、おめでとうございますっ」
クリス・ラインハルト(ea2004)がそうお祝いの言葉を述べると、皮切りに他の皆も拍手と共にお祝いの言葉を述べた。
「一周年、おめでとうございます。これからも変わらずお幸せに‥‥」
「セイルさんリリーさん、結婚一周年おめでとう御座います!」
「セイル、リリーさん。結婚一周年おめでとうございまーす!」
「おめでとうございます。もう一年が経ったんですね」
セーヌ河に面するその広場は、五月の柔らかな太陽の陽差しを、街へと通じる斜面に根付いた楡の木が大きく枝を張って、さっと吹き抜ける風に合わせて草原を斑に照らしながら心地よい音を葉が擦れ合う音を立てる。
河に近くには石が組まれて小さな竃ができあがっており、色鮮やかな食材がその傍らで一休みをしている。木陰に置かれた荷物達も淡く優しい色遣いが多く、女性達の心遣いが自然を舞台に息づいていることがセイルには一番よく分かった。
「なんだか居場所に悩むな‥‥」
困ったように頭を掻くセイルに、リリーをぎゅーっと抱きしめながらお祝いの気持ちを伝えていた薊鬼十郎(ea4004)が笑顔を向けた。
「セイルさん、リリーさんの事、大切にしてくれてますよね? 今日はチェックしに来ましたよ〜」
「まあ、鬼十郎ったら‥‥!」
困ったような顔をするリリーに対して、宣戦布告を受けたセイルはその言葉を正面から受け止めた。
「安心してくれ。リリーを不幸にさせるようなことはしていない」
あまりにも堂々としたるその態度は、本気半分、冗談半分であった鬼十郎から次の言葉を奪い去るどころか、その抱きしめるリリーの体を火照らせた。
入る隙間がない、というのはこのことなのかもしれない。包帯をつけた手を頬にやるリリーの横顔を見て、鬼十郎の笑顔は柔らかさを帯びた。
「さあ、それじゃどうぞ席についてくださいね」
二人をお祝いする企画を主導した鳳双樹(eb8121)が、テーブルに備え付けられた椅子を引いて二人を案内し、早速料理に取りかかっていたミーネに合図をした。
テーブルの上には真白く、そして濃淡で模様が浮かび上がる大きな紙がテーブルクロス代わりに置かれていた。
「これ、紙か?」
「結婚一年目って『紙』のように真っ白なものだって聞きましたから何か紙を使った品が良いと思ったのですよ」
目を丸くするセイルに笑顔を浮かべて答えたのはクリス・ラインハルト(ea2004)であった。吟遊詩人という商売柄から、全国各地の話を聞き集めることの多いクリスは、その言い伝えを元にテーマに紙を選んだのであった。
「それにしても上等じゃないか。高かっただろう?」
「お二人の結婚を記念するのに使いますって言ったらサービスしてくれましたんです」
そう答えたのはクリスではなく双樹であり、彼女は淡い緑と白のエプロンドレスで料理のお手伝いをするシェアト・レフロージュ(ea3869)に「ね」と意味ありげな笑顔を交わしていた。
そんなテーブルの上に次々とお皿が並べられていく。皿の上には蜂蜜色に色付いた中天に浮かぶ満月のようなチーズケーキの上に野苺やさくらんぼなどの春の果物がちりばめられて曲線に描かれた蜂蜜の跡がそれらをつなぎ合わせる。
「やっぱり結婚って甘いイメージがあるので甘いモノでいってみました。デコレーションはスズランの花をイメージして‥‥です。えと、どうぞ」
調理帽を外して胸の前で握りしめながら、緊張で少しばかり声がうわずらせながらそう解説するのはミーネ。
「とっても美味しそうね。誕生日の記念にシャンゼリゼでもデコレーションチーズケーキが頼めるけれど、あれもミーネさんが作っていたのかしら」
口に運んでみると、チーズの香りと木の実の果汁があふれ出し、ケーキ自身はとても柔らかくてすぐに溶けてなくなってしまいそうなほどであった。
「あ、いや、私はお手伝いだけで‥‥えと、今回はすごく良い鍋をシェアトさんが貸してくれたし、鳳さんが手伝ってくれたおかげです」
切り分けたケーキを切り分けながら、シェアトと双樹は顔を見合わせてにっこりと笑顔を示した。
「幸せはみんなで作っているものデス。幸せは自分一人では作れませんガ、誰かがいれば作れマス♪」
一足早く、というか一口でケーキを食べ終えたエウレカが満面に笑みを浮かべて、ケーキを見つめるセイルにそう言った。
「幸せはみんなで作るものか‥‥確かにそうかもしれんな」
セイルは鬼十郎と談笑するリリーの横顔を見ながら、そう感じた。そんな視線を感じてかリリーはふい、と髪を揺らしてセイルと目を合わせた。その顔が幸せそうな笑顔がこぼれ出る。
「あなた、ケーキがついていますわ」
リリーはそっと手を伸ばし、セイルの口元にちょんと触れる。
「リリーさん、幸せなのね。本当に良かった‥‥なんだか私も嬉しい」
間近でケーキがリリーの口に消えていく様子を鬼十郎は眺めて、ため息ともつかぬ息と共々にそんな言葉を漏らしたが、それは決して彼女だけの意見ではないことは明らかであった。
「これは‥‥なんだかボク達、デバガメをしているみたいですね」
テーブルに隠れるようにしながら、クリスは同意の目を求める。それにはもちろんシェアトや双樹もミーネこくりと頷いた。
「でも、そうなることを願ってのお祝いなんですから、それでいいと思います。その幸せを素敵に彩ってあげることが‥‥私たちの役目だと思います」
シェアトは歌うように月の精霊に呼びかけるとテーブルの周りが、セイルとリリーはもちろん、その周りにいる皆をもまとめて月明かりのドームが抱きしめる。外はまだ昼下がりだけれど、月明かりのフィールド越しに見える世界はまるで物語のように柔らかい空気に包まれていた。
その中心部にぼんやりと淡い光が二つ、三つ。
「いい香り‥‥スズラン?」
テーブルの上に蔓を編んで作った小物につり下げられたキャンドルは小さくいくつも並べられ、まるでスズランのようであった。そんなほの明るく輝くスズランの花から良い香りが漂ってくる。
「ミュゲの日だし‥‥シェアトお姉ちゃんと一緒に作ったんですよ」
「時季がちょうど良かったので香油もすぐ手に入りましたし、かの精霊の様な小さな灯りが恋しい想い、優しい記憶を辿る光になります様に」
双樹とシェアトは互いに視線を交わしあってくすりと微笑む。二人が共に案を出し合い、材料を探し歩いている様子はそこからでも見えるようであった。
「手作りなのか‥‥」
セイルはまじまじと淡い光をのぞき込む。しかし、ムーンフィールドで明かりが少し制御されているとはいえ、まだ明るい日差しの外。その明かりは霞のようで、瞳に焼き付けるには儚すぎる。
「キャンドルを作ると聞いたので、ボクからは衝立をプレゼントするのです」
テーブルクロス代わりに敷いていた紙を両手でつまみ上げてにっこりと微笑んだ。
「衝立?」
「ジャパンでは明かりを効果的に使うアイテムですよ」
「微妙に違うところもありますが、今回はそれでいいです」
鬼十郎もクリスを手伝うように、紙を持ち上げると切り目をさっと入れていく。それからクリスと連携しながら交互に折りすすめていいく。その行程のほとんどは鬼十郎の指揮によるもので、ジャパンでいうオリガミであることが何人かはすぐにわかった。
「そこは山の折り返しの部分ですよ。そして反転です」
「ああ、そうでした。小さいのでは練習したのですが、勝手が違うものですね」
などと言葉を交わしながら、テーブルクロスでしかなかった紙はキャンドルを囲うように形が与えられる。その姿が明確になるにつれ、その行程を見つめていた者達にため息がこぼれる。
「ツルと、カメ? すっごーい。一枚の紙から作れるだなんて信じられない‥‥」
食べ終わった皿を片付けようとしていたミーネもその技術に見とれてしまった。そう、テーブルクロスだったものはすっかり姿形をツルとカメが一体化したものへと変貌していた。カメの甲は皿となってキャンドルを支え。翼を広げたツルがその明かりを受けて照り返していた。ゆらゆら揺れる炎に和紙独特の細波のような風合いが混じり合い、聞こえない音を紡ぎ出しているよう。
「昼と夜の狭間にいるみたいだな」
「二人の時間は時に左右されずに続くもの、ですよね」
周囲の光景に圧倒されつつも、鬼十郎がにっこりと微笑む。二人だけの時間は太陽も月も共に照らしてくれるような空気を作ってくれる。少なくても二人の間を見る限りはそう思える。なんだか照れくさそうに身を寄せ合う二人の胸に鬼十郎は手にした胸飾りを押しつけた。
「私からのプレゼントはマント留めです。二人ともマントは使うでしょうし」
マント留めにはスズランの花をはじめとしていくつかの花が掛け合わされたものだった。ジャパンのデサイナーが作ったものだろうか、細緻な模様が遠くから見ても、また目を近づけてもその美を壊すことはない。そのマント止めを見たリリーは目を丸くしたものだった。
「鬼十郎ったら、こんなものまで‥‥教えてくれただけでも十分でしたのに」
「依頼では形に残るものでしたし、あの時にはもう職人さんにお願いしてましたからいいんですよ」
両の手を袴の後ろで結んで微笑んだ鬼十郎にリリーは困ったような顔をした。でもその瞳はうるんで仕方がない。気持ちが高ぶっている様子にセイルは背中に軽く手を添えた。
「教えてくれたって? 何かしてたのか?」
興味が勝ったか、それとも心配してか、それとも一抹の不安からか、問いただすセイルの目の前に出てきたのは、一枚のハンカチーフであった。4つに折られたその端から、刺繍がうかがえる。薄緑のラインと小さな鈴形の花に刺繍されている。
「この手の包帯もその所為だったのか」
セイルはハンカチーフを持つリリーの手に指をはわせて、そっと包み込んだ。その痛みも思いも包み込むように。
「あ、あの本当はもっと大きく縫う予定でしたから、そんなに怪我をすることは‥‥でも、鬼十郎が『ひかえめな美しさというのもありますよ』っていうから‥‥」
不満なのか、言い訳なのかを並べて気恥ずかしさをぬぐい去ろうとしていると鬼十郎が口を挟む。
「刺繍が大きいと、もっと怪我しますよ。リリーさんってば、『剣で切られるより痛いー!』とかいうから」
「それは言わない約束じゃ。最後の方は上手って褒めてくださったのに」
ぷくーっと頬をふくらませて抗議するリリーを、セイルの大きな腕が包み込んだ。ハンカチーフを握るリリーの手を中心に、背中から全身を抱きかかえるように。ドレス越しにセイルの胸板の厚さ、温かさが染み渡る。
「ありがとう。リリー‥‥」
「あなた‥‥」
涙をその目に溜めながら、リリーは歓喜の笑顔を浮かべ、そのままセイルの顔に唇を寄せる。
月も太陽も皆もが祝福する中で。
あらためておめでとう。幸せは皆と共に。
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「俺からはパワーストーンを‥‥。自分で採ってきたものだから、店のヤツと比べると全然違うかもしれないが、良かったら貰ってくれ」
セイルからは宝石が皆に配られた。様々な彩りの宝石達は渡す相手を意識したのかそれぞれに輝きが異なる。
「俺とリリーが知り合ったのは洞窟で赤い石を見つけたことからだったから」
「へぇ〜。ね、ね。エウレカ。そんなきっかけができたらいいよね」
いただいたアゲートを手にして、お揃いの石を持っているエウレカにそう問いかけるミーネ。もう一つ、自分たちが階段を乗り越えるきっかけになれたら、今度はセイルと同じようにしたいという想いが幻想のように浮かび上がる。だがエウレカは「そうですネ」とそれを木の根本に置いてしまう。
「なにしてるんですか?」
「きっかけは旅をすれば生まれまス。エウレカも旅をしたから皆さんと知り合えたのデス。とっても幸せデス♪ この綺麗な石さんも旅をしてたーくさん幸せを見付けてほしいカラ」
その言葉に一同は唖然とした。
「お噂はかねがねうかがっていましたが‥‥」
シェアトはどう言ったものかと思いながら、ミーネをちらりと横目で見た。案の定彼女は、開いた口がふさがらない様子で、さらに月琴光姉と噂されるシェアトが話しかけている様子に、非常に複雑というか落ち込み気味のようであった。
「大丈夫ですよ、ミュゲの日の合い言葉は『あなたにも幸せが訪れますように』です。もちろんミーネさんにもですよー」
一人で鬱に入っているミーネを、そんな悩みごとまるまるその明るさで飛ばしてしまいそうな笑顔でクリスが呼びかける。
「さ、せっかくなので歌いましょう! スズランの小さなお花が集まって素敵な花の姿になるように、お二人が過ごす年月が積み重なって、いつまでも続くことを願うような曲を歌うですよ♪」
「クリスさんとの合奏も久しぶりですね。ミーネさんも一緒に‥‥」
「本職と一緒にってのも恐れ多いが‥‥俺も演奏するぜ。祝ってくれる仲間達とこの一年付き添ってくれたリリーに心からの感謝を」
音が一つ、またひとつと重なり、広場にこだまする。
今日の日に合わせて。
♪小さな灯り 幸せを呼ぶ白き光 花に宿し贈りましょう
寄り添う影 夢に見るその日を 花に託し贈りましょう
小さな祈りは 貴女を飾る 華になりましょう…