源流(癒し)への旅路

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月31日〜08月06日

リプレイ公開日:2008年08月07日

●オープニング

 エウレカはミーネの家で看病されていた。正しくいうと、彼女が居候させてもらっている親戚の家であるが。穏やかな夫婦にただいまの挨拶をすませると、ミーネはエウレカの部屋へと入っていった。
 いつも何かを見付けては喜ぶエウレカに配慮してか、部屋は観葉植物が多くあちこちに置かれ、窓も夜になっても開け放しにして出入りする色んな動物や昆虫が入ってきたミーネの姿を見て慌てて姿を隠していく。エウレカはそんな中、土の露出している勝手口で寝そべっていた。
「エウレカ! またそんなところで寝そべって! 風邪引いちゃうよ」
「冷たくて気持ちいいのデス」
 悪びれなく、いつも通りの笑顔を浮かべるエウレカにミーネはいつになく明るい顔で、エウレカを抱き起こす。いつもはエウレカの生命のロウソクがまた少し減っているのに、どれだけのことができているのだろう、どれだけのことをしてあげているのだろう。と思い悩む気持ちがどうしても瞳の奥に映ってしまうのを自覚してしまう。そんな僅かな変化に気がついたのか、エウレカも不思議そうにミーネの瞳をのぞき込んだ。
「どうしたんでス?」
「ピクニックに行こう。シェアト・レフロージュ(ea3869)さんが誘ってくれたの。リリー・ストーム(ea9927)さんと、明王院月与(eb3600)さんと鳳双樹(eb8121)さんとでブリー高原! 去年、行ったことがあってさ。すごく綺麗なところなんだよ。動物も植物もいっぱいなの」
 ブリー高原。パリより東部から南東に位置する高原地帯でノルマンでも有数の穀倉庫と言われている。パリを横断するセーヌ河の源流はこの高原に点在する小川が集まったものだと言われている。
「去年は小川で過ごしたんだけれど、今度はもう少し進んで清水がわき出ているところまで行こうと思うの。石清水があふれ出していてね、泉になっているんだって。林とかもあってね。エウレカもたくさん友達見つけられるんじゃないかな」
「友達いっぱいですカ? 楽しみでス♪ みんな友達になれるといいですネ」
 にこやかに両手を挙げて喜ぶエウレカの姿をみて、ミーネもまた心底嬉しそうな顔をして立ち上がった。
「よし決まりっ。足は大丈夫かな?」
「全然だいじょぶですヨ。足だって、転がっていけば問題ありまセン♪」
「ええー、ずっと転がるつもり? あはは、馬車借りるから大丈夫だよ。源流でエウレカがしたいことがあったら教えてね。今度のピクニックはみんなで楽しむものなんだから。何でも思いついたことは言うこと。いい?」
「はイ♪」

 ずっとエウレカは自分の希望を言ってこなかった。今まで苦しい目に遭って、笑顔とその考え方で乗り切ってきただけで、本当は心の奥底で何か望んでいるものがあるんじゃないだろうか。その一つでも叶えてあげられたら。
 ミーネは荷物を詰めつつ、エウレカの姿をちらりとみやった。窓辺に腕を乗せて大きな三日月にエウレカは語りかけていた。
「ピクニックに行ってきますネ。ここにいないからってビックリしないでくださイ。ちゃんとお月様の見えるところにいつもいますヨ」
 いつでも豊かな幸せそうな顔のエウレカ。
 その一端を知ることができたら。

 ミーネは慌てて顔を振った。ダメダメ。あたし自身が楽しまなくっちゃ、誘ってくれた人に申し訳ない。思い悩むのは旅行の間禁止っ。
 思い思いの二人を月は穏やかに照らしていた。


おまけ
「ディアドラさんもいかがですか? ワインに合うチーズもあるかと‥‥」
 ぎゃゃゃゃあああっ!!!
 シェアトの問いかけを遮るように異端、とどのつまり悪魔信者の絶叫が轟いた。それは扉の向こう側で姿が見えないところがよけいに想像力を刺激されて、いやな予感がひしひし漂う。
「よく聞こえなかったのだけれど、なんですって?」
 涼しい顔に少しばかり歪んだ笑みを浮かべて見つめるディアドラに、シェアトはそれ以上に誘う言葉を持つ気力はなかった。
「イエ、ナンデモアリマセン‥‥」

●今回の参加者

 ea2762 シャクリローゼ・ライラ(28歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●馬車
 ノルマンの街道を8頭立ての立派な馬車が野道を駆けていく。馬もそれぞれ毛並みがよく、その馬達に引かれる車は、磨き抜かれた白樫で作られ夏の日差しを照り返す。馬車の天井には鳳双樹(eb8121)がセレクトした花達で賑わい、風と共に旅ゆく人に安らぎを与え、馬車に乗る人たちにもゆるやかに優しい香りを贈っていた。
「私の友人たちですから、失礼の無いようにおねがいしますわね」
 リリー・ストーム(ea9927)が用意した馬車は、貴族でも滅多に乗らない超がつく高級馬車。最初は他の皆は慣れない雰囲気に広い室内で肩を寄せ合っていたが、次第に慣れてきて今では皆で歌の合唱。
「丘を越え 行こう  口笛  吹きつつ 空は澄んだ青空さ
 牧場へ  むかい  歌おう 朗らに  手をとりあって
  ランラララ ララララ
  ララララ あひるさん(がぁ が)
  ララララ 山羊さんも(めぇ め)
  ララ 歌声合わせよ 足並み揃えよ
 今日は愉快だ」
 シェアト・レフロージュ(ea3869)が竪琴を手に素朴なメロディーを紡ぎ出し、シャクリローゼ・ライラ(ea2762)とミュウ・クィール(eb3050)が馬車の中でくるくる回って踊る踊る。他のみんなは手を取って。馬車に揺られて、肩も揺らして。声をそろえての大合唱。
「着きましたよ」
 歌も一段落したのを見計らって、御者が声をかけ、扉をそっと開いてくれる。途端に差し込む明るい日差し! 天青石のように輝く空と白い雲。続く限りの草原の、ゆるやかな斜面を描く丘の上に馬車はたたずんでいて。草原や雲や空が歌ってくれている。吹き抜ける風は踊っている。
「うっわーー、広い!」
 明王院月与(eb3600)がめいっぱい叫んでも両の腕を広げて迎えてくれる大自然に吸い込まれてしまうよう。ほら、向こうにいる白い牛さんの群れも驚かずに、草をゆっくり食べている。
「あ、牛さんだよ。すっごい真っ白〜★ ほらほら、あそこにいっぱいいるよ〜」
 ミュウの言葉にローゼが頭の上にちょこんと座り、お牛さんをじっくり観察。横ではミーネが何の牛だろうね、とローゼから借りた写本「動物誌」をエウレカと一緒にページをパラパラ。
「シャロレー牛ですわね。肉牛だからあまり見かけないのかも」
「あ、本当だ。全然知らなかった‥‥シャクリローゼさん、すごい博識」
 感心のため息にローゼはミュウの頭の上でくるくる舞い踊ってしまいながらも。
「そ、そんなことありませんわよ〜。偶然ですわ〜」
 言葉と体の動きが違うよ。ローゼさん。
「さっそく、らくのう体験してみようと思うの。エウレカくん、一緒にいこ★ ころころ転がってあそこまでいけるかな?」
「はーい、いくデス♪」
「あ、こら、エウレカ!」
 ミュウと二人でエウレカもこんころろ。ころころりん。
「いや、私は転がらなくってもよろしくて〜〜?!」
 ミュウの頭の上にいたローゼも一緒にころころころ。
 止まらない。止まらない。
「ころコロ〜」
「きゃはははは〜★」
「たぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇ」

 牛さん のんびり見送ってった。



「母なる流れに感謝して」
 月与がお祈りをするその前で、ローガン・カーティス(eb3087)がワインを空けて泉に捧げる姿をみて、シェアトが少し首かしげ。あの瓶どこかで見たような。そんな彼女にローガンはもう一本、荷物から手渡した。
「ディアドラさんが持たしてくれた。これは君にと言っていた」
 受け取ったボトルを見ると「旅の話とチーズよろしく」と走り書き。素直じゃないんだから。思わず吹き出してしまいそう。
 それはともかく涼みを楽しまないと。
 燦々降り注ぐ太陽を緑のドームが優しく防ぎ。岩の間から湧水がいくつも流れ落ちて大きな泉を作り出す。木立の為もあるけれど向こうの岸辺がみえないくらい。みんなの声と小鳥たちの歌声が木霊して。みんなをつれてきてくれた馬さん達ものんびり水飲み休憩。
「つめたーいっ」
 双樹が足をいれただけで思わず叫んでしまう。言葉を真似てとおおはしゃぎしているのは、フェアリーの雲母ちゃん。水の子だけあって、清水いっぱいで嬉しそう。水を両手一杯かかえてはきらきら振りまいて。ローガンのフェアリーのターニヤちゃんと一緒に、みんなに飛沫のプレゼント。
「冷たいよぅ」
「えへへ、じゃ、あたしからもプレゼント〜★」
 水できらきら光るポニーテールを振る月与にミュウもフェアリーさんの真似して、どっぱーんと水を振りまいた。
「‥‥やってくれますわね」
 端でニコニコしていたリリーさんもずぶ濡れ。荷物からレザーヘルムを取り出し、桶代わりに。
「道具は反則です〜!! 雲母ちゃん、押さえてっ」
 水を撒こうとした瞬間に、雲母がくいっとひっつかんで、水は真横のミーネにヒット。
 みんなずぶ濡れになるまで時間はそううかからない。そんな様子を小鳥たちが歌ってる。
 
「病気のことは何か分かりましたか? 狂化についてとか‥‥」
 ちょっと岸に戻って休憩した双樹が、ローガンに問いかけた。後でやってきたローガンは一人、エウレカの病気のこと調べていたから。
「狂化は種族特性によるものだ。生命の危険に応じて、ということだからいずれ狂化が頻発し、常態化していく。治す方法は見つからない。薬は手に入れたが」
 ローガンが見せてくれたのは、最も強力な鎮静薬。感覚をすべて麻痺させて昏睡させる。勿論少しでも間違えるとそのまま死んでしまうくらい強い薬。
「これだけしかないなんて」
 エウレカは向こうで乳搾り。そのまま直飲みしてる。呆れ顔に笑い顔。
 狂化する姿は見たくない。あのニコニコ笑顔と言葉が聞けないのも。
 濡れた服よりも重たくなる気持ちに相応して眉も瞳の光も暗く垂れ落ちる。そんな彼女の瞳にシェアトに背負われたエウレカが手を振った。
「ご飯の準備ができましタ。食べましょウ♪」
「はい、すぐ行きます‥‥あの、シェアトお姉ちゃん、大丈夫ですか?」
 エルフの中でも細い部類のシェアトにエウレカは大変そう。
「10年後の為に予行演習のつもりですから」
「じ、10年後ですか。け、計画的なんですね‥‥」
 口元に手を当てて真っ赤になる双樹にシェアトは苦笑い。本当は想像以上に軽いなんて言えなくて。もうずっと前から食べたモノをほとんど吸収できない体なんだろう。
 それでもエウレカは笑える。幸せだという。今もシェアトの背中の温もりに嬉しそう。
「向こうまでは私が肩車していってもいいかな?」
 ほんの僅か、物思いに耽った顔を見られて、ローガンが羽根付き帽子をエウレカをにかぶせるとすくい上げて、その肩に乗せた。ローガンの眉も少し曇る。
「たくさん見えますネ。ふわふわ鳥さんになった気分デス」
 木々を走る風に耳を澄ませて、広がる視野に目を輝かせてエウレカは大喜び。
「お母さんとかに背負われたりしたことは?」
「お母さんはよく抱きしめてくれましたヨ。でもお父さんはいつも遠くから見守ってくれてるから肩車は初めてなのデス」
 遠くから見守っている。それは存在していないことの代名詞。
 どんな生まれなのだろう。どう育ったのだろう。



「御者さんが野菜とか貰いに行かないといけないもの全部揃えてくれたんだ」
 みんなが泊まる丸太を組んだ小さな小屋も御者さん提供。道具も素材も全部そろってる。
 これだけあったら、もう力は120%出すっきゃない! 月与は大張り切りにお玉を振り回して、料理にトライ。ミーネも手伝おうかと言うけれど、そのパワーに入り込めなくて。
 でも、その分お話できるからいいか。ちょっと幸せ。
 和洋中、色んなところを旅した月与が手にした素材を様々な料理に変身させて、樫のテーブルを埋めていく。
 そんな横でローガンがエウレカにお話し。
「新たな幸せ探しに料理をゆっくり味わってはどうだろう。酪農体験でもわかる通り、色んな友達の力を借りて料理はできているんだ。作り手の心も含めて、ゆっくり味わうのはいいことだよ」
「そうだよ。誰も取らないんだから」
 ミーネにも諭されて、エウレカはしばらくきょとん。
 はーい、と答えて。もぐも‥‥ごくん。
「はやっ」
「ははは、今までのペースに慣れていると難しい。少しずつ慣れていけばいいさ」
 そんなやりとりもあるけれど。他はそんなの関係なしの料理を中心に話題の花がいっぱいいっぱい。
「すっごく美味しいの★ 月与ちゃん、いいママさんになれるね♪」
「懐かしい。ジャパンのお料理がいただけるなんて思いませんでした」
 雲母ちゃんとターニヤちゃんもピザを分け分け、チーズがびろーん。
「あ、なないろスイカも冷えているので食べてほしいですわ」
「‥‥水色の果肉は少し食欲がそそりませんわね」
「オレンジ〜★」
 なないろスイカは不思議なスイカ。割って食べるとみんな意見もいろいろあるけれど。食べてみるとみんなの火照った気持ちにも爽やかな味が広がる。
「リリーさん。お水を持って帰りたいのですけれど、ビンが開かなくて‥‥飲んでくださいます?」
 こそこそっとお酒の瓶をもって言い寄るローゼにリリーはくすり。
「今日は『ロマンス』を求める気分じゃありませんわ」
 異性が魅力的に見えるお酒だとわかっていたようで。異性、エウレカとローガンだけだもんね。ミーネが傷つくかもしれない可能性を考えると、今日はお預け。嫌いじゃないんだけど。
 それにしても。
「お腹いっぱい食べると」
「眠たいね‥‥」
 夜の涼風が眠りの妖精の砂を運んできたみたい。賑わいは静かに。ゆっくり落ち着いてく。



 夜になると心の扉の鍵が外れる。あれこれ、色んな事が頭の中をよぎっていく。
 ダメだダメだと思うと、余計に色々巡って。ミーネは振り払おうと思い、寝返りをうつと横にいるシェアトと目があった。

 眠れませんか?
 うん。‥‥せっかく、こんな機会を与えてもらったのに何ができるのか、どうしたらいいのか。
 私もですよ。誰かの力になる事はままならなくて。今回の事もお誘いして良かったのか不安があって。
 すごく楽しいです。不安だなんて!
 ありがとう‥‥皆さんの話す姿を見ていたらこうして皆が集っただけでも意味があるのかなと。人が人を動かすのですよね、ほんの少しずつであっても。ご本人やお相手が気付かなくても、誰かが必ず覚えていますよ。

 にこりと笑ってくれるシェアトに、嬉しいような。心を見透かされているような。だから顔の半分、シーツで隠してみたりして。
 と、その視界に誰かが動くのが見えた。
 人影は二人。一人はエウレカを抱きかかえて、一人は扉を開けて。エウレカを月夜の下に連れて行く。
 心臓が高鳴る。扉から差す月影に映るのは。


「エウレカさん…お聞きしたい事があるんです‥‥ミーネさんと知り合う前にどう過ごされてたかとか覚えてますか?」
 双樹も揺れる瞳に決意を固めて、息を飲んで語りかける。横ではリリーが座り、静かな眼差しをたたえて、エウレカの一挙一動を見つめていた。
「ここよりもまだずっと南で住んでいまシタ」
 詳しい場所はわからない。ノルマンかローマとの国境あたりか。
「お母さんはどんな人でした?」
「お母さんはいつも笑顔でしたヨ。笑ってたらどんなことでも楽しくなるからっテ。どんなに苦しいことがあっても幸せはそこに隠れていて、笑顔でいたら顔を出してくれるノヨって」
 そしてあなたの友達や宝物は、誰かが奪ってしまったり、壊してしまったりするでしょう。でもね、エウレカ。そんな時も怒ったり泣いたり叩いたりしちゃダメよ。そんなお別れでも笑顔でいたら必ず次の幸せがやってくるわ。常に新しい幸せを探し続けるのよ。
 でも、食物だけはすぐに食べてしまうこと。食物を取られたりすることもあるから、できるだけ早く。
「そう‥‥ですか」
 エウレカの笑顔も、何事も幸せに変えてしまう考え方も、あえて執着しようとしない性質も、そして異常な早食いも総て一つの出来事に集約されていた。
「エウレカにはお友達がいましたヨ。でも、やっぱりお母さんが言うように友達はみんないなくなっテ」
 こ、こ‥‥こないで。オレが悪かったからぁ。
 オナカ、スイタヨ。オナカ‥‥スイ、タ。
 い゛ぃぃぃいあああっ。指が、指ぃぃっ!!!
「だから、たくさんのお友達ができるように。悪いことから守ってくれるおまじないをしてくれたんですヨ。耳の先を切り取るのは痛かったですけれド。それで北に行きなさいって。おかげで今は友達はいっぱいデス」
「お友達がたくさん、ね。エウレカ君、それはミーネの事も?」
「はイ♪」
 躊躇ない笑顔と返事。そこにエウレカの中に『特別』がないことはよくわかる。
「エウレカ君、貴方‥‥狂化時の記憶はありまして?」
「お腹空いてましタ」
 記憶はあるけれども非常に曖昧だ。リリーは嘆息しゆっくり噛み含めるように説明した。
「貴方に傷付けられながらも、貴方の側に残ってくれたミーネの事を、しっかりと見詰めた事がある? それでも貴方の事を好きで居てくれる、彼女の事を」
 不思議そうな目がリリーにかえってくる。それは予想はしていたけれど、胸が痛む。
「彼女の事を大切に思えるなら、変わりなさい。『人として』強くおなりなさい」
 呆然と見つめる瞳に、リリーはある種の望みをかけてそう呟いた。

 戻ってきても部屋は静か。でも、部屋の隅のシーツが小さく震えているのはすぐ分かった。
「ミーネさんもエウレカさんも頑張って守ります。だから‥‥頑張りましょう」
 双樹は側で跪くと小さくそう囁いた。



「エウレカ。ど、どしたの?」
 エウレカはじーっとミーネを見つめていた。不思議そうに延々とミーネの姿を見つめ続けるものだから、見られている方も事情は知りながらも、なんだかやりにくい。
「き、狂化かな? 昨日、よく噛んでてあんまり食べてなかったから」
 月与は指輪を一つエウレカに填めると、ぎゅっとその手を包んで言った。
「これはエウレカ君の為にってお祈りしてくれた人からの贈り物だから、人にあげちゃ駄目だよ」
「はイ♪ それじゃ、大事にしまっておくのデス」
 エウレカは袋を引っ張り出して、そこに入れようとするけれど。エウレカの財布。穴がぽっかり開いていて、ばらばらっとみんなの荷物の上にこぼれていった。いくつかは走る馬車からこぼれ落ちて。風に乗って。
「あー」
「また旅をして、エウレカの元に戻って来たくなったらまた会えるからいいですヨ。本当に大切なモノは遠くにいても離れないのデス」
 笑顔は変わらず、そう言ってミーネの横にまた座る。
 馬車は帰り道。帰りもシェアトが伴奏して、ミュウとローゼが踊ってる。
 それからみんなが声をそろえて大合唱。

 花の風車は 風の吹くままに
  僕は見つめる 友の姿

 花の風車は 風を連れて回る
  僕は手引いて 友と並ぶ

 花の風車は 重ねて作られ
  僕らは友達 日々を重ねるよ


 歌と共に、馬車は家路へと進む。