終演(マクビキ)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 85 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2009年03月24日

●オープニング


「あら、シェラさん、お久しぶりです。海図を作りにドレスタットに行ったんじゃなかったんですか?」
 泣きぼくろと少し日焼けした肌をしたエルフ女性は受付員には見覚えがあった。世界各国様々な場所の地図を作っているという地図士シェラ。最近はドーバーでの船の難破事故の解明に海図の作成しているという話を聞いたのだが。
 受付員の言葉にシェラはゆっくりと首を振って答えた。
「ええ、そのつもりだったけれど。楽士、はご存じかしら?」
「ああ、デビルの。歌で人々を扇動して破滅させていくやつですよね」
「そう、前にいたジャパンでもひどい争乱を巻き起こしたわ。それが今ユスティース‥‥パリ東南部を中心に活動しているのよ。それを是非、討伐してもらいたいの」
 その真剣な眼差しに、彼女が楽士と浅からぬ因縁があることを受付員は感じ取った。それがいったいどれほどのモノなのか判断はできなかったけれど。受付員は穏やかながらも、確固たる信念に押されるようにして、うなずき依頼書を作成しはじめる。
「具体的な部分をもう少しお教えいただけますか?」
「それは、ダメ。詳しい内容は集まってきた方にだけお教えしますわ。楽士は民衆を自由自在に操りますもの。何気なく依頼を見て通る冒険者が、その本人も知らぬ間に楽士に情報を流しているということも」
「わ、わかりました‥‥。それではシェラさんと仔細打合せをしていただくということで‥‥」
 その言葉にシェラはようやく笑みを一つ浮かべ、そしてまた町の中に消えていった。
 その後ろ姿に、ただ、受付員はいいようのない違和感を覚えながらも。




「おいおい、ほくろの位置、反対だよ」
 シェラがギルドを出た後、すぐに合流してきた男がそっとささやくと、シェラはあら、と言って、右目の下にあったほくろを軽くなでた。すると、ほくろはふっと消えて、代わりに左目の下に浮かんでくる。それがどれだけ異常なことか、しかしほんの些細な事であり、街行く人は誰も見ていない。
「本当に人間と手を組むのか? 楽士など放っておいても‥‥」
「召喚陣を封印され、地方領主を傀儡にさせる計画も台無しにされ、地上にいた低級共はけしかけられて人間に駆逐され、それでもまだ放っておくと? あれは、我々の計画を大きく損なう可能性を持っていますもの」
「しかしだな、楽士は契約違反を何も犯していない。定期的にアレを上納してくる。質だって良い‥‥」
「金貨100枚稼いできても、裏では我々全体に金貨1万枚以上の損失を与えていますわ。表向きは従順な犬のふりして、ね」
 露店でパンを買い、すり寄ってきた首輪のない子犬に分け与えながら、シェラは言葉を返した。男はそんなシェラの動きをじれったそうに見つめていた。
「しかし、契約違反がなければ攻めることはできない。我々の仲間であるシャナだっている。それに人間と手を組むなんて‥‥向こうも気付けば我々に敵意を向けないか?」
「そう、我々には名分がない。だけれど、位置はいつでも掴んでいる。人間にはあれをデビルの仲間として、そして破滅を味わされ恨む人がいる。だけれど、人間には位置がつかめない。手を組めば互いの足りない部分を補えるとは思わない?」
 なついてきた子犬を抱き上げて、なでてやりながら、シェラは男に微笑み返した。それは先程受付員に見せた笑みとは趣が異なっていた。
「楽士の為に共同戦線を張る。これだけでも互いに十分利益はありますもの。我々と人間は憎み合うようにできている。だから楽士はそれを利用するのよ。しかし、人間も我らも共に楽士を倒すという共通の目的のもとに集い、共同戦線を張ればその安住の立場からヤツを引きずり下ろすことができますわ」
 子犬がシェラの手の中で何度か大きくはね、そしてそのままぐったりと動かなくなった。街行く人の中にはそれを目の当たりにする者も少なからずいたが、わんぱくな犬がようやく彼女になついたのだ、としか見えなかった。彼女の手のひらに白い珠があることには全く気付かずに。
「悲劇の監督のつもりでいるのよ。だけれど、あれも舞台役者として引きずりあげなければ、この劇は永劫に終演(マクビキ)できない。その為には役者同士で手を組まないといけませんわ」
 そっと人混み離れた荒れ地に子犬を置いて、シェラは土をかぶせて立ち上がった。
「招かれないのに来た客は、帰る時にいちばん歓迎される。手厚く歓迎いたしましょう。招かれざる客人よ」

●今回の参加者

 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea5640 リュリス・アルフェイン(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb2363 ラスティ・コンバラリア(31歳・♀・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ウェルス・サルヴィウス(ea1787)/ 明王院 月与(eb3600)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

終演(マクビキ)


「見えた。女の子が一人、ステップ踏みながらこっちに来ている」
 木立の上から尾上彬(eb8664)の声が木の葉も揺らさずに皆の元へと届けられた。
「一人? 楽士は? それに共にいるっていうデビルの姿は?」
「近くにいるようには見えないな。別行動か?」
 その言葉に、冒険者達の視線は、依頼主であるシェラに向けられた。本来なら敵対しあうべき相手である彼女が楽士を討とうなどとは。しかし、シェラは視線をこれから標的が来るであろう道から目をはずさずに答えた。エルフを模した長い耳が微かに動いているところを見ると、他のデビルと連絡しているのかもしれない。
「相手は物質体じゃないから、どこにでも隠れることができますわ」
「面倒な相手だ。ユリゼ。お前の関係者がどう考えているかしらんが、手加減はできないぜ」
「そんなこと考えている余裕、私もないから大丈夫よ。とりあえず、聖水かぶせるわよ」
 防御系魔法や、ネイルアトナードの接触に抵抗すべく、ユリゼ・ファルアート(ea3502)が聖水を前衛達を中心にかけていく。その間もセイル・ファースト(eb8642)が最終確認をしていく。
「シャナの中に隠れているなら、シャナにまっすぐ向かってやりあうしかないな。シルフィ。まず彬が迦桜夜叉の姿で近づく。気を取られている間にサイレンスは頼んだ」
「魔法には強そうだけど、封じることができたら一発だからね。気合い入れてやるよ」
 シルフィリア・ユピオーク(eb3525)が強く頷く。
「俺が正面から、それと、リュリスとアイディールで側面から攻撃」
「‥‥どうでもいいが、やる気がそがれるな。もうちょっとマシなのはなかったのかよ」
 リュリス・アルフェイン(ea5640)は、アイディールの姿を見て、小さくため息をついた。精悍で鋭い刃物のようなイメージのアイディールは姿を隠すために、見目麗しい中性的な美少年へと変身させられていた。羽のような髪の毛に、宝石の瞳は見ているだけで戦の空気をそぎ落とした。
「要望したのはそっちだろう」
「まずばれませんから、いいじゃないですか」
 提案者その1、ラスティ・コンバラリア(eb2363)はしれっと言い切った。提案者その2の彬もうんうんと頷いている。
「連携は崩すなよ。ユリゼは聖水で相手の動きを牽制、マミは退路を断つ。空はムーンフィールドで後衛の防御を」
 マミ・キスリング(ea7468)、十野間空(eb2456)もそれぞれ頷いた。
「お話を聞くによほど手強い敵のようですわね。心してかかりますわ」
「どんな攻撃をしてくるかわかりませんからね。気をつけて‥‥」
「よし、いくぞっ!」



「げ」
「久しゅう、というべきですかね。浄人王。いや、最近はネイルアトナードだったでしょうか」
 脳天気を絵に描いたようなジャパンの踊り子が、彬の変装したその姿を見て、顔色を変えた。
「そ、そーゆー嫌がらせは、シャナ、好きじゃないなぁ」
 引きつる顔とは裏腹に、その足は擦るように前に進み出る。シャナの中に亡霊が潜んでいることは間違いない。明らかな挑発にシャナ自身は警戒を強めているようであったが、復讐心に囚われているネイルアトナードは心穏やかではないのだろう。
 刹那、シャナの顔つきが変わった。天真爛漫という言葉が似合うその顔から、冷徹な女の貌が浮かび出る。
「命知らずもよいこと。哀れな」
「哀れ、か」
 どちらのことやら。
 彬の言葉はそこで途切れた。間合いが詰められたからだ。まるでテレポートしたかのように瞬きひとつで、視界はシャナの顔で埋め尽くされていた。反射的に衣を脱ぎ捨てて、離れることができたのは日頃の鍛錬とユリゼが魔法の力で聖水をふりかけたからに他ならない。
「お前の演し物は終わりだ…潔く退場しな!」
 セイルが茂みから一直線に、ネイルアトナードに駆け寄る。同時に左右から、リュリス・アイディールが駆け寄り、逃げ場を作らせない。マミは愛馬と共に上空を駆け抜け、背後へと回る。
「逃げ場はどこにもないぜ。悲劇の歌い手さんよ。主人公気取るなら舞台から下がるもんじゃねぇ。この場で散りな」
「気に食わない、やったことは許せないから死んじゃえ、か」
「黙りなっ」
 シルフィリアがサイレンスを発動させる。しかし、その直前に彬の抜け殻である衣が視界を阻んだ。
 まるでつむじ風のように、衣は渦を巻いて広がり、同時に斬りかかった3人の体を包み込んだ。きつく縛るようなものではないため、一刀両断すれば問題ないものの色とりどりの布は広がるとひたすらにかさばる。切り落としたそれもあっという間にまとわりつき、動きにくいことこの上ない。
「こっの!」
「雨には傘をさしましょう♪」
 布が広がり、魔法で制御されていた聖水を空中で拭き取っていく。その間を縫うように一条の反物が空達が控えるムーンフィールドの張られたところまで飛んでくる。もちろんバリアが破られるわけではないが、巻き付いたそれはフィールドにまきついて視界を遮ってしまう。
「伏せろ。吹き飛ばす」
 アイディールが短くそう言い、剣を大きく振りかぶった。途端に颶風を巻き起こし、衣が散り散りになって吹き込んでいった。風で晴れた布嵐の向こうではシャナが身を低くして既にこの場を離れようとしているのが見える。
 リュリスは素早く踏み込むと両手にしたそれぞれの剣に渾身の力を込めて振り下ろした。
 まるでボールのようにシャナが跳ね飛ぶ。その姿を見てリュリスは叫んだ。
「切られる前に自分から倒れ込んだ! まだ余力は残しているっ」
 前からそうだ。ひ弱そうに見えて攻撃するといつも倒れ込んで命乞いをしていた。致命傷を今まで与えたことがなかったのは、偶然などではない。回避力の賜物なのだ。ちゃんと攻撃を与えたなら致命傷になっていたはずだ。骨を数本へし折ってはいるだろうが、致命、とまでは至っていない。。
「‥‥いつまでも思いとおりにさせてたまるかよ!」
 セイルが追撃の一撃を放つ。その瞬間、シャナは振り向いてセイルをにらみつけた。
「それはこっちのセリフ!」
 真っ白な世界が広がった。
 シャナの姿形が輪郭だけ赤や青のラインで彩られて浮遊して、セイルは不覚にも自分が今どうなったのか瞬間的に理解が出来なかった。
「陽魔法! どうして‥‥!?」
 ラスティの声が響いたが、近くに居たセイルやリュリスは自分が何をされたか理解はできてももはやシャナを追うことはできなかった。
「シャナの力を借りれば容易いこと‥‥才能がなく情けばかりかけられて不憫な子にしては上出来よな」
「言いたいことはそれだけかしら?」
 痛みに耐えながら逃げようともがいていたシャナの首に剣をぴたり当てたのはマミだった。上空にいた分だけ、シャナの魔法の影響からは遠く、目眩ましを受けることはなかった。
「自分の足で歩いて、多くの人を苦しめるのが結果なら、許すことはできませんわ。楽士、今までの行いの清算の時が参りましたわ。覚悟なさい!」
 それでも観念せず逃げようと振り向いた先には、シルフィリアが立っていた。
「何時まで筋を違えた事をし続けるんだい。技術だけで心に響かない歌だ踊りがあんたの求めたものなのかい?」
「‥‥」
 押し黙るシャナにマミが、そしてシルフィリアが剣を天にかざした。
「成敗っ!!!」
 真っ赤な血が空に舞う。冷たいこの季節にそれは温かいのだろう。凍てつく空気にほのか温かみを与えては地面に飛び散った。
「あたしの一世一代の大勝負。どうだった‥‥?」



「‥‥デビルと契約したのに、どうして体が、血が溢れ出るの?」
 ラスティの疑問にシェラが答えた。
「契約を最後までしていなかったか、魂を取り戻して人間に戻っていたか、どちらかね」
「‥‥楽士‥‥」
 空は苦い顔をしていた。人を殺めることに抵抗がなくなったわけではない。しかし結局、彼女もまた楽士に操られた人間として、殺し合いをさせられたのかと思うと。むなしさだけがこみあげてくる。
「聖水、かけるね。楽士が中で生きてたらいけないし、そうでなくても。してあげたいから」
 ユリゼはそう言うと、残っていた聖水の口を開け、シャナの体へと注いでいく。
 なくなっては、次の口を開け、またそそぐ。
「そんなにかけなくてもいいんじゃないか」
 離れていた彬がユリゼの肩をたたいた。彼女の顔面は蒼白で、叩いた肩にほど近い露わな頬からも暖かみは感じてこない。
「だめ。しっかりしておかないと‥‥困るから」
「ユリゼ?」
 明らかに偏執的な表情だ。彬がぐっと聖水を注ぐ手をつかんだ。その手は氷よりも冷たい。そして、彼女から漂う空気が違うことにも。
「楽士っ! 取り憑くなら俺にしろっ」
 最後の聖水が空にとんだ。
 ユリゼはそのまま地面に伏し、彬もその場でうずくまった。地面をかきむしるその指の先から生命の温もりが失われているのが見て取れる。
「どうしたんだ、何が‥‥」
「さっきのムーンフィールドに張り付いた布に憑依していたようね。フィールドを解除した時点でユリゼに取り憑き直し、『囁いて』聖水を全部使わせた」
 シェラの言葉にラスティがきっと睨み付けた。
「場所、分かってたんじゃないんですか? まだ存在していることも、誰のもとにいたのかも!」
「あの戦いの中で、そこまで判断できるほど便利じゃありませんわ。とりあえず、精神防御をかけ直しますわ。憑依されないように他の者も注意して」
 が、言葉も遅く、空の体が軽くはね、うわごとのようにして、空の口から女性の声が漏れた。
「人がデビルと手を組むとは、ふふふ、堕ちたもの。哀れな人形だこと。もはやそなた達の、いや、その周囲を巻き込み、運命の歯車は止められませぬ」
「ここに至ってまだ歌い手気取りですか。ネイルアトナード…いえ浄人王。その周囲とは領主になった子も含めていますね。貴女どこかで自分とあの子を重ねていたりしないかしら? だけど悪魔に魂を重ねた貴女ではあの子にはなれない。違うのよ‥‥」
 ラスティは悲しげに首を振った。
「どのようにも言うがよろしい。さあ、剣を突き立てよ」
 仲間を傷つけられないと踏んでいたのか、自暴自棄なのか。しかし戦士達の手は止まっているのは間違いなかった。
 憑依されては手の出しようがなかった。
「所詮過去の亡霊ですわね。頭の中までホコリまみれですわ」
 エリベイションを他人にかけ終わったシェラはソルフの実を口に入れ終わってから、そう言った。
「何を?」
 空気が揺れた。シェラを中心に、その本質の邪悪な空気がそのまま体現されたものが空気を波打った。その揺れた空気に触れると、そのまま空から押し出されるように浄人王の姿が現れた。
「!」
「今だっ」
 アイディールが出鼻をくじき逃げ場所をふさぎ、セイルの剣が霊体をこそぎとった。
 ネイルアトナードも負けてはいない。影を爆発させた。生命の火を吸い取られた者達はシェラが防御幕を張り打ち消すが近接戦を挑むものはたまらず吹き飛んだ。その間にネイルアトナードは上空に浮かび上がった。
「逃がしません」
 氷の輪が浮かび上がった体を真二つに貫くと、その勢いも落ちる。そしてその間にマミが天馬からの突撃してくる。
「ぉ、ぉぉ    ‥‥‥ぉぉ」
 もはや美しい女性の姿を保つこともできず、蠢く霧に目鼻がついただけのようなそれらはすきま風のような嗚咽を残すことしかできない。突撃してきたマミに触れようとするが、強い力がそれをはね除ける。
「あばよ。ネイルアトナード」
「さようなら」
 舞い戻ってきた氷輪と、そして、リュリスの剣が交差した。
 同時に砕けた魔法の氷は破片となって輝きふりおちて、それが地面に帰る頃には、かの亡霊の姿はすっかり消え失せていた。



「取り憑かれたときにね。言ってた。人は都合の良いようにしか現実を見ない。それが偽であったとしても都合が良ければそれを信じて、本当は覆い隠してしまうって。ちょっとだけ善いことした振りして都合が悪くなれば知らないそぶり。出自や容姿や行いだけみて、本質を理解しようとしない」
 ユリゼはぽつりぽつりと語った。
 浄人王は生前の姫であったとき、どんな思いだったのか。ユリゼに叫んでいたという。
 それは取り憑かれていたその時に、ユリゼが生前の晴れ晴れしい姿を幻覚で見せたからだろう。
「だから、人の裏切りを唆せたり、互いに争わせようという行動に結びついたのね。そして最後まで何かを誰かを信じられなかった人から破綻していく。それが真実だと言いたかった?」
「あながち間違いじゃないだろうが、はた迷惑も良いところだ」
「人は信じることから始まります。私たちは互いを信じて来られたから、勝てましたのよ」
「あの領主様は最後まで信じていたものね。だから最後まで運命に打ち勝つことが出来たのかも。あ、空。あんたとの愛情もね」
 どっと笑いが起こる中、空は苦笑いを浮かべて、そしてつぶやいた。
「でも、浄人王は私にはこう言っていました。お前もまた虚無に誘われるのか。哀れ、と」

「さて、それじゃ失礼するわね。ご協力ありがとう」
 変身の解けたアイディールに連れ添ったシェラはにっこりと笑った。
「まちな。魂は置いていってもらうぜ」
 彬がずかずかとシェラの手を握った。その中から白い珠が儚い泡のように散って消えた。それはシャナの魂だった。デビルの爪から離れたそれは速やかにあるべき場所へと行ったのだろう。
「あの子との契約では私たちがもらうことになっているんですけれどね」
「今回の依頼では聞いていなかった話だ」
 しばし睨み合いが続いて、そしてシェラは笑顔を浮かべた。
「わかったわ。ボーナスよ。新しくできたお友達に悪いことするわけにもいかないものね。いつでも呼んで。あなたは私の仲魔だもの。モノはちゃんといただくけれど」
 シェラは彬の顎のラインを指で撫でて、そして離れた。

 そして冒険者が見守る中、闇からの依頼人も地上から姿を消した。