親交、時々、護衛
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:1〜5lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 71 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月16日〜05月22日
リプレイ公開日:2009年08月31日
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●オープニング
イースターバニーも 菜の花畑を駆けていった。
野にも山にも 見渡す限り 黄色い波よ
何時まで続く この馬車道よ
夜には山ほど 見渡すかぎりのごちそうよ
そんな歌が青空に響き渡る。街道は菜の花畑を縫うように走り、遙か先にみえる街の建物を目指して、大きな馬車がゆっくり進んでいく。
馬車は3輌あり、それぞれに春の農作物が満載されていた。
そんな馬車を率いるのは、おじいちゃんと孫娘。麦わら帽子をかぶり木綿の服に身を通しているのは農民のそれとほとんど変わりはないが、土にはそれほど汚れはいないし、装飾品は不釣り合いなほどに豪勢だ。それが全財産を馬車と共に旅する種類の人間であることを何よりも雄弁に物語っていた。
「ねえ、おじいちゃん。パリにはどれくらい滞在するの?」
「ふぁ、ふぁ、ふぁ。農作物を下ろして、金物を仕入れて‥‥そさなぁ。3日くらいか」
「ええーーっ!!?」
孫娘は口をめいっぱい開けて、不服の声を上げた。その素っ頓狂な声の大きさといったら。ずっと前に彼らを追い越した手紙を持って走るシフールが思わず振り返ってしまうくらい。何せ広大なノルマンの大平原。旅しているうちにひそひそ話なんて忘れてしまうのだろう。
「花の都パリだよ? もうちょっとゆっくりしたっていいじゃない!」
「と言ってものぉ、その次にいくところでは鍛冶屋がおらんからの。できるだけ足を運んでやらんと」
「壊れているかどうかもわかんないじゃん。それに壊れていたとしてもなんとかしてるって。1日くらい遅れたっていいじゃない。この前ランスに立ち寄ったときだって! シャンパーニュの大市の途中だったのにろくすっぽ何も見ずにすぐ出ちゃって! 劇団の人とか仲良くなれそうだったのにぃ」
ぶつくさいう孫娘に対して、おじいちゃんは、ふぉ、ふぉ。と相変わらずの調子で笑うのみ。でも目を覆い隠すほどに伸びた白い眉毛が少し八の字によっている。そんなおじいちゃんに孫娘はぐいっと顔を近づける。その真剣な目線はまさしく商売人のそれ。
「せめて一週間!」
「ふぉ、ダメ」
「ええい、5日!」
「ふぉふぉ、ダメ」
「農作物完売するまではお手伝いするからっ」
「ふぉ?」
おじいちゃんはその言葉にぴたりと止まった。これは脈アリと、孫娘はめいっぱい目をきらきらさせて、おじいちゃんを上目遣いに見つめる。
「ふぉふぉふぉ、ダメ」
「だぁぁぁっ。おじいちゃんのケチーっ!!!」
●
「ああ、こんにちわ。お疲れ様です」
場所は移って、パリの冒険者ギルド。農作物を下ろし終えてやってきたおじいちゃんの姿を見つけて、ギルドの受付員はそれぞれに声をかけた。意外な有名人ぶりに他の客もいったいどこのスポンサーなのかと勘違いして、その一挙一動に目を見張ったが、曲がり始めた腰に遠慮しながら座る様子はただのおじいちゃん。
「すまんのぉ、またいつもの護衛、お願いできるかの」
「あ、はいはい。ええと、5月の初めは‥‥隣村まで金物を運びに行くんでしたっけ」
「ふぉふぉふぉ、その通り」
受付員との会話もすっかりツーカーと言った感じだ。何しろこのおじいちゃんパリ冒険者ギルド設立当時からの、常連客なのだから。行商として全国を旅するのに、護衛を必ず依頼しに来る。しかし、護衛依頼といっても街道を外れるわけでもなし。危険なところは通らないし。そんなわけで依頼としては一番簡単な、初心者や安定志向の冒険者向けで、すぐ埋まるために、この人の依頼を目にする人は逆に少ないかもしれない。
「‥‥なのじゃが」
「はい?」
依頼内容の文章もほとんどおきまり。準備しようとしていた受付員がそんな言葉で止められるとは思わず、目をぱちくりさせる。
「孫娘がパリに3日しか逗留できぬと嘆いておってな。困っておるのじゃ」
「ああ、孫娘さんが。そりゃ大変でしょうね。おじいさんの行商のお手伝いじゃ東奔西走しなきゃいけませんものね」
「ふぁふぁ。行商とは言うても風任せに行き先を変えることはできんし、日にちも開けるわけにもいかんのじゃ。待ってくれている人がおるからの」
あごひげを撫でながら、おじいちゃんはそう言い、眉毛に隠れた目で受付員をじーっと見ている。何かを頼みたいとき、みんなこんな目をする。受付員はああ、なるほどと言って、顔を少し寄せた。
「その孫娘さんに喜んでもらえるような、冒険者を護衛としてほしい、と」
「デビル騒ぎでゴブリンや盗賊もめっきり数を減らしたからのう。戦えるにこしたことはないが、それより娘の退屈を倒してくれるお方がいてくれる方が嬉しいのぅ。今日もご機嫌斜めで髭を引っ張られてしもうたわい」
確かによくみると、もみあげに近い部分の髭がちょっとなくなっている。穏やかながらに色々苦労があるのだろう。受付員はちょびっとだけ気の毒そうな顔をしてゆっくり二度頷いた。
「バードかジプシーにしておきましょうか?」
「ふぁふぁ、そこまでせんでいいよ。娘の話し相手になってくれるなら。あれも不憫でなぁ。なんとかの予言とかいう天災で両親が死んでしもて、こんな根無し草と一緒に旅するのもしんどかろうに。こんな商売だから、満足に友達もおらんし、仲良くなってもすぐ別れなければならん。だからせめていつもより長い期間、つきあってやれる護衛が、孫娘の退屈を紛らわせてくれればと思うよ」
しみじみと語るおじいちゃんに、受付員もペンを走らせる手をぴたりと止めて、一緒にうなだれる。
「でも、それなら仲良くなると余計にさびしくなりませんか?」
「なに、そこは旅の子じゃ。別れがあることくらいちゃんと理解しておる」
わかりました。
そこまで聞いて、受付員は依頼内容をまとめると、おじいちゃんから報酬代金のお金を貰って立ち上がった。
行商人の護衛、求む。
●リプレイ本文
集まった冒険者と初顔合わせの時、オージィの横に立っていた少女コルムは物珍しそうに上半身を揺らして、冒険者達の顔をのぞいていた。といっても半分以上はコルムとあまり身長と変わらないので見上げられているのはウェルス・サルヴィウス(ea1787)と玄間北斗(eb2905)であったが、たぬきのかぶり物をした玄間は丸まって小さく見えるため、実際はウェルス一人だけ。
ウェルスは依頼主となるオージィに挨拶をした後、そっと膝を折ってコルムに視線をあわせて微笑みかけた。
「ウェルスと申します。変わったことはできませんが、無事に旅ができますように」
「たれたぬきの玄ちゃんなのだぁ〜〜宜しくなのだぁ〜〜」
これは玄間の挨拶。幼い忍犬と共にごろごろしながらの挨拶。
それに比べて、一番低身長のククノチ(ec0828)の方はずっと端的で丁寧な挨拶だった。
「ククノチだ宜しく頼む」
と一礼と共にそう言っただけ。最後に、レオ・シュタイネル(ec5382)はペットの馬の首と、奇妙なずんぐりむっくりとした鳥の体にそれぞれに腕を回してにかっと笑いかけて挨拶した。
「俺はレンジャーのレオ。こっちは相棒のクロヴィスとコンラート。皆ヨロシク、仲良くしてな」
そんな挨拶だけで、コルムは目をきらきらと輝かせて、それぞれの挨拶にうんうんと首を大きく頷かせる。オージィとコルムもそれぞれ挨拶を終えたところで、コルムはオージィのポーチを引っ張って話しかけた。
「うわぁ。今度の冒険者さんはいつもと違うんだ。いつもより楽しそう」
「いつもは楽しくないのか?」
ククノチの問いかけにオージィが「これ、人聞きの悪いことを言ってはならん」とコムルをたしなめていたが、彼女は気にした風でもなく、だって、と口答えをしていた。
「いつもの人はほーんとおっちゃんばっかりだし、必要最低限しか喋らないし。挨拶するのもほーんとつまんないの。でも、挨拶だけでこんなにワクワクしたの初めてっ」
皆の飼っているペット達を撫でくりまわして、コンラートは鶏冠のセットが崩れたことでやや不機嫌になったもののその他のペット達もおおよそコルムのことを気に入ったようであった。
「それでは、旅に出るとしようかの。それ出発じゃ」
オージィの言葉に合わせて、荷馬車の隊列は動き出した。
●
「ねえねえ、お兄さん達はどんな冒険をしてきたの?」
金物いっぱい積んだ荷馬車の中、あちらこちらで、金物がぶつかりあって、カンカラコロン、コンロロロロンとなり立てる中、見張りに出ているウェルス以外は、まるでひそひそ話をするかのように頭を寄せ合っていた。
「そうだなー。例えばレンヌの姫さんと遠駆け、ワイン作りの手伝い、収穫祭で釣り大会したこともあって、あ、その時もレンヌの姫様と一緒だったな」
「お姫様と知り合いなんだ? すっごーい」
目をまんまるくするコルムにレオは少しばかり恥ずかしそうに頭をかいた。
「うん、こうして冒険者してると色んな人に会えるんだ。じいちゃんやコルムだって、色んなとこ行って、色んなもん見てきてるんだろ? だから、キミ達の話も聞きたいな」
「色んなトコロに行ってるよ。パリ、ドレスタット、ランス、ルーアンなんかも。トロワやプロヴァンなんかが一番多いかな。村とかもいっぱい回ってる。色々回りすぎるから、同じトコロにいけるのは一年に1回か2回‥‥。友達ができても次あえるかわからないし、忘れちゃうことも多いの」
そう話すコルムは、外の流れる景色をぼうっとみていて、どことなく寂しそうだった。
「コルム殿も偉いな。この時代を生きる全ての子供が皆幸せになれば良い」
ぽんぽん、と頭を叩くのはククノチだった。
「私も旅はしてきた。ジャパンの北にあるという蝦夷からここまで。冒険もしてきたぞ」
「寂しくはなかった?」
のぞき込むような目で見つめてくるコルムにククノチは少しだけ微笑むと、エレメンタルフェアリーのワッカと幼い忍犬のノンノを呼び寄せて、その小さな膝の上に2匹を座らせる。
「色んな出会いがあるからな。犬のノンノも最近、私のところにきたばかりでやんちゃもするが、ほら、ノンノ」
ククノチが声をかけるとノンノはぱっとジャンプして、コルムの上半身に抱きついたかと思うと、ぺろぺろと舌で彼女の頬を撫でた。
「うん、色んな出会いがあるっていいよね。ねね、他にはどんな出会いをしたの? たれたぬきさんも出会いとかいっぱいしているんだよね」
「そうなのだー」
もはや、本名ではなく、『たれたぬき』という愛称で呼ばれている玄間は、目を細くしてこくりとうなずいた。
「てんでばらばらのところから集まったメンバーが河を綺麗にしようとして友達になったりしたのだ」
「色んな場所から集まった人が? そうだよね。旅の醍醐味ってそれだよねっ。それなのに、おじいちゃんときたら〜」
オージィへの、というより行商人の時間のなさへの苛立ちを思い出したのか、ぷぅと顔を膨らませるコルムに、玄間はたぬきについている耳を少ししおれさせて困ったような顔を見せた。
そんな折り、ちょうど外からウェルスの声が届く。
「村が見えてきましたよ」
「ほんとっ!?」
「よし、じゃコルム。一緒にクロヴィスに乗って村までいかないか? 何時もは移動、馬車だろ?」
レオの声に、コルムの顔がぱっと輝いた?
「いいの?」
「もっちろん。クロヴィスは力持ちだから、2人くらい全然平気。足も速いし勇敢だし、すっげー頼りになるんだ」
レオはそう言うと、幌から身軽に飛び降りると荷馬車の尻に繋いでいたクロヴィスとのロープをほどくと、あっという間に騎乗する。そのスピードたるや、まるで手品を見ているかのような、流麗さだ。
「乗る、あたしも乗る〜」
荷馬車の端に走ったコルムをぐいとクロヴィスの背に引き上げると、レオは大きな声で御者を務めるオージィに呼びかけた。
「先に行って、村のみんなにオージィさんが来たことを伝えとくよ」
それっ。
まるで一陣の風になってクロヴィスが走る。
レオはその背に乗り、クロヴィスを操りながら、自分の腰にしがみつく少女の鼓動を聞いていた。
こととん、こととん。
彼女の心臓も一陣の風となって走る馬と同じように疾走していた。
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「オージィさんの行商です。金物に入り用はございませんか。たくさんご用意しています。こわれた鍋などあれば引き取りもします。いかがですか。いかがですか」
静かな調子で、だが、晴れ晴れとした声でウェルスの声が村に響いた。
「おお、来たか来たか」
「待ってたんだよ」
「いつもありがとうね。今日はどんなのがあるんだい」
「帰りはまたパリだろう。うちの家畜連れて行ってくれよ」
オージィの到着を待ちわびたかのように、村人達がキャラバンに集結していく。先にレオの呼びかけもあったためか、村全員がもう村の入り口に集まっているかのようであった。冒険者達はしばし、その光景を呆然として見つめていた。色んなところで色んな人と出会いがあつたが、商人でこれだけ手厚い歓迎を受ける人を見るのは初めてだった。
「すごい人気なのだ〜」
「おじいちゃんはパリ周辺の村々を何十年と周回しているんだから」
「これは大変忙しくなりそうです。お手伝いしましょう」
ククノチはオージィから手伝いの仕方を聞いて、仲間達に伝えていった。
まずは持ってきた商品を村人達に見て貰うために広場に一つずつ種類に分けて並べていく。分類は値段別。
持ってきた商品は金物が中心であったが、他の村で手に入れた民芸品や工具、それに医療用に使われている薬草の類。村の生活では生み出せない物ばかりが揃っていた。
レオやククノチ、それにコルムも背はあまり大きくない方だから、抱えられる商品もそれほど多くなくて。あっちよろよろ、こっちよろよろと。
「わっとっと」
「わわ、こっちに来てはいけませんって」
どんがらがっしゃん。
金物が頭に降りかかって星が飛ぶ飛ぶ。
「無理をしてはいけませんよ。怪我はありませんか?」
ウェルスは自分が持っていた商品をおろすと星がくるくると回っているレオとククノチの頭を看る。そんな様子を見て、村人はまた驚き。
「へぇ、今回はお医者様がいるぞ。オージィさん、今回はどうしたんだい」
「ふぁふぁふぁ。冒険者ギルドにちょっとサービスしてもらったんじゃよ」
「怪我や病気で悩まれていらっしゃる方がいるのでしたら、仰ってください」
「それじゃ、うちの子、ちょっと看てくれないかねぇ。風邪だとは思うんだけど‥‥」
ウェルスは早速病人や怪我人、こんなところでは医者はいないから、全部薬草頼りの生活だ。医術の心得がある人に診て貰えるなら、あちらこちらでひっぱりだこ。
そして、広場では行商がいよいよ本格的に始まっていた。
「ここからここまではぜーんぶ1G! 物物交換も受け付けるよー」
「こっちは50c均一セールなのだぁ。見ていくだけでも見ていって欲しいのだぁ」
「こちらは個別に値段が設定してあるものだ。見ていって欲しい」
冒険者みんなでお手伝い。売り手がこれだけいるのだから賑やかさも普段の2倍3倍。買うつもりが無くてもついつい財布の口もゆるんでしまう。
●
「今日の売れ具合すごかった〜。あーんなにみんな買っていくの初めてだよ」
「それはみんな頑張ったかいがあったのだぁ」
もうそろそろお休みの時間。コルムはまだ昼間の興奮が忘れられないようで玄間に伝えてくるのを、彼は優しい言葉遣いで受け止めていながらも、手を休めることなく紐で輪を結わえてつなげていく作業をしていた。それに気づいたコルムは急に息を潜めてそっと問いかけてきた。
「ごめん、お仕事の途中だった?」
玄間はもうひとつ輪を結わえるとネジって一本の紐に仕上げていく。
「みんなの幸せを祈って作っているのだ〜。やってみ〜る?」
「幸せ? これでみんな幸せになるの」
玄間が作った紐は随分と長くなっているが、その端からぐるりとみつめてコルムは不思議そうな顔をした。
「幸せになるのだ」
「でも、‥‥戦争やデビルはなくならないよ? むしろ前より悪化しているみたい。おじいちゃんは言うよ。時間だけが解決するって」
その言葉の重み。
コルムは不思議そうな、軽い言葉で玄間に言い返したが、その背景はあまりにも重たいことは玄間の芯を揺らすほどに感じる。
「一つには、わたしの周囲にいてくださる大切な方々を感謝を共に感じること」
祈り紐の作成には参加せず、毎日の礼拝をちょうど行っていたウェルスがその答えを静かにコルムに伝えた。
「例えば、今日、こんなに色んな人と楽しい経験ができましたよね。私たちの誰かかがかけてもここまで盛り上がらなかったのではありませんか?」
「うん、‥‥そうかも」
「今、ここに皆がいる。それがとても嬉しいこと。感謝を感じること」
なんだかわかったようなわからないような。
ぽかんと口をあけて見上げるコルムにウェルスは言葉を続けた。
「私は今日コルムさんとこうしてお話しできることができた。ノルマンには何万という人が住んでいます。その中で偶然にもこうして出会えて喜びを共有できたってすごいことだと思いませんか?」
「まぁ、うん。そだね」
「そんな出会いに、そしてあなたに感謝しているのですよ。そしてそれがその方々の大切な方々のために、そしてさらにその方々の、と。おそらくそれは、どんどん広がりやがて世界を包むのでしょう。それを思い浮かべながら、平安がありますようにと」
世界は人の思いで連なり、色んな思いが交錯して今がある。
そこに感謝と喜びの繋がりが一つでも増えたら。
だけど、それはコルムには少し難しすぎたらしく、ぽかんと開いた口と同じように目までぽかんとして、理解にはとても至っていないようであった。
「とりあえず、その祈り紐をすれば幸せになる時間が短くなるかもしれないのだぁ」
「あー、なるほど。そか、みんな親切なのはみんなが幸せに熱心なんだからだねぇ」
へんな風に納得しているコルムにウェルスも玄間も口を挟みたいところだったが、そこはあえておいといて。
「わかった。じゃあたしも手伝うっ」
その言葉にみんな笑顔。
みんなの祈り。色んな祈り。幸せが早くると良いね。
「わんわんっ」
「あ、こら。ノンノ。輪を乱さないでっ。ワッカ、手伝って!」
「てつだうのてつだうの〜」
ノンノにまたがりながら、ノンノが引っ張る紐をうまくすくいとって、ノンノの手の届かないところに持ち上げると紐を狙ってぴょんぴょん飛び跳ねるノンノをワッカは華麗に舞い踊って、猿回しならぬ犬回し。
「あはははっ。うん、ウェルスさん。みんなが今ここにいて良かったって、なんとなくわかっちゃった。今すごく楽しいから」
紐を結わえていきながら、涙を滲ませるほどに大笑いをしながら、コルムはそう言ってくれた。
●
「ひーふーみーよーいーしー」
隣村からの帰り道。
金物を売り払った代わりに手に入れた大量の麦穂をベッドにして、レオとコルムは空を見上げていた。隣ではククノチがお手玉をし、その手玉が空を舞うごとにくぐったり飛び越したりしてワッカが遊んでいる。
「すっごい、息ぴったりだね」
「ふふ、ワッカとは長い、あ、こらノンノっ」
ノンノが耐えきれなくなったか、ククノチに抱きついてお手玉は空から消えた。
後は青。
空の浅い青色だけが視界に広がっている。
「平は広いよなぁ‥‥こんだけ広けりゃ、どっかに天使くらい居るかも、って思わない?」
「天使? あたしはねー、思わない」
「えー、そうかぁ?」
「だぁってさ」
麦穂に転がる音がしたかと思うと、横を向いたレオの視界の中にコルムはこちらを向いて座り込んでいた。
「天使よりもね、もっと楽しいことがこの空の下のどこかにあるんだって知ったもん。それを伝えてくれるのが天使様っていうなら、今回の冒険者さん達、みんなみぃんな天使様!」
にぱっと笑ってコルムはそう言った。
「そっか。よし、じゃパリに着いたらすぐ積荷を下ろそう。オレ達みんなで手伝うよ。それで時間が余ったら目一杯パリの街を謳歌しようぜ」
「本当? 賛成、さんせーい!!」
青空の下でコルムの声が目一杯に響き渡った。