亡者(ズゥンビ)の、お帰りはこちら
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月15日〜09月20日
リプレイ公開日:2009年09月23日
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●オープニング
「最近、ズゥンビが大量発生しているそうですよ」
「あら、セバスチャン、そういう話は夏の夜にするのが定番ですわ。ちょっと時季外れじゃないかしら」
紅茶を差し出した際に、ちらりと主人が読んでいる本のタイトルを見て、セバスチャンと呼ばれた男はふっと街で耳にした風の噂を吹き込んでみると、女主人エカテリーナはにっこり笑ってそうのたまった。どこか頭のネジがずれているとはもう何年も前からの付き合いで知ってはいたが、その斜め上を行く返答には相変わらず閉口させられる。
「夏から噂にはなっていたんですけれどもね。ともかく冒険者ギルドや白・黒両方の教会ともズゥンビ退治が忙しいらしいと。まあ風の噂程度ですから、根や葉がついた結果で、本当のところはちょっとした程度なのかもしれませんが」
「ちょっとした程度ではないと思いますわ」
あまりにも興味のそそらない話だったと判断し、適当に終わるはずだったセバスチャンの話に、女主人はそう切り返してきたものだから、セバスチャンは困惑した顔で、紅茶のポットを台に戻す。
「噂の伝達スピードは人と同じと言いますけれど、つまらない話は淘汰されますもの。ここにまで到達するということはそれなりに意味があると思いますわ。事実、地獄で亡者を地獄からはい出せぬようにしている番犬ケルベロスが打ち破られたという話がありましたわ。地獄から亡者の魂が漏れ出てその辺の死体に取り憑いたら、ズゥンビはできるんじゃないかしら」
「誰かが意図して作成したズゥンビじゃなくて、地獄の一件による余波みたいなものだ、と。ははぁ、なるほど。しかしそれだとズゥンビを元に戻すのも一苦労ですよね。門はすでにとじているっていうじゃありませんか。切って捨ててもはいて余るほどのズゥンビ達。どうしたものでしょうかねぇ」
冗談めかしてからからっと笑いながら、セバスチャンはエカテリーナの視線に入らない位置にまですいと下がった。
だが、エカテリーナはそれを追いかけるようにして振り向いてはエメラルド色の瞳を向けて問いかけてくる。
「送還魔法陣でお帰り願うって言うのはどうかしら?」
「魔術書なんて読んでいるから何を考えているのかと思いきや、そんなこと考えていたんですか?」
読んでいる本の種類からそう言う話になるだろうな、とは思いつつ、セバスチャンはわざとらしく呆れたため息をついた。
「世界の月道は活性化して、ほんの少し前とは違って、決まった路は自由に行き来できる状態ですわ。ましてや地獄とは少し前まで繋がっていた場所ですもの、とりつなぐくらいは可能かもしれませんわ」
「規模の割には、精々ちょっと困った問題が減る程度にしか思えない仕事だと思いますがね」
「あら、そんなことありませんわ。今、月道は活性化して、満月でなくても使える状態。物資の輸送は目に見えて楽になるわけですから世界経済の変化はすぐにやって来ますわよ。異文化交流も考えられますけれど、逆に閉じたりすることや、新天地を開拓する事業は世界全体での取り組みになると思いますの。他に先駆けてノルマンでやって見るのもいいかとは思いますわよ」
エカテリーナの言葉に、セバスチャンは苦笑いを浮かべるのが精一杯だった。この女主人ときたら、すっ飛んだことを提案してくると思えば、理路整然とそれを説明してくる。それが国益となるかどうかの判断はここでは判断できないことだが、聞き入っていれば確かに一理はあるような気もする。
「ねえ、セバスチャン。お手紙を託したいのだけど、よろしいかしら?」
「それよか、お父上様からの陛下との結婚話を進めることを私は推さなくてはならない立場ですが、ナニカ?」
エカテリーナの言う手紙の宛先はわかっている。ウイリアム王、もしくは宮廷魔術師への送還魔法陣の意義を論じた文と、冒険者ギルドへの応援要請文だ。わかっているからこそ、セバスチャンは自分の本分を果たすためにあえて彼女の泣き所をつついてみた。
「あら、ノルマンの未来を切り開く道筋をつけておくのは、陛下のお役に立てることじゃないかとおもうんだけど、どうかしら?」
本人、それで嫁取りに少なからず貢献できると踏んでいるのだから、父親の不安などどこ吹く風だ。こじつけにしか聞こえないのはセバスチャンじゃなくても同じ筈だ。だが、相変わらずのおっとりとした微笑みは崩れることがない。
「はいはい、わっかりました、と」
セバスチャンはもう諦めて、エカテリーナが差し出した手紙を受け取るしかなかった。
●
ところは変わって冒険者ギルド
「そんなことが可能なのかい?」
「可能みたいですよ。もちろん、ムーンロードを使えるバードや陰陽師を用意しての話ですがね。地獄の空気を感知したらズゥンビ達も自然と集まるだろうっていっています。ですから、彼らがムーンロードを保持している人間達を襲わないようにする護衛を頼みたいんですよ。実際集まるのはズゥンビだけじゃないでしょうし、数もどれだけ集まるかわからないんですが‥‥お願いできます?」
「敵はアンデッド全般。数は不明。内容はムーンロードの術者の護衛と、護衛する対象は一人なのかい?」
「なんか私もよくわからないんですが、送還魔法陣の形成・発動には3人いるらしいので護衛対象は3人です。ですから、護衛する人間も最低3人以上いないと話になりません。 あ、一緒にムーンロードを使える人が来てくれれば、ありがたいことですが」
ギルド員が依頼にしていく様子を眺めていると、それにしても、とギルド員は苦笑を浮かべてセバスチャンに言ってきた。
「変わった姫様の執事っていうのも大変だねぇ」
「色んな仕事はしてきましたけれどね、今が一番楽ですよ。命をかけるような緊張もしなくてすむし、大きなことを動かして問われる責任もない。暇もしませんし、ちょうどいい」
ギルド員の言葉に、セバスチャンは半笑いの顔でそう答えた。
●リプレイ本文
●予想外の魔法陣
「これが送還魔法陣‥‥」
場所はこちら、と、山の頂上にたどり着いたとき、眼下に広がる『魔法陣』を見てミカエル・テルセーロ(ea1674)はその壮大さに呟きを漏らした。
山間に広がる盆地に刻まれる円はその土を掘って作ったのだろうか。何重にも引かれた円の間には細かい文様が、恐らく精霊碑文学でも使われる文字なのだうろが、びっしりと刻まれている。直径十数キロにも渡る魔法陣にも関わらず、それはまるで木版の上に道具を使って書かれたのと同じくらいに正確なものであったし、見る限り歪みも感じさせなかった。盆地という地形まるまる一つが一つの魔法陣となっているのだ。
「すっごいですね‥‥っ。まさかこんなにおっきいとは思いも寄りませんでした」
カメリア・リード(ec2307)は見るだけで飛び跳ねんばかりにワクワクした顔をさせながら、依頼主であり、この送還魔法陣の考案者でもあるエカテリーナを見た。彼女はカメリアがそういう顔をしてくれたのが嬉しいのかコロコロと笑うばかりであった。
「これだけの魔法陣は一朝一夕ではできないはずです。いつからこの準備を‥‥?」
ミカエルは驚きを隠せないままに、エカテリーナに尋ねた。
「いつからって‥‥1ヶ月くらい前かしら。課題が終わりをむかえる頃には、次に起こる問題をみすえて行動することは、よく父から言われましたわ」
一ヶ月前といえばまだ地獄での決着がようやく終わったとばかりに喝采を上げていた頃である。その頃には準備に取りかかっていたとなると、相当に世間に目が行き届いている人間だといえる。その先見の明たるや、さすがはマーシー一世の娘である。
「後学のために、この送還魔法陣の詳細を教えていただきたいのですが‥‥」
誰もが驚きを隠せない中、といっても大宗院透(ea0050)は母親のエリー・エルにつきまとわれて無表情ながら鬱陶しそうに、オラース・カノーヴァ(ea3486)はヒュゥとこの光景に口笛を吹き鳴らしながらだけれども。十野間空(eb2456)は努めて冷静にエカテリーナに尋ねた。
「一番外側の魔法陣はズゥンビが外に誤って出てしまったり、予定外の邪魔が入らないようにする防御陣、続いてズゥンビに歩いて集まって貰うわけにもいけないので、召喚陣。間が空いて、中央が月道を異界である地獄にアクセスするするためにムーンロードの魔力に方向性を与える魔力制御陣と、ムーンロードで地獄との間をしばらく固定するための魔力固定陣。具体的な魔法陣の成り立ちや効力などについては、本をお読みになった方が簡便だと思いますわ。私の図書館に今度ご案内いたしますけれど」
「私もその時はご一緒していいです?」
どれがどの魔法陣だか判断するために、盆地を眺める空の横で、『本』と『図書館』の言葉に引かれてカメリアつつつっ、とエカテリーナに問いかける。もちろん彼女が断る理由もない。カメリアはエカテリーナと会うのははじめてだが、本好きの匂いが互いから感じるのか終始仲の良い様子を見せていた。
「するとなにか、術者と俺達は魔法陣の中に入ってズゥンビ共が中央へ消えていく間護衛するってわけか。術者はどこに立つんだ?」
「魔法陣をちょうど三分する位置に一人ずつですわ」
「予想外ですね。もっと”規模”がこんなに大きいと術者を護りきれる”希望”がもてません。全員で3人護るものだとばかり思っていましたが」
「あら。ですから、募集人数は3で割り切れる多めの人数にしていたはずですけれど」
透の言葉に、何を今更、といった感じでエカテリーナが応えるが、なるほど、となど誰も納得するわけがない。
「ど、どうします? 立てていた作戦と大分違うことになりそうですが‥‥人数は5人ですから、3で割って‥‥割り切れませんね」
慌てて空が計算するが予定が崩れてしまったショックから、どう立て直せばいいのかわからず軽くパニックになる。
「ははは! そんなに慌てることでもねぇ。俺が一人で一カ所護ってやるぜ!!」
オラースは空とは対照的に大きな声を上げて、この予想外の事態を笑い飛ばすとそう言った。
「し、仕方ありませんね。それじゃ大宗院さんとミカエルさん。カメリアさんと私。それからオラースさんという分担で術者をそれぞれ護衛するということでよろしいですか?」
よろしいも何も、誰もそれ以外に作戦を立てることなどできなかった。
●予想外の戦闘
山の一つに光が灯った。月が中天にさしかかるその時を示す合図だ。
それと同時に術者達はおもむろに『ムーンロード』を唱え始める。彼らが銀色の光を纏うと同時に、大地に刻まれた魔法陣もまた銀色の光を放ち始めた。それはより強く、より高く立ち上っていく。
陣の中央部分が銀色の光で埋め尽くされると、眩しさからの錯覚のように暗闇が見えた。それが地獄の闇であることは、直接足を踏み入れた者にとっては直感的に気づくものであった。
気がつけば亡者達を召喚するという外側の魔法陣も同じように輝きの壁を作っていた。
冒険者達は今、その二つの光の壁に挟まれるという状態で『来客』を待ち受けた。
「私たちはいわば、あの世への水先案内人。カロンのような存在なのかもしれませんね」
ミカエルはそう言いながら、プラントコントロールの詠唱を始めた。みるみるうちに地面の雑草たちは生い茂り、連なり、結びつき、術者達を護る結界となす。その出来具合には、ミカエル自身も僅かながら自信を持つほどのできばえだ。
「この草木の結界でどれだけやりすごせますかね。矢の数が足りなさそうです」
透の呟きはミカエルをはっとさせた。
召喚陣から渡ってきた『来客』の人影がみえる。
1、2、5、10、30、100、いや、もっとたくさん。しかもそんな姿が外側の光の壁一面に続いている。全ての箇所で同じような状態が発生しているなら、その数は万をこえるかもしれない。
絶望的な光景にミカエルはしばし呆然とそれを見守ることしかできなかった。
しかし、それがかえってよかったのかもしれない。亡者達はミカエルや術者達の姿などまるで見えていないかのように真っ直ぐ進み、中央の地獄へと繋がる輝きの中に去っていってしまった。
と、突然、草木で作った結界の真上から気配が過ぎる。レイスだ。生命を持った存在に気づいたレイスは中央に帰ることなど忘れたかのように襲ってくる。
「残念、届かせません、よ」
次の瞬間には、草木の結界の隙間から吹き出すマグマによってレイスは焼かれて絶叫を上げていた。
「近づかせない、というよりは、こちらの存在に気がついた奴らを片端から片付けていく、というのが正しいようですね」
横では盛り上がる草木の横側から襲いかかるズゥンビを矢で射抜く透の姿があった。
襲いかかるズゥンビ達に立て続けに3本の矢が突き刺さると、襲い狂うズゥンビはそのままの姿勢で仰向けに倒れた。
「こりゃぁ、思ったよりやりがいがある仕事だなぁ、おい」
一方、別の場所でオラースは、轟乱戟を存分に振るいながら、獅子奮迅の働きを見せていた。
彼の場所にはミカエルがそうしたような術者を隠す障壁もなければ、空が考案したような結界も作れない。気配を隠すのに作られたという混元旛が術者の元ではためいているが、術者はムーンロードに集中しているので、逃げ隠れする余裕もない。そんな中で、術者を護るには、人一倍暴れ、向かい来るズゥンビを一体でも多くなぎ倒し、抜山蓋世のごとき気迫で、術者を覆い隠すことしかない。
「おおおぉりゃぁあああっ!!!」
轟音と共に全身の力を込めた戟がズゥンビの群れをまとめてなぎ倒していく。その威力に胴は分断され、骨だけのズゥンビは木っ端微塵に粉砕されていく。
どれだけ向かってくる亡者共をなぎ払ったか。レイスなど消えてくれるからまだしも、ズゥンビの死体は次第に積み重なってオラースの足許を危うくしていく。
後ろではカバーしきれなかった術者を襲うズゥンビに対してペガサスが猛攻を加えている。
「グレコっ!!」
オラースの呼び声に応じて、空を舞っていたグリフォンが舞い降りてその背を許す。次の瞬間には大きく飛翔して一瞬で、自らの主戦場を術者の元に変更する。
再びオラースの剛撃がズゥンビ達を吹き飛ばす。力を込めて勢いがつきすぎた戟は危うくオラースの手からすっぽ抜けそうになる。戦いはじめてもうどれだけこの戟を全力で振るったか覚えていない。徐々に筋肉が疲弊し始めていくことが自覚できた。
「こんなもんじゃまだまだ足りねぇぞ!」
だが、一度燃え始めた戦の熱は冷めやらぬ。オラースは剛気な笑みを浮かべて、そう言い放った。
その言葉に空気が揺れた。
「すごいですね。十野間さん、まさに結界師です」
カメリアがぱちぱちと拍手するのも無理はない。術者の周りに十数個。ムーンフィールドが円弧状に展開されている姿は滅多に見ることのできない光景だ。
「だいたい、思惑通りにはいっているようですね」
額の汗を拭きながら、そのできばえに空は満足の様子だった。なぜなら、ズゥンビ達はそれによって術者に気づくことなく、そのまま中央にある送還陣へと流れていっているからだ。これがなければ、相当の激戦を覚悟しなければならなかっただろう。ムーンフィールドが複数設置されている効果からか、懸念していた空を飛ぶレイス達にも効果はあるようで、浮遊する方向を曲げたり、もしくは何も気づかずそのまま高空を飛び去っていく。おかげで、周囲の亡者が漏らすうめき声は響き続けるが不気味なくらいのしずけさが空達の周りを支配していた。
「それにしてもこんなに大量に魂が漏れ出ていたのでしょうか‥‥あんな煉獄に終わることなく閉じこめられるのは確かに憐憫の情は隠せませんが‥‥」
空は何百という亡者の姿を半透明のフィールドの傍らから眺めて思わずぼやくのも無理はない。いったいノルマンのどこにこれだけの不浄な魂がいたというのか。
「ケロちゃんさんにも、ケロちゃんさんの役割が、きちんとあったのですね」
「もしかして、ノルマン以外からも呼び込んでいるとか‥‥」
その瞬間であった。
音もなくムーンフィールドの1つが落とした陶器のように割れ崩れた。
「!」
ズゥンビ程度なら、簡単なムーンフィールドを破るだけの力はないはずだ。もちろん物量作戦で来られた場合はその限りではないかもしれないが、少なくても今の今までは起こっていなかったのに!
「こっちに来ちゃダメですよ〜!」
カメリアが即座に走り込んでくる影に向かってバキュームフィールドを展開する。真空の壁はその影を一瞬悶えさせたものの、あっという間にこちら側に抜け出られてしまう。その早さはズゥンビの比ではない。
「グールかっ」
その正体を読み解いて、空もシャドウボムを発動させた。派手にグールの影がふくらみ弾けさせるが、痛みというもの自体感じていないらしくまったくスピードを落とさず、こちらに向かってくる。
「他のズゥンビさんもこっちに気づいちゃったみたいですっ」
争いの物音はやたらに響くのか、今まで進路を変えていたズゥンビ達のうちの一部は結界が破れたことにより、そのまま真っ直ぐ突っ込んでくる。
カメリアはすぐにライトニングサンダーボルトを解き放ち、グールごと、後続のズゥンビまでまとめて電撃で貫いた。それでも変わらず突っ込んでくるのをもう一度、渾身のライトニングサンダーボルトでなぎ払い、道を開けたところに、空がすかさずムーンフィールドで更に後が続くのを防いだ。
「きゃぁっ」
しかし、完全にこちらの存在を誇示してしまったことは失敗だった。
今まで静かに飛び去っていっていたレイスが数体下りてきて、カメリアや空、そしてムーンロードの術者にと触れていく。その衝撃は体の芯まで凍り付きそうなものだった。それに対して、カメリアのペットであるクオーツが盛んに吼えて、そのまま送還魔法陣まで追いやっていく。
「まだ気は抜けませんが、あと少しの筈です。頑張りましょう」
飛び交うレイスにシャドウボムで応戦しながら空は二人をはげました。
●
光は月が中天から下りはじめると一気に力を失い、光の壁は姿を消した。それが戦いの終わりの合図でもあった。
「うまくいきましたかしら?」
エカテリーナは朝方と何も変わらない笑顔のままで冒険者にそう尋ねたが、同じようにさわやかな笑顔で応えられる冒険者はほとんどいなかった。
「さすがにちょっと疲れました。こちらは怪我はありませんが、消耗が激しかったですね」
淡々としているのは透だ。矢の使い分けをした為か、ジニールに持たせている矢など再びあわせて数え直しをしながらそう報告した。
「こっちは、まぁまぁってところだな。忙しかったが、終わってみればいい肩慣らしだったぜ」
それに対して、オラースの護衛対象であった術者がやや恨めしそうに見つめているが、怪我はリカバーポーションで治ったんだからいいじゃねぇか、とオラースは笑い飛ばしている。
オラースのポーションはそれだけでなく、空とカメリア達にも役立っていた。
「こちらも若干、被害はありましたがなんとか凌ぎきりました」
「それは良かったですわ。これでズゥンビの報告例もずっと減りますわ。毎年収穫祭になるとおどろおどろしい話をちらりと聞きますけれど、それも心配なさそうですわね。ふふふ」
エカテリーナはそう言うと、冒険者やムーンロードの術者達一人一人に労いの言葉をかけて回る。そんな中で、ミカエルが呟いた。
「それにしても送還魔法陣は見事なものですね。どんなものか興味本位ではありましたが‥‥これが国家単位で使用されることになったら、未踏の地の探索や、‥‥戦争などにも大きく影響するのでしょうね。いや、そうなっていくんでしょうね」
「魔法陣もそう、魔法もそう。知識や技術というものは次第に錬磨されて洗練されて、人々の生活を支える大きな基盤の一つに変わっていく。それが本来の目的だと思いますわ。遠回りすることも多分にあるでしょうけれど‥‥今それが揃いつつある。今日のこの依頼の成果も将来、ノルマンの大事業を支える基盤になったと思いますわ。冒険者の皆さんにとって、将来はもしかするとすごく退屈な世界かもしれませんわね」
「さあ、どうでしょう。月の光の加護を持たない僕には、縁遠い思考、かな」
ミカエルが見上げた夜空には青く輝く月と満天の星が瞬いていた。