あなたの恋は何(どんな)色?

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2009年10月07日

●オープニング

「ねえ、セバスチャン。恋したことあります?」
 それは突然の質問だった。
 質問の主である女主人に、茶菓子である焼き菓子を差し出そうと準備していた執事の手は、ぴたりと止まって一言。
「今年の秋のように実りのあるものはしたことがありませんね」
 残念。
 女主人エカテリーナは、読んでいた恋の詩集を閉じてほぅ、とため息をついた。
 ここは彼女の読書室。世界中から集められた大量の書物だけで埋まる大きな館にある小さな部屋。一歩部屋を出れば、書棚が壁となり、書棚が通路をなし、書棚が階段を作る、そんな館の主人は、今日は恋にご執心のようだった。
 読書室に持ち寄られた本はといえば、恋を謳った詩人が綴る詩集。恋を題材にした文集。劇台本。人類学から見る恋愛、月魔法−特にチャーム−が精神に関わる仕組み、などなど。とにかく恋に纏わるものはかたっぱしらから集められていた。
 彼女はそうして文字通り寝食を忘れて本を読むのが趣味なのだ。そしてその知識を活かす機会があれば、活き活きと実現に向けて精を出す。そんな人間だった。
 レンヌの領主であるマーシー一世の息女であり、国王の結婚相手となりうる一人だと囁かれてはいるものの、当の本人は自分の知識が国や社会に貢献できる良い機会、程度に思っているのは彼女を少し知る人間ならば、誰もが認めるところでもあった。
 そんな彼女がここ最近テーマにしているのが恋らしい。
「私などに聞かなくても、答えは本に書いてあるのでは?」
「現実は空想より奇なり、と言いますもの。恋愛は人の心の問題ですから、書いてあることが全てだとはとても思えませんわ」
 だからって、隙あらば人の過去をほじくりかえそうってのか。
 セバスチャンの笑顔は半分引きつっていた。
「セバスチャンは、ここに来るまで諸国を冒険したり、街の重役になったり、色んな経験をなさっていたのでしょう? 恋も波瀾万丈かと思いましたのに」
「思われているより、ずっとつまらない人生を送っていたということです」
 それでもなお食い下がろうとするエカテリーナの視線をしれっと無視して、セバスチャンは焼き菓子を彼女のサイドテーブルに差し出した。そうすることによって一段落したような空気が生まれ、エカテリーナもそれ以上食い下がろうとはしなくなった。
「しかし、なんでいきなり恋なんです?」
「私も一人の女性ですもの。恋に興味はありますわ。それにもし陛下の結婚相手として選ばれるようなことがありました時、精一杯愛したいですもの」
 読み終わった詩集をふくよかな胸で抱きしめながら、夢を語る少女のようにエカテリーナはそう言った。
 これが単なる夢見る少女なら、そうですね、で話は終わるのだが、生半可に現実味のある人間の言葉となると、受け取る側としては、はいそうですか、ではすまない感情が複雑な感情がわき上がる。
「というわけで色んな恋愛の話をもっと聞きたいですわ。お話しする方も、自分たちの積み重ねたものを再確認できますし、私は色んな恋愛の形を聞くことができる。互いにとってプラスになる話だと思いますの」
 なにやら納得のいかない気分に陥っていたセバスチャンであったが、エカテリーナが重ねた言葉に、なるほど、と頷いた。
 恋愛の形が人それぞれであることは、本を読むまでもなくわかりきったことである。
 それぞれが、どんなところで自分が恋をしていることに気がついたのか、あるいは、その恋をどうやって深めていったのかを言葉にして表していくことは、自分たちの思いを形にしていくということは自身の心を再確認するという意味ではプラスになるかもしれない。
 また、出会いや過程を思い出すことで、相手への思いを再確認し、より深まる恋も一つや二つあるかもしれない。
 この変わり者の女主人も、様々な人と出会って話を聞くことで、知識欲を満たすことができるだろうし、陛下と結婚の話が現実味を帯びたときにも人間的な付き合いをしてくれるかもしれない。
 今のままだと、エカテリーナは陛下との結婚話が現実になったととしても、新しい本が手にはいると国王そっちのけで読書にふけるだろうし、その知識を現実に利用することになると、これまた国王そっちのけになってしまいかねない。
 ここで人生勉強して、互いを思いやる心の種でも植わってくれれば、エカテリーナという人間にとってもメリットになるだろう。
 そうと決まれば話は早い。
「わかりました。冒険者ギルドに行ってまいります」
 執事は一礼すると、速やかに部屋から退出した。

 というわけで。
 惚気話ができる方、絶賛募集中。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec0828 ククノチ(29歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec4924 エレェナ・ヴルーベリ(26歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文


「はじめまして。公女殿下」
 丁寧に挨拶するクルト・ベッケンバウアー(ec0886)をはじめとして、皆それぞれがエカテリーナへ挨拶をする。冒険者といっても出自も積んできた経験も大きく違う。挨拶一つとってみてもそれぞれの個性が出ているようであった。
「それにしてもこの書籍の数は‥‥深窓の令嬢と言うよりは深書の令嬢と言ったところか」
 ククノチ(ec0828)は通ってきた廊下や、今も隅にかためられている書棚を見てぽそりと呟いた。
「それじゃ、早速、はじめましょうかしら。話す順番が来るまでは自由にお過ごしくださって構いませんわ。そうそう下のホールでは。ライラ・マグニフィセント(eb9243)さんが作ったお菓子も用意していますから、そちらもどうぞ」
「あたしの自信作だ。公女様も是非食べてほしいのだね」
「はい、もちろん。それでははじめましょう」


「さて、恋‥‥ですか。言葉にするのは難しいですね」
 最初の話し手はクルトであった。横にはその恋人でもあるエレェナ・ヴルーベリ(ec4924)も同席している。
「初めて会った時は悲しそうな様子が気になりました」
「ちょうど、思い切り沈没していた時だったからね。歌おうとすると、声が詰まって喉がやけて。私は吟遊詩人だ。歌えない鳥に何の意味がある? そんな風に自己嫌悪していた」
 思い返すようにしてエレェナが呟いた。
 その瞳をクルトは見つつ、言葉を続けた。
「それから、話していく内に可愛い人だと知る事ができました」
 その言葉に、エレェナは思わず顔を赤らめながら照れるように笑った。
「クルト‥‥」
「それで、エレェナさんの方はクルトさんのどこが好きになりましたの?」
 恥ずかしがるエレェナにそっとエカテリーナが尋ねる。
「私はね‥‥本当に最初の方、落ち込んでいた時にね『疲れたなら休めばいい。けれど、いつか歌を聞かせて欲しい』っていう言葉がね。驚くくらい素直にこの身に染みた。それから歌を思い出すまで、彼のこと、彼の言葉を何度も思い出したよ。そうしている内に、自然と前向きになれたし、ある意味、彼が頭から離れなくなったとも言う」
「そう。クルトさんの方はそんな身に染みいるような出来事があったのかしら」
 今度はクルトに向き直ってエカテリーナは尋ねた。その質問に彼は首を横に振って答えた。
「何度めかの逢瀬、日常の積み重ねのような別れの中が積み重なる内に、不意にまだ一緒にいたいと。彼女に惹かれてるって事に気づいたときにはもう抑える事なんてできなかった」
 その言葉にくすりと笑ったのは他でもない、エレェナの方だった。
「先に伝えてくれたのは彼の方だけど、私も、もう如何しようも無かったね 」
「恋は不意に始まると言いますけれど、互いが同時に、同じ早さで落ちていくものでもないのですね。それでもこうして、お集まりになるなんて不思議。ねぇ、恋をしてから何か変わりました?」
 エカテリーナの言葉に、二人は少しだけ視線を交わす。
「彼女をもっと知りたいし、もっと彼女に知って欲しいと思うようになった、かな。毎日が楽しいよ。世界の色が変わった。っていうのかな」
「私はね、永遠の愛とか、絆とか誓える性分では無いんだ。けれど、傍に居たい、共に在りたいと1日、1刻でも長く思って居られる自分で在りたい。深まりゆく想いが欲しい。そう思うね」
「ふふふ、肝心なところは繋がっていらっしゃるのね」
 二人の言葉を聞いてエカテリーナはくすくすと笑った。


「次は私の番か‥‥」
 お茶をすすりながらククノチはそう話したが、緊張が高まってきているのは声を聞いても明らかであった。
「それで彼氏は‥‥この子かしら」
 エカテリーナは一緒にお茶を飲むキムンカムイのイワンケを見つめてそう言った。だって彼女、イワンケの後ろに隠れているものだから。さすがに違う、とは言い返すものの小さな体はイワンケの影。
「予め申し上げておくが、私の話は甘くもなければ、楽しくも無い。ご了承頂きたい」
「どんなお話でも喜んで聞かせてもらいますわ」
 しばしの沈黙が流れる。イワンケの後ろでククノチは、喉が渇くような感じを覚えた。それを唾を飲み込んで僅かに潤し、言葉を紡ぐ、
「その。話に聞くと普通胸が苦しくなるそうなのだが。私の場合、喉が…」
 今、しなやかで真っ直ぐな心を持つ白銀の若獅子を思い描くだけでも喉がこうして涸れてくるのだから。
「元々、口は上手くない。けれど、時が経つにつれ余計に言葉が出なくなってしまった」
 精一杯の、でも少しかすれた声でククノチは言った。
「言葉は拙くてもいい、言葉を探す事で伝わっているのだとその御仁は言うが、目の前に居ない今でさえ 目新しい事も、心を揺り動かすような言葉も口にできずにいる」
 なら何を伝えたら退屈せずに歓んで貰えるだのろうか。とククノチは言った。
「恋河ってしってるかしら? 恋が深く重いものと表現するときに使う言葉なのだけれど。あなたはそこを漂っているのね」
 川底に足を取られて、流れに押し流されそうで。どうにも思い通りに進まない。
「恋河に漂う‥‥私はどうすればいいのだろう」
 エカテリーナの声は聞こえなかった。
 恋の水先案内人はいないのだ。


「お菓子はどうだったのだね?」
「季節感があってとてもお洒落なものだと思いましたわ。お店、きっとみんなが注目しているお店なんでしょうね」
 次はライラの番であった。エカテリーナの言葉にライラは嬉しそうに微笑んでありがとう、と言った。
「さて、あたしの馴れ初めは、国王陛下の妃選びの一端で橙分隊の結婚計画と言うのがあったのさね。その中で種族が同じで年齢が近かった事から恋人のふりをしたのさね」
「フリが本当の恋にかわっていくのね。どんなところに惹かれたのかしら」
「彼は真直ぐだし、飾らない方だし、結婚計画の中で色々と触れ合っているうちに、惹かれたんだが。まぁ、その、イヴェット卿は心配されたのかな、色々と忠告をくれたよ」
「ふふふ、イヴェット様は女性には色々気を遣われる方ですものね」
 エカテリーナは知っているかのようにくすり、と笑った。公女とブランシュ騎士の分隊長だからどこかで接点があるのかもしれない。
 恋に至るには色んな人が関わってくれていたな、思い返しながら、ライラは答えた。
「恋仲になって何かかわりました?」
「大きく何かが変わるということはないのだね。私たちは、彼が帰るべきところを護る、それがあたしらの関係になるさね。ブランシュだから、大を護る為に小を犠牲にしなければいけない、そういうときに小の方を護る事で彼が任務に専念できるように。」
「まぁ、それってもう恋の範疇を超えて、立派な夫婦ね」
「うん、何か変わるといわれても‥‥私たちの関係は変わらないことだからね。一緒にいて二人とも自然体でいられる事。なのさ」
 ああ、なるほど。とエカテリーナは得心したようであった。


「私の彼はセラって言うんです」
 アーシャ・イクティノス(eb6702)の恋話はそこからはじまった。
「出会っていきなり恋に落ちましたの?」
「そこまで早くないですよぉ。でも、カッコイイ人だなとは思っていましたけれど。でも頭の片隅にあって‥‥」
「それがどんどん膨らんだ、と」
 エカテリーナの指摘に、アーシャは「そうなんですっ」と勢いづいて言葉を返した。
「バレンタイン時に冒険者仲間と恋の話をしていたら、セラのことが頭に浮かびました。しばらく見かけないなぁ、どうしているんだろうと思ってたら、だんだんと頭から離れなくなって‥‥去年の3月に告白しました!」
 エカテリーナは呆れたように笑っていたが、アーシャはもうどうにも止まらない様子で続ける。
「セラったら、最初に会ったときからずーっと私のことが好きだったなんて! もっと早く告白しておけばよかった〜」
「そう。その人は幸せですわね、最初から好きだったその人から告白されるなんて」
 エカテリーナのその言葉にアーシャは染めた頬を、手で覆いながらいじらしく照れる。
「考えたらそうですよね〜。しかも結婚までできたんですから。あ、思い出すだけで胸がきゅーんとします」
「結婚‥‥急転直下ですわね」
 ほんの少し前まで告白の話をしていたのに、胸の高鳴りはあらゆる思い出を飛び越えて、求婚のその時まで移動したようだ。
「セラが、父親代わりの人に『娘さんを俺にください。一生幸せにします』と言ったくれたんですよ〜。もー、横で聞いていたけど赤面でした」
「本当に熱い恋が実った瞬間ですわね。アーシャさんにとって恋ってなんでしたかしら?」
 少し間をおいて、気持ちが落ち着いたところで、エカテリーナはアーシャに尋ねた。
「視界が開ける感じ? 彼の目線で物事を考えると、見えなかったものが見えてくる。楽しい事がもっと楽しく感じられる。一緒にいるだけで、そこの空気すらも愛しく感じる。そんな感じです」
 熱を帯びた夢はしばらく覚めることはなさそうだ。今は会えない彼に、心で繋がっているアーシャの姿を、エカテリーナは優しく見守っていた。


「その、この場をお借りしてお話ししたいことがあるんです」
 その言葉に目を丸くしたのは、エカテリーナもアストレイアも同じだった。そんな中で十野間空(eb2456)はアストレイアに話しかける。
「最近、アロワイヨー夫妻の結婚披露宴に参列し、領主の結婚が領民に与える安心感について再認識したんです。アストレイアさんにもそれを知って欲しくて」
「恋話、というわけではなさそうですわね」
 話初めを聞いて、エカテリーナはお邪魔になりそうかしら。とわざわざ席を立つのは慌てて空が収めた。
「私の恋の相手は、このアストレイアさんです。私達は、力無き民人達が安寧を得て、平和に暮らせる世の中を作り出したい。そんな理想を目指す志を持つ者同士惹かれあったんだと思います」
「他の人と違って、高尚な視点から惹かれあったのね」
「人々が傷付く中で、治世者の権威が落ちる事を恐れず人々が自らの身を守れる事を最優先に考え、自らの力及ばぬ時に、守るべきモノを守れない事を恐れ、その事を悲しむ。そんな彼女に心惹かれていったのです」
 空の言葉にアストレイアの顔色は段々と曇ってくる。
「アストレイアさん?」
「私は最初から領主ではありませんでした。一騎士としてできる限りの豊穣と平和を民衆に約束しました。だけど、今は‥‥何かを為すと何かを犠牲にしなければならない出来事が多すぎて」
 アストレイアの顔は真っ青だった。その顔色が領地経営や領主としての在り方がいかに難しいかを物語っていた。
「あなたが側にいてくれることは、嬉しく思います。だけど、できるなら一人の人として一緒にいたい。それもできない自分‥‥」
「少し休ませる方がいいですわね。領主と座に着いたことに、未だについていけていないようですわね」
 震えるアストレイアをエカテリーナはそっと支え、空に引き渡した。
「彼女は領主にむいていないみたいだわ。伴として過ごすなら、その事も考えてあげなさいな」
 空はそれ以上、何も言わず、ただエカテリーナに礼をして、部屋から去っていった。
「本当に恋の形は色々だわ」


「えー、夫婦なのに、一緒じゃないのぉ?! 亞莉子、マジショックってカンジぃ!」
 大宗院亞莉子(ea8484)の悲鳴にも似た言葉を他所に、無情にもばたん、と扉は閉められる。
「あら、夫婦でしたら一緒でもよろしいですのに」
「いいんです。それに夫婦というのは、郷の掟でした儀式的な結婚によるものですから」
 大宗院透(ea0050)はしれっと言ってさっさと自らが座るべき席についた。
「それでどんな恋話を聞かせて貰えるのかしら」
「私は恋などはしたことはありませんし、特に恋を否定するつもりはございませんが、結婚においては必要ないものです」
 何のための恋話か。
 それを見据えた上の透の一言は、エカテリーナの笑顔を凍り付かせた。
「恋は熱しやすく冷めやすいと聞きます。そんなものは必要ないでしょう」
「まあ、冷静なお人なのね。でも、他の皆さんは恋をして見るものや感じるものが変わったとおっしゃいますわよ」
「物の見方を変えるために、恋をするわけでもないでしょう。結婚は長い年月を共に過ごすもの‥‥。その場合に必要なものは信頼と信用です」
 その言葉含まれる意味を味わうように、エカテリーナはしばらく押し黙ったまま、お茶を口にしていた。
「ねーぇ、まーだぁ?」
 と、そこで外から亞莉子の不機嫌そうな声が聞こえてくる。すると透の玲瓏とした顔つきに微笑みが灯った。
「やれやれ。相変わらずですね。変な依頼はすぐ受けるし‥‥」
 透は立ち上がるとエカテリーナにむかって一礼した。
「陛下とご結婚する場合は常に信頼、信用される人となるために精進してください」
「その言葉、心にとめておきますわ」
 扉をあけると、待ってましたとばかりに、亞莉子が飛び込んで透に抱きついてくる。
 それにほんの僅かに笑顔を浮かべる透の顔に、エカテリーナは納得の微笑みを浮かべていた。


「あたしとぉ、透はぁ、ちゃんと結婚してるカンジなんだけどぉ、透が黒の神聖騎士になっちゃったのよねぇ。あたしは義母が白のテンプルナイトなのにぃ。あ、でもぉ、白と黒の夫婦なんてぇ、何か神秘的ってカンジぃ」
 亞莉子はくるくると表情をかえながら、透との付き合いについて語っていく。
「乗り越えるものはありますけれど、確かに神秘的な付き合いですわね。でも、ご主人は恋は熱しやすく冷めやすいものって仰っていたけれど」
「え〜。透ってば、そんなこと言ったのぉ? あたし、ちょーショックなんですケドぉ」
 エカテリーナの言葉に、亞莉子は大きく不満の声を上げた。
 が、それも僅かなことで、でも、彼ともっといい恋ができるっていう証拠だし! とポジティブな思考をエカテリーナに見せつける。
「恋はね、自分を綺麗に、そして強くしてくれるってカンジぃ。恋をするとぉ、その人に振り向いてもらうためにぃ、色々な面で努力するでしょ。本当に恋している人はぁ、おばあちゃんになっても恋してるはずだよぉ」
 その言葉にエカテリーナは、それもそうね。と答え、いくつか思い当たる節があるのか、天井に目を泳がせている。
「公女様は恋してるぅ?」
「してないですわね。ですからこうやってお話をうかがって想像を膨らませているんですもの」
 亞莉子はくすりと笑うと、だーめだめ、と言って立ち上がる。
「恋に理由なんてなくてぇ、感じるものってカンジィ。恋を知るためには恋をするのが一番だよぉ」
 そしておもむろに出口への扉を開け、その外で何をするでもなく待っていた透をみてにんまりと笑って抱きついた。
「ま、素敵な恋をしてってカンジぃ?」

「素敵な恋ね‥‥くす。でも色んな形の恋があることは非常に勉強になりましたわ」
 静かになった部屋でエカテリーナはそう独りごちた。