盗賊達の収穫祭
|
■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月08日〜10月13日
リプレイ公開日:2009年10月15日
|
●オープニング
「何しに来よった、この盗賊めっ」
村の長らしき老人は杖を振りかざして、村の入り口に現れた男達を喝破した。
男達は見るからにならず者の集団だった。どこに行くにしても全財産を持ち歩く習性からだろうか、貴族の身につけるような絹の衣服を身につけ、手には大きな魔法の文字が刻まれた指輪を10の指それぞれにはめて、更に冠やらトーガなどそれぞれに纏い、更には鋭利な武器を手にしている。
風体はいくらよくても、ギラギラと欲望に満ちた瞳と、薄汚れた髭面からはならず者の雰囲気しか漂ってこない。
「じいさん。まぁそう怒るなよ。こっちは交渉しに来たんだ」
「交渉じゃと?! はっ、笑わせてくれるわ。ワシらの品物を強奪するのが交渉と呼ぶのか?」
老人がもう一度杖を振りかざすと、後ろに控えていた村の若者達も手にした武器をもって大いに威嚇をしかける。
しかし、盗賊はいたって冷静であった。
「俺はこの近辺の村々をこうやって訪れている。聞いているぜ。税率下がって、今年の収穫祭は派手にやるんだろう?」
「貴様らには関係ないことじゃっ!」
何度も同じ光景を目にしてきたらしいその落ち着きぶりに、焦っているのは老人や村人の方であった。
パリから南東に位置する、パリの食料庫とも呼ばれるブリー高原一帯を治めるユスティース領の税率が大きく下がったことは事実であった。
ブリー高原地帯はパリの食料庫でもあると同時に、その作物を元手に、ノルマンでも屈指の軍備力を有していたのは先代の話。
ユスティースの領主が前領主の娘アストレイアに代わってから、改革の一端として全国でも屈指だった税率が大きく下げられたのである。
「関係あるさ。俺らとみたいなゴロツキを退治するにも騎士団の力は借りられねぇ。税率が下がったっていうことは軍備も低下させるっていうことだからな。自分たちで何とかするしかない。このところ、俺たちと似たようなのがよく来るようになっただろう」
突きつけられる事実に長は歯を食いしばって睨み付ける。
そう、村自体は裕福になった。しかし、それは自衛策を自分たちで用意する必要性を突きつけられたことも事実であった。
「俺らはただ奪うだけの集団じゃねぇ。このあたりのゴロツキくらい『管理』してやる。その代償に、俺たちにも収穫祭の喜びを分かち合わせてくれるだけでいいんだから」
収穫祭の喜びをわかちあうとは聞こえは良いが、実際は作物を引き渡すことを意味している。
「逆に言えば、ここらのゴロツキと俺たち全員が手を組んでお邪魔する可能性もあるってことだが‥‥賢くない選択だと思わんかね。働き手が減るのは困るだろうに。しかも俺たちを運良く全滅させたところでゴロツキは冬風とともにいくらでも流れ込んでくるぜ?」
うぅむ。
男の話は少なからず村人の、そして老人の心を揺らした。
「‥‥我々を襲わず、守ってくれるというのじゃな‥‥?」
「約束は破らないさ。こっちも商売だしな」
そして
村はならず者達の提案を承諾した。
「おい、みんな喜べ。豊穣を大いなる母とこの村に感謝しようじゃねぇか! 今宵は俺たちも収穫祭だっ!!」
●
彼らのことがユスティース領中枢で話題に上らないわけはなかった。
「従属を決めた村は12。クロミエ地方の村7割を超す割合ですな。逆に3つの村が抵抗して、壊滅状態となっています」
「退治はできんのか」
「騎士団の主戦力をクロミエに回して、警戒に当たっていますが、接触できた試しがありません。グリフォンなどの影を確認していますから、それらをペットとして飼い慣らし、こちらの動きを偵察しているように思います」
「頭いいなぁ。もうどうせなら、必要悪として受け入れてしまったらどうです? 事実、守られている村では他所の流れ者が村を襲うケースはなくなっているんでしょう?」
「なにを馬鹿なことをっ。ゴロツキをのさばらせるおつもりかっ」
「税を引き下げて軍備費を削ったらこうなることは目に見えているでしょう。元々ユスティース騎士団は大規模組織ですからこれを縮小分散化したって戸惑いが生まれるのは仕方のないことです。まぁ数年もすれば、地方分散した騎士組織に騎士も民衆も慣れて、こんなケースは減るでしょうけれども」
「未来は未来の話です。今なんとかせねば人の心は救えません」
中枢をなす役人達は互いに意見を述べあったが、結論は生まれなかった。
役人達の視線は自然と領主アストレイアに集まる。
「‥‥アストレイア様。いかがいたししょう」
長い沈黙の後、アストレイアはゆっくりと口を開いた。
「自分たちの意向に沿わない民衆を傷つけるような相手をのさばらせるわけにはいきません。私たちが彼らを捕まえられないというのならば、冒険者に協力を依頼し、騎士団も冒険者に連携するという形で動きます。いいですね」
「了解しました」
「確かに我らがユスティースにはいてはならない存在ですからな」
「冒険者に頼らなくてはならないことは、ユスティース騎士としては恥ずべきことですが仕方ありません。全力を尽くします」
「奴らの収穫祭は今度で終わりにさせましょう!」
●リプレイ本文
●
「アストレイア様も皆さんの身を案じて行動されているところです。どうか教えて下さいませんか」
ウェルス・サルヴィウス(ea1787)の言葉に、老人はしばし押し黙っていた。
ここはクロミエ南部にある、盗賊たちに従属を約束した村であった。ウェルスは騎士団と移動を共にしながら、村を訪れ、そうしては村長に話をうかがっていた。
「盗賊団というが、ほとんどはこの周辺で職を無くしたり、家族を亡くしたりした若者達じゃよ」
「デビルの襲撃によってかな?」
そう尋ねるのは同じく村を回るマクダレン・アンヴァリッド(eb2355)だ。
「そうじゃ。実際に盗賊たちの中心にいるのはたぶん、あんた達と同業だろう。たった二人の男じゃよ」
同業、とは冒険者のことを指すのだろう、とウェルスは感づいた。
「二人の、男?」
「さよう。ここに来たときも他の若者とは気色の違いを感じたわ。一人は血気盛んそうなジャイアント、もう一人は静かながら鬼気迫るような気を宿した人間の男じゃったよ」
一度、冒険者ギルドで照会してみようか。あたりは何かあるはずだ。ウェルスはそう考えた。
「でも、大丈夫さ。領主様がもうこんなことがないようにと策を講じてらっしゃるからね。若者を中心とした自警団の設営や隣村との連携なども考えられていらっしゃる。ほら、ここに」
そう言って、マクダレンは書簡を老人に手渡した。 しかし、受け取る老人の顔は浮かぶ様子もなかった。
どこかで焚き火をしているのだろうか、立ち上る煙を見上げながら呟いた。
「蟻がどれだけ群がっても、虎には勝てんよ‥‥」
●
「グリフォンの影は見つけることはできませんでした」
「斥候は見つからずじまいですか‥‥」
大宗院透(ea0050)も報告にラスティ・コンバラリア(eb2363)は残念そうな顔をした。
「普段ならもう少し影を見ることがあるといっていましたのに、今日に限って姿を見せないとは‥‥感づかれたかもしれませんわね」
夜の荒野を見渡しながらクレア・エルスハイマー(ea2884)は呟いた。
「バーニングマップで確認する限りは、この先の荒野に身を隠しているのは間違いありません」
ラスティは灰になった地図を見つめてそう言った。地図はこの周囲をしっかりと現したもので、数キロ範囲内の様子が克明に描かれていたものであった。ここまで絞り込むのにももっと縮尺の高い地図が何枚も必要になったが、領主が自分のところの政務官に依頼し用意しただけあって、彼女たちが十二分に絞り込むことができた。
そう、『盗賊団の居場所』は目の前だとバーニングマップは告げているのだ。
「そっちでは見えるかな」
『いえ、こちらもとうとうグリフォンの影は見ることができませんでした。休んでいるか、別の地域を哨戒していた可能性もありますね』
マクダレンの問いかけに答えたのはこの場にいない十野間空(eb2456)であった。彼は、アストレイアと共に、正面から盗賊団を攻撃する騎士団の元にいるのだ。冒険者達とは少し離れた岩場に騎士団も身を潜めている。
「おそらくあの岩陰あたりのようですわね‥‥」
時間はもう月が昇り始めてしばらくたった頃だったが、視力が人一倍よく効くクレアは地図の位置が示す岩場をもう見つけているようだった。他の人間にはセシリア・ティレット(eb4721)を除いてまだしっかり把握できているものはほとんどいない。
「弱みにつけ込む、盗賊団か‥‥効率はいいだろうな‥‥」
戦の準備を早くもはじめながらウリエル・セグンド(ea1662)は呟いた。
「効率はいいかもしれませんが‥‥許されざる行いですね」
セシリアも準備を進めながら、ウリエルの言葉に応える。
「全員、準備は良い?」
ラスティが一同を見渡し確認する。
全員が一世に頷いた。
『こちらも‥‥準備できました。いきます』
空から、いや、騎士団からも了解の返事が届く。
もう迷うことはない。後は進むだけだ。
●
岩場には、外からは見えないようにしていくつものテントが並んでいた。いくつかのテントで囲むようにしてたき火があり、男達が警戒をしていた。
その空気を切り裂くようにして一本の火矢が打ち込まれた。それは手近なテントを打ち抜き、あっという間に火の花を咲かせる。
「敵襲だっ!」
男達の行動に乱れは少なかった。盗賊達はテントから速やかに這い出すと、最初から示し合わしたかのように周囲を確認し始める。
「全軍構えっ。こちらに来る者はネズミ一匹逃すなっ」
アストレイアの力強い声が響く。下手に岩場に突入しては隊列が乱れ、逃げる隙を生むと判断したのであろう。整列した兵士達が足並みを揃えて岩場をくぐり抜けてくる。
「来たぞ、騎士団だっ」
その様子を素早く見取った盗賊は、叫んだ。
「南側からだっ。北へ逃げろっ」
盗賊達が逃げようと動き始めたその瞬間、岩場の頂点から凛とした声が響いた。
「お待ちなさいっ」
「誰だっ」
盗賊達が一斉にふりむくその目線の先に、クレアは立っていた。
「あなたたちに名乗る名前はありません! 己の力に溺れる者達よ、己が不明を悔いる時がきましたわ」
「ええい、あんなのに構ってる暇はねぇ。さっさと行くぞ!」
「どこにも、行かさない‥‥」
喚く盗賊の影に軍馬にまたがったウリエルがすでに懐に入っていた。恐怖に歪む盗賊の目を見据えながら、ウリエルはクレアの魔法によって炎に身を包む剣を突き出した。
あっけない。
「ちくしょう、冒険者か。まともにやりあうなっ。かわしていくぞっ」
「かわす? 面白い言葉ですね」
セシリアが真面目にそう言ってのけ、スクロールに込められていた『ラストイードゥン』を発動させる。途端に夜風に錆ついた匂いのする風が吹き荒れ、盗賊達を巻き上げていく。
「錆びついて‥‥ちくしょうっ」
錆の匂いに気がついた盗賊がわめいて、自らの得物を手放す。ラストイードゥンの餌食となったその得物は風と共に舞い上がり、粉々の錆びになって散っていくのだ。
「あなたは魔王を見たことがありますか? 地獄帰りの慈愛の神の使徒セシリア・ティレットです、お相手よろしくお願いしますね」
得物を失った目の前には、凄絶な笑顔を浮かべるセシリアの姿。武器すらないのに、勝負になるわけがない。それでも逃げようとする盗賊をその背から叩き、これもあっという間にねじ伏せられる。
「逃げ場はありません‥‥」
透の矢が立て続けに弓から放たれ、逃げようと懸命になっている盗賊の背を捉える。
それでもまだ機会が少しでもあるなら、と、盗賊たちは集中して狙われないように残った者たちはばらばらの方向へ散っていく。
それを透が召喚した影羅で妨害したり、後ろから、クレアがライトニングサンダーボルトで狙い撃ったり、騎士団が捕獲に回ったりするとあっという間に、盗賊たちは全て縛につくことになった。
その数15名あまり。聞いている数には少し足りない。
「なんだか、あっけないな」
「中核層がいないのよ‥‥ここにいるのは雑魚ばかりだわ」
ラスティは周りを油断無く、見回しながらそういった。
確かに武器のレベルや動きなどみても、とてもじゃないが冒険者レベルの洗練された動きとは思えない。
「それに、私たちを見て、即座に逃げることを選択した。規模もしられていないはずなのに。何かしら、こちらの動きをしっていたはずです。それを確認しないといけませんね」
『皆さん、西側を見て下さいっ』
ラスティが捕獲した盗賊に尋問をしようとしはじめたて瞬間、空からテレパシーが飛んでくる。
言われた通りに西を見れば赤々とした光が目に飛び込んでくる。それが何かが盛大に燃えている。距離からして、ちょっとやそっとのレベルのものが燃えているわけではないだろう。村全体が火に包まれなければそうならないはずのものだ。
「なんてことだ。聞き込みをした村だ‥‥」
マクダレンは愕然とした。
「どうして!? バーニングマップでは確かにここに反応があったはずなのに」
「盗賊は二手にわかれていたんだろう。こちらの動きが読まれていたとしか考えようがないね。内通者がいたのかもしれない」
一瞬だけ、皆の頭の中に疑惑がよぎる。
「ここに内通者なんて、いない‥‥。とりあえず、村に向かった方が、いい」
いやな予想を振り切るように、ウリエルは馬を巡らせて、赤々と光る方向へと駆けだした。
『騎士団もそちらに進みます。隊を整えるので、そちらより遅れるかもしれませんが‥‥先に行って確認をお願いします』
空からテレパシーが入る。テレパシーの声は漠然としていて、感情もつかみ取りにくいが、それでもところどころに混じる間が落胆を感じさせる。
村までの足取りはなんとも重たいものであった。
●
「なんてひどい‥‥」
村は壊滅的だった。収穫を終えて積まれた麦穂は全て燃えて、いまも、ちらちらと炎を上げていた。石造りの民家は煤で真っ黒に汚れ、あちこちに炭の固まりが転がっていた。それが人間であったとは松明の明かりではきちんと理解できなかったが、それはそれで幸せだったかもしれない。
ラスティは捕まえた盗賊を引きずり出して、問いかけた。
「答えなさい。これは貴方たちの仲間がやったことですか」
口を封じられた男は、黙って頷く。
「今まで他の従属した村は襲ってはいなかった。これは予定していた襲撃ですか?」
それには男は首を振った。
「何のため? 裏切ったと思ったから?」
答えはイエス。
「つまり私たちが来たことを何かしらの方法で気がついて、自分たちの情報を喋ったと思った盗賊は一部を残して、この村を懲罰のために襲った、と。無法者はどこにでもいるとはいえ‥‥これは最低ですわ」
クレアがうなだれるようにしてそう呟いた。
「最初から、何か自分たちのことで接触があったら知らせるように取り交わしがあったのでしょう。それに気づけなかった私たちの方が悪いのです‥‥」
合流した空も遺憾を意を示しながら、この惨状に拳を握りしめるばかりであった。
「いつまでも悲しんでいては、誰も浮かばれません。追悼のミサを‥‥行いましょう。同じことが他所で起こらないよう‥‥そして、亡くなった方々が聖なる母のもとで安心して憩えるよう、祈りをこめて」
「そうですね。これでこんな悲しいことは終わりにしなければなりません」
香が散らされ、村の中央に集められた遺体を集めては聖水を振りまいていく。
全き救い 愛と赦し
我は買いて 汝が物とす
この良き賜物 受けし汝は
如何なる応えを 我に為すや
その歌声をあざ笑うかのように、どこか遠くでグリフォンの鳴き声が、夜の帳をつんざいた。
「‥‥次こそは必ず」
それは皆が共通した思いであったのかもしれない。