救いの瞳(邪眼)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月23日〜11月28日

リプレイ公開日:2009年12月02日

●オープニング

 邪眼の持ち主と呼ばれ、恐れられていたシフールの少女がいた。名前をルフィアという。
 その目に睨まれれば、どこに逃げようが、どこに隠れようが、たちまちのうちに命を落とすという。
 実際、彼女の故郷は原因不明の死者が山と積まれ、その集落を失っていた。それは集落の人々が邪眼の持ち主と彼女を恐れ、蔑んだことが少女の恨みをかったのだとも。
 だから、その瞳は見えないものも見通し、人の心の奥や、誰も知り得ぬ過去を見通すのだとも言われていた。
 そんな少女も、白の教会で保護され、自らを制することを学ぶうちに、邪眼と恐れる者も自然と減っていった。
 だが、今度は別の問題を抱えることになっていた。

「その『見通す』力をあてにして、人がひっきりなしに教会を訪れる、と」
「はい。ルフィアさんの『見る』力は、病気の原因、その病気を治す薬草の所在、亡くした物のありか、行方不明になった人の居場所、他人の隠し事、場合によっては今後起こりうる事故なども予見することもできるみたいです。その力を求めてくる人は日増しに増えてくるばかりで‥‥」
 まるでセーラ様の御使いのようだ、と受付員は思った。その力が本当なのだろう、依頼にやってきたルフィアを保護してきたというシスターの顔色は深刻そのものだった。
「朝早くから、夜遅くまで、とにかく私たちが仕切らなければそれこそとめどなしに救いを求めてくる人がやってきます。ルフィアさんは疲れ果てて、やせ細ってしまっています。だけれど、それが自分の使命だから、と‥‥」
 ルフィアという子はまだ10にもならない年だという。そんな子が、自分の使命だから、と、痩せ衰えるまで人に尽くす覚悟はいったいどこからやってくるのか、受付員は想像もつかなかった。
 それをシスターに尋ねるとシスターは顔をうつむき加減にしたまま、答えた。
「‥‥贖罪、なんだそうです。意図せずとも人を呪い殺す力をルフィアさんは確かに持っていました。親類縁者もその力で亡くなってしまったと聞いています。そんな力を少しでも良いことに使えるように、と。そんな願いから来ているようです」
「なるほど‥‥」
「昼だけではありません。夜は亡霊が彼女に寄ってくるんです。除霊しても除霊しても、次から次へと。どうも亡霊達もルフィアに救いを求めてやってきているようなのです」
「亡霊まで?!」
 人だけではなく、亡くなった人にまで頼られるとは。
「私たちももう守りきれませんし、そうでなくても彼女がこのままその目の力を使い続けていればいずれ彼女自身が『壊れて』しまいまうかもしれません。冒険者の方にはこの状況を救ってもらいたいんです」
 朝は救いを求める人間達から、夜は亡霊から身を守る。それも短期間で済む話ではない。両方とも、時間が経てばまた新たな存在がルフィアの元にやってくるに違いない。ただ、何かを倒せば、何かから守ればいいだけの話ではすまない。将来も含めた手法を冒険者は提案して行かなくてはならない。
 受付員は迷った。それは一時的な協力を行う冒険者の領分から越えてしまう話だ。
 誰も面倒を見きれない。このシスター自身もルフィアという少女を守ることに疲れ切ってしまっている。
 これを断ることは、受付員にはできなかった。
「わかりました。冒険者でも手が余ることかもしれませんが‥‥」

 救いの瞳に救いを。

●今回の参加者

 ea1671 ガブリエル・プリメーラ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

「ルフィア‥‥?」
 久方ぶりに出会った少女は前に見たときとは大きく変わっていた。それは成長期の子供が持つ特有の変貌も多少はあったのだろうが。
 それを差し引いても、眼窩は落ちくぼみ、頬は痩せこけて、頭蓋の形が浮き上がって見えるようになると、彼女の実際の年から比べると何倍も年を重ねているか、子供の大きさから抜け出られぬまま老いた人のような特異さを感じる。
 それだけではない、いつもどことなく寂しげで何かを怖がる様子は露として消え去り、清々とした張りつめた空気が彼女の周りを漂っている。それはきっと、弱々しげでまっすぐ視線を合わすことも少なかったその瞳が、まっすぐに向いて射抜くような強さと総てを見通すような神秘さの両方を兼ね備えてこちらにむけてくるからなのかもしれない。
「お姉ちゃんたち‥‥」
 ルフィアはガブリエル・プリメーラ(ea1671)、大宗院奈々(eb0916)、ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)、明王院月与(eb3600)、そして国乃木めい(ec0669)の姿を見ると同時に、シスター長であるユーリが腕を大きく冒険者達に差しのばして、紹介をする。
「じゃーん。今日はルフィアさんのために、特別にきてもらったんですよ〜」
 だが、驚いた様子はない。既に冒険者達が来ることはその眼の力で感じ取っていたのかもしれない。
「ユーリお姉ちゃん、ミルドレッドお姉ちゃん、ありがとうね」
「いえ、こちらこそ‥‥」
 月与の言葉にユーリとは対照的に浮かない顔をしているのは依頼者でもあるシスターミルドレッドだ。彼女が深刻な顔をするのも、ルフィアをみれば自ずとわかる。いつどうなってしまうかもわからない彼女の体を慮ってのことだろう。
「でも、まだやることが‥‥」
「ルフィア、つれないことを言うようになったな」
 逡巡するルフィアをひょいとつまみあげ、奈々は自らのふくよかな胸の谷間に入れてそう言った。
「そうよ。今日、こうしてお話しするのも大切なことなの」
 痩せこけた頬に軽くキスをしてガブリエルはそう言った。
「でも、待っている人が‥‥」
 それでもまだやる気を見せるルフィアにガブリエルは視線を合わせて言った。
「貴女の覚悟が易くないことなど、分かる。けど、今後も人の為に使いたいと思うのなら。自らの事、救いたい人達のことを、考えなさい」
「そうですよ。人々の力になりたいと言うその心は尊いものです。ですが、己の身を損なってまでの献身は、聖なる母もよしみ給いませんよ」
 ルフィアはそんな言葉にもまだまごついていた。思わぬストップをかけられた形となったルフィアにはここで止まることを自分でも良しとできないところがあるのだろう。その心を優しく溶かしたのは、めいの言葉だった。
「ルフィアちゃん‥‥気持は判らなくもないですよ。でも、ルフィアちゃんが無理をして倒れてしまったら、それこそ本当にその力で救ってあげないといけない人達を残して逝ってしまったら、贖罪も何も出来なくなってしまいます。ルフィアちゃんが本当に人々に尽くす事でお爺さん達に償いたいって心から願うなら、ルフィアちゃん自身を大切に、自分で自分を許す事が出来るその日まで、一人でも多くの本当に困った人を助けてあげる必要があるんじゃないですか?」
「自分をゆる、す‥‥?」
 その言葉にルフィアは一番驚いていたようだ。
 自分を許せないなんて考えたこともなかった、顔がそう物語っているのことは誰もが理解できたことだった。
「だから今日の予言はもうおしまい。私が言ってきてあげるわ」
 ガブリエルはそう言うと、部屋を出た。

 入ったときからそうだったが、ルフィアの言葉を待っている人間の数はもの凄い数であった。この教会は小さいとはいえ、礼拝堂には詰めれば50人くらいは入ることができる。しかし、それでも入りきれず、この寒空の下で待っている者もいるくらいであった。
 そんな人々が出てきたガブリエルに一斉に視線が集まった。一身に視線を浴びるガブリエルには少しばかり、緊張が走るが、それをぐっと腹の底に押し込め、声を発した。
「今日は本当に、しんどそうなのよ。ルフィアの予言を受けるのはまた今度にしてもらえないかしら」
「なんですって?! 私たちには予言をくれないというの?」
「そんなわけにはいかない。こっちは一分一秒を争う病気の子がいるんだ」
「そうだ。今日、失せ物が見つからなかったら、私はご主人さまの怒りに触れて、仕事を失うかもしれないんだ」
「ルフィアを出せ、ルフィアを」
「ルフィアさま、迷える私たちに救いの手を」
「ルフィア、ルフィア、ルフィア」
 こんなにも。これほどまで、人はルフィアをすがって来るのか。
 あまりに勢いにガブリエルは一瞬呑まれそうになった。だが、負けてなどいられない。ここで自分まで負けてしまってはいけないのだ。
「救いの手があれば、助けてほしい。それは当然ね。けれど、その手が無限のものではない。彼女は『神』にあらず、あくまで子供。少しでもと、力の為に命を削る‥‥。あなた達は自らの望みで幼子を過労死させることがお望みか!」
 バードとして鍛えた、腹の底から出る声は強く、そして魂がこもっていた。
 その言葉に皆押し黙る。
「止めると、いってるんじゃないの。 ‥‥彼女とて力になりたいと、望んでる。けどままならぬほど、疲弊してる。せめて、体を保ちながらのペースで、出来るよう、ご協力、をお願い」
 ガブリエルは深々と頭を下げてそう言った。
 その言葉に抗えるほど勇気のある持ち主はいなかった。
「今日はその代わりに、ごっちゃ煮の水団を作るからね。みんな食べていって。食べながらでもお話を共有できることがあるかもしれないし」
 タイミングよく教会の出入り口から現れた月与はそういうと、さっそく水団を作っておいた寸胴鍋をよいしょ、と運び込む。
 それについての反応は様々だった。それを救いととってくれる人もいれば、そんなものが予言の代わりになるものかと怒ってしまう人々もいた。
 それでも大半は、自分の生活が大変な人ばかりのようで、一杯の水団にありつけるだけでもありがたく受け取ってくれる者の方が多かったように思う。
「この水団、もう少しもらってもいいかなぁ。家に腹を空かした嫁と子供がいるんだ。食べさせたくって」
「いいよ、いくらでもあるから、持って帰って食べさせてあげて。みんながそれで幸せになってくれればいいんだけど」
 水団一つで救われることもあるのだ。逆に言えばそんな人でもルフィアを頼ってきていることになる。
 彼女が忙殺されるのもなんだかわかるような気がした。本当に些細なことでも頼り切ってしまっている。
 それがルフィアの持つ力の強さを証明しているのだろうが。
 水団を手におかげ話をする人々の言葉に耳を傾けると。どれだけルフィアが信用され、そして崇め奉られているか、少しずつ見えてくるような気がした。
 今日は無理でもまた明日、人々はきっとやってくるだろう。


「人の方はこれでしばらくは大丈夫。明日以降も人数を絞れるように、町長さんに連絡してきたわ。これからはもう少しマシになると思う」
 一段落ついたガブリエルは、ルフィアのいる部屋に戻り、ほっと息をついてそういった。
「見事な説得でしたね。思わず私も帰ってしまいそうになりました。水団もおいしかったし」
 ユーリがそんなとぼけたセリフで場を和ませるが、ルフィアは沈んだ顔のままだった。
「‥‥あの中にいる人には本当に今日、予言が必要な人もいたのに‥‥」
「確かにそうかもしれない。だけど、あの人のことだけ、と思ったら、別の人のことまでやっぱり見てあげなくちゃならない。そうこうしているうちにあなたの心と体が壊れてしまうわ」
 ガブリエルは教え諭すようにそう言ったが、ルフィアの顔は得心のいった様子ではなかった。
「できることを、しているだけ。無理なんかしていないもん‥‥」
「たとえ無理をしていなくても。このままでは人々が困難を抱えた時に、第一に貴方を頼る様になってしまいます。人事を尽くさずに安易に人を頼るようになる事は聖なる母もお望みにはならない筈。また、人々から隣人と『助け合う』心と機会を奪っていると言う事に気付いて下さい」
 ジュネの言葉に、ルフィアはうつむいて押し黙ってしまった。
「私のやっていたことは、間違い、だったのかな‥‥」
「いいえ、そんなことはありませんよ。その行いは肯定すべきものです。ただ少し、自分の身を顧みて欲しい、ただそれだけ‥‥。先ほども言ったとおり、自分を許してあげて欲しいの」
 そっと頭をなでるめいは、頭の中では、自らの過去が走馬燈のようにすぎていっていた。月与の母との確執とどことなく重なるものを感じていた。だから余計にだろうか。自分の命を省みないルフィアの行いを止めるのは、自分の贖罪のためでもあるような気がしていた。
「もう少し自分を大切にして、自分を許してあげて下さいね」
「許すって‥‥どうすればいいのか、わからないよ。たくさんの人が目の前で死んでいった。この眼の力で。望んで得た力じゃないけれど‥‥でも、でもっ。こうしていないと壊れちゃいそうなんだもの」
 ルフィアは冒険者に弱音を見せた瞬間、もうその総てを見透かすような綺麗な瞳に涙をいっぱいにためて泣きじゃくっていた。
「怖いよ。ずっと怖かったの。自分自身が力に飲み込まれるんじゃないかって」
「よく、我慢してきたんだな」
 奈々はもう一度、胸の間にいれて、抱いてあげようとした瞬間、ルフィアはそれを恐れるように後ろに飛び退いた。
「来る‥‥」
 それはすぐに皆の前にあらわれた。半透明の姿で、いくつもの頭部が重なり合ってできた一塊のものだった。

 クライ‥‥コワイ‥‥クルシイ‥‥たすケて‥‥だレか

「これが亡霊? はじめて見る形だな」
 奈々は弓を構えながらそう呟いた。
「ルフィアさんの力を求める人達の思いとルフィアさんの自身に対する恐怖が具現化したものです。核は実際に亡くなった霊だとはおもいますが‥‥」
 聖職者であるジュネは一瞬でその正体を看破すれば、その異様な姿も哀れに思えてきた。
 その思いが近くの霊と同調し、周りの絶望や、辛苦なる思いなどがより合わさってできた存在。つまりこの醜悪な亡霊の姿を通して、ルフィアは自分自身に苛まされ続けていることを見せつけられているのだ。
「攻撃で倒せるのか?」
「倒せないことはありませんが、いずれまた、自分の力や周りの人々の思いが積み重なれば出てくるものです。断ち切るには‥‥」
 視線は自然とルフィアに注がれた。
「断ち切らないと、いつまでも一緒だぞ。強くなれ。ルフィア」
「私の友人に、死霊を専門に扱っている冒険者がいます。彼女は怨嗟や未練に苦しみ永劫の時を彷徨い続ける人達に、憐憫と慈愛の心を持って可能な限り浄化しようとの志を持って歩み続けています。そして、その志に賛同した友が沢山います。ルフィアちゃんも一人で全部背負う事は無いのです。一緒に歩んでいきましょう。、共に背負って行きますから‥‥」
 奈々に続いてめいがそう言うが、ルフィアはしばし逡巡していた。
「攻撃してくるよっ」
 月与が鋭く叫んだ。亡霊はあっという間に、間合いをつめて、ルフィアに襲いかかってきた。
 それをジュネが体を張って受け止める。触れたところから急激に命の灯火が奪われたように冷たくなっていくように感じた。
「ジュネお姉ちゃん!」
 叫ぶルフィアにジュネは、辛そうにしながらも、無理矢理に冷静な表情を作って見せる。
「貴方が今までしてきた事と、同じ事ですよ」
「!!」
 その言葉にルフィアは硬直した。
 その間にも亡霊は暴れ続ける。ガブリエルはムーンアローで、奈々はレッドコメットで、月与は日本刀「法城寺正弘」で、そしてジュネとめいは魔法で応戦する。
 亡霊はそれほど強くはなかった。数撃ダメージを与えるだけで、簡単に霧散していくが、またしばらくすればより固まり、実体を形成していく。
 ルフィアはまだ迷っているようであった。きっと自分の内に抱える特殊な能力への忌避と恐怖が勝っているのだろう。
 そんな中、見かねためいがルフィアに翠玉を差し出した。
「これはキロンさんがルフィアちゃん達に遺した物です。キロンさんならどうするか、考えてみて」
 答えはただ一つだった。
「また、集合するわよ。早くっ!」
「‥‥お姉ちゃん。これからもずっと私のお姉ちゃんでいてくれる?」
 ルフィアの問いかけの声は小さいものだった。
 だけれど、今回だけでなくルフィアをずっと彼女を見守ってきた人々はちゃんと聞いていた。
「もちろんよ。こんな可愛い妹を放っておくはずないでしょ」
「いつでも、私の胸に飛び込んできてくれてもいいぞ」
「貴方にもしもの事が有れば、勿論私も悲しいです‥‥だから、ね」
 その言葉は思い悩むルフィアの背中を押すのに、十分な力を持っていた。
 ルフィアはいまこそとばかりに瞳に力を取り戻し、翠玉を掲げて叫んだ。
「私はもう、自分の力に負けたりなんかしないっ」
「大いなる母の祝福あらんことを!」
 ルフィアの言葉と、ジュネのピュリファイが重なった。


「この度は本当にありがとうございました」
「布団も気持ちよかったし、ご飯もおいしかったですよー。生きてて幸せーって感じられる瞬間です、はい」
 全てが終わって、二人のシスターは冒険者にお礼を述べていた。
 その冒険者側には、新しい仲間が一人増えている。その彼女をみて、ミルドレッドは少し寂しそうな顔をしていた。
「ルフィアさん、冒険者になられるんですね」
「無理言ってごめんなさい‥‥でも、ほんのちょっとだけだから、心配しないで。すぐ戻ってくるよ」
 ルフィアは奈々の誘いに乗って冒険者登録をすることになった。予言をする合間に冒険をして見聞を広めたり、人に頼ったり、また邪眼の力に頼らずに人を助ける力を見つけるために。
 奈々からは、それはついでであって、彼氏を見つける旅になればいい、と本気か冗談かわからないことを言われたけれど。
「ルフィアさんのことを待っている人は多いですけれど、成長したルフィアさんを歓迎する人はきっと多いですよ。だから、安心して、自分を磨いてくださいね」
「次来る時は彼氏連れになると思うから、ベッドはもう一つ準備しておいた方がいいぞ」
「ふふふ、楽しみですねー。色んな人と出会って、色んな人と協力すること、たくさんしてくださいね」
「うんっ」
 ユーリの言葉に、ルフィアは勢いよく頷いた。
 その顔に、もう自分の内なる力におびえる影は見あたらない。
 それは一時的なことかもしれない。またいつかその影に苛まされるかもしれないがきっと乗り越えていける。
 ルフィアには本当に頼れる人がいるのだから。

 かつて邪眼と呼ばれる力を持つ少女がいた。
 だが、今はもう、邪眼と呼ぶ者はいない。