ブランシュ騎士団、騎士登用試験

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月16日〜12月21日

リプレイ公開日:2009年12月26日

●オープニング


 鈍色の空の下、純白の衣装をまとった騎士が墓地を訪れていた。
 墓地には無数の碑が連なっており、その一つ一つはまだ新しいモノが多いように見受けられた。
「墓碑も増えましたね‥‥」
「地獄での戦いのことを思えば、少ない方と見るべきではないでしょうか。黒は未だアガリアレプトとの決戦を迎えている最中ですし、橙も‥‥」
 墓碑に刻まれた名前は訪れた二人の騎士分隊長からすれば、だいたい知った者ばかりであった。他の隊のもの多くあったが、名前くらいは聞き及んでいることも多かったし、また実際に顔を合わせ、言葉を交わした者も少なくなかった。
 しかし、そんな彼らも今は墓碑に名前を飾られる存在。
 復興戦争を共に戦った者もいれば、隊を立ち上げる際に新たに叙勲を受けた者もいた。
「本当に、やるんですか?」
「多少ならともかく、これだけの戦没者を数えて、騎士団全体の力は間違いなく低下しています。彼らのことを忘れるつもりはありませんが、ノルマン王国最強の騎士団であることを辞めるわけにはいかないのですよ。我々はね」
 緑のマント留めを使った騎士の問いかけに灰色の彼は墓碑に目を落としながら、しっかりとした口調でそう答えた。
「そうですね。私たちは陛下を、そして国民をお守りしなければなりません」
「望む、望まずにかかわらずに、ね」



「ブランシュ騎士になりたい者を募集する、ですか」
 その言葉の重要性に自分が聞いていいものかどうかと、受付員はふるえていた。
「はい、冒険者は地獄での大戦でも功労を上げている方も多いですし、また個々にブランシュやその他貴族からの要望に応えて、ノルマン各地で起こったデビルとの戦いに貢献をしている者もいますので、できるなら冒険者からもブランシュ騎士を迎え入れてもいいのでは、そう考えています」
「その為の登用試験を行う、ですか」
 喉がカラカラになっていくのを感じながら、ブランシュ分隊長の言葉を確認した。
「はい、いくら何でも、欠員が多いからといって立候補者全員をブランシュ騎士として迎え入れるわけにはいきません。それ相応の資質を見極めたいと思います」
「それで具体的には、どのような‥‥?」
「盗賊が貴族の家に押し入り、貴族達を人質にしているというシチエーションを私たちは作り出します。皆さんはその中で人質を見事解放すべく動いてもらいます。その間の行動、そして結果などを含めて勘案し、ブランシュ騎士としてふさわしい人を選び出したいと思います」
「あの、それでブランシュとなった者は全員灰分隊員として任命を受けるのでしょうか」
「いえ、今回は、ブランシュ騎士として登用するかどうかを決めるだけで配属までは決定されません。実際のブランシュ騎士として任命は国王陛下による叙勲式が必要になりますし、配属は各分隊長が協議した上で騎士団長、つまりヨシュアス隊長が決めることです。ですので、今回は本当にブランシュ騎士として登用されるを希望する方の全体試験、ということになりますね」
 緊張のかけらもないような様子で、さらりと説明してのける灰色分隊長の様子に受付員少しずつ緊張がほぐれてくるのを感じた。
「なるほど、わかりました。‥‥あの、やっぱりブランシュ騎士になるにはそれなりの条件はありますよね」
「ありますよ。ですが、そんな人たちだけですと、試験も苦労するでしょう。今回の試験には興味を持った人は誰でも参加させてもらえるようにしておいてください」
「それはノルマンの生まれでなくても、騎士でなくても、ですか?」
「はい、登用するかどうかはともかく色んな国籍の色んな職業の人たちがいることは、冒険者にとって、そしてこの試験においても重要だろうということで。自分は単にお手伝いをしにきた。あるいは、騎士団が行う試験とはどんなものか試してみたい、そんな方の参加も望んでいます」
「誰でも、参加はOKということですね」
 確認の言葉に、灰色分隊長はにっこり微笑んだ。
「はい、その通りです。盗賊達に扮しているのはブランシュ騎士ですから、普通の盗賊相手とはちょっと勝手が違うかもしれませんがね。とりあえず、舞台となる貴族の家と、人質となっている人の顔はここに用意しているので、希望者があれば閲覧できるようにしておいてください」
「わかりました」
「また、私も同行者としているので質問があれば受け付けます。それでは一人でも多くの参加者を待っていますよ‥‥」
 灰色分隊長は礼をするとすると、去っていった。

 ブランシュ騎士が冒険者から生まれるのだろうか。
 ギルド受付員も興味は尽きない様子であった。

●今回の参加者

 ea1625 イルニアス・エルトファーム(27歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea6953 クラリス・ストーム(23歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb0916 大宗院 奈々(40歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb8664 尾上 彬(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec6207 桂木 涼花(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec7161 マリー・ル・レーヴ(24歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

シェアト・レフロージュ(ea3869

●リプレイ本文

「ここにこれを混ぜて〜っと♪」
 ここは厨房。並んだ料理に向かうのは、コックではなくクラリス・ストーム(ea6953)の姿。鼻歌交じりのその姿には邪気が立ち上っているようにもみえなくはない。
「ふふふ、フランめ。純粋な乙女心を謀った罪の深さを思い知ればいいんだわ」
 そして次々と料理に粉を振りかけていくクラリス。
 そう、ここは試験会場となる貴族の館の厨房。コックは先ほどクラリスの偽の案内で、場所を空けている。
 またとないチャンスにクラリスは邪な笑みが溢れかえるような表情がとても印象的であった。


「いいですか、試験の内容をもう一度確認します」
 冒険者達や、その他志願者を含めると50名近くいた。そんな彼らの視線を一手に引き受けるブランシュ騎士は淡々と説明を始める。
「まず助ける対象は、貴婦人と赤ん坊です。二人を脱出させて、この待機場所に戻ってくれば任務成功となります。武器、防具はこちらが指定したものを使って貰います。その他の道具は自由に使ってもらって構いません」
 そういって渡されたものは、革でできたマントと、鞘に収まった剣だった。束を見てもわかるが恐らく刃など元々そんざいしない木刀の類だと類推できる。
「なんだか少し、心もとありませんね〜」
 アーシャ・イクティノス(eb6702)は自分の身につけてきた防具を名残惜しそうにしながら、普段着の上にマントだけを羽織る姿となった。
「この鞘、中にインクが入っていますね」
 自分は装備しても使いこなせないだろうと思いつつも装備を確認していたリディエール・アンティロープ(eb5977)がそれに気づいた。
「はい、鞘にはインクが満たされています。盗賊役の騎士も同じものをもっています」
「なるほど、当たれば、そこに太刀筋の跡がのこります。それでクリーンヒットか、外れかを見分けるというわけですね」
「そういうことです。太刀はマントに当たれば防具が防いだとしてノーカウントとしますが、それ以外、肌や服についた場合は死亡とみなします」
 桂木涼花(ec6207)が得心したように言ったが、周囲はどよめきの嵐だった。しかし、冒険者は案外そんなものかと納得すると、穏やかなものだった。
「課題の他にも、出身国、職業‥‥障害は多いですが、叶うなら是非もありません。まずは目の前の依頼を完遂しなくてはね」
 リディエールの言葉に鳳双樹(eb8121)も頷いた。
「この地に来てもう4年…初めは右も左もわからなかったけれど今ではとても大事な場所になっています。この国を護るために私もできる事をしたい、そんな風に思います」
「俺は3年だな‥‥。忍びとして生きるのを辞め、流離ってた俺を甦らせてくれたのは、間違いなくこの喧騒に満ちた巴里だからな。残る生を、この豊かな土地を護る為に使えればと思う」
 尾上彬(eb8664)も頷いてみせるのを見て、涼花も仲間の姿をもう一度見回して頷いた。
「同郷の方も多く心強いことですね」
「フランのそばにいられるいいチャンスだ、なんとしてもものにしないとな」
「えー、フランなんかがいいの? ボクはこれをクリアしてヨシュアス様のいる茶部隊に配属されて〜」
 軽い調子で言うのは大宗院奈々(eb0916)とクラリス。それを聞いてこほん、と咳払いをするのはイルニアス・エルトファーム(ea1625)だ。
「復興戦争と聞くと思いだすこと多々。合否はともかく、挑戦してみようかと思います」
「そうですの。ノルマン人の憧れですの。私は未熟者ですけれど、人を護り国に役に立てるようになりたいですの」
 同意の言葉を口にするのは同郷のマリー・ル・レーヴ(ec7161)。この試験を受けるには皆色んな思いがある。
「このノルマンで色んな人達と関わってきました。パリの街を、あの人達を護る為に働けるのなら、それは幸せなことだと思ってます。それに、尊敬するブランシュ騎士の方がいて彼の方のようになりたいとも思っています。こんな風に、きっと皆さん色んな想いを持って来た方だから、皆で合格できるよう頑張りましょう」
 デニム・シュタインバーグ(eb0346)の声に冒険者仲間達は一様に頷いた。思いはたった一つなのだから。
「それではいきましょう」
 イルニアスの言葉に皆が、洋館へ向かって進み出した。



「何するですの!」
 マリーとリディエールが何も知らずにという設定で、正面の扉から入ったすぐ後のことである。丁寧に「よろしくお願いしますの」と頭を下げたマリーに対して、出迎えた男達は二人を取り囲み、木刀を突きつけてきた。
「冒険者の人間達だな。無防備で来るとは思いも寄らなかったが‥‥陽動か」
「どうします、やってしまいますか?」
 尋ねられた盗賊は首を振って答えた。
「いや、この間にも他の冒険者が侵入していることだろう。人質にとっておいた方がいい。ただでさえ、こちらは人員不足なんだ‥‥」
 苛立ちを隠すことなく盗賊はこちらに視線を送ってくる。
「人員不足ですの‥‥?」
 なんのことだか思いあたらずに、マリーは小首を傾げたが、リディエールは苦笑を浮かべていた。
「とりあえず無傷というわけにはいかないな。手だけでも奪わせてもらうぞ」
 そういうと、盗賊は軽くマリーとリディエールの手首に木刀を押しつけた。木刀についていたインキがそのまま手首に筋となって残る。つもり、手首を落とされたことを指し示す。
 それから、手首と胴体に縄を巻き付け、2階の小部屋に放り込まれる。
「ここは‥‥」
「人質さんがいるお部屋じゃありませんのね」
 そこはしばらく誰も使った形跡がみられない。それは自分たちの足跡が埃の上に形を作ることからもすぐわかった。
「近くに人のいる気配はありませんね。人質がいるのもこの2階ではないのでしょうね。テレパシーにも反応がありません」
「そうみたいですの。そうとわかれば早速みんなにも知らしてあげるですの」
 リディエールはアーシャから借り受けた輝きの石を手にしようとして‥‥
「そういえば手は使えないんでしたね。仕方ありません」
 胸に隠しておいたフェアリーを解き放つと、リディエールは伝言を与え、窓から逃がしてやる。
「これでうまくいけばいいのですが‥‥」
「それにしてもおかしいですの。これだけ騒ぎがあればテレパシーにも反応しそうなものですし、人質さんのお名前はジェーン・ドゥさんとマイケル・ドゥちゃんって明らかに仮名ですもの」
「そういえば、似顔絵もないといわれましたね。必要な情報だと思うんですが‥‥」
 マリーの言葉に確かに、とリディエールは思った。単純ではない感じがひしひしと伝わってくるが、さて、それが他の仲間にも通じていれば良いのだが‥‥

「予定通り、捕まったみたいですね」
「2階の小部屋か‥‥人質とは違う部屋だということだから、3階だろうか」
 フェアリーの伝言を受け取ったアーシャ・彬・クラリス・奈々はそれぞれに館を見上げた。いる場所はちょうどどの窓からも死角になる場所で中にいる盗賊達に気づかれることはない。
「目星はついたんだから。できるだけ、速やかに作戦に移ろうじゃないか」
 そうだな、と奈々の言葉に彬は同意を表すと、忍犬を放った。陽動組への合図だ。
 しばらくすると、扉を叩き開く豪快な音が周りに響いた。デニム・イルニアス・双樹・涼花達陽動メンバーが正面の扉を破ったのだ。
 その間に、彬がロープを3階のテラスに引っかけ、軽々と上っていく。他のメンバーも同様に続いていく。
 テラスに入ると、正面に下へと続く階段があり、両脇に部屋が見える。
「あれ‥‥人質じゃないかな」
 クラリスが指さしたのは、テラスから差し込む月影に浮かんで見えるのは揺り椅子に座る赤子を抱いた女性の姿。
 隠密組は周囲の気配がないか察しながら、ゆっくりと女性と赤ん坊へと近づいていく。
「ん、今何か頭に当たったぞ‥‥」
「大宗院殿、それにストーム殿。死亡確定ですぞ」
「!!」
 一瞬、頭に何かが触れたかと思うと、そんな声が、物陰の闇溜まりから聞こえてくる。慌てて何かが触れた場所に手をやると、黒インクがべたりと手についている。いつ攻撃されたのか全く読めなかったが、確かに攻撃されたのだ。
「えー、どうしてどうして? みんなお腹下してるはずなのに」
「いつも隊長からわけのわからんものを差し入れされるもので、ワシなんぞは毒草知識は自然と身に付いていますからな」
 闇溜まりにいたのは一人のドワーフだった。姿はきわめておぼろげでしっかりと見つめていなければ、闇の中に埋もれてしまいそうな状態だ。そこではじめて、相手もインビジビリティリングを利用していることにアーシャは気がついた。
 アーシャはすぐさま得物の木刀を引き抜き構える。気配を発して威嚇する。この間にも彬が人質を解放すれば任務は成功だ。
「騎士団の人とは一度正々堂々とやってみたかったんです!」
 その後ろで気配を消したままの彬が赤ん坊を抱き上げる。赤ん坊は思った以上に軽く‥‥それが人形であることにすぐ気がついた。だが、人質とかかれた木版が下げられているからこれで赤ん坊の人質は助け出したことには違いない。
 続いて彬は女性を抱きかかえようとして、人のぬくもりを感じた。咄嗟に手を離すが頭に一撃を受けるのは避けきれなかった。
「残念ですが、尾上さんも死亡ですよ」
 貴婦人だと思われていた者は悪戯めいた笑みを浮かべ、短刀を握っていた。それがフランだということに気づくのはもう少し時間がかかってからであった。


「我こそはデニム・シュタインバーグ。人質を返して貰おう!」
 襲ってきた盗賊を2人ばかりほど倒して、デニムは大きな声でもう一度そう言い放った。それをちょいちょいと双樹が裾を引っ張って小声でとがめる。
「デニムさん。いくら陽動だからってわかりやすすぎるのはいくらなんでも‥‥」
「いや、とにかくこちらにたくさんの人間が向かってもらわないと隠密班も困るでしょう」
「騎士団の人たちも、倒されるのを望んでるような突っ込み方してきてましたしね。形相は必死でしたけれど」
 必死の形相をしながら、やられに来る理由が思い当たらない3人は、そういう盗賊を演じているものだと信じてやまない。本当はクラリスの盛った下剤という別の理由があることを4人は知るよしもない。
「とりあえず、1階は制圧したようです。階上に行って、人質になっているメンバーを助けましょう」
 イルニアスの言葉に従って、一同は階段を駆け上っていく。洋館に明かりは一切灯されておらず、外からの月明かりだけがたよりだ。
 しかし階段は光も差さず感覚だけが頼りだ。そんな中からもゆらりと闇が蠢く。
「そこっ」
 涼花が見過ごさずに蠢いた闇を鋭く斬りつけた。何かに当たった感触はする。マントで払いのけられなければ致命傷扱い。どこにあたったかはわからないが1人は倒したはずだ。
「おのれ、正々堂々と勝負しないかっ」
 デニムが叫ぶが闇の中の盗賊達は返事をするわけもなく、闇の中で位置を変える足音だけが不気味に響く。
 その間に4人は一気に走ったが、そこで剣撃が交わされる乾いた音が響いた。
「桂木さん、死亡」
「攻撃を見切れませんでした。後は頑張ってくださいませ‥‥」
 階段を登り切った時には仲間は3人に減っていた。
 そしてその目の前には、仲間であるリディエールとマリー、そして黒ずくめの盗賊それぞれの背に一人ずつ立っている。
「武器を捨てろ。仲間がどうなってもいいのか」
 盗賊が声をかけてくる。
 一方、階段から上ってくる敵を警戒しながら、双樹はイルニアスとデニムの二人に背を預けながらささやいた。
「階段の敵もこちらに上がってきてますよ」
「‥‥仕方ないですね」
 1
「わかりました、武器を捨てましょう」
 2
「よし、ものわかりがいいな。そのまま‥‥」
 3。
 放り出した木刀が空中で交差した。デニムの剣はイルニアスの手に、そしてイルニアスの剣はデニムの手にそれぞれ渡り、そのまま人質を抱える盗賊へと向かっていった。
 人質達もそのままでいるわけではない。リディエールは素早くしゃがむと盗賊に足払いを仕掛け、マリーはその腹に向かって蹴りをたたき込んだ。
 瞬間的に複数の人間が動いたことに盗賊達は反応しきれず、蹴りと足払いによってそれぞれ体勢を崩されたところをデニムとイルニアスの一撃が襲いかかった。
「やった」
「双樹さん、そっちは」
「残念ですが、相打ちでした‥‥」
 眉間に黒い筋をつけられた双樹がへたり込んでいた。その相手はどうも階段を踏み外したらしく、不憫にも盛大に転げ落ちていく音がする。
「3階は先ほど戦いの音がしていましたが‥‥どうしますか? 上がりますか。小部屋の一番奥の部屋に最初見張りがいたので、人質はそこにいるかもしれません。それは今倒したこの人のことですが‥‥」
 縄をほどかれたリディエールの問いかけに少し考えてイルニアスは答えた。
「まだ敵が残っているかも知れませんし、うかつに上がると陽動どころか挟み撃ちになってしまいます。2階に人質がいるかも知れませんし、ここを制圧してからにしましょう」
 それでいいですね。と尋ねられたデニムもこくりと頷いて同意を示した。

 2階に人気は全くなく、リディエールの言うとおり、一番奥の部屋に貴婦人役の人質である人形を発見した。
「通りで名前が変だと思いましたの」
「似顔絵もこれじゃ書きようがないわけですね」
「人形だと背負わないと移動できませんね。一度館の外へ出ましょうか」
 そういって4人は階段を下りて、外に出た。
 外に出ると笛の音が鳴り、「終了」という声が真っ先に飛び込んできた。そう、隠密組の侵入は既に終わり、陽動組が出てくるのを皆まだかまだかと待っていたのだ。
「赤ん坊の方の人質は‥‥」
「残念ながら、失敗しちゃいました。救出までは良かったんですけれど、脱出を阻まれてしまって、すみません」
 アーシャがぺこりと頭を下げる。
「でも人質は一人解放できたことは良い評価をもらえそうです。他の参加者は全員一人の救出もできずに盗賊に倒されてしまったそうですから」
 だとすれば。
 イルニアスとデニムは顔を見合わせた。


「イルニアス・エルトファーム。汝にブランシュの騎士を命ずる」
 国王ウィリアム3世の手によって剣が真白い鎧とマントを身につけたイルニアスの肩に当てられる。
 そして引き続き、同じく真白い鎧とマントを身につけたデニムの肩にも剣が当たられる。
「デニム・シュタインバーグ。汝にブランシュの騎士を命ずる」
「「神に誓い、身命を賭して、その任を全ういたします」」
 二人は声を揃えて誓いの言葉を述べたのに対して、国王ウィリアム3世は場に似合わないざっくばらんな笑顔を向けて新たに誕生した騎士に言葉を述べた。
「正式な配属は年が明けてから決まると思うけれど、これからもノルマンのこと、よろしく頼むよ」