ただ一度の救い(チャンス)を
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:6人
冒険期間:12月31日〜01月05日
リプレイ公開日:2010年01月11日
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●オープニング
●アストレイアの手紙
「十野間空(eb2456)様へ
この手紙を読んでいるとき、私はきっといるべき場所にいることができずにいることでしょう。
今皆さんが戦っている楽士のせいか、それとも他のデビルによるものか、それはわかりません。ただ、思うのは、今戦っている楽士と、以前このパリに現れた楽士とは別個の存在ではないかと思うのです。
私は報告書や、関係者から聞く証言でしか推論は得られないのですが、以前の方は、理詰めで自己を主張せず、人が悲痛な叫びをあげながらいがみ合う場を作ることに専念している相手のように思いました。ですが今私たちが戦っている相手は、時折、動きに感情が見え隠れすることがあります。デビルというより、楽士の所作をなぞる亡霊のような‥‥そんな気がしてなりません。
理由のない、不確かな情報ですが、どうか戦う時にはお気をつけて。同じ戦い方が通用しないかもしれません。
また、これはテミスが調べていたデビルの情報ですが、デビルやデビルに与する者には必ずといっていいほど、上位のデビルが存在しています。今の楽士が昔と同じ相手なのか、そうでないかはともかくとして、必ず、その上にいるデビルが関わってくることになると思います。本当に平和がやってくるその日までどうか気を抜かれることの無いようにしてください。
楽士を統括しているデビルはどんな存在は私も見当もつきません。ですが、この地下にあるものは必ず狙ってくることだと思います。今の楽士も城の地下にあるものを狙っているような気がします。
城の地下には古い魔法陣が眠っています。いつの時代のものかわかりませんが、相当古いもののようです。
魔法陣は魔法を強化する作用があるもののようです。詳しい事は研究者に調べてもらわないといけないことですが、お父様曰く、様々な魔法の威力や効果範囲をさらに強めるものだということです。楽士は月魔法の使い手ですから、これを利用してより多くの人を操ろうと目論んでいるのかもしれません。デビルは魔法陣のことに気づけば必ずや利用してくることでしょう。
敵は私たちが思っている楽士だけではないこと、それから、この地下にはデビル達が狙っている魔法陣があること、それだけは忘れないでくださいね。
愛するアストレイアより」
●デビルからの相談
「そのままの状態で話を聞いておくんなせぇ」
アストレイアの手紙を読み終えた空の背に人の気配がした。人、とは言ってもどこか異質なモノを感じる。本能がデビルだと叫んでいた。
「アストレイアの魂を取り返す方法を模索しているんですってね。うちの姉御、シェラと名前は通しているんですがね、から話は伺っているんでさぁ」
戦慄が走った。下級デビルであろうこの背にいる男ですら、空の望みを知っている。一体相手はどこまでこちらの行動を見透かしているのか。
「アストレイアの魂をお返ししてもいいって、姉御は言っとりやす」
「交換条件があるのでしょう」
にじみ出る汗と緊張を悟られないように、空は言った。すると男はキシシシと歯の間から空気の漏れるような笑いを上げて言った。
「さすが長らくデビルと関係していたことだけはある。話が早くてすみますわぁ。そう、交換はね、あんたとフォンテーヌ領主エカテリーナの魂でさぁ。どちらか1つで、魂の半分。二つ揃って、完全な魂をお返ししまさぁ。大丈夫、契約事に対してはデビルは安心してもらってもいいですよ」
相手のペースに乗せられてはダメだ。空は自分に言い聞かせた。
「城の地下にある魔法陣については必要ないですか?」
「ああ、ユスティースの魔法陣。はっは、そんなもの姉御は欲しがりませんぜ。あれを欲していたのは楽士。なんせ楽士のヤツ、デビル側にも、人間側にも喧嘩を売ろうって態度ですかんねぇ、ちょっとでも力が欲しかったんでしょう。だけど姉御が欲しがるのは魂のみ。それ以外の交換は受け取りませんぜ」
空は沈黙した。せっかく手に入れた魔法陣を交渉道具に使おうという目論みは見事にはずされた形となった。
「それにしても、アストレイアさんの魂1つに、私とエカテリーナさんの魂の二つで交換とは欲張りが過ぎませんか」
「あれだけ清い魂はそうありませんし、こちらの『所有物』を渡そうっていうんだから等価交換とはいきませんぜ。いいですかい、エカテリーナの魂とあんたの魂、二つでアストレイアの魂は交換。へっへ、不満ならその仲間や仲間の武力に訴えても構いませんぜ。その時は破談ということですがね。いやはや、この身も安っちょろいもんですわ」
オーバーなアクショカをしているようであったが、背を向けている空にはその動きは見ることは叶わなかった。ある意味、見えなくて正解だったのかもしれない。
男に扮したデビルの言葉一つをとってしてもは不愉快きわまりないモノであったからだ。動きまで眼で追っていたら、怒りが込み上げてきたかもしれない。
「早いうちにこの話は片付けたいものですなぁ、まぁ、良い返事お待ちしてますぜ。何か聞きたいことがあるなら質問の手紙をギルドに預けておくと良い。姉御が丁寧に返事を返してくれるはずでさぁ」
キシシシシ。
男は笑うと、空の背から離れていった。
振り向けばそこは聖夜祭でにぎわう人通りの中。誰が話しかけてきた者だったのかも、ようとして知れない。
アストレイアの魂を取り返すために。
空の戦いが始まった。
●リプレイ本文
「あなたにも未来がありますので、ご自分の意思で協力してください」
大宗院透(ea0050)の言葉に、エカテリーナは「もちろんですわ」と笑顔で答えたのが、ウェルス・サルヴィウス(ea1787)にはずっと引っかかっていた。今度の交渉の相手がデビルだと知れば、誰もが少しは身を固くするだろうに、彼女はまるで知った客がくるかのように穏やかな笑顔を崩さない。
「なぜそこまで落ち着いていられるの?」
ラスティ・コンバラリア(eb2363)が対面してお茶を飲みつつ聞いたそんな質問には、「こんな機会、本でも滅多におめにかかれませんわ」とさらりと言ってのけたのがさらに気にかかった。
ここは長らくデビルとの争いにさらされていた土地だ。つい先日まではデビルとつながった盗賊により領全体を揺るがす問題まで発展してきた土地だ。普通の人間なら、これ以上に頭痛に悩まされることほかないことだというのに、この新領主は弱った顔一つ見せずに、てきぱきと問題を収束へと導いている。
そう、問題は収束は向かっている。アストレイアが領主の時はどれだけ片付けても次から次へと問題がやってきていたのに、エカテリーナが領主となってからは目に見えて解決へとすすんでいる。
恐らく、ウェルスの経験が物語るエカテリーナの落ち着き払った笑顔が語る意味と、ラスティが直感的に得た彼女となりというものはあまり大きく変わらないに違いない。
「それにしても相手も無茶な交渉を仕掛けてくるものだね。魂一つに、二つの魂を要求してくるなんて。どう考えてもつりあうものじゃない」
「それはわかっていますが‥‥」
真剣な顔で、アイスコフィンの封印から解かれた愛すべき彼女の亡骸をそばで見つめる十野間空(eb2456)に対して、マクダレン・アンヴァリッド(eb2355)は少し離れた位置で空中で何か書き物をするかのように指を動かしながら言葉をかける。
「交渉材料の見定めは大切なことだ。現状に対して交渉材料が正しく、そして適切であるかは常に考えないといけないことなのだが‥‥」
「適切ではない、と?」
迷いに満ちた眼がマクダレンに向けられる。それに対して彼は決して揺らがない。
「君が愛する人のことを悪く言うつもりはないがね、アストレイア君に人間二人分の価値があるとは思えないし、相手がそう言えるほど有利な状況に立っているとも考えがたい。この交渉はハナから破綻した話だ。こんな話にのるべきではないよ」
「ですが、これしか方法がないとなれば‥‥いえ、相手は私がそう言うのを狙っているのですかね」
最愛の人の魂を盾にとられている今、自分の判断基準が正常であるとは自分でも思っていない。マクダレンの意見は尊重すべきものだ。
「相手には相手の思惑があるのだろう。これが最後の交渉だと思わないことだ。時には蹴るという判断も必要だよ」
「はい‥‥」
マクダレンの言葉は空に届いていたかどうか。空はただ、常世の眠りにつくアストレイアの寝顔をみつめるばかりで、エカテリーナが二人の会話を聞きつけてマクダレンの言葉に意見を述べているようだったけれども、それも耳に入っては通り抜けていく。
「例え何があっても、貴方の元に還ってきます。信じて待っていて下さい」
空はまだ氷のように冷たいアストレイアを抱きしめると、口づけを交わしそう言った。
「本当に来てくれたんだな。こう聞くのもおかしいが、元気だったか?」
尾上彬(eb8664)は背後に人ならざる気配を感じ取ると、そう口にした。
「おかげさまで。それで用件は?」
影から生まれるようにして現れた女性の形をした闇はくすりと笑ってそう言う。その相手に尾上は少しだけ言葉を選ぶようにして話しかけた。
「今回のこの交渉について、契約を果たすまで見守ってほしいということと、ウェルスって奴がいるんだが、そいつが空やエカテリーナの代わりになりたいと申し出ているんだが、それを認めてやってくれないか」
彬の言葉に、少し驚いたような気配を感じる。
「契約を果たすまで見守ることはやぶさかではないけれど、ウェルスってたしかクレリックの子よね。思い切った決断をするのね」
「確かに無茶していると思うよ。だが、そうでもしなきゃこの契約はうまく乗り切れないと思ってのことだ」
「いいですわ、ここで戯曲の一つでも展開して貰おうと思ったけれど、それもまた楽しい話」
闇は形をつくって、彬の背から離れていく。
「魔法陣への道を特定するのが難しいですわね」
何枚もの地図を交互に見比べながら、地図師の女は難しい顔をしていた。
「城の地下になにかあるのは間違いないんだな」
西中島導仁(ea2741)の言葉に、彼女は頷いた。
「城の造りを見る限り、あってもおかしくはないとはいえますけれど、封印されているのかしらね。それらしい場所に行き着く通路がありませんの」
「隠し扉などで見えなくしているのか、それとも完全に封鎖されているのか‥‥」
魔法陣の捜査に加わったラスティは地図師からもらった地図を眺める。怪しい通路や部屋を眺めて探してみる物の、答えは出てこない。
「それに今の領主様は魔法陣とかに興味を大変示しそうなのに、未だに見つけていないということはかなり厳重に隠されているんじゃないかしらね」
地図師の言葉に、同行していたメンバーは納得する。確かにエカテリーナなら、魔法陣には詳しく、いかにも興味を引きそうな話題だ。だが、確かにエカテリーナ本人もこの城に住みながら、見つけていないということなのだから、地図師の言葉は正しいのかも知れない。
「案外、逸話だけが先走っているのかもな」
「さあ、案外ともう見つけておきながら、黙っているだけかもしれないわよ」
同行していた彬の言葉に、ラスティはちらりと棘を含んだ言葉で言った。
「だが、見つからない物は仕方ない。時間があれば、丁寧に探索したいところだが‥‥、願わくばデビルだけが知っているということだけはないと思いたいね」
マクダレンの言葉を締めに魔法陣捜索は打ち切られ、地図師は帰って行った・
「もしかしたら、ですけど。シェラに化けた悪魔は楽士かもなのです」
「面白い説ね」
オデット・コルヌアイユ(ec4124)の話に銀髪の異端審問官は面白そうな視線を投げかけていた。
「アルティラや憑依使えば別人のように欺くことも出来ます。邪推かもですけど、今の状況や苦しむ冒険者、シェラさんとの因縁をみてそう思いました。もしネイルアトナードがシャナさんといるうちに感化されつつあったのだとしたら。二人を殺させた悪魔は、さぞ腹の底で冒険者をあざ笑っていたのかもしれないのですよ」
オデットの言葉に、ディアドラは静かに耳を傾けていた。そして言葉が完全に切れたところで口を開く。
「地獄とつながった後から、一度倒されたと思っていたデビルが姿を現していた例もあるし、丹後で滅したのも偽物だった可能性も残っている。100%違うとはいいきれない話ね」
「だから、こう‥‥ディアドラさんなら対楽士の必殺技の一つや二つまだ持ってそうなのです。冒険者たちを囮に悪魔を討つ機会と情報を提供するので、色々助けて欲しいのですよ」
様子をうかがうように申し出たオデットの言葉に、ディアドラはふふんと鼻をならした。
「自分を餌にしようというその精神は嫌いじゃないわよ」
にこりと笑って、ディアドラは手を差し出した。協力の証拠だとオデットは自分の手を服にこすりつけて、握手に応じた。
「デビルの取引に応じる愚か者諸共、神の鉄槌を下してあげるわ」
「‥‥あの、それは優先順位をつけてもらえると、大変ありがたいのです」
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「さて、準備はいいかな」
「そちらこそ、契約はきちんと果たして貰いますよ」
城に入るには似つかわしくない男を向かい入れ、役者は揃った。それぞれの目が光り、空気をピリリと張りつめさせる。
「条件の変更も含めて確認させてもらうよ。まず十野間空の魂を手付けに半分取ったら、アストレイアの魂を半分返して貰う」
シルフィリア・ユピオーク(eb3525)は男に一つずつ確認するようにして言った。
「はい、了承しております。そしてその後‥‥残りの魂の半分を」
「それは私から引き抜いてもらえませんか」
黙っているのもできずに、ウェルスが名乗りを上げた。男はしばしウェルスの出で立ちをながめて黙ったままでいたが、やがてニコリと笑ってうなずく。
「ああ、あなたがウェルスさんだね。話はうかがっています。いいでしょう。では、アストレイアさんの魂を半分返したところで、ウェルスさんから魂を半分いただきます。そして残り半分の魂をお返しするために、エカテリーナさんから魂を半分いただきまして、アストレイアさんの残り半分の魂の在処へご案内します」
「それはあんたじゃなくて、そっちの奴が案内するんだね。構わないけれど、アストレイアが完全に復活するまでは盗った魂と一緒に残ってもらうよ」
そこはシルフィリアの眼が光った。交渉はちょっとでもグレーな部分があれば、相手にかすめ盗られていかれる。
「取引の終えた最後の瞬間に強硬手段を取られるのはこちらもゴメンですぜ。それは保証してくれるンで?」
「同じセリフをこっちが言いたいくらいだよ」
危うい視線が交錯する。しばらく無音の戦いが続いたが、それを切って捨てたのはリュリス・アルフェイン(ea5640)だった。
「魂をとって逃げたところで、これだけ人数がいるんだぜ。一人二人離れててめぇを縛り上げにいってもいいんだけどよ」
「ははは、仕方ないっすねぇ」
困ったような笑顔を浮かべて、男はそう言った。
「よし、それじゃ始めるとするか‥‥」
リュリスの言葉に従って、一人の男がまず空の胸元に触れる。そして何言とつぶやくと、空の顔の血の気がざっと引いていく。
「くっ」
やがて男が胸元から手を離すと、それにつられるようにして、空の体から10cmほどの白い球体が現れた。
「まだですよ。今ので1/4ですから」
男はそういうと、手に乗った白い球体を反対側の手に載せ替えもう一度、空いた手を空の胸元に当て直す。
奇術でもみているような光景であったが、それが長らく耳にすることはあっても、目にすることは無かった『デビルとの交渉』であるのだと思うと、背筋が冷えてくる思いがする。
この場には姿を見せていないが、どこかにいるはずのディアドラがこの現場をみたらまた激昂するのだろうな、とリュリスは思う。
そうしているうちに空の体からもう一つ白い珠が男によって引き出され、先ほどの白い珠に吸い込まれるようにして消えていった。
「さぁ、これで魂の半分はいただきました」
「それでは‥‥早く、アストレイアさんの魂のある場所へ案内してください」
生気を失って、青ざめた顔の空が、苦し紛れの吐息でそう言うと、男はこっくりと頷いて踵を返す。
「どうぞ、こちらへ。城の中ですから、そんなに遠くありませんよ」
城の中庭の茂みに小箱にいれて、それは隠されていた。
こんな簡単なところに、と何人かは開いた口がふさがらなかったが、こんな間近な場所でも探し当てるのは難しいと踏んでいたのだろうか。
「偽物じゃないだろうか確認してからだ‥‥」
「言われなくてもわかってますって」
リュリスの剣呑な目つきに、男は笑って返した。
一同はアストレイアの眠る部屋に駆け戻って、手に入れたばかりの白い珠を眠り姫の口元にそっと押し込む。それはするりと体内へと吸い込まれていった。
途端に起こる奇跡。死人同然であった蒼白の肌には赤みがさし、動きの無かった体に、呼吸のために胸がかすかに上下する。
蘇ったのだ。死の底から再び戻ったのだ。
「アストレイアさんっ」
空が抱きかかえて、彼女の名を呼ぶ。触れたその体も、少しずつぬくもりを持ち始めている。
「空、さん‥‥」
微かに空気を振るわせるような香が漏れ聞こえてくる。
空があらためて見ると、長いまつげがそっと開き、抱きしめる空を見つめているのがわかる。
「ごめんな、さい‥‥こんなことになってしまって‥‥」
「本当に心配を掛けましたね。あんな思いはもう耐えられません。二度と、そして一生私の傍から離しはしませんからね、覚悟して下さい」
互いに痛みをわかちあった二人が、抱きしめてそう言葉を交わしあった。
「さ、本物であったことは確認できたでしょう。残りの半分をいただきますよ」
男は二人の再会になんら感慨も抱かない様子で、次の魂をとウェルスの方をみた。その視線に少しばかり自らの選んだ道に対しての覚悟が揺らぐのか、ウェルスの顔が少し強ばった。
「はい‥‥いいでしょう」
男の手によって、ウェルスの胸元から白い珠が抜き出される。その脱力感にどこか既視感を覚えながらも、ウェルスは魂をちぎり取られる痛みに耐えた。
セーラ様がどこかでみて、悲しんではおられないだろうか。それとも背信と受け止められてはいないだろうか。覚悟の上の結果でも、それは心配せずにはいられなかった。
「はい、もういいですよ。魂を半分、確かにいただきました」
「それじゃ、残りの半分をとっととやってしまおうぜ」
リュリスがそう言ったその瞬間、透が魂を持っている男を鋭く見やった。彼は別の男が前に出てくるのを境にさりげなく窓際へと移動している。
それが、透の直感を刺激した。
「待ってください」
そういうのと同時に、男は窓を開けはなった。素早く透は弓を構える。
リュリスもちっと舌打ちして、そのまま新たにエカテリーナに近づいていた男に刃を抜きはなち、同時にエカテリーナはマクダレンから貰った聖なる釘を地面に打ち込んだために結界が発生した。結界にはねとばされた男は導仁に一刀の元に切り落とされる。
「おや、破談にするつもりかい」
「魂をどこにやるつもりですか。それは話が終わるまでここにおいておくはずでしょう」
「いやぁ、姉御に届けるのが優先なんですわ。姉御が取引を最後まで引き継いでくれますって」
魂が窓の外に向かって放り投げられるのと同時に、透が放った矢が男を貫いた。
「私たちの目的はね、混沌と混乱。面白いじゃない? 魂を奪われた人間が領主をしてたり、デビルを忌みながら、時には協力を仰いでみたり」
のんびりと外を歩いていた地図師に化けた女は歩きながら、そう言った。
「なぜ、そんなことを考えるんだ?」
「それは悪魔に存在意義を問うているのと同じ。さて、ありがとう、あなたのおかげで異端審問官の目から逃れられることができましたわ」
白い珠が天から降り落ちてくるのを知っていたかのように、女は珠を手に取ると彬に微笑んだ。
「また、この地に災いがまた降り注ぐその日に出会いましょう。それでは」
天からなにやら叫ぶ声が聞こえるが、彬にはするりと霞の中に入ったように消えていく女に何もすることができなかった。