生きる道(うた)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月03日〜10月08日

リプレイ公開日:2005年10月11日

●オープニング

「ねぇ、ミーファ。今度、修道院でチャリティーコンサートが催されるわ。あなたのことも頼んでおいたわよ」

「ありがとう、姉さんっ! なんかワクワクするな。修道院に入れなかったあたしがまさかこんな形で入れるなんて。こういうのを奇縁、っていうんだね」

 穏やかな笑みをたたえる姉の傍であたしは踊るように飛び跳ねて喜んだ。
 チャリティーコンサート。修道院が活動費用と慈善事業を行うために開催されるものだ。普段は閉ざされた修道院を開放して修道士たちが賛美歌を披露したりする。またコンサートでは彼らだけではなく、旅芸人が芸を披露したり、また他宗教の教話なども行う事があったはずだ。

「希望の歌は、修道士たちにはきっと衝撃的でしょうね。世界が変わって見えるようになるんじゃないかしら‥‥」

 陶然とした表情を浮かべて姉は天を仰いでいた。姉にとって、冒険者という世界を知った事、あたしを含めた吟遊詩人たちの奏でた曲は鮮烈だったようだ。
 冒険者たちから新たな世界に触れて以来、姉はあたしが住み込みで雇ってもらっている食堂によく顔を見せてくれるし、あたしも顔を合わせるのに辛さを覚える事はすっかりなくなった。
 あるとすれば‥‥。

「あ、そうだ。冒険者の人たちも一緒に参加していいかな。それとこの間の吟遊詩人さん」

 毎日決まった事しかできない修道士にとっては冒険者みたいな人にふれあえるだけで楽しいだろうし、冒険者だって活躍の機会が少しでもあったら嬉しいと思うだろうし、あたしもやりたいことを存分にできるし、冒険者にも恩返しができるというものだ。

「頼んでおいてあげるわ。冒険者の方々にできることがあれば、何でもさせてもらうわ。私たちを導いてくれたもの」

 姉はふわふわとした様子のまま、こっくりと頷いた。
 あたしが修道院に入るのを断られて、傷ついたいた時に道を指し示してくれたのも、家を出て自立するきっかけを作ってくれたのも、姉との関係を修復することができたのも、冒険者たちのおかげだ。

 今回はお願い事などない。
 できる限り、したいことをしてもらえればいいのだけど。

「楽しみね。姉さん」

 どんなことがあるだろう。どんなことが起こるだろう。
 やりたいことはしてくれるかしら、やりたいことできるかな?

 わくわくするあたしを見て、姉は穏やかな笑みを浮かべ続けていた。

「希望の歌は、修道士たちにはきっと衝撃的でしょうね。世界が変わって見えるようになるんじゃないかしら‥‥」

●今回の参加者

 ea1168 ライカ・カザミ(34歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea8357 サレナ・ヒュッケバイン(26歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2375 セフィ・ライル(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2482 ラシェル・ラファエラ(31歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●どこかに素敵な場所があったら、是非教えて頂きたいわ
 コンサートを目的に集まった子供達はライカ・カザミ(ea1168)とサレナ・ヒュッケバイン(ea8357)を取り囲んで街中を移動している。
「あちらの広場ではよくイベントをします。いろんな催し物があるみたい」
「こっちのお店はねー、占いをしてくれるんだよ」
 サレナと子供達は口々にそうしては、あれやこれやと、ライカに説明している。遠くイギリスから輿入れのためにノルマンに移ってきたライカにノルマンの説明をしているのであった。
「あら、そうなの。それじゃ時々見に来ないといけないわね」
 ライカは柔和な微笑みを浮かべて、子供達の紹介するお店を眺めていた。できるならばどのお店が安くて良いお店なのか、確認して回りたかったが子供達の判断では分かりかねる場所も多く、記憶に留めておくしかなかった。
 楽しそうなところがたくさんあるわね。今度、イギリスに手紙を書いて教えてあげよう。
 弟の姿を思い浮かべながら、ライカはそう思った。
「あら、サレナさん?」
 ふと、気が付けばサレナの姿が見えない。慌てて振り向いてみると遙か後ろでサレナはドレスを選んでいた。
「今日は久しぶりに着飾ってみようと思うのですが‥‥」
 いつもは騎士として過ごしているため、鎧を手放すことは少ないのだが、今日は修道院のコンサートだということ。それらしい服にしてみたいというのは女性のみならず誰にだってあることだ。
「あら、良い服がたくさんありますわね。これなんかいかがかしら。サレナさんにとてもよくお似合いだと思いますけれど」
「あ、それもいいですね」
「わー、おねえちゃん、きれーい」
 ライカも子供を連れて品物を手に取り始める。そこに子供の囃しが付け加わると。

 あの、そろそろお時間なんですけれども?
「ここのデザインがもう少し‥‥うーん、ねえ、どれがいいと思う?」
「これ、もう少し安くなりませんか?」

●みぃんなで踊ると楽しいんですよぉ★
 普段、賑わいを見せることのない修道院は、今日ばかりは華やかな賑わいを見せていた。『黒』の修道院が行う、チャリティーコンサートの開演時間が近づいてきたからだ。
「もうすぐ、コンサートがはじまるよぉ★」
 入り口近くでミュウ・クィール(eb3050)の元気の良い声を上がると、それぞれ支度や待ち合わせや、談笑を楽しんでいた人々も、そろそろかと入り口に集まり始める。
「あら、まだじゃないの?」
 受付と志納金を集める役割を担っていたラシェル・ラファエラ(eb2482)は中の様子を見て、ミュウに告げた。中はまだ最終打ち合わせをしているようで、あわただしいような雰囲気だ。
「これから、コンサートをしますけれどもぉ、みぃんなで楽しめるよぅに、これから振り付けをやりますよぉ★」
 ニコニコ笑ってそう宣言するミュウの言葉に、集まった人々はおおよそ乗り気だった。若干不安そうな顔を浮かべる人もいることはいたが、ミュウはそんなこと気にしない。踊れば体も心もホットになれるからだ。
「そ、そんなプログラムあったかしら?」
 あわてて、予定を確認するラシェルだが、もちろんそんなものは存在しない。
「ちょっと、ミュ‥‥そこっ、ユーリ! 一緒になって踊らない!!」
 お手伝いということでラシェルの呼びかけに二つ返事で参加してくれた『白』の暴走シスター、ユーリも場の雰囲気に乗っかって一緒に踊っている。
「踊りがあるんでしたら、ズボンにしてくれば良かったです」
 全く聞いちゃいない。
 まぁ人の話を聞いて従ってくれるようなユーリなら冒険者に突飛な奉仕活動を依頼してくれることもないだろう。そこは少なからず付き合ってきたラシェルにも、よく分かっていた。十分すぎる程に。
「ユーリ。ちょーっといらっしゃい」
 ずーりずりずり。
 かくして、ユーリは首根っこを捕まれ、路地裏ならぬ物陰に連れて行かれるのであった。何があったのか?
 それは怖くて公表できません。


●共に奏でませんか?
 チャリティーコンサートでは、今、ミーファが『希望の歌』を披露していた。

『‥‥希望の地 夢の欠片を拾いつつ
   私は歌を唄おう
   駆け出す私に吹く風に
   願えば届くはず
   例え悲しみの雫が溢れても
   希望は失わない‥‥』

 修道院の礼拝堂に響くミーファの竪琴と歌声に耳を澄まして、は満足そうに笑みを浮かべた。
 まぁ、長らくそれに従事してきたシュヴァーン・ツァーン(ea5506)にしてみれば、お世辞にも上手とは言えない出来であったが、ひたむきさはよく伝わってきた。
 に、しても。彼らは熱意を感じることができるのでしょうか?
 修道士達はぼぅっとした顔で、歌に聴き惚れているようだった。それにしても気の抜けた表情、ここに来る前にどこかの誰かで見たような?
「あ、シュヴァーンさん! 来てくれてたんですね。ありがとうございます」
 傍でやたら元気な声におどろかされて、そちらを見てみれば、いつの間にやら演奏を終えたミーファの姿がそこにあった。
「なかなかのものでしたよ。聴く者の心に訴えかけるために、小手先よりもどれだけ打ち込んでいるか、それがよく伝わってきました」
 その言葉に、嬉しさと至らなかった残念さを半々に浮かべるミーファ。なんだかややこしい顔をしているので、シュヴァーンはもう少し彼女の助けになれる言葉をと思い、口を開いた。
「‥‥改めて私が口を出すようなことはないかもしれませんが。失敗してもいい、と思ってはさすがに問題でしょうが成功させなければと気を張るよりはうまくいくと思ってのびのび奏でた方がよい結果につながるかと」
 えーと。
 ミーファの笑顔にはハテナマークのアクセントがついていた。真っ直ぐすぎる彼女にはちょっと言葉が難しかったようだ。
「思いを存分に歌に乗せれば、とおっしゃったのですよ」
 三味線やオカリナ、竪琴など複数の楽器の調整をしていたセフィ・ライル(eb2375)が僅かに表情を崩してそう伝えた。
「あ、や。ごめんなさい。そういうことだったんですね。もっと目一杯思いをさらけ出せるように。それが形になるようにこれからも頑張ります」
 身を正してお礼を述べるミーファの姿にシュヴァーンもセフィも優しく微笑んだ。吟遊詩人の卵はきっと大きく育っていくことだろう。そんな予感をさせた。
「これから、冒険者の皆さんで一緒に音楽会とダンス会をしようと言うお話があるのですが、御一緒にどうですか?」
 言葉と共にセフィの竪琴『リューフィス』が優しい音をあげた。それに呼応するようにシュヴァーンの竪琴も応じてみせる。
 同じ竪琴なのに、互いに違った性格を持ち合わせた音が互いに引き立て合う。吟遊詩人の熟練した技が魅せる遊びのようだった。
「わ、私も参加していいんですか? が、頑張ります」

●ああ、やはり食事のときは至福です。
 コンサートは終了を迎え、今は冒険者有志による音楽会が催されていた。格式張ったコンサートとは違い、ミュウが飛び入りで踊りを披露したり、歌を披露したりしていた。皆それぞれの楽しみを見つけ、賑やかな談笑があちらこちらで花開いている。
 そんな時間に一番重要と言えばっ。
「ラシェルさん。お鍋が煮えてます!」
「ああ、もう、こっちは飛び入り音楽隊の整理で手一杯よ!」
「ハメを外さないようにお片づけのお手伝いと思ったけど、目まぐるしいわ」
 ラシェルとライカ、そしてユーリは、修道院の運営メンバーに混じって八面六臂の活躍をしていた。いや、それぐらいでないと間に合わないというか。
 運営を取り仕切る修道士達はもう悲鳴を上げつつも彼女たちの協力に心から感謝した。
「あなた達の真心に感謝致します。篤い誠を知っていらっしゃる。まさに赤誠と呼ぶにふさわしいですよ」
「そんなこと終わってから言ってー!?」
 まったくだ。
 そんな裏方の努力により、表舞台ではおかげさまで和やかな雰囲気が場を包んでいた。その中で、今日露店で買ったばかりの白いドレスに身を包んだサレナが持ち寄りパーティーの主役とばかりにご飯をいただいていた。
「あ、このスープ美味しい‥‥パンとよく合いますね」
「あの、食べ過ぎはよくありませんよ」
 横に積まれた空き皿の山を横目に見て十野間 空(eb2456)はこっそりとサレナに囁いた。十野間の傍にいる騎士アストレイアも唖然として見守っていた。
「大丈夫ですよ。走り込みが趣味ですから、これくらい食べても‥‥」
「なるほど、良き身体を作るための食事なのですね」
 アストレイアはうんうんと頷いているが、横で十野間は冷や汗を流していた。最愛の人がこんなに食べるようになったらどうしよう、考えるだに恐ろしい。
「貴女はいつも騎士としてのことを考えられますね。ですが、肩書きを持たぬ姿でしか語られぬ事、接する事が出来ぬ事も多々あります」
 十野間の言葉に、アストレイアははっとして、小さく頬を赤く染めた。
「そうでしたね。ですが、女性としてよりも騎士としてでいることの方が長いものでつい‥‥」
 恥じらう彼女の姿に今度は十野間が見とれてしまう。
「綺麗‥‥です。とても御似合いですよ」
 ぽつりと漏らした本音が、ますますアストレイアの顔を赤く染める。そんな様子から目を離すのが惜しいと思いながらも十野間は荷物に手を入れた。最愛の彼女に指輪をあげようと前々から計画していたのだ。
「今日の事を忘れないで下さい、きっと今の貴方にとって一番大切な事のひとつだと思いますから」
 と、言って指輪を差し出した。持ち物にはなかったが、こっそり彼女のためにと特別に用意しておいた指輪をしばらく見て、彼女はさらに顔を赤くさせた。
「多分、その指輪入らないと思うんです。小さすぎて‥‥」
 そういえば。彼女は元々線の細い令嬢ではないし、率先して剣を振るうため、手の皮も厚くなっているのだろう。
 指輪にもサイズがあったことを、十野間はようやく思い出したのであった。

●これから、どうする?
 コンサートも無事に終わり、人影もまばらになって来た頃。ラシェルはミーファの姿を捉えて声をかけた。彼女の傍には前回の依頼で食堂にいた派手な服装の吟遊詩人がいた。
「あ、ラシェルさん。今日は本当にありがとう」
「思ったより忙しくて。でも演奏はちゃんと聴いていたわよ。それにしても、びっくりしたわ。あんなに堂々と歌うことができるなんて。最初にあった時とはもう別人ね」
「みんなのおかげです。みんなのおかげで私ここまでこれたから」
 その笑顔は、本当に可愛らしい明るい笑顔だった。そんなミーファの笑顔を愛おしく見つめて、ラシェルはふと尋ねた。
「ねえ、この後はどうする? もっと広い世界を見てみたくはない?」
 その言葉にミーファの目は嬉しさのあまりか、うっすら涙がにじんでいた。しかし、それは傍にいた吟遊詩人が制止する。
「その前に彼女にはもう少しだけやりたいことがあるようですよ」
「あ、うん。でも、すぐ終わるから。もし困ったらお願いして助けて貰うから。絶対、一緒に行こう。まだ知らないこと一緒に探しに行こうね」
「よし、それなら約束」
 約束の誓いがここに結ばれた。

「さて、夜の女王はもうそこまでやって来ています。囚われないようにお気を付けを」
 すぐさま吟遊詩人の衣がミーファを覆い隠すように包み込む様子に、ラシェルは言いようのない不安を覚えるのだった。