●リプレイ本文
●町はずれで一悶着。
「これでベースキャンプは完成でやす。皆準備は宜しいでやすか?」
町外れのだだっぴろい荒野に集まり、テントの群を作り出した冒険者全員に向けて言葉を放ったのは利賀桐真琴(ea3625)だった。その言葉に雑談や荷物の準備を行っていた者達は振り向いて、応答する。
「わざわざ穴を掘って迷宮探索、しかもここまで冒険者が集まるって言うのは壮観よね」
ラシェル・ラファエラ(eb2482)の言葉にディアドラ・シュウェリーン(eb3536)も笑みを浮かべながら同意する。ミュウ・クィール(eb3050)に至っては、キャンプみたい、と大はしゃぎしている。
「それじゃ、早速掘り進めようか。とりあえず」
シルフィリア・ユピオーク(eb3525)がスコップを荷物から取り出すと、他の者達もさあやるぞ、と言わんばかりにスコップを取り出した。武器の代わりにスコップを持つ面々。ラシェルの言葉通り、確かに壮観だ。
「そうだね。ところで、実際どこから掘るんだったっけ?」
確認のつもりで言ったルディ・ヴォーロ(ea4885)の発言に、それぞれ元気よく答える。
「一挙にアンドラスの居室を目指すよ! ホリススム魂をみせてやろうじゃないのさ!!」
とはこれ、ネフィリム・フィルス(eb3503)。それに賛同するのはフレイア・ケリン(eb2258)だ。
続いて、シンザン・タカマガハラ(eb2546)とシーン・イスパル(ea5510)が、別の発掘ポイントを提案した。
「オレとしては竜のねぐらだな。竜とくれば財宝溜め込んでるって相場が決まってる」
それにおっとりと微笑を浮かべて頷きつつも、これまた別のポイントを上げるのはユナ・クランティ(eb2898)だ。
「私が特に興味のあるポイントは女魔術師の研究室でしょうか?」
それに反対の合唱を上げるのは、明王院 月与(eb3600)とチサト・ミョウオウイン(eb3601)、それからシルフィリアだ。
「妖精の小舟停泊所にしようよ。妖精さんの宝物があるかも知れないし、比較的浅いから何とか掘って調べられるんじゃないかな」
ここに来るまでは、順調に案をまとめていたはずなのに、肝心の発掘ポイントについては実はバラバラだったのだ。マハ・セプト(ea9249)はそんな状況に溜息を吐く。
そんな状況に光明を導き出したのは、バロン・ザッハーク(ea5112)であった。手近な石をいくつか拾い上げると、それを全員に見せて、シャッフルを始めた。本来なら道具があるのだが、今回は即興だ。
「それでは、私の占いで決めてみませんか?」
統一意見が取れないのだから、仕方がない。他の者もとりあえずは納得してくれたようだ。
「深さはともかく、座標が近いものを結ぶルートから分けると、?停泊所→ねぐら、?休憩室→居室、?夢の跡→研究所に分かれると思います。この中からルートを決めましょう」
というチサトの提案に落ち着くことになり、バロンの持っていた石が大地に形を為す。それに注目する一行。
「?と出ました。それぞれ意見はあるでしょうが、とりあえずこれで行きましょう」
『おー!!!』
齟齬が取れれば、団結力のあるメンバーであった。
●いきなり行き止まり
掘削作業は、綿密に打ち合わせをしていたおかげで、人力としては非常に迅速な進行を見せていた。スコップで掘り出し、溜まった土は、篭とロープを軍馬と馬で地上へ引き上げ、ベースキャンプの留守番組がそれを廃棄、その合間に、発掘すべきものはあるか、それぞれが持ち場と役割を持って進んでいく。
地図と掘り進んだ道を重ね合わせていたマハが目を上げて口を開いた。
「そろそろ、妖精の小舟停泊所の地点じゃな」
それを聞いてわくわくする表情を見せるチサト。そしてそれとは正反対の厳しい顔をルディは浮かべた。
「あ、危ない。この先空洞だよ。崩落するかも」
そう言った矢先、先頭して穴を掘り進めていたシンザンの方から、土砂が崩れる音が聞こえた。
崩落した!!?
「うお、土壁が崩れた! おい、崩落するかもしんねぇ! 気を付けろ!」
一瞬の戦慄もその先を見つめていたシーンの嬉しそうな声で霧消する。
「わぁ〜♪ 地下湖なのね! 光苔があちこちに生えて、まさしく妖精の小舟停泊所ね」
先の見えないほど大きな湖に、光苔の明かりがチラチラと浮かぶ幻想的な世界が一行の目の前に姿を現した。
バロンがすぐに崩れた一角の補強を始める横で、シーンは『リヴィールマジック』の準備。その横でルディとチサトが周囲をランタンの明かりで眺めて話し合っていた。
「向こう側まで明かりが届かない‥‥この湖が問題だね」
「迂回するのも時間がかかりますし、底を掘り進むにも、湖の深さが分かりません」
こんなに大きな湖の存在が完全な計画違いとなっていた。次に掘り進む場所を変えなくてはならない。
「まあ、仕方がないの。わしはこの湖の先を見てくるとしようかの」
マハの言葉に滲み出る焦燥感がすこし溶けた。
「こっちでも発掘してみようか。シーンさんの魔法にかからなかったみたいだけど、人工建造物も見え隠れしてるし、なにかあるかもしれない」
「掘り進むワケにもいかねぇしな。シーンよ、怪しいところはどっちだ?」
「えぇと、右。あ、向かって左ですけどそっちの壁が」
気を持ち直してシンザンがスコップを振るい始めた。
「おぉーい、大漁じゃぁぁ!! み、見ろ。宝箱じゃ。向こう岸にうちあげられておったのじゃ!」
湖の向こうからマハの少し興奮気味の声が聞こえる。バロンが目をこらしてみれば、箱を抱えた、というか、箱にしがみついているマハがゆっくりこっちにやって来るではないか。
「マハさん、無理してはいけませんよ。その宝箱、マハさんよりも明らかに大きい‥‥」
しかし、宝箱を目にすると、メンバーもやる気が俄然出てくる。ルディは嬉々とした顔で宝箱の解錠に取りかかる。
「気を付けてくださいね‥‥あ。これを開けたら、皆さん交代しましょう。照明が切れてきました。時間ですよ」
仕事がしやすいようにランタンを掲げていたチサトが、油の量に気がついてみんなにそう声をかけた。
●宝の前に敵はなし!
先の組のメンバーは休憩してもらうとして、新たなメンバーが発掘の為、穴に入ってきた。
ラシェルとディアドラも地図を見て新たな行路を立てる。
「そうね。順当に掘り進むなら、ここは女魔術師の研究室かしら?」
などと言って周りを確認しているとネフェリムから声が上がる。
「何か掘り当てたよ。これは‥‥金属の棒? 柱にしては細いみたいだけど」
横で同じく掘削していたシルフィリアからも同様の声が上がる。どうやら枠のようだ。
「どうやら発掘ポイントについたようですね」
枠がどのような意味があるのか判断しかねるフレイアは、とりあえずそう呟いた。その言葉に、ユナがふっふっふ、と含み笑いを漏らし始め、みんなの注目を集める。
「どうしたの? あら、犬‥‥?」
ラシェルが近づくと、犬の吠え声がユナの足元から聞こえてくるではないか。
「ジャパンには犬が示した場所を掘ると金貨が出てきたというお話があるそうですね? という訳で、用意しました」
「ほ、本気ですか‥‥」
フレイアの唖然とした呟きにも、全く気にした様子もなくユナは胸を張る。
「もちろん、超本気です! さ、ワンちゃん、がんばって良い物を探してくださいね〜♪ 何も出てこなかったら氷漬けの刑ですよぉ〜」
『くぅぅーん!!?』
さらりと恐ろしいことを言ってのけるユナに対し、柴犬は一生懸命右往左往する。その姿はなんとももの悲しい。
「『ワンちゃんラブ☆ジプシー』のミュウがいなくて良かったわ‥‥」
気まずい沈黙を打ち払うべくその間にフレイアは枠の正体を調べていた。
「女魔術師、か。何もないところからモンスターを呼び寄せたりすることができた『扉を守る者』だと推測するのですが」
「へぇ、我が名に応じて血の盟約を結びし者、出でよ! とか唱えてたのかしらね」
ディアドラが冗談交じりにそう語りかけた瞬間、シルフィリアから悲鳴にもにた声があがる!
「わっ、枠が光ったよ!!」
「ええええ!!? あ、ありえない!!」
しかし、それは確かに光を帯びて虚空を映すことしかできない枠から異形の者が姿を見せる。
「細かいこと気にしてたら始まらないよ。なんか出てきたら、ぶちのめせばいいだけのことだよ」
「来ます!!」
ティールの剣に持ち替えたネフェリムが、完全に姿を現したソレに対して、先制のスマッシュをぶちかました。
「あたしの発掘をじゃまするヤツは皆殺しだ〜!!!」
「効いてる! 追撃するよ」
痛みに狂乱する怪物を前に、シルフィリアもアゾットを身につけて、攻撃を加えていく。その後ろで術者が二人、魔法を紡ぎ上げていく。
「皆さん巻き込まれないように。アイスブリザード!」
「まだ元気みたいねぇ‥‥そのままじっとしててね。アイスコフィン!!」
途端に吹き荒れる吹雪と氷の結晶に、モンスターはあっという間に封殺されてしまった。
が、それで済まないこともある。身を伏せていたフレイアが真っ青な顔をして、声を荒げた。
「範囲魔法はあぶないですよ!!」
見れば、衣の端が凍りついていた。更に枠も壊れていた。やっぱり攻撃手段も考えなくてはならないようだ。
そんな喧噪を余所に、剣を収めたシルフィリアが化け物の遺骸の下に輝きがあることを見逃さなかった。
「この怪物、一緒に宝物まで持ってワープして来たみたいだね」
「あら本当。それじゃ遠慮なく頂きましょうか。物も大きいですし、戻りましょう」
ディアドラが指示して一端休憩に入る準備をしている傍でラシェルは感慨深げに頷いていた。
「うんうん、やっぱり6人パーティーが基本よね」
「ラシェルさんもお手伝い下さいませ??」
●キャンプで作戦会議
皆が休憩するキャンプでは、真琴とミュウ、そして月与の三人が付きっきりでその切り盛りを行ってきた。15人の体調管理をするのは大変だったが、皆が持ち帰るアイテムを見るとやる気が沸いて出てくるというものだ。地味で出番の少ない仕事だが、これがなければ効率はどんと落ちていたことだろう。
「随分たくさんお宝があったでやんすねぇ」
「みぃんな、お疲れさまなのー★ ワイン漬けの特製料理だよー。あっつあつだからねぇ★」
スープを休憩している一行に配り渡す真琴とミュウ。
と、その瞬間、ミュウが何かにつまずいて派手にひっくりかえる。
「あ、ミュウお姉ちゃん。危ないよっ!」
「あゃ、あーつーーーいですーっ!?」
「大変! すぐに布もってくるからちょっと待ってて!」
慌てて走った月与の助けを得て、ミュウは火傷なく立ち直った物の、少ししょんぼりとした顔だ。
「あぅぅ、みんなが持ってきてくれた物、ピカピカにしたのに汚しちゃったです‥‥」
そこには皆が掘り出してきた物を、ミュウが一つ一つ磨きあげた物があった。土で汚れていた物も今では、本来の色鮮やかさを取り戻している。
「ほんとたくさんあるよね。エチゴヤに売りに出すモノを除いても11個もあるんだから」
月与の言葉に真琴はしばらく思案した。人数は15人。アイテムは11個。少し足りない。だが、売ってできたお金もそこそこになるはずだ。食料ももうないし‥‥
「そろそろ潮時でやんすね」
「えー、でもまだみんな頑張るつもりだよ?」
「んー、そうでやすけどね。食料も馬の疲労も限界でさぁ」
できるだけ良い環境でいられるうちに引き上げないと、悪化してからでは遅い。
言い淀む月与は、楽しそうに食事を取る仲間を見つめた。
「でも、せっかくだしできるところまでやろうよ。きっとみんなもそう言うと思うんだ」
「あっしもそう思ってはいるんでさぁ。そうでやんすね、あと、ちょっとだけ。ちょっとだけにしましょか」
ここからは自分の腕の見せ所だな、と真琴は腹をくくって、月与に微笑みかけた。
「それじゃぁねー。私、幸運の踊りをしてくるのー★ みぃんなニコニコしたら、良い物もいーっぱい見つかると思うのー★」
ミュウはそういうと、ひょこっと立ち上がると、軽くリズムを取り始めた。明るい雰囲気は複雑な気持ちをかき消してくれるほど明るい。
「ディアドラさんも向こうでマッサージしたりとかして、次に備えている感じだしね」
月与の言葉に、真琴も皆の団欒風景を覗き見た。
「‥‥してもらってるのマハ爺さんじゃないでやんすか」
「‥‥穴掘りの疲労をほぐしてる感じじゃないよね」
●お疲れさまでした
「まあ、勇気ある撤退も必要だってことね。地図はあるんだし、またみんなで堀りに来ましょうよ」
「残念‥‥もう少しだったのにな」
その言葉のどれもが、やはり落胆の色は隠せなかった。
一行は後少しだけ、という条件で再び発掘作業を再開し、ルディによって直通の落とし穴を発見したものの、土砂を引き上げていた馬の体力が限界に達したため、発掘作業は断念せざるを得なかった。
「馬を使うことまでは気がいったのに、体調までしっかり見てやれなかったのが失敗じゃったな」
マハの答えにシーンはがっくりと肩を落とす。その肩を優しく叩くのは真琴だ。
「仕方ねぇでやんすね。でも、これだけいっぱい発掘できたからよしとするでやすよ。ほら、ミュウさんのおかげで、こんなに綺麗になったでやんすよ」
「あんまりお手伝いできなかったからぁ、頑張って綺麗にしたんだよぉ★」
「ふふ、昔を思い出すの、遺跡をみては探検に行っていた頃を」
「そうだったんだぁ。でもあたしも忘れられないと思う。土砂の引き上げで、腕がぱんぱん‥‥」
腕をもみほぐして貰う姉の姿を見て、チサトは少し微笑んだ。
「うふふ、みんなでいると温かいですね。私は発掘も大切でしたけど、みんなで何かをできた、ということの方が大きな収穫だったような気がします」
そして冒険者達のなごやかな一夜が過ぎてゆく。
「むー、ワンちゃん、結局ほとんどアイテム掘り出してくれませんでした。やっぱり氷漬けの刑ですわね」
「あわわわ、そんなことしちゃダメですよぉ。ワンちゃんが可哀想なのぉ!」
‥‥なごやかな一夜にしてくださいってば。
発掘結果発表
利賀桐 真琴(ea3625) 3G
ルディ・ヴォーロ(ea4885) 鷹のマント留め
バロン・ザッハーク(ea5112) パリーイングダガー
シーン・イスパル(ea5510) コレドのコイン
マハ・セプト(ea9249) 3G
フレイア・ケリン(eb2258) 天使の羽ひとひら
ラシェル・ラファエラ(eb2482) 清らかな聖水
シンザン・タカマガハラ(eb2546) プロテクションリング
ユナ・クランティ(eb2898) ブルー・スカーフ
ミュウ・クィール(eb3050) ローズリング
ネフィリム・フィルス(eb3503) スカルフェイス
シルフィリア・ユピオーク(eb3525) 3G
ディアドラ・シュウェリーン(eb3536) 水晶のペンダント
明王院 月与(eb3600) 3G
チサト・ミョウオウイン(eb3601) ソルフの実