太古の記憶(カケラ)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月03日〜12月08日

リプレイ公開日:2005年12月09日

●オープニング

「それで、どんな御用かしら? 衛士さま?」
「実はね、街の入り口の警備をやっていたんだけどね、そこでちょっとわからないものが出てきたから調べて貰おうかと」
 衛士の男は兜をソファの端にひっかけて、差し出されたお茶を飲みつつ、仕事の話を切り出した。
 その言葉はあっけらかんとして、友達に話すような口ぶりだ。笑顔の似合う彼の外見とはよく似合った話し方であったが、仕事ぶりとはそぐわない。部屋の主、フェンネルはそう感じていた。
「調べ物ですか。ご生憎と、私の専門分野は考古学ですよ。事件に関わるような調査は不可能かと。人をお選び下さいませ」
「やだな。僕だってそれくらい知ってますよー。だから、貴方に頼むんじゃないですか」
 衛士はにこにこ笑顔で答えた。有無を言わせるつもりがないということが見て取れる。
 これはややこしいことを頼まれるわね、そう覚悟して、衛士が詳しい話を切り出すのを待った。
「今日とある運び屋が街に来たんだけどね。素振りが怪しいから捕まえたら石版が出てきたんだ」
 石版?
 フェンネルの長い耳は素早くそれに反応した。顔色はコントロールしたつもりだったが、衛士にはその微妙な変化を読み取ったのか、より饒舌に話を続けた。
「それが何か、どういう物か、誰に渡すのか、そういうのを聞き出しているところなんだけど、運び屋は何も聞かされていなかったらしくてね。どうも要領を得ない」
「それで私に石版を読め、と」
「その通り! さすがは賢者フェンネルと称されるだけあるね。石版本体は残念ながらしばらくお預かりだ。いちおう文字だけは転写してきたんだけどね」
 そうして、衛士は鞄から書簡を取り出し、それを軽く振ってフェンネルに見せつけた。握れば手から少しはみでるほどの大きさのそれを見て、それほど大きな物ではないようだ。
 そう見つめる彼女の真剣な眼差しに対して得意な笑みを浮かべつつ、衛士は問いかけた。
「で、聞いてくれたっていうことは読んでくれるんだよね?」
「まぁ、読むだけなら。その後のお手伝いはできませんよ?」
「その後のお手伝いまでセットさ。これを扱える人は少ないんだから」
 そう言いつつ、衛士は書簡を開き、中に入っていた紙を取り出し差し出した。
「まあ、羊皮紙? 随分高級な物を使ったのね。少し時間を貰っていい? 辞書がいるわ」
「どうぞ。あ、それじゃお代わりをよろしく。ミルクがいいかな。ホットで」
 衛士は図々しく笑ってフェンネルが研究室に戻るのを見送った。

「残念だけど、私には力不足だわ」
 しばらくの後、部屋に戻ってきたフェンネルは紙を衛士に返した。
「全く読めない文字? 古代魔法語だと思ったんだけどな」
「古代魔法語もあるわ。それに加えて、ラテン語も使っている。どういう意図か分からないけど使い分けているみたい。両方の言葉は知っているけど、つなげても意味のある言葉にはならなかったわ」
「ふぅん‥‥まあいいや。とりあえず書いてよ。冒険者ギルドに解読依頼を出してみる。本当なら読み解きたいところだけどね。僕も仕事があるし」
 フェンネルはその言葉にすぅっと目を細めた。
「そう、これは兵士としての仕事ではないのね?」
「あは、やだなぁ。意外と鋭いじゃない。そう。ちょっとした冒険心さ」
 衛士は驚いたような言葉を漏らしつつも、笑顔を一つも崩さなかった。そうフェンネルなら読み解くだろうと踏んでの発言だったのだろう。まったく。
「ま、詳しくはまた中身が読めたらお話しするよ。僕は冒険者に依頼してもう少し読み解いて貰うことにする」
「わかったわ、それじゃ、ゲルマン語に直したものを書いておくわね」
「ちゃんとラテン語と魔法語の違いが分かるようにしておいてよ。でないと意味のない物になってしまうんだから」
「はいはい」
 子供のように目を輝かせる衛士を見て、フェンネルは苦笑した。
 謎に挑む気持ちは同じだな、と。


石板記載文

 -ケ-お-か-エ-オ-エ-け-ケ-さ-え-お-け-エ-ケ-お-け-イ-あ-け-エ-け-こ-ク-エ-コ-お-ケ-あ-ク-エ-
-か-こ-け-こ-コ-エ-く-さ-け-あ-ケ-ウ-エ-か-さ-あ-く-あ-ケ-さ-ケ-お-エ-ク-お-エ-ク-こ-さ-
-ケ-お-け-イ-あ-ウ-エ-コ-こ-コ-あ-い-エ-ケ-あ-コ-コ-お-く-あ-コ-あ-か-こ-ク-あ-サ-さ-
-ウ-あ-か-さ-さ-け-ケ-お-け-サ-あ-エ-く-さ-け-あ-ケ-エ-か-さ-ソ-さ-さ-ソ-さ-さ-
-ウ-こ-さ-ケ-こ-さ-ク-お-か-エ-ク-お-か-エ-コ-あ-ク-エ-ケ-お-け-け-さ-け-こ-ケ-さ-
-ケ-お-エ-ケ-お-け-ク-お-か-エ-ク-お-か-エ-コ-あ-ク-エ-ケ-こ-け-け-さ-け-こ-ケ-さ-
-け-エ-コ-エ-い-こ-か-ソ-こ-さ-か-あ-け-エ-サ-さ-ク-お-け-こ-コ-こ-か-こ-ク-こ-か-あ-か-こ-ク-お-け-あ-ク-さ-
-く-あ-ク-さ-け-さ-か-こ-さ-オ-こ-さ-ウ-エ-コ-こ-す-こ-ケ-エ-コ-お-さ-ク-お-お-ケ-エ-く-さ-

●今回の参加者

 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●初走
「今回は、顔見知りばかり‥‥ですね」
 そう言って穏やかな笑みを浮かべる明王院 未楡(eb2404)の周りには、彼女の言葉通り、以前から懇意にしている人々の顔があった。彼女の娘の明王院 月与(eb3600)とチサト・ミョウオウイン(eb3601)、華仙大教国在住時からの関係を持つシルフィリア・ユピオーク(eb3525)。そして実の娘のように思う、太陽のような笑顔のミュウ・クィール(eb3050)。彼女たちは生まれも育ちも違っていても、一つの大きな家族であった。だから、そんな皆が集まるこの場において、自然と笑みが漏れるのである。
「本当だね。あたしとしては嬉しいよ。未楡姐さんやミュウちゃん、月与ちゃんやチサトちゃんと一緒にできるんだからね」
「あ、あたいも。へへへ、母様と一緒に仕事ができるのは嬉しいな」
 それは、シルフィリアや月与にしても同じ事。柔らかな笑顔が自然と浮かんでくる。世界に冒険数多く、その度に生まれるパーティーも数多にあれど、これほど和やかなパーティーもそうはなかろう。
「えへへ、わたしもー★ ワクワクするよね、なぞなぞ♪」
 ほかほかとした笑顔を浮かべるミュウは依頼主である衛士から預かった石碑の文章を眺めみた。
 ゲルマン語に訳されているものの、単語の羅列でしかないそれは、何を書いているのかさっぱり理解できなかったが、皆で取り組めると思うと頭も痛くならない。
 チサトも同じように笑顔を浮かべる。
「難しいですが、みんなで力を合わせればきっと解読することもできるでしょう」
 みんないるのだ。悪い結果になるはずはない。どこか確信めいた想いが彼女の中にはあった。逆に月与は顔が少し引き締まる。
 そんな二人を、母は優しく包み込んだ。その抱擁には強さと温かさが滲み伝わってきた。
「読み解く価値はありそうですね。謎解きに自信はありませんが‥‥皆が気持ちよく調査する御手伝いは、出来ると思いますわ。お茶やお菓子も、用意しますから…頑張って読み解きましょうね」
「わぁーい★ みんなでお茶会ですぅ★ 私も全然わかんないけどぉ、がんばるからねー★」
「あたい、甘いものが食べたい!」
「こらこら、まだ何もしてないだろ。全く仕方のない子達だね」
 いきなりテンションが上がる月与とミュウ。ちょっと現金な二人に、シルフィリアは苦笑混じりのため息を漏らした。
 一方、妹のチサトはそんな二人をにこにこと眺めながらも、解読に必要な準備を始めていた。
「とりあえず、私は図書館に行って調べ物をしてきます。姉様、お手伝いいただいていいですか?」
「うん、いいよ。あたいも謎解き向きじゃないけどみんなで頑張ればきっと答えが見付かるよね。頑張ろ〜っ」

●迷走
「古布に写してきました。後何枚か書き写すから、失敗しても大丈夫ですよ」
 未楡はそういいつつ、何枚かの布を図書館の机に静かに置いた。チサトもそれに合わせて、布を置いた。こちらには何も描かれていない。
「私も古布を用意してきました。皆さんで色んな方法を考えましょう」
「それじゃ、あたいが書き込んでいくね。えーと、まず書き込まれている文字は、あ〜さ、ア〜コかな? 15文字ずつだったのかも」
 まずは、月与が綴られている文字を抜き出した。それを眺めて首をかしげるのはシルフィリアだ。全ての語を使わない事に意味があるような気がした。
「これはこのまま組み合わせるんじゃなくて、何かに置き換えるのかもしれないね。音階とか、ステップとかさ」
「んーとねぇ、踊りだとうれしぃなー★ 今日はね、アンクレット・ベルを持ってきたんだよぉ★」
 シルフィリアの言葉に、ミュウは嬉しそうに足につけたアンクレット・ベルを見せた。軽くステップを踏むとそれに合わせて、音が刻まれる。軽く踊るだけでそれに合わせて様々な音色を奏でるベルを見て、月与はふむ、と頷いた。
「踊りか音階か‥‥それじゃ、『あ』一番最初を低い音にして。ラテン語の方はなんだろう?」
「え、えーと、あ、スピードとかテンポじゃないかい?」
 深く考えていなかったので、少し言葉につまりながらも、音に関わる要素をあげてみるシルフィリア。
 確かに音楽に於いては、音階とテンポは重要な事項だ。遂行してみる価値はあるかも、ということで、楽譜への置き換え作業が始まる。これを実践してみるのは、もちろんジプシーのミュウだ。
「とっとっと‥‥」
 描かれた楽譜通りにステップを踏もうとするものの、落差が激しく音階も乱高下を繰り返すため、踊り専門のミュウでも、勘をつかむのに必死なようだ。だが、作り上げられた楽譜からはまったく美しい音色は現れない。
「ひゃっ!? っきゃぃん!?」
 あまりに複雑すぎるステップに、思わずミュウの足が絡まって、とうとう尻餅をついてしまった。すぐに優しく未楡が助け起こす。
「大丈夫? 立ち上がれるかしら?」
「あたしよく転ぶからこれくらい何ともないですよぉ★ でもこれを踊るにはお馬さんみたいに足が4本いるかもー」
 少し恥ずかしそうな笑みを浮かべながらも、踊る難しさを伝えるミュウの言葉に、一同は肩を落とす。
 というわけで楽譜案はあえなく却下。
「ほかに方法はないかな」
 再び頭をひねらせる一同に、立ち上がったミュウが持ち物からタロットを取り出した。
「占いしてみよぉかなぁ? 神秘のタロットなら、あたしの上手くない占いでも、何か教えてくれるかもだしー★」
「そうね。ミュウちゃんの占いならきっと何か分かるかもしれないわね」
 特に方法も思いつかないので、すぐにタロット占いは実行された。机の上で、混ざっては並べられるカードの数々。その神秘的な雰囲気に、月与は心ならずも緊張を覚えた。
 占いの作業は10分ほどで結論を生み出した。正面に残っているカードは、『運命の輪』『世界』『月』。
「んーっとね。繰り返される言葉、それから新たな世界、あとは月が出ていますー★」
「繰り返される言葉、言葉とはこの文章でしょうか。じゃあ新たな世界、月‥‥」
 チサトは言葉一つ一つを噛みしめるように繰り返した。占いの言葉は非常に示唆的でそして多くの意味を含有する。しかし、答えはこの範疇に必ずあるのだ。
「月道のことなのかもしれませんね」
「さすがミユ姐さん。確かに月道なら合点がいくね」
 未楡の言葉にシルフィリアが、ぽん、と手を打ち鳴らした。新たな世界への扉を開く、月道はミュウのタロットの言葉を如実に表していると言ってもよい。
「じゃあ、読み解く鍵は、最初の『繰り返される言葉』だけ?」
「ぅーん‥‥うーん‥‥」
 解釈は他にもあるはずだ。三つの言葉自体が、この解読の鍵になっているはずだ。チサトは深く思案を巡らせる。
 多くの可能性が頭の中をよぎり、その証明にかかるキーワードが連鎖してゆく。チサトの頭の中は、思考の鎖が覆い尽くしている。
「煮詰まってきたみたいね。無理してはダメよ、千覚。そろそろご飯にしましょう。お茶を用意してくるわね」
 そんな様子を見た未楡はそっと他の面々にその言葉を伝えると、その準備に動き始めた。

●翻走
「疲れてきたね‥‥千覚。ちょっと休もうよ」
 図書館にチサトが籠もり始めて、もう二日。様々な可能性を話し合っては主にチサトが検証し、案に基づいて解析を進めていたが、まだどれ一つも真実の入り口からは遠く、解読は不可能であった。解析作業を繰り返すチサトの顔にも疲労の色が濃い。
 月与は皆が集まる休憩室にチサトを案内し、一緒に席について、解読は進まない事を報告した。
 申し訳なさそうにする二人に、他の面々は優しくほほえむのであった。彼女たちがどれだけ一生懸命に取り組んでいるのか十分すぎるほどに分かっていたからだ。
 そしてお茶を飲みつつ、次の方法について話し合い始めた。だが、そろそろ思案もするところも尽きて、発案もほとんど生まれてこない。
「分からなければ、他の人に聞いてみるのが一番だよー★ さっきね、賢者さまのところに行って聞いてきたら、他の人に教えてもいーって言ってたよ★」
 ミュウの提案に皆もそれしか方法はない、と思い始める。シルフィリアが早速、誰に聞いてみるか一人ずつあげていくが、ミュウは聞いて回るのではなく、歌ったり踊ったりでみんなを集めては、と提案した。
「では、私も演奏のお手伝いしますね。息抜きにもなります」
 チサトも気分転換になるとおおよそ楽しみな様子だ。
 こう少し違った方向に頭を向ける事ができるようになると、色々考えつくもので、歌う場所や、それぞれの役割など意見が飛び交う。
「どんな歌弾こうか? 母様、何か良いお歌知ってる?」
「そうですね。月与やチサトと唄った歌と言うと、いろは歌を思い出すわね」
 月与の言葉に、未楡は少し考えて答えた。どんな歌でも良いが、どうせなら皆との関係を再認識できる、全員が共有できる歌の方がよいのではないか。そう思ったのだ。
 しかし、ミュウは少し首をかしげる。東方の曲いろは歌というのは初めて聴く。不思議そうにするミュウに未楡は答えた。
「日本の歌よ。『色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならん』」
「そうそう、あたい達が小さい頃ね、それを華国語にしたりして歌ったんだよ。イギリス語にしてみたり」
 その言葉に、チサトがふと止まった。
「あ‥‥日本語をイギリス語に‥‥姉様、色んな言語の本を持ってきてくれますか?」
 チサトの表情に変化がある事に気がついて、シルフィリアは問いかける。
「どうしたんだい? チサトちゃん。何か分かったの?」
「『あ』〜『さ』、『ア』〜『コ』。どっちも並びがジャパン語のものです。本来はジャパン語なんでしょう」
 そう答えるチサト。だが、納得のいかない部分も多い。シルフィリアは疑問を続ける。
「全部、ジャパン語になるんだね。でも、ジャパン語は『あ』〜『ん』までの46字。カナ文字も併用すると92字だよ? 半分も言葉を使っていないけど」
「たぶん、そこからもう一度変換されるのだと思います。多分、アルファベットだと思います」
 言葉の変換、そしてまた変換。理解はできるが、どうも頭の整理がつきにくいシルフィリアは苦笑いを浮かべた。
「アルファベットの発祥はイギリスだよね。石碑が見つかったのはここノルマンなんだろう? 手の込んだ事するねぇ」
「とりあえず、ありったけの言語関係の書物持ってくるね」
 月与はあわてて、休憩室から走り出していったのであった。

●疾走
「言葉になった‥‥」
 試行錯誤の末、言葉が一つずつ変換された書き込まれた布には、言葉が意味を持ち文章として並んでいた。時はもう報告期限の日の朝であった。
 未楡は布を見て、流暢に文章を読み上げていく。
「『セキジンスデニセンガニノリテサリ
 コノチムナシクアマス セイレイロウ
 センガヒトタビサッテ マタカエラズ
 ハクウンセンザイ ムナシクユウユウ
 セイセンレキレキタリ シュクコンノキ
 ホウソウレキレキタリ センヌノス
 ニチボキョウカン イズレノトコロカコレナル
 マルヌコウジョウ ヒトヲシテウレエシム』 これは華国の詩ですね」
 長らくの旅により、イギリス語もジャパン語も問題なく発音できる未楡にとっては、読み上げるのは苦ではなかった。そしてそこに書かれている文章にいたっては、彼女の故郷で慣れ親しんだ韻が響き渡る。
「こ、今度は華国の詩かい?」
 呆れたような声を上げるシルフィリア。現代語はおおよそ全て使いこなす事のできるシルフィリアでも、文化や歴史に強く熟達しているわけではなく、華国の詩とすぐに気づく事はできなかったであろう。
 未楡は読みながら、それを本来あるべき文章へと、整理をしていった。

セキジン已にセンガに乗りて去り
此の地空しく余す 精霊ロウ
センガ一度去って 復た返らず
白雲千載 空しく悠々
セイセンレキレキたり 宿魂の樹
芳草レキレキたり センヌノス
日暮キョウカン 何れの処かコレナル
マルヌコウ上 人をして愁え使む

「イギリス語からだと、華国語は文字が判明しないところがあるから、判るのはこれだけですね」
「ミユさん、とぉってもすごいのぉぉ。すごいですー、すごいですー!!」
 書き終えた文章を見て、驚嘆して、めいっぱいの拍手に感動を表すミュウ。その思いは皆同じである。
「それにしても、どんな意味があるんだろうね?」
 シルフィリアの言葉に、未楡は少し悲しそうに首を振った。
「さすがにそこまでは読むことができませんわ。もっと詳しい方がいればいいのですが」
「でも、これだけ読めたら、後は読解するだけだもん。きっと簡単だよ!」
 勢いづく月与であったが、シルフィリアは少しだけ寂しそうに笑って月与の頭をなでた。
「もう刻限が来てるよ。残念だけど、衛士に報告に行かないといけないね」
 少し納得のいかない姉妹であったが、また後で残りは解読すればいいよ、というミュウの言葉になんとか承諾したのであった。

●走破
「なるほど、しかしよく読めたねぇ。さすがは冒険者だね」
 衛士は解読されたそれを見て、笑顔を浮かべた。彼も頼んではみたものの、本当に解読できるとは思っていなかったに違いない。言葉の上では、できると思っていた、と言っていても、目の奥の光は興奮気味だ。
「これにつきましては、また後に調べさせてもらいたいのですが」
 未楡のやんわりとした言葉に、衛士はそのままの笑顔で答えた。
「そうだね。またギルドを通じてお願いするようにしようか。その時は内容の解読だけでなく、この文章に隠されたモノも探し出してほしいね」
 二つ返事に頷く衛士の表情にに、なんとなく、後は自分で解析を進めていきそうな予感がする。未楡と月与は漠然とそんな思いを持ったのであった。