【破滅の魔法陣】生きる道(ちから)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月13日〜12月20日
リプレイ公開日:2005年12月18日
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●オープニング
「ただ一度だけ相まみえる事がかなった吟遊詩人さん、あなたは今どこにいますか?
あなたが教えてくれた、周りを変える力とその方法を最大限に活かして生きています。
人は、私を悪魔崇拝者、いえ、悪魔と呼んでるでしょう。私は悪魔などに一度も崇敬を覚えたことはありませんが、他にどういわれようと私はもう自分を変えないつもりです。悪魔と呼ばれても、これが私の生きる道です。
あなたが教えてくれた方法、教唆。作り出した状況に、歌や香を用いれば、人々は考えたとおりに盲進していきます。黒の教えのとおり、人々には賢者が必要なのかもしれません。そう思うと、また黒の教えが私を呵みます。
私は黒の宗派が嫌いです。御教えを学ぶ努力が足らずに修道院に入らせないのなら分かります。でも、私が災いを為すという預言があったからというのは非道い話です。預言がいかに大切なものかは知っています。でも、悪と断定された私はどうなりますか? 神に断言されれば改心の機会すら与えられません。
だから、その言葉を託したタロン神も嫌いです。生きる道を模索する私を愚者だと言い続けます。神は神に頼らない道を与えてくれません。
だから、そんな世界も嫌いです。
私は修道院に破滅の魔法陣が眠っていることを知りました。開封するには魂の綺麗な生贄が自ら破滅の魔法陣の解除を望まないといけないというものでしたが、教唆と洗脳があれば簡単。姉は私のためなら、と喜んで神の御許にいってくれたのです。
もし儀式が失敗した時の事を考えて、騎士アストレイアさんの護る領地に不和を起こしておきました。アストレイアさんもとても純粋な人です。チャリティーコンサートで一目見てすぐ分かりました。
アストレイアさんが怒りに我を忘れて、騎士の名において修道院を攻めてくれたら、第二の生贄候補だけでなく、『領地vs黒』の構図で、人々は神にも王にも不信を覚えるだろうと考えたのですが、アストレイアさんはあっさり自分の道を捨てて来ました。残る事もできたのに、でも捨てた。選択の自由あることを憎らしく思います。
魔法陣は無事に発動しました。ですが、ジーザス像が邪魔をしています。私はあれを正義の心を持った人たちに壊させます。魔法陣がただ発動しただけでは残った人々は結託します。でも、自らの手で破滅を広げたとあれば、責任をただ私や悪魔の所為にできないでしょう。
残った修道士に、姉さんが買い集めた武器を与えて白の教会を攻めさせます。修道士たちにはもう生きながらえる力は持っていません。目の前で悪魔の遺産、魔法陣が発動し、多くの仲間が死んだ。自分たちだけ生きている事に悔恨を残しています。そこに希望の歌を歌ったら、彼らは快く死の道連れを増やす事に賛同してくれました。
多分彼らは2,3の教会を破壊するくらいしかできないでしょう。自暴自棄になっているだけですから。でも、彼らの行動は、この修道院に破滅の魔法陣が動いている事を教え、かつ、黒と白の教義の差を浮き彫りにさせます。
ノルマンは古くて新しい国です。きっとこれを巡り、国内の宗教対立がじわじわと起こるでしょう。ローマにも何人か亡命という形で移動させました。今のノルマンの事態をローマが聞きつければ、悪魔を一掃することと、宗教対立に食い込む形で遠くない未来にまた侵略を再開するでしょう。そうすれば絆は薄れ、神にも頼れない人々が横行する。破滅の魔法陣が動かなくても人々は数十年をかけて大いに苦む事でしょう。
狙いはもう一つあります。この破滅の魔法陣は、書物にあったものよりも効果が狭く、修道院内にしか効果がありません。そう、ジーザス像です。
もうすぐ修道士の狂乱を聞きつけて、国も教会も兵士を派遣するでしょう。そして魔法陣のために、修道院を完膚無きまで破壊するでしょう。停止措置を知らない人々はそうするしか魔法陣を止める手段がありません。だけど魔法陣が壊れるよりも先にジーザス像が動かされるはずです。あれは破壊の邪魔になりますから。破壊されたら、最も近い都市パリなら飲み込んでくれるはずです。
話は前後しますが、これを詩人さんが紹介してくれたアンドラスおじさんに話したら、お前は浅はかだと言われました。人間たちの中でも陣頭指揮を執る者はお前の数倍は賢い、と。
だから私はアンドラスおじさんがシュヴァルツを攻める日を見計らって計画を実行に移しました。遙かに多い軍勢を持って国家戦争規模の戦いをしかけるアンドラスおじさんによって、強力であったり有能な人々のほとんどがシュヴァルツにかかりきりです。今もまだ後処理の多忙に追われて彼らは戻ってきていません。こちらには功名心や正義心の固まりみたいな人が兵士を率いてやってくるでしょう。兵士もアンドラスおじさんとの戦いに勝利して、高揚しています。白の教会も同様でしょう。
忘れてはいけないのが冒険者です。一番強いのは冒険者です。そして私が一番大事な人々です。彼らがいなければ私は黒の断罪からまだ抜け出られずにいたでしょう。生きる道も見いだせなかったでしょう。こんなことをする私を彼らは憎むでしょうが、私は彼らを嫌いになれません。
でも、私の生きる道を変える事はできません。私が改心してしまわないように鎖をつける事にしました。たくさんの動物と最後に私を生贄にして、封印解除の一助になります。他のところで魔法陣が一つ動いたと聞きます。この魔法陣も少なからずリンクしているので、起動しているこの魔法陣も裏で影響を受けているはず。あの像の封印もぎりぎりだと読んでいます。私の命じゃ効かないかもしれませんが‥‥改心して自らの道を変えるよりマシです。懺悔して生き残ろうなんて今更考えていません。大好きな冒険者に私の心が揺れないうちに‥‥彼らに語りかけられたら私はすぐに命を絶つつもりです。いえ、絶ちます。
‥‥そして私はある人と約束した通り、広い世界を見て回りたいと思います。死後の世界が広いのかどうかは気になるところですが。
吟遊詩人さん、あなたはまだ旅を続けていますか? もう討ち取られてしまいましたか? どんなことがあっても希望を捨てないで下さいね。これは私と関わっていただいた皆さんから教わった事です。
それでは
ミーファ 」
●リプレイ本文
すべては生きる希望のため
すべては生きる夢のため
すべては生きる道のため
すべては生きる糧のため
すべては生きて歌うため
すべては生きる勇気のため
すべては生きる力となる。
●修道院へ
「前回、手引きのために侵入した修道院。だいたいの構造は覚えてるよ!」
記憶力には大体自信はあったルディ・ヴォーロ(ea4885)は、事前に他のメンバーに見取り図を書いて渡しておけるほど、この内部構造はしっかりと把握していた。桐生 和臣(eb2756)はそれを聞いて心強く感じたものだ。
「頼もしい限りです。サイアさんの部屋には、きっと『破滅の魔法陣』に関する書簡などが保管されている筈です」
あの神経質なまでの整理をするサイアならば、どんなものでもしっかりと片づけていることだろう。ミーファが読まなくてはならない筈の書物をサイアが解読していたということは、ミーファには読めない理由があるはずだ。
「恐らく、修道院に入れなかったミーファさんは書物の意味はわかっても読めなかったに違いありません。だからサイアさんはそれを代読し、伝える必要があったのでしょう」
「サイアちゃんなら、伝えるのもしっかりまとめてそうだよね。大丈夫、サイアちゃんの部屋もしっかり覚えているから」
ルディは自信を持ってそう言い、修道院を隠す丘を登り切った。
「!!」
その前には修道院の建物がある。
だが、それは。円筒状の闇によってほとんどがすっぽり包まれていた。
「な、なんだよ。あれ‥‥」
その後に登ってきた桐生も言葉をなくす。
「破滅の魔法陣、ですか」
起動直後は金色のオーラを放って、その魔法陣に魂を踊らせていたところを見ていたが。今そこにある魔法陣の力は光をすべて吸収し、修道院を覆い尽くしていた。
僅かにその境域を外れているのは、ジーザス像と、修道院の正門くらいなものであった。
「中に、入れない」
掠れるような言葉を出してルディは唇をかんだ。
前回、サイアちゃんを助けられなかったのは、僕的にはかなり嫌なんだから!
そう叫びたくなるほどに強く思っていた自分がいる。だが、これでは。また誰も助けられないのか?
「ちっくしょぅ‥‥」
「引きましょう。とりあえずほとんど入れないことはわかりました。皆さんが待っています。報告しなくては」
桐生も穏やかな口調ではあったが、内心は苦虫を潰したような思いだった。
重要な証拠が掴めない以上、騎士団達の説得は難しいだろう。
●教会へ
「今、現在、パリ郊外の修道院に攻撃しようとしているって聞いたけど?」
ラシェル・ラファエラ(eb2482)は己が身を置く教会に戻り、司祭に尋ねた。
「耳が早いな。ラシェル。あそこは悪魔崇拝者の巣窟となり、危険な儀式を行っている。今、教区内で神聖騎士を編成して進軍を開始しているはずだ」
端で聞かれては危ないようなことも意外とあっさり言ってのける司祭。聞き出すのにもっと時間がかかるかと思っていたが、良く言えばおおらかなタイプの司祭は全く気にとどめていない。
「その件について、修道院の施設破壊の可能性があるの。破壊しないよう依頼することってできる?」
「無茶を言うな。そんな権限があれば、お前の面倒など見ずに、パリの大聖堂で采配してるわい」
「指揮官への紹介状くらい書いて。あそこは『破滅の魔法陣』が動いているの。施設を破壊したら、停止どころか影響が広がるわよ」
「どこで、そんな話を聞いた?」
声のトーンが一つ落ちる司祭に対して、ラシェルは顔色一つ変えず嘯(うそぶ)いた。
「冒険者ギルドの力よ。時間がないの。早くしてっ!」
付き合いの長いラシェルが何かを隠しているということを直感しつつも、司祭は紹介状をしたためたのであった。そんな様子を感じ取ったラシェルは司祭に心から感謝した。
「ありがとう。神のご加護を!」
「私の名はフィアレーヌ・クライアント! お話があります!!」
紹介状を持ったラシェルはフィアレーヌ・クライアント(eb3500)と共に愛馬オーレリアンで駆けた。目の前には聖印を旗印とした軍が見える。教会の神聖騎士団だ。警戒の色を露わにする神聖騎士達に対し、馬を止めて紹介状をかざして、フィアレーヌは声を上げた。
「お話があります。どうか、長に面会させて下さい!」
「どのような話だ?」
少し他の騎士とは違い、立派な鎧を身にまとい、白いサーコートを身にまとった騎士が歩み出た。指揮官か何かであろう。
「行く先の修道院には『破滅の魔法陣』が起働しています。これは院内に安置しているジーザス像が最後の封印となっています。破壊は控えて下さいますようお願いします」
「どこでそのような情報を‥‥」
訝しむ指揮官に対して、フィアレーヌは臆することもなく言葉を続けた。
「修道院の魔法陣を発動させた少女の家から、計画書が発見されました。貴方達に破壊をさせ、被害を拡大させるつもりとのことです。この件は以前から冒険者ギルドが調査していました」
「む‥‥」
しばらく口をつぐんだ指揮官であったが、周りのものに指示を出して、軍を止めた。
「紹介状の確認も改めさせてもらう。詳しい話はこちらで聞かせてもらえないか」
フィアレーヌはその言葉にゆっくりと頷いた。
●騎士団へ
騎士団を指揮していた長の一人はアストレイアの父だった。十野間 空(eb2456)には、以前伺った時よりもずっと痩せて、別人のようにも見えたが、その鷹のような眼光の鋭さだけは変わらない。
「今回の件の首謀者は国家戦争、宗教戦争をも画策しています。先の領内暴動はその一端でしょう。短慮は国家滅亡の危機につながります」
父は重々しく頷いた。
「だいたいは理解しておる。だが、これにより白の宗派の者とは共同戦線を張ることができる。先のシュヴァルツ城の件もある。これを機に結束が高まるという考え方もある。最後の切り札を使った首謀者にはもう人を誑(たら)し込む人徳もなかろう。国家相手に情報戦とは片腹痛いわ」
アストレイアの父は全てを読んだ上での行動か。十野間は密かに臍(ほぞ)をかんだ。これでは破壊防止の説得や、ミーファの捕縛を要望するのは、正面からでは難しい。
頼みの、書物による証拠も得られない状態だ。
どう言うべきか。十野間は渋い顔をして、アストレイアの父を見ていた。その横でアストレイアが口を開く。
「お父様。首謀者は少女です。かつては黒の修道院に入ろうとしていた人物であります。心は狂っていますが、その身はまだ清浄でしょう。自身が生贄になる可能性があります。そうすれば今あの段階で止まっている魔法陣の影響も広がることが懸念されます。首謀者の捕縛、破壊の停止を望みます」
「ならん。ここで躊躇する方が、指揮に影響を与える」
父の言葉は変わらなかった。相手は実の娘であっても感情は表に出さないという態度がよくわかる。言葉に詰まる二人の後ろから女性の意見が飛んだ。先にこちらについていたアリエス・アレクシウス(ea9159)だ。
「ジーザス像を破壊しなくても他の場所を優先して壊すことはできるはずと私は考えるが。所詮は魔法陣。奪った魂は戻せないかもしれんが、破砕した壁や天井の瓦礫によって土台が傷つけられれば魔力は消失するだろう。首謀者の少女については捕縛した方が他に開く魔法陣を止める手段や、他の計画を聞き出す手段にもなる。捕らえた方が有利ではないか?」
アリエスは止められないまでもその矛先を少し変えることを提案した。また騎士団内部の意見を聞き取ることにより、父の決定がどの意見によって立っているかも推測していた。
多少の犠牲を厭わず全体の未来を望んでいる。ならば、未来への布石を打つという論点から攻めよう。
その考えはおおよそ間違ってはいなかったようだ。
「良いだろう。だが、効果が無いようならばジーザス像も攻撃せねばならんな。虚報だという可能性もある」
その言葉に、アリエスは顔を少し微笑ませた。
「もしも、お前達が首謀者を捕らえても私達に引き渡すように。よいな?」
「殺さない、と約束して下さいますか?」
十野間の言葉に、すぐに殺害せず、きちんと裁判を受けて刑を取り決めることを父は約束してくれた。
十野間とアストレイアはすぐにセブンリーグブーツの魔力を借りて、修道院に向かった。まだ終わったわけではない。できることをしなければならない。
そんな中、十野間は並んで走るアストレイアに小さく尋ねた。
「落ち着いたらご両親にご挨拶に伺っても良いですか?」
アストレイアは少し驚いた顔で十野間を見つめたが、すぐにその顔を幸せそうな紅の挿した顔でほほえんだ。
「お父様、怖いですよ?」
確かに一筋縄ではいかなさそうな父親だ。
苦笑しながらも、アストレイアのためなら怖くない、と言って、ますますアストレイアの顔を赤らめさせる十野間であった。
●ミーファの元へ
『 希望の地 夢の欠片を拾いつつ
私は歌を唄おう 』
ミーファはジーザス像の肩に座り、リュートの弦をつま弾いていた。明るいはずの歌であるが、ミーファの弾くそれはどこかもの悲しい。そんな調べが満月の夜に流れては消える。
「厄介なところにいるね」
修道院にもっとも近い雑木林に隠れて、シルフィリア・ユピオーク(eb3525)とレオン・ウォレス(eb3305)はその様子を見つめていた。
生命を絶つとは手紙にあったが、確かにあの高さなら飛び降りただけで命を落とすだろう。さらには彼女の背中には魔法陣の影響を表す闇の幕が広がる。
「行けるか?」
「行くしかないね。それしか方法はないんだからさ」
シルフィリアは緊張のこもった笑顔を作ると、スクロールを広げた。まもなく彼女の姿は世界と同化していく。
「サポートは頼んだよ」
そして透明の衣をまとったシルフィリアは走った。
真下にたどり着いても、まだ切り札の効果範囲には入らない。像に登る必要がある。シルフィリアは像の周りを確認した。
「ああ、これで登ったのね」
像の背に腰まで届くハシゴがかかっている。あそこからよじ登ったのだろう。
透明ではあるが、物音までは消せるわけではない。ミーファに気づかれないよう、そっと上がるしかない。
ミーファの曲はまだ続く。まだ気づかれてはいない。シルフィリアはゆっくりと登り始めた。
『 駆け出す私に吹く風に 』
気づかないでよ。
『 願えば届くはず 』
そのまま歌い続けて。
『例え‥‥』
「!!」
シルフィリアはゆっくりと顔を上げた。遠くから見下ろす翠色の瞳がこちらを見ていた。その瞬間、砂利のような石の一つがシルフィリアの足下から地に向かって落ちていった。
長い時をかけて。それは音を立てて床に散る音を立てる。
「そこにいるのね‥‥」
ミーファが立ち上がった。
その刹那。
ヒュォン!!
雑木林の向こうから、一本の矢がミーファの肩を貫き、その鏃は石像に僅かにめり込んだ。
「止めないで!! 止めるなら殺して!!」
半狂乱に叫ぶミーファの声に触発されるかのようにシルフィリアは一気に駆け上がり、もう一度闇に向かって身を投げようとするミーファの方を向いた。
自害の足を止める矢は、今度は少しはずれ、ミーファの足下に刺さる。
止められない!
そう思った瞬間にはもう、シルフィリアのスクロールは魔力を完成させていた。
虚空に歩みを進める少女の足は硬い氷によって止められたのであった。
●終末へ
遠くで、カタパルトが石壁を砕く音がする。
僅かな時、闇に支配されていたその修道院は元の姿を刹那取り戻し、そして今は攻城兵器により少しずつ姿を消していっている。
そんな中、美しい音色が耳元に響く。
『 希望の地 夢の欠片を拾いつつ
私は歌を唄おう
駆け出す私に吹く風に
願えば届くはず
例え悲しみの雫が溢れても
希望は失わない 』
「セフィ、さん‥‥」
その歌い手セフィ・ライル(eb2375)の存在を感じ取って、ミーファは口を開いた。
「ミーファお姉ちゃん。気がついた?」
体全体が冷たくて、まだ満足に声も出せなかったけれど。目はなんとか声のする方へ向けることができた。黒髪の少女明王院 月与(eb3600)だ。
彼女の心配そうな瞳がなんとも心地が悪くて、ミーファは少し視線をさまよわせた。そんな彼女の頬に、温かい何かがあたった。
「また逃げるの?」
ぽつり、といったその言葉に、ミーファはもう一度月与の方を見た。
「手紙、ミルドレッドさんが竈から焼け残ったのを拾って、桐生お兄ちゃんに渡してくれたの。あの手紙に書いてあったね。アストレイアお姉ちゃんが憎らしいって。でも救いの手は、ミーファお姉ちゃんに差し出されていたよ。でも、ミーファお姉ちゃんは自分と向き合うのが怖くて、救いの手すら振り払って逃げただけじゃない。なんでラシェルお姉ちゃんやセフィお姉ちゃんを信じて前に進もうとしないの? 何で愛してくれる人の信頼を裏切り続けるの?」
言い淀むミーファにセフィが傍にやってきた。
「ミーファ様、貴方が何を求めてこの様な行為に及んだか‥‥それはもう良いのです。それよりも、決して自身の命を軽んじる事だけはしないで下さい。もう、大切な人を失くすのは嫌なのです‥‥だから、生きてその道を貫いて下さい。貴方が思う、本当の道を貫く事‥‥それがサイア様の願いでもある筈です。人は誰しも強くは有りません。だからこそ、何かに楽しみを見出す物‥‥貴方に教えた音楽と言う力は、貴方自身の楽しみであると思っています」
一人一人の言葉が激しく心を揺らした。
「だから、これからも共に奏でたいのです‥‥貴方と一緒に、楽しき思い、辛い思い、様々な想いを‥‥一緒に歩きましょう。生きるべき道を探して」
リューフィスを奏でないで。あたしなんかの為に。
歌をあたしは汚したのに。
泣かないで。あたしなんかの為に。
涙がもったいないよ。
もう悲しまないで。
約束するから。
「赦されるまで生き続けなさい。それがあなたの生きる道」
涙がこんなにあふれて出てくるものだとは知らなかった。
人って嬉しいときにも涙が出るんだ。
悲しいことばかりで、泣いて泣いて、おかしくなるまで泣いて。
本当におかしくなっちゃって。
もう涙なんか枯れてでないだろうと思ったのに。
でも、涙が溢れてくる。
ごめんなさい。みんなを苦しめた。
ごめんなさい。本当の弱さに気づけなかったから。
ありがとう。あたしを大事にしてくれて。
ありがとう。みんながいてくれて。
ありがとう。