【聖夜祭】お茶会の彼女(マイスター)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月24日〜12月27日

リプレイ公開日:2005年12月30日

●オープニング

 アストレイアはぼんやりと凍てつくような風の舞う空をぼんやりと眺めていた。
 もう聖夜祭の季節がやってきた。これが終わればいよいよ新年を迎えることになる。
 彼女にとって、今年の聖夜祭は特別であった。何しろ騎士でも、領主の娘でもない、冒険者として、初の聖夜祭だ。今までは儀式だ、警備だで、一年で最も気が休まらない日々を送るのがこの時季であったが、今年はそんな予定も何一つない。
「何をしよう」
 とりあえず、剣や騎士道に邁進する気にはなれなかった。剣や高潔な精神だけでは円満に事は収まらないことは先日思い知ったばかりだ。
 それよりも人と和合を図る方法を見つけたかった。
 しかし何しろ今まで勉強と修行で、自らを高めることしか考えたことがなく、人に安らぎを与えるような特技は何一つ持っていなかった。これでは彼の人と添い遂げるなんて誓いは夢物語だと、今更ながら騎士失格だと悲嘆に暮れるアストレイア。
「とりあえず、ツテを頼るしかありませんね。ギルドだったらどなたか紹介してくれるかもしれない」
 今年の聖夜祭はどこかで手伝いでもして、人との触れあいを深める方法を学ぼう。そう固く決心するアストレイアだった。
 そんな彼女が望む縁につながったのは、夕暮れの冒険者ギルドであった。ギルドの受付員に向かって、一人の女性が楽しそうに談笑している。
 仕立ての良い濃い青のセーターの上から、幾何学模様の刺繍が施されたショールをまとった女性は、見る限り冒険者の様子ではなかった。使いやすさよりデザインが重視されたブーツを見てもすぐわかる。
 何かの依頼をしにきたのでしょうか? それにしても困った様子には見えないけれど。
 アストレイアが目を引いたのはもう一つ。彼女が‥‥鴨を連れていることだ。
 鴨はペットみたいに連れて歩くものだったかしら、と今までの常識に問いかけてみる。もちろん、答えがイエスになるわけはない。
 アストレイアは少し好奇心につられて、そちらに歩を進めた。それに気がついて二人はこちらに視線を送ってくる。
「ああ、アストレイアさん。こんにちは。元気は取り戻せましたか?」
「おかげさまで。ところでこちらの方は?」
「あぁ、彼女は‥‥」
 そう問いかけられて受付員は一瞬言葉に詰まらせた。思わず余計なところまで口を出してしまいそうだったから。
 そんな様子を見せないようにおかしなジェスチャーをする受付員にはお構いなく、女性は丁寧にお辞儀をして挨拶をした。
「アデラと言いますの。今日はやったばかりのお茶会のことをお話ししに来ておりましたのよ。冒険者の皆さんのおかげで、編み物もしっかり教えていただけましたの」
 同年代くらいだろうか? 顔立ちも決して悪くはない。そんな彼女の仕草にアストレイアは好感を持った。
 それよりも何よりも。彼女に一番の興味を持ったのは。
「お茶‥‥」
 ふと、閃きが脳裏をよぎった瞬間、もうアストレイアの心は決まっていた。

 突然頭を下げられたお茶会ウィザードと名高いアデラはびっくりしていた。
「お茶を教えてほしい、ですか」
「はい、お茶は人の心を和ませ、また自らの心も磨くと言われます。そこで是非、茶の湯に於いて名の通った女史にご教授を願いたくっ!」
 さりげなく有名の意味を取り違えているアストレイアは、非常にかしこまりながらも、自分の願いを積極的にアデラに伝えた。それはもう見ているだけでも必死さが伝わってくるような態度だ。
「私はまだ教えられるほどではありませんわ」
 とは言いつつも、お茶を教えてほしいと初めて言われたアデラは、困惑気味ながらも悪い気ではない様子。
 隣では受付員は一生懸命に止めとけ、というジェスチャーを繰り返しているが、残念な事にアストレイアの視界には入ってきていない。
「私は様々な人からお世話になりました。せめてその気持ちをお返しさせていただきたいのです。ですが、私は自分で何かを作って差し上げることもできません」
 あんた、完全に言う相手が間違ってるよ、と強いツッコミを入れたくなる受付員を、まるで意に介すこともなく悲しそうに俯くアストレイア。
 そんな彼女にアデラはやや熱のこもった語調で声を掛けた。
「そうでしたの。分かりました。そう言った事でしたら私も協力させていただきますわ!」
 そんな快いお言葉をいただいてアストレイアはますます敬服して頭を下げる。
「あ、ありがとうございます! 精一杯勉強して、お茶の道に邁進したいと思います」
「そんなにかしこまらないでも結構ですわ。私は、よその国の人たちとお話しできたら素敵だと思っていますの。私も上手とは言えませんけれど、茶道楽として、断る事なんてできませんわ〜」
 横で真っ青な顔になる受付員をよそにアデラとアストレイアには何だか強力な師弟関係が結ばれようとしていた。
 あの雑草茶が伝承されるのか‥‥?
 アストレイアは純朴で真面目だから、道ばたの雑草で茶を作ると教えられたら、渋かろうが苦かろうが、アデラ並に熱心に片端から試すに違いない。やっとアデラが美味しい茶を淹れる事ができたと聞いていたのに!
「それでは私の家でお茶会をいたしましょう。茶器やその他の道具も一応は持っていますのよ。ちょうど聖夜祭用に鴨も買ってきたところですの。皆さんで集まって一緒に聖夜祭を祝えるのは、私としても嬉しい事ですわ」
 なんだかただならない気配が漂う、聖夜祭のお茶会に向けての話が進む中、受付員は少しだけ口を挟んだ。
「今日、お茶会したばかりでしょう? いいんですか? 本当に」
 できれば、被害は広めたくない思いでいっぱいの受付員。
「だって、新しいお料理教えていただけるかもしれませんわ。そうしたらいつもの皆様を新年のお祝いにお招きしますのよ!」
 だが、やる気でいるアデラには何の障害にもならない。あっという間に受付員の言葉は一蹴されてしまった。
「よろしくお願いします。先生っ!」

 そして。
 お茶に目覚めたアストレイアは一体どこに行き着くのだろうか‥‥。

●今回の参加者

 ea1168 ライカ・カザミ(34歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea6337 ユリア・ミフィーラル(30歳・♀・バード・人間・ノルマン王国)
 eb2261 チャー・ビラサイ(21歳・♀・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3305 レオン・ウォレス(37歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●準備奔走狂想曲
 思ったより大きいアデラさんのお家。その門前で緊張した面持ちで、立っているのは十野間 空(eb2456)とレオン・ウォレス(eb3305)であった。立派な家に驚いているのも少しあるが、一番の緊張のタネはそれではなかった。
「せっかく彼女がパーティーをしてくれるんだから、もう少し喜んだらどうだ」
 レオンの言葉に冷やかされて、空はなんとか笑顔を作り出して、曖昧に返事をした。
 確かに、嬉しい。今回の動機が、空との約束を果そうとして、なんて嬉しい話を聞いたらもう飛び上がらんばかり‥‥
 なのだが‥‥
 まだ少し踏ん切りのつかない空は、袖の下に隠した解毒剤を頼みの綱とばかりに握りしめるのであった。

 彼らが玄関で問答をしている間に、既にアデラ邸では聖夜祭のためのお茶会の準備が始まっていた。その横でユリア・ミフィーラル(ea6337)は、台所に所狭しと並べられた枯葉が詰まった籠を整理している。ユリアから漂うオーラに押されて、手出しのしように悩むのはアデラとアストレイアだ。
 ユリア自身は、さりげなく、飲むに適さないお茶の葉を選択肢から外しているつもりなのだが、いかんせん、ほとんどが選択肢から外れるのだから気づかれないように廃棄することは不可能である。
「あら、飲めないものだったかしら」
 脇に追いやられたというか、もうほとんど外に追い出されかけているお茶の葉候補だったものを見て、アデラは不思議そうに首を傾げる。
「それ以前に苔はお茶にするものじゃないと思うけど」
 さすがにちょっと呆れ気味のユリア。小耳に挟んだ話ではまともにお茶を淹れられるはずだったのだが、これはどうしたことだろう。
「あの、お茶には向いていませんでしたか?」
 おずおずと尋ねるのは、アストレイアだ。チサト・ミョウオウイン(eb3601)からフリル付きのエプロンをもらってつけているものの。見るからに服に着られているようで不格好だ。良く言えば初々しいというのだろうか。
「もしかして、これ全部アストレイアさんが摘んできたの?」
 どうも、大当たりらしい。彼女は恐縮してどんどん小さくなってゆく。
「毒ではなかったはずですわ。苔茶、斬新だと思いましたのに‥‥」
 毒でなければいいのか。普通なら小一時間は問いつめたいところだが、細かいことは気にしないユリアは笑顔で、側にあった茶器をアストレイアに渡した。
「それじゃ、試しに飲んでみる?」
 その後、台所から非常に不気味な香りが漂ってきたのは言うまでもない。

「あらあら、大丈夫?」
 料理の準備中であったサーラ・カトレア(ea4078)は咳き込みつつ、ライカ・カザミ(ea1168)の懐に倒れ込んだ。
 苔生した香りが充満する台所は、先の戦いで生死をさまようような大けがを負ったサーラの予後にはあまりよくなかった。完調の人間でもできればお付き合いしたくない香りだが。
「それじゃ、お部屋の準備を一緒にしましょうか」
「そ、そうですね。簡単なお手伝いをさせてもらいます。月与ちゃんも一緒にしましょうか」
 サーラは、明王院 月与(eb3600)と、ずるずると出てきたアデラをつれて、お部屋の飾り付けに向かったのであった。忍耐力だけは人一倍あるアストレイアはもう少し台所でがんばるようだ。
 前回のお茶会も騒ぎもさめやらぬ会場となる部屋はそのままお茶会を再開できるくらいに整っていたが、今回はせっかくの聖夜祭のお茶会。ライカは、部屋をぐるりと眺めた。
「もう少し、聖夜祭っていう感じにしちゃいましょうか。リースのほかにも、星や鈴なんかを飾り付けたいわ」
「それは素敵ですわね。飾りでしたら、この間作ってもらったのがまだあると思いますの。とってまいりますわ」
 と、取りに行こうとするアデラを、ライカはちょいと呼び止めた。家事が危なげな彼女に、是非良い奥さんになってもらおうという、ライカの思いからだ。
「飾り付けはサーラさんと月与ちゃんに任せて、アデラさんは一緒にお掃除しましょう」
 きょとん、としたまま頷くアデラは、そのままお掃除に直行。
「四角い部屋を丸く掃くようなやり方では駄目だわ。隅々まできちんとやるの。難しい事じゃないわ」
 びしびし指導と指導と指導を入れるライカ。自分もやって見せながらアデラにお掃除を伝えている。アデラも素直にそれに従いながら、せっせとお掃除をしている。意外とお掃除の方はよく慣れているらしいアデラは確実にそれをやってのけていく。
「そうそう、やればできるじゃないの。ホコリもちゃんと取れているし、上手ね」
「お掃除は毎日していますから、慣れていますの」
 だとしたら、同じくらいの頻度で行っているはずのお茶や裁縫はどうしてダメなのかしら?
 手際よく掃除をするアデラの後ろ姿を眺めながら、疑問に囚われざるを得ないライカであった。


●和気藹々円舞曲
 さて、いよいよ待ちに待ったお茶会の時間。
 部屋はサーラと月与の手によってすっかり美しく飾り付けられている。リースにふわふわと雪が積もっているように見せかけている飾りは、先日の編み物修行で使った毛糸屑を解いたものだ。星や月の飾りものがとても多いのは、サーラの好みが出ているのかもしれない。
 大きなラウンドテーブルの上には、アデラが用意していた鴨と、レオンが獲ってきた雉がメインディッシュとして中央で仲良く鎮座し、その周囲にはキッシュ、ポーチドエッグ、プリオッシュなどと、前菜代わりの蒸し野菜達が所狭しと並んでいる。どれもこれもユリアとサーラの努力によるものだろう。

 そして、いただきまーす。とご馳走になる前に本日の山場。アストレイアがお茶を淹れて皆に飲んで貰わなくてはならない。先の悪臭事件があったばかりに、一同はどことなく緊張した面持ちだ。おっとりとした性格のアデラ師匠も、少し心配気味だ。
「大丈夫ですよー。毒は入っていませんから、きっと普通に飲めますよ〜」
 しっかり、茶葉や畑にあるもの全て、しっかりとチェックしたチャー・ビラサイ(eb2261)の言葉は頼もしい。何しろ保存庫などまで踏み込んで、図書館で調べ上げた毒草知識で一つ一つ調査をしたのだから。
 しかし、残念なことに美味しいかどうかはまた別物である。ドワーフの胃袋の頑丈さを試したいと密かに思っている彼女にはそれでいいのかもしれないけれど。
「御手伝いしていると段々覚えるんだよ。お姉ちゃん、あんな大きな武器で戦える位器用だから、きっとすぐに上手くなるよ」
 と、応援しているのは月与だ。
「い、行きます」
 まずは温めておいたカップを用意‥‥
「あつ〜っ!!」
 続いて、茶葉を選択。それをティーポットへ‥‥
「それはさすがに入れすぎだと思います‥‥」
「そ、そうでしたか? あ、こぼしてしまいました!」
 お湯を注いで、じっくり蒸らし‥‥
「なんか、渋い香りがするんだけど、これ何の葉?」
「タンポポです‥‥」
「というか、新芽のないこの時季に茶摘みをしようという方が、無理があるんじゃない?」
 そして、音を立てず、しかし優雅にお茶をカップに注ぎ込む。
「は、跳ねてる!! お姉ちゃん、零れてるよぉ」
「しかも白湯だ‥‥今度は葉が少なすぎたな」
 ‥‥‥。
 全滅。
 あまりの出来の悪さにぐぅの音も出ない一同。
 アデラの教え方は上手で、ちゃんと普通の淹れ方であった。が、湯の沸かし方からカップの並べ方まで知らなかった彼女にお茶の『優雅』という加減を加味する事なんてまるでできなかったのである。
「誰でも最初は失敗する物ですよ」
 気まずい空気が流れる中、空だけはにっこりと笑っていた。そして、白湯同然の湯を美味しそうに‥‥。
 ハーブとして一般に使用されているとは月与の弁だが、普通に枯れ落ちかけた葉を使った茶の味は渋かった。濃かったら濃かったで辛いものがあるが、鼻腔をくすぐるように少しだけ刺激されるのも、意外と辛い。
 笑顔の彼がヤセ我慢しているのは誰の目にも明らかであった。
「とりあえず、聖夜と今年一年が無事に過ごせたことを祝って乾杯しましょ〜!」
 今あったこともを今年一年の出来事として置き去ってしまおうとするチャーの音頭によって聖夜祭のパーティーをいよいよ迎えるのであった。

 盛大な料理をいただきつつ、皆それぞれで談笑が始まる。
「ライカお姉ちゃんって、この前、結婚した人だよね? 綺麗だったなぁ〜いいなぁ〜〜」
「あら、見ていらしたのね‥‥?」
 そう言いつつ、今でも尋ねられると嬉しそうにするライカ。それを見て、月与も嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ねえねえ、花嫁さんになるってどんな気持ち?」
「そうね。言葉にするのは難しいけれど、傍にいて、同じ物をみて、同じ気持ちを共有できる人がいるというのはいいものよ」
 そう言いながらその体躯からはびっくりするほどの料理を平らげていくライカ。

「アストレイアさんと空さんって恋仲なんですか〜♪ 初めてお会いするのに失礼ながらも聞いちゃいますけど〜☆」
 こちらはチャーが、ニコニコとして、二人が仲良く座る場所。チャーがにこにこしてやってくる。その視線に思わず、二人とも言いよどむ。互いに思っているのに、口にするのは恥ずかしいのだ。
 そんな二人の反応を予測していたチャーはタロットカードを取り出した。
「神秘のタロット持ってるんですけど占ってみましょうよ〜。聖夜祭なんですから明るい望みを持ってれば良いほうに向くんですってば♪」
 有無を言わさない笑顔が浮かんでいる。
「占いは確定した未来じゃないです‥‥努力次第‥‥ですわ」
 チサトも寄ってきて、にこにことタロットによる占いに参加した。次々に繰られてはテーブルに配置されていくカードの数々。
「とりあえず、運命の3枚のカードは〜、これですよ〜♪」
 ぱらっ、とめくられたのは、ラヴァース。
「ふふ、二人にお似合いのカードですね‥‥恋人です」
 チサトがにっこりと笑って、二人を赤面させる。
「続いては、これですよー‥‥ぉ」
「逆さづりになった男の人ですね‥‥」
 ハングドマンだ。唯一正逆どちらに回っても、『ロクデモナイ』暗示にしかならないカードだ。ちょっとした意味の分かる人々は、微妙に沈黙する。アストレイアは不思議そうに皆の顔を見回すばかり。
「え、えとですねー。これは二人とも愛しすぎて周りが見えなくなっているということだと思うのですー」
 慌てて取り繕うチャーだけども、意外と正しいのではないだろうか、とふと思う一同。
「最後はこれ、法王ですねー」
 ハイエロファントを見て、一同はにっこりと笑った。
 それは規律のある、穏やかな平和な家庭を作りあげられる証拠だと誰もが思ったから。



●恋愛熱愛即興曲
 ライカの竪琴が物静かな曲を奏で始める頃、チサトはアストレイアの傍に席を移した。お茶は散々な結果だったアストレイアはさっきから溜息ばかり。時々、お茶を眺めてはふかぁいため息をつくあたり、結構傷は深いようだ。
「かあ様も‥‥結婚して御祖母ちゃんに教わるまで何もできなかったそうです。焦る必要は‥‥ないですよ」
 ほわほわとした柔らかい笑顔を浮かべるチサトに、こくりと頷くアストレイア。いったいどっちが大人なのかよく分からない。
 まだ、少し立ち直れない様子の彼女に、チサトは少し話題を変えてあげることにした。
「お姉ちゃんは‥‥これからどうされますか?」
「私ですか? 私は‥‥もう少し、修行ですね。剣の修行、心の修行、‥‥花嫁修業、どれもまだ半人前ですから」
「まずはお姉ちゃんが幸せになって下さいね‥‥私にもお姉ちゃんの御手伝い‥‥できることありますか?」
「ええ、いっぱいお手伝いお願いをお願いしないといけないと思います。だって‥‥お茶の出来はあんなのでしたし」
 花嫁修業のところで、微妙につまるあたりまだショックをひきずっている様子のアストレイア。
 にっこりと微笑むチサト、そしてその横の席で飲もうとしていたお茶をドボドボとこぼしている空も実はしっかり聞き耳を立てていたらしい。
「十野間さん、十野間さん、お茶こぼしてますよー」
 正気を取り戻してあげようとトントンと背中を叩くチャーに、思わずむせる空。顔はもう真っ赤だ。
「そんなになるなら、早く言うことを言ってこい」
 ニヤニヤと笑うレオンに座っている席を追い出されて、もう一歩、アストレイアの前に歩み出ることになった空。
 何かしら視線や表情で通じるということはよくあるもので、アストレイアも息を詰まらせながら、自分の席を立つ。
 空の脳内では百も千も言葉が縦横無尽に駆けめぐるものの、言葉がうまく口をついて出てこない。そんな彼の取った行動は。

 空はゆっくりとアストレイアの手を取り、胸の下ほどに持ち上げた。
 気持ちの高ぶりに堪えられず、思わず目を背けようとする心と、逃げてはダメだという心が彼女の瞳をゆらゆらと揺らせる。
 そんなアストレイアを真剣に捉える空。
 強ばった顔が一瞬、息を緩ませるような微笑みが浮かぶ。
「‥‥私と添い遂げて頂けますか」
 その言葉にアストレイアはゆっくりと、しかし、しっかりと頷くことができた。
 かつて本心からアストレイアに愛の言葉をかけた者は空を除いて皆無だった。堅物と呼ばれ、密かにそうよばれることを誇りに思っていたアストレイアだが、空の傍では素直になれる。
 見つめ合っていた二人はやがて、どちらからというでもなく抱擁へと誘われた。

「空お兄ちゃん、アストレイアお姉ちゃん、おめでとー!!!」
 きゃっきゃと月与が諸手を挙げて、二人を祝福する。
 レオンは満足げにしながら持参したベルモットを味わい、チャーはお熱い様子をユリアと語りあっている。ライカはおめでとう、と甘い甘い恋愛歌を奏で始める。サーラはその歌に乗じてお祝いの踊りを軽く披露してくれる。アデラはきゃっきゃと手を叩いて喜んでお祝いの言葉を贈ってくれる。
「お姉ちゃん達はいつなの? あたい達が居る間だといいなぁ〜。そしたら千覚と一緒にドレスの端っこ持って一緒に歩くの」
 月与は妹と一緒になって二人を質問攻めにする。
 そこで空は思い出したかのように、懐から、小さな小箱を取り出した。中に入ってるのは誓いの指輪だ。
 それを手に取った左手の薬指にすっとはめ込む。
「あ、あの‥‥」
「私の気持ち、受け取ってください」
「そうじゃなくて‥‥」
 幸せいっぱいでしどろもどろになるアストレイアが同じように懐から取り出したのも誓いの指輪。

 二つの指輪が二人の間で輝く。今宵はあたたかな聖夜祭。

●ピンナップ

十野間 空(eb2456


PC&NPCツインピンナップ
Illusted by mina