最も親しき友(ベストパートナー)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月13日〜03月16日

リプレイ公開日:2006年03月22日

●オープニング

 世界の珍獣猛獣が集い、愛らしさに悶絶したり、賢さに感嘆したトップブリーダー大会から一ヶ月が経過した。どれもこれも上下のつけがたい芸や、逸話が紹介されたものだが、大会は大会。やはり順位は決めなければならない。

「やっぱりビリでしたのです〜」
 ふぇぇ、と泣きそうな顔をして少女がブルートン先生の前に立っていた。
 少女の年頃は12か3。まだぷにぷにとした頬が子供っぽい容貌を象徴づけている。黒髪を束ねて頭の後ろでお団子にして、動きやすい服。スポーツでもしているかのような感じだ。
「そうか。大変だったね、飛鳥。ポチも大会で緊張したのかもしれない」
 ニコニコと笑顔で彼女を慰めるブルートン先生。50歳のイギリス人。とてもとても日本語が流暢なあたり、日本に居着いてかなりの様子。膝の上であくびをする猫と合わせると結構絵になる素敵なおじ様。
 二人の周りには、犬5匹、猫4匹、小鳥が12羽、ついでにイタチ1匹。非常に賑やかだ。なんと言っても、動物大好きなブルートン先生のお家だもの。ついでに外はもっとすごい。まさに動物王国。
「ポチは自分の信じる道を行くところがあるからね。信頼関係をもっと気付いて、お願いを聞いてもらえるようにしないといけない」
「ぅぅ〜」
 飛鳥もそれはよく分かっている。涙混じりに飛鳥はうつむいた。

「ぽーちーっぽちーっ。ほらほら、ボールなのですよー」
 飛鳥が赤い球をポチの前にちらつかせる。
 ポチ、体長1メートル、体重70キロの赤毛の大型犬。人相ならぬ犬相もあまりよくない彼はボールをちらりと見ただけで、そのまま寝そべってしまった。
「ボールを取りにいくのですよー。ほらー、ぽちー♪」
 勢いよく、春空にボールが飛んでいった。
「さぁ、ポチっ。行くのですよー」

 しーーーーーーん。

 全くもって無反応。
「ぽちーっ!!」
 体重40キロにも満たない飛鳥が押そうが引こうがビクともしないのは当然のこと。
「ぁぅぅぅぅぅっ。もう一回やるですよーっ!!」
 飛鳥は自分で投げたボールを取って、再びポチの目の前にちらつかせた。今度は存分にボールを見せる。
「これを取ってくるんですよー」
 といった瞬間、かぷ、とポチがボールをくわえた。
「あら? 投げてから取ってくるんですよー!?」
 あわてて取り返そうと悪戦苦闘する飛鳥をよそに、ポチは首を振って作る遠心力でボールを飛ばしてしまった。
「な、投げちゃダメですよ〜」
 慌てて飛鳥がボールを取りに行く。反応してくれたことが嬉しかったのか、ちょっぴり顔が上気している。
「ほらっ、ぽち。もうい、‥‥あ」
 再びボールをちらつかせると、ポチはまたボールをくわえて、ぽーんと遠くに投げてしまう。
「ぽちー、投げる前に取っちゃダメですーー!!」
 またしてもパタパタ走っていく飛鳥であった。

 ブルートン先生はなんだか困ったような、情けないような、楽しそうな、生温かい笑みを浮かべながらそんな様子を見守っていた。
「ポチに遊ばれていますね‥‥」


「はぁ、きっかけ作りですか」
「ポチも頭は悪くないんです。むしろ私の友達(動物全般)の中では一番賢いでしょう。彼の祖先は人と共に悪鬼を倒したと言われるほど、強く賢く忠実であったといいます。彼もその血は引いているのは間違いありませんが、飛鳥を友達というより子供扱いしているようなのです」
 確かに犬がボールを投げて、人が取りに行っている様子は同格に見られているとは思えない。なんとも答えにくい内容に、ギルドの受付員は気の抜けた相づちを打つしかなかった。
「飛鳥とポチが好い関係になるように協力をお願い致します」

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea1407 ケヴァリム・ゼエヴ(31歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb0981 空流馬 ひのき(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「やぁ、ようこそおいでくださいました」
 にこにこ笑顔がトレードマークのブルートン先生はそう言って皆を迎い入れてくれた。生き物ならどこに目をやっても2,3匹は必ず目が合ってしまうとても賑やかなお宅だ。
 そんなお家に天螺月律吏(ea0085)はとても大喜び。
「ここはまた素晴らしい場所だな。私も犬5匹に猫2匹、馬を4頭に鷹と隼を1羽ずつ飼ってるほど動物好きだが‥‥うん、ここはまさに幸せの王国」
 うっとりと恍惚の笑みを浮かべる律吏お姉さん。玄関からお出迎えしてくれた子犬を抱える姿は普段のクールなお姉さんとは全然様相が違って見える。
「ふわふわのモコモコ〜♪」
 と、後ろにいる羊にもてはやされているのはガルゥおにーさんことケヴァリム・ゼエヴ(ea1407)。
 モコモコの毛をベッド代わりにして、こちらも大満足の模様。輸入でもしているのか、東西入り交じった動物世界は見ているだけで圧巻。
 ただ一人、ドクターことトマス・ウェスト(ea8714)だけは人気がないどころか、非常に恐れられているようで、動物たちは遠巻きに彼の様子を見守っている。
「けひゃひゃ〜。我が輩達は随分嫌われているようだね〜」
 気だるげな言葉と共に愉快な笑い声を上げるドクターに、他の面々は密かに突っ込んだ。
 そりゃあんただけだ、と。

「飛鳥っていいます。よろしくお願いいたしますなのです」
 ペコンと頭を下げるのが今回の依頼の中心人物となる女の子、飛鳥。その後ろに小さな山となって寝ころんでいるのが、ポチだ。
「初めまして、飛鳥殿。それからポチ殿も、よろしくな」
 律吏お姉さんが飛鳥の視線に合わせて挨拶し、ポチを撫で撫でしている。
「私もいずれ犬を飼いたいなと思っているから参考になるかな。飛鳥さんをお手伝いして色々学ぼうっと」
 みんなに挨拶するですよ、と飛鳥とポチのやりとりを見ながら、将来の姿をダブらせるヴァージニア・レヴィン(ea2765)。
「やっぱり大型犬だけあって、どっしり構えていますね」
 一緒に撫で撫でしているサトリィン・オーナス(ea7814)は微動にしないポチの様子を見て呟いた。舐められたら大変ね、とは思っていても、これは意識改革をするのは一苦労しそう。
 そんな感じで様子を窺うサトリィン姉さんの視線を通り過ぎるように、ドクターがひょこひょことポチに近づいた。
「犬というものは、格が上の者には素直に従うらしいね〜。どれ、我が輩ではどうかな〜?」
 薬品、薬草・毒草の匂いで大概の動物はいやがる。実際に庭にいた動物たちはドクターを嫌っていたけれども。
「をゃ?」
 ポチの動かざること山の如し。鼻だけちょっとひくひくさせているのがせめてものお愛想。
 もし、うなったりでもしたらコアギュレイトの一つでもかけてやろうと考えていたドクターもこれでは拍子抜け。ついでに横で見ていたヴァージニアお姉さんも一緒に拍子抜け。使う魔法は違えども、やろうとしたことは一緒だったのだから。
「ぜーんぜん動かないね。飛鳥ちゃんが横にいるから安心しちゃってるのカナ?」
 ポチの上を飛んで様子を眺めていたガルゥおにーさんの言葉に飛鳥は照れ笑いだか、苦笑いだかを浮かべて、首を振る。
「ポチはあれで警戒してるんですー」
 唖然となる一行だけども、ただ一人、空流馬ひのき(eb0981)だけが、ふと後ろ足を僅かに立てていることに気がついた。後は寝そべって見えないけれども、多分、前足も同じ。
 なるほどね、とひのきお姉ちゃんは納得した。
「まずは、飛鳥とポチの普段の接し方を直に観察させてもらいましょう」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)も気持ちを同じながら呟いた。
「そうだな、ポチ殿とより良い関係が築けるようにしないとな♪」
「そだネ。命令する時や接し方に見直すことのできるトコもあるかもしんないし」
「意識改革の為にもね」
「主従関係をはっきりさせておかないといけないと思うの。そのためにも必要だわ」
「今までのことを聞いて、問題点を見つけたら改善していこうと思うわ」
 とまぁ、ほとんど満場一致で決定した。


 朝ご飯は隠してあるご飯を先に見つけてこっそり食べ、
 散歩は行きたがらないように見せかけ、
 行き始めるといつものルートを颯爽と歩く。
 撫で撫でしてもらうのは大好きなようで、
 でもお腹はまず見せない。
 たまに他の動物の面倒を見ることもたまにあり。
 その過程で、ご飯をちょっとずついただいている模様。
 遊ぶのはあまり好きでないらしく、基本的に無反応。
 たまに動いたと思ったら、やっぱり飛鳥が遊ばれている。
 確かに本当に犬かと思うほどに賢いけど、
 確かに本当に犬かと思うほどに非常にぐーたらな
 そんな存在がポチだった。

「なるほど。完全に振り回されてしまっていますね。さて、問題はどうやってポチに飛鳥さんの方が偉いと思わせるかですか‥‥」
 一応、飛鳥に付き従っているようには見えるけれども、要所要所で飛鳥のことを自分の子供か目下の者扱いしているような、そんな感じを見ていてすぐに感じられた。
「どこが、というより、ポチって全体的に独立心旺盛だよね」
 ガルゥおにーさんの言うとおり、確かに、世話になってません、という動きが感じられる。大人しい(というか、ぐーたらな)分だけ従っているように見えるが、何一つまともに従っていないことは明白。
「どこから手をつけたものかしら?」
 ひのきお姉ちゃんの言うとおり、改善点ばかりでどこからしていこうか少し頭が痛くなる。
 でも、大丈夫。今日集まったみんなはベテランの冒険者ばかりなんだから。


「まぁ、使ってみてください」
 ゼルスお兄さんが取り出したのは一足の靴。一足で空を飛ぶように旅ができるといわれ冒険者には非常に重宝される魔法の靴。しかし冒険の経験は全くない飛鳥はこの靴に不思議な印象を持つことくらいしかできない
「靴です?」
「これを履くと、歩く程度の労力で長距離を早く移動できるようになります。これならポチを追いかけて振り回される形を改善できるでしょう。ポチは自分がリーダーだと思っています。それはその分だけ注意を払っているわけですから、ポチを安心させてあげたいと思うなら、飛鳥さんが立派なリーダーになってあげないといけないわけです」
「ありがとうございますですっ。ポチっ散歩に行くですよ〜!」
 と大喜びで早速セブンリーグブーツを履き、散歩へ出かける飛鳥。
「さぁ、今日は負けないですよー」
 とポチと歩き始めた直後、事件は起こった。高速で走り始める飛鳥に対して
「きゃぁっ!?」
 ポチは様子がおかしいことを察したのか、突如踏ん張って、その動きを急停止させた。その勢い余って、引っ張られた飛鳥がすてーんと転んでしまう。
「いたたた、何するですか。ぽちーっ!!」
 反対側に行こうとするポチを追い抜かすが、再び急ブレーキ。また反対へとポチが繰り返す。
 あれって、犬をコントロールして、人間の方が、立場が上だと見せるテクニックじゃなかっただろうか‥‥。


「先生‥‥少女と動物の間柄がより良いものとなります様に」
 とセーラ様にお祈りを捧げるサトリィンお姉さんによるご飯と撫で撫での時間。ご飯時は一番訓練がしやすい時間だ。だってご飯というアイテムがあるのだから。サトリィンお姉さんはちょっとした材料を調理して、ポチ特製メニューを作り上げていた。
 ふれあいでお互いの立場を対等にまでもっていくことができれば一番良いのだが。
「ご飯は先に飛鳥殿が食べて、それからポチに与えるんだぞ。先に食べる者をリーダーと思うからな」
 ペットのいちたと向日葵とボール遊びをさせて見せながら心の通った関係を見せているのは律吏お姉さん。それを眺める飛鳥は濃厚な絆関係を見せられて、ちょっと感動している。
「互いに尊重し慈しむ心を持ってな」
 そんな言葉に励まされて飛鳥はサトリィンお姉さんから料理を受け取った。
「ポチ。今日はサトリィンお姉さんがご飯を作ってくれたですよ〜」
 そう言って、手料理をまず口に入れる飛鳥‥‥。
「ひわわわっぁぁ!?」
 だがしかし。飛鳥に先に食べられると感知したポチはタックルで、それを阻止した。大型犬のタックルは結構強力だ。ちらばる料理。あーあ、勿体ない。
「こ、こら! おいたはダメよっ」
 サトリィンお姉さんが慌てて止めに入り、飛鳥の体を助け起こす。
「大丈夫? 怪我はない?」
「手加減してくれたから大丈夫です〜。もー、ポチっ! 一緒に食べようとしたのに勿体ないじゃないですかぁ!」
 きーっ! と怒る飛鳥にポチは少し申し訳なさそうにして、上目遣いに飛鳥の様子を見た。
「一緒に食べるなら良さそうだな」
 僅かな様子の違いを感じ取った律吏お姉さんがそう言った。先に食べるのは許さないけど、一緒ならまだ許容範囲らしい。
「それじゃ、みんな一緒に食べましょうか。ポチ、ちゃんと飛鳥さんにゴメンナサイするのよ」
 サトリィンお姉さんの言葉が聞こえたのか、軽くコクンと頭を下げるポチ。その様子を見て、飛鳥は嬉しそうに笑った。
「今度は一緒に食べるですよ〜」
 ポチを抱えて、嬉しそうにわしわし撫でる飛鳥に、ポチも目を細めて喜んでいた。


 今は昔の物語 世間を騒がす鬼がいた。
 一月で都の酒を飲み尽くし 全ての食べ物を胃袋に治めた
 彼の鬼に人は為す術もなく 悲嘆に暮れたが
今ここに立ち上がるは 一人の侍。二匹の犬
 人は追うて追うて 鬼の金棒さっと避け
 赤犬が喉元 黒犬がその手を がっちり噛みついた
 侍すかさず刀を持って えいゃと角を叩ききった

 ヴァージニアお姉さんの歌声は節目毎に切なかったり、力強かったりして、飛鳥やポチ、それからひのきお姉ちゃんやがるぅおにーさんを虜にしていた。
やがて、歌が終わるとヴァージニアお姉さんはにこりと笑って、会釈した。
「すごいです〜。すごいです〜」
 すごいを連発する飛鳥に、横に座っていたひのきお姉ちゃんがふと尋ねた。
「そういえば、ポチちゃんとの出会いってどんなだったの?」
 その言葉に、少し困ったような恥ずかしいようなはにかみ笑いを浮かべる飛鳥。
「実はですね。もぅ記憶もないんですけど、2歳の時に一人川べりの深みにはまって私泣いてたらしいんです〜。それをブルートン先生に教えてくれたのがポチなんですよー」
 ああ、それで。
 ひのきお姉ちゃんはなんとなくポチが飛鳥をリーダー扱いしない理由が分かった。迷い子の飛鳥を見つけ、世話を焼いたのだろう。ポチにも親心というものがあってもおかしくない。
「そうだったの。他にどんな思い出があるのかしら?」
「小鬼に襲われたときに、ポチが助けてくれたりとか、幽霊のお話を聞いて怖くてねれない時に、ポチと一緒に寝たりとか‥‥」
 こんな過去があれば飛鳥がリーダーとして扱えというのはポチにとっては難しい話に違いないだろう。一筋縄どころではないことが、傍で聞いていたヴァージニアお姉さんにもしみじみと伝わってきた。
『こんにちは、私の声が聞こえるかしら?』
 ヴァージニアお姉さんはテレパシーを使って、ポチに声を掛けた。
『聞こえてる』
 返ってきたポチの声は思ったより低く、壮年と老人の中間、そんな感じだ。まあポチの年齢からすれば妥当かもしれない。
『今のは貴方の祖先の話の歌よ。犬は昔から人と協力共存して生きてるわね』
『古い歌だ』
 ポチは結構クールなタイプのようだ。とりつく島もない、そんな感じだが、無視しないあたりぶっきらぼうながら面倒見はいいタイプかな? と思ったのはヴァージニアお姉さんの感想。
『ねぇ、あなたは飛鳥さんに対してどう思ってるの?』
『娘』
 分かっていたとはいえ、非常に端的なお答え。
『それじゃ、あなたの主人はどんな人?』
『いない』
 ヴァージニアお姉さんは苦笑した後に挨拶をしてテレパシーを打ち切った。
「ポチもあなたのこと、娘みたいに思えるって言ってるわ」
「それっていいことじゃない? 飛鳥ちゃんのことを本当は愛してるし信頼してる証拠だもの。主従関係を超えたパートナー愛と信頼関係でなりたってるように感じてたりしちゃったり☆」
 ガルゥおにーさんは明るい声で飛鳥を励ました。そして力を抜いて一緒に楽しもうよ。とも。
「そですね。上下関係でなくて、親子の共同作業のように頑張ってみたいと思うです。ありがとうございますっ」
 飛鳥はにっこり笑顔でお礼を言った。


 その時だった。ポチの耳がピクリと動いたかと思うと、ポチはがばっと立ち上がった。
「ポチ? どうしたですか?」
「グルルルルル」
 ポチが唸っている。飛鳥は悪いことが起こったのだと直感して、すぐに立ち上がり、ポチの向いている方向へと向かった。
「ポチ。無茶しちゃダメですよっ」
「ぅワンっ!!!」
 飛鳥とポチが向かった先には、白い布の化け物に扮したリースフィア・エルスリード(eb2745)が動物たちを脅かして回っていた。
「ひゅー、どろどろどろ〜。おーばーけーでーすー」
 リースフィアの演出が恐ろしいのか、小鳥や小動物は逃げ回り、小屋の中を大混乱に陥らせる。
 是非、飛鳥とポチが良い関係を築くにはきっかけが必要だと感じたリースフィアはブルートン先生の許可の元、ゴースト変装道具で動物たちを威嚇したのだ。これを飛鳥とポチが共になって撃退できれば、それで関係もまた変わるだろうと考えたのだ。この瞬間まで出番を取っておいたのもポチに存在を気づかせないためだ。
「おばけに東西の区別はなーいーでーすーよー」
 と、その刹那。ポチの勇壮な吠え声が聞こえてきた。リースフィアがそちらを見ると、六尺棒を構えた飛鳥と、戦闘態勢をとるポチの姿がそこにあった。
「お化けでも、私の家族を脅かすのは許さないです〜っ」
「きーなーさぁぁぁい〜」
 ちょっとノリに乗ってるリースフィア。
「ポチっ。右っ!!!」
 飛鳥のかけ声と同時にポチが右から走り込んでくる。リースフィアはそれを回避しようと避けようとした瞬間、逃げ場を閉ざすように飛鳥の六尺棒が閃いた。
 避けるのは簡単だけど、これだけしっかり命令が出せたら問題ないですね。
 リースフィアは一瞬でそう判断し、六尺棒の衝撃を受け、それを逃がすように後ろは飛んだ。
 が。
「ワンっ!!!!」
「は、はやっ‥‥!」
 ポチの真剣な攻撃を避けるのは少々無理があった。
 リースフィアはあわれ、ポチと壁にサンドイッチにされたのであった。


「大丈夫ですか?」
 飛鳥が心配そうにリースフィアを見る。
「大丈夫ですよ。リカバーもかけてもらいましたから」
「それにしてもあの連携すごかったね」
「けひゃ、これからも毅然とした態度をとることを心がけるんだね〜」
 そんな言葉をかけられて、飛鳥は嬉しそうな笑顔を見せた。
「ありがとうございますっ。これからも頑張るですよ。ね、ぽち」
 ポチは今日もまた、気だるげに寝そべっているのであった。