迷った羊(かぞく)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月12日〜05月17日

リプレイ公開日:2005年05月19日

●オープニング

 どうしよう!?
 どれだけ数えても羊が足りない。たくさんいるので、一匹、二匹と数えているうちに眠くなってしまったのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
 僕は緊張で体が凍り付きそうになるのを必死にこらえて、この草原にいる羊達を指差し確認していった。
「えーと、メリーはいる。サンタもいる。ドリーでしょ‥‥」
 いーち、にー、さーん、よーん。
 やっぱり足りない。ベルとカラーとタグがいない。
「ど、どうしよう。父さんに怒られるぅぅ!?」
 やっと一人で任せてもらった羊の当番。羊の誘導もお前ならもう大丈夫だろう、と信頼されたその日だと言うのに早速だ。そりゃあ、羊のみんなが言うことを聞いてくれないかも、くらいの覚悟はしていた。ドキドキして前の日は眠れなかったくらいだ。あんまりにも期待と不安でいっぱいで牧羊犬のケンに、何かあったら頼むね、うまく助けてくれたら僕のお肉あげるから。と前の日いっぱい約束したのに。
 気が付けばケンまでいない。
「うわぁぁぁん。ベルぅ、カラーぁ、タグぅぅぅー!! お願いだから返事してくれよぉ」
 でも、返事してくれるのはもさもさと草を食べる他の羊達だけだ。
 今日はいいお天気。みんな気持ちよさそうにのんびりした時間を過ごしている。だけれど、僕の心の中は嵐が吹き荒れている。
 冷静になれ、冷静になるんだ。
 自分にそう言い聞かせて、はぐれそうなポイントを思い返してみた。ルートは牧場から、山腹の草原までの間。羊達だって歩き慣れた道だ。ケンが吠えないとなかなかちゃんと歩いてくれないけど、みんなその道を知っている。
 牧場に残っている? ううん、何度も確認したもの。
 旅人達の歩く街道に出た? でもあそこはケンも僕もかなり注意して見ていたからはぐれることは無いはずだ。
 だとしたら‥‥後は、どこだろ?
 太陽はもう天高く昇ってしまった。もう少しすれば、今度はみんなを牧場まで連れ戻さないといけない。
「みんなー! 草ばっかり食べてないで、一緒に考えてよぉ。大事な家族がいなくなったんだぞ」
 めぇ〜。
 のどかな返事だ。
「はぁ、僕もお腹空いてるのを我慢してるんだぞ‥‥」
 空腹?
 そのキーワードに僕は、はっとした。
「ご飯に気を取られた‥‥それだ! あいつら食いしん坊だものっ。草を食べながら歩いて森の方に入っちゃったんだ!!」
 僕は急いで馬の背によじ登って、森へと急いだ‥‥いや、急ごうとした。
「どうしよう。森の奥に入っちゃったら、毛がひっかかって出るのは難しいって父さん言ってたっけ」
 羊の毛はとても大切だ。特に毛の刈り取りを始める間近だ。無理矢理引っ張り出して毛が傷ついたら、怒られるどころじゃない。ぶん殴られちまう。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう!?
 父さんに怒られるのを覚悟して、手伝って貰おうと思っても、父さんはしばらく帰ってこない。
「困ったときは‥‥えーと、困ったときは、困ったときは、冒険者だ!!」
 竜退治から、お留守番まで、どうしようもなく困ったときは冒険者だってみんな言っている。お金ならちょっとは貯めているし、森にある種や薬草なんかを採集すればある程度のお金にはなる。
 そうと決まれば、善は急げだ。
 手綱を引いて、僕は街に向かって全力で向かった。

●今回の参加者

 ea2733 ティア・スペリオル(28歳・♀・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7909 ファイルヒェン・シュタインベルガ(37歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea9865 リュシアン・ワーズワース(19歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea9866 エリアン・ワーズワース(19歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea9973 タイト・アベンチュリン(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2321 ジェラルディン・ブラウン(27歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●A班
「この森ってちょっと深いんだよねぇ‥‥。どれぐらいの広さかな」
 エリアン・ワーズワース(ea9866)は森のあちらこちらに目をやりながら呟いた。確かに薄暗くちょっと気味悪い感じがする。
こんなところに羊が迷いこむとは、羊ちゃんは怖くないのかな? ぼんやりそんなことを考えてしまう。
「うにゃ! よゆぽんだよっ! 一日もかければ向こうに出られるよ」
 エリアンの小さな不安を吹き払うような元気な声で答えてくれたのはティア・スペリオル(ea2733)。
「でも、羊ちゃん達じゃ結構抜け出すのは大変かな?こまめに調べないとダメだね」
 そう言いながら、エリアンはブレスセンサーの魔法に集中する。魔法が完成すると意識の中に呼吸するものが頭の中に広がってくる。おっきいのやらちっさいのやら、森のあちこちから吐息が感じられる。
「どうです? 羊の様子は分かりますか?」
 緊張した面持ちでそう尋ねたのはジェラルディン・ブラウン(eb2321)。元々森での活動はあまり得意でないのに加え、初めての仕事ということで少しドキドキしてしまう。
「あはっ★ ジェラルディンちゃんが緊張してる呼吸が分かるよぉ」
「私じゃありません。羊の様子ですっ」
 恥ずかしそうに顔を赤らめて抗議すると、ジェラルディンは羊と一緒にいなくなっている牧羊犬の名前を呼び始めた。
「ベルー、カラー、タグー。ケンー。いるなら出ていらっしゃーい!」
 柔らかい声が森に吸い込まれると同時に、意識をとぎすましていたエリアンが顔を上げた。
「うーん‥‥このまま真っ直ぐいったところに羊ちゃんくらいの大きさの生き物がいるんだけど」
 そこで羊の痕跡を丁寧に調べていたティアが顔を上げた。
「うにゃ! それは羊で間違いないよ。だってここに羊の足跡があるもん」
 ティアが指差したところには確かに土が踏まれてくぼんだのが見える。言われてみれば分かるだけでそうそう分かるわけではない。その判別能力のすごさに他の二人は驚いた。
 そして少し歩いたところで、彼女の言葉が確かであることが他のみんなにも分かった。緑と茶色の中に不釣り合いなもこもこが三人に向かって飛び込んできたのだった。
 その突進を優しく受け止めたのはジェラルディン。
「あらあら、やっぱり不安で溜まらなかったのね」
 めぇめぇ。
 顔をいっぱいにジェラルディンにすりつける羊にジェラルディンは優しくなでなでをしてあげたのだった。
羊の首筋にティアは手を触れて、首輪の紋様を見つめた。羊達にはみんなそれぞれ違う編み方をした首輪をつけているのだと聞いていたからだ。
「あ、カラーだ。これで後はベルとタグだね」
「そうですね。あと二匹。がんばりましょうね♪」
 そういってジェラルディンはみんなに元気のわくような笑顔を見せた。
 その間、エリアンは羊のふかふかの背中にちょこんと座り、誘導するための餌を準備しながら兄のリュシアン・ワーズワース(ea9865)を思い浮かべた。
「リュシアンおにいちゃん達も今頃羊ちゃんみつけてるかなー?」

●B班
「取り敢えず‥‥私は目だけが頼りですから‥‥頑張って探します‥‥」
 枝や蔦が絡まり合って、視界を遮る森の中をファイルヒェン・シュタインベルガ(ea7909)はじっと見つめている。
「何かありますか?」
 聴覚を使って森からのメッセージを一生懸命に捉えようとしているタイト・アベンチュリン(ea9973)は、注視するファイルヒェンの姿を捉えて声をかけてみた。
 あれだけじっと見つめるというならば、何かあるに違いない。
 そう思って、耳と目をそちらに注意するのだけれども、タイトには何も分からない。
「分かりません‥‥」
 ファイルヒェンにだって別に特別に何か見えているわけでもない。ただ、あちこちに目を配って見落とすより見える範囲を絞った方がいいかな、と思ったのだが。
 そんな発想にタイトは苦笑するしか無かった。確かにこんな森で動物を探すなら、他に関連する知識もなければそれに頼るしかないのだから。その一生懸命さは確かに見習わなくてはならない、と思いつつ。
「なるほど‥‥。何かここに気を付ければいい、というものがあれば教えて欲しいのですが」
 タイトは少し上空で飛び回るリュシアンに声をかけた。
「目で探すなら、やっぱり足跡かな? こんな所なら羊の足跡なんて珍しいと思うし、草を食べながら移動しているだろうしね」
「そうですね‥‥リュシアン様は空から見ていらっしゃるので‥‥たくさん地面を一度に見ることができるのですね‥‥」
 リュシアンの言葉におっとりと頷くファイルヒェンに、リュシアンは苦笑した。
「空からじゃ分らないと思うけど、返事が聞こえれば、どっちの方向ってのは分るかもしれないし」
「色んな視点で見つめてみるというのは良いことですよね。リュヴィアならどうしますか?」
 リュヴィア・グラナート(ea9960)はタイトの問いかけに、閉じていた目をゆっくりと開いた。
「私なら、木々に問いかけるな」
 首を巡らせて、リュヴィアが見やったその樹は視線に反応するかのように、さわさわと音を立てた。
 一体どういうことだろう?
 素朴な疑問を持つみんなをよそに、リュヴィアは樹に声をかけた。
「樹よ。ここ最近見慣れない動物は通ったか?」
 さわさわ。
 葉っぱの擦れ合う音にリュヴィアは頷いて、言葉をとりつないだ。
「確かに通っているようだ。方向まではわからんが」
「ということは、この樹の周りを探せば、何か手がかりがあるかもしれないね」
 リュシアンの言葉にみんなよく目をこらして羊の足跡を探し始めた。
 おおよその検討がつけば、それが見つけ出せるのにそれほど時間はかからない。柔らかな土の上にかわいらしい足跡を見つけたのはタイトだった。
「これはリュシアンの言っていた羊の足跡ですね」
「やったね、タイト! それじゃ僕が羊ちゃんを呼ぶね。おーい!」
 友人のタイトの発見を喜ぶとともに、太陽を隠す森の天蓋近くまでリュシアンは昇ると、大きな声で羊達を呼んだ。その下では、タイトが耳を澄ませて、その変化をうかがっていた。
「聞こえ‥‥ますか?」
 ファイルヒェンの小さな声での問いかけに、タイトは大きく頷いた。
「はい。聞こえました。そんなに遠くに行ってはいないみたいです」
 タイトの案内に、リュシアンの広い視野。リュヴィアの木々とのコミュニケーションに、ファイルヒェンの注意深いチェック。これで見つからないわけがない。羊はすぐに発見された。
 呼ばれたのも気にせずもさもさと相変わらずご飯にかかりきりの羊にみんな思わず笑みがこぼれる。
「それでは他の皆と一度合流しようじゃないか」
 リュヴィアは木々に礼を言い、移動を始めた。

●みんな揃って
「カラーはこっちにいたよぉ」
「私達も一匹見つけました。タグですね」
 二つのパーティーは合流すると、互いが見つけた羊達を見せ合った。
「あと一匹なんだけど」
 めぇめぇ
 めーぇ‥‥めーぇ
「あら、羊達が鳴いてるわ。向こうにいるのかしら」
 寂しがりやのカラーも食いしん坊のタグも同じ茂みに向かって、鳴いている様子を見て、ジェラルディンは首を傾げた。他のみんなも揃ってそちらの方を向いたり、耳をそばだてたりする。
 するとそちらの方からがさごそと茂みが動くではないか。
「森の中ですから、野生動物かもしれませんね」
 タイトの言葉に、一同は息を呑んだ。狼とかだったら、頑張って追い払わないと。みんなそれぞれ少し緊張の面持ちでがさごそと動く茂みを見つめた。
 羊が出るか、狼が出るか。狼出るな、羊出てこいっ!
 わんっ!!!
「わっ、ケンちゃんだぁ!」
 元気な牧羊犬の鳴き声に、一同は驚きの声を上げた。ケンはそれもお構いなしに、その場で吠え続ける。
「この奥にベルがいるみたいだね」
 リュシアンの言葉に、みんな頷く。でも、茂みの奥じゃ呼んでもくぐってこれないだろうし、引っ張るのも大変だ。
 どうしようか、とりあえず様子だけでも見に行って、それからそれから。とみんなが首をひねっているところで、リュヴィアが立ち上がった
「茂みを払えばいいのなら、任せてくれればいい」
 リュヴィアはそういって、魔法の言葉を紡ぐと、茂みが風もないのにざわめいたかと思うと、みんなの為に道を開いていく。開けた視界の向こうでは、転んだのかベルがおかしな座り方をしてこっちを見ていた。
「うにゃ! 怪我をしてるみたいだね。足をくじいちゃっているみたい」
 めーめー。
 ベルが救出人と仲間を見つけた喜びで、震えながらも立ち上がろうとすると、ケンがわんっ! と一喝して、その場に座らせた。怪我をしているんだから動いちゃダメ! と叱るお母さんみたいだ。
 ベルがこっちに来る代わりにティアと、ファイルヒェンがそちらに歩み寄ることにした。
「左足がくじいてるみたいだよ」
「それでは‥‥癒して差し上げましょう」
 ファイルヒェンが羊に手をかざして、しばし。ファイルヒェンがもう大丈夫よ、というと、ベルは何事も無かったかのように立ち上がって、みんなの方に駆け寄っていったのであった。

●家族の許に帰ろう
「ベルッ、カラー、タグ〜。お前らどこにいってたんだよぉ」
 羊飼いの少年は、みんなが連れて帰ってきた羊達を見て、涙で顔をぐしゃぐしゃにして彼らを抱きしめた。羊達もみんなの許に帰れたのが嬉しくて、めーめーと鳴き続けるばかりだ。
「少年、次はきちんと羊を見張るのだな」
 そんな少年をリュヴィアは微笑みながら、頭をなでててあげた。そんな優しさを受けて少年は何度も何度も冒険者のみんなにお礼の言葉を続けた。
「ごめんなさーい。うぅぅ、ありがとうございますぅぅ。えぐ」
「一人で無理せずに判断できたんだからきっと立派な羊飼いになるよ、うにゃ!」
 太陽のようなティアの笑顔が少年にはとても嬉しかった。