丹後の生業(あらそい)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:10人
サポート参加人数:13人
冒険期間:04月07日〜04月12日
リプレイ公開日:2006年04月14日
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●オープニング
京の都から真北に進み、日本海に突き出た半島を有するのが丹後国。
丹後半島も山城に上る道も山に覆われ、平野である部分はほんの僅か。そんな平野部も海に面しており、田畑にするには適さない。隣国の丹波や近江、そして京都を有する山城などは何十万石もあるというのに、こちらはたった3万石。近畿ではかなり貧しい部類にはいった。
人々の多くは海に出て過ごしている。山々には多くの恵みが実っているのは知っていたが、それでも林業は主流にはなりえなかった。
なぜなら。
「土蜘蛛が出たぞっ!!」
櫓で哨戒に当たっていた村民の一人がそう叫んだ。村は木で作られた柵で幾重にも覆われ、山に一番近い隅に櫓が立っている。哨戒の姿は麻布の服の上からなめした毛皮の鎧を着込み、手には弓を持っている。
その声に応じた網干しをしていた男達も同じような格好だ。彼らは家に飛び込むと手に手に銛や刀を携え、松明備え、鉢金巻いて次々と出てきた。
「どっちの山だ! サジっ!」
「西の土手を降りてきてるーっ! 数は、約30!!」
その声を聞くと、村人達は夜でもないのにかがり火を焚いて、矢尻に布を巻き付け、油をつけた。火矢だ。
その準備は非常に手慣れている。彼らはもう何度もこの戦いを繰り返しているのだ。戦をこなす民達。土侍がこの地にはまだ根強く続いているのだ。
「一色さまはこの状況をなんとかしてくれんのかね」
丹後を治める代官への、ちょっとした愚痴を言いながら、土侍は大弓を引き絞り、柵をへし折る勢いで迫ってくる子どもほどの大きさのある土蜘蛛を貫いた。それを機に雨あられと土蜘蛛の群れを矢が貫いていく。
「でも、一色さまは家来にも節制を呼びかけて税を軽くしてくださった。この忌々しい土蜘蛛に手を焼いていることも聞き入れてくださっとる。今度、冒険者ってのを派遣してくださるそうじゃ」
「冒険者ぁ? 武士団はやっぱり京都に出ずっぱりか。はぁーあ。ほんとに自分の民が苦しんでおるっちゅーこと、理解してんのかねぇ」
そんな愚痴をこぼしつつも、土侍達は次々と弓を射かけて、近づいた蜘蛛は銛や刀で叩ききった。
丹後の山は人が踏み入れるには不向きであった。それはこの土蜘蛛の存在であった。元々は山城国に住んでいた蜘蛛たちであったが、人々は安倍晴明などの力を借りて、山城から追い出すことに成功した。
これを機に殲滅をはかったものの、土蜘蛛は大江山という人が近寄らない山を見付け、その山を越えて丹後に住み着いたのであった。そして人に追われたという恨みは土蜘蛛たちに強く根付いたらしく、丹後に来てからというもの、とにかく人を襲うようになっていた。
こんな争いを続けて幾久しく、今の丹後があるのだ。
是非、冒険者の手でこの被害を少しでも減らしてほしい。
●リプレイ本文
●謁見
「この丹後に住む人々について、お代官様は一体どう思われているのでしょう」
花井戸彩香(eb0218)は苛立つわけでも、相手にせまる分けでもなく、宮津城の主である一色義定にその心内を尋ねた。普段ならば会うことも難しいかもしれないが、今回の依頼はこの一色義定からの依頼なのだ。それならこの時に聞けることを聞いて置くべきだと彩香は考えていた。
「民には苦労を強いてすまぬと思っている。だが、平織虎長が倒れ、情勢は予断を許さぬ状況だ。この国は貧しい。だからこそ強国に踏みつぶされぬ努力をせねばならぬ」
確かに。最近の世情は特に騒がしい。この丹後が併呑される可能性も確かにある以上、この代官がそちらに躍起になるのは分かるのだが。
「どうか土蜘蛛を蹴散らしてくれ。世情が安定すれば兵は土蜘蛛や鬼の対処にも乗り出すことができるのだ。それまでは、儂と共にこらえて欲しいのだ」
「畏まりました。きっとその言葉民にも届くことでしょう」
彩香は深々と礼をすると、その場を後にした。
代官の気持ちに偽りはない。
だけど明るい兆しがあるというわけではない。
深い迷路を歩み続けているような、そんな感情を彩香は受けた。
●迎撃準備
「モンスターと日常的に戦わなければいけない状況か。ハードな日々を送っているのだな。少しでもそれが楽になる働きが出来ればよいが」
今回の拠点として使用することが決まった漁村を見渡して、ナノック・リバーシブル(eb3979)は呟いた。ジャパンの都市でみた道具のほとんどはこの村には存在していなかったが、代わりに、使い古した刀や槍といった物は、エチゴヤ以上の品数であった。他の村ももし同じなら、きっと丹後の武器の数は下手な国よりも多いことだろう。
それだけの需要があるのだ。こんな小さな村にさえそれだけの武器が。
ララーミー・ビントゥ(eb4510)も気持ちは同じだった。
「あら、土蜘蛛って人より多いのよね。一回くらいじゃ無理よ。まずは数を減らしましょ」
取り回しの難しい表現をアデリーナ・ホワイトとティアラ・フォーリストの通訳に任せて長老から話を聞いていたララーミーはそう言った。
山々全てに土蜘蛛がいるとしたら、数万どころではないだろう。
「迎撃をして、とりあえず数を減らすことを考えた方がいいな」
ヒューイ・グランツ(ea9929)は立てかけてある弓の一つを手にとって、その感触を確かめながらそう言った。
イギリスの弓と違って、ジャパンの弓は反りが大きし、独特のフォルムを持っている。
「時間が許せば、弓の違いを教えてもらいたいのだが」
「時間は許すと思いますが、弓の特徴を教えられる人は少ないと思いますよ。イギリスの弓を使う人はいないでしょうからね」
ヒューイの言葉にくすりと笑顔を作るのは十野間修(eb4840)だ。修は集まっている度侍達に土蜘蛛が襲ってきた際の効果的な防衛策と攻撃方法を教えていた。
「柵は一列に長く作るのは得策でありません。群衆で襲ってくる蜘蛛は柵を押し倒して進む可能性の方が高い。だから、止めるのではなく、速度を落とさせる。これが大切です」
「うむ。土蜘蛛は麻痺性の毒を持ち、集団で襲ってくる。接近戦になれば不利なのはいうまでもない。故に密集しているところには面射撃を、柵は数を分散させるように配置させることが大事だ」
土蜘蛛の特性について熱く語っているのはユーリ・ブランフォード(eb2021)だ。
しかし、二人の熱演にも村人達に羨望の眼差しというものはない。
「あまり関心を高められねェみたいだな」
ケント・ローレル(eb3501)が苦笑してユーリに言う。
「うむ。土侍達は冒険者の実力に疑問を感じているようだが‥‥ここは一騎当千の実力を見せ付けたいところなのだがな」
「まァ、奴ら、知識はともかく、経験や勘でやってきたことをそのまま繰り返されているだけだからな。口上はいいから腕を見せろってとこだろ。まぁ、御託より威勢の良い言葉の方が効果的だぜ」
ああ、なるほど。ユーリが頷くと、ケントはユーリを置いて、大声を上げた。
「俺様が来たからにゃあ安心しろい!」
そういう端的な言葉の方が効果もある物か。横にいた修もびっくりしたが、確かに人心を掴んでいるようで、少しばかり驚いていた。
●実戦
「来たぞー。土蜘蛛だっ。数ざっと30!!!」
「む! 来たか!」
櫓の見張りから声が上がると皆一斉に腰を上げる。ヒューイは弓を取り、矢を筒から引き抜くとそのまま担当場所に走っていった。
「ふふっ、鬼の血が騒ぐわい」
Gパニッシャーを杖代わりにして立ち上がるのはシターレ・オレアリス(eb3933)。大理石でできたパイプからゆらりと紫煙を上げると、にやりと笑う。
「化け物相手は正式にはこれが初めての依頼ね。人のためだもの、頑張らないと」
どことなく落ち着かない様子を見せるのは花東沖総樹(eb3983)だ。普段みせる服装とは違い、完全な戦装束の姿だ。そんな張りつめた顔をする総樹の背中をバシンと叩いて、クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)は笑顔を浮かべた。
「罠も一通り仕掛けたし、こっちには策士が何人もいるんだ。そんな緊張することじゃねーよ」
「あ、ありがとう。あなたやヒューイさんのような弓矢を使う人には絶対向かわせたりしないから」
「あたいとしては前衛に出てやりあいたいんだけどね」
そんな無茶な。総樹がツッコミを入れようとした瞬間、破裂音が響いた。戦の合図、ユーリのファイアートラップが発動した音だ。
「いっくぜぇぇぇぇ」
クリスティーナがショートボウを引き絞ったと同時に弓を打ち込む。同時に黒い爆発が続いて起こる。ララーのブラックホーリーが発動している証拠だ。戦場はもうそこまでやってきているのだ。
ザバシャャャャャ
ファイアートラップで燃えてよじれる蜘蛛を避けるようにして動いた蜘蛛の足元が崩れ落ちた。落ちた蜘蛛はたちまち隠れた竹槍に貫かれ、中空で足をばたつかせていた。続いて、2射、3射と矢が降り注ぎ蜘蛛達は段幕の少ない方へと自然に向かっていく。
しかしそれこそが修の狙っていた罠。浜辺と村を守る柵に阻まれた土蜘蛛たちば縦列を作り、雪崩れるような攻撃を封じられた。
「ものたりんわぁっ!!!」
防御などまるで気にしていないかのように、ホーリーメイスとGパニッシャーで土蜘蛛の先端を一人で受け止めるシターレ。牙が腕や足にいくつもささるが、厚い防御を貫くこともできず、そのまま真上からの攻撃で土蜘蛛は潰されてゆく。まさに鬼神の如き振る舞いだ。
「土蜘蛛の足って蟹みたいね〜」
そんなことを呟きながら、ブラックホーリーの術式を完成させては放つララー。この状態ではどこを狙っても土蜘蛛に当たるような状況だ。遙か後方では爆炎が閃くのがみえる。ユーリとナノックが奮戦しているのだろう。矢も嵐のように降り注ぎ、順番待ち状態の土蜘蛛を串刺しにしていく。
「仲間をやらせたりしないわっ!」
総樹はナノックの横に並び逆流してこようとする土蜘蛛を切り倒した。ほとんど実戦で使うことのなかった剣術ではあったが、土蜘蛛相手には十分威力を発揮し、ユーリのファイアーボムと矢嵐で弱った土蜘蛛の息の根を確実に止めていった。横に薙いだ刀が新たな土蜘蛛の前足をへし折る。
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
コンビを組んでいるヒューイや横に並んだナノックの様子を目で確認しながら安否を問う。
「おかげさまで、無傷だ」
ナノックはスマッシュを土蜘蛛に立て続けに与えてその醜悪な頭部を粉砕した。
「疲れたら花井戸さんが手当してくれるからすぐに下がるのよ。解毒薬は持っているけど‥‥」
ドシュュ
「させんよ」
総樹の後頭部を矢がかすめていった。前足を叩き切った土蜘蛛が襲いかかってきたのをヒューイが即座に射抜いたのだ。
「お前こそ気をつけろ。よそ見してました、じゃ笑われるぞ」
「ご、ごめんなさい。気をつけるわ」
「柵は登るもンじゃねぇっつってんだろ!!」
前後を挟まれ真横の柵を登ろうとする土蜘蛛を柵の隙間からケインが差し貫く。
つづいてその死骸を乗り越えてこようとする土蜘蛛は死骸ごと質量を伴わった影が膨張して吹き飛ばした。
「これだけいると結構辛い物ですね」
「文句たれんなよ、十野間。村のサムライさんは俺達の倍相手してんだからよ」
連続して魔法を行使したためか、若干息が上がり始めている修にそう声をかけると、柵の隙間から脚を入れてケントを捕まえようとした土蜘蛛にカウンターをかさねる。貫いた刀は体液を吹き出すとそのまま仰向けに崩れ落ちていった。
「ち、局長とおっさんが作った薬使わず終いになりそうだな」
ケントが改めて視界を広く取ればそのほとんどは死滅し、残った僅かな蜘蛛も、クリスティーナのシューティングPAで残らず急所を貫かれていた。
「こっちはまだ始まったばっかりなんだよ。もう200匹くらい増援呼んできなっ!! なんならあたいが出向いてやろうかぁ!?」
「無謀なこといわないの。決着がついたから引き上げるわよ」
仁王立ちになって意気込むクリスティーナにララーにメッと軽くたしなめる。ついでに土蜘蛛の巣を探そうかとしていたシターレにもメッとする。
「足並み揃えないとダメよ? 深追いは禁物だわ」
「むぅ。100匹くらいを目標にしたいところであったが、いた仕方ない」
そうして、シターレはようやく武器を治めた。
「皆さん、ほんとに怪我が無くてよかったです」
一通り戦闘参加者の容態を診ていた彩香であったが、最後の一人を見終えてにっこりと笑った。
戦いは兵法と罠を駆使した冒険者と土侍の完全勝利だった。怪我をした者は誰一人としていなかった。
「良かったですね。皆さん」
微笑みながら、皆の顔を見渡した彩香であったが、土侍達の顔はどうも明るくない。
「どうされたのですか? 具合でも‥‥?」
「いや、あんた達はよくやってくれたよ。俺達にも怪我はねぇ。だけどな。あれくらいの戦闘なら俺達でもやっていけるんだ。おめぇさん達にゃぁ、巣の一つでも潰してくれるかと期待してたからよ」
土侍の辛辣な言葉に一同は一瞬黙りこくった。しかし万単位の土蜘蛛が生息する山に踏み込んで戦う戦力ではない。
これが代官と住民の間にあるギャップなのね。彩香は悲しそうに目を伏せると土侍に告げた。
「代官様は皆さんをおもんばかる気持ちは十分にあります。私達も同様です。しかし、地形、戦力は実際にこの地に踏み入れないと分かりません。私達はこれを機に土蜘蛛の被害を軽減できるように考えていきますから。もう少し待っていてください」
そういうしかない。
土侍も自分たちは無理なことを言っているという自覚はあるのだろう。その言葉に小さく頷いたのであった。
丹後の争いは明日もまた続くのだ。