●リプレイ本文
●観察日記、シャナの一日
朝、早くに起きて体操代わりに一踊り。最初の内は半分寝ているので、動きが非常にアヤシイ。
ご飯は泥棒猫が盗んだ魚を召し上げる。でも格闘に負けて半分こで収まった
運び屋の仕事を手伝う。塀の上など人が歩かないところを好んで歩く。指さされると照れていた。
駄賃で昼ご飯を食べる。朝の泥棒猫と分け合っていた。というか盗られていた。裸足で追いかけていく姿が印象的。
路地裏で子供達相手に踊りを披露。もしくは踊り方を教えていた。非常に見ていて和むが、最後に見物料と授業料を召し上げたので台無し。
もらったお金で夕ご飯。今度は貧しい子供達に出会い、共感してお金を半分渡してた。騙されている気がする。
夜、お皿洗いのお手伝い。休憩時に、飲み屋の親父相手に自分の売り込む。次第にくだを巻いていた。お酒飲んでないはずなのに。
服の繕いをしながら寝落ちていた。
「私が観察した限りではこんな感じですね」
そう言いながら、観察日記を見せたのはリースフィア・エルスリード(eb2745)。絵を描くならまず対象をしっかり観察せねばと思って、一日張り付いて見ていたのである。この普通に変わった生活をしているシャナに、一同はどこからツッコむべきか悩んでしまった。
「ええっと‥‥ちょっとアクションの激しい娘さんのようですね?」
ユリアル・カートライト(ea1249)はやや控えめな表現で観察日記の感想を述べた。他の誰もが同じような意見であろう。
「でも、ご両親は字が読めないから絵でお手紙をお願いするっていうのは良い心がけです」
「親に心配かけたくないという気持ちは良く分かりますよー。できるだけ頑張って書くですよ☆」
安里真由(eb4467)とアミ・ウォルタルティア(eb0503)がそう言って、頷いた。思う気持ちは一緒だ。リースフィアもちょょっと見栄を張りたいという気持ちは叶えてあげたいと思ったし、四神朱雀(eb0201)も笑顔は描いておきたいな、と言った。
「よし、それじゃ、頑張って描きましょう!!」
真由の言葉に皆が同意の声を上げる。そんな後ろで大宗院透(ea0050)が囁いた。
「胡坐を”掻い”て絵を”描く”と信用を”欠く”ことになります‥‥」
「!!???」
すいーっと去っていく透の姿を呆然と一同は見送るしかなかった。
●下準備
「まずは、衣装かしら。ボロボロでも臨場感は出るでしょうけど‥‥活躍してるイメージは薄くなってしまいますしね」
「うぅ、好きでボロボロになってる訳じゃないんだけどサ‥‥」
アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)の言葉に、ずきんとハートに五寸釘が刺さったような気がするシャナ。しかし、せっかくの一張羅が前回無茶したおかげでボロになってしまったのは事実だ。
世を恨むような目をするシャナにアンジェリーヌはにっこりと笑って言葉を続けた。
「かといって華美な物は必要ないでしょうから、適度な冒険者風衣装を用意しましょう」
その言葉と同時に、横に控えていたヲーク・シン(ea5984)が採寸道具をばぁっと広げた。
「それでは早速サイズを測りましょう。これでも家事は得意ですから、服を仕立てようと‥‥」
ニコニコ笑顔でにじりよるヲーク。そんな背後に、浮き上がる影!
すぱぁぁぁぁん
「ヲークさんに下心を感じますよー。サイズを測るなら私がしますー」
簗塗りのハリセンをぱたぱたさせながらアミが言った。
「う、分かったよ‥‥」
とすごすご引き下がるヲークと入れ替わるようにアミが採寸を引き受けた。彼女は寸法をとりながら、たまに少し身を離して、顔や体のラインをじっと見つめる。
「何かついてる?」
「そうじゃないですよー。何を描いたらシャナさんに見えるか考えていたですー」
アミはしっかり特徴を掴むべく観察していたのであった。絵も全く描けない人よりかはずっと形になった絵を描けるものの、玄人とは比べものにならないアミは特徴をしっかり捉えることが大事だと感じたのだ。
「あたし、特徴ってそんなにあるかな?」
なかなかに特徴的な人間であることをしっかり無視したシャナの言葉にアミはにこにこと笑うばかりであった。
背がちっちゃくて、胸が大きいのが特徴って言うのは今は言えないですよー。
「私はたくさんのお友達といるシャナさんを描こうと持っていますから、絵の中でもちゃんとシャナさんと分かるようにしないといけないですよー」
「あたし色んな人とは知り合ったけど、どどどうしよう。同年代の友達がいない!」
悲惨な発言に苦悩するシャナにアミはくすくすと笑った。
「こうして関わり合ったわけですから、もうシャナさんとはお友達ですヨ♪」
●服完成
「わぉ、すっごい! 可愛い〜、本当にいいの?」
シャナは驚いた顔でヲークの作った服を見た。
旅装束を元にして作られたドレスは、奔放な動きを考慮して裾が短くなっているものの、薄手の布がスカートのようにそれを隠して目立たなくしていた。布を染め上げる代わりに、パッチワークを使って飾りを作り上げていた。
「もちろんっ! シャナさんが着てくれることを想像して作ったんだぜ。さぁ、早速着替えてみてくれよ」
輝くスマイルを浮かべるヲークの言葉に嬉しそうにうなずくシャナ。そして早速着替えに入るのだが。
「ナニヲシテルンデスカ‥‥?」
輝く笑顔のまま、着替え現場から立ち去らないヲークに、真由はにっこり笑顔を浮かべた。
「え、やぁ、嬉しくって早く着替えて欲しいなと‥‥」
「だったら、出て行きなさーーーーい!!!」
ハリセンでヲークを追い回し、部屋から追い出す真由。前回に引き続き大声担当お疲れ様。
「全くもう!」
困ったような、あきれたような顔で戻ってくる真由にシャナは不思議そうな顔をした。
「別に見られてもいいのに。ほら、女は見られて綺麗になるっていうし」
「なんてこと言うんですか!」
彼女の奔放な感覚はジャパンのそれではなく、外国向きだなぁと真由は感じた。
ため息をついて、うららかな五月晴れの空を眺める真由‥‥そして見つけるヲークの跳ねた髪の毛のてっぺん部分。
‥‥‥
とっても大きなハリセン音がした。
「私には、生物的にも、社会的にも問題があると思います‥‥」
ハリセンスマッシュEXを受けて沈没するヲークをつんつんと突く透であった。
●描く、火の玉娘
「踊ることで敵を翻弄して戦うことは、さほど悪いとは思いませんが、もう少し回避や軽業などの基礎を訓練すべきではないでしょうか‥‥。魔法として魅了したいのなら、陰陽師の修練を行うのもひとつです‥‥」
女学生に扮した透の言葉をシャナはふむ、と聞きながら、子供と一緒に練習をしていた。
その動きはシャナ本人が混乱するほどトリッキーで奔放でめまぐるしい印象を与えるものの、力が充足していくようなそんな印象を与えた。
そして子供達の言葉に応えながらステップやターンについてああでもない、こうでもないと笑い合っている。
そんな路地裏を眺めるように、冒険者は少し離れたところで素描に勤しんでいた。
ユリアルは舞いの部分よりも、笑顔を大事にした全身図を描いていたので、舞いを披露している今のシャナを特に見る必要はなく、だいたいできあがってきた素描をさらに完成させていた。彼女の笑顔は特に何かをしなくても自然に浮かんでくるのでそれをとらえるのは初日から可能であったからだ。
「あら、あなたもう書き上がったのですか」
アンジェリーヌが驚いた顔をして、ユリアルの手の中にある絵を見た。
「ええ、ご両親にいつでも身近に感じていただけるような絵がテーマでしたが、彼女の場合、それがすぐ見つかった感じです」
「私はさっき見つかったところよ。今から急いで仕上げないとね」
そういうアンジェリーヌは先ほど一段落ついたシャナの舞いを皆が拍手しているところであった。彼女も素人に近い腕前だったが、その雰囲気は十分に伝わっていた。
「いいですね。なんだか、こうして見ていると絵を一つの流れとしてまとめるというのも良いかもしれませんね」
「そうね、絵にストーリィを作って、絵本にしてみてはどうでしょう。見る人にとっても一つ一つの絵を見る楽しみができるでしょうし、手紙の代わりですから、なおさらですね」
「それじゃ、私は先に完成していますし、他の人のを見てこようと思います。絵の順番によって流れも変わってくるでしょう」
「お願いしますね」
アンジェリーヌが再び炭を動かしていくのを見て、ユリアルは立ち上がった。
「まだ描かれていないのですか?」
朱雀のキャンパスはまだ真っ白であった。そして、朱雀自身、何かを待ちかまえるように、シャナの様子をじっと見つめていた。
「ああ、思ったより機会がうまくとれなくてな」
「機会、ですか」
ユリアルはシャナの方を見やった。輝いた表情に、くるくるめまぐるしい立ち居振る舞い。武士の嗜みとして絵も達者な朱雀であれば、簡単に最適なシーンを取り出せると思うのだが‥‥
「きゃぃっ!」
そんな時、シャナが可愛い悲鳴を上げた。どうも慣れない衣装ですっころんだようだ。
と、同時に朱雀のキャンパスに墨色の線が瞬く間に刻まれていく。そんな様子を見てユリアルは呆気にとられた。
「も、もしかして機会っていうのは‥‥」
「失敗が混ざっている方が真実味はあるだろう。勘の良い親御さんらしいし、な」
口元に笑みを浮かべながら、朱雀は他の誰よりも懇切丁寧に、描写力に富んだ、真に迫るずっこけシーンを描くのであった。
もはやユリアルも何も言えない。
「み、見た?」
もそっと起きあがって、朱雀やリースフィアを見るシャナ。二人とも繕ったりせず、こくりと頷く。
「ちょと、ま、まってー!! 今の無し。描いちゃダメ!」
「シャナ‥‥だっけか。俺はありのままのお前を描きたいんだ‥‥」
ぬけぬけと朱雀はシャナにそんなことを言った。もちろんありのままはありのままだ。
「その諦めない表情。きっとご両親に強い意志として現れるでしょう」
「いーやーーーーぁぁぁぁ!!!?」
「よし、私は『挫けない、だけど涙が出ちゃう、だって女の子だもん』を描かねばなりません‥‥というわけでおさらば!」
と言いながら、リースフィアは愛犬ならぬ愛ペンギンと共に猛ダッシュして消えていった。シャナもめちゃめちゃ必死に追いかけていく。
「違うーーーー!!! 話が違ってるぅぅぅ」
どたばたしながら二人は消えていった様子を見ながら、リースフィアの横に座っていたアミはくすくすと笑った。
「リースフィアさんも悪い人ですよー。もうできあがっていますのに」
リースフィアは子供達とじゃれ合う無邪気な表情をしっかと絵に納めていたのであった。
「ねー?」
走り去った二人のスピードについて行けるわけがなく、まだ出口に向かってペッタペッタと走っていたリースフィアの愛ペンギン、ソフトボイルドはアミの言葉に振り向いて、こっくりと頷いた。
●遙か故郷にて
「お父さん、シフールさんが手紙を持ってきてくれたわよ」
畑仕事に勤しむお父さんに、お母さんがよっこらよっこらと小包を持ってやってくる。
「シャナからですって。まー、立派な箱。あの子頑張っているのね」
「そうじゃな。どれどれ、おお、絵じゃ。ほほーう、どれも巧いではないか。シャナが描いたのかな」
「やだわ、父さん。シャナは村一番の筆下手っていわれたのよ。無理無理」
そんなことを言いながら絵本を開けていく夫婦。次第にそれは畑仕事仲間のご近所さんや家族、友人の輪を作っていく。
「赤いカラーリングの絵が好きだな。この舞いながら戦ってるやつ!」
「えー、あたい、このみんなと笑ってるのがすきー」
「色遣いも綺麗ねぇ。これ都で有名な絵師様やろうか」
「あらやだ。シャナ、こけてるー。あっはははは、シャナらしい〜」
絵は好評を博し、シャナの家ではしばらく仏壇に入れて飾られていた。
「ところでお父さん。シャナ本当に都で頑張っているのかしら。私たちを安心させるために絵を送ってくれたみたいだけど、なんだかできすぎだわ」
「心配するな、母さん。絵をわざわざ頼んでもらうくらいだから仕事はどうかしらんが、そこそこ生活できてるんだろ。まああいつの性格からして、しばらくは水粥生活だろうがな」
さすが父と母。遠くにいてもシャナの様子はしっかりばれていたのであった。