【五条の乱】血風(イクサノカゼ)、立つ

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:10人

冒険期間:05月25日〜05月30日

リプレイ公開日:2006年06月02日

●オープニング

 新しい京都守護職の働きは宮中でも評判だった。
 京都の人々の目にも、彗星の如く現れた神皇家の若き皇子が幼い神皇を助けて京都を守ろうとする姿は希望と映っていた。事実、悪化の一途を辿っていた京都の治安に回復の兆しがあった。
 五月も半ばを過ぎたある日、事態は急変する。
「五条の宮様が謀叛を!? まさか‥‥嘘であろう?」
 新守護職に触発されて職務に励んでいた検非違使庁が、五条の名で書かれた現政権打倒の檄文を発見したのだった。下役人では判断が付かず、判官の所に持っていき天下の大事と知れた。
「よもやと思うが、事情をお聞きせねばなるまい」
 半信半疑の大貴族達は神皇には伏せたままで五条邸に使者を送ったが、事態を察した五条の宮は一足違いで逃走していた。屋敷に残っていた書物から反乱の企てが露見する。
 押収した書物には、五条が守護職の権限を利用して手勢を宮中に引き入れ、御所を無血占領する事で安祥神皇に退位を迫る計画が記されていた。他にも源徳や一部の武家に壟断された政治を糾し、五条が神皇家による中央集権国家を考えていた様子が窺えた。
「京都を護る守護職が反乱を起すとは‥‥正気とは思えませぬ」
「そうだ、御所を占領したとしても大名諸侯が従う筈があるまい」
「現実を知らぬ若輩者の戯言だ」
 騒然とする宮中に、都の外へ逃れた五条の宮と供の一行を追いかけた検非違使の武士達が舞い戻ってきた。
「申し上げます!」
「どうしたのだ!?」
「都の北方から突如軍勢が現れ、我ら追いかけましたが妨害に遭い、五条の宮様達はその軍勢と合流した由にござります!!」
 ここに至り、半信半疑だった貴族達も五条の反乱が本気と悟った。五条と合流した彼の反乱軍は都に奇襲が適わないと知って京都の北方に陣を敷いた模様だ。
「寄りによってこのような時に源徳殿も藤豊殿も不在とは‥‥急ぎ、諸侯に救援を要請せよ!」
 家康は上州征伐の為に遠く江戸に在り、秀吉も長崎に発ったばかりだ。敵の規模は不明ながら、京都を守る兵多くは無い。
「冒険者ギルドにも知らせるのだ! 諸侯の兵が整うまで、時間を稼がねばならん」
 昨年の黄泉人の乱でも都が戦火に曝される事は無かった。
 まさかこのような形で京都が戦場になるとは‥‥。



「申し上げます。丹後から一色義定が挙兵しました。数は500!」
 その一報に神皇軍の一翼を担う源細藤孝は黙って聞いていた。
 源細藤孝。源徳家康家臣にして、まだ幼い安祥神皇を擁立するにあたって家康がそのサポートとするため、江戸に置かず、京都においた縁者である。歳は今50の盛りを過ぎたが、剣と弓馬に優れ、近年において茶を始め、歌曲舞踊文学雑事にも優れた才能を見せ始める異能の男であった。
「やはり、裏切ったか‥‥」
「一色は五条の宮の思想に同意すると表明。神皇軍として守りにつくようにとの国司の言葉を裏切り、五条軍先鋒として神都に進軍! ‥‥は?」
 状況を伝えに来た者の言葉よりも先に藤孝はその挙兵の意味を悟っていた。
 丹後からの挙兵は危険であった。丹後は京都まで一日とかからない。御所内では未だ方々に救援の依頼を送っているところだ。また都内にも五条の思想に賛成する輩は少なからずおり、彼らの暴動を抑えるだけで見廻組も新撰組も手一杯であろう。そんなところにまともな軍勢が一足早くたどり着いたら、実際のダメージもさることながら、混乱の広がりが恐ろしい。神都は内部から崩壊をを始めることだろう。
「丹後の兵を国から出させるな。すぐ動かせる兵を集めよ」
「し、しかし、300もおりませぬ。神皇様からも五条軍本体を迎え撃つために出兵の要請が‥‥」
「後に準備できる兵はそちらに回せ。こちらは200もあれば良い。丹後は北の海に対して強い勢力を誇る丹後水軍を有しておる。あれに都までの道を確保させられると、本隊は全て海路で来るだろう。出城を通り抜けて一気に喉元を噛みつかれるわ」
 使いの者の顔色が真っ青になっていくのが分かった。丹後挙兵のもたらす意味を理解したようであった。
「は、す、すぐに‥‥」
「冒険者ギルドにも要請を。封殺は確実に行う。指揮は儂が行う。神皇軍への参加は忠興に任せよ」
「か、畏まりました」
 使いの者は慌てて飛び出ていった。


作戦概要
「此度の丹後封殺に協力を申し出ていただいた冒険者の皆に、心から御礼申し上げる。私の名は源細藤孝と申す。今後ともよしなに願う。
 さて、現在、丹後では代官一色義定が国司を裏切って、五条軍の先鋒として京都に進軍しようとしている。これを何としても止めなければならないのは先に伝達があった通りだ。
 これに対して、我々は少ない人数を活かし、彼らが丹後の国から出る前に迎え撃つ。場所は山間部になり、ここに陣を敷けば、彼らは両脇の山の斜面、そして正面から攻撃をはかってくる。数にも機動性に富む丹後の兵士の方が有利であると考えるだろう。私たちも彼らも、だ。彼らは私たちを徹底的に叩いて、勢いをつけようとするだろう。
 私はこれを利用しようと思う。陣は空にし、左側斜面で待ち伏せする。敵が隊を分けて斜面を登ってくる分隊をまず叩く。続いて空陣を攻める正面の分隊、反対の斜面の分隊へと順に攻撃を行う。
 冒険者の諸君にも同様に攻撃を行って欲しい。諸君の指揮管理についてはそちらで任せる。こちらの動きに同調する必要はない。必要ならこちらから合わせよう。どうしても不都合があるなら現場で解決を図る。
 戦とは悲しいものだが、人の想いを千切れさせるわけにはいかぬ。ましてや、不義理を働いて功を上げようとする一色の動きは、遠き未来まで先を考えているとはいえぬ。万民の為を思うのであれば、是非奮励していただきたい」

●今回の参加者

 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0815 イェール・キャスター(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4894 アサギ・ヴォルティール(22歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5134 明智 秀幸(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5183 藺 崔那(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5253 中川 彦左衛門(40歳・♂・僧侶・河童・ジャパン)

●サポート参加者

佐上 瑞紀(ea2001)/ 孫 陸(ea2391)/ エルウィン・カスケード(ea3952)/ ハルカ・ヴォルティール(ea5741)/ ヴィゼル・カノス(eb1026)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ ベアータ・レジーネス(eb1422)/ 乃木坂 雷電(eb2704)/ 明王院 月与(eb3600)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

●伝えること
「急げ! 丹後の勢はすでに動き始めているぞ。猪を人里におろすな。突進力で破られれば少なからず本隊に被害が行く」
 そんな言葉に従うように、兵士達は櫓や柵を次々とこさえていく。作戦は事前に事細かに知らされていたおかげで兵士達の役割も決まっており、皆明確な目的をもってそれぞれの作業に取りかかっていた。
「すごい早さだな」
 明智秀幸(eb5134)は治療道具の打診のため、源細藤孝の元に訪れた際、次第に形作られていく陣を見て、少々驚いた。
 そんな明智に対して、源細は重々しく頷いた。
「兵は拙速を尊ぶ、という。拙速をもたらすには、目的と任務が明確であること、全体像と自らが担っている部分が理解でき、次に行うべき最上の行動が常に理解できること、そして自分達にとって任務が望ましいものであること。これらが肝心となる。今、兵達にとって、京都を守るための最善を尽くしている実感があるからだよ」
 なるほど、と明智は実感した。故事を実現するためにどのような命令や作戦を立てる必要があるのか、ということを彼は深く熟知していることに気づかされる。人情の機微を熟知しているのだろう。
「お言葉は最もだ。彼らは懸命に戦うだろうな。だが、傷は自らの意識だけではどのようにもできない」
 明智は藤孝の目を見て言った。敵の数は決して少ないわけではない。それを意識向上と策で互角に渡り歩こうというのことは明智も十分理解できていたが、それが怪我を負うことによって、手数も士気も削れていくことも知っていた。
「薬か。できうる限りは対処をするが、兵士の分だけで手一杯のところだ。そちらの手当はそちらで願いたいところだが」
「そちらの兵で足りないところを補っているんだ。危険度はそちらより高いと思うのだがな」
「それはもっともだ。貴君らの活躍で薬が使わずに済めばそちらに回そう」
 藤孝の言葉に明智はゆっくり頷いた。その言葉の奥に、言うだけのことはしてみせろ、という意味を感じ取って、とんだ狸親父だ、という感想を持ちながら。
 引き下がる明智に続いたのは、緑の皮膚をもったデミヒューマン、河童の中川彦左衛門(eb5253)であった。その背後には、同族である磯城弥魁厳(eb5249)も控えている。
「敵さんがわしらを徹底的に叩くよりも、一気に突破して京都を優先することがあったりしやせんかね?」
「別にそれでも構わん。その場合背後から攻撃をかけられる。視界の悪い山中で背後から攻撃されるのは恐怖であろう。まあ。反乱に加勢するのだから、敵はできるだけ潰しておきたいだろうし、反乱に加勢することに不安が残る兵に勢いをつける必要もある。道の真ん中に陣を構えられていることで、迂回すれば軍はかなり乱れ、遅れる。五条の宮に道を確保させる、一番の功を上げようとするなら、軍勢を整えて推参する必要があり、やはり陣が邪魔になるだろう」
 どの可能性をとっても、それに導かれる確信を得た上での作戦ということに気がつかされて、彦左衛門は舌を巻いた。心配に及ばずということか。
「それではもう一つ。このあたりには土蜘蛛というのがよく住んでいるらしいが、それが戦を聞きつけて襲ってくることはないじゃろか」
「まぁ、ないな。土蜘蛛は虫のように本能的だ。戦の終わった後、骸に手をつける蜘蛛はあろうが、人々が殺気だって喧々囂々としているところに肉を求めてやってくることはなかろう。虫は人以上に敏感なようだからな」
 藤孝の言葉に、魁厳は理解を示しつつそれでも消えぬ不安要素に意見をあげた。
「ふむ。よく存じていらっしゃいますな。ならば、確認されている以外の敵部隊がいるかも知れませぬので、蝙蝠の術で周囲を探知致しますがいかがなさいまするか」
「うむ、頼んだ。敵の動きが少しでも察知できるのはありがたい。ただ、敵も侍がおり、志士がおり、忍がおり、僧がおる。陰陽師も少なからずいるだろう。敵も人であること、忘れるでないぞ」
「わしは河童じゃが、お心遣いだけは有り難くいただくぞ」
 魁厳は絶妙な間合いで、ツッコミを入れ、早速蝙蝠の術のために耳を澄ませ始めた。
 そして一番最後に控えていた十野間修(eb4840)が藤孝の元で話し始めた。
「少々気になるモノが潜伏しているようです。楽師というノルマンより来た悪魔が、こちらに潜んでいるらしいのですが」
「わしも少しは聞いておる。厄介な輩なようだな」
「はい、歌によって人の心を惑わせ、多くの人の人生を狂わせると言います」
 十野間は明王院月与から聞いていた楽師の特徴や、その手段をとくと説いた。それをしばらく静かに聞いていた藤孝は、一通り彼が話し終えるのを待って、山の景色を眺めた。
「この景色は神仏の作りたもうたものと思うか?」
「そこまで壮大なことは考えたこともないですね」
「ふむ。なるほどな。ではそこに切り株がある。自然に人が手を加えた結果だ。だが、そこにいずれ草が生え、木が生まれていく。その営みが消えたわけではない」
「楽師のやっていることも時代の流れからすれば些末であると?」
「どれだけ大きな視野を持っているかどうか、だ。どのような事象を前にしても包み込める大きさを持つことが肝要だよ。少年。さすれば楽師の陰謀も決して恐れるものではない」
 藤孝は『良い性格』をした十野間を見抜いたかのように笑った。雄大な笑みであった。

●守ること
『神皇側の陣かっ。ここで止まっておっては恩義を受けた丹後の民として面目が立たぬ。五条の宮様の手土産にしてくれようぞっ!!!』
「純朴、と言って良いものか、なぁ。敵、正面より来よるぞ」
 蝙蝠の術でそんな声を拾った魁厳は苦笑を漏らした。山の中だけあって様々な音が入り乱れて飛び込んでくるが、その中から必要な情報だけ取り出すことに成功していた。
「別部隊はいた?」
 イェール・キャスター(eb0815)は、この周辺の地図を確認しながら耳を澄ませる魁厳に問うた。地図にはおおよその地形しか描かれていないが、そこにはしっかりと各軍の配置図、森の位置が描かれていた。
「いや、おりませんのう‥‥藤孝殿の言うておった通り、三部隊じゃ」
「そうですか‥‥」
 イェールは手元の地図に、敵軍の配置を記し、森の位置に○をつけた。ひとまず、3カ所。
 そしてイェールの言葉に従って、十野間がフォレストラビリンスのスクロールの力を解放していく。正確な位置に、巨大な魔力の網を形成していく。
「さて、これ以上無辜の民が傷つく事がないように、少しでも早く戦を終息させるためにもこの戦い勝たなきゃならないわね」
 イェールの脳裏にふと、京都の人々の姿がよぎった。老若男女の笑顔が浮かんでは消える。仲間も友達も誰も誰も、その笑顔を奪われないように。
 イェールはすっくと立ち上がり、松明をゆっくりと回した。
 戦の時は近い。

 フォレストラビリンスの効力は強力であった。正確に効果範囲を測られたそれは、右側斜面へと進んだ部隊のほとんどの方向感覚を狂わせ、終わりのない斜面を駆け上り続けるはめに陥った。
 イェールの合図に、同じ右側斜面で待機していた藺崔那(eb5183)が立ち上がった。目指すは、眼下に押し寄せた陣を襲う軍勢達!
「初めての依頼がかなり大変なのだけど、とにかくやるっきゃないよね!」
 そう言いながら、傍に潜めておいた岩を次々と蹴飛ばし落とす。それは小さな動きであったが、斜面を落下する力を得て木々の間を跳ねながら、強力な兵器として丹後の軍勢に降りかかった。それに気づいて避けようとした兵士もいたが、一斉攻撃のさなか、逃げる場所も見あたらず、たちまちその下敷きになって息絶えた。
「うわ。想像していた以上に強力。自然破壊が比較的少なめだしね」
 崔那は罠の威力に自分でも少し驚きながら、中央の部隊の様子を眺め見た。被害を受けたのは部隊の最後方であり、攻め込んだ道を封じるようにして岩はその動きを止めていた。
 丹後の軍勢からは動揺する声があがる。それは岩に対するものか。空の陣であることに気づかされたことによるものか。
「さ〜って、こっちに合流される前に、張り切っていくとしますか」
 龍叱爪を手につけて、坂を一気に下っていく。反撃に出ようとする丹後の兵士が崔那に向かって刀を振り上げたものの、振り下ろす前に龍叱爪から繰り出される双龍爪が兵士の腕を、顔を切り裂いていた。
 鮮血が飛び散るのと、その先で閃光が走ったのと同時であった。見れば、闇の帳が落ちているはずの森が明るく、赤く照らし出されている。
「人が燃えるとこは綺麗で面白いよ。くるくる回ってくれるしなぁ‥‥」
 猫背な姿勢で、次々と手当たり次第に松明を投げつけ、空陣を真っ赤に染め上げていくのは奇面(eb4906)である。奇妙なお面を装着した彼は、先陣の功を挙げようと勇んでいた兵士を次々と焼いていった。
「は、はかったな、きさまぁ!!!」
 丹後の兵士が一人怒りも露わに飛びかかってくる。しかし、それも最後まで達成することは一度もできずに終わってしまった。今にも斬りかかろうとしている姿勢のままで倒れる兵士の後ろには血糊をぬぐう明智の姿があった。
「は、背後からとは、ひ、ひきょう‥‥」
「好きに言っていろ」
 怒りに震えた兵士は、手をついて立ち上がろうとした。
 その手はビチャリ、と湿った音を立てる。雨は降っていなかったはずだ。だが、しっとりとした水気が手には残っている。よく見れば、陣に人がいるように見せかける為の案山子も柵も全てじっとりと濡れている。
 その手をじっと見て、がくがくと震える瞳で、兵士は奇面を見た。面をした彼の表情をうかがい知ることはできないが、自分が彼の術中にはまったことは奇面の瞳と手にした松明を見れば明らかであった。
「大人しく迷ってたらよかったのぉ‥‥」
 紅蓮が舞った。

 源細藤孝の兵士のほとんどが潜んでいた左側斜面では、六条素華(eb4756)が采配を振っていた。後方では、回復・治療を行っていた彦左衛門は負傷した兵士を前線から引きずってでも下がらせて回復に努めている。
「左、援護!」
 六条の言葉に従って、短槍が十数本一斉に飛びかかった。交戦している兵士達の頭を飛び越え、加勢の兵の足に突き刺さったそれは一瞬、兵士の足をひるませた。
「並んでくれて助かるぜ!!!」
 その一瞬を逃すことなく、アサギ・ヴォルティール(eb4894)の手から、紫電が発された。強力な電撃に声にならない悲鳴をあげる兵士達はまだ致命傷にこそ至っていなかったが、恐怖を植え付けるには十分であった。
「これだけの兵が、な、何故こんなところに‥‥」
「下の陣を全て空けたのだから、当然のことです」
 魔弓ウィリアムに矢をつがえながら、狼狽する兵士の答えに応じた。
「陣が燃えているのは‥‥!! わ、罠か。しかし、それでは右側の斜面にいる部隊は‥‥」
「ああ今頃、森の中で彷徨っている頃だろうよ。残念ながら、全部孤立したってわけだ。そっちの兵は500だっけ。まぁ、150、150、200ってとこか? それなら互角に戦える数だな」
 アサギも引き抜いた小太刀に雷を纏わせながら、兵士の狼狽に答える。その答えに顔の色を失った兵士はぐっと刀を握りしめた。死を厭わぬ顔付き。
「ふ、ふふ‥‥ここまで完敗するとは、しかし負けはせぬ!! 丹後の兵は一兵であっても背を向けたりはせぬ! そこの術師、冥土へ共に来てもらうぞっ」
 刀を腰に溜めて、一直線に走ってくる兵士に対して、アサギは小太刀を真横に引いた。
「ウィザードが近接での無茶が務まらないと思ったら大間違いだぜ!」
 刃の切っ先よりも早く、雷刃が兵士の体を縛った。真一文字に朱の線がツゥ、と走る。
「精霊魔法が一つ、雷迅閃!! ‥‥ってな!」
 緋牡丹が夜の山に大きく咲いた。
 こちら側での戦いはほぼ全て終了していた。六条はそれを確認して扇子を眼下の炎に包まれた陣へと指し示した。
「左斜面、制圧完了。このまま中央の隊へ目標変更、攻撃開始せよ!!」

「抜け出させるわけにもいかないんでな」
「この森の仕業は貴様の所為か!!」
 森を抜け出した兵士に容赦なくオーラのこもった長巻を叩きつけ、九印雪人(ea4522)は一息ついた。物言わぬ骸となった兵士の姿を見て思わず悪態をついてしまう。
「ったく‥‥宮様やら代官やら、お国の連中はなんでこうなんだ。結局被害くらうのはいつも民衆じゃねえか」
 倒れた兵士が純粋な兵士であったのか、普段は漁業や農業を営む土侍であったのかは判然としない。だが、どちらにしても彼に人生があって、おそらくは妻子もいるだろうということ。
 民は駆り出されるだけで、悲しみの方が多い。悲しい話であった。
「右側の斜面の掃討は終了しましたか? 怪我人などがいれば中川様にお願いしようと思うのですが」
「わしゃ、もう限界じゃよ‥‥ポーションを使うほどではなかったにしろ‥‥」
 左側斜面から掃討を完了し、右側斜面にて合流を果たした六条と彦左衛門に雪人は苦笑で彼らを出迎えた。
「おかげさまでかすり傷程度ですんだよ。俺としては薬よりも枕が欲しいところだがね」
「予想外の出来事もおこらずにすんで良かったです」
「若干、魔力を打ち破った兵士が多くいたくらいかね。だが、近くにしかけた罠が大活躍してくれたおかげで、まとめて相手せずにすんだよ。と、そういうお前だって随分疲れた顔をしてるじゃないか」
 フレイムエリベイションで集中力を常に維持し続けていた六条も実のところ魔力をほぼ使い切っていた。ここにいる皆は魔力を完全に使い切っていた。イェールがソルフの実を提供してくれるということであったが、あと少しでも数が多ければその切り札に手を出していたことであろう。
 ほぼ損害無しの完勝。これが今回の戦いの結果であった。

●藤孝から
「ご苦労であった。此度の活躍により、丹後軍に壊滅的打撃を与え、五条軍への合流を防ぐことができた。一色義定はこの軍にはいなかったようだが、反乱に合流する予定だった軍が全滅したことにより、自らの地位が脅かされると知り、追加の軍を出すこともなく、宮津城に籠もっている。
 知っての通り五条軍は敗走したが、丹後軍が到着していれば、もう少しその時間は延びたであろうし、都内を戦火に晒したかもしれぬ。そういう意味では、諸君らの活躍は多大であったといえるだろう。
 丹後はしばらく不安定な時期に入るだろう。これからも冒険者の力が必要になる。どうか丹後の民の力になってやって欲しい。よろしく頼む」