丹後の乱
|
■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月09日〜06月14日
リプレイ公開日:2006年06月10日
|
●オープニング
「源細殿‥‥」
宮津城の大広間にて。一色義定にとって不倶戴天の敵が堂々と座っていた。上座に憤怒の形相を隠せずに立つ義定や、広間の壁面に揃い踏む一色家家臣の冷たい視線が槍衾のように刺さるものの、当人はどこ吹く風とばかりに眉一つ動かさずにいた。
「義定殿。立っておられては話もできませぬぞ。それとも旧い友にかける言葉は見つかりませぬか」
大広間の中央で穏やかな調子で源細藤孝はそう語りかけた。
もう10年近い昔。源徳家康の元で、二人は忠勤を果たしていた。だが、平織の勢力が盤石になるにつれ、祖父の代から治める丹後を土地を戦場にさせぬために、一色は源徳の元を離れた。
思えば亀裂はもうその時点で始まっていたのかもしれない。
つい先日。前京都守護代である五条の宮が反乱を起こした際、一色は五条の宮についた。その主たる原因は、以前に服従を誓っていた平織が亡くなったからだとも、五条の宮が丹後国内の問題に大きく手助けをしたからだとも言われている。
軍勢を率いて京都に攻め込む一色の前に立ちふさがったのは、源細であったのはきっと神か仏の縁というものであったのだろう。
結果、一色の進軍は完全に止められ、五条軍との合流は阻止された。
「堂々と正面から踏み込んでくるとは思わぬかったわ」
「それはこちらも同感ですな。門前払いを受けるかと思っておりました」
鬼気を漂わせながらも取り乱すことなく、仁王立ちする一色は僅かに口元を歪めて笑った。
「ふふ、どうせ断れば、それを口実に攻めてくるであろう」
ほう、と藤孝は感嘆の声を上げた。もちろんそうするつもりだったのだが。次の一手を読むとは修羅場を目の当たりにして武士の輝きを一層照らすものかと感心したのである。
「少数の冒険者を護衛にこの宮津城を訪れたということは、都からの勧告であろう。この土地、民草を戦火にさらすこともない。丹後国代官として、ここを護る義務がある。これより先は神皇様の手足として‥‥」
そして一色の神皇への忠節を尽くす旨の言葉をやんわりと止めた。
「いえ、それには及びませぬ。今日参りましたのは他の用事でございます」
他にどんな用事があるというのだ。この時期に、先日争った敵将が見舞いに来るとも思えない。この丹後を攻めるための布告か、降伏勧告のどちらかであるに違いないのだが。
いぶかしむ一色に、藤孝はすっくと立ち上がった。
「つい先日、代官の暴挙を止められぬ丹後国国司がその責によって、任を解かれましてな」
「な! そんな話聞いておらぬ!!」
衝撃の事実に血の気がさっと引いていく。上司とも言える国司が自らの知らぬ間に代わったなどあり得ない話であった。国司は平織勢力に付く貴族であったが、それは身分だけであって、実際は何もしていなかった。だが、それでも動きを知るということで密偵を置いていたはず。
「それはそうでしょう。私が今こうしてお話させていただくのが初めてでしょうからな。こう言ったお話は、人を介するより新たな国司が直接お話するべきことでしょうから」
新たな、国司?
一色の目が大きく見開かれた。
「ところで今日の用件は何かと問われておりましたな。此度こちらに寄せさせていただいたのは逆賊、一色義定を討つことでございます。こやつ、は落ち葉の如く表裏をひらひらと返した不忠の臣でしてな。人に話をうかがっても、武人としては優れているものの、人の上に立つ器ではないとのこと」
日に焼けた肌に血の気が消えて、今はもう土気色に近い色になっていた。一色の頭の中で今までの出来事が一つの線として組み上がっていく。
すべては今日のための仕掛であったのか。
「こ、こんな少人数で討つというのか‥‥?」
「大人数で押しかければ、門を閉ざすだろう。事実、お主はすすんで門を開けてくれたではないか」
言葉をすっかり失い、呆然と立ちつくす一色を前に、藤孝はやっと腰を上げた。そして腰に差した刀をゆるりと抜きはなって、ぴしり、と一色に突きつけた。
「我が居城が宮津に巣くう逆賊よ。観念せよ!!」
「この国の命運を貴様になど預けられるものか!!! この命燃え尽きるまで抗ってやる!!」
●リプレイ本文
「この国の命運を貴様になど預けられるものか! この命燃え尽きるまで抗ってやる!!」
一色の雄叫びが大広間を振るわせた。それが戦いの幕開けであることは皆が察知した。藤孝の護衛である冒険者は即座に立ち上がり、それぞれの得物を構えた。
「‥‥もう良いのか‥‥?」
既に入城時から刃に布を巻き付けるだけにしておき、いつでも戦闘を迎えることができるようにしておいた藤袴橋姫(eb0202)が横に並ぶ藤孝にぽつり、とした声で問うた。
「無論だ。自らが反逆者であることを自覚している者しかここには残っておらぬだろう。遠慮はいらぬ」
「わかった‥‥藤袴流、藤袴橋姫‥‥参る‥‥」
その言葉に橋姫は静かに頷いた。無表情な彼女の顔からその勢いを窺い知ることはできない。ただただ高砂に立つ一色を見る目がずっとずっと冷徹な光を帯びるのみだ。
その目の光におびえることもなく、一色は刀を抜きはなって号令をかけた。ざざぁっと取り囲む兵士達の中、先走った一人が刀を振り上げて突っ込んでくる。
「者ども、女子供が交じっていても手加減は無用ぞ」
「イシキーっ!! 美女を傷つける奴にそこでふんぞり返る資格はねェ! 傷付けた連中にワビやがれ!」
先走って攻め込んだ兵士に日本刀のカウンターで貫いたケント・ローレル(eb3501)が叫んだ。
自らの妻も愛さず、この国の女子供にも辛さを共有させる生活を余儀なくさせたこの代官のことをケントは嫌っていた。美女は守らなくてはならない。それはどんな大義にも勝ると考えているケントにとっては、女子供に容赦するなという一色の発言は許し難かった。
「抜かせ! 斬れ、切り捨てよっ!!」
その言葉に従って、四方八方から機会をうかがっていた兵士達が一斉に襲いかかってきた。
「おいおい、そんなに一斉に来られたら‥‥危ないぜ」
奇面(eb4906)は軽くおどけた様子で空けておいた右手を振りかざした。その瞬間に、彼の手から霧のような何かが兵士達と冒険者達の間を走った。その霧に自ら突っ込んだ形になる兵士達は顔を手で覆い、のたうちまわった。
「ぐ、ぉぉっ!? な、なん、っだ!!」
「海の砂はよく散らばるもんだな‥‥」
奇妙な面の下で小さく笑むと金属拳をつけた左手でよたつく兵士の顔を殴り挙げた。兵士の顔は歪み、奇面の前でうめくことになった。
「悶えろよ」
「小癪なっ!」
砂の散った左脇から別の兵士が切り込んで来る。めいっぱい先の兵士を殴り飛ばしたために体勢がまだ整っていない。
「ちっ」
一撃を覚悟した奇面であったが、それは白刃光によって押しとどめられることになった。
「目つぶし攻撃は感心できません‥‥」
レナーテ・シュルツ(eb3837)は奇面への攻撃を受け止めたロングソードをゆっくり兵士の側に押しつけると、わずかに力を抜いて、押し返そうとする刀を斜め下へと滑らせた。
力をそらされ一気に体勢を崩す兵士の脇腹に返す刃で斬りつけるレナーテ。彼女にも敵の刃が他にも飛んできたが、ライトシールドで巧みにやり過ごし、的確に捌いて、先の言葉をつなげた。
「背後や横からも攻撃しようという相手にも感心できませんけれど、ね」
さらに追い打ちをかけてくる兵士の斬撃を、レナーテは睨み付けた。半ステップ下がろうとして浮き上がった美しい黒髪の末端が刃に振れて飛散する。
「ぐぁぁっ!?」
だが、その攻撃もそこまでだった。体勢を立て直した奇面が持っていた新手の砂袋が兵士のこめかみに直撃する。それは簡易な打撃具となり、その衝撃で破れた部分から、砂が吹き出して、目つぶしにもなり、兵士はそのままうずくまった。
「今その感心できない目つぶしで助けられたのだぞ」
「だからといって卑怯なことが正当化されることはありません」
酷く不機嫌そうにしながらレナーテはやっと体勢を立て直し、剣と盾を構えなおした。
「なんだか反対側、酷く険悪な雰囲気だね」
「上等、上等! こんな程度の奴らなら喧嘩しながらでもできるってことだ。あたしらもやってみるか?」
レナーテと奇面の様子をちらりと見た明王院月与(eb3600)にクリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)からからっと笑った。
「いや。あたいは喧嘩したくないから‥‥」
「どこを見ている!!」
疲れた顔で首を横に振る月与の隙を見過ごさず、兵士が襲いかかってくる。しかし、ライトシールドで難なく受け流すと、盾の陰で、『溜め』ていた月桂樹の木剣ががら空きの脇腹へと叩き込んだ。
「へへ、やっぱ喧嘩しながらでもできそうだぜ」
華麗にやり過ごした月与の姿に笑みを浮かべると、クリスティーナはその脇から月与を狙おうとする兵士に向かって、ほぼゼロ距離で手裏剣をその顔面に叩きつけた。傍にいた月与の目でも手裏剣を握り込んで殴りつけた、というようにみえる。メシリ、という鈍い音を立てた後にずるずると崩れ落ちる兵士。
「う、ぅわ〜」
月与が呆然と見守る中、クリスティーナはぶつけた手裏剣を引き抜き、迫ってくる手近な兵士に投げつけた。先ほどのダメージではないにしろ、これも命中し、兵士の動きを鈍らせる。
「再利用っと!」
クリスティーナお姉ちゃんには、どれだけ成長しても敵わないかもしれないや‥‥。
自らの行動パターンの中に存在しない攻撃を次々とやってのけるクリスティーナに月与はすっかり見とれていた。
そんな視線に気がついてクリスティーナは照れくさそうに笑いながら、前に出る。
「前見てねえと危ないぜ。あ、あたし、そこの手裏剣取ってくるわ。やっぱ5本じゃ足りねぇな」
「え、あ、うん‥‥って、前に出ちゃダメだよ!!?」
支援射撃中心のクリスティーナが前衛よりさらに前にでるのは、無理・無茶・無謀・無策を完全に通り越しているようなものだ。
月与は慌てて近寄る兵士を力押しでなぎ払った。
「ま、待って! あたいが援護するからっ!!!」
後方でバーニングソードの詠唱を行う六条素華(eb4756)に援護を依頼すると、月与はより大きく鋭く叩きつけた。
ここが円陣の崩れ目だとばかりに兵士達は藤孝の背後、月与の守る場所へと雪崩れていく。
「先には行かせない。間違ったやり方を続けさせるわけにはいかないんだよ!!」
兵士達は果敢に攻め込んだ。一人や二人薙ぎ倒されても、衰えることなく突撃を敢行した。円陣を組んで守る冒険者達。その一角でも崩れれば数の差であっという間に吹き飛ばしてしまえるはずだ。
だが、
だが。
「何故だ、何故倒れぬ」
兵士の一人が悲鳴を上げた。あれだけ数の差があったはずなのに、今はもう互角を過ぎて、兵士達が劣勢に立たされていた。
「ぐ、っ!」
隣に立っていた兵士が車菱が膝に叩きつけられ、座り込んだ。
そうだ。兵士の大半はまだ命はある。だが、それぞれ足や手を奪われ、その場でうめく者達がかえって円陣を組む冒険者への傷害となっていた。
「六枚落ちと、歩のないものの争いだと思っていましたが」
兵士の膝に突き刺さった車菱がコトリとおちて、コロコロと投げた主の元へと帰って行く。円陣を組む冒険者は兵士の体でできたすり鉢の中央に立っていた。車菱はどこの誰に当たっても、結局は彼女の手元に戻ったことであろう。
「歩のない将棋でも勝てるときは勝てるものですね」
赤い瞳の素華は物静かにそう呟いた。手元に戻った車菱が持ち主の火の力によって炎を宿す。彼女の周りにまとった赤い色のオーラがそれを物語っていた。
「何故だ! これだけの人数で何故破れぬ!?」
兵士の叫びにも表情を崩すことなく、素華はその兵士の目を見た。
「『穴熊』という陣形を知っていますか?」
「あなぐま‥‥将棋のことか‥‥?」
「そうです。最も堅い防御陣として知られていますが、穴熊は単に全方位に防御することができるだけはありません」
素華が何を言わんとしているか、兵士は気がついた。将棋を今のこの戦いにたとえているのか。確かに円陣を組んで突撃する兵士をやり過ごす姿は穴熊と呼ばれる陣形に似ている。
「穴熊の利点はもう一つ、意図的に穴を作ることによって敵の判断を利用できるという点ににあります。先ほど陣形が崩れて、好機とにらんだあなた達が失策を犯したのです」
誘われたのか‥‥?
兵士はガタガタと震えた。自ら蜘蛛の巣の中に飛び込んでいってしまったような愚かさと自責が自らを苛ませる。
兵士はがっくりと膝をついた。
「互いの死角を消したことが勝因につながったようですが」
残るはあの戦いだけか。素華は軽く息を吐いて、上座を眺め見た。
「腕が立つのは知っていたが‥‥くそ」
ナノック・リバーシブル(eb3979)は小さく舌打ちした。彼の白色の髪は彼自身の赤い血でべっとりと濡れていた。ケントの回復でもってはいるものの、力が少しずつ抜けてきているのがわかる。
「おい、まだリカバーできるからよ」
「まだ、いける‥‥」
ケントの魔力ももう残り少ない。ナノックと橋姫と藤孝、もっとも橋姫も藤孝はよってくる兵士を払う方に忙しいが。の三人掛かりであっても一色なお健在だった。もし回復手段を使い切ってしまった上で予定外のことが起こってしまうと対処がつかなくなってしまう。
「兵士の数が減った‥‥今なら」
ナノックはサバイバーを握りしめ、鋭く踏み込んだ。この一撃、当たらなくとも、橋姫側から攻撃が可能である。
低空から高速の横薙ぎが一色を襲う。
ミシっ
肉を切る感触がサバイバーを伝わってナノックの手の平へと知らされる。だが、それは予想するよりずっと早い。打点をずらされた。
「ぬるいわっ!」
真上から一色の声が飛ぶ。体勢を素早く立て直して防御態勢に移らなければならない。だが、危険を発する思考に対して、体の動きは遅かった。
低空を奔ったナノックの体よりもさらに低空からすくい上げるようにして刀が舞った。
ザシュュュュュっ
鋭い刃なのに、触れれば骨をきしませ吹き飛ばされるほどに力強い斬撃。
「ナノック!!!!! ち、橋姫、頼ンだぜ」
ケントがナノックの体を支え、蓄えていた魔力を解放する。それをさせまいと一色が走る。そして飛び込みざまの上段からの一撃がケント・ナノックへと襲い、
ギシィィィィィィ
「‥‥させない‥‥」
滑り込んできたのは橋姫だった。斬馬刀と一色の刀が作るクロスを挟んで、白い顔に大量の血痕をつけた橋姫は、相も変わらない無表情な顔のまま一色を見つめた。
「ぬぅ‥‥っ」
「‥‥‥ぉぉ、ぉぉぉおおおおおおおっ!!!!」
力が違う。傷を負った者のそれではないことに一色は気がついた。橋姫の顔にこびりついた血は彼女のものではなく、返り血だということに。
一瞬の隙をついて橋姫は一色の刀をはじき返すと、体勢を立て直した。
「貴様‥‥家臣、全員倒したのか。お前の元にいただけでも10人近くいたはずだ」
間合いを取りながら一色は橋姫に問う。だが彼女はそれに答えず、斬馬刀を構え、同様ゆっくりと間合いをとる。
べしゃり。
一色がぬかるみに足を踏み入れた。
部屋にそんなぬかるみが存在するはずがない。一色は即座に理解していた。それは血と、臓物の海だ。
「この、修羅め!」
橋姫が走る。同時に一色も。
ザムんっ!!!
刃の長さからして、先に届いたのは橋姫の方であった。だが右胸を貫かれながらも一色の刀は橋姫の利き腕を切り裂いていた。
「‥‥っ」
声にならない痛みを上げながらも橋姫はなお斬馬刀を持ち上げようとした。
「そこまでだな」
側方で剣を翻す音が聞こえる。それはケントによって傷から回復したナノックの姿であった。ナノックは油断無くサバイバーを構えると言葉を続けた。
「ジャパン上層部の争いに興味はないが‥‥アレがいると思われるこの国に関しては別だ。悪いが元代官、お前にはその糧となってもらう」
もはや援護してくれる家臣は誰もいない。血にまみれた大広間で一色は吼えた。
「盛者必衰とはこのことだ。安心せよ。一色。世は戦国。儂もそう変わらぬうちにそちらに行くだろう」
藤孝は静かに一色を見つめていた。
「行くぞ」
ナノックの一撃が、
丹後国を治めていた一色義定の命を刈り取った。
三代に続いて代官として丹後国を治めた一色氏はこの日、歴史から姿を消した。
●後
「皆の者、大義であった」
冒険者を前にして藤孝はそう言った。藤孝は一色とは数合切り結ぶことがあったが、一色を守る兵士に囲まれ、結局ほとんど戦うことはなかった。しかし、彼の眼前にいる冒険者が酷く血で汚れていたのに対して、彼は衣にすら血を浴びることはなかった。彼だけ別の世界にいたのではと思わせてしまうほどに彼の戦いは血を要することがなかった。
「為政者としての言葉は民に対して述べるとし、今日はそなた達の依頼者として、お礼申し上げる。そなた達の力が合ってこそ今このときがあり、明日からの丹後があるのだ。そなた達冒険者の識見、そして実力はこれからの丹後にもきっと大きな影響を与えていくことだろう」
「なァに、いいってことよ! コレもタンゴを守るためだ」
死者に対して十字を切ったケントは笑ってそういった。守ると決めたのは守り通すのだ。それがケントの決めたことだったから。
「今回の事も、空お兄ちゃんに教えてあげよ。色々な領主様の考え方・失敗とかお兄ちゃん達の勉強になるよね」
月与は動かない石の中の蝶をを見て小さくため息をつくと、笑顔を取り繕ってそう言った。
「先の乱の後始末も無事につきましたね」
レナーテはゆっくりと頭を垂れて、藤孝に対して礼を見せた。
「この世は多くの人の思惑で成り立っておる。乱もその一つであろう。そなた達もどのようなことに巻き込まれるかもしれぬ。気をつけるのだぞ」
「さて‥‥この先、この国には悪魔の関係で何かしらでやっかいになるかもしれない」
ナノックの言葉に藤孝は頷いた。
「こちらから頼むことになるやもしれぬ。その時はよろしく頼むぞ」
藤孝の言葉に、素華は顔を上げた。
「源細様はこの後が忙しいのでしょうね。ですが源細様が国司となればこの国も良い方向へと進むでしょう。 この国の行く末が明るい事を祈ります」
微笑む素華に藤孝も頷いた。
「その期待に背かぬよう精進することを誓おう。ところでこの宮津城で一つ宝を見つけた。丹後は遙か昔、都への交易港の一つと栄えていたという記録がある。恐らくはその時に献上されたものだと思うが‥‥」
藤孝が差し出したそれは旅装束であった。ぱっと見た目にもジャパンにはない刺繍や織りの布が使われていることは誰の目にもわかった。
「残念ながらこれは一つしかなかったのだが、儂の依頼にことごとく応え、また皆を指揮して被害を最小限に抑えてくれた六条殿に進呈しようと思う」
驚きを隠せない素華であったが、強い薦めのため、考える間さえも与えて貰えず素華はその衣を受け取ったのであった。