【恋の夜の夢】笹に願いを

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月07日〜07月10日

リプレイ公開日:2006年07月15日

●オープニング

 昔々、そのむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが居りました。
 おじいさんとおばあさんは子宝に恵まれず、お伊勢に足を運んでは願掛けを、京のお寺にいっては願掛けをしておりましたが、結局、背中が目に見えて曲がる年になっても子供は一人もおりませんでした。
 しかし、誠実で信心深いおじいさんとおばあさんは村の人々から好かれて、村長になりました。村の子ども達はおじいさんとおばあさんの子供みたいなもの。寂しい思いはしなくなりましたが、やはり夜、夫婦二人でいろりを囲っていると寂しくなる時もありました。
 ある日、おじいさんが竹を採りに、山へ入ったときの事です。おじいさんが良い竹を探して竹林を歩いていると、目の前に一本不思議な竹が生えておりました。その竹は金色に輝いていたのです。

「こりゃぁ、おったまげた。金色の竹など初めてみたわい」

 信心深いおじいさんは、この竹はきっと神様がおわすのだと思いその場で、ははぁ〜、ありがたやありがたやと、手を合わせたのです。
 そして、急いで帰ると、金色の竹のことをおばあさんにもお話ししました。話を聴いたおばあさんもそれはきっと神様のおわします竹に違いないと言いました。

「そのような竹を見付けたのもきっと神様の御縁でしょう。この村でお祀りさせてもらってはどうでしょう。そうすれば村の皆も幸せになるんじゃないかしら」

 おばあさんは提案におじいさんも賛成しました。
 次の日、村の衆にそう伝えましたが金色の竹などあるはずがない。夢でも見たのだろうと馬鹿にする者もいましたので、おじいさんはおばあさんや村の衆全員を連れて金色の竹を探しました。
 おじいさんの案内するところにやはり金色の竹はありました。その神々しい姿をみて、馬鹿にしていた村の衆も深々と頭を下げたのでした。

「こんな竹がほんとにあったとは。でも、この竹を掘って村に持ち帰るわけにはいかない。村のお宝をつづってお祀りしよう」

 そして、村の宝である蓬莱の珠と龍の珠で飾り、仏の御石の鉢に供物を捧げ、寒くないようにと火鼠の衣で竹を覆ってあげたのでした。そして最後におじいさんが燕の子安貝を笹にかけて、密かな願いであった子宝授与を願いました。
 その日、新たなご神体が村に来た、と皆はお祭りでした。

 次の日、おじいさんは赤子の泣き声で目を覚ましました。どこから泣き声が聞こえるのだろうと探し回ると、なんと家の戸の前に赤子が赤い着物を着せられて、元気な声で泣いているではありませんか。

「村にはこんな赤子はいなかったはず。こりゃ竹の神様がわしらに子供を授けてくださったのじゃ」

 おじいさんはそれをすぐ確信しました。なぜなら、その赤子はあの子安貝をしっかと握っていたからなのでした。
 おじいさんとおばあさんは大層喜び、村の衆も奇跡に驚きました。
 それからというもの、この時期になると、村の人は宝や大事なものを竹にかけてお願いをするようになりました。


 今でもその話は昔話として、また笹飾りは村の風習として残っています。
 冒険者ギルドにもそんな話が伝わってくるようになりました。

「へぇ、それじゃお願いしてみようか」
「私たちも何か宝を持って行かなくちゃいけないのかな?」
「商売繁盛なら金、武術の上達なら武器、ってそんな感じみたいだ。別に特別な宝を持ってこいってわけじゃないだろうさ」

 さて。あなたなら何を捧げて、何をお祈りしますか?
 小さな村の風習に、あなた達も参加してみましょう。

●今回の参加者

 ea0348 藤野 羽月(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb4769 久世 董亞(31歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb4788 退紅 いろは(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リラ・サファト(ea3900)/ 高遠 聖(ea6534)/ レーヴェ・フェンサー(eb1265

●リプレイ本文

 むかしむかし、ある村に、捧げものをしてお願いをすると、願いが叶うという不思議な金色の竹がありました。
 今日は年に一度、その竹をお祭りする日です。都からもお願いしようと藤野羽月(ea0348)さん、久世董亞(eb4769)さんと退紅いろは(eb4788)さんの三人がやってきました。羽月さんと久世さんはお願い事ができるなら、と楽しそうでしたが、一人いろはさんだけはどうも乗り気ではないようです。
「そんな胡散臭い話‥‥」
 いろはさんは、神様とか超常的な存在にお願いするというのは、大嫌いでした。そんな存在がいるなら、とうの昔に救いの手を差し伸べてくれてもよかったと思うのです。
「どうしたんですか? 気分でも‥‥?」
「いや、なんでもない‥‥」
 羽月さんが心配してくれますが、まさか乗り気じゃないからとは言えません。羽月さんは奥さんや従兄弟と来るはずだったのですが、都合で見送りしかこれなかったのです。そんな彼のことを知っているからそんな風に言えませんし、何よりも。
「鍛え方が足りないんじゃないのか? お前は見ていて危なっかしいから‥‥」
 こんな風に心配(?)してくれる誘ってくれた久世さんにも悪いと思ったからです。断るのは簡単ですが、彼女も何か思惑がある様子。言い方はちょっと腹が立ちますが。

 さて、村から離れ、山の中をさらに1時間ほど歩いたところに件の竹はあります。この竹。ご神木、というか、ご神竹といわれるだけあって立派な竹です。普通の竹なら両手で持てばその胴回りを覆いきれるものですが、この竹は三人の誰が手を回しても、覆いきれることはないでしょう。そしてそんな竹の前には祭壇が安置されていて、竹につるすのが難しい物、たとえば食べ物とか、大きな武器などの重たい物、が備えられていました。
「確かに金色なんだな。青竹が色あせたみたいな感じもするけど‥‥」
 そして他の竹とは明らかに違う黄色の節。昔話で人々が驚いたというのも頷けます。そこまで神がかっているようには思えない、とはいろはさんの心の中だけにしまっておきましょうか。
 まずは久世さんが刀を一振り荷物から取り出すと、その祭壇に安置して手を合わせました。
「ほら、いろはも早く」
「刀ってお前‥‥まだ強くなるつもりか」
 刀を捧げて、料理の上達とか願う人はあまりいないでしょう。何を願っているかだいたい想像ができてしまって、いろはさんは溜息をつきました。
「あ、なんだその溜息は。自分はだな、いろはのことを思って‥‥」
 思わず本音がぽろりと零れてしまいます。それを聞いて、いろはさんはニヤリ。懐からかんざしを取り出したかと思うと、その笹につるしました。
「奇遇だな。俺もちょうど董亞のことを思ってたところだ」
 かんざしで何を祈ろうとしているか、久世さんもすぐ気がつきました。
「キミな。そんなことを祈るぐらいだったら、まず自分の事を考えろ。四六時中一緒にいる身にもなってくれ」
「そりゃこっちのセリフだ。いっつもいっつも男と間違われやがって‥‥」
 竹の前で言い争いが始まります。喧々囂々と騒ぎ立てていると他の人々もびっくりしてその様子を遠巻きに眺めていますが、一番傍にいる羽月さんだけは違います。クスクスと笑っただけで、荷物からお供えするための銅鏡を取り出すと祭壇にそっと置いて手を合わせました。
 そんなお供え物を見て、争っていた二人は首をかしげます。どんなお願いをするのに鏡が必要になるのでしょう。
「鏡を見て己の姿が見返せるように、確認できるように、何時までも、 自分の心の中にあるものを忘れぬようにと思って。自分の姿、この時に何を思い考えたか‥‥忘れえぬように」
 羽月さんは穏やかな顔で言いました。素直になれない二人とは違って、都から見守ってくれている妻のリラさんとは、顔を合わさなくても言葉を多く交わさなくても願うことはそう変わらないのです。しっかりと信頼しあえる二人だからこそ、その永遠の姿を捉え、この姿を忘れないように。と願ったのでした。
 そんな穏やかな表情を見た二人は何となく気まずそうです。
 そんな関係になれたらいいなぁ、と心のどこかで思ってたり、思わなかったり。
「私の傍らの人が共に在る、幸せを」
 羽月さんの厳かで、とてもしっかりとした言葉に従って、二人もしっかりと手を合わせたのでありました。

 次の日、村は祭りでとてもにぎやかです。羽月さんは土産話のためにと喧騒の中を歩いていました。土産物屋などもあちらこちらで出て大賑わいです。羽月さんは猫のたまと一緒にあちらこちらを覗いていました。
 そんな時、羽月さんに声がかかります。久世さんの声です。
「やぁ、昨日はお世話になったね。ところで、この近くに温泉があるらしいんだ。良かったらキミも一緒にいかないか?」
「‥‥気をつけろ、鬼のような特訓を施されて殺されるから、な」
 傍にはグッタリとしたいろはさんがいます。よほど酷くしごかれたのか、汗と土でベトベト。立ち上がる気力もあまり残っていないようですが、なんとかまだ久世さんへの悪口は言えるようです。
 そんな二人をみて羽月さんは、いいね。行こうか、と頷きました。
 羽月さんが不思議な体験をしたのはその温泉でした。温泉はとても澄んでいて清水のようです。これは綺麗だな、と思って覗き込むとそこには羽月さんではなく、別の人が水鏡が映し出されています。
「リラ‥‥!?」
 羽月さんはとてもびっくりしました。確かに笑いかけてくれているその人は羽月さんの妻、ここにはいない人です。
 驚いて温泉に手をつけると波紋が広がり、すぐ消えてしまいました。
 後に残ったのは温泉の底に沈んでいた一枚の銅鏡だけ‥‥。不思議な体験に羽月さんはしばらく呆然としていました。


●希望の夜の夢
 むかしむかし、ある村に、捧げものをしてお願いをすると、願いが叶うという不思議な金色の竹がありました。
 今日は年に一度、その竹をお祭りする日です。都からもお願いしようと枡楓(ea0696)さん、楠木麻(ea8087)さん、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)さんがの三人がやってきました。女性三人の一行なので話もとても賑やかな様子です。特に三人の中で一番ちっこい楓さんが、竹にお願いすることに執念を燃やしていました。そんな想いは歌声になって届くので、遠くの人も彼女が何をお願いしようとしているのかすぐ分かります。
「金も要らなきゃ、女も要らぬ、わたしゃも少し力がほーーしーーいーーーーーーー!」
 ね?分かるでしょ?
「体力ね、筋力の動きを飛躍的に高めるというお薬を考えてみようかしら」
 そんな楓さんの切実な願いを聞いて、フィーナさんがふむ、と考え込みました。確か体力を高める作用を及ぼす魔法の品というのもありましたし、不可能ではないはずです。今までに蓄えた知識を動かす様子を見て、楓さんが目を輝かせました。
「ほ、本当か!? そしたら、竹に飾るつもりじゃったこの茶色の木の実をあんたにあげるのじゃ!」
 フィーナさんはジャパン最強のウィザードと呼ばれています。しかも錬金術に長けているというのですから、彼女の研究の方が、竹に祈るより現実的かもしれないと思ったのでしょう。そんな楓さんを見て、フィーナさんはにっこりと笑顔を浮かべました。
「それでは、筋肉の作用をまず研究しないといけませんから‥‥」
「は、ゃ、いや。うちはやっぱり竹にお願いして地道に体力作りにはげむのじゃっ」
 フィーナさんの目が一瞬妖しく光ったような気がして、楓さんは慌てて前に向き直りました。そんな楓さんの気持ちを知ってかしらずか、フィーナさんは手を頬に当てて不思議そうな顔をしていました。
「私はえれめんたらーふぇありー、が欲しいですね。この森にいないかなぁ」
 不思議な竹が奉られている場所までは山林地帯なので木々がたくさんあります。麻さんが探しているエレメンタラーフェアリー達が住んでいそうな感じがする、穏やかで神秘的な森なのは間違いありません。ここがジャパンでなければ本格的に探せばいるのかも、とおもえます。

 さて、村から離れ、山の中をさらに1時間ほど歩いたところに件の竹はあります。この竹。ご神木、というか、ご神竹といわれるだけあって立派な竹です。普通の竹なら両手で持てばその胴回りを覆いきれるものですが、この竹は三人の誰が手を回しても、覆いきれることはないでしょう。そしてそんな竹の前には祭壇が安置されていて、竹につるすのが難しい物、たとえば食べ物とか、大きな武器などの重たい物、が備えられていました。
 三人はそれぞれ木の実、羽根ペン、甘い保存食を捧げて、お願いをしました。
「さて、体力はお願いしただけではならぬ。体力作りの道、一日にして成らずじゃ。うちはこの祭りの力仕事を手伝うつもりじゃが、あんたたちはどうするんかの?」
 古いお供え物は村の神社に運ぶそうです。なにしろ、いっぱいになりすぎると、ご神竹が折れてしまいます。だから神主さんがお祭りをした後は何日かして村に持って降りるので、体力作りと楓さんはそのお手伝いをすることになりました。おかげで行きよりずっと重たい荷物を抱えています。
「私はこの珍しい森の植物や鉱石を少し見て回ろうと思います」
「私も、この森にえれめんたらーふぇありーがいないか探したいです」
「そうか、それでは先に村に戻っておるぞ」
 二人の意見からして同行できないことが分かった楓さんは、別れの挨拶をして、山の斜面を降っていきました。
「あれ?」
 確か来た道はそっちではないはず。でも楓さんは間違えていると感じている様子もなく、てこてこと降って行くではありませんか。フィーナさんも慌てて声をかけます。
「そちらは来た道ではありませんよ」
 ですが、楓さんは全く気づく様子はありません。麻さんもフィーナさんも何かおかしいと直感して、楓さんの後を追いかけ始めました。

 森の中はあの金色の竹がたくさん生えていました。青竹が中心だった祭壇付近とは全然雰囲気も違います。故郷にある妖精の森と雰囲気か似てますね。フィーナさんはぼんやりと考えましたが、どうもその考えは間違いなかったようです。妖精のトルクを被った麻さんが興奮した声をあげました。
「あぁっ! み、見て。あの可愛い姿はエレメンタラーフェアリーです!?」
「あんなにデカかったかのう?」
 楓さんは不審な声も無理ありません。確か噂に聞くエレメンタラーフェアリーは凄く小さかったはずですが、その竹の陰にかくれんぼするかのようにしているその姿は人間の子供くらいの大きさがあります。
 でも麻さんは大あわて。とりあえず妖精の仲間であるのは第六感が告げていたので、お話を聞けたらと思ったのですが、山を下りてから酒場でフェアリー捕獲用の菓子を買おうと思っていたし、かすていら味の保存食をお供えしてしまって惹きつけられるような小物がありません。
「ど、ど、どうしよう。とりあえずお話だけでも!」
 麻さんが声をかけましたが、子供はにこりと笑って顔をひっこめてしまいました。
「うむ、頑張るのじゃぞ。うちはこの荷物ではちょっと追いかけきれんのじゃ‥‥」
 楓さんが残り、フィーナさんと麻さんが子供の隠れているところに急ぎます。
 ですが、竹の陰にはもう子供は姿はどこにもありません。楓さんに聞いても、まだその陰から誰もでてきておらんぞ。というのです。
 ですが、確かに子供はそこにいたのでしょう。流麗な文字が金色の竹に刻まれていました。フィーナさんは竹の文字を見てびっくりしました。それは日本の筆やナイフなどの跡ではなく、間違いなく羽根ペンのそれです。
「『想うことが存在せしめること』‥‥?」
 書かれた文字にフィーナは首をかしげました。そしてその傍に落ちていた羽根ペンの存在にも。


「えー、あんた達も同じ事があったのか」
「そうなんだ。お供えしたものはしばらく誰もさわらないということなのにな。不思議なこともあるのぅ」
 羽月さんの銅鏡は、温泉の中。
楓さんの木の実は、持って降りた荷物の中から
 フィーナさんの羽根ペンは竹林の中で、
 麻さんの保存食は、村の人のお茶受けに
 久世さんの刀はいろはさんの訓練時に
 いろはさんのかんざしは土産物屋で

 みんな手元に戻ってきました。
 どうして手元に戻ってきたのか誰も分かりません。