誘ひ給へし(ウタウモノ)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2006年08月14日

●オープニング

「がーくーしーめー」
 冒険者ギルドにて。後輩受付員は呪いのような言葉をあげながら、報告書を読みあさっていた。
 この受付員は、崇拝してやまない美人白拍子の仏御前が、楽士とあだ名される悪魔によって、連れ去られたことに深く根を持っていた。その女性は偶然にも丹後地方で発見されたから良かったモノの、その喜ばしい知らせは、後輩受付員に怨念の炎を灯すのに十分なきっかけとなった。
 そして、報告書を読みながら、彼は布きれに書写していくのであった。

 次の日。
「あれ、お前非番じゃなかったっけ」
 先輩受付員が後輩受付員の姿を見て呼び止めた。充血した目には隈ができている様子から、どこか闇をまとっているような気がする。
「今日は、一個人として依頼に来たんです‥‥そう、仏御前ファンクラブ会員第1号にして会長の僕が!」
 会員合計数も一名だろう。という突っ込みはさておき、依頼にきたというなら話は別だ。先輩はその依頼内容を話すように促した。
「依頼内容はずばり、あの怨敵楽士を捕まえ、倒してほしいんです!」
「場所はわかっているのか?」
「わかりません!」
「敵の強さは? 鬼をつれているという話はあるが、分かっているのか?」
「わかりません!」
「一昨日きやがれ、この阿呆! 何年受付員やってきたんだ、おまえは!」
 依頼人であるという立場など関係なく、容赦なく後輩をはり倒す先輩。業務事項ぐらい分かっているはずだろうに、それも全部無視していきなり敵を倒せというのも無茶な話である。
「だからといって、場所かわからない、敵の強さがわからないで放っておける相手じゃないんですよ! 楽士を倒せなくても良いです。どこにいるとか、目的とか、水面下がやろうとしていることを暴いてほしいんです! そしてあわよくば‥‥」
 後輩の飢えた狼のような剣幕に先輩はちょっと押されてしまった。本当に噛みついてきそうな後輩をなだめすかす先輩。
「あー、わかった。楽士のことを調べる、もし発見したら倒すということでいいかな。それなら依頼として成立させてあげられるから。落ち着け。どう、どう」
 その言葉に後輩の顔がペカっと輝いた。
「ほ、ほほほ、本当ですか。それじゃですね。僕が今までの報告書を元に情報をまとめてきたんです。今まで楽士を追ってきた人ならこれで何かしらヒントになると思うんですよ」
「‥‥最近、急に保管室の整理を言い出したのはその為か‥‥。おまえ、半分犯罪だぞ。それ」
 ジト目にも全く気にした様子を見せず、後輩は布きれに書き付けた報告書のまとめを見せたのであった。
「どうか、楽士を止めてください!!!」

楽士
・パリから来た悪魔らしい。人を唆すのが得意。正体は外国の女らしい。
・垣根村にて病人を助けるために冒険者を雇うことを示唆。どうやら病気は狂言だったらしい。ずいぶん古い社のことも知っていた模様。
・人喰鬼と結託し、侍を脅して人殺しをさせた。またその人質になった妻は亡霊を取り憑かせて冒険者と戦わせ、その子の救出と鬼の討伐を天秤にかけさせた。非道だ。
・人質になった妻は解放された後、尼になったが、その後寺にて殺害、尼寺自体も死人の巣窟になっていた。
・丹後にいるらしいと冒険者は皆噂している。国司が変わる前だが丹後の城内で悪魔の気配があったとか。
・我らが女神、仏御前様を丹後に行くようにそそのかした。許すまじ。
・冒険者に何かをさせようとしている?

丹後
・河童海賊、土蜘蛛、鬼の巣窟で貧しい
・最近、戦争の影響で国司が代わった。前国司は一色義定、新国司は源細藤孝。
・土蜘蛛による被害が一番多く、この討伐依頼は3回はでている。現在も被害軽減の為の道具作りをしているとかなんだとか。
・我らが女神、仏御前様が救出された場所。現在は宮津城のどこかで療養している。
・国司の息子、忠興が我らが女神、仏御前様の気を引こうと頑張っている。ふ、ライバルだな。


その他気になる情報
・死人の寺で方陣が引かれていたとのこと。それを犬が消すと空気が軽くなった。
・この犬、とよく似た犬(死人)が方陣を守っていた?
・丹後は陰の気が強いという噂あり。陰って‥‥ナニ?
・死人の寺は丹後国内。垣根村は山城国。
・そういえば花見の薄墨桜もたしか丹後国。

●今回の参加者

 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3501 ケント・ローレル(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

十野間 空(eb2456)/ 玄間 北斗(eb2905)/ 将門 司(eb3393)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ 六条 素華(eb4756

●リプレイ本文

●サポーターからの連絡
「やっぱりアストレイアお姉ちゃんに化けていただけだったんだ!!」 
 明王院月与(eb3600)は、十野間空の話を聞いて非常に悔しそうな顔をした。冷静に考えれば髪の色も違うし、ノルマンで本物と生活をしている空によれば、毎日顔を合わせていたのだという。
「楽士というのは、デビルであることは間違いありませんね。デスハートンの魔法、それから、『変身』能力はどちらもデビルであるなら基本的な能力であるはずです」
 今までの報告書を将門司に頼み、まとめてもらったものを確認した和泉みなも(eb3834)は結論づけた。
「月魔法を使う他は、低級のデビルでも使う能力で事足りますね」
「低級悪魔である可能性もあるのか‥‥しかし、あれほど狡猾な悪魔がいるとは考えがたいな。そして自分は舞台に立とうとしない‥‥」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)は虚空を見つめていた。表舞台というラインに立たず、手招きだけする楽士。
「そういえば、方陣についてはどうだったんですか?」
 ふと、ナノックがみなもの言葉によって現実に引き戻された。
「ああ、調べてもらったところ、ジャパンで使う方陣だな。西洋の物ではないそうだ」
 六条素華が発見したという方陣をギルド伝いに陰陽寮へ尋ねたところ、方陣を構成しているのは神代文字であったという。
「陣の効力は、解放。大地に眠る力を解放させるというものだった」
「大地に眠る力、それが、陰の気‥‥」
 みなもの言葉に、月与ははっとした。
「玄間お兄ちゃんから聞いたんだけど、薄墨桜は完全に枯れていて、森も活気を失っていたっていってた‥‥!」
 世界は陰陽の力で成り立っているというのは陰陽師が語る世界の成り立ち。陽とは活動的なエネルギーの総称で、陰は逆に停滞を表す。この二つの力のバランスで世界は揺れ動き、様々な事象を引き起こすのだという。それでは大地に陰の気が大量に溜まっているとして。それを方陣によって一斉解放をしたのだとしたら?
「大量の陰の気は歪みを呼び、混沌を導く。少し、見えてきたな」
 ナノックは立ち上がった。月与もみなもも。答えはすぐそばまで来ているような気がしていた。

●受付員
「わわわ、目が、ま、真っ暗! 誘拐? これって誘拐ですかー!?」
 後輩受付員は枡楓(ea0696)に目隠しをされて、ばたばたと暴れていた。
「申し訳ございません。手荒なことはしたくなかったのですが‥‥これも新しいプレイのため、いやいや、これも深い事情があってのことなのですよー」
 嘆息にも似た言葉の響きに、涼やかな風を感じさせる美しい声。その声に受付員はパっと顔を輝かせた。
「そ、そそそその声は、ほほほほ、仏御前さんっ!」
 本当はカンタータ・ドレッドノート(ea9455)が仏御前の声色をまねているのだが、哀れにも受付員くんは気がつかない。
「なんだか、端から見ると非常に滑稽だな‥‥」
 鷹村裕美(eb3936)はそんな様子を遠くから眺めて溜息をついた。
 そんな愚痴も馬耳東風。カンタータは深く被ったフードの下から、非常に楽しそうな笑顔を浮かべながら、声色を続けた。
「風があなたのことを話すのです。貴方は悪魔に呪われている可能性があるのです。私たちと共に、寺へ向かいましょう〜」
「ははー、仏御前さんの言葉とあらば、たとえ火の中、水の中! どこにだっていきますぅ」
「ほ、ほっとけごぜんさん、ほっとけという割には凄い人気じゃのう。なるほど、人気があるから、ほっとけというのか!」
 楓は一人で納得しながら、受付員の青年をカンタータの愛馬タムナスさんへと案内した。
「ところで受付員さん、お名前はなんというのですか?」
 ゆっくりと動き始めて、カンタータが受付員に尋ねた。受付員は少し首をひねった。
「色々名前はあるのですが‥‥

 楽士と一般的に呼ばれてますね」
「!!」
 皆が一斉にタムナスさんに乗った受付員から飛び離れた。
「おや、どうしたんですか? あ、普通の寺では魂を奪われた人間をどうこうするのは難しいと思いますよ。失った魂の欠片を補完する術なんてありませんから。あ、でも仏御前さんならこの失った心を充足してくれるかもしれませんね」
 目隠しをしながら、明確にカンタータの方を向いて笑って語った。手綱もしっかり握り、タムナスさんの動きをしっかり制している。
 あれは見えているのだ。
「1日ほどかかりますが、いいお寺がありますよ。ああ、楓さんもカンタータさんも知らないはずですから、ご案内いたしましょう」
「何の、ためにだ?」
 裕美は刀の柄に手をかけながら、問いかけた。彼がどこを指しているのかは即座に理解していた。そこ以外に存在しないはずだ。
「魂を奪われた状態を回復するなら、その魂全てを捧げてやれば良いのです」
「ぬかせっ!!!」
 裕美が刀を抜きはなった。こんな奴に、カガリや宗典、その子が犠牲になったのかと思うと、悲しくて仕方なかった。
 ザムっ!!!
「!!!」
 裕美は楽士の脇腹を狙った。はずだった。だが、実際の刃は、それを大きくそれてタムナスさんの胸を切り裂いていた。
「残念。もう少しでしたねぇ」
 楽士は暴れる馬の背からひらりと降りると、一行から距離を置いた。
「ああ、ギルドに戻ったら先輩に伝えておいてください。私は仏御前を手に入れるためにとうの昔に魂を売っていました、とね」
「貴様っ!」
 なお追跡しようとする裕美を楓が止めた。その瞳は鋭く、力がこもっていた。
「深追いは厳禁なのじゃ。それに‥‥」
 一呼吸おいて、裕美にゆっくり話して聞かせた。
「楽士が見つからなくてがっくしーではなくて良かったのじゃ!」
「そんなこと言ってる場合か! 行くぞ!! カガリの寺に行く!」

●応答
「おぅ、タダオキ! 元気そうじゃねぇか」
「おっ、タンゴのナイトじゃねぇか! どこほっつき歩いてやがったんだ!」
 ケント・ローレル(eb3501)の挨拶に、源細忠興はケントの胸板を軽くこづいて、笑いうった。その仲の良さはもう長年付き合った仲のようにも見える。そんな奥からふわりと風が漂ったかと思うと、一人の女性が彼の後ろから姿を現した。
「皆様、ようこそおいで下さいました。心より歓迎申し上げます」
「あ、ガラシャさん。お怪我はもう大丈夫なんですか?」
 後ろから姿を現したのは紫電光(eb2690)もよくその顔を知っていた。土蜘蛛に囚われていた女、ガラシャであった。
「お気遣い痛み入ります。おかげさまですっかり傷も癒えました。今は丹後国内で、神楽を舞っております」
「へへへ、いい女だろ。見た目もそうだが、俺とまともに目を合わせて、悲しい人って面と向かって言いのけた女なんだぜ。怖がるかと思ったら全然、他人のことばっかり心配するし、外面だけかと思ったら芯も太い。わっはっは」
「もちっと早くしってりゃあ看護してたのによー!」
 笑う忠興の様子を見て一行は顔を見合わせた。惚気を聞くために会いに来たわけではないのだが。
 どう本題に入ろうかと考えていたところ、冒険者を迎えるもう一つの影が現れた。威風堂々としていながら、穏やかな風を纏った人物。国司、源細藤孝だ。
「今日は賑やかだな。活気は活気を呼ぶ。よく来てくれた」
「あ、国司様。実は今日はお願いと、尋ねたいことがあるんでっす」
 藤孝の登場を話題変更のチャンスと捉えたのか、光は積極的に話題を本題に戻していく。
「おう、それだ。わりぃな。こころにいる奴ぁ、全員言いたいことあるんだがよ。順に聞かせてくれぃ。まず、‥‥タダオキ、お前、誰かに狙われたことあんのか?」
「そんなの数えてたらキリねぇぞ。山ほどあるぜ。ってか、ふつーの有名な侍なら誰でも狙われるもんだぜ」
「それもそうですね。ええとじゃ次私でっす。最近狙われた件で、捕まえたりしましたか?」
「残念ながら捕まえてねぇよ。俺移動中だったしな」
 光とケントが交互に質問すると、今度はその後ろに控えていた月与とナノックが口を開いた。
「それじゃ、次、あたい! 国司さんはシェラさんをいつ雇ったの? あのね、シェラさんってこの地域のことものすごく詳しいし、その言い回しがどことなく、この周辺に身を隠している楽士に似ているの」
「シェラは3年以上私の元で命を果たしてくれている。彼女は本来測量というより地図を作ることが本業でな。地図に含まれる細かな情報、たとえば地質や伝説など、まで含んだ地図を作ることができる。彼女の地図はあらゆる方面で活用ができるということで、都にいる時分から個人的に雇っていたのだが」
「次はオレだ。すまないが、城の中を見させてもらいたい。今回オレ達はその楽士とやらを探しに来ている。城は唯一、悪魔の反応があったところなんだ」
「残念ながら、それは承伏しかねるな。以前から悪魔の話は聞いておったので、理解はできるが、城の構造を知られるのは石垣の石を抜かれるようなものだ。儂や丹後の者達からの依頼をこなしてくれたおぬし達を疑うのではないが、時が流れ、この城が戦場になったとき、冒険者の力を素直に借りられなくなる。誰かに見られて困る秘密なら最初から共有させるべきものではない」
「‥‥そういうのなら仕方ない。それなら出入りをする人や外を見廻りさせてもらうがそれなら構わないな?」
「家はその主の領域であるが、それ以外は神が許す限り全ての存在が共有するものだ。構わぬよ」
「と、質問者が一周してまたオレ様だな。タンゴに住んでどれくらいになる?」
「3ヶ月ってとこか? 一色を倒してからだからなー。最近、やっと美味い店も見つけられるようになったんだ。今度連れてってやるよ」
「鬼の討伐は誰が行っているのかと、あと、最近言動のおかしい人‥‥っていません、か?」
「言動がおかしい? そりゃタダオキだ! もうガラシャに関してはデレデレだもんな!」
「うるせぇケント! あー、鬼の討伐はしてねぇ。鬼は被害はでけぇが、数がすくねぇ。そういう意味では土蜘蛛より危険度は低いんだよ。鬼退治はギルドの方で各個依頼は出ているはずだが、丹後から依頼は出してねぇな。周辺諸国や自治体、個人で依頼は出てるだろ? で、そろそろ質問はしまいか?」
 嵐のような質問の後、忠興は一行の顔を見回した。質問がないようならば、といって藤孝はそうそうにその場を離れた。忠興と冒険者達の仲を知って忠興に任せておけば十分とふんだのか。
 最後に光が手を挙げた。なにやら、訓戒の巻物のようなものをもって一部を読み上げる。
「土蜘蛛討伐の名目で兵を何時でも集めれる状態に、それと念のため忠興さんとガラシャさんは、丹後国から脱出する手段を確保して‥‥ください」
「そりゃ無理な相談だな。今兵士はほとんど里に帰した。土蜘蛛退治や河童退治になんであれだけの報酬や資金が出てるとおもってんだ。雑兵よりお前さん達の方が良いって思ってるからだよ。兵士はまた土侍になって丹後を各地で守ってくれるさ。あと‥‥この国を守る奴がどこに逃げるって? 自分の命大切さに逃げて誰が後ろについて来るってんだ。一応、丹後のセガレ役はってんだぜ」
 なんか、変わったな。この人。
 光は少し忠興が一回り大きく感じた。
 だが、同時に、それだけじゃ、楽士には多分操られるだけだということも薄々と感じていた。


●倒された鬼の正体
「これ、本当に同じ寺なのか‥‥」
 裕美は死人で溢れていた寺に踏み込んで、呆然とした。
 夏の日差しが、緑の幕で和らげられて、心地よい。風も夏の爽やかなもので、心地の悪さは一つも感じない。むしろ心地悪さを感じないことが心地悪いかもしれないが。時折、建物から寄せる風だけはまだ、腐った土の臭いを含んでいた。
「‥‥夢みたいな話だな」
 カガリのことを調べたが、裕美は一つも不審な点をみつけることはできなかった。鬼に対する接点は、夫の宗典と、あの事件くらいなものだ。
「あ、そういえば‥‥カガリにあの鬼の角を渡したんだっけ」
 カガリのことを考えてふと思い出した裕美は、鬼の角を納めた場所を探した。それはそれほど時間を要さずともすぐ見つけることができた。その箱は自分たちのものだったのだから。
 箱は無惨に壊されていた。それも念入りに、叩きつぶされていることを次ぐ理解した。中身も砕かれたのか見あたらない。よくよく調べると小さな石粒のような骨の破片がコロリと出てくるばかりだ。
「‥‥??」
 角だろう。破片? だが、それはとても綺麗な切り口をしている。周りにあるような力で潰したものではない。角の破片を探したがそれらしいものは一つもない。
「この角がもしかして、あの人喰鬼の角だった‥‥?」
 この角の大きさなら小鬼程度だろう。だが、目をこらせば思い出とともに角の特徴が思い出される。それをミニチュア化したかのような。そんな角。
「ということは、小鬼を人喰鬼に変身させた‥‥? じゃあ、元の人喰鬼も何かに化けて、いる?」
 誰だ? どこにいる??

●丹後のヒミツ
 みなもとカンタータ、それから楓は老婆の前に座っていた。村々を尋ねて歩くうちに丹後の一番の物知りというこの老婆に辿り着いたのだ。みなもと同じパラではあるが、もう、見た目からも4代以上の開きがあるようにみえる、といえば彼女がしょげるので省くとして。
 老婆は歌う。
「その昔 京に都ができて間もない頃 都人は黄泉の者に悩まされたそうな
 人々は頭を付き合わせて考え その理由をつきとめた
 都はジャパンのヘソ もっとも大きな龍穴(りゅうけつ:気の巡りが最も良いとされるポイント)があるのだと
 栄えもするが 滅びもする 絶え間ない盛衰の天秤にある都
 人は都を整備する過程で 陰の気の流入を少しだけ変えた 非常に巧みに、長い歴史をかけて
 都は次第にバランスがよくなり大きく栄えた
 行き場を失った陰の気は北に逸れた この地には 大地と神の世を結ぶ天橋立があり 陰の気が力を失うやもしれぬ
 皇大神社を建てて その気を大地に封じ 森やその生き物を通して 陽気へと転じた
 大地には陰の気がたまる 土蜘蛛はその陰気をもって繁殖し 天命をもって陽気へと転じさせる自然の力を利用して
 我らもまた天命を持ってこの地を生きる この地は暗い だからこそ尊い 日出ずる地にて 我らは黄昏を背負うのだと」

 皇大神社? あの甘露の納まっていた神社の名前は確か‥‥みなもは目を細めた。