うまうま☆パニック(群)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月09日〜06月14日
リプレイ公開日:2005年06月17日
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●オープニング
馬の群が駆けている。
数としては20頭あまり。
躍動感溢れるその動きは、生命の力強さを感じさせ、また速さへの憧れを感じさせる。
馬の一頭一頭がそうした躍動美を放っている一方で、群としての力強さと連帯感を味合わせる。
馬が駆け抜けてゆく。それは心躍らせる光景だ。
ただし。
馬を飼っていた方はそれどころではなかったが。
「ま、まて〜!!! こらぁ! 止まれぇ〜」
何度目の叫びだろうか。群の後を必死になって愛馬で追いかけていたが、彼らはどこ吹く風。ちっとも聞いてくれやしない。
オレが一体何をしたって言うんだ。
少年は既に半泣きだった。ついこの間、羊を見失った少年のことを馬鹿にしたが、今度はまさか自分が、しかも群ごと見失いそうになるなんて。
「ち、ちくしょー。みてやがれよっ」
愛馬の手綱をしっかり握りしめて、全速力で群に近づく。群の先頭に出て、動きをコントロールすることができれば何とかなるはずだ。鞍と人を乗せている分、不利ではあるけども、全力で走らせればなんとか追い抜けるはずだ。
全力で駆ける少年の愛馬は、群になった馬を次々追い抜き、やがて先頭に近づいた。
「よし、後少しだっ! いくぞっ」
もう一踏ん張り、少年は風の抵抗を受けないように更に頭を低くして愛馬を走らせた。
すこーん。
その瞬間、少年の頭にかじりかけのリンゴが直撃する。
「!!??」
続いて、もう一つ。オマケに甲高い嘲笑まで聞こえてくる。
「な、な、なんだ!?」
キキキキキキキっ。
群の先頭集団には、騎手がいた。乗っている、というよりしがみついているという方が正しいような大きさでしかなかったが。鉛色の肌にコウモリの羽。耳元まで裂けた口。そんなバケモノが馬に乗っかっている。
「なんだ、お前達わぁぁ!?」
リンゴをかじっていたバケモノが少年にリンゴを投げつける。驚愕で口を大きく開けていたのが失敗した。リンゴが口に直撃した。
「はがっ‥‥!?」
息が詰まって、視界がぐるぐると回った。それでもしっかり手綱を持っていたので何とか落馬は免れたものの、失速して先頭集団から離れていく。
「あわわ‥‥どうしよう‥‥」
少年はバケモノにコントロールされて走る馬達を呆然と見つめ続けていた。
群があんなバケモノに乗っ取られているなんて‥‥親父や友人の話を思い出しても、どうにかする方法は思いつかなかった。バケモノを見るのは初めてなのだから。
「ちくしょー! お前らなんか、冒険者の手にかかればイチコロなんだからなぁぁ!!」
自分でなんとかできない悔しさでいっぱいだった。
そして少年は冒険者ギルドに向かって走って行った。
●リプレイ本文
●開戦前
「予想した通りだったな。悪魔はともかく、馬は生物。水がなければ生きてはおれぬ。必ず、水のある場所に現れるはずだ」
グレサム・ガンダウルフ(ea5801)はまだ遙か先の泉で水を飲む馬の集団を見て頷いた。インプを捉えるには、彼らの足となってしまっている馬の行動を読みとり、制限させる必要があった。
「水場なら、少なくともいずれかの方向は水。馬が逃げる方角もより絞り込めるかも知れん。草地ではそうもいかぬだろうがな」
そう続けるグレサムの言葉に愛馬ブリッツェン号に跨るメフィスト・ダテ(eb1079)は大きく頷いた。
「確かにな。馬で追撃せねばと思っていたが、これなら存分に追いつめて攻撃することができそうじゃんか」
「それでは、予定通りに行こうか」
「承知した」
グレサムの言葉に応じて、一行はゆっくりと歩みを進めた。馬を暴走させるインプを退治するため。それぞれの役割を胸に秘め、持ち場へと進んだ。
●戦
「気が付かれたか」
そう言いながらも、メフィストは愛馬ブリッツェン号を全力で駆けさせていた。馬の群からは強烈ないななきが上がったかと思うと、メフィストに背を向けて一斉に逃げ始めていた。
それは決して統制のとれたものではなかったが、一方が泉、もう一方からはメフィストが追いかけてくるとなると、逃げる方向はどんなに混乱していていようが、自ずと決まってくる。馬達は残った方向に向かい始めたのだ。
最後尾を走る馬がもう一度いななきを上げた。見れば、インプが馬の背にかじりついているではないか。
「あれかっ」
混乱した馬より、的確に指令された馬の方がよほど早い。ブリッツェン号が疾走すればぐんぐんと縮まってゆく、メフィストとインプとの間隔。その間に、メフィストは手を伸ばし、混乱の元凶にその手の平を向けた。
闘気が集中して、目には見えずとも質量を伴った力が、手の平より放たれる。
インプは一瞬背をのけぞらせたかと思うと、次の瞬間には馬の背から崩れ落ちていた。それ以降は、馬に踏まれたか、土煙に消えて姿が見えない。
「まず一匹‥‥!」
崩れ落ちるインプの脇をブリッツェン号で駆け抜けるメフィストは、小さく呟いた。
続けてこちらを見やり大きく騒ぎ立てるインプにもう一度、手の平を向ける。
インプはスピードの乗った馬の上で、その照準から外れようと必死にもがいていた。しかし、ここでもう一度馬に噛みついて暴れさせれば、自分が振り落とされる。かと言って逃げるために翼を羽ばたかせても、これだけスピードが出ていれば飛び立つのは難しい。逆に馬を失速させて、照準に自ら近づけるだけだ。
インプはもがいてもがいて、ようやくかじっていたリンゴをメフィストに投げつけることを思いついた。
リンゴを持って振り向いた瞬間。
遙かに早く、メフィストのオーラショットはインプの体を捉えていた。
「二匹‥‥残りは任せるしかねえか」
メフィストは最初のインプと同じように土煙に消えたインプをちらりと見やると、止めを刺すべく馬の首をめぐらせた。
時はやや巻き戻り。
「群れで走っている姿は綺麗だよね‥‥なんてのんきな事は、この状況じゃ言ってられないか‥‥」
愛馬に乗ったレオニス・ティール(ea9655)は、馬の群から少し離れた茂みの中をゆっくりと歩いていた。インプ達が馬を暴走させていないか、群の動きを窺いながらである。
まだ彼らに変わった様子はなく、水を飲んだり草をはんだりと、至ってのんびりとしたものだ。遠くから眺めていればインプが紛れているなどと思わせない程に平和な時間を謳歌しているようにみえる。
「でも、これ以上近づくと馬達に騒がれてしまいそうだね。ここから、始めようか」
レイピアを抜きはなち、レオニスは群に動きが出るまで、茂みに身を潜めた。
そして、待ったその瞬間は、思ったよりもそれほど待つ必要もなくやってきた。
一頭の馬のいななきが聞こえた。
警戒の声だろう。のびやかな時間を過ごしていた他の馬も顔を上げたかと思うと、耳をせわしなく動かしているのがわかる。
「メフィストさんが動いたみたいだね。こっちに移動してくるまで待っていたかったけど、仕方ないか」
もう一度いななきが聞こえる。今度は警戒の声ではない。もっと悲痛な声だった。それに合わせて馬達はこの場所が危険だと、判断したのか、一斉に走り始める。それは予想していた通り、レオニスの方に向かってやってくる。
レオニスは闘気を高めながら、愛馬を茂みから外に出るようにと命じた。
茂みの切れ目から視界が大きく広がる。そこには必死の形相で走る馬の姿があった。
「あれだね」
闘気が大きなうねりとなるのを感じながらも、それをまだゆっくりとため続ける。
その間にも群との距離が縮まり、その先頭の姿がしっかりととらえられるようになった。
先頭の馬には、少年が言っていた通り、インプが跨っていた。インプは何度となく、凶悪な牙を馬の尻に突き立てていた。その度に馬は悲鳴をあげて、さらにスピードを上げていく。
その光景にいつもは優しい笑顔を絶やさないレオニスもさすがに顔をしかめた。
「ひどいことを‥‥」
闘気が波打った。
それは馬の群が発する恐怖と狂気の風とは全く異なる性質で。
群の気迫がレオニスに届く前に、それは、解放された。
グレサムはメフィストとレオニスのちょうど中間の場所で身を潜めていた。だからこそ メフィストの動きに合わせて暴走を始めた馬の群をみやりながら、その動きをつぶさに見続けることができた。
「ふむ、インプは馬をかじりつくことによって混乱に陥れ、複数匹のインプが繰り返すことによって、暴走を作り出していたのか。大した知能はないと言われておるが、直感的に生物の恐怖を知っているのであろうな。‥‥低級でも悪魔には変わりない、ということか」
魔力がはじける音がした。見ればメフィストがオーラショットでインプを打ち落としている。
「そろそろのようだな」
レオニスの方からは闘気の嵐が巻き起こっている。オーラアルファーが発動したようだ。馬達はその気に当てられて、もはやどちらにも逃げることができず、その場で立ちすくむのみであった。ある馬はその場をぐるぐると回りながら、ある馬はその場で立ちすくみ、またある馬は狂乱して跳ねた。レオニスはそうした馬の間を駆けめぐり、手にしたレイピアでインプを貫いている様子がみえる。笑顔でそれを行っているのは凄惨なものを感じる。
勝利は目前だ。
だが、グレサムはその間も動かず、馬の戸惑う様子を注意深く観察していた。
「後ろから煽っていたインプは2匹。メフィスト殿が始末したようだ。導き手のインプも2匹。レオニス殿が片づけている。後1匹‥‥どこかにいるはずだ」
グレサムはその1匹をじっと探し続けていた。馬達が混乱する中、その背に乗っているインプがいないかどうか。
いた。自分の引き起こした暴走が元になっているとはいえ、完全に制御を失い、狂乱した馬にしがみつくばかりのインプをグレサムは見落とさなかった。インプは翼を使いながら、振り落とされないようにしながら飛び立つ瞬間を窺っていた。
グレサムは静かに詠唱を始めた。混乱をきたした馬の群が周囲を鳴きながらかけずり回っている中では、精神を集中させるのは困難であったが、グレサムにとっては大きな問題ではなかった。卓越した集中力により、確実に呪文は構築されていく。
インプが体勢を立て直し、空へと飛び立ったその次の瞬間。
完成した呪文がインプを捕らえる。強力な重力波が襲いかかり、一瞬大空という自由を得たインプはすぐさま重い音とともに地面に落ちた。あちらからメフィストが駆けつけてくるのを見て、
「馬の足止めにストーンを唱えずにすんだよ」
グレサムは安堵を込めてそう呟いた。
●戦後
恐慌状態に陥った馬をなだめるのは簡単なことではなかったが、全ての馬が無事に少年の元に返ってくることになった。
「バ、バケモノはいないよね?」
「大丈夫だよ。僕達が倒したから。安心してよ」
少年はおそるおそるといった様子で馬の群をみやっていたが、レオニスの言葉を聞き、本当に無事撃退されたということが分かると、心底ほっとしたのかその場でへたり込んでしまった。
「よかったじゃないか、少年」
メフィストはにこやかに微笑んだ。少年も心配で疲れ切った表情ではあったものの、メフィストの言葉に笑顔で応える。
「うむ。良い笑顔だな」
グレサムもその笑顔に、また笑顔で答える。
安息の笑顔。それが彼ら冒険者によって取り戻されたものであった。少年にとっても、馬達にとっても。