競合(ダブルブッキング)!?
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや易
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月04日〜10月09日
リプレイ公開日:2006年10月14日
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●オープニング
「最近、パリ郊外で出没するようになった盗賊団にさ、マクレーンとクレイルという阿呆がいるんですよ。面目ない話だけど二人ともうちの馬鹿息子でさ。申し訳ないのだけど盗賊団から引っこ抜いてくれませんかね。痛い目を見せてやっても構いませんからさ」
「わかりました。ご期待に添えますよう、すぐ冒険者を手配いたしましょう」
新手の盗賊団『月夜の狼』というのは、盗賊団というより追いはぎという方が正しいパリのあぶれた若者で構成された集団だ。農夫をするのが嫌で、パリに飛び出てきたものの仕事もまともにありつけなくて、食うにも困り、帰るにも飛び出てきた加減帰るに帰れない若者達が、一念発起して‥‥『よくある』パターンだ。
「また盗賊団退治か。この前は、『ドントーレ一味』だったっけ。世の中暗いもんだねぇ」
ギルドで暇を潰していた男が依頼を文書にしたためていた受付員に声をかけた。
受付員は苦笑した。仕事がつい先日終わったばかりとはいえ、行く当てもなく、朝から晩まで安酒で粘っていた酒場もついに追い出されたこの男が言うべきセリフではないと思う。
「おかげで依頼は盛況ですよ。『ドントーレ一味』退治も昨日冒険者が揃って出発してくれましたから」
冒険者ギルドが賑やかになるのはあまり嬉しい話ではないだろうが、冒険者に依頼はないのか、と管を巻かれるよりずっと良かった。
そこに割り込んできたのは男の冒険仲間であった。赤ら顔の男の襟首をぐいとつかんだ。
「お前、なんでこんなところで飲んでいるんだよ」
「いやぁ、開店から閉店まで古ワインだけで粘ってたら、酒場のアンリちゃんに追い出されちゃってよー。おお、そいうえばよ。盗賊団『月夜の狼』って知ってるか?」
先ほどまでの依頼の話を思い出して、男は仲間に話を振った。仲間は何を今更というような感じで、男を見ながら言う。
「知ってるよ。この前『ドントーレ一味』と合併して巨大化した盗賊団だろ」
「え゛」
奇妙な声を上げたのは男ではなくて受付員の方だった。
『ドントーレ一味』が『月夜の狼』に合併されたということは、先日向かった冒険者もそちらに向かうことになるだろう。しかし、彼らに本当に退治されてしまったら、先ほどの依頼、盗賊団に入っている息子を救い出してくれという依頼は解決できなくなる。
まずい。依頼受けちゃったよ。
男とその仲間がポカンと見守る中、受付員は今出来たばかりの依頼に赤字で大きく『急募』と書き足したのであった。
●リプレイ本文
●追いつけ!
「目的がひとつならシンプルだけど、ふたつ被るとけっこうややこしくなるんだね」
パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)は依頼の要旨を確認して呟いた。おかげで先発冒険者との連絡はしなければならないし、盗賊団規模も再確認しないといけないし、件の二人が退治されないように気をつけないといけない。
シャルウィード・ハミルトン(eb5413)の言葉はそんな冒険者達の気持ちを表していた。
「しっかりしてくれよ、ギルド。情報に誤りやらがあると、場合によってはこっちが危なくなる事もあるんだからさ」
ごめんなさい、ごめんなさい。と平身低頭して謝るギルド受付員。
だが、起こってしまったことを別にとかく責めようという輩はいない。仕事である以上、危険性や緊急性を認知したプロの冒険者達が集まってくれたのだから。
「ともかく先発した冒険者と規模の大きくなった盗賊団の情報を確認したいんだが」
「『月夜の狼』はそのまま合併したとしたら規模は20人程度ですね。合併と言ってもやっぱりしがらみやプライドなんかもありますから、その数字よりは少ないと思います。合併元になった『ドントーレ一味』は荷物を奪った上に、人を誘拐することまであってかなり極悪です。二つとも街道沿いを中心に活動していますからその辺りも関係しているのでしょうね」
とすると、相当な悪人だな。死刑は当然といったところか。パネブ・センネフェル(ea8063)はふと考えた。『月夜の狼』に合併されたのも、非道な振る舞いが関係しているとも考えられる。
「先発した冒険者さんはどうされていますか?」
「昨日、作戦会議を終えて、討伐に向かっています。作戦までは聞いていませんが‥‥」
オルフェ・ラディアス(eb6340)の質問に答える受付員の言葉に、一同は顔を見合わせた。やはり時間差が大きな枷になっている。あまりのんびりしている時間はなさそうだ。
「それじゃ、何とかして追いつかなくてはいけないのだね。もう向かっているとしたら、街道だと思うのだね」
皆の思いをウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)は代弁した。
「商隊なんかに扮装していたら追いつくのも楽なんだがな」
「どうでしょうね。扮装するといっても行商は馬に大量の荷物を積まなくてはなりません。空の樽や馬車を立てるのも相応のお金が必要でしょう。人数がいればそこそこ似せることもできますが、少人数だと報酬より経費の方がかさみますよ。きっと」
パネブの言葉に首をふるふると振ったのは、十野間修(eb4840)だった。修はそのまま言葉を続ける。
「私の読みでは、盗賊の動向調査をした方が案外早いのではと思います。街道沿いを根城にしているのでしたら、買い物や娯楽はこのパリを利用していてもおかしくないでしょう?」
「それはありそうなのだわ。だって聞く限り、マクレーンとクレイルも、盗賊団のみんなもダメっ子オーラがぷんぷんとするのだわ☆」
明るく、語尾に☆マークを飛ばしながらも、本人達が聞けば胸を刺すような言葉を放つのはヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)。
「とすると、盗賊団も先発冒険者ともすれ違う可能性がありますね。二手に分かれますか‥‥盗賊団はともかく、先発冒険者にはなんとしても追いつかないといけませんしね」
「そしたら、シフール便をお願いしようかな。名前も聞いてるし」
「そうだね。後は街道に既に向かっている場合を考慮して、追いかけるのだね」
「駿馬があるから、その背に乗ってラクチンで追いつくのだわ」
それぞれがあれやこれやと話をしながら、これからの動きを決めている中、修はパティにちょいちょい、と手招きをするのであった。
●追いついた!
「そんなわけで、協力してくれねだか? といっても、兄弟について任せて欲しいだけですだ」
「まあ、ギルドからの連絡状もあるし、それは構わないけど」
吉村謙一郎(ea1899)の言葉に先発冒険者は少し戸惑っていた様子だ。まさか、出発した依頼に待ったがかかるとは思いも寄らなかったのであろう。そう思えば、追いかけた方も気持ちは理解できる。
先発冒険者は街道から少し離れた野道を警戒して歩いていた。盗賊団合併の情報もきっちり仕入れていたらしく、人数差に少々気を張っていたようだが、後ろから同業者に声をかけられて驚いている様子であった。こんなに簡単に見つけられると『盗賊の動きをこっそりうかがう』のは難しいかも知れない。
「ついでに勇者の英雄譚を詩にしたいので是非是非勇者さまご一行の戦いぶりを見学させてもらいたいのだわ」
行軍を止める方便のつもりであったムージョのこの話題は、ついでに先発冒険者の実力をうかがってみようという仄かな好奇心のために使うことにしてみた。
「見学って」
顔を見合わせる先発冒険者。照れたような困ったようなそんな顔で互いの視線でメッセージを送っているが、端から見ている一行にもそれは十分理解ができた。そんなに言うほどのことしてないよなぁ? って。
そんな微妙な空気が流れている間に、オルフェと修とパティの三人が後ろから近づいてきた。
「もう、謀はすまされたんだけ?」
「はい、少し予定と変わってしまいましたが」
曖昧な笑みを浮かべてオルフェは吉村の問いかけに答えた。そんなやりとりに修が悪戯坊主のような笑みを浮かべている。
「埋伏の毒というやつです。もうすぐ奴ら来ますよ」
その言葉を受けてシャルウィードは口笛を吹き、秋空を緩やかに舞い降りてきた大鷹パルチザンと『オーラテレパス』を通じて、情報をやりとりした。
「近くに15人ほどの団体さんがいるようだね。こっちに向かってているようだけれど、何かしたのかい?」
「いえ、特段何も。花街の方で‥‥」
得意げに話そうとする修の口をオルフェが笑顔で閉じさせる。まかり間違っても未成年が花街で情報収集をしてきたとは言わさない。だが、それで十分、なるほどね、と、まだ誰も歩かぬ静かな街道をシャルウィードは見やったのであった。
「で、なにをしてきたんだ? てっきり兄弟のおびき寄せだけだと思ったんだが」
こっそりと尋ねるパネブにパティは苦笑しながら答えた。
「盗賊団はこの界隈を移動しながら、追いはぎをしていみたいなんです。ですから手紙を渡す際ももう移動することが決まっていたみたいで」
「なるほどな。一所にいちゃすぐみつかっちまうものなぁ」
自らの泥棒経験からも確かにそれは常套手段であると判断したパネブに口の端を少しつり上げるようにして笑った。
「さぁ、それでは準備いたしますだ。わらしゃど(子供達)さ心配する親心を無にするわけにはいかねぇだ」
吉村のその言葉に皆はうなずき、戦闘準備へと取りかかった。
●競合から止揚へ
「この手紙の娘ってどんな感じだろうなぁ」
「兄ちゃん。そりゃめんこい娘だよ。花街の姉ちゃんに聞いたんだけど銀髪のサラサラの髪だったらしいよ」
静かな街道に賑やかな人の声と雑踏の音が響き渡る。旅人や行商が連れ添って歩いているようにもみえるが、その目つきはおしなべて鋭く、陰惨なものであった。戦をしない一般人でさえ、その危険性は感じ取れるかもしれない。
そんな一団が通りかかる道の側に生えた茂みの中で、ムージョはどきっぱりと呟いた。
「ダメっ子臭がプンプンするのだわ!」
「やれやれ‥‥吹き溜まりに這い蹲る姿は不死者とあまり変わらないな。だが、それでも生きてはいる。だったらやり直しは効くだけまだマシってね」
同じ茂みの中に隠れたシャルウィードは静かにそう答え、時が来るのを待った。
先発冒険者が動くその瞬間を。
「うぉ、なんじゃありゃ! 火の鳥!?」
動きましたね。後方で待機していたオルフェが剣を持って立ち上がった。盗賊団の行く手を遮るように火の鳥が飛び込み、吹き飛んだ盗賊の足元で影が膨張し、高密度の質量として、さらに吹き飛ばしていく。
「派手だね。こっちもやるのだね」
慌てて円陣を組んで臨戦態勢を取ろうとする盗賊団をめがけてウィルはサイレンスを放った。途端に音の伝達がエレメントの働きによって失われ、更なる混乱を巻き起こす。
「もう一発。これは‥‥お仕置きだね」
小さく呟くと、乱戦状態になる前にとライトニングサンダーボルトの詠唱を始める。魔力が電流を生み出し、指先に宿る。そしてゆっくりと混乱する人だまりを指し示す。
一瞬、兄弟が何やら叫んでいるのが見えた。
が、まったく躊躇することもなくウィルは雷撃を放った。雷龍の牙は他の何人かの盗賊共々、兄弟をも刺し貫いていく。『邪を討つ天雷』の称号は伊達ではない。
「私は志士の吉村謙一郎! 『月夜の狼』共、大人しく縛につくだ!!」
次の瞬間には吉村が前衛で防御をかためようとしている盗賊の一人を鬼迫の一撃で無力化すると、兄弟の元へと一直線に斬りかかっていった。
それをさせまじと、円陣を突破された盗賊が吉村を取り囲むが、乱戦慣れした吉村にまともに攻撃することは難しかった。
「取り囲んでボコボコにしてやれ」
リーダーらしい男はそう叫んだ‥‥が、ウィルのサイレンスはしっかり有効で口をパクパクさせるばかり。苛立って自ら長剣を引き抜いたが、素早く割り込んできたのは十手を両手に持ったシャルウィード。
「生きているってこと感謝するんだね」
長剣を左手で難なく受け止めると、右手の十手が閃いてリーダー格の顔に思い切り叩きつけてやった。殺傷能力は剣の類に比べれば幾段かは低いが、それでも強打されれば、頬骨にヒビを入れることなど容易なものだ。顔面を強打された男は体が痛みに反応して流れる涙に四苦八苦としていた。
その様子に気がついて、リーダーを守らんと手の空いた盗賊共がシャルウィードを取り囲もうとした。
が、円陣が崩れてしまった以上、オルフェの追撃は容易に盗賊達の元に届くようになってしまう。
「円陣を崩すと後が大変ですよ?」
シャルウィードを取り囲むつもりが、逆にオルフェとシャルウィードによって挟撃されてしまい、人数では勝りながらも防戦一方の盗賊共。どんどんと激痛と出血が盗賊共の動きを鈍らせ、鎮圧するまでそれほど時間はかからなかった。
吉村とダメ兄弟二人の戦いも同様であった。二人がかりで、ダガーやショートソードで襲いかかるが、達人の域に肉薄する腕前の吉村に、刃は衣の端一つ届かない。逆に運良く刃を受け止めることができても、そこから力押しに完全に負けてしまい、尻餅を付く有様だ。レベルが違いすぎるのだ。
兄弟二人はなにかしら叫んでいるが、二人も同様に静寂の世界に囚われて伝えることは出来ない。目つきからすればまだ完全に降参している様子でもない。
「容赦しないと決めているだ」
刀を構え直し、睨み付ける吉村。その瞳に相対するのは、恐怖と抵抗の意志の籠もった目。
やらねばならんだね。
多少痛い目を見るのもやむなしと刀を振り上げた瞬間。一人がふっとその場に倒れ込んだ。おや、と思って次の瞬間にはもう一人も倒れる。
「それ以上斬ったら気絶じゃすまないんだわ」
吉村の背後で、くすりと品良い笑みを浮かべるムージョは抵抗された時の為にと紡いでいた魔力をほっとほどいているところであった。
●お説教の時間。
「う、うぅぅぅん」
二人揃って目覚めのうめき声を上げたのは夕暮れ時。鮮やかな赤い太陽が二人の視界を焼いた。
そんな眩しい黄昏から二人を庇うように立っている人影に、マクレーンは気がついた。そよ風に舞う銀色の髪。クレイルもそれが誰か気づいて思わず跳ね起きた!
「あ、ああぁ!!? あなたですね、恋文の君!」
「すみません、僕たちあの、ちょっと昼寝しちゃってて、でも、君のこと夢に見ましたよ!」
逆光に浮かぶ彼女は、はにかんだ笑みを浮かべて二人の言葉に手を差し伸べた。マクレーンとクレイル、彼女イナイ歴は年齢とオナジ。こんなにお近づきになれるだなんて、本当に夢見心地なことである。
「そ、それでお話ししたい事って」
「あ、あの、僕なんかでいいんですか!?」
「‥‥‥‥」
笑顔のまま押し黙る彼女にもう二人は淡い恋心(妄想?)身をよじらせながら、彼女の手を取ろうとした。
そして、真後ろから強烈な衝撃が飛んでくる。
「お前ら‥‥いい加減気づけよ」
スコップを振り回しながら、パネブは呆れたようにたんこぶのできた二人を見下ろした。
「え」
「あれ?」
ようやく、恋文の君、パティの他に冒険者が7人ほどいることに気がついてダメ兄弟二人は呆然とした。そこに片膝をついて吉村が語りかけてくる。
「マクレーン、クレイル、おめさん達は幸せもんでごぜえます。冒険者に決して小さくはね額の報酬さ払って、おめさん達を立ち直らせようとしている、ご立派なおがさまでごぜえます。
口は悪いかもしれねえべが、一人頭2G以上の銭こが、どんだけ大変か、おめさん達はわかっておりますだか? んだども、それは恩を着せる為ではね! ただただわらしゃどの幸せを願う親の願いでごぜえます。真っ当に生きて、真っ当な幸せを得るのだ。冒険者の剣にかかって、咎人として死ぬなぞ親不孝でごぜえます!」
その言葉にようやく、二人が、母親の依頼で連れ戻されたことを知った。しばらく頭が混乱して辺りをきょろきょろと見渡すばかりの二人であったが、だんだん様子が知れてきて、はばからず涙するのであった。
「おがぁぁぁぁぢゃーーーーん」
「ごめんよ゛ぉぉぉぉぉぉ」
「ちょっと予定が狂っちゃったけど、おかんのところに行ってくるのだわ」
「そして、更正のために、重労働かつ厳しい親方のいる職場で働いて貰いますから」
ムージョと修の言葉に二人の兄弟は今更拒否することもなく、諾々と従うのであった。
後日。
傷を負った兄弟は容赦ない母の張り手が二人を迎えられた後、修道院にて修行生活をすることになったのだそうだ。
彼らの荷物の中には一枚の手紙があったそうな。