人と自然(釣り合わぬ天秤)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:7〜11lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 45 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月08日〜10月13日

リプレイ公開日:2006年10月16日

●オープニング

 その町は病んでいた。

 歩く人々は、体を丸めて足下の地面ばかりを眺めて歩いていた。彼らは時折足を止めて酷い咳をした。空咳ではなく、えづく様なものであった。
 そんなながらでも歩いて、自らの為の金と食料を稼ぎに出る者はまだ良い方であった。町の規模にしては歩く人々は少なく、まだ太陽も高い位置にあるというのに、夕暮れが迫ってきている様なほどの静けさであった。
 町を賑わせる露天商のかけ声も聞かない。子ども達の愉快な笑い声も聞こえない。井戸端で何事ぞと談笑する母達の姿もなかった。かろうじて外に出ている人々は陰気な顔をして言葉少なに歩いていく。
 道化師や詩人はきっと指さして言うことだろう。

 ここは極寒の地よりもまだ心を冷やす。災いあれ。笑顔を持たない地に明日の太陽は昇ることも嫌がるだろう! と。


 そんな町にやって来たのは一人のエルフであった。鋭く見つめるその蒼い瞳は皺の浮いた顔以上に老練さを感じさせ、日焼けた肌はこの夏に限らず、多くの地を歩き続けている証拠であった。
 エルフはロバを引き連れて歩いていた。ロバにはたくさんの荷物が積まれ、歩いたそばからツンと鼻の奥を差す様な薬の匂いが尾を引いて、すれ違った人を驚かせた。
「あんた、医者か?」
「片手間だが。この町は咳をする者が多いが何かあったのかね?」
 問いかけた男に軽く振り向いてそう尋ねると、エルフは改めて体を正面に据えて、その男の顔を射抜く様に見つめた。目つきが悪いとかそんなレベルではない。顔かたち、肌の色、目鼻立ち、唇、毛穴までも見落とさぬ様な鋭い視線だ。
 診ている。
 話しかけた男は直感した。
「ああ、みんな咳と微熱、ひどいヤツは嘔吐や下痢を繰り返しているんだ」
 ここ最近といってももう数ヶ月続いている、と男は続けた。
 そんな言葉を聞くと、エルフは男から視線を外し、町をぐるりと見回した。
「この町は若干高いところにあるが、水源は湖か? 井戸か?」
「い、井戸だよ。2カ所ある」
 エルフのぶしつけな質問に男はややひるんだ様になって答えたるその言葉にはどこか怒りと責めのトゲが付いていた様に思えたのだ。
 男はその井戸の場所を聞いて歩き回った。

 井戸は町の中央、町はずれの教会にそれぞれ置かれていた。エルフはそれぞれ真暗い井戸の穴を眺め、自らの着物の裾を取って、井戸の内側を軽く拭いた。
「原因は水だ。中央の井戸の下にはカビが生えているな。ビリジアンモールドの種類だろう。地下水は流れているおかげで大量に混ざっていることはないが、微量でも摂取し続けたら、そんな症状を起こす」
 その言葉に男は目を見開いて、井戸とエルフを交互に見た。自分たちが化け物カビを飲んでいたという事実を知らされ、だんだんと血の気が引いてくる。不意に胃のあたりに不快感が巻き起こり、男はそれが思いこみであると知りながらも、嘔吐に苛まされた。
「近くに湿地、もしくは氾濫しやすい河があるだろう。この辺りは乾いてはいるが地下水のあるあたりはきっとグズグズだ。地震の少ない土地で良かったな」
「ど、どうすればいいんですか!?」
 思わずすがりついて助けを請う男であったが、エルフの瞳に優しさは宿っていなかった。
「井戸に沸いたビリジアンモールドを除去して、石壁で覆うことだ。ついでに月に1回はは掃除してやること。住民には植物系の解毒剤を飲ませるといい。薬の材料なら近くの森で大量に採れるはずだ」
「ぜ、是非お力を! お金は払いますから!! お医者様!!!」
 もう立ち去ろうとするエルフに男は必死になって声をかけた。あのエルフは的確な指示を与えてはいるが、これ以上の関与はしないという態度はありありと分かった。
 だが男の懇願にもエルフは冷徹であった。
「冒険者にでも頼むと良い」
「あなたは手伝ってくれないんですか!? あなたは私たちを見捨てるのか!」
 一生懸命になるあまりに苛立ちを込めて叫ぶ男。その声にぴたりと男は足を止めて振り向いた。そこには全く変わらない鋭い目があり、男の怒りに燃えた心に冷や水を浴びせかけた。
「この辺りは元々森林であったはずだ。おまえ達は永い時間をかけて伐採して生きていたんだろう。この地がカビが生える主原因は開拓と伐採によって大地の浄化能力が著しく低下したことだ。自分達の始末くらい自分でしろ」
 その言葉に言い返すこともできず、男は呆然としてエルフを見送るくらいであった。男の声が去り際に吹いた風と共に乗ってやってくる。

「ギルドには話をしておこう。だが、根本解決を果たせるのは住む人間であるということ、忘れるなよ」

●今回の参加者

 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2818 レア・ベルナール(25歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

デュランダル・アウローラ(ea8820)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

 町の中央にある井戸は、その周囲だけ石畳がひかれていた。といってもそれほど立派なものではなく、井戸の水をこぼして、土がぬかるむのを防止する程度のもので、岩を砕いて敷き詰めただけのようなものであった。
「意外と綺麗なもんだな」
 ロート・クロニクル(ea9519)は、口元に巻き付けた布をはぎとってそう呟いた。ギルドからの情報から井戸の周りに繁殖しているのではないかと思っていた彼にとって少々拍子抜けな感じがした。
 曇り空で決して好い天気であるとはいえなかったが、空気はそれほど湿ったような感じはしないし、件のカビのような異臭もない。地面も堅く、草も若干にしか繁茂しおらず、これでは他の町とそれほど変わりがない。
「井戸の周辺、だよな」
「ビリジアンモールドが影響しているから、多分井戸の中よ」
 ロートの言葉にレア・ベルナール(eb2818)はニコニコと笑顔をむけて答えた。確かに口に入っているのだから井戸の中かもしれないが、しかしそれではギルドの情報と食い違うのではないか?
「見た目では大きな異常がみられない、ということはやっぱり井戸の中でしょう」
 アディアール・アド(ea8737)は話に聞いたエルフの医師が調べたように、衣の端を少し井戸の縁に沿わせた。井戸の土壁の色に混じって僅かに濁った緑色が見え隠れしている。
「カビが僅かに壁面についています。話を聞いただけですぐに思い至ったということはきっと見識豊かな方なのでしょう」
 アディアールはそのエルフの医師がもう去ってしまっていることに残念がっていたが、いないものはどうしようもない。デュランダル・アウローラの話では、その医師は旅人が本業のようであったから。
「そのエルフの医者の言う事は分かるが‥‥」
 善い人であるというアディアールの言葉とは違い、リュヴィア・グラナート(ea9960)は少し評価が違っているようだ。
「人が生きる上で仕方がないこともあるものだ。とりあえず、カビの発見と、中毒症状の出ている人々の治療をしなければならないな」
「同感です。それでは僕は明かりを持って井戸の中を確認したいと思います。苦しんでいる人がいる以上、早く解決してあげないといけませんからね」
 デニム・シュタインバーグ(eb0346)はそう言って、早速と行動を開始しようとするが、それを水無月冷華(ea8284)が呼び止めた。
「いきなり突入するのは危険にございます。ビリジアンモールドは毒の胞子をまき散らすと言います。ロート殿のしていたように口元をちゃんと覆ってください」
「あ、うん。そうだね。困っている人を助けたいと思ったら、もう居ても立ってもいられなくて」
 そう言って布を取り出し、口元に巻くデニム。他にも井戸に向かおうという面々はそれぞれ持参した布でそれぞれの口元を覆って、活動の準備を始める。それを見ていたレアは井戸の大きさと仲間の口元の布を見て小首をかしげた。
「私、一度ビリジアンモールドを見たことあるけど、胞子の飛び方って凄いよ。こんな密閉空間だったら、きっと煙が充満するように持続するんじゃないかな‥‥」
 そんな言葉に、井戸に向かうメンバーは急に自分の口と布の間にできる空間が気になり出す。確かに斬りつけたその反動で胞子を飛ばして反撃するくらいなのだから、よほど強烈な飛散をさせるに違いない。井戸内という密閉空間ではかなりひどいことになるのは誰でも予想できた。
 どうしようか、と悩む面々に対して、明王院月与(eb3600)は会心の笑みを浮かべて、自ら細工しておいた布を取り出した。
「じゃっじゃーん♪ こんなこともあろうかと思って、厚手の布を加工して作ってみたんだよ! これなら手で押さえなくてもしっかり口元を覆ってくれるんじゃないかな?」
 月与が取り出したのは、やや長めの布を両端を紐で縛り、さらに耳にかけるように紐を縫いつけた物であった。口から鼻までしっかり覆える上に、紐で長さを調整できるので確かに便利だ。
 おをぉぉ、と歓声を上げる一行に、月与はえへへ、と笑みを浮かべた。ので、ナノック・リバーシブル(eb3979)はツッコミを小さく呟くだけにとどめておいた。
「たしかに便利だが‥‥これを湿らせたら、多分息ができんな」
 そう一人ごちたのであった。


「どうだった?」
 一斉に井戸に入れないため、まず一番小柄なデニムが井戸に入って様子を見てくることになった。
「確かに井戸の壁からカビが生えていました。梯子をおろしただけで、それに当たったカビが胞子をばらまいて、視界も悪かったです。リュヴィアさんが水を先に撒いておいてくれなかったら、もっとすごかったと思いますよ」
「井戸の周辺というのは、この地下のことだったか。ここ全体を掘り返すわけにもいかないしな」
 ロートは顔を曇らせた。水の利が悪く、グズグズの地盤の上にたっているこの町の地下は、ビリジアンモールドが繁殖している。確かにエルフの医師の言葉は正しかった。
 その繁殖場所が地中、つまり土の中全域であるとはさすがに思いもよらなかった。土の中にある僅かな隙間を埋めるようにカビが繁殖し、偶然にもその一部が、井戸の壁から顔を覗かせているというのだ。
 退治や除去などといった話ではない。姿を現した氷山の一角を削って蓋をするしかできないのだ。
「どちらにしても、できることをするしかないだろう。手順を考えよう。まず水をかけて胞子の飛散を押さえる。それから『アイスコフィン』でカビを固める。アディアール殿の『サイコキネシス』や釣瓶で氷を運び出して、火で溶かし、焼却。無理ならその場で私の『ファイヤーコントロール』か、ロート殿の『ライトニングソード』で焼くことになるが」
 リュヴィアはそれぞれの考えている手段を有用な順にまとめた。
 最後の方は井戸を汚すことになるのでできるだけ回避したいところだが。リュヴィアはそんなことを考えていた。
 言葉を受けた水無月も黙って頷いたものの、不安は残っていた。この井戸の狭い空間でうまく魔法をかけられるだろうか。高速詠唱を習得しているものの、体勢は悪いし片手は梯子を掴んでいなくてはならない。やりにくいことは間違いなかった。
「最初の水を撒く代わりに、酢かお酒を撒いたらどうかな? 壁に浮いたカビ洗い落とすことができるし、作業をした後の井戸水は使えないから、おかしな味がするって言われることもないと思うんだ」
 割烹着を着て、掃除用具を取り出す月与が提案する。
「作業大変にならないか? 井戸の中は通気性悪い」
「お水は作業中希少になりますし、悪化するということはないと思います。それにカビくさいよりきっと良いかも」
 不安の声を前向きな意見で返すのは、レア。彼女とナノックは釣瓶での氷塊の引き上げと郊外への輸送が役目だ。
「やるだけやってみてもいいと思う。それから水無月。一応、命綱代わりに持っておけ」
 ナノックは釣瓶から桶を取り外した縄と、懐に収めておいた黄勾玉を水無月に渡した。
「氷塊の引き上げはどうせお前さんの魔法が成功してからだ。不安定なこともあるし、持っておいて損はないだろう」
「この勾玉は‥‥?」
「毒に耐性を持たせてくれるものだ。過信はできんが、まあお守り程度に持っておけ」
「随分、心配してくれるのですね?」
 女だからと甘く見られているのかしら。と機嫌を損ねた様子で水無月はナノックを見やった。本人はなぜそんな不快な視線を浴びせられるのか謎であったようだが。
「できれば被害は少ない方が良いだろう? どうせ一人ずつしか入れないのだから交代でそれを持てばいいかと思ったのだが」
「それもそうですね」
 ああ、仲間を心配してか。
 ほっと安堵の息をついた後、水無月は勾玉を受け取ると井戸へと潜り込んでいった。

 中は幻想的といえば、そうであるかもしれなかった。闇の世界にぽっかりと空いたような空の光に照らされ、足元の水面はきらきらと輝く。その反射でゆったりと飛散する胞子の霧。
 だが、人に害を為す光景だ。
 水無月はそう断じると、梯子から片手を外し、印を結んだ。何度かの挑戦と共に、空間に冷気が凝縮し始めた。冷気が結晶化する、チリチリとした音が井戸の中を走った。明かりはもっていないのでどんな状態であるかはよくわからない。だが、凍結する音がやや長いのは感覚で理解できた。暗闇の中で氷の蔦がそこかしこに走っている。
 明かりがないのは危険だと判断した水無月はその結果を確認することなくすぐその場を脱出した。
 その結果を確認したのは松明の明かりを持って潜り込んできたデニムであった。先ほど偵察で入った時と全く違う光景に、デニムは思わず息を呑んだ。
 井戸の壁面全体が厚い氷に覆われていた。それは彼が使っている梯子をも飲み込んでおり、水面までデニムであってもくぐるのは難しそうであった。氷を削って搬出するだけでもかなり骨が折れそうだ。
「でも、誰かがやらなくちゃいけないんだ」
 デニムはそういうと松明を氷にそっと近づけた。


「あんたはどうだ? 吐き気か? 腹痛か?」
「吐き気の方です」
「それじゃ、そっちで待っててくれ。すぐに薬草煎じるからな。」
 ロートは部屋を指さして案内すると、布に書いた症状別の収容人数にマークを一つ増やした。
「ほい、次」
 と言って、入り口をみやってロートはピタリと手を止めた。そこには薬草の束を背中に背負ったアディアールとリュヴィアの姿があったからだ。
「たくさん薬草が採れましたよ。あの森は非常に良い森ですよ。草の種類は多いし、土が水分を蓄えているおかげで育ちもよくて」
 そんなことを言うアディアールは非常に嬉しそうだ。同じく薬草採取に同行したリュヴィアは苦笑いをこぼした。
「アディアール殿。それで前回もワインの受け取りを忘れたのではなかったか」
 趣味と実益がちょうど重なっているのだから仕方ない。アディアールは笑ってごまかしながら、薬草の調合を始めた。
「ところで、カビの撤去作業はどうなっていますか?」
「俺もライトニングソードで削り取り作業をしていたんだが、そうそうに魔力つきちまったし、今は水無月と月与が交代で潜って、塊はナノックとレアが運んでいる。カビ捨て場ではデニムが焼却作業。ありゃ、最終日までかかるな。俺もこれが終わったら寝て魔力の回復したら井戸の方に戻るよ」
 リュヴィアに人数の報告と投薬の優先順位を説明しながらロートは進行状況を説明した。
「腹痛の方が症状的にはひどいですのでそちらの方に薬を渡してください。煎じ薬の方が効果は高いのですが、時間がかかるので、苦しんでいる人には葉っぱを噛むように案内してあげてください」
 薬草も毒草も十分な知識を持っているアディアールは薬草の束から数種類を取り出して早速調合に入っていた。リュヴィアも草を受け取って一瞥しただけで、アディアールの意図を汲み取ったようで、患者達の元にもう向かっていた。
「ただいまー。うー、疲れたぁぁぁ」
 そんな中、井戸の清掃作業に取りかかっていたメンバーも戻ってきた。氷のはった井戸の中で作業をしていた水無月と月与の唇は少し紫色になっている。ナノックも黒い服は泥まみれだし、デニムも火ばかり扱っていて焼けた顔になっていた。
「七割方完了しましたが、最後まできっちりと片付けるのは難しいですね」
「人々の笑顔が戻らないのですね‥‥」
「根本解決はここの人間の仕事です。笑顔は自分たちで作るものです」
 複雑そうな顔をするデニムは、そうだけどやっぱりできるだけの事をしてあげたい、と言おうとして、残念なことに月与にセリフのタイミングを奪われてしまった。
 アディアール特製のお茶を口にしながら、月与は辺りを見回して尋ねた。
「あれ、レアお姉ちゃんは?」
「外で待機している」
 服の泥を、布で落としながらナノックはぼそりと呟いた。
「知っているのに、何故入れてあげないの!? レアお姉ちゃんすごく頑張ってたのに!」
「あ、僕呼んできます」
 デニムが走る側を、ナノックは何も言わずに見送っていた。ナノックは知っている。彼女が距離を保つ理由を。
 外は星月が煌々と輝く時間であった。10月にもなれば昼夜の寒暖差は激しくなり、一年を通して穏やかな気候であるノルマンであっても寒さを感じる時季となる。
 レアは他の冒険者が連れてきた何匹かのペットと戯れていた。月夜には彼女の落ち着きのある服は完全に埋もれてしまい。その腰まで続く長い銀髪だけが目印であった。
「レアさん。お疲れでしょう? アディアールさんがお茶を淹れてくれていますよ」
「私は、いいんです。どこか別の場所を探すから。それにこの子達あったかくて」
 控えめにニコニコと変わらない笑顔を浮かべるレア。
 その笑顔にデニムはすぐ隠れた理由に気づかされた。だが、そんな逡巡も一瞬だけ。デニムは口を真一文字に引き締めると驚いた顔をするレアの腕をぐっと掴んだ。
「気にすることありません。僕が守ってみせます。ちゃんと部屋をとれるよう僕が交渉します。こんなところにいたら風邪を引くだけですよ。笑顔は寂しい時に浮かべるものじゃありません。本当に嬉しい時に出てくるものなんです!」
 どんな言い訳も聞くもんかというその顔に、レアはどう言って良いのかわからず、とりあえず苦笑を浮かべたのであった。


「この度は本当にありがとうございます」
 町長が冒険者一行に向かって深々と頭を下げた。
「水源は生活の基盤です。これからは管理をしつかりお願いします。誰かがしてくれるだろう、と甘えるては駄目です」
 水無月のそんな言葉に町長ははい、としっかり答えた。除去作業のほとんどは終わったが、これから石壁で覆う工事や管理などやることは多いのだ。
「昨日教えた木は必ず植林して下さいね。森は我々にとっても無くてはならない場所なのですよ」
「今回でその必要性は身に染みただろ?」
「薬草も森で採れたものだ。カビも森があれば発生しなかったことだろう。よくよく考えて欲しいのだ」
「長い時間はかかるとは思いますが、必ず森を取り返すことができるようにいたします」
「うん、出来ることから一歩ずつ、ね!」
「子孫のことを考えたら、その必要性は理解できるだろう」
「はい、必ず。それから、時間を本当にギリギリまで使って町のために尽くしてくださったほんのお礼でございます。受け取って貰えないでしょうか」
 町長はもう一度深々と頭を下げると荷物をそれぞれに手渡した。ロートが中をざっと確認したところ、保存の利く草類の保存食であった。少なくても必要経費であった保存食をペイできるほどにはある。
「気を遣わせてちゃってごめんね。ありがとう!」

 そして冒険者達は町を後にしたのであった。