【収穫祭】賑やかし好き(やりすぎ)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2006年10月27日

●オープニング

 麦穂が垂れた、果実が実った、肉が手に入った。
 大地の恵みが手に入った。神の恩恵いただけた。

 大地よありがとう、神様ありがとう。
 これで子供は大きく育つ。
 これで寒い冬も怖くない。

 たくさんの恵みに感謝して
 踊ろう、歌おう。 喜び共に分かち合おう
 今日は楽しい収穫祭。


 人々の喜びは打ち鳴らす鐘のように響きあい、大きく広がっていく。笑顔は隣の見知らぬ貴方にも無料でお裾分け。ふてたヤツには酒を飲ませて笑い合おう。
 祭の空気はいつも賑やかだ。せっかくのお祝いを白けさせるわけにゃいかない。みんな知ってか知らずか、全力で騒いで、全力で楽しむのであった。

 だが、ヒートしすぎた奴らには注意が必要だ。
 ケンカはするし、吐くし、寝るし、絡むし、物は投げるし、痴漢するし、オカマに化けるし、道のど真ん中で青春を絶叫する。
 だから血は飛び交うし、臭いはひどいし、通行の邪魔になるし、横に座りたくないし、物は壊れるし、女は激怒するし、男は悲鳴を上げるし、封印した思い出を掘り返される。
 まぁ、それでも多少は我慢する。今日は祭だ。飲んで騒いでいればその内怒りも収まる、暴れる方も限界が来てぶっ倒れるのだから。

 だが、ヤツは違った。
「ちょっと、このギルドにダルクって冒険者がいるはずだ! あいつをなんとかしてくれよ」
 ヒステリックな声を上げて飛び込んできたのは包帯だらけの男であった。右頭と腕、それから上半身の半分が包帯で埋もれており、受付員は思わずぎょっとしたものだ。
 あまりに興奮しているので、なだめること小一時間、ようやく話ができる状態になったところで、受付員は改めて話を尋ねた。
「確かにダルクは冒険者ギルドに登録された冒険者ですが、どうかしたのですか?」
「ダルクはうちの村の祭に来てもらったんだ。暴れるヤツの取り押さえと、それから冒険談で盛り上げるために」
 豪腕のダルク。かなり腕利きの冒険者だ。ドラゴンとも対峙できるほどの実力の持ち主のジャイアントで、コナン流の技と、超人的な腕力は大木を一刀両断するとも伝え聞いている。
 口癖は『まだまだ俺は強くなる』で、武器防具も一流をそろえ、訓練や修行にも一切妥協を許さない、まさにパリでも屈指のウォリアーに数えられることであろう。
「依頼、ではないですよね?」
 そんな依頼が出ていた覚えもない。冒険者と直接交渉するケースもあるのでそちらの方だろうな、と受付員は考えた。
 酒も好きな彼なら、飲み食いできる保証があれば、お祭りの参加も安請け合いしていても不思議ではない。
「ギルドを通さない依頼につきまして、とやかく言われましても‥‥彼が何かしました?」
 できれば穏便に聞かなかったことにしてしまいたかった。ギルドを通していない以上、個人契約なのだから、責任だのなんだのを言われても困るのだ。
 ただ、一つ例外があるとすれば冒険者に登録している身分で、ギルド及び冒険者の品位・信頼を著しく貶める者については例外だが‥‥。受付員の頭に一抹の不安がよぎった。
 まさかね。
「冗談じゃねぇ。確かに危険な冒険もかなりくぐり抜けてきたみたいだが、単なる酒乱だよ! 見ろよ、この腕。あいつと腕相撲したら、一瞬で折られちまった。子どもにも容赦しねぇし、力を見せてやるって言って、民家壊したんだぞ!? あんな猛獣、冒険者にしてていいのかよ!?」
 予想大正解。
 受付員の顔から血の気が消えた。彼の背中に多くの村人の怨念に近い怒りをようやく読み取って受付員はガクガクと首を縦に振った。
「わ、わかりました。申し訳ございません。大変失礼しました。す、すぐ、すぐに呼び戻してこちらからも厳罰を持ってあたりますので‥‥」
 ああ、きっとギルドマスターの機嫌がまた悪くなるなぁ。依頼主の激怒とギルドマスターの不機嫌なオーラの板挟みになってこのクレームを対処しなくてはならないかと思うと、受付員は胃が痛くなるのであった。


「ダルク・エインハルト。即刻帰還せよ。だって」 
 女盗賊はやれやれといった顔で、ギルドからの伝言をダルクに言い渡した。彼女の顔にも青あざ二つ。ダルクの暴挙を止めようとしてできたものだ。付き合いがもう少し短かったら、制止する役も投げ捨て、三行半を突きつけてパーティーを解散していたところだ。
「なんでだ?」
「なんでもどうしてもないでしょ。あんたが酒に酔っぱらって村の人を怪我させたり、器物を壊したからに決まってるじゃない!」
「なんだ、せっかくの祭だから盛り上げようと頑張ったのに。うむぅ」
 女盗賊は深いため息をついた。ダルクの言葉に嘘偽りはない。元々手加減のできない性格で、深酒すると今度はそれが極端になってくる。
 ただ、悪気はないからといって、はい、そうですかと許してくれる人間は、女盗賊も含めて誰一人いなかった。
「早く行って来なさい。同業者にボコ殴りにされたくないでしょ? あんた半分お尋ね者なんだから」
 その言葉にダルクぱぴたりと動きを止めた。やばい。女盗賊は思わず頭を抱えた。
「おう、冒険者同士で戦えるのか‥‥。そりゃいいな、おい。闘技場も出入り禁止になった俺にはちょうど良いかもしれん。まだまだ俺は強くなれるぞ!!」
 筋肉馬鹿とは絶対こいつの為にあるようなものだ。女盗賊はほとほと呆れてしまった。
「もう勝手にお尋ね者にでもなって、やられちゃいなさい!!!」
「そりゃいい。おい、俺もう少しこの村にいるぞ。冒険者同士の白熱大バトルを見れば、少しは苛立った村人の気持ちも和らぐだろう。俺はともかく、お前の報酬くらいは払ってくれるかもしれんし、冒険者ってひどいヤツだというイメージも払拭できるかもしれん。よし、悪いけどひとっ走り頼むよ。それまで俺は鍛錬の代わりに家の修理手伝っているからよ」
 本当にこれほど迷惑なヤツもない。

●今回の参加者

 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea8988 テッド・クラウス(17歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

リョウ・アスカ(ea6561

●リプレイ本文

「これからの通り名は“やりすぎの”ダルクで決定だな‥‥やれやれ」
 アルバート・オズボーン(eb2284)は、はぁっと溜息を吐いた。今までの通り名は”豪腕”のダルクらしいが、豪腕だろうがなんだろうが、無力な町人まで巻き込んではいけない。
 しかも悪意がないのが一番性質が悪い。
「ほんと、はた迷惑な男だわ。この際、毒でも何でも使ってさっさと連れて行っちゃえば楽でいいと思うんだけど、村人の溜飲を下げた方がいいのよね」
 レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)もいささかげんなりとした様子で、村の中を眺めた。
 ダルクが大暴れしたという村は、やはり収穫祭の真っ最中で、あちこちに積まれた干し草の台の上に人の顔を模したカブのジャックオーランタンが飾られている。まだ昼間だけに、その中に明かりを灯しているようなこととはないが、放牧と農業を主な産業にしているこの敷地面積だけはやたらに広い村に点在するカブは夜になれば、きっと幻想的な光景にしてくれるに違いない。
 レオンスートこと、通称リョーカが点在するカブを眺めて声を上げた。
「あら、これカワイイかも」
 リョーカが興味を示したのは、カブのランタンの中でも、愛らしくデフォルメされたクマの顔を模したものであった。刳りぬいた中身で耳をつけ、赤いほっぺを作り、手の込んだ代物である。可愛い物好きのリョーカの声に一同も思わずそのランタンを見つめる。
 それを見たデニム・シュタインバーグ(eb0346)は眉根を寄せてそんなカブを眺めた。
「村の人が心から収穫祭を楽しみにしていたことが伝わってきますね‥‥私は彼を許すことができません」
 それをダルクは台無しにしたのだ。村人を可哀相に思う気持ちと、怒りに震える気持ちがデニムの心を厚い雲のようにして覆う。
「確かに村の人も許し難いと思っているみたいですよ」
 その並びにあるカブをふと見つけて、テッド・クラウス(ea8988)は苦笑いをしながら指さした。そこには隣の愛らしい熊ランタンの横にもう一つ悪鬼のような顔のランタンが用意されていた。ほっぺの辺りにナイフで『暴力者 ダルク』と書かれている。
「うわ、まずそう」
 とりあえず、仕事が終わったら美味しい物をたくさん食べようと考えているマート・セレスティア(ea3852)はカブランタンも食べ物の内に入っていたようだが、さすがに彼でもこれに食指は動かないようだ。
 きっと訪れた当時は歓迎されて、彼に似たランタンを村人が用意したのだろう。だが、問題を起こした彼への恨みが今、その頬に刻み込まれている。
「実力を持つ者こそ常識を知る責任が発生してくることは間違いない。だからこそ俺たち冒険者は常識を弁える必要がある」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)はぼそりと呟いた。
 それは自らを含めた仲間達への注意の喚起であったのか、まだ見ぬダルクに対しての言葉であるのか、はたまた‥‥。

 一同は村の広場へと足を進めていく。



 ダルクの居場所は、人に聞けばすぐに教えてくれた。他の町などからやって来た人々が逗留することのできる場所と言えば、村唯一の酒場しかなかったからだ。
 こちらもやはり収穫祭の飾り付けがすっかりとできあがっており、大小数々のジャックオーランタンと刺繍で飾った布が賑やかさを演出していた。酒場の店員も鍔の広い黒いとんがり帽子を被っている。
 そんな中、そのスペースに一際目立つ巨漢が一同の目を引いた。仮装はしているものの存在そのものが根本的に目を引く。黒い布で覆われた体から突き出た腕は遠くから見ても丸太のようで、口に運ぶジョッキがまるでおもちゃのように見えた。
「おお、来てくれたのか」
 大男、ダルクは冒険者達の姿を見るとやおら立ち上がって歓迎の意を体で示した。立ち上がった拍子に、それほど大きくないこの酒場の屋台骨に頭をぶつけるが気にしない。
「悪いけど、友好を深める気はありません」
「で、デニムさん」
「貴方の行為がどれほど人を傷つけ、どれほどの悪い影響を及ぼしているのかわかっているのですか!?」
 嫌悪も露わにダルクを睨み付けるデニムをテッドが慌てて止めに入るが、その冷たいくらい憎悪に満ちた視線は全く消える気配すらない。テッドはその視線を何とか体を使って覆い隠すと、できるだけ話が早く済むようにと本題から話を始めた。
「依頼の通り、貴方をギルドにお連れしなければなりません。ダルクさんは戦いを希望されていますし、僕達は村人への配慮もしなければならないと考えていますので、戦うことについては異議ありません。ただし、戦いの後は必ずパリに戻ってもらえませんか?」
「もちろんだ。なかなかこんな機会がなければ、同業者同士でやり合うなんてできねぇしな」
「それが困りもんなんだ。こっちはおかげで頭を下げに廻らなきゃならん」
 アルバートは片眼を閉じながら、こっちの身にもなってみろ、と言った様子で言葉を吐いた。だが、閉じていない目はダルクに交渉を持ちかけている。
『望み通りの形にはするから、そっちも最終的には譲歩してくれよ』
 と。
「すまんな。俺も一応頭下げて補修には回っているんだがよ。ほれ、酒は厳禁とこの中身もブドウジュースなんだよ」
「明日の昼に広場で決闘を行う。それでいいか? 司会はお前さんとこの連れにしてもらおうかと思うのだが」
 ナノックの確認に対して、ダルクは了承を笑顔にして返した。
「それじゃ謝罪がてら宣伝でもしてくるか」
「あ、僕も行きます。ささくれだった人の心を癒したいと思います」
「それじゃ、ここでご飯食べて待ってるね。おっちゃん、ここって何あるの?」
 アルバートとデニムが外に出、それに合わせて残りも、食事目当てのマーちゃんを残して外に出たのであった。村人の治療、慰問、宣伝、決闘場の準備など忙しい。ダルクに手伝ってもらって奴らは手を組んでいるといわれるわけにもいかない。
「それにしても、ダルクと正面から戦えばキツくない? 麻痺性の毒でも混ぜて行動力を下げるのが手っ取り早いと思ったんだけど」
 リョーカがぼそっとナノックに漏らした。
「毒がないな。マートが毒草の知識があったかと思うがもなにやら茶を飲むときのためのものらしいしな」
「マーちゃんの飲むお茶って毒が混ざってるの? それじゃ仕方ないね。お酒を飲ませるわけにもいかないし」
 手元がふらつくくらいならまだ良いが、手元が狂った、とかになると本気で止めなければならなくなる。そんな不測の事態はできるだけ起こしたくないと願うのはリョーカもナノックも同じであった。



 あなたが笑顔は 私の喜び
 あなたが泣顔は 私の悲しみ
 あなたが苦しみは 私の苦しみ
 理由なんかない 理由なんてない
 不思議な心 水の心       」

 デニムが広場の真ん中で竪琴をつま弾いていた。人々を癒すために自らの音楽の才を余すことなく披露していた。人々はその歌に耳を澄ませ、荒れた心に清水を得ているようであった。
 そんな端で、テッドとアルバート、マート、ナノック、そしてダルクが話し合っていた。これから始まる決闘のルール確認だ。
「お祭りに流血沙汰は似合いません。ということで打撃武器、それから盾をそれぞれ用意したので必要ならお使いください」
「そしてバーストは禁止だ。武器を壊されたら武器を貸してくれるテッドが大赤字になる。戦闘はテッド・アルバート・デニム・マートとダルク。4:1だ。お前の実力からすれば、ただの格闘戦では敵わないかもしれない。ルールにより実力差を埋めた戦いはダルク、お前の修練にもなるだろう」
「もちろんだ。緊迫した戦いの中でこそ強さを磨くことができる!」
 ウキウキとしているのが見た目にもよくわかる。ダルクはロングクラブとライトシールドを借り受けると、軽くそれを振り回して使い具合を確かめていた。
「他のヤツはどうするんだ?」
「おいら、別にいらないよ。料理持てなくなるし」
 マーちゃんは両手いっぱいの料理の数々を示し、アルバートも自分の得物があると示した。
「それでは僕はミドルクラブとシールドを使いますね」
 テッドが装備を手にとって、それぞれの装備が確定した。
「俺とリョーカは判定役。というか村人の護衛だ。司会はお前の連れ。降参するか、どちらかが動けなくなるまで、いいな?」
「もちろんだ。よっし、全力でやらなきゃな。お互い強くなれるよう頑張ろうぜっ」
 そんなダルクの言葉を受けて、アルバートが軽くテッドの肩を肘でつついた。
「おい、約束の話はどうなった?」
「戦いが終わったらちゃんとパリに戻ることは言いましたけど?」
 ‥‥まずい。
 冒険者同士で戦う願いを叶えてやる。だが、最後には村人の感情のために負けてくれ。そんな約束の元で戦う予定でいたのだが。パリに戻るのと最終的に負けてもらうのとでは、ダルクの本気度がまるで違う。
 慌てて、アルバートがその約束を取り付けようとダルクに改めて向き直ったとき、リョーカが皆に声をかけてきた。
「冒険者の人に村長さんがお話ししたいってー。あ、ダルクは対象外ね」
「皆様、どうか全力で戦ってあの戦士をぶちのめしてくださいよっ。あいつが家の大黒柱をへし折って、修理するのにどれだけ苦労しているか‥‥」
「同じ冒険者としてお詫びする。ちゃんと目に物を見せてやるから‥‥」
 昨日、村人に言っていたセリフをついつい繰り返して、村長も安心させるアルバート。
 だが。心の中は嵐が吹き荒れていた。目に物を見せられるのは果たしてどちらになるのか。

「レディースアンドジェントルメン! これよりダルクのリンチ‥‥じゃなかった。冒険者コロッセオ、インビレッジ! を開催いたしまーす!!!」
 デニムの演奏も終わり、やけっぱちな女の声が響き渡る。それに応じて、村人が地の底から吹き出すような喚声を上げた。祭りの熱気と恨みが混ざって、まさに柵の外で気炎が吹き上がっているように見えた。
「やれー、いけーっ」
「ぶんなぐれーっ!!!」
 村人が雪崩れてきたらどうしよう。両端に立つ護衛役のリョーカとナノックはそんな声を聞きながら頭を悩ませた。
 さて、広場に立ったマーちゃん、テッド、デニム、アルバート、そしてダルクは、周りの歓声に応えるようにして、得物を振り上げ応えていた。マーちゃんは武器の代わりに、鶏のモモ肉を焼いたものを両手に持ってアピールしていた。
 決戦の火ぶたが切って落とされる‥‥!



 大鍋の底をお玉で叩くと、甲高い音がした。戦いのゴングだ。
 開始と同時に率先してマーちゃんが走り出す。料理の詰まった包みの隙間から、ロープを取り出し、飛びかかる。
「ぅぉぉぉぉ!?」
 盾を構えるダルクの膝、肩と踏み台にして、そのままジャイアントの山を駆け上るパラ、マーちゃん。彼はあっという間にその頭の上まで達してしまったのだ。
「身軽だなっ。少し驚いたぞっ」
 頭の上を振り払ってマーちゃんをどかせるダルク。しかし、そんな隙を見逃さず、デニムとテッドの少年騎士コンビが既にダルクに近寄った。テッドが足元を払うように棒を動かすが、ロングロッドを突き立てられ、阻止される。
「何の罪もない民を傷つける行為、絶対に許せません!」
 テッドの攻撃に合わせるようにして、怒りに燃えるデニムが咆哮を上げてフレイルを振り上げた。反動を大きくつける渾身の一撃、スマッシュだ。

 ガシャャャンっ!!!

 派手な音を立てたのは、ダルクの盾にぶつかったためであった。その後ろでは止めたテッドの攻撃を受け止めたロッドがもう準備されている。
 だがデニムの勢いはまだ納まっていない。ダルクへの渾身の力がロッドを通して逆流する。それも巨人戦士の破壊力を込めて、だ。鎧の一部が貫かれ、胸部の骨が衝撃で数本叩き折られる。衝撃が吸収しきれず、肺が押しつぶされ、心拍も吹き飛ばされるまでの数瞬停止する。
「がっ、は、ぁぁぁぁ」
 デニムはそのまま数メートル吹き飛ばされて地面に伏した。起きあがろうとするが、潰された肺が酸素を要求し、激しい咳と激痛で思うように体が動かない。それどころか意識が段々怪しくなってくる。重傷どころの騒ぎではない。
「ちっ、半端じゃねぇな」
 アルバートはダルクの一撃の脇腹を狙って木刀を突き出す。ダルクは完全に態勢を崩している。避けるのは不可能だ。
「ふんがぁぁっ」
 しかし、ダルクは息を吐くと、自ら動いてその攻撃を招いた。打点がずれるとそれはもう本来のダメージを失ってしまう。有効打にはなっていないだろう。
 だが、こうして小さな一撃でも積み重ねれば動きが鈍ってくるはずだ。動きが鈍るのを待つしかない。
 だが、その瞬間は案外早く訪れた。
 マーちゃんがもう一度飛びかかり、突きだした盾にロープを引っかける。それを支点にぐるぐると周り、ロープで絡め取っていくのだ。それはまだ、決して力強い物ではない。だが、彼の動きを押しとどめるには十分であった。
「ひゃっほー!!」
 ぐるんぐるんと回りながら、声を上げるマーちゃん。非常に楽しそうである。
「今だっ」
「当たってくれよ」
 テッドとアルバートの動きが揃い、その腹元に攻撃を連打で叩き込む。堅い腹はまるで岩のようであったが、確かに当たったという手応えがある。
「この縄けっこう効くな」
 ダルクはそう言うと、マーちゃんの掴むロープをひっぱり引き離した。力に押されたマーちゃんはそのまま遠心力で跳び抜け、軽々回転を決めながら着地した。
 だがそれでも縄がほどけたワケではない。テッドとアルバートがもう一度武器を振り上げた。あれが縄をほどききる前にっ
 その持ち上がる武器がもう一つ増えた。
「デニムっ」
 瀕死のデニムは体を痙攣させながらも、武器を振り上げていた。
 そして。武器が振り下ろされる。

「――恥を知れ!!」



「いやぁ、あんさん達凄かったですなぁ。武器が3つ重なって上がったときは、復興戦争を思い出しますわい」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
 リョーカは興奮冷めやらぬ村長に笑顔で挨拶をしていた。ダルクはそのままお縄について先に村を出て行って貰っている。その時の喝采は耳が痛くなるほどであった。
「無事ダルクさんは村を出ました。あとこれ。彼からお詫びだそうです」
 見送りの完了したテッドがリョーカに声をかけてくる。彼の手にはエクストラポーションとヒーリングポーションの瓶が握られていた。
「デニムさんとも試合がしたかったのですが、無理そうですね‥‥」
 リョーカが看病するその横では包帯でぐるぐる巻きになったデニムの姿があった。