寡占(不当交換)

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月10日〜11月15日

リプレイ公開日:2006年11月19日

●オープニング

「ある町長の手記」

●神聖歴1001年9月25日
 カビた水を飲んだ町の人間は回復した。最初、水源である井戸にカビが生えたと聞かされたときはどうなることかと思ったが、カビは井戸の水を汚すことなく除去できた。ありがたいことだ。
 これから男手を借りて、石を切り、井戸の内部を石壁で覆う作業をしたいと思う。町人も賛成してくれている。
 町に旅人が来た。明るいシフールの少女だ。名前はリディアというらしい。ふらりとやって来て、少し話を聞き、町の様子を見て、カビが生えていたことを言い当てた。旅人というのは鋭い者が多いのだろうか。

●神聖歴1001年9月26日
 さっそく井戸の工事に取りかかる。自分たちの生活がかかっているためか、とても精力的だ。
 だが、問題が起きた。水が確保できない。本来なら、まだカビの影響を受けていない教会の井戸水で生活用水を受けるつもりだったが、教会の井戸でもカビが発見されたそうだ。となると丘をずっと降りて水を汲みに行かなくてはならない。
 旅のシフール、リディアが協力してあちこちの人に呼びかけをしてくれた。交渉に向いているのか、皆から理解を得られているようだ。ありがたい。

●神聖歴1001年9月27日
 溜めておいた水槽にカビが見つかる。誰かがカビを投げ入れたのか!?
 おかげで早くも生活用水が足りなくなり始める。石を切るのにも水は使うので当然だ。河までいって汲んではいるが、まるで足りない。人員の多くを水汲みに回さなくてはならない状況で、工事も、町人の仕事もすべて中途半端だ。
 水槽も使えないので各人で水は保管することになった。不安が広がっている。
 しかし不満の声がひどい。リディアが彼らをなだめるように話をしているのだが‥‥。

●神聖歴1001年9月28日
 朝、またカビ事件が報告される。家に溜めておいた水にカビが生えていたそうだ。溜めた水にカビが入ったのか。そもそも川の水にもカビが沸いていたのか。水不足が深刻になる。
 昼頃、そんな最中、水泥棒事件が起こる。これを機に水泥棒が頻発。強盗騒ぎまで起こるようになる。若者が中心に無法者へと変貌していっているようだ。
 リディアが出歩いているのを見た。危ないよと言うと、にこにこと笑っていた。どうして笑っていられるのか、私には理解できない。

●神聖歴1001年9月29日
 水のやりとりが深刻な問題になった。自分のところの水を守るのに必死になって出歩く者がいなくなるほどだ。水不足が原因か、病の床に伏せる者が出てきた。
 そんな中、妻が教えてくれた。リディアが真水のありかを知っているらしい。
 リディアを呼んで、問いただすと確かにあるとのこと。だけど、全員分は無いそうだ。高く付くけど水をあげるということだが。代償など町の人のことを思えば安いものだ。そう言うとリディアは特別にいいことを教えてくれるということだ。


●神聖歴1001年9月30日
 リディアは確かに真水を用意してくれた。凄い。水脈を見つける力があるのか。実は天使の力を持っていると笑っていっていたが本当かもしれない。この恵みを町長として人々にも分け与えてよいかと聞くと、快い返事をしてくれた。ただし一人ずつ、とのこと。
 息子が何やら天使じゃなくて悪魔だと言うが、水のない時に水を与えてくれる悪魔がいるものか。命の恩人になんていうことを言うのだろう。こっぴどくしかってやった。



●神聖歴1001年10月
 親父がおかしい。あのリディアって悪魔に完全にホネヌキにされてやがる。おまけに町人に水を分け与えるためにって、リディアの前に連れて行っているんだ。俺は知っている。リディアは代償と称して、体から白い珠を抜き出していた。魂に違いない。
 この親父の手記を証拠にして、冒険者ギルドに駆け込もうと思う。冒険者の人は騙されないよな。頼む。救ってくれ‥‥!!

●今回の参加者

 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb0346 デニム・シュタインバーグ(22歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ダセル・カーウェル(ea4066)/ 護堂 熊夫(eb1964)/ 十野間 修(eb4840

●リプレイ本文

●事前調査
「被害の規模はどれくらいでしょうか‥‥?」
「町で水に困っていない人間は誰一人としていない。ここに来るまでにもう一週間は経過しているんだ。みんな餌食になっていてもおかしくないということか」
 依頼人の青年の悔しそうな顔に問いかけていたデニム・シュタインバーグ(eb0346)の顔も悲しそうに歪む。彼の心の陰りを一刻も早く取り払ってやりたい。朝を呼び込んであげたい。
 だが、それまでにはまだ時間がかかる。陰りを消してやれないことに自らの未熟さを恨んだ。
「それにしても、そのリディアというシフールがカビを繁殖させたのは間違いないと思うのですが、どうやってカビを繁殖させたかということが気になりますね」
 レオパルド・ブリツィ(ea7890)は炎に枯れ木をくべながら、青年に問うた。
 今回の事件は人づての部分が多い。謎は一つでも多く先に解決しておきたいところ。だが、その解明は思わぬところから簡単に答えが持ち込まれた。炎を挟んでレオパルドの向かいに座るロングコートに銀髪の男、ナノック・リバーシブル(eb3979)であった。
「あの辺りの土はカビに汚染されている。井戸の側面をちょっとでも削れば、すぐにカビなどいくらでも出てくる」
 ナノックはできるだけ無表情に呟いたが、その言葉の端々に苛立ちに似た感情が漏れているのが側にいる誰もが窺い知ることができた。
「井戸の補修ができていればこんなことにはならなかった?」
 明王院月与(eb3600)の言葉は、さて、ナノックにかけたものであったのか、自分に対して言ったものであったか。以前、カビ退治でこの町の依頼を受けたことがあるデニム、月与、ナノックはその後悔を噛みしめた。
 件の町ではカビが井戸内壁に生えて水にも影響を及ぼしていた。それを退治したのだが、井戸内部という作業しにくい状態のため、カビは退治したものの防衛策までには手が回らなかった。
 それがこんな事態を招くとは。
 デビルハンターを生業とするナノックにとっては自らの行動が悪魔を呼び寄せたという思いは自らの手で闇の帳を引き下ろしてしまったようなものであった。
「シフールの体なら井戸に入ってカビを採取するのも簡単そうですね。こっそり水槽に投げいれるのも難しくはないでしょう」
「じゃあ、後はリディアがどんなデビルであるかを突き止めるだけですね」
 パティことパトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)はぽそりとそう言って想像をふくらませた。事件を聞く限り、狡猾な性格だということは窺える。愛らしい姿は人の心を惑わせるための変装かも知れない。
 あれこれ頭を悩ませるパティの横で奇面(eb4906)が青年に尋ねた。
「そういえばリディアがデビルである姿を見たりしていないのか?」
「いや、シフールの姿しか見ていない」
「ちっ、役たたずめ」
 そんな奇の言葉にガーンとショックを受ける青年。確かに希望には応えられていないが、そこまで言われる筋合いもないと思うのだが。デニムも思わず抗議の声を上げる。
「みんなを助けてたくて、駆け込んできた人になんてこと言うんですか!」
「そりゃぁよぅ。俺もなんとか正体ばらそうとしたんだけど、リディアのやつ、蝙蝠のしっぽみたいなものを出すくらいで、正体なんて全然ださねぇし」
 いじける青年の言葉に、レオパルドが目を大きく見開く。そして十野間空(eb2456)と顔を見合わせて、二人は大きく頷いた。
「いえ、正体はしっかり現していますよ。よく観察してくれました」
 空は優しく青年に微笑みかけて言った。何のことだか分からないまま、呆然とする青年の目の前で、レオパルドは護堂熊夫と十野間修が調べた調査報告をまとめたものを取り出した。彼らがパリに居る間に調査をしておいてくれたのが役に立った。
「悪魔の正体は‥‥」
「リリス。悪戯好きが過ぎて、天界から堕とされたという逸話のデビルです。条件にぴったり合いますよ」


●潜入
「場所の把握はできたよ。リディアが泊まっているのは町長の家。井戸からそれほど遠くない。いくつか水槽があったけど、すっからかんになっている。多分カビ疑惑があってすぐ大掃除したんだと思う」
 地面に枝をはわせて、説明するのはシャルウィード・ハミルトン(eb5413)だ。ペットの鷹、ハルの目を通したものが空のテレパシーによって表現されていた。
「外を出歩く人間は非常に少なかった。男達が狩りに出かけて食料を得ているみたいだね。商人達の姿もないし陰気クサイったらありゃしない」
 シャルの言葉に一同は言葉をつまらせる。デビルの支配下に落ちた町。訪問する人間どころか、出歩く人間すら少ない。
「これは、迂闊に入ったら警戒されるよね」
 パティが皆の顔を見回した。水問題が回復していながら、活動が活発でないのは魂を抜き取られた人間が多いからか、リリスが警戒をしているためだ。
「デビル退治をしに来ました、は言わない方がいいな。依頼人もカタが着くまで入らない方が身のためだね」
 すぐにでも町に戻りたい気持ちが顔に表れている青年をちらりと見て、シャルは釘をさした。
「大丈夫。私が様子を見てきてあげるよ。狩人だったらそんなに怪しまれないと思うんだ」
 弓矢を担いだパティがにっこりと微笑みかけて立ち上がった。それと同時にデニムも立ち上がる。
「僕はこの町に一度来ていますから、その後の経過を聞きに来たという理由で入ろうと思っています。それに沈んだ人達を救うのも騎士の役目だと思いますから」

 ローレライの竪琴を持ったデニムの元にやってきた町人はデニムのことをしっかり覚えてくれていたようで、彼の姿を目にしてすぐに声をかけてくれた。
 デニムにもこの町人の姿は記憶があった。病人だった彼はやせ細っていたが、今の顔はそれとほとんど変わりがなかった。唯一自覚があるとすれば、彼にその自覚がないということか。
 デニムは何人か顔見知りに挨拶したあとローレライの竪琴をつま弾き始めた。
「先日はお世話になりました。カビ退治に頑張ってくださっている皆さんに慰労に参りました」
 そんなデニムの言葉に、町人から歓声があがる。それからデニムは後ろにいるレオパルドを呼び寄せた。
「彼は僕の友達でレオパルド。騎士を目指して修行中なんです」
「初めまして、レオパルド・ブリツィです。騎士として多くの人が救うことができるようになるため修行をしています」
 そんな冒険者の好意を目の当たりにして、町人は満面の笑みでそれを受け入れた。きっとみんな大喜びすると思うよ。

「へぇ、今日は賑やかな日なんだ。冒険者が訪れているなんて」
 そんな様子を遠くから窺うのは、町に補給のためにやってきたという名目のパティだ。
「でも来訪者はありがたいんだよ。彼ら冒険者は町のカビを退治してくれたし、リディアさんは真水を見つけてくれて、今度は彼らだ。来訪者は色んな力を与えてくれるよ」
「なるほどね。リディアさんっていうのはどんな人?」
「ありゃすごい。みんなが水で困っているときにほとんど無償で真水を探してくれたんだから。みんな感謝してるよ」
 パティは嬉しそうに話すマスターの瞳をじっと見たあと、もう一度デニムとレオパルドの方に視線を戻した。
「僕は井戸の補修に早速取りかかりたいと思いますので」
 そういう、レオパルドの死角で隠れている影。こそこそ隠れるのは慣れていないのか、パティの位置からそれは一目瞭然であった。
 リディアだ。
 そう直感すると、パティは食料の代金を払って早速とレオパルドの後をつけるのであった。

「へェ、優しいのネ、あなた」
 レオパルドが井戸の様子を確認するため一度潜った直後のことであった。井戸の上からそんな声が聞こえてきた。明るくどこかクセのある話し方だが、決して不快な感じはしない。
「あなたが、リディア?」
 そうだヨ。と、かららん、と笑う少女の姿を仰ぎ見るようにして、レオパルドはさりげな、石の中の蝶の反応をうかがった。
 蝶はいま宙にいるかのように盛んに羽ばたいている。
 だが、今ここで戦闘はできない。足並みがそろわないどころか、狭い井戸の中ではハンデがありすぎる。
「ねェ、お兄さんはどうして人助けをするノ?」
「それは騎士は人の為になることをするからです‥‥貴女こそどうしてですか?」
 その問いかけにリディアは顔いっぱいに口を広げながら身を乗り出すようにして笑った。
「わたし? そんな立派なものじゃないヨ。ビジネス、だネ」


●決戦
「夜分遅く申し訳ありません。ここにいらっしゃるリディアさんとお会いしたいのですが」
 空は何食わぬ顔で、十字架を差し出し町長の扉の前に立っていた。町の人間の多くはデニムの演奏会に出席してほとんどいないのは空も十分承知していた。
「しかし、リディアさんはお会いにならないと言っておるので、申し訳ないが‥‥」
 困ったように話すのは町長である。
 警戒されていたか?
 笑顔が乾いていくのを感じながら、それでも、とすがろうとするとき、不意に町長が大きく目を見開いたかと思うとそのまま力なく倒れて来るではないか。慌てて地面と激突しないように抱き留めるとその後ろから魔法の印を切り終えた奇の姿が見えた。
「そんな押し問答をしている場合ではないだろう」
「いや、でも町の人に手をを出すのは‥‥」
 そんな言葉と重なるようにして、家の奥から扉の開く音と小さな羽音が聞こえる。空と奇は言葉を句切り、そちらを睨み付けた。
「けっこう、強引だネ。そこまで会いたかったノ?」
「はい、リディアさんは天使の力を持つとお聞きしました。病に蝕まれる恋人の為に、祝福を是非にと思いまして」
 空は改めて十字架をリディアに差し出した。デビルは聖別された道具を嫌うという。彼女がデビルであることを隠して押し問答にさせないためだ。
 そしてリディアは予想通りの嫌悪に満ちた顔になり、高く飛び上がる。そのおしりからピコリと見えるのは確かに悪魔の証拠たる尻尾!
「ヤな奴! やっぱり全部知ってたんダ!」
「もちろんですよ。人を唆して操ることを許すことはできませんからね」
「はン。みんなの願うとおりにしてあげただけじゃなイ! っもー、みんなこんな時に限っていないしッ」
 リディアは悪態をつくと、軽く飛び回って、奇と空の頭上を跳び越えて外に出ようとした。

 ヒュトンっ!!!

 が、それも家の外からまっすぐリディアを狙った矢によって阻害される。狙った羽こそ貫けなかったものの、矢は太ももをえぐった。リディアには新たな矢を番えるパティの姿がちらりと映ったことであろう。
「逃がさないよ。狡猾なデビルを許すわけにはいかないからね」
「〜っ!!!」
 よろよろと立ち上がるリディアは怒りで顔を真っ赤にしながらも、部屋へと駆け戻った。正面からは逃げられないと踏んだのだろう。
 だが、冒険者はそれほど甘くはなかった。閉め切った窓からはナノックが既に侵入し、剣を構えていた。
「やはり物事は何事も完遂しておくべきだな。悔いが残る」
 ぼそりと呟くナノックの瞳にリディアはがくがくと震えた。デビルを狩り続ける者がもつオーラはきっと彼女にとっては天敵のようにみえたことであろう。
 しかしその次の瞬間、今度は冒険者に緊張が強いられる番となった。
「リディアさんを守るんだーっ」
「町人かっ。シャルっ、月与っ」
 ナノックは鋭く叫んだ。操られた人々との戦いはすでに予想済みであった。
「こっちに来るんじゃないよ。これはあたし達の仕事なんだ」
「リディアさんが何をしたって言うんだ!」
 堰き止めるシャルにくってかかる住民に今度は、月与が口を開く。
「みんな水を盾にされて、悪魔に魂を取られているんだよっ」
 月与はそう言いながら、人々の目をざっと見た。操られている人はいないだろうか。だが、それと気づくような人は誰もいない。操られている人がたまたまここにいないだけか。
「リディアさんは私たちを助けてくれたんだ。そんな恩人を攻撃するなんて何事だ」
「違う。あなた達はだまされているんだっ。奴は邪悪なる者、滅びへと導く者だ。ここで滅さなければいけないっ」
 遠くでそんな声が聞こえる。演奏会を行ったデニムも説得しきれなかったようで、人々に追いかけられるような形でこちらに向かってきていた。
「魂を奪われているんですよ!?」
「子供に与える水は、命に代えてでも必要なものなんだっ」
 全員が操られているのか、本当に信頼を得ているのか、人々は全く押し下がろうとはしなかった。それどころか冒険者が逆に取り囲まれるような事態になっている。
 月与は手に持った網を使うかどうか悩んだ。これを投げれば、リディアを討伐するまで時間は稼げるかも知れないが、それは冒険者とのつながりを確実に破ってしまうことになる。
 そんな中で奇が部屋の中の事態に気がつき、叫んだ。
「やられた。リディアが逃げたっ」
「ええっ!? さっきまでそこにいたのにっ」
 確かに先ほどまで冒険者を睨み付けていたシフールは、影も形もなくなっていた。
「まだ蝶には反応があります。どこかに隠れている‥‥?」
 空が辺りを見回したとき、リディアの声が響いた。それはもう苛立ちに満ちた喚きであったが。
「町の人の魂は地下に保管してるヨ。助けてもらった御礼!」
 そんな声と同時に羽音が聞こえる。それはシフールのものではなく、蝙蝠のようなものであった。空がすぐさま詠唱に入るが、町人に睨まれるとどうもやりにくい。
 結局最後の一撃を与えられぬまま、戦いは終わってしまった。

●終わり
「容赦するからいかんのだ。結局魂も元に戻ってしまったし、デビルの魂に関する調査が出来なかったではないか」
 朝。奇は酷く不機嫌そうな顔で帰り道を歩いていた。デビルが魂を何故集めるのかを研究しようと思っていた奇にとっては結局何一つ有益な情報を得ることができず、不満ばかりの結果となってしまった。
「町の人を容赦なくぶちのめすわけにはいかないだろ」
 シャルも憮然とした顔で奇の言葉に応えた。彼女たちだけではない。帰路につく皆全て不満の残る顔をしていた。ナノックの井戸工事も結局手を貸すことは許されなかった。
 リディアの言うとおり、魂は綺麗に整頓して保管されていたので魂を戻すことは簡単であったし、リディアがそれから姿は現さなかったことで、事件の決着はついた。
 だが、リディアがカビを投げ入れたという十分な証拠は得られず、人々からの理解も完全には得られなかったことが皆にしこりを残す結果となったのである。
「あのままだとやっぱりみんな悪魔に魂を全部抜き取られていただろうし。親父達はもう水のことで他に考える余裕がなかったんだと思う。冒険者のみんなは俺たち全員のことまで考えてくれてたの知ってる。本当、俺が申し訳なく思うくらいだよ。俺たち町のために、ありがとう」
 依頼人だった青年だけが、そう言って見送ってくれたのである。