妖精の森攻防戦

■ショートシナリオ


担当:DOLLer

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2006年12月03日

●オープニング

●時期はずれのハロウィーン
「ヒーホホホー」
 小カブを刳りぬいてかぶったシフールが『妖精の森』と呼び習わす森の中を飛び回っていた。
 その呼称通り、ブナのウロから、ケヤキの枝の上から、スズランの葉の陰から、ネズミの穴から、シフール達が顔を出して、カブお化けになったシフールを不思議に満ちた目で見つめていた。
 今日久々に里帰りしたプリエも、他のシフールよりは幾分か冷静なものの同じように不思議そうな目で見つめていた。
「あれ、なに?」
「人間世界のお祭。みんなであんな格好するの」
 問いかけてきた弟に対してプリエはこっそりと耳打ちをした。収穫祭はとっくに終わって時季はずれも良いところなのだが、そもそもそんな習慣を全く知らない弟にそこまで言っても仕方がない。
「ヒーホホホー。お宝おくれ、くれなきゃ悪戯するぞー」
 くるん、と回りながらハロウィンシフールは高らかにそう言った。そんな言葉にまた顔を見合わせるシフール達。
 この森の住人だった子かな?
 驚かそうとしているのかな?
 覚えあんまりないんだけど。
 なんだかよくわからない
「お宝って何さ。花の蜜?」
「なんでもいーよー。ヒーホホホー」
 とりあえず持ち前の好奇心に負けた弟が差し出した蜜壺をハロウィンシフールはひょいっと奪った。
「僕たち、損するだけ? 代わりになんかもらえないの?」
「本当は大人からせびるイベントだから。私もだいぶせびられた。後で私も仮装してせびり返したけど」
 そんな姉弟の会話をよそにカブの穴から、ぺろりとその蜜を口に入れると、満足そうな声を浮かべた。
「おいしーっ。ね、ね。友達にもわけてあげてよ。おーい、みんなー」
 シフール達の有無を聞かずにハロウィンシフールは大声を張り上げた。一瞬声の大きさに思わずとまどった弟達だったが、すぐにそれ以上の緊張を強いられることになった。
 森のあちこちから、がさがさごそごそ音がするじゃないか。慌てふためいて周りを見回すシフール達にツンと吐きたくなる様な不快な臭いが漂ってきた。くさった臭い。お肉の臭い。
「ォォォォオオ、ォゥォ、オオオウアウオー」
「ヒーホホホー。お宝おくれ、くれなきゃ悪戯するぞー、って言ってるのよ」
 意味不明の呻きを上げる腐った人間の肩にハロウィンシフールは止まってそう言った。それどころじゃない。反対側からは犬顔のヤツが、右手からは虚ろな人骨が。左手からは黒い影から生まれたような邪悪な顔つきの小鬼が。ぞろぞろ、そぞろと出てくるではないか。

「まままま、待ってよ。花の蜜はそんなにないよ!」
 慌てて拒否を示す弟にハロウィンシフールはびしりと指を指し示した。顔はカブで隠れてよく見えない。だけど、その布の下で残酷な笑みを浮かべている。プリエはそんな気がしてならなかった。
「お宝あるの、知ってるよ。古の賢者キロンのお宝おくれ。くれなきゃ悪戯するぞー」
「いたずらって‥‥なに?」
 おどおどと尋ねるプリエにハロウィンシフールは布の下からのぞく黒い尻尾を楽しそうにふりふりと振って笑った。それにつられて取り囲む悪魔や腐り人も一緒になって大笑い。
 ハロウィンシフールは言った。
「あんた達の魂残らず引っこ抜いてあげるのよ!」


●大事な仲間
「プリエってシフールがいるんだけど里帰りしてからまだ帰ってこないんだ」
 とある冒険者グループは真剣な顔でそう言った。好奇心の強いシフールのことだから、寄り道しているんじゃないですか? などという気休めの言葉はまず彼らの顔を見ていえなくなってしまった。
「プリエは約束を破るようなことは絶対しない。だから毎年里帰りとして妖精の森に帰ったりするんだから。それなのに約束の日を過ぎても戻ってこない。それどころか」
 男はそっと腰に結わえた網状の袋から、眠るエレメンタラーフェアリーをそっとカウンターに寝かした。
「プリエのペットなんだけど。今朝すごい騒いで戻ってきたんだ。こりゃなんかあったなって思って聞き込みをしたら、プリエの里である『妖精の森』へ向かう大量のコボルトやズゥンビなどを見かけたってことなんだ。具体的な数字は分からないけど百匹単位だそうだ」
「!!」
 それほど多くの悪魔勢力がいるだなんて。受付員は愕然としながら冒険者の言葉に耳を傾けた。一度悪魔の大進行はあったが、まさか。
「俺達だけじゃ手が足りない。一緒にプリエ、それから森に住むみんなを助けてくれる人をお願いしたい」
 受付員はすぐに依頼書の準備を整えたのであった。

●今回の参加者

 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2818 レア・ベルナール(25歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb4906 奇 面(69歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「今回のデビルやアンデッドやコボルトを指揮しているシフールってあいつよね」
 明王院月与(eb3600)は森に入る時、ぼそりと呟いた。レオパルド・ブリツィ(ea7890)も「きっと、あれですね」とうなずく。十野間空(eb2456)、パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)、奇面(eb4906)、シャルウィード・ハミルトン(eb5413)もこっくりと頷いた。
 あいつとはリリスのこと。狡猾というか悪賢いというか。今回だって、ハロウィンの衣装で他のシフールの気を引いている間に、悪魔達を懐にまで滑り込ませた手口はなかなか鮮やかである。
 今度こそ決着をつけてやる。月与は木剣の束をぐっと握りしめた。
「因縁でもあるのか?」
 不思議そうな顔をするのは依頼者であるプリエ側の冒険者達であった。メンバーは3人。男二人に女一人だ。
「少し、色々あって。あの、ところで作戦なんですけれど」
 パティは挨拶もそこそこに森を前にして作戦の確認を切り出した。悪魔達が団体で来ているということで、割と強行軍になっていて、顔合わせはしたものの作戦のすりあわせは終わっていなかったためだ。
「俺たちはプリエとシフール達の救出に中心をおく。避難地域の確保に一人。探索と誘導に2人かかる。避難場所はこの地点にしようと思うんだが」
「異存はありません。私たちは二手に分かれます。一つは囮で、軍勢を派手に攻撃します。そちらに敵の注意が向いている間に、救助班がシフールさん達を保護。ここまで連れてきたら、転身して軍勢の殲滅に当たろうかと考えています」
 レオパルドは作戦を提示すると、相手の冒険者達はほほぅ、と感嘆の声をもらした。
 作戦は空が概要を決め、他がそれを細かく肉付けしたものであった。皆も多くの戦いを経験し、なかなかの戦巧者になっているようだ。こうして普段出合わない冒険者とやりとりをすると改めて実感させられるものだ。
「わかった。それに従って動こう。しかしなかなか心強いな。敵が百前後と聞いた時は少なからず萎縮したが、君たちがいると心強く思うよ」
 そんな言葉に一同に笑みが浮かんだ。できるだけ遠くで聞いていたレア・ベルナール(eb2818)も、和やかな雰囲気ににこにことして聞きながら、額当てを付け直していた。
 それをシャルが見つけ声をかける。
「あ、ちょっと巻き直そうと思って」
 愛用の墨色の布をシャルに見せられて、シャルはふと気が付く。
「いらないんじゃないか?」
「うん、そうだね。冒険者で本当にいい人が多くて嬉しいな」
 にこにこ笑顔で話すレアの言葉は、自分にも向けられているような気がして、シャルは褐色の顔をもうすこし赤くして、そっぽを向いた。
「必要ないなら、取ればいいじゃないか」
「髪で耳が隠れたら、音が聞こえにくいから‥‥少し上げるの」
 耳のとがった部分だけを上手に隠しているのをシャルに見せるとレアは微笑んだ。


「発見だね。右前方に17体」
「石の中の蝶には反応なしっ。デビルはいないみたい。一気に行こう!」
 森に突入して30分も立たず悪魔軍勢攻撃組、通称囮組はエンカウントした。シャルのペットであるハルヴァードの案内と、パティのフレスベルグによる索敵、ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)のブレスセンサーは的確に敵の位置と数をとらえた。デビルの反応は月与が警戒しているし、敵が急襲できるような余地は全くなかった。
「指揮官のリリスはいないのが残念なのだね」
 ウィルフレッドはそう言って、詠唱に移った。たちまちの内に森を漂う風が詠唱に応じて帯電し始める。
 帯電した空気はウィルフレッドの手に次第に集まって、次の瞬間、閃光と轟音を伴って弾けた。
 冒険者と悪魔の軍勢を隔てる茂みは、一瞬で黒炭と化した。以前、盗賊退治でも雷撃は見せたが、その時彼女がまだ手心を若干でも加えてくれていたのだと、それを知るものは思った。
 衝撃で崩れ落ちた茂みの向こうも、大きな雷撃で一面真っ黒になっていた。そこにはコボルトであったものも含まれていたが、過負荷に耐えられず、身体の全筋肉を緊張させて痙攣を起こしていた。
「ふむ、なかなか便利なものだ。とりあえず先に行かせてもらうぞ」
 奇は小瓶に含まれた水を一口飲んだ後八握剣に紐を取り付けたものを持って、黒炭の茂みから戸惑うコボルト達の中に問答無用で飛びかかった。コボルトが何かしら危険の声を上げているが、奇は全くお構いなしに八握剣を振り回し斬りつける。何体かアンデット化したコボルトも含まれていたが、八握剣に切り刻まれるとたちまち繰り糸がからまった人形のように動きが鈍くなった。
「援護行きますっ。あたれ〜」
 パティの少し抜けたような声が響いたかとおもうと、奇に距離を詰めるコボルトを射抜いた。絶妙のタイミングで放たれた矢は、接近することを他のコボルトに躊躇わせるには十分であった。ならば反対側からっ!
「森の平和を乱す奴は許さないぞ!!」
 ぶんっ、と大きく木剣を振りかぶった月与がそれを許さなかった。にじり寄っていたコボルト共を一閃でなぎ払ってしまう。三匹のコボルトが宙を舞って草むらに姿を消した。
「すごい‥‥私も、がんばらなきゃ‥‥」
 レアはやや緊張した面持ちで、同様に歩を進め、奇を中心に月与と逆の位置でブレーメンソードを構えた。
 その少しばかりぎこちない姿を見たコボルト達は一斉に、そちらに雪崩れかかる。そこが一番の穴だとみたか。だが、雪崩れをうって、剣を二度、つかみかかりまで含めてもレアは紙一重でそれを受け付けない。それどころかその流れた身体に剣を打ち込み身動きを封じていく。
「なんだか、陽動にする必要もないようだね」
 ウィルフレッドに再び雷が集約して放たれた。固まっていた4匹が悲鳴を上げた。
 はっきり言って、敵の動きを止めるだけならこれで上等だ。
「あ‥‥増援‥‥羽音がする」
 手近なコボルトを切って捨てたレアがふと、顔を上げた。その言葉につり下げておいた石の中の蝶の反応を見た月与が鋭く叫ぶ。
「デビルの反応! インプ達だ!」
「ふむ、インプか。指揮官を除けば一番今回の襲撃騒動の真相を知っていそうだが」
「奇さん、退却ですよ。救助班の人が待ってますから」
「む‥‥仕方あるまい」
 パティの言葉にふと我に返った奇は、八握剣を手に戻して、元来た道へと戻った。
 八握剣はやはりマジックアイテムらしくあれだけのコボルトとアンデッドを切り裂いても刃こぼれ一つついていなかった。だが、巻き付けた紐の方が勢いと、跳ね返った八握剣の刃に当たって繊維が何本か飛んでいた。このままつかい続けていては危険かも知れない。
 そんなことを思いながら、奇は走った。
「それじゃ陽動作戦開始〜」
「おーい、こっちだよー。こっこまでおーいでっ!!」
 パティの合図と共に月与は迫ってくる羽音に向かって大声で叫んだ。凜とした声が森に響き渡る。
 返ってくる返事は、羽音に混じる不快な鳴き声。
「作戦成功だねっ」
「多分、こっちの方が開けています‥‥獣道。それも色んな動物の足跡があります」
 森に慣れたレアが先導して走り始めたのであった。



 救助班が月与の言葉を聞きながら、歩を進めていた。
 妖精の森は思ったより様々な種類の植物に恵まれていた。樹と呼ばれるものはカシがほとんどであったが、その下に生える草花はレオパルドを完全に覆い隠すようなものもあったし、どういう仕組みかほんわりと光る花もあった。深い森にいながら、朝露の晴れ晴れとした空気が流れるのは近くに小川があるせいか、それともここの空気が元からそのようになっているからか。
 救助班は自分たちも妖精の一匹になったような錯覚に陥り、少し幻想的な気分にひたりながら、歩を進めていた。
「本当に不思議なところですね」
 そう、どことなく遺跡の島に似ているような。精霊達に満ちたあの島に。何故だろう。景色は随分と違うのに、どこか似ている気がする。
「そういえば数は敵の方が随分優勢だけど、囮班は大丈夫でしょうか。挟み撃ちとかになってないでしょうか」
 空が若干の不安を漏らすが、それはレオパルドがにこりと笑って答えた。
「レアさんがいるから大丈夫だと思いますよ。ここに似たようなところに行った経験がありますから」
「それにそんなことを考えている暇もないだろうしな」
 シャルは辺りを用心深く見回しながら、そう言った。歩は気づけば止まっている。
 彼女の険しい声に、他の二人も異常に気がついた。霧だ。乳白色の霧が葉の陰、樹の幹から漏れるようにして、にじみ出てきている。まだ、自分達の立っている場所は安全だ、その先20歩も進めば、視界に関する確証はもてなくなる。
「プリエや、その仲間ってのは、魔法使いなのかい?」
「ああ、プリエはスクロールをよく使う。多分この霧もそうだろうな」
 敵から逃げているわけだから、自分たちも敵と同じようにプリエが作り出した障害に阻まれるというわけか。シャルは唸った。
「本人達が無事であることは、これで証拠は得られたということでしょう」
「しかし進むのに難儀だな。ナベルス、道案内できるか‥‥?」
 シャルの言葉に彼女のペットである犬のナベルスは勢いよく返事すると、ゆっくりとその霧の中を歩いていった。深い霧でともすれば見失いそうになるが、ナベルスの感覚は霧程度はそれほど問題にならないようで、離れているとわかるとしばらく待ってくれていたり、吠えて位置を示してくれた。
「それにしても悪魔、いえリリスは何を求めてこんなところに来たんでしょうね」
「ここに出かける前に聞いたのですが、大昔、賢者が住んでいたそうです」
「それじゃ、その賢者の持っている何かを求めてこれだけ多くの数を動員したのか? いったいそれは‥‥」
 白い闇の中、三人が互いの顔も見えない中話し合っていると、ナベルスの吠え声がした。白闇が少し薄れ、そこからナベルスの心配そうに見つめる顔が覗いている。霧の効果範囲に出たのだろう。
「良かった、出口‥‥」
「誰‥‥?」
 空が安心した声をして、霧を脱出した途端、鋭い女の声が響いた。どこか弱々しげで、それでいて警戒だけは止めない声。そこには大きな切り株があり、幾人ものシフールがその切り株を中心に寄り添っていた。切り株に座っているのは、顔色の悪い赤髪のシフールだ。側にたくさんのスクロールが散らばっている。
「プリエさんですね。お仲間からの依頼で助けに来ました。もう大丈夫ですよ」
 レオパルドの言葉に続いて、冒険者仲間が飛び出してプリエの元に走った。大きな人間がばたばたと走るものだから、悪魔の軍勢に怯えていたシフール達はぎゃーぎゃーと混乱したが、プリエが大丈夫。という言葉でなんとか落ち着きを取り戻したのであった。
「顔色が悪いですが、敵に‥‥?」
 プリエの様子を見た空が声をかけた。あの辛そうな顔は、自分の愛している人が同じような顔を時折浮かべる。血の気が引く思いの空に彼女の弟らしいシフールが騒いだ。
「そうなんだ、僕達を傷つけないっていう約束をして、お姉ちゃんが代わりに!!」
 やはり。デスハートンだ。空は唇を噛んだ。
「そのデビルはどこにいる?」
「お姉ちゃんを傷つけてから、どこから行っちゃった」
「分かりました。私たちがとりもどし、いや、仇を取りますから、とりあえず安全圏に逃げましょう。プリエさんの仲間が安全地域を確保してくれています」
 遠くから、何やら不気味な音が近づいてくるのを耳にしながら、レオパルドは来た道を指さした。
 彼女の魂を取り戻すのも重要だが、その彼女が守ったたくさんの命を今は守らなくてはならない。
「シフールは飛びながらついてきてください」
 不気味な音が近づいてきた。骨と骨がずれるような軽くて、情けない音。
 空は苦々しげに思いながらも、自分ができる最善の道に向かって走り始めた。
「ま、待ってよぅ」
 家財道具とは言わないが、大切な物を持ってでてきていたシフールもおり、動きは鈍く、護衛する身としては少し心配になったが仕方ない。



「結局、あのリリス見つからなかったね」
 パティは回収した矢の内でまだ使えそうなものをより分けながら呟いた。
 悪魔の軍勢はその後すぐに敗走を始め、ほぼ完勝といった形で勝利を収めることができた。シフール救助組にはインプ達が執拗に追ってきたが、これは陽動の上であらかた片を付けた囮組が、合流して散々に討ち果たすことに成功した。
 森に潜む邪悪は残っていないか確認し、明日にはシフール達は戻る予定になっている
 こちらの準備が良かったこともあるが、敵にあのリリスがいなかったのもその勝因の一つであったことだろう。たが、それが皆気になるところにはなっていた。
「でも、指揮を取っていなくてよかった‥‥シフールさん達も助かったし」
「そういえばキロンの宝って何だったのでしょう?」
 食料を緑の豆しか持ってきていなかったレオパルドは空腹を騙すように保護したプリエに話しかけた。デスハートンを受けた影響はそれほど大きくはなかったものの緊張と疲労が重なって彼女は毛布の中でしばらくを過ごしていた。
「キロンは大昔に悪魔の軍勢を退けた賢者の名前。彼の遺産には悪魔に対抗する武器や魔法、そして知恵が納められていた」
「!!!」
 なんでそれを早く言わない。
 リリスの目的はそれを聞けば明らかであった。悪魔への対抗手段を封殺することに違いない。
「く、取られてしまったか‥‥」
 奇は残念そうに地面に生えた雑草をむしった。
「まだ取られたと決まったわけじゃないよ‥‥大切な物だし、シフールさんの誰かが持って出たかも」
 レアはいつでも前向きな発言だ。そんな言葉に呆れるものもいたが、ウィルフレッドは、あ、と小さく声を上げた。
「多分、奪われてしまったのだね。恐らくリリスはシフールに化けていたのだね」
「そ、そんな。でも石の中の蝶に反応が‥‥」
「あの後、追撃してきたのはインプばっかりだったよ。ちっ、自分の存在を気づかせないための隠れ蓑だったんだ」
 シャルは辺りを見回した。そこかしこで帰り支度をしているシフールに、リリスが混じっているとは思いがたい。
「プリエは少し怪我をしたけれど、他のシフールはみな無事だった。この被害で納められたのは皆のおかげだ。悪魔に対抗する手段は他にも色々あるさ。それ唯一じゃない。それよりあの軍勢に大被害を与えたことの方がよっぽど重要だ。敵は無限大じゃないのだから。その戦力を削いだことは後々きっと有利に働くと思うよ」
「おにいちゃん達、ありがとう。僕もうほんとにダメかと思ったんだよー」
「大切な未来の冒険者もこうして命をつなぐことができたんだしね」
 冒険者の言葉は慰めだったのか、正当な評価であったのか。
 どう思ったのかは皆別々であったであろう。

 とにもかくにも、妖精の森攻防戦は無事人の勝利で終えたのであった。