原作(シナリオアイデア)大募集。
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:6〜10lv
難易度:易しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:3人
冒険期間:01月09日〜01月14日
リプレイ公開日:2007年01月17日
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●オープニング
「だーさーくーぢゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
パッカァァァァァン!
木の板が真っ二つに割れる小気味のいい音が響いた。
「どうしたん? またあかんかったの?」
破壊音を聞きつけた妻がそっと部屋の入り口から顔をのぞかせた。妻は部屋の床を埋め尽くす木片の数々にあきれたような不憫なような、そんな表情をしていた。
「演劇作品というものは、人の心を揺り動かすものでなくてはならぬ! すなわち、人の心の機微を描き、観る者を悩ませ、精緻な陰謀と純粋な気持ちが火花を飛び散らす芸術でなくてはならぬのだっ」
演劇作家ディーは力を込めて力説する。妻は、観劇は好きであったが、制作にかかる作家の熱いパトスや信念などまったく知ることがなかったため、分かった様な分からない様な顔をするばかりであった。
「お茶淹れたるわ。気分転換も大切やで?」
妻は、無理しなやー、という言葉をついでに付け足し、足の踏み場もないディーの部屋から離れたのであった。
気分転換。
ディーはふと窓の外を見た。
なるほど。それもいいかもしれない。
「これって、要するに投げたって言いませんか?」
「かもしれんな」
受付員の言葉もどこ吹く風。ディーは涼しげな顔で応答した。
ディーの依頼は演劇の原作を募集するものであった。審査はするというが、少なくとも劇作家の仕事ではない。普通、その原作を生み出すのが作家の仕事なのだから。
「なんで冒険者なんですか?」
「もちろん、自身の冒険したことや、こんな冒険をしてみたいという思いを描いてもらうためじゃ。今度は冒険物を描く予定だったのだが、わし、冒険したこないしなー。なら冒険者が作った方が良いじゃろうと。というわけで経験豊富な冒険者をヨロシク頼む」
だから、それを投げた、というんだ。
受付員は笑顔を引きつらせながら、依頼書を確認した。やろうとしていることはいい加減なくせに、腐っても作家。依頼書はしっかりできている。
「わかりました‥‥仕事、クビにされてもしりませんよ」
受付員は彼を気遣うのをすっかり諦めて、依頼を受けたのであった。
●リプレイ本文
●シナリオタイトル『苦痛の箱』
●執筆者
レオパルド・ブリツィ(ea7890)
エーディット・ブラウン(eb1460)
チサト・ミョウオウイン(eb3601)
奇面(eb4906)
ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)
●編集
ディー・オールエ
●物語
アルスターー王国の一地方。この地方では猫の妖精が悪魔を払うという伝説があった。
その地方一番の街で少年は警備の仕事に勤しんでいた。
元々冒険者の家系に生まれ、父も母も立派な冒険者で多くの財宝などを得て、この街より少し離れたところに屋敷というより砦のような造りの家に住んでいる。いや、住んでいた。
もうその家は廃墟と化した。少年が冒険者として旅立ち、そして戻ってきた時にはこの状態だったのだという。近隣の住民などに聞き込みを重ね、そしてここの領主率いる兵士達が少年の実家を破壊していったという情報を得たのであった。
少年の家では両親や兄弟が惨殺されていた。そして失われた財宝の数々。中でも、どんな物でも封印できるという魔法の箱はその威力から厳重に保管されていたのに、これも奪われていることがわかったのだ。
そう。警備とは名ばかり。少年は領主へ復讐するためにこの街に来ていたのだ。警備という仕事を選んだのも、冒険者としての自分の腕を活かせることができるのと同時に、領主の城の様子を探ってもそれほど怪しまれないためだ。
ある夜、城から箱を盗んだという泥棒を捕まえるという依頼を受けて、少年は走っていた。「箱」というのはきっと僕の家にあったものだ。これを確認することで、家を襲った犯人が領主であることを確認もできるし、その恩賞で領主に近づくこともできると考える少年。
盗賊団、白猫隊を捕まえるべく、猫じゃらしを装備し、猫を酔わせる薬を用意し、走る少年。仲間達と連絡を取り合い、時には、ふにふにの毛玉と愛らしいくりっとした目、それからぷにぷにの肉球の魅力に負けて出し抜かれることもあったが、次第に追いつめ、袋小路に追いつめた少年。
確かにボスにゃんこは旅に出る前に見かけた、あの魔法の箱を持っている。
「よし、神妙にするにゃあ」
愛らしさに染まって、ちょっと猫っぽくなってしまっている少年。
そこにくすくすと笑う声がした。誰だ、と振り向いた瞬間、ねこねこタックルを背後から浴びせられ白猫隊の下敷きになる少年。その少年の前で一人の少女が猫じゃらしを巧妙に扱い、上手に撫でてあげることで、猫達をたちまち大人しくしてしまったではないか。あっという間に箱は少女の手に渡る。
猫を大事にする文化のあるこの街で育ったことに加え、彼女の家族もまたほとんどが死別しているために、猫といつも遊んでいる。だから、猫の扱いには慣れているのだと言った。
最初は手柄を取られてしまい苦々しく思っていた少年だったが、娘の人なつっこく、家族がいないと言った割には明るく振る舞う様子に気を抜かれてしまった。
その後何日か出会いは続いた。少女も少年との出会いに喜びを覚えたらしく、色々と話をしてくれた。彼女は領主の元で働くメイドなのだという。
ある日、少年は思い切って少女に、領主は悪魔か悪魔に取り憑かれている、だから領主を討ち果たそうと持ちかける。
だが、少女は賛成するどころか、顔を曇らせてそれを止めようとした。領主は病気で寝たきりの生活。そんなことは決してないと言い張るくらいだ。
その病気はいつから? 少年の家を襲ってからではないのか。家には魔法の箱があった。どんなものが封印されているかわからない。どんな力を発揮するのかもわからない。それが影響している可能性はないか?
そういうと、少女は押し黙り、しばらくしてから、それを手伝うことを了承した。
少年はメイドの手伝いということで、女装し、そしてメイド達しか入れない場所を通って城の中に侵入し、領主と面会を果たす。この時、少年は女装することに非常に抵抗したが、少女の輝いた瞳に抗議を上げられず素敵で完璧な女装が加えられたのであった。
ひらひら・フリフリのメイド服にショートカットの髪によく似合う化粧を施された状態で、領主と面会する少年。領主は確かに床に臥せり、痩せこけていたが、その原因は病気などではなく、魔法で治すこともできないほどの大怪我のためであった。
隠していた短剣を握りしめながら自ら名乗り、領主が何故家を襲った話をきくと、ずっと気にかけていたのだろう、領主はすぐに少年とその家族のことをすぐに思い出した。そして領主は話し始めた。
私は悪魔に踊らされていたのだと。領主には悪魔が取り憑いており、以前少年の父母によって悪魔は退治された経験を持っていた。だから、機を見て悪魔は領主にとりつくと少年の母を狙ったが、父が命をかけて領主の身体から悪魔をはじき出し、母は自らの生命の危機さえ顧みず、魔法の箱を利用し悪魔を封印したのだ、と。その時兵士の多くは死亡し、領主の家族も幼い娘一人を残して死んでしまったのだという。
領主は深く詫びて、少年の刃も許しの言葉も聞かぬまま逝ってしまった。
影も形もないものを追いかけていたのか。復讐を誓って生きていたことがばからしく思え、少年は刃を捨てて、そして静かに領主の為に祈りを捧げた。
少年は戻ると少女にそれを話した。涙をこぼし嘆き悲しむ少女。
少女はメイドなどではなく、領主が言う、ただ一人残った家族だったのだ。最近は業病にかかり、面会すらできなかったのだという。
少年がどんなに慰めても少女は涙を止めなかった。そうこうしているうちに夜が明ける。 女装している少年はここにはいけないので、一度外に出るしかなかった。また夜に来るから。明け方を告げる鳥の声と共に少年はその場から姿を消した。
そして一人泣き崩れる少女に隙に近くに置いてあった声が響く。辺りを見回しても誰もいない。よくよく見ると、自分が白猫隊から取り返した箱から響いているではないか。箱は人の顔がまるで生きているかのように彫られているのであった。その内の顔の一つが少女に語りかけてきている。
父を蘇らせてみせよう。寿命は変えられぬが、それ以外なら他に移し替えることができるぞよ。と。
表面の顔は不気味なことに開けるな、開けないでくれと懇願する。しかし少女は声に導かれるままに箱を開け放った。中には悪魔が入っており、悪魔が受けた苦痛が入っていた。
少女は死に、悪魔の封じられた箱に閉じこめられた。小さな箱の中で囁き続ける悪魔。少女はすっかり悪魔に憑かれ悪魔の考えに染まってしまった。
何事かと思って走ってきた騎士や城の人々が何人もやってきたが、箱と化した王女の声に誘惑されて次々に箱を開け放ち、その魂を奪われ、その身体は箱になった。城が最後の一人になると少女はその一人に自らを街に運ばせて、108人もの街の人々を順々に飲み込んだ。
そこに戻ってきた少年。少女は同じように声をかける。私は閉じこめられてしまった。助けて、ああ、でも開けないで。そうして好奇心をあおるのだ。しかし、少年は騙されない。その箱は少年の家にあったものなのだから。そして悪魔がそこに封じられていたことも知っている。
少年は少女に声をかけ続け、意思を取り戻させた。そして己のしたことに嘆く少女に優しい言葉をかけて、解決する手段を模索した。
その時、颯爽と現れたのはあの白猫隊である。皆少女の大ファンだったのだ。
箱の中の苦痛は一人では耐えきれるものではない、中に閉じこめられている人のことだけを思い、みんなであければ、苦痛は分かたれ、箱に取り込まれることなく魂を開け放つことができる。と。
少年は猫達と共に箱をあけた。箱は苦痛を放ったが、少年と白猫達はそれに耐えきり、解放することができた。
だが、肉体は戻ってこない。肉体は箱に強く結びついてもうひきはがすことができないのだ。亡霊になってしまい嘆く人々に猫は言った。俺たちの身体を使いな。と。
この街の人と猫達は仲が良い。猫は同じ住人なのだ。大切にしてくれたことにそれなりに猫達は知っており、それなりに恩義だって知っていた。
かくして、猫の妖精が悪魔を払うという伝説は繰り返された。
街には一人の少年がいる。一匹の白い猫と住んでいる。
●で、感想
「どうじゃ、すばらしいじゃろう」
ディーは自慢げにヒゲをゆらしてそういった。ヒゲといってもディーのそれは無精ひげ。
「なんだか、すごいブレンド具合ですね‥‥」
全員が話した内容を単にまぜこぜにしてまとめなおしただけのような気もするのだが。
レオパルドは苦笑して原作をもう一度読み直しながらそう言った。
「女装は恥ずかしがることじゃないですよー。私が調べた所、この国にはプロの女装ニストからオカマ酒場の達人まで、幅広い層に女装が浸透してるのですよ〜」
エーディットのその言葉に驚いたのはディーではなく、周りで聞いていた冒険者達の方だ。特に男性。といっても奇はかなりお歳を召しているので、残るのはレオパルドだけになるのだが。
「ううむ、そうであったか。ではもっと全面的に女装を押し出さねばならぬな」
「今の話にそれ以上、女装を入れてどうするつもりだ」
奇が呆れたように言う。
「これはこれで楽しいですよ。こんな解釈の方法もあるんだって驚かされました」
チサトはにこにこと笑って、原作を読み返す。さてこの中にヒントが隠れていればいいのだが。
「それで、今度はこれで劇を作るのだね」
ウィルフレッドの言葉に、ディーはにっこりと頷いた。
「もちろんじゃ、とりあえず役者探しもそうじゃが、この作品に足る演出も行わなくてはならんのぅ。うはは、これで一年過ごせそうじゃ」
どんなことをするのやら。
ディーの高笑いに皆はそれぞれの表情は呆れかえっていた。