白色の奉仕(まごころ)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや易
成功報酬:4
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月09日〜07月12日
リプレイ公開日:2005年07月15日
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●オープニング
その『白』の教会は新しいシスターのおかげでちょっとした騒ぎとなっていた。
彼女の名前はユーリ。とても明るく元気な彼女は人を救うために毎日いろいろなことを試している。
「今日はですね。町に行ってセーラ様のお話をして参ります!」
そういっては広場で大演説を行い、お咎めを受け。またある日は。
「今日はですね。他の宗教を学ぼうと思います!」
といって、宗教論争をふっかけ、結局簡単に敗北し、改宗しそうになったり。
そんなとても微笑ましい努力は同胞の心配を積もらせる一方、確かに人々の心を掴みつつあった。費用と効果は著しく釣り合っていなかったが。
そして今日もユーリは明るい笑顔で、教会を治めるクレリックの元に姿を現した。
「おはよーございますっ」
「はい、おはよう。ユーリ君」
クレリックは優しい笑顔を浮かべつつも、すでに警戒態勢に入っていた。彼は知っているからだ。こうして彼女が現れた場合、たいがい新しい「思いつき」ができた時だ。
「今日はですね。食べ物を得ることができない人のために炊き出しをしたいと思います」
やっぱり。
クレリックは自分の笑顔が凍りついているのがよくわかった。
「ユーリ君。炊き出しは毎週しているんですよ。それも教会に寄付してくださった浄財と農家やお店のご好意があって成り立っているのです」
「でも、炊き出しでご飯をもらいに来る人っていつも同じ人達じゃないですか。野菜やパンを奉納して下さる人もいつも同じですし」
炊き出しにはそれなりの物資がないと成り立たない。小さな力で行っても全員に慈悲を与えることができず、かえって不和を招いてしまう。そして物資を集めて分け隔てなく与えるのはよいが、これが繰り返されると今度は決まった人しか現れないということになる。これが悩みであったのは少なからずクレリックも理解はしていた。
「というわけでですね。今日は町中を練り歩いて食べ物を勧募すると同時に、困っている方にそれを分け与えていくのです。誰に当たるかわからない、れっと いっと らんだむなのです!」
どんな出会いも神による巡り合わせであると確かに説いたが、その言い方をするとひどく悪く聞こえてしまうのは気のせいか。
「それをあなた一人でやるのですか?」
止めたところで、ユーリなら窓から飛び出してでも敢行することはよく知っていた。善を行うことなのだから止めることでもない。それより彼女の安全をおもんばかる方がはるかに大切だった。
「一応、ありったけの籠は借りていくつもりですけど‥‥大丈夫。ユーリにはちゃんと秘策があります!」
彼女はにんまりと笑った。
もはやどんな助言や忠告も彼女には通用しないだろう。クレリックは諦めの境地に入った。
「わかりました。ですが、人様に迷惑をかけないこと。それから危ないことには首を突っ込まないこと。この二つは必ず守ってください。いいですね?」
ユーリはそれに無邪気な笑顔で答えたのだった。
「さぁて、ここね」
空き籠を大量に積んだ台車を曳き、一見籠売りかと見紛うシスターは一軒の店を見上げていた。
そう。ここが彼女の秘策の要の場所であった。
「ここなら手伝っていただける人もたくさんいるはず。みんなで人の役に立てることができる。町の人も慈悲を行う機会がもっと増えて幸せになる。困った人は救われる。セーラ様もお喜びになられる! そして私も楽しくなれるのです!」
ほわほわとすべての人が幸せそうな顔をしている様子を思い浮かべて、ユーリは嬉しそうな笑顔を浮かべた。そして勢いよくその店に足を踏み入れたのであった。
「いざ、とっつげきー!」
彼女が通り過ぎた扉の真上には冒険者ギルドの看板がかかっていた。
●リプレイ本文
●最初に
「きゃーっ! こんなに集まっていただけるなんて幸いですっ」
ユーリは諸手を挙げて万歳をし、炊き出しの協力を申し出てくれた、ありがたーい冒険者を歓迎した。そして一人一人に印を切って祝福する。
「わたくしもセーラ様に仕えるクレリックです。奉仕活動をするのは当然のこと。このお話はとても善いお話です」
同じように祝福を返すのはシェリー・フォレール(ea8427)だ。同じクレリックとして炊き出しに参加できることに嬉しそうだった。
そしてもう一人、同じように印を返すのはラシェル・ラファエラ(eb2482)。ただし、彼女はシェリーと違って、ユーリに対して最初から不安げな表情を向けている。
「お布施を募るのも与えるのも必要だけど、限度は必要よ」
ラシェルはなんとなく、ユーリがこれからやりそうなことが予測していた。たとえば、貧民街の物乞いや野盗の予備軍、別宗派の教会でも王宮でも、ところかまわず相手選ばずに喜捨を募ったり‥‥。
「ぎくっ」
考えてたんかい。
「ユーリ様、喜捨を無理やり行うのは良くありませんよ。わたくしたちクレリックは強盗では無いのですから。どんな小さな物でも心のこもった物を頂くことこそが本当の喜捨を頂くということになるのですからね」
おっとりとした口調ながらもシェリーは人指し指を立てて、硬直するユーリに注意を呼びかけた。そのえもいわれぬ剣幕に思わずユーリもかくかくと頭を何度も上下する。
「それじゃ、みんな一緒に行こう! 私はユーリさんの護衛と頂いた食材を調理して料理にするね。お金の扱いとかはちょっと苦手だから、ほかの皆さんにお願いするよ」
そう提案したのは、黒地に赤で1と刺繍されたエプロン姿の紅 茜(ea2848)。極食会の印らしく、会員No.1の証は彼女の誇りでもあった。
「それじゃ、お金の管理はあたしがするね。喜捨されたお金を「くいもの」にする、ということで」
フェイマス・グラウス(eb1999)がにこやかにそう言うと、場の空気が見事に凍り付く。
「あ、いや。と言ってもお布施を持ち逃げするとかそういう意味ではないですよ」
と言い直したものの、少しタイミングが遅れて、じとーとした白い目が向けられ、大きな汗を垂らしつつ、慌てて弁解をはかる。
「つまりですね、ユーリ様が集めたお布施で街の市場から食べ物を買うわけです。まとめ買いをすればオマケも付いてお得感倍増です!」
「まとめ買いという案は思いつきませんでした。まとめ買いは主婦の知恵ですねっ。是非ともよろしくお願いします」
ユーリはにこやかに笑ったが、あたしは主婦ではない! というフェイマスの抗議にさらされるのであった。
●呼びかけ
「よいですか、ユーリ様。決して路地裏にいらっしゃるような殿方に喜捨を求めてはいけませんよ」
「恵まれない人の為に寄付をお願い致しますー」
「って言ってるそばからなァにやってんだぁぁぁ」
すぱぁぁん、とユーリの頭から小気味のいい炸裂音が響く。ナイスツッコミをしたのはフェイマスだ。
ユーリは呼びかけ早々に、どう考えてもカタギには見えない悪党面の男に呼びかけていた。しかも男の機嫌はどう見たって悪そう。古ワインの瓶片手に、さっきまでかわいそうな男にほとんど恐喝しているかのようにクダを巻いていた男の機嫌がいいはずがない。懸命(賢明?)なツッコミにもかかわらず男はジロリとフェイマスとユーリをやぶにらみする。
「あァん? なんじゃワレ。ワシのパンチ欲しいんかい!?」
「いえ、欲しいのはパンチではなくてお布施です」
平然としているあたり、意外と強者なユーリ。だが、それで涙を流してくれる感動屋ならば良かったのだが、少し相手が悪かった。男はますます息巻くばかりだ。
「誰に向かって説教たれとんじゃぁ!」
一喝。さすがのユーリもびくぅっと逆毛立ててびっくりしている。ユーリはぎこちなく、横にいるフェイマスの顔を見た。今頃助け船をよこせというのも虫のいい話な気がするが。
しかし、フェイマスはにこやかに笑ってくれた。そして祈りの姿勢に入る。なんと信心深い話だろう。
「大丈夫です。信じる心さえあれば何とかなります。今信じずして、いつ神を信じるというのですか! ですからセ−ラ様、今すぐ私だけでも助けて下さい」
なかなかいい性格をしているフェイマスである。
「お前を挽き肉にして、ガキの飯にしたらぁ!」
「ひわわぁ!?」
男が立ち上がった瞬間。間を割って入ってきたのは、護衛役の紅だ。男の形相に臆することなく、紅は不敵な笑みを浮かべた。
「ふ、甘く見てると痛い目みるけど、良いのかな?」
「ぬかせっ!」
ワインの瓶を振りかざした男が叫んだ次の瞬間には、紅の蹴りがその腹にたたき込まれていた。
「女で素手だからって甘く見てると痛い目みるよ!」
男はつぶれた蛙のような鳴き声をあげたかと思うと、そのまま地面に突っ伏してしまった。
「紅さん、かっこいい〜」
きゃーきゃーと黄色い声が後ろから飛んでくるのは悪い気はしない。紅はちょっと照れ笑いをした。
「さ、頑張って喜捨を集めましょぉ」
●炊き出しの準備
「随分と集まりまったものね」
ラシェルは台車いっぱいの篭に様々な食べ物が入っている様子を眩しいような面もちで眺めた。一人一人の真心がこんなに大きく積もることになるとは。人々の温かな心を感じるのであった。
ラシェルの話術は確かに心をつかみ、少しでもお役に立てればと多くの寄付が集まった。半分大道芸人と間違われているようなユーリとはえらい違いである。
現在、公園で炊き出しの準備中であった。町や教会では迷惑をかけるかもしれないからというのが理由である。広場ではユーリがすぐに渡せるようにと食べものを並べたり、スープの準備をしていた。
そこに買い物に出ていたシェリーとフェイマスが帰ってくる。両手に中身がいっぱいに詰まった袋を抱え、顔が隠れて見えなくなるほどであった。
「ただいま戻りました。安価で良い食材がたくさん手に入りましたよ」
そういうシェリーの顔は充実感に満ちている。きっといただいたお金をそれ以上のものに替えて食材としたのだろう。
「ラシェルさんのご要望通り、調味料を中心に買ってきました。それからスープの材料と。小麦は紅さんが使用されるということでお渡ししてきました」
「これの他に小麦もあったの? 本当にたくさん買ってこれたのね」
確かに主婦顔負けの買い物上手である。これをみて、どんな料理をしようか考えるだけでも心踊ってしまう。困窮して笑顔をなくした人々に、明るい表情・幸福が蘇る様子がラシェルの脳裏に浮かんだ。
「さ、それではここからが本番ですね。たくさんの人に喜んでいただけるよう頑張りましょう」
シェリーもまた、同じ様子を心に描いたのか、穏やかな表情の奥には強い意志の光がともっていた。
●みんな仲良く
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「こんなところで炊き出しをやっているなんて知らなかった」
「おいしい〜!! しあわせっ」
公園はちょっとした賑わいになっていた。最初は炊き出しが始まる瞬間を今か今かと待ちかまえていた人々達だけだったが、その料理の格別の味は瞬く間に広がり、喜びを求める人々であふれかえった。
「ハイハイ! 焼きたてパン、お待ちどうさま!」
一つの人気がこれ。紅の焼きたてパンだった。あつあつのパンは一般庶民にも人気の的だ。みんなほっぺをホクホクとさせながらパンをかじりついている。
「こら、あなたはさっきいただいたでしょう。まだ貰っていない人がいるんですからね」
突発的な炊き出しに対してかなりの人だかりができているのにもかかわらず、ラシェルは全体を見回して、全員に食事が行き渡るようにと気を配っていた。たくさんの人の顔を確実に見分けて、まだもらっていない人との区別を確実につけていた。
そんな彼女の背中に魔の手が忍び寄る。
ラシェルが別の人に再び注意をしていた瞬間だ。十分距離を縮まったことを確認すると、電光石火の勢いで手を伸ばした。
「こらっ! あなたもさっき貰ったでしょう!」
気づいた時にはもう遅い。少年は脱兎のごとく、スープのなみなみと入った器を持って人波を遡っていった。
人の密度が低くなるにつれ、どんどんとスピードをあげる少年。
だが、次の瞬間。少年はあっさりと捕まっていた。
「盗みを行う悪い方は神の鉄槌が下ることになります。これでも戦いの訓練は受けていますからね」
シェリーもまたしっかりと警戒していたのであった。暴れて逃げようにもしっかりと首根っこを捕まれては逃げようがない。ひとしきり抵抗を試みた後、少年はぐったりとあきらめをみせた。
「罰として、一緒に働くわね?」
ようやく追いついたラシェルはそういってにっこり微笑んだ。
●終わりに
「今回は特別ですよ。普段は教会で炊き出しをしていますから来てくださいね」
ユーリは一人一人にご飯を渡す時にそう声をかけていた。
「ユーリ様。もうすっかりなくなってしまいましたよ」
「本当ですか!? 大成功ですね!」
フェイマスの言葉にユーリは諸手を挙げて喜んだ。汗まみれになりながらも屈託のない笑顔を浮かべるあたり、人々に親しまれている彼女の性格がよくにじみでている。
「私のパンも完売したよ!」
紅も上々の人気に満足げだ。
「本当にみなさんのおかげでした。ありがとうございます」
ユーリは一人一人に頭を垂れて、感謝を表した。そして彼女の持っていた袋からパンとワインを取り出して、一人ずつ手渡していく。
「少なくてごめんなさい。分け合って食べてくださいね。食べ物も喜びも祈りも分かち合うことで大きくなりますから」
そう言って祈るユーリに応えるようにシェリーも祈りで応えた。二人が揃えて口にした言葉は‥‥
『皆様に神の祝福がありますように‥‥』