預言の裏(闇)で
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月03日〜04月08日
リプレイ公開日:2007年04月11日
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●オープニング
「ブリザードドラゴンが、消えた?」
「はい、ブレスで視界を遮られまして、その次の瞬間には雲隠れするように。そんな方法あるんですかね」
連日続く、王宮の預言対策会議の合間に、ブランシュ騎士団の分隊長フラン・ローブルは、物静かに資料を眺める女に質問を投げかけた答えがそれだった。
「あら、あなたがわざと逃がしたのだと思っていたわ」
「なんのことやら」
女、異端審問官ディアドラ・カートラインはくすりと笑った。ブリザードドラゴンを追撃した灰分隊だが、十数人がかりで、ドラゴンを退治できなかった裏の理由はとうに出回っていた。
「いいのよ。別に。まあ一般市民に被害を与えないのも騎士の重要な役目だものね。だけど、私に聞くのもお門違いでしょう。セージにでも聞いたら?」
「デビルならどのような手を使うかな、と思いまして聞いたのですが。というかもう検討はついているのでしょう? 相手の総大将」
そっぽを向こうとするディアドラに、フランはまったく崩れることのない微笑みのままで、彼女の動きを止めて見せた。
ディアドラは招聘された立場として、会議においては問われた事に対してだけ答える態度を取り、基本的に無言であった。だが、フランはその言葉の端々から、もう預言の全貌に手をかけ始めていることに気が付いていた。
「まだ、悪魔がどれほど関わっているかわからない、という立場ながら、あなた、いつでも今件のデビルに関しての行動について十二分に注意を払っていますね。それにリブラ村でも虫騒動なんてほとんど気にせず、その後ろにいる悪魔のことばかり気にしていたでしょう」
「あら。単なるお調子者だと思っていたけど、意外と見ているのね」
「私、騎士でなかったら、スパイか何かになっていたと自分でも思いますよ」
聞きようにとってはとても危険な発言をさらりとこぼし、ディアドラを正面から見据える。
当初の質問の答えを手に入れるために。
「ブリザードドラゴンは、多分地下よ」
「地下?」
「そう、ノルマンの地下には色んなモノが埋まっているわよね。坑道、洞窟、遺跡‥‥今のノルマンの前にはローマ帝国が、その前は前ノルマン王国、ヴァイキングとして私たちの先祖が侵入した歴史もあるわ。それらの歴史歴史で破壊された住居の上に私たちは立っているんだから、当然よね。平野に見えるこの大地も、昔はもう少し凹凸があったみたいよ」
「つまり、それらの遺跡群を通って神出鬼没を演じている、と。モグラたたきですね」
資料として広げられていたノルマン王国の地図の上に、フランは鞘に収まったままの剣で、地図のあちこちをつつく。
「出てくるのは土竜ではなくて、氷竜だけどね。春を迎えるノルマンにおいてブリザードドラゴンは不利になる一方。だけどまだ撤退する余地があるということは寒冷地に似た環境がこのノルマンの地にあるということ。気温が低く一定に保たれる場所。つまり地下。トンネルかどうかわからないけれど、近くに入り口はあるハズよ」
「わかりました。では、冒険者でも誘って探検してみようと思います」
フランはわざとらしい敬礼をして、ディアドラに礼を述べた。そして、そっとディアドラの耳にささやきかける。
「ところで、総大将もできればお教えいただきたいところですが?」
「不安を煽る結果になるから言わない」
「一般にはね。でも、うちの王に対してまで無口になる必要はないでしょう」
「‥‥。予測しているのは5体。心の操り手『ガーブ』、秘密の主『アガリアレプト』、理法の司『ルシフュージュ』、地獄の大公爵『アスタロト』、裏切りの王『ベリアル』。この5体のどれかが、今回の、黒幕」
「王様、きっと胃を痛めるでしょうね‥‥」
●リプレイ本文
●伝承は照らす、闇の世界を
「ほう」
ケイン・コーシェス(eb3512)は調査組が作成したノルマン王国西部の地図を見て感嘆の声を上げた。
地図の大きさは縦横ともに2メートルを越える巨大なものだ。ベッドに使うシーツをつなぎ合わせて、そこにインクで描いているのだが、その大きさだけで、見る者を圧倒する。
「少し不格好なのはお許し下さい。そして甚大なご協力をいただいたポーラさんと月与さんに感謝を」
ウェルス・サルヴィウス(ea1787)の言うとおり、その地図はあまりにもざっくばらんとしているし、おそらく正確ではないことは誰でもわかった。しかし、元々正確さなど当てにならない様々な地図を組み合わせてノルマンを網羅したのだから、それだけでも言うことあるまい。確実な地図を作れるのは地図士と呼ばれる人間くらいなものだろう。
「なかなかですね。だいたいは合っていますよ」
同じく地図を見たブランシュ騎士団のフランも頷く。王国が有する最高騎士団の隊長がだいたい合っている、という言葉は冒険者達に自信を与えた。
「ここに伝承で聞き及んだ町や、遺跡、洞窟‥‥」
「教会で得た、ローマ時代の礼拝所等」
「古文書で得た位置が推定できる集落など‥‥」
それぞれで調べてきた結果をその地図に書き込んでいく。町を示す赤の染料が点となし、形作っていく。
「こんなにあるのか。現代より多くないか?」
できあがった地図を見てケインはうめいた。架空の町も存在しているだろうということを含めても、現在の都市より3割以上も多く、そして分散していた。
「多数の時代をまとめて描いているからですね。全部が同時に成立していたわけではないでしょう」
ソーンツァ・ニエーバ(eb5626)は冷静にそう言うともう一度全体を眺めた。
海や川などを中心に生活がしやすい場所に偏りは見られるものの、各地に散在しておりノルマンの大地をゆるやかに覆っていた。
「この全部が繋がっていたら、ノルマン大迷宮の完成だな」
「‥‥大迷宮。11月の預言と共に崩壊を起こしたアルマン坑道も地下にあるものだったはずですが」
大宗院奈々(eb0916)の言葉に、ウェルスが口を挟む。
「その関連づけはきっと大切だと思いますわ。リブラ村を襲ったブリッツビートルも洞窟でサナギとなっていましたし、ブリザードドラゴンも洞窟に隠れているかもしれないとしたら、その先駆けとしてアルマン坑道も大迷宮に関連している可能性はありますわね」
「それはつまり、セーヌ河の決壊以外ではなく‥‥、地下迷宮を作る一環だった、ということですか?」
天津風美沙樹(eb5363)の言葉にジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)が小首をかしげるようにして尋ねた。
「おそらく近からず、遠からず、ですわね。アルマン坑道はかなり昔から人の手で拡大してきた地下坑道ですわ。石切場に水が溜まるなど危険な要因がいくつもあったことは、地下を陣取ろうとするデビル達には排除したいものの一つだったに違いないと思いますの。それを、ノストラダムスの預言になぞらえての災厄に重ねあわせるようにして潰してしまえば、真実を見誤らせることもできる、効果的な方法ではないかと‥‥」
美沙樹は自らが聞き集めた伝承もそれを少なからず、裏付けしているような気がした。先日の冒険でも地下に蠢く存在を目の当たりにしてきたばかりである。自分たちのために他人を害そうとすることは珍しいケースとはいえなくなっている。
他の冒険者も同じ経験はあるようで、彼女の推測をまさか、という者は一人もいなかった。
「確実な話ではないが、頭から否定できる話でもないな。だとしたら、デビルはどこからでも顔を出せるように『出口』を各箇所に用意しているはずだ。ブリザードドラゴンもそのどこかに隠れているんだろう」
ケインの言葉に皆は最も見つけやすく、そしてドラゴンへ到達できるポイントを探し始めた。
「ブランシュ騎士団がブリザードドラゴンを見失った地点に川や水などはなかったですか?」
フランとその配下の騎士達が探しきれなかったということは人間には見つけにくい場所にあるはずだ。ジュネはフランにそう尋ねた。が、その返答は彼よりも先に、ずっと彼を抱き締めて話さない奈々から返ってきた。
「ジュネ。あたし達が前回ドラゴンと戦ったのは、セーヌ河の河口だぞ‥‥?」
「あら」
奈々もジュネも河口に現れたドラゴンを見つけているし、その足場の悪い場所から引きずり出したのも彼女達だ。もちろん、ノルマンを代表する河であるからして、その河口はかなり広いし、多くの支流もそこに合流している。
「そういえば、そうでしたね」
「‥‥天然?」
ぽむ、と手を打ち合わせるジュネに奈々は苦笑した。
「だが、その考えは悪くないな。フランが探しても見つからないというだから、そういうところの方がありうるな。な、フラン」
「‥‥ええ、まぁ」
ぎゅっと抱き締めて、耳元で囁く奈々に対して、フランはなんとも曖昧な答えを返したのであった。
もしかして、何も考えてなかった?
「とりあえず、近くの村にいって細かな話を聞きましょう。あれだけ大きな体です。地下にいるとしたら身動きしただけでも振動があるはずです」
ソーンツァの言葉に一同は立ち上がった。
●人は示す、その真実を
「地震? おお、そういえば時々あるでげす。特にセーヌ川が土砂に覆われてからひどくなったんだわす」
「川の精霊が怒ったんじゃねぇか、って騒ぐ爺さんとかいただろう」
たいそう訛りのひどい漁師の言葉に同意しながら、ケインが聞き返すと、ああ、いるいる。と漁師は返した。
「川の精霊さまってのが居るんなら、こんな自然災害なんか起こさせなかっただべな」
「確かに言えてますね」
ソーンツァは漁師の言葉に苦笑混じりに同意をすると、その川の精霊とやらがどこかに祀られたりはしていないかと尋ねた。
「ああ、少し離れるけれど、海岸沿いを北に進んだところに、エトルタっちゅー断崖があるでね。その崖のとこに洞窟があって祀られとるんだがや」
その言葉に、ノルマン出身のジュネが反応した。エトルタと言えば景勝地で知られており、ノルマンの画家が題材にする有名な場所でもあった。
「ここから近いか?」
「早ければ数時間でつくと思います。‥‥まさかあんなところに」
景勝地である以上、旅人が訪れる事も非常に多い場所だ。そこにドラゴンやデビルが巣くう迷宮の入り口となっているかと思うと、恐ろしいことこの上ない。
その間、美沙樹は作成した地図と今までに聞いた話を頭に思い描きながら、距離をとる。
「若干、遠いような気もしますわ。ドラゴンの消失点はもっと近くにあるのではないかと思うのですけれど」
早ければ数時間、というのは、馬などの移動手段を使ってのことである。だとすると、軽く数キロは離れていることだろう。前回河口に現れたドラゴンをおびき寄せて、騎士団が排除にかかったことを考えても、それほど遠くというのは不自然な感じがする。
美沙樹の疑問を解き明かすべく、ジュネがフランに向かって質問を投げかける。
「消失点で、何か物音などは聞こえませんでしたか‥‥? 水音とか」
「残念ながら何も。私たち、金属鎧を着込んでいますので、実際そんな音があっても‥‥」
フランはそう言うと、手を広げて見せた。とたんに、鎧の接合部分が擦れて、がしゃり、という金属的な音を立てる。
「わからない、か‥‥どうする? 探ってみるか? 一応、道具は持ってきたが」
「道具?」
地下迷宮を探すことが出来る道具!?
皆が色めき立つ中、ケインは不安げな顔をしたまま、二本のL字型をした棒を取り出した。
オカルトアイテム、ダウジングロッドだ。しかもお手製。
「‥‥えーと」
「皆まで言うな。なんか違うのは俺も分かってる」
ちょっと赤面しつつも、棒を元に戻すケイン。
「確かにこの河口についてはデビルについての目撃もあるので、近辺にも出口はあると思います。ですが、場所が特定できない以上、エトルタに行く方が時間の短縮になるかと思います」
ソーンツァの言葉にウェルスがぴくりと反応し、おそるおそるといった調子で尋ねた。
「それはどんなデビルだったのですか‥‥?」
「陰鬱な男が川をずっと眺めていたそうです。気がつけば消え失せていたということですが、その男のいた場所には、大量の魚の死骸が浮いていた‥‥4月の預言の使者ではないかと皆恐々としていたそうですよ」
それどころか、近くの魚も全部毒魚に変わっちまっただ! と横で聞いていた漁師が口を挟んだ。
釣った魚を食べた猫がひどく苦しんでいたかと思うと、皮がべろべろにはげ、膿と腐臭をまき散らしていたという。抵抗力のない子供も3人ばかり犠牲になり、慌てて町の医者の所まで連れて行ったという。
「‥‥神よ。立ち返る恵みをお与え下さい‥‥」
「ウェルス?」
十字架を握りしめて祈るウェルスの様子は、悲しみに満ち、他の者が不審がるほどであった。その様子に、奈々はフランから離れるとそっとウェルスの肩に手を乗せる
「すまんな、フランがいるから相手してやれなくて」
「奈々さん、それ違うと思います。ウェルスさん、何か心当たりが‥‥?」
奈々に対して鋭いツッコミを入れつつ、美沙樹がウェルスの顔をのぞき込んだ。それはとても苦しそうで、悲しそうで。
しばらくの間をおいて、ウェルスは小さくつぶやいた。
「その症状は、アルマン坑道で抽出される鉱物分の毒素と一致します。そして土と水を行使するウィザードなら、追跡を振り切ることも可能でしょう。川の水位を下げ、その床面に抜け穴を作れば、誰も追っ手は来られませんし、後も残りません。先日、そんなウィザードが一人‥‥デビルの元に行きました」
止められなかったのは私だと、うなだれるウェルスの姿に誰もそれ以上のことを聞くことができなかった。
重い沈黙が周囲を支配する。
「敵も冒険者、か。厳しいな‥‥とりあえず、ウェルスの言葉が正しいなら、このあたりをいくら探しても無理だ。確実なエトルタの方を当たってみよう。何より文献調査でかなり時間をくった」
ケインは、面々を見回して案の了解を得た後、ウェルスの肩をたたいて立たせた。
「とりあえず大迷宮の入り口は探さないとな。為せば成る!! だ。そいつに改心をさせることも会わなきゃできないだろう? 今は祈るより行動だ」
●されど、我らは拒む
エトルタは白亜の台地は遙か北にあるイギリスとの間を流れる強い海流によって削られてきた。それは結果、80メートル強の崖を作りだし、ノルマンディー随一の海岸美と謳われていた。
「フラン。今度は観光で来ような。二人っきりでだ」
「追いかけましょうか?」
待て〜、あはははー、うふふふふー。
そんなダダ甘な光景が聴衆のイメージを想起させるが、我慢我慢。ラブラブな奈々とフランに一行は頭を押さえながら、海岸線を歩く。
「それにしてもフランって‥‥誰かとよく似ている気がするんだが‥‥」
「おいおい、奈々。フランを見つめていたくなるのはわかるがな。今はフランではなくて、洞窟を‥‥」
ケインが堪りかねるようにして、奈々に注意を喚起した。手には剣さえ握られている。
「ちゃんと見えているぞ。あの崖のところに小さな入り口が顔をのぞかせているのも‥‥、さっきから真上に不細工なコウモリが飛んでいるのもな」
それと同時に、奈々はフランから離れるとアイスチャクラを準備すると、不細工なコウモリ、と形容されたインプ達はその警戒に感づいたのか攻勢をかけてくる。
「あら、いきなり攻撃してくるとは思いませんでしたわ」
と、つぶやきながら、雨のようにまっすぐ降り落ちてくるインプの体当たりをラハト・ケレブで受け止め、その慣性の法則を逆に利用して、体の半ばまで切り裂く。
それと同時にケインがセンチュリオン・ソードで皮膜を切り裂いて、逃げる道を奪った。皆、そこそこに経験を積んだ冒険者ばかりである。インプ一体で大騒ぎするほどのこともなく、間もなくインプは一撃も与えられずに滅されることになった。
「石の中の蝶にはまだ反応がありますが、段々弱まっています。ここから離れているようですね」
ソーンツァが石を取り出して確認すると同時に、皆はあたりを見回して、逃げているらしい悪魔の姿を探したが、結局それを目にすることはなかった。
「反応はどこからあった?」
「村を出てすぐ‥‥村での情報収集していたことも知られていたのかもしれませんね」
そうすると、あの洞窟の入り口で、盛大な歓迎が待っているのかもしれないな。と、一同が、崖に目をやった瞬間である。崖の下の方で破裂音と土煙が舞い上がるのが見えた。
「‥‥! 洞窟の入り口が破壊された」
視力に優れた奈々が素早く洞窟の状態を確認して報告した。
「あら‥‥、このインプはそのための足止めでしたのね。入り口が奥に続いていることを確認したかったのですけれど、取り除いている時間は私たちにはありませんわ‥‥」
「いえ、そうでもないですよ」
落ち込む美沙樹に対して、フランはにこりと笑った。
「皆さんの推測は間違っていなかったことと、あの洞窟がその入り口の一つであることはこれで立証されたようなものです。押し入るならウォールホールの使い手を回せばすむこと。逆にあのままにしておいた方が、相手の死角を突くことができるでしょう」
奥への確認はできなかったが、敵の動向でその確信を得られただけでも十分だ、と言ってフランは今回はこれで成功したも同じです。と付け加えた。
それを聞いてうなずいたケインが口を挟む。
「もう一つ、わかったことがある」
「はい、ケインくん、どうぞ」
「俺たちの動向を監視していた奴がいる、ということだ。俺たちが地下への入り口を探している、ということを知らなければ、インプを使いに出すこともなかっただろう。村から出てすぐに反応があったということは、それ以前から足取りは捕まれていたということだ」
「それって‥‥つまり」
「内通者が、いるということだ。冒険者ギルドか、王宮か、街中か、俺たちの触れていたどこかに‥‥」
筒抜けの情報網。
地下に拡がる迷宮。
そして始まりつつある4月の預言。
不安はとどまることを知らず拡がっていく。
「ありがとうございます。一度立て直しといきましょうか。また機会があればよろしくお願いしますね。私たちは現段階では、預言の真相に一番近づいているはずです」
預言を巡る攻防は、続く。