望みをかける彼女(プレイヤー)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:04月08日〜04月13日
リプレイ公開日:2007年04月17日
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●オープニング
「はろー、元気してる? シャナ」
夜よりも暗い牢獄の中に、シフール‥‥いや、シフールサイズのデビルが姿を現した。
いったいどこから侵入してきたのか。そんな疑問もちらりとシャナの頭をよぎるのだが、相手はデビル。どんな方法だって存在しているだろう。
「あ、リディアちゃん。お久しぶりだね〜」
「あーあー、傷だらけじゃなイ。大丈夫?」
闇の中でも、リディアはシャナの体の様子を見ることができるのか、彼女の体の回りをぐるりと回って体の様子を見ていた。言葉と行動は心配している者のやることだが、言葉の抑揚はどちらかと言うと、いたぶった動物の様子を観察する無邪気な子供のようであった。
「うん、でももうダメかも‥‥あした、足と肩の腱を切るって言われた‥‥」
「踊れなくなるジャン。いいノ?」
「よくない‥‥」
シャナは視線と言葉を地面に落とした。
そのような行為をするのは悪魔崇拝の容疑を追求するディアドラであり、彼女は容赦をしらなかった。今日も背中には焼きごてをあてられ、意識が数回飛んだ。水の中に沈められたのも10回をこえた。溺死しそうになったのは覚えているだけで6回はある。
「デビルとの関係を追求されたけど、喋ったらどうせ死刑だし‥‥喋らなくてももう踊れなくなる。どっちにしろ、あたしはもう生きていられない」
「はー。歌と踊りって生きるのと同じくらい大切なノ?」
それでも、諦めなかったのはまだ、声と四肢が健在であったということだ。火傷した皮膚はまだ元に戻る。溺れようが時間が経てば歌と踊りは再開できる。だが‥‥腱を切られてはそうもいかない。回復魔法をかけてもらうようなお金やコネなどあるわけもない。
「大切。私、歌と踊りだけは捨てたくない‥‥」
「ふーんー。じゃ。踊りに素敵な力あげようカ?」
飛び回っていたリディアがそっと耳元て甘くささやいた。
「踊るだけでみんな狂わせる踊り。ふふふ、ネイルアトナード様に忠誠を誓えば、それであのディアドラなんかすぐに壊せるようになるヨ」
悪魔がほほえんで手招きをしている。
だが、シャナは静かに首を振った。
「いらない。あの歌はみんなに活力を与える歌だから貰ったけど、結局私の力でもないし‥‥人を不幸にするならなおさらよ」
「自分が死んでもいいノ?」
「‥‥それも、イヤ」
自分の生命も含めて、色々なものを犠牲にしてきたが、それも歌と踊りで少しでも何かできたらいいなと思ったから。本末転倒なことだけはしたくない。
シャナは膝を抱えてうずくまった。垂れた前髪の奥から、小さな嗚咽だけが響く。
「従わないならいいけド。助けの手を払いのけられたらどうしようもないジャン。明日、体壊されるんだよネ。ほら、イツダッテ キボウハアルノヨ」
リディアの言葉が心を優しく絡め取る。暗くてよく見えないがリディアの存在がとても大きくなる。これ以上頼れる存在がほかにいるだろうか‥‥?
リディアのいるだろう方向ほ向いて、シャナは言った。
「リディアちゃん‥‥人を壊す踊りは、踊りなんかじゃない‥‥悲しい歌と壊れた踊りなんて私は、いらない」
「なるほどね」
遠く離れた待機室にて。牢獄に密かに設置された伝送管に耳を澄ませながら、ディアドラは考え込んだ。
悪魔と交渉していたのは今の話でほぼ確実だ。しかし本人はまだ完全に悪魔に乗っ取られているわけではないようだ‥‥。
「それにしてもネイルアトナード‥‥か」
ネイルアトナード、
ネイル アト ナード
Nail at Nad‥‥虚無より出でし衣。ふらりどこからともなく現れて、人々を狂乱に陥れる、色とりどりの衣‥‥。
「おびき寄せられるかしら」
リディアはどうも悪魔の契約をシャナとしたいようだ。おそらく最後までリディアは契約を結ぼうとするだろう。
テミスは半月後にあの人影と接触する。あれがネイルアトナードかどうかわからないが、その瞬間を捉えるよりはよほどこちらに分がある。
やってみる価値はある。
●リプレイ本文
●蝶の網
「ずいぶん、人が少ないですね」
静寂で耳が痛くなる錯覚を覚えながら、ラスティ・コンバラリア(eb2363)はディアドラに問うた。以前、こちらに世話になった際は、見張りやらなにやらで、そこそこの人間がいたはずであったが。
「必要最低限にしているから、そう思うだけよ」
「必要最低限、ですか‥‥」
その言葉のきな臭さに思わず暗い予感を感じてしまうレオパルド・ブリツィ(ea7890)。今までの彼女の言動からして、嘘を付くことはしない。だが真実も話すことをしたがらないこともレオパルドは十分に知っていた。その予感が遠からず離れていないだろうという思いを持ちながら、ある種の答えを求めて、レオパルドはリリス・リディアの侵入経路を探るリュリス・アルフェイン(ea5640)に尋ねた。
「楽士は、こうなることも予測していたのでしょうかね」
「‥‥あるかもしれねぇな。だが、あんまりそんな風に考えていると、身動きがとれなくなるぜ」
ディアドラは楽士に操られている。それも無意識に。自分の信念が人々を破滅に向かわせるように。
もちろん、リュリスだってその可能性を強く感じていたし、今現在もこれからもそのレールを歩いているかもしれないことを予測していた。
だが、あれは頭が良すぎる。逆を返せば、自分たちの存在が介入してくることも予測しており、その上で弄んでいる可能性もある。この手の相手は深く考えれば考えるほど泥沼にはまるようなものだとリュリスは考えることにしていた。そうでなければ、救いがない。
「‥‥そうですか」
たとえ、姿の消した異端審問官のほとんどが実のところ始末されていたとしてもですか?
その言葉は言わなかった。
楽士の罠であろうが無かろうが、その言葉は一時的にでも協力してくれている現状を破壊するのは間違いないから。
「暖炉か。ここも入れそうですね。それではデビルが侵入して来そうな場所は真正面も含めて4箇所。手分けは十分可能でしょう。‥‥蝶の有効範囲は確認とれましたか?」
「そんなもん、悪魔をしばりつけてでもしないとちゃんとした範囲なんて確認できねぇよ。まあ今までの様子を見る限り、この教会の大きさなら、4方に人間が立てばだいたいカバーができるだろ」
ラスティの言葉にやや呆れた声でリュリスは答えた。
明確にどれだけの距離で、どれだけの反応を示すかという実際の効果範囲は確認されていない。それは誰もしなかったからではなく、確認するほどの事例が存在していなかったからである。たいてい、その前に戦闘になり、殺すか逃げられるか、あるいはこちらが殺されるかしているものだ。
「リディアを捕まえたら、そんな確認もしておきたいですね」
「そんな悠長なことやってられる暇あったら、な。とりあえず、確認する。警戒は基本的に歩哨で行う。悪魔が現れたときの合図は『腹へった!』だ。蝶の反応具合を確認して位置を特定。そして奇襲、だ。リディアは捕らえることができれば望ましいが、逃げられるくらいなら殲滅してしまうこと。いいな」
リュリスはそう言いながら、左手に握った石の中の蝶を見つめた。
まだ反応はない。
これが反応したときは真剣勝負の時だろう。
●和音の調べ
「シャナさん、大丈夫ですか?」
ウェルスが用意した冷やした布で、腫れ上がった背中を冷やしてやりながら、レイムス・ドレイク(eb2277)は渦中の人物に話しかけると同時に、その惨状に胸が痛んだ。
はだけた背は何本もの痣があり、一部は皮膚が裂けて、血が流れ出ていた。薄暗い灯りの中でも、白と赤と紫と黒とが、だんだらに混ざり合い、人の肌ではないような気がした。
「うん、なんとか〜。泥棒してこのくらいやられたことあるし」
彼女は思った以上に笑顔でレイムスの問いかけに応えてくれた。その笑顔には全くこの痛みを堪えるような素振りは見せない。普通に服を着ていたら、怪我をしていることなど気付かなかったに違いない。
「ディアドラさんには、これ以上、苦痛を伴うような審問はしないということを了承していただきました。ご安心下さい。辛かったでしょう」
その言葉にシャナはしばらく状況を理解できないようであった。大きな目を惚けたようにしてレイムスを見つめて問いかけた
「どうして?」
「同じ歌や音楽を愛する者として、このまま大切な才能を失わせるようなことをしたくないからです」
レイムスの一歩後ろに控えたカノン・レイウイング(ea6284)が穏やかな、でも、強い決意に満ちた声でシャナに語りかけた。
「どこの誰だかわかんないけど、ありがとうっ」
「‥‥カノン・レイウィングと申します」
動じていない様子をみるところ、シャナはまるでカノンのことを知らないようであった。ノルマンでも、春陽の歌姫といえば、かなり名の知れた方なのではあるが。
まあ、毎日窮々した生活を送っているシャナのこと、今、世界屈指の詩人だろうが存ぜぬことだろうし、さらにその後ろで、申し訳なさそうに立っているシェアト・レフロージュ(ea3869)も、以前出会った人で、自分をふんじばった中の一人、くらいにしか理解していない。
「シャナさん‥‥」
「あ、この前の!」
シェアトに対して警戒というか敵意の色を見せるシャナであったが、すぐにレイムスがなだめに入った。そうでなければ、絶対にシェアトを近づけようとさせなかったであろう。
「彼女も私たちの仲間です。段階的な釈放に向けて協力しようとしてくれているんですよ」
「‥‥先日は情報を得る為に貴女の記憶を覗いてしまってごめんなさい」
少し心の内を吐露するにはやや遠いその間で、だけど、できるだけトーンを落としシェアトは語り始めた。
「‥‥私も何時もそうです。何かしたい歌で伝えたい。頑張っても空回りばかりで 周りが眩しすぎて。何度悩んだ事か」
ぽつり、ぽつりと胸を蝕む空虚感の正体を言葉として形作り、話す作業は知らない間に育った棘で心をえぐるような痛みがあった。うすらと滲む涙が、やたらに熱く感じる。
‥‥その言葉の間、シャナは黙って聞いていた。心の隙間を覗かれたことに対する憮然とした気持ちか、それともシェアトの言葉に共感するためか。
思惑が錯綜して押し黙るシャナに対して、カノンは優しく言った。
「音楽で人を幸せにする事がわたくしの夢です。ですから、シャナさんにも音楽を好きな者として幸せになって欲しいのです。悪魔に魂を売るのでは無く、好きな歌や踊りに対する情熱に魂を捧げて下さい」
音楽は心を震わせるものである。聴者が絶望の淵に立っていたとしても、包みこみ、緩やかに希望の光へと導き、喜びを共に分かち合うことができる。
それは時によっては理性の壁を壊し、自己への陶酔を希望と欺瞞して、破壊へと導くこともあるけれど。だから歌い手達は光を見誤らない。
「‥‥こんな私でも、いいの?」
問いかけるシャナにシェアトはテレパシーを使ってその問いかけに答えた。
「もちろんです。ですが、ここで承諾してもデビルが黙ってはいないでしょう。今、テレパシーを使ってあなたに問いかけています。このテレパシーでお答え下さい。そしてディアドラさんに納得してもらうために、ムーンアローであなたが悪魔ではないことを証明したいと思います」
「いいよ、この際、大好きな歌と踊りを捨てたくないから!」
●審判の剣
「それでは‥‥行きますよ。月の光よ、我らが敵を撃て。敵の名は‥‥」
十野間空(eb2456)はムーンアローの魔法を唱え始めた。本当は交渉前にこれを行いたかったが、それは断念せざるを得なかった。というのもシャナの体力の消耗が激しく、悪魔がいないことを証明するためとはいえ、殺してしまう可能性があったからだ。
今回は薬もあるし、大丈夫。
空は敵の名を告げた。
「我に最も近きの悪魔の洗脳を受けし者」
「ぐぅぅっっ!!」
光の矢は迷わずシャナの体を射抜いた。光が弾ける瞬間にシャナの顔つきが苦悶にゆがみ、体を震わせる。閃光の晴れた後には、ひどい火傷のような傷痕が残る。
「も、もう一度。洗脳を受けているだけで魂を宿していはいないかもしれません」
「いいわよ。どうぞ」
レイムスが驚いた顔をしている横で、ディアドラは顔色一つ替えずに、それを了承した。
「月の光よ、我らが敵を撃て。敵の名は‥‥我に最も近きの悪魔の魂を宿す者っ」
「っ!!!!!」
月の矢は、シャナを打ち抜いた。
衝撃に耐えられず、ぐったりと倒れるシャナ。
「そんな‥‥な、何かの間違いです。月の精霊は言葉のアヤがあっても、それを受け入れるだけの正確さを持ち合わせています。もしかしたら」
困惑と狼狽に震えるシェアト。
もう一度、といったとき、それを止めたのはレイムスであった。
「もう止めましょう。ムーンアローは確かに正確無比な術です。ですけれど‥‥それ以前にそれは攻撃魔法です。人を傷つける力です。たとえそこで真実が明らかになったとしても、それは拷問と何一つ変わりませんよ‥‥」
レイムスの目は寂しさと悲しさに染まっていた。
ロシア出身であるレイムスは、まだひどい差別を被ったことはないが、それでもロシアを出て以来、自らの種族がどれほど忌避されているのかは十分過ぎるほどに見聞きすることになった。
「ともかく、シャナ。あなたはデビノマニであることは立証されたわ。来月、処刑します。今の内から懺悔の言葉覚えておきなさい。上手く言えたら苦しまない方法にしてあげるわ」
「あはは、ダメっぽいね。あたし。‥‥悪魔でも愛してくれる? なんちって」
弱々しい笑顔を作りながら、シャナは頬を涙でぬらした。
言葉にできないようなおもたるい空気が辺りを支配する。
それを吹き飛ばすのは遠くから響くリュリスの声であった。
「腹へった!!」
●戦い
「反応がかなり近いです!」
「何言ってる! こっちの方が近い。すぐ傍まで来ている反応だぜ」
リュリスとラスティは石の中の蝶とあらかじめマークしておいた侵入経路をにらみ合いながら、声を掛け合っていた。
「リュリスさん、ラスティさん、シャナさんのところまでさがりましょうっ。罠です」
警戒色を強め、その場で戦闘準備を始めていたレオパルドが二人に声をかける。レオパルドも魔法を使ってまで警戒に集中していたので、侵入者の存在には気づいていた。二人と違うのは、侵入者の悪意にも直感して気づいていたことである。
「多分、インプ程度の悪魔を陽動に使っています」
「くそ、石の中の蝶の感知力を逆利用しやがったか!」
デビルといえばなんでも反応する石の中の蝶では、複数匹の探知には非常に問題が生じる。ましてや、最下級のデビルとして、使役されるインプなど、そこそこのクラスになればそれを自由に使役する。数で眩惑することなどたやすいことだ。
「あたしを出し抜こうだなんて百年はやーイ!」
進入路の窓が開いたかと思うと、数匹のインプが顔を現し、手に手に石や廃材などを一行に投げつける。
「陽動です。下がりましょう」
「ラスティとレオパルドは先に行け。投石は俺が防ぐっ」
リュリスはそう言うと反転し、石や廃材の類を片端から、鞭でたたき落とし、剣で防ぐ。
「早く来てくださいねっ」
ラスティはそう言うと、迷わず先へと進んだ。
シャナ達のいる部屋でもインプ達が既に侵入していた。それらもまた同じように、物陰から隠れて嫌がらせのような攻撃をしかけ続けるだけだ。
シェアトはムーンフィールドでそれを防ぎ、隙を見せたインプに片端からシャドウバインディングをしかけるが、シャナやラスティとの交信にテレパシーを使い続けていたせいもあり、魔力はあっという間に底を尽きる。
空もムーンアローで応戦するもののやはり数には勝てない。
「シャナ、迎えにきたヨ。殺させたりはしないからネ」
独特のイントネーションを持った高い声が響く。リディアの声だ。
「あ、リディアちゃん‥‥」
「シャナさん、悪魔の誘惑に負けてはなりません。あなたが真に欲しい物は何? 人を縛り不幸にする歌では無く人を楽しませ幸福にする歌のはず!」
「そうですよ。貴方は、人々を不幸にする事を拒絶する強さをまだ持っています。貴方はミーファさんと違い、生きて、自分の力で人々の為に希望を紡ぐ事ができます」
チサトや玄間、カイオンのサポートの結果、アストレイアもテミスも不審な点は無かった。今回のデビルの目的は、シャナ一本であろう。それを防げばデビルの野望を阻止したことになるはずっ。
それにシャナの答えはすでに出ている。テレパシーは、シェアトだけではない。空とだって繋がっているのだ。
「リディアちゃん。‥‥やっぱり歌と踊りだけは汚したくない。でないとあたし自身を否定しちゃうことになるから」
「本気でいってるワケ?」
リディアの声のトーンが落ちる。殺気を含んだ、冷たい声。
だが、シャナはもう臆さなかった。
「本気。最後まであたしは歌って踊って、みんなを励ます存在になりたい!」
「シャナさん‥‥」
ムーンフィールドの中で、衝動的にシェアトはシャナを抱き締めた。もうこの子は道を違えたりすることなんかない。道を探していける。
「ふぅン。そんなのが通用するとでモ? シャナ。契約は絶対だヨ。反古にするなんてありえなイ。死ぬか仲間になるカ、選ばせてやるワっ」
「そこだっ!!!」
レイムスは声の出所を見つけ、ホーリーパニッシャーを全力で叩き込んだ。
インプの一匹が隠れる壁の隙間にそのまま重い一撃を叩き込むと、壁ごと隠れていたリディアを破壊した。力のコナン流ならではの破壊力は、怒りと暗い笑顔を浮かべていたリディアを粉々にするには十分であった。
パニッシャーの凹凸が作る僅かな隙間から、白い粉がこぼれ落ちた。それは床に溜まり、小さな山をつくる。
「!?」
「アッシュエージェントね。もうシャナが契約を結ばないことを知っていたみたいだわ」
その正体をすぐに見切ったディアドラは早々に灯りが作る影と同化し、闇へと消えていったインプの一団をまだ見つめながら呟いた。
●
「うまくおびき寄せたと思ったんですけれどね」
苦笑いを浮かべる空に、シャナも苦笑するばかりであった。
「でも、本当にきっぱりと言っていただいて良かったです。真に人の心を打つ歌や踊りは呪力によって無理矢理縛る物では無く、そして技量でも無く、日々の努力と歌への情熱、そして自分自身が歌や踊りを愛し、心より楽しむ事なのですから」
嬉しそうにいうカノンの言葉に、シャナは笑顔で答えた。
「うん、カノンさんに貰った勇気と意志、絶対に離さないからね」
「デビルの誘惑に乗れば、一時的に人々を楽しませても、死後、救いは得られませんから」
レイムスの言葉にも、シャナは力強く頷いた。
ずっとひとりぼっちだったけど、今この瞬間だけ、とても心強い仲間がいる。それはシャナにとってとても嬉しいことであった。