死の瞳(邪眼)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 48 C
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:04月10日〜04月15日
リプレイ公開日:2007年04月26日
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●オープニング
「ママー、ままぁ‥‥ぐす」
「ルフィア、おぬしまだ泣いておるのか」
シフールの女の子は、ここ最近ずっと泣き通しであった。今日も春色のショールにくるまって涙を漏らし続けた。
ルフィアに本当の母はいない。種族本能として好奇心旺盛なシフールはこの閉鎖的なシフールの集落から外に出ることが多く、集落の構成メンバーも1年すれば様変わりする。父母も当然そんな類で、その間は旅に出るほどの好奇心も衰え、集落を守ることを選んだ爺がルフィアの世話をしていた。
「おじいちゃん、パリに行きたい‥‥」
「そんなに蓄えがあるわけでもないんじゃ。我慢しなさい」
ルフィアのいうママとは、実の母ではなく、パリで出逢った人々だ。
コボルトに捕まった精神的苦痛から片方の目が変色して光を失ったルフィアに優しく接してくれ、笑顔を与えてくれた人々であった。
「いや、いや。ママといたい。お姉ちゃんと居たい」
「困ったのぅ」
瞳を失うほどの恐怖心から救い出してくれた人々の名前は冒険者という。
だけれど、彼らだって仕事もあるわけだし、彼女は夜ごと悪夢にさいなまされて叫び続ける。人間が密集した街などでは愛でられるより疎まれる確率の方が高い。ルフィアに言ったように金銭の問題もある。
「ルフィアの泣き虫が治って、元気になったらまた連れて行ってやるぞい」
「ひぐっ‥‥うえぇぇ。おじいちゃんの意地悪〜」
それが、矛盾した問題であることくらい、ルフィアも即座に直感していた。怖くて寂しくて助けがほしいから泣くのに、それを乗り越えるまで救いとなった人たちと会えないだなんて!
「おじいちゃんの馬鹿っ! うわぁぁぁぁん、ふうぇぇぇ、えぐっ、ひぐっ」
「おぉなんてこと言うのじゃ、ルフィア」
癇癪を起こして手当たり次第に物を投げるルフィアに近寄って抱きしめるが、ルフィアはますまず感情を爆発させて暴れるばかりだ。
「やだっ!!! 嫌いっ、おじいちゃんなんて大嫌いっ!!!!」
苦しみを結局分かってくれない!
こんな分からず屋のおじいちゃんなんて!!
「あいたたたっ」
抱きしめる爺の腕を思いっきり噛みついてふりほどくと、ルフィアは一目散にベッドに潜り込んでいった。
「ま、ま‥‥おねえちゃん‥‥」
温かな闇は感情を静かに宥める。母の腕に抱かれて、眠る子のように‥‥
犬の化け物がルフィアの体を掴む。その手はものすごく金属と肉の腐ったにおいでいっぱい。爪は青緑色をしていておぞましかった。
そんな手で狼の皮を裂いて作った紐で縛って、口の中にも同じモノがいれられる。口の中がチクチクして、苦しくて吐きそうで。
でも、犬の怪物はそんな様子を争うように顔を近づけて笑うだけ。
笑うだけ。
笑声が張りつめた心の壁を破壊して。いく。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁっ!!!」
絶叫と共にルフィアは布団から跳ね起きた。
そこはいつもの部屋。真っ暗で何一つ動かない。真夜中の部屋。ルフィアは音一つないこの部屋が怖くなって、また涙をこぼした。
「おじいちゃん‥‥おじいちゃん、怖いよ、怖いよ」
いつもなら隣の布団から身を起こして優しく抱きしめてくれる爺だが、今日はどれだけ泣いてもその温かな手はやってこない。
おじいちゃん?
ルフィアは起きあがると隣の布団に潜り込もうとして、まだそこが誰も入っていないことに気がついた。人肌のぬくもりがない。
あらためて見直すと、爺はクローゼットに手をつくようにしてへたり込んでいた。ルフィアはそれをめざとく見付けると一目山に爺のその背に飛びついて。
爺が硬直していることに気がついた。
まるで石のように柔らかさがなくって、冷たく。そして死のにおいがゆるやかに漂っていた。
「おじい、ちゃん、や、おじいちゃん!!! おじいっ‥‥!!!」
邪眼の持ち主が、この村を滅ぼすらしいのじゃ。
ルフィアが邪眼などとあり得ん! そんなことないはずなのじゃ!!!
ルフィア、るふぃあ‥‥
「いやゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「シフールの子供を引き取ってくれ?」
普通、そんなことは冒険者ギルドではなく、教会や孤児院に当てつけるものだろう。それか近くの引き取り手を探すか。
「そう。ルフィアってオッドアイの子。その集落の伝承で邪眼の持ち主は村を滅ぼすって言われていて、つい最近、おじいちゃんが変死したのよ。それで集落のシフールもみんな怖がってね」
同じ村の出身だというシフール、プリエはいつもの淡々とした口調で事情を説明した。預かり手がないため、近くにいたプリエに連絡が行き、今冒険者ギルドに話が舞い込んできたのだ。
「実際に人を殺せる目を持っているかもしれない子を預かってもらえる場所を、ですか」
「冒険者はだめよ。かなり情緒不安定だから24時間目を離せないし、邪眼でも大丈夫。っていえる専門的な所でないと」
「わかりました聞いておきますよ。おいで、ルフィアちゃん」
受付員に手をさしのべられた少女は、うつむき加減のままなんの反応もしなかった。おしゃれに身を飾って目の印象は注意しなければわからないが、よくみれば目の周りが相当腫れている。
そして、その瞳は。ああ確かに。
サファイアのような碧い右目、そして水晶のような何も映さない水色の瞳。茶色だったというが、目に入った血が抜けたためだろうか。瞳孔の部分だけ痕があるのか、六芒星のような形になっている。
彼女が落ち着く場所はあるのだろうか。
●リプレイ本文
「ルフィア、大丈夫だったか」
ギルドの受付前で、ルフィアと再開を果たした大宗院奈々(eb0916)は、そう言って30センチにも満たない彼女を抱き締めた。
同じ冒険者のプリエに付き添われたルフィアは、以前奈々がそうしてくれたように、明るい色の飾りで丁寧にまとめられ、やや癖のあるある髪で失った瞳の色を上手に隠していた。また、ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)からもらったショールは若干大きいが、きっと空を舞えば、風になびいて春の風と表現する人もいることであろう。
だが、その失った生気は、どんなにしても隠すことは出来なかった。俯き加減の頭に、今にも枯れ落ちてしまいそうな力のない羽。見ているだけでウェルス・サルヴィウス(ea1787)は胸が詰まって息苦しくなった。
(神よ、この幼い魂に、なぜこのような十字架をお載せになったのですか‥‥)
きっと答えはいずれ福音と共にやってくる。そう祈りながら、ウェルスは奈々の胸の中に飛び込むルフィアを見やった。
「まま‥‥ま、ひっ、ひぅ、まま」
「お爺様が貴方を心から思っていたのは私にでも分かります。貴方がそんな風に塞ぎ込んでいては、お爺様も天国で毎日心配してしまいますよ?」
ジュネが努めて優しく穏やかにそう諭す。だけれど、今にも壊れそうなルフィアに触れるとそんな言葉も揺らいでしまう。精緻な細工物のように彼女はもろくて、強い風が吹けば灰のように散ってしまいそうな自我が、手の平から伝わるぬくもりと共に感じられる。
「でも、おじいちゃんに嫌いって言っちゃったから‥‥こんな目だから」
震える声で、そう言ったルフィア。
だが、次の瞬間、、彼女を抱き締めていた奈々がその肩をぐっと握って距離をあけた。何事かと赤く腫れた右目で奈々の真剣な目を捉えるルフィアに奈々は静かに言った。
「爺さんが死んだのは、呪いかどうかは今は分からないが、自分の責任だと思って泣くのはやめな。泣くのなら、好きだった爺さんが亡くなったことに泣くんだ」
その言葉は、ルフィアの涙を一時的にも止めて、ぐしゃぐしゃになった顔や理性を形作った。
「うん‥‥」
「お爺様の死は貴方のせいでは有りません。誰が何と言おうと、私は貴方を信じています」
「ほんとに? ほんとにそう思う?」
「ええ、もちろんですとも。聖なる母に誓って‥‥」
「怖かった‥‥みんなね、変な目で見るの。邪眼は集落を壊すっていう伝説で、この目がそれかもしれないって。誰もね、見てくれなくなったの。だからね、だからね」
嗚咽を上げながら、少しずつ語られる今日までに至る流れを聞いて、ジュネはやはり、と自らが抱いていた予想がそれほどかけ離れていなかったことを実感した。
周囲の畏怖の視線と、魔に魅入られたのではと言う己への不安。それが彼女の心を蝕んでいる。私達は、傷を癒し支える事はできても、彼女自身が勇気を出し己の心と向き合わねば、打ち克つ事は難しい。
これをどう解決していくか。
癖のある髪を撫でてやりながら、解決の糸口に思いを向けていたジュネの思考を断ち切ったのは、奇妙な仮面の下から不満も露わな奇面(eb4906)であった。
「だとすれば、原因を解明するしかないだろう」
「奇さんっ、それは‥‥!」
ルフィアの心はもろすぎる。ジュネは慌てて奇を止めようとするが、彼はその手を邪険に振り払った。
「優しさだけで物事が解決するなら、エデンなどとかいう絵空事を仰ぐ必要があるか。ルフィアとやら、まずその目を見せろ」
仮面の奥から覗く奇の瞳は、萎縮したルフィアに悲鳴を上げさせるには十分なものであった。
「ひ、や、いゃゃゃぁっ!!!」
「泣き叫んで、逃げ回って。それで何が解決する」
暴れるルフィアをへし折ってしまいそうな勢いでむんずと掴み、奇はサポートで同行していた国乃木にニュートラルマジックを受けさせる。耳がつんざくような泣き声でめいがおろおろしても、奇自身はまるで動じた様子もない。
「おい、奇。いくら何でもそれはやりすぎだろ。放しな」
さすがに、その冷淡な態度をみかねた奈々が止めに入り、ルフィアを僅かに火ぶくれの痕が残る手から救い出した。
「原因を追求しようが、ルフィアを傷つけるのは論外だ。この子はあたしに似てすごい美人になるよ。それに痕を残すようなら‥‥許さないぞ」
「ふん。傷つけなければ良いのだな‥‥とりあえずニュートラルマジックは空振りだ。魔法によるものではないか、強固な魔法によるものかのどちらかだな。次にミラーオブトルースをかけて、その他の働き自体があるかどうか確認する」
その言葉に、奈々が手を振り上げその仮面を思い切り殴りつけてやろうとした瞬間、ルフィアが絶叫した。
「ひ、うっ、ぅぅぁぁぁぁぃ、いやゃゃゃゃぁぁぁっ!!!!!」
「!!!?」
奇の背筋に冷たいモノが駆け抜けた。火に巻かれた瞬間以来の戦慄だ。
それと同時に奈々のビンタが、硬直して無防備になった奇の仮面に直撃し、吹き飛んだ。
「あんた何様のつもりだ。あたし達の役目はルフィアの安息の場所を見つけることだろう」
「‥‥残念だが、ワシの目的は原因の究明だ」
ふらりと立ち上がると、奇は吐き捨てるようにそう言うと、忌々しそうな目を向けて、奇は隣の休憩室へと歩み去っていった。
一瞬の沈黙。
「悪い人ではないんですよ。少しストレートな方で‥‥」
困ったように語るウェルスも心の内では、ルフィアを最終的に救う術は原因の究明、というか邪眼の仕組みにあると考えていた。それ故、奇のことを否定もできないし、かといって肯定することもできない曖昧な立場に立たざるを得なくなっていた。
「ルフィアさん、驚かせてごめんなさい。だけど大丈夫。私はどんなことがあってもあなたを信じますよ。もしその目がやましいものであるなら、神様にお願いして私のと交換してもらいますから」
泣きじゃくるルフィアを、ジュネは穏やかな声で声をかけ続けていた。
●
「ユーリ? 信用できるのか? そのシスターは」
「はい、少し破天荒なところはありますが、広くて強い心の持ち主なので、安心して任せられますし、ルフィアさんにも多くのことを学んでいただけると思うのですが」
少しいぶかしげな顔をする奈々に、ウェルスは知古のシスターのことを説明していた。
白の暴走シスターとかいう悪名じみた二つ名を持っており、すっとぼけた言動で、ウェルスもかなり混乱させられたものだが、確かに小さな教会を神父不在のままで護持しているという実績ももっていた。
「過去に冒険者に依頼をしているようで、報告書を読み直してみましたが‥‥大らかな人物のようですね」
町の清掃に乗り出せば、暑さにやられて目に付いた道具を片端からゴミ扱いにしたり、ゴーレム教会を作ることを夢見ていたりと、なんだか非常に困ったさんな性格も裏返せば、細かいことは気にしない懐の広い人物であるという証拠。物は言いようである。
奈々はジュネに指し示された報告書の束を軽くめくって、そのユーリというシスターの情報を確認する。
「確かに楽しそうな人物だけど、盗賊団の人間も更正のために、このユーリの下で働いているんだな。デビル騒動の関係者もいるみたいだけど」
「大丈夫だと思います。なんというか、良い意味で人をペースを乱していくのです。言葉も行動も突拍子もないですけれど、どれも間違ったことではなくて、ふと気づかせるというか‥‥」
自分もユーリのようであったら、また少し違った人生を歩んでいるのではないだろうか。
ふと、そんなことが頭の片隅によぎりながら、ウェルスは奈々に説明していた。奈々もその言葉とウェルスの態度を見て、すぐにその人物が利己で動くタイプではないことを察知した。清貧の聖者などと呼ばれるウェルスがそうまで言うわけがない。
「そうか。わかった‥‥実際の所、学者関連は回ってみたが、信頼がおけると言い切れるところはあたったところではなかったんだ。最悪、ケンブリッジにまで出した方が良いかなと思っていたくらいだから、当たってみても悪くないと思う」
ケンブリッジには大宗院家の者が一部お世話になっているので、頼る当てはいくらでもあるし、自立した生活も送れるかもしれない。ただ、ここはパリ。ドレスタッドのまだ北、ドーバー海峡の向こうにあるイギリスまで送り、入学手続きをこなすのは、ルフィア一人にはかなり難しいのであるが。
「それじゃ、ユーリさんに会いに行きましょうか?」
「そうですね‥‥」
ウェルスはそう言いながら、まだ来ないもう一人の仲間を捜すために顔を左右させていた。
奇は昨日の件以来、部屋に閉じこもったままになっていた。今日の集合時間はとっくに過ぎていたが彼が部屋から出てくる様子はいまだになかった。
「奇さん、どうしたんでしょうね‥‥?」
「ほっとけ。爺さんの死因も探りたいとか言っていたから、ルフィアの実家である妖精の森へ行ったんだろう」
心配げな顔をするジュネとウェルスを余所に奈々はさっさと歩き始めた。
「スズランはいかがっすかー」
「シアワセはいかがっすかー」
ユーリ達の姿は案外早く見つけることができた。スズランをもらうと幸せになれるという言い伝えにちなんで、皆が揃ってスズランを売りに出すミュゲの日。この日にはまだ随分早いのであるが、彼らは教会の庭で栽培したのであろうそれを売って、寄付金を集めようとしているのであった。
「いかがですか? 根も葉も毒がありますけど、幸せはやってきますよー」
ミュゲの日独特の柔らかい雰囲気を台無しにするセリフを吐きながら、呼び止めたウェルスに対してにこやかに売りつけようとするユーリ。
どんな人に預けられるのかとドキドキしていたルフィアも唖然としている。
そんな幼いシフールの姿を見つけたユーリににこりと笑って、スズランを一輪差し出した。
「はい、あなたにも幸せがありますように」
「お変わりないようですね」
苦笑するウェルスにユーリは笑顔で答えた。
「人間、そんなに変われません。だけど、変わらない中でも良いモノたくさん見つけられるようになることはできますから、そのようになる修練ですよ」
このスズランのように。
ルフィアは、スズランの香りを楽しむユーリの姿に魅せられていた。でも、スズランの香りは間近だと、毒‥‥。
「だ、大丈夫ですか!?」
案の定、気分が悪くなってひっくり返るユーリを支えて、慌ててジュネが叫んだ。
確かにすっとぼけた、いやいや、破天荒な人間である。
「ごめんなさい、ちょっとムードに酔ってました。ありがとうございます。お姉さん」
ジュネの聖印を見て、すぐに同胞であることに気づいたのであろう、聖なる母の元での姉妹よ(お姉さん)、とユーリは答えた。
「いえ、こちらこそ。ところで今日はあなたにお話があるのです。この子。ルフィアというのですが、彼女を預かっていただけないでしょうか。少し事情があって、左目の視力を失っていまして‥‥」
「いいですよ」
はや。
説明も全部終わらぬ前に、ユーリはにっこりと笑っていった。ウェルスが慌てて邪眼に関する事をこっそり説明しようとするが、聞いているのかいないのか、彼女はまるで聞いている様子はなかった。
「家族は大勢の方が楽しいじゃないですか。誕生日プレゼントを渡す楽しみも貰う楽しみも増えますし」
こんな子からプレゼントをねだるつもりなんだろうか。
そんなことを思いながらも、ジュネは背中で呆然としているルフィアに声をかけた。
「ルフィアさん。ずっと一緒にいて上げられればいいのですけど‥‥私たちではどうしてもあなたを一人にしてしまいます。この人の元で暮らしてはみませんか‥‥?」
そう問いかけるとルフィアはぎゅっとジュネの衣の裾を握った。
「や‥‥お姉ちゃんと一緒が良い‥‥」
「いつでもどこでも、ここにいる方々も、これまでに関わった方たちも、あなたのことを大切に想っています。‥‥おじいさんも、きっと」
だから心配することはありませんよ。ウェルスはルフィアに十字をきって祈りを捧げる。それをみるとルフィアは押し黙ってしまった。
「どこにいても私たちは想いと祈りの中で繋がっています。私たちは貴方を信じます。貴方も自身を信じてください。また同様に私たちのことも信じてください。寂しい思いはさせませんから」
ルフィア自身、自分が大切に想われていることは良く理解していた。だからこそ、甘えたくなる。甘えると余計に自分に心細さを覚えて、分かっていても他の人の気持ちを確かめたくなるそんな連鎖を、ジュネの言葉はぴたりと止めた。
信頼すること。自分もジュネ達のことも。
それは自立も同時に促している言葉であった。
「ルフィアさん、一緒に教会ライフエンジョイしましょーっ。困ったことがあったら、みんなすぐ駆けつけてくれますよ。なんてったって冒険者ですから!」
すごい他人任せな話である。
だけど、それはいつでも会えるからねというユーリなりの言葉であり、ユーリもまた、ジュネ達や、ルフィアのことを信じているという証でもあった。
もごもごと辺りを見回していたルフィアにウェルスが手を差し伸べると、ルフィアはそれに移り、そのままユーリに預けられることになった。
「植えられた場所で咲きなさい‥‥」
邪眼と呼ばれるその目も、お爺さんと共に故郷まで失っても、それがルフィアという名前の花が咲くための土壌なのだから。他の花がどんなに綺麗なところで咲いていても、ルフィアという花は咲かせられない。貴方はただ一人、そこで花咲くことを許された人。
ルフィアが立ち上がることを願って。
「‥‥信じる。お姉ちゃん達のこと、わたしのこともっ! だから、だから」
泣きじゃくるルフィアにジュネは祈りの言葉と共に、十字架のネックレスを首からかけてあげるのであった。
エィメン(かくあれかし)。
●
部屋に戻ったウェルスが見つけたのは、冷たくなって机から崩れ落ちていた奇の無惨な姿だった。
外傷はない。机の上に広がった資料などを見る限り、争ったりした形跡もない。
素早く心音を確認して、僅かにまだ命の灯火が消えずに残っていることを確認したウェルスがすぐさまリカバーをかけたため、彼は冥土の縁から目覚めることができた。
「何があったんだ?」
「これが邪眼、か。ルフィアに強く否定された瞬間、恐怖が‥‥体を覆った」
自分が生きていることが信じられないように呟く奇。
妖精の森に住むシフールの伝承では、邪眼は人の命の炎を吹き消すのだという。そしてキラーアイ(呪殺眼)と呼ばれるタイプの邪眼は確かに、各地の伝承などにも登場している。
「ミラーオブトルースにも反応はなかった。とすれば、あの瞳は‥‥殺意と連動して見据えた者の命を凍らせる」
邪眼の立証は不覚にも奇本人の体で立証されることとなったのである。