【死神の顔】セーヌ河鉱毒除去ボランティア
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 62 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月02日〜05月09日
リプレイ公開日:2007年05月13日
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●オープニング
「鉱毒被害を広めないためにも、皆さんのご協力をお願いしまーす」
「お願いしまーす」
「まーす」
冒険者ギルドの前で、若い男女が募金箱を手に手に、そう呼びかけていた。
「おや、募金活動かい?」
「はい、募金以外にも、ボランティアも募集しています。セーヌ川河口付近の被害は広大で、一人でも多くの力を必要としているのです」
若い男は困ったような、でも、決してあきらめの見せない強い表情で答えた。
預言以後、セーヌ河の堤は決壊するわ、村は2つ3つ潰れるわ、寒波はくるわ、強風で牛は飛んでいくわ、猫は寝ころんだで、ノルマン王国も国を挙げてこれらの復旧活動を行っているのだが、いかんせん被害が広大かつ甚大すぎて、手が回らないのが実情である。つい最近に至っては、どこから広がったのかあちこちの村でも毒に関連していると見られる症状が報告されており、人手不足は深刻化している。
そこで有志の若者達が、立ち上がろうじゃないかと決意して今日に至っているのである。
「なるほど、そりゃ大変だね。がんばって」
「ご協力、ありがとうございまーす」
「ありがとうございまーす」
「まーす」
若者達は次々に頭を下げて、チャリンっとお金を入れてくれたおじさんに礼を述べる。
夕方
「というわけで、これで何とかなりませんか」
「あんた達ね‥‥」
集まった小銭の山を差し出されて、受付嬢は重たくなる頭を指先をそろえて支えてやりながら、深いため息をついた。
「募金活動してると思ったら‥‥」
「募金活動だけじゃなく、メンバーもたくさん集まりました。ざっと50人。現地でも漁師さん30人が手伝ってくれると、シフール便での回答がありましたからっ」
「だっ・た・ら! なぜあなた達が指導してあげないの」
ぴしゃり、と思わず受付嬢は言い放ってしまう。
というのも彼ら、このボランティアの指導者を冒険者に依頼してきたのである。どうすればいいのか全くわからないのでとりあえずよろしくお願いします。と。
しかし資金もなければ人材もない。やることも、期間も不明瞭。と困ったこと揃いなので受付嬢は朝方にその旨を連絡したら、これだ。
「冒険者さんの方が物知りです」
「冒険者さんの方がすごい人です」
「冒険者さんの方がカッコイイです」
‥‥頭の痛い連中である。
「わかりました。ギルドとしても鉱毒被害の軽減に協力するようにという依頼が、国から出ていましたので、それと兼ね合わせという形にしたいと思います。資金はあなた達が集めたところから使わせていただきます」
受付嬢の言葉に、若者達はぱっと顔を輝かせ、きゃいきゃいと喜び合う。
そんな姿を横目に、受付嬢は依頼をまとめにかかり‥‥
「ところで、期間はどうしますか?」
「もちろん、土砂が撤去されて元通りになるまでです」
しーん。
冒険者を年単位で雇うつもりか。こいつは。
「申し訳ありませんが、契約期間はそこまで長いものはありません。そのため一定期間毎に契約更新となるわけですが、冒険者も生活がありますので、ずっとボランティアや低額で済ますわけには行きません。今回は集めていただいた資金で可能な日数とさせていただきます」
「おおお、じゃそれでいいです。お願いしますっ」
「あの有名な冒険者にあえるかな」
「サインもらおう、サイン」
その言葉にまた若者達はきゃいきゃい騒いでいる。
受付の仕事も楽じゃない。こう思ったのは何度目だろうか。とふと思うのであった。
●リプレイ本文
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「うわ、これは広大ですな」
ドワーフ流掘削術ドミル派を名乗るケイ・ロードライト(ea2499)はスコップを片手にやって来たはいいものの、そのあまりの広大さに思わず、そう漏らしてしまった。
80人がかりでもちょっぴり心配な広さである。向こう側にはちゃんと母なるセーヌ河が見えてはいるものの、そこまで辿り着くのには生半可な時間では済みそうもない。
「どうせ誰かがやらなきゃ減らないんだ。道具の確認をしているぞ」
エイジ・シドリ(eb1875)は目の前の巨大な干潟に気圧されることもなくそう言い放つと、さっさと道具の準備に入ってしまった。クールに見える彼の後ろ姿に、ケイはそれもそうですな、と近場の地図を確認し始めた。だから気づかない。彼がクールに見えたのは他でもなく、ボランティアメンバーに美少女がいなかったということを。
「今から3班に分かれて行動していただきます。土砂撤去、治療関係、そして裏方、料理や救援物資の整理をしていただく役に当たりたいと思います」
背後では早速100名近いボランティアの班分けを十野間空(eb2456)が行っていた。説明はおおざっぱにしながら、細かい配慮は忘れない。指揮権や連絡系統などの見落としがちな流れもきっちりしていて抜けがない。
「それでは、治療関係について貰う人なんですが‥‥」
力仕事による土砂撤去組は十分過ぎる程に集まったのだが、治療関係は皆疎く、片手どころか指1本でも余りがでるような立候補数であった。もちろん、空もここに来るまでに性格など、治療向きの人がいないか見ていたのだが。
そこに助け船を出したのは富士学問研究所客員教授という肩書きを持つミカエル・テルセーロ(ea1674)であった。
「いいですか、皆さん。治療というのは薬を使うだけではありません。不安を打ち明けたり、話を聞いてもらっただけで少し落ち着くこととかありませんか? そういう、肉体的治療の間のケアも大事です。ですから自分は何も出来ないやなんて思わないで、何より不安な被害者の方々の声を、しっかり聞いてあげてください」
パラという種族的特徴や、ふわふわほわほわの少女のような外見からは思いも寄らないような見事な発言に、ボランティア参加者はほほーぅ、と納得の溜息を漏らす。それなら、と少しずつ参加者が上手くばらけてくるのを見て、空は発想や知識だけではなく、熟練の必要性を感じた。
「やはり実践というものは大切ですね‥‥」
ウード公の元で学んでいただけでは考えもしなかっただろう。空は今、自分が経験を身に着けている実感に喜びを覚えながら、説明を続けた。
「土砂撤去の全体計画について説明します」
まずみんなで平べったい木枠を作ります。
これに布を被せて、その上に土砂を放り込んでいきます。
そしてストーン! 石壁が完成。これを五回分繰り返し。
できた石壁を組んでロープでしばり石箱完成〜。
その中に土砂を詰め込んで、もう一度ストーン!(これで大きな石の塊が完成)
縛ったロープを船に載せて、どんぶらこどんぶらこ。安全な場所に投棄っ
一部は石材として再利用。そのお金でボランティア維持費に回すのダ!
以下、土砂が無くなるまで繰り返し。
「そしてこれが田下駄というのだ〜。これがあると干潟にも足がとられなくなるスグレモノなのだ」
玄間北斗(eb2905)がそう言って必要な道具の説明をしていき、ラファエル・クアルト(ea8898)が道具をわけていく。
ケイやエイジもその作成を教わりながら田下駄の履き心地を試す。
「なんか足の指に紐をひっかける『ハナオ』が痛いな。ジャパン人の足はどうなっているんだ」
「しかし、確かに沈みませんぞ。掘削術もこれで本領発揮できるというものですな」
ボランティアメンバーの反応もまちまちであったが、ともかく土砂撤去作業はこれから本番である。玄間は田下駄以外にも、様々な物資をポケットマネーから捻出して、一通りの道具を全部そろえてくれていたので、作業は即座に進行開始だ。
「あーら、えっさー」
「ほいさ、ほーいさっ」
リズミカルである。元々農家関係が多いためだろうか。進み始めるとみんな異様によいリズムで進む進む。
そうこうしている内に、エイジが漁師に舟を借りて、毛布を敷き詰めていく。土砂を積むための配慮だ。
「イイ感じじゃない。やっぱりこういう時こそ、人の力と連携で立ち直って見せなきゃね。悪魔とか、こっちを舐めてるやつ等に見せてやりましょ。人は、弱いけど案外強いのよって」
ラファエルは、自分も負けてられないわっ、と裏方として集まってくれたメンバーを振り返る。こちらには女性や、体力より計算に向いた人々が中心に集まっている。救援物資を村ごとに分けて配布したり、荷物の管理をしたり。道具の管理は円滑なグループ活動のキモになる。
「とりあえず、ここの魚を食べるわけにもいかないから食材を買いに行かないとね。それと食事の準備もしないとね」
パリでおおよそ必要な食材は買い入れているけれども、現地で調達できるものは荷物の加減で押さえているし、火を使える準備もしておかなくてはならない。
しかし、こんな天気の良い空の下で食事ができるとしたら楽しそうだ。
ラファエルもそのメンバーも意気揚々と準備を始める。
ポケットマネーを使っている分、明らかに赤字になると分かっていても、そんなこと気にしない。みんなの笑顔が浮かんでくるなら惜しくもないもの。
「この魚も食べられたら、料理の幅が広がるのに」
ポジティブシンキングが勢い余って、そのまま料理してしまいそうになりながら、打ち上げられた不憫な魚をつまみ上げて、ラファエルが言う。
「ふん、はしゃぐ奴らは腹でもこわして大人しくなればちょうどいいくらいだ」
と、魚を横どって、研究記録に書き納めていくのは奇面(eb4906)。ミーハーで熱血で単純なボランティアメンバーの姿に若干業を煮やしているようである。
「あら、元気があっていいじゃないの」
「ふん‥‥」
空しかり、ラファエルしかり、パリに知れ渡る名声の持ち主のことを理解している人々も多いようで、握手を求められる人もそこそれなりにいた。それがどうも気に入らないようで彼は押し黙ったまま、川に進み、川に沈んだ土砂に視線を注いでいた。
「あら、危ないですの。まだ濾過作業をしていないですもの」
そんな奇の姿を見たシャーリーン・オゥコナー(eb5338)の声が遠くから響いた。シャーリーンはボランティアメンバーとともに目の細かい網をセーヌ川にかけようとしている。網を何重か渡してそこに灰を放り込むという方法によって鉱毒を抽出しようという仕組みだ。そのための灰も後ろに積まれているが、セーヌ川をまるまる濾過しようとするのだから尋常な量ではない。
「明日の方が安全ですよ」
「そんなもの後回しだ。この辺りには大型の悪魔がいた。何かそれに関する痕跡はかならずあるはずだ‥‥」
ロープを渡すために小舟で渡河するレヨン・ジュイエ(ec0938)が奇に手をさしのべるが奇はそう言って聞かなかった。
泥川の中を突き進む奇。そんな彼の行動力に運命はほほえんだのかどうかは知らないが、何か硬いものが足にひっかかった感触があった。
「そ、それは‥‥?」
奇が引っ張り出したそれは、泥に隠れても美しさを失わない拳大ほどもある巨大なサファイアであった。美しい細工や滑らかな表面が人工的な、そして魔法的な何かであることをしらせる。そして平たい石のかけらが。それがとある森の秘宝であることを奇は直感し‥‥奇はそれを堂々と懐にしまうとレヨンの小舟に乗り込み、川を渡る。
「神のご加護があったのでしょうね」
大きな網が渡されたのはそれからすぐ後のこと。シャーリーンの合図で一斉に灰が投げ込まれた。
明るい五月の空に煙りが沸き立つ。
灰被りのセーヌ河。
どんな変身を遂げるのやら。
●
「毒の量が少ない?」
セーヌ河の網に残った毒の痕跡を見た十野間修(eb4840)はそう報告した。
「ええ、鉱山関係者の話をまとめると間違いありません。アルマン坑道が一時閉山したのも採掘より、そうした不純物が人体を害することの方が多かったということですから、坑道全体の大きさを考えると、こんな量ではないはずです」
見落としありませんか? などと、しれっと厳しいことを言う修に、兄の空は複雑そうな顔。弟はイイ性格をしているので、ケンカが起きないか心配。
仲裁用の『チャーム』は修に使うしかない?
「確かに毒に感染した方もこのあたりは少ないようです。解毒薬の調合は少なくて済みますけれどね」
「確かに漁ができなくて悩んでいる人は多いようですが、毒で苦しんでいる人は」
解毒薬の調合をしていたミカエルと多くの人々が無事だったことを喜んで祈るレヨンは近隣の村を回った結果を述べた。みんなの食事を煮炊きするのに使った大鍋を洗って立てかけるラファエルも首を傾げる。
「誰かが掃除してくれたのかしら。確かに毒で死んだ魚もいたけれど、思ったほどの数はいなかったわね」
「そうかもしれません。このセーヌ河の惨状に心を痛める人は私たちだけではないはずです」
レヨンは伝え聞いた一人の人物を思い浮かべた。自然を愛する心が失われていないとするならば、密かに毒だけでも取り除いてくれたかもしれない。
「では片した毒はどこにいってしまったのだ〜?」
そんな玄間の言葉に唸ってしまう。誰かがまとめてどこかに捨てたのでは、という意見を持ち出すが、土砂撤去班のエイジが首を振る。
「土砂を掘っていたら毒物は変な色してるのが見える時があるが、どこかにまとめたっていう雰囲気でもないな。第一掘り返した後がない」
「もう流れてしまったのかもしれませんのね」
「しかし、この近辺で酷い鉱毒被害がある話を聞きません。流れたら魚や貝の死骸が必ず出るはずです」
底に流れたかもしれないという意見も修の返答でこれで消えた。
毒は本当にどこにいったんだ?
浄化されてくれないと困るけど、ボランティアに断りもなく浄化されたとしても困る。
「そういえば最近、いくつかの村で鉱毒の被害が出ていると聞きましたが、どこで精製されたんでしょうね」
「え‥‥」
修の言葉に皆がピタリと止まる。
「被害の症状は他でもよく似ていると聞きますね。うん、可能性としては捨てきれない話です」
ミカエルが自ら調合しかけている解毒薬に視線を落として呟いた。
そもそもこの薬が通用するということは元となる毒の成分はそんなに変わらないはず。各地で頻発する毒事件と、そして毒がいつの間にか少なくなっている河口域。
シャーリーンは多くは語らなかったが、自らの毒に関する知識は答えを見いだしつつあった。
毒を取り出す方法はもう一つある。生物に摂取させて体内に蓄積させるという方法が。
「‥‥あたりかもしれないですの」
●
「行きますよ。せーのっ」
ケイのかけ声にあわせて本日何度目かのストーンにより、土砂は完全に石化した。魔力が追いついていないのが問題だが、固め切れていない土砂もエイジの用意した輸送船でシャーリーンとケイの慧眼に叶う島に廃棄されているので、それほど重要問題には至っていない。
「おーいエイジさん早く〜」
「急がせるな」
エイジの舟の帰りを待ちきれないボランティアが手を振ってこっちこっちと合図する様子を見て、エイジはあきれた声を上げた。
「廃棄チームの人数が足りていないみたいです。3人ほどそちらに回ってください。エイジさん、操船は漁師に任せて廃棄チームの指示をしてあげてください」
ボランティアのチーム分けに的確に指示を出していく空に指示をもらった人々が返事をしていく。横には、冒険者が帰った後も担当してくれるリーダー候補が横でその動きを勉強しているようだ。
「いい感じじゃない」
差し出された冷たい飲み物。
太陽のような笑顔でラファエルがそれを持ってきてくれていたのだ。それはつまり休憩時間の合図でもある。
「もう最終日だし、腕によりをかけて特別おいしいの作ってあげるわ」
ラファエルは戻ってきたエイジやそこにいたボランティアメンバーにも休憩を呼びかける。
「ありがとうございます」
「助かります」
「お代わりください」
ボランティアメンバーの体力低下も心配されたが、これも問題なく皆怪我も病気もなく、進んでいる。最初は広大な干潟だけだったが、今では、硬い土面がところどころ姿を見せて、重たるいだけの雰囲気も少し様相を変えてきていた。毒を含んでいる土砂もかなり軽減できているはずである。
「土砂で毛布が二枚ばかり使い物にならなくなった。石化した石の角でロープが痛むから消耗が早い」
「それだけ仕事が順調っていう証拠よ。ロープや毛布の予備、後で用意しておくわ」
「ロープや毛布は代えがききますが、人の体はそうもいきませんから、触れないように気をつけてくださいね」
ラファエルの指示に従って、ロープなどの雑貨を用意しながら、レヨンが土砂に触れた人がいないか聞き出していた。
「薬を塗りますので、土砂に触れたという人はおっしゃってください」
「手洗いは忘れたらだめなのだ〜」
「うがいもするのだー」
玄間の真似をしてボランティアの一人もほのぼのとした声で、毎度繰り返している注意の言葉を先取った。ほのぼのした顔の玄間はみんなの癒し役となっているようだ。
最初の数日は近隣の人間にしか用を為していなかった解毒剤も、後半になると皮膚に触れて反応を起こす毒にやられてひどい肌荒れを起こすボランティアのメンバーに活用されていた。
しかしそれ以上にセーヌ河も様相を変化させはじめていた。
泥だらけの河辺には固い土が見え始め、ひどい色で統一されていたセーヌ川も濃淡が見え始めていた。まだまだ時間はかかるが、そんな変化が見え始めただけでも喜ばしいことであった。
●
「それでは私たちはここでさよならですけれど、後はよろしくお願いしますね。まぁ、皆さんなら何も問題ないでしょう」
修の言葉は、暗に『うまくやるように』という意味が含められていたのだが、ボランティアメンバーにそんな意味が伝わったかどうか。
「まっかせて下さい。またよろしくお願いしますね」
「その前に支援者見付けてこい。それか自分らで金を稼ぐんだな。こういうのは馴れ合いでするものじゃないと思う」
エイジの言葉にボランティアはしっかりうなずいた。そして横では土砂撤去のメンバーがケイと固い握手を交わしていた。
「師匠! これから俺達、ドワーフ流掘削術を極めますっ」
どうも弟子が増えたらしい。そんな別れも挨拶も終えて。
「解毒剤ありがとうっ」
「おいしい料理ありがとう」
「作戦ありがとう」
「熱意ありがとう」
「あーりーがーとーーーーっ」
冒険者達が見えなくなるまで、ボランティアの人は手を振って見送ってくれた。