【繊細な指】団長警護(意趣返し)
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月29日〜06月03日
リプレイ公開日:2007年06月08日
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●オープニング
神聖歴1002年5の月
騎士の顔は青ざめている。
繊細な指が、神の目を盗んで長く伸び、
白い衣を血で染めるだろう。
王国の大いなる炎は消え失せるだろう。
‥‥‥たぶん。
「ノストラダムスの大預言 お株を奪っちゃおう案」
作案者:冒険者とフラン
♪日時:5月30日とその前後日
♪場所:パリ教会敷地内
♪趣旨
今回の預言は、ノルマン王国の重鎮を狙っていることは間違いない。
その重鎮が一般の前に姿を現すといえば、聖霊降臨祭。ここに絞って考えるのが妥当。
襲撃に加わるであろう敵勢力は大きく分けて3つ
・狂信者 次々起こる災害にデビルの恐ろしさを知って信仰し始めた人々。
・デモ隊 預言で家や仕事を奪われたり、対応の遅さから王政に抗議する人達
・デビル 敵ご本人。
狂信者とデビルは叩いても構わないが、デモ隊を攻撃すると騒ぎが大きくなるので注意が必要。
だが、実際紛れた際には、区別のしようがないという難点もある。
そ・こ・で!
聖霊降臨祭に預言を逆手に取った催しを付け加え、「そもそも暗殺など狙う余地がない」ほど混乱させてしまおうということである。
♪内容
聖霊降臨祭の祭典中、農業祭を同時開催する。この時、リコリスを冒険者他、一般人達で互いに掛け合う。ようするにフラワーシャワーでみんなで楽しんで貰いつつ、聖霊降臨祭の式典会場となる聖堂に人を近づけない。
式典開始の鐘と同時に、教会全域を使って参拝者全員によってフラワーシャワーを敢行。教会内は厳かに式典を行っている聖堂以外はどんちゃん騒ぎになるはずである。これではデモ隊も祭の雰囲気に包まれ、狂信者も幸せを喜ぶ民衆によって動きを封じられる。
デビルだけが警戒対象になり、これなら式典内は必要最小限の警備だけで対応は可能だろう、とこういうワケである。
ヨシュアス団長もここで花蒔きに参加してもらう。陛下、司教、団長を一点に集中させると万が一の時にまとめて暗殺される可能性がある。式典の関係上それほど警備を厚くできない以上、団長を矢面に立たせて陛下を守るためである。
♪特別警戒
冒険者にはこの農業祭の参加者や警備、花配りなどの係を担当して貰いながら、虎視眈々と侵入の機会を狙っているデビルや狂信者に対して警戒及び、密かに排除することが求められる。
♪補足
リコリスの花は染色にも使える赤い成分があるので、服に染みが付くので若干注意。食べても問題ない。
ちなみにジャパンのヒガンバナと同種らしい。‥‥縁起悪そう。
ともかく、これにより、国民全員が楽しんでもらい、元気や希望という意味の「大いなる炎」を、恨みつらみと鬱屈した感情に書き換えて、無事に守りきりたいものである。
以上
冒険者ギルドに現れたブランシュ騎士団のメンバーはその要旨が書かれた紙を黙って受付員に差し出した。その顔は苦虫を噛みつぶしたように渋い顔をしており、近づきがたいような雰囲気を全身に纏っていた。
「面白そうな案だと思うのですけれど‥‥何か不都合でも?」
遠慮がちに問いかける受付員に対して、騎士は静かに答えた。
「この作戦書のような物が渡されてまもなく‥‥フラン隊長が何者かに襲われた」
「なっ、それじゃ先日聞いた襲われた王宮高官というのは‥‥」
その言葉に受付員は愕然とした。先日黒分隊副隊長が持ち込んできたときにちらりと聞いた人物が、まさかブランシュ騎士団灰色分隊長のフランだとは思いも寄らない話であった。
「今回、依頼するのは教会敷地内。フラン様の計画通り農業祭の並行開催をしている中で、ヨシュアス団長を狙うであろう暗殺者を積極的に発見することだ」
つまり、フラワーシャワーで人々が楽しく過ごすその裏側で、フランを含めた数々の高官を遅い、そしてヨシュアス、それが済めば司教、ウィリアム陛下の暗殺を目論んでいるであろう暗殺者を見つけて退治せよ、ということだ。
「それはもちろん。かなりの手練れでしょうから、こちらも腕の立つ者を探しましょう」
「いや、できるだけそういうのは控えて欲しいんだ。新しい冒険者で構成して欲しい」
腕の立つ冒険者は、いらない?
分隊長が倒されるほどの暗殺者なら相当強力なはずだというのに。
「暗殺者について一部情報が入っている。元々盗賊団として活躍していたが、冒険者に壊滅させられてから冒険者に対してかなり注意を払っているということだ。名のある冒険者では顔を見ただけですぐにばれてしまう。その場合もっと非人道的な行為で暗殺を達成しようとしてくる可能性がある。それでは困るのだよ」
暗殺者の名前はアルティラ。月夜の狼という盗賊団を指揮者だという。統率していた盗賊団のやり口は相当あくどく残忍であったが、名が知れ始めて調査を始めた頃には盗賊団を別の盗賊団と合併させて、姿をくらませていたという。
用心深さと非道さは群を抜いている。高額賞金首の常連メンバーにも入る犯罪者の一人だ。
かなり危険な戦いなのは間違いない。だが、用心を重ねたばかりにこのアルティラが大量殺人やデモ隊が大混乱して増大したりすると、元の木阿弥になってしまう。気づかれぬように、そして逃がさぬようにしなければならない。
「‥‥‥」
「頼む」
祭の裏側で、静かな激戦が待っている。
●リプレイ本文
春に得た収穫に対して感謝を行う農業祭。ジーザス教はこの祭と融合し、聖霊降臨祭と名を変えた。そんな時の砂に埋もれた祭が今、盛大に復活を遂げるのであった。
教会の前は大にぎわいであった。いつもは穏やかな空気に鳩だけが胸をはって歩くところだのに、今日という日は鳩が降りる場所もない。赤い旗、青い旗が、白い旗がつらつら、建物同士を人つなぎあい、青い空にはぷんと食物の良いにおいがぐるぐるしている。歓声、嬌声、商人の売り文句に、酔いどれのケンカの買い文句。ああやかましい、とおばさん上から怒鳴る声も喧噪の中では淑女の台詞のように小さくて聞こえやしない。
あちらの人だかりは旅芸人達の集まりで、笛がぷーぷく、太鼓がどんどこ、踊り子はしゃららん、元気に陽気に舞い狂い、観衆これみて、大はしゃぎ。一緒になって踊る者やら、それでは俺の歌も聴いてみよと歌い出す素人詩人に、小銭はどこだとパラは走る。シフールやんやと空を飛び交い、訳は分からずとも、今日はめでたい日らしいと酒を上から振りまいた。
ああ、ああ、もう。降臨祭はまだ始まっていません、静粛にー静粛にーと哀れな兵士の叫び声もちょっとした余興のこと。みんなそんなの気にしていない。それそれ、今日は無礼講。ウィリアム3世の馬鹿野郎というヤツもいれば、万歳三唱するヤツもいる。押し合いへし合い、ケンカし合い。
祭の時間は過ぎていく。
「この中に、アルティラが‥‥」
その少し離れた建物の屋根の上でリンカ・ティニーブルー(ec1850)はいた。眼下に広がる有象無象の喧噪が巻き起こるずっと前、雄鶏が朝日を迎える頃にはもうその場に着いていた。この騒ぎに紛れてヨシュアス・レインの生命を狙っているだろう暗殺者アルティラを封じるためであった。
アルティラ。
「変装の達人なんだって。そして思いもよらないトコからドスっ、てやるのが常套手段」
どこかのスレた女盗賊みたいな格好をしたクラリス・ストーム(ea6953)がそう言った。シーフギルドでさえ、アルティラについては厄介者扱いをしているという。まず正体を誰も知らない。ある人は男だったといい、ある人は女だったといい、ある人はエルフだったといい、ある人は人間だと。
「得物は短剣だというが、射撃もこなす、ようするに何でもあり、だそうだ」
事件の傾向も何でもあり。快楽殺人的なところもあれば、明らかに金目的であったり、怨恨であったり、デタラメなところが多い。騎士団やアルティラを追う人々はいつもそれで困惑させられる。同一人物かどうかも怪しいから、復讐者達も手を組めずにいる状態だ。
「アルティラは‥‥」
何百人という人が動き回る広場は真上から見ると、豆粒のようで、誰が誰なのか、一人ずつの顔を判別することなど不可能であった。だが、リンカはそれを静かに見下ろして、人の流れを見つめていた。
「間抜けか、さもなければ天才だな」
様々な手法、様々な動機、武器も、正体もデタラメ。追跡者を困惑させることこの上ない。不意に起こった事件であったら、きっと防御しきれなかったことだろう。
だが、今回はその目的はあらかじめ分かっている。そしてその対策方法も十分に練ったつもりだ。
リンカの見下ろす光景に変化が起きた。真っ赤な花びらが人混みの中にぱっと咲いた。あちらでも、こちらでも。フラワーシャワーの始まりだ。
●
Let's scatter the flower of Ricoris.
Fully scatter the petal in appreciation for the blessing of spring.
Fill it with a pure smell, to repel the devil, and to obtain the angel's blessing.
軽やかな歌と共に赤い花びらが空を彩る。
教会広場はリコリスの甘い香りで満たされ、その地面は真っ赤に染まった。みんなの笑顔と共に、花びらは貴方を頭からつま先まで浄めてくれる。あちらでも、こちらでもフラワーシャワーは絶え間なく続き、風に乗って花びらはパリの市街に舞い踊った。
「はい、どうぞ。はい、あなたも。みんなで春に得た自然の恵みに感謝して花を撒いてください」
そんな中でもリーディア・カンツォーネ(ea1225)は後ろの台車に積んでおいた花籠を次から次へと押し来る手に渡し続けていた。他にも騎士団の人間や王宮に関わる人間がその花籠渡しを何十カ所でも展開していたが、集まった人数に対して全く対応ができず、もう目の前は人壁人垣の大混雑である。
『ひ、人混みが多すぎて、周りの様子が見えないですよ〜!!』
あちこちで花びらが舞っているのは見えるが、肝心な警戒任務がこなせない。見えるのは籠をほしがる人間ばかりで、それらが暗殺者や狂信者の類であるはずがなく。
「リーディアさん、大丈夫ですか?」
遠くから同じくサラ・シュトラウス(ec2018)の悲鳴じみた声が聞こえる。リーディアより頭一つ低い彼女は更に厳しい状態だろうというのは、容易に推測できる。彼女は花籠だけでなく、被災者の治療や、食糧支援なども行っていて、その人垣は他よりも数倍厚い。
「賑やかじゃのう。おう、ぬしらもぼーっとしとらんで、花をまかんかい」
「‥‥あら?」
その横を何やら陰気な顔で歩く青年達に、老農夫が何やらからんでいるのにサラが気づいた。陰気な青年達は明らかに祭の雰囲気とは異なったオーラであった。沈んだ目は固い何かに縛られたように緊張に満ちており、今ここが祭の中であることに気づいていないような、そんな感じが遠目から見ても伝わってくる。
サラは、急いで彼女の横でめんどくさそうに花籠を配っているヤード・ロック(eb0339)に合図を送った。
「やれやれ、楽なだけじゃ済ましてくれないか」
リーディアやサラと同じように赤の法服で身を包んでいるものの、元々格式張ったものが嫌いなヤードは見るからに教会関係者には見えない。本人もあまり気にしておらず、だから平気で人混みの中に割って入ることができた。
「ほら、花籠を持って。今日は祭だ。みんなで喜びあおうぜ」
そう言って、ヤードは緑色のリボンがついた花籠を次々と渡していった。陰気な青年達はそれを邪険にはねのけようとしたが、周りの様子に今更ながら気づいたように見回した後、その花籠を受け取った。
木を隠すなら森の中。とでも思ったのだろうか。
手渡したヤードはにやりと笑った。世の中そんなに甘くないもんだ。
「お、警戒色発見ですぞ。近寄らせるわけにはいきませんな」
そのリボンを即座に見分けたケイ・ロードライト(ea2499)が青年達の方へ向かっていった。
その瞬間、ケイの後ろから黄色い声が爆発した。
「きゃぁぁぁあ、ヨシュアス様よぉ!!!!」
「ヨシュアス様ぁぁぁぁ」
「ヨーンーさーまー!!!」
ブランシュ騎士団団長であり、ノルマン王国きっての美男子、ヨシュアス・レインが姿を現したらしい。空を舞うリコリスの花びらもそこは特に密度が高い。
「予想通りの動きしてくれんなぁ」
ヤードは顔を強ばらせて、まっすぐそちらに向かう者達の姿を見て呆れた溜息をついた。
「さぁ、危険ですのでちょっと離れてくださいませんか。おっとと、押し合いへし合いはほどほどに」
何も知らずに警戒カラーである緑色のリボンを持って潜入しようとする青年達に、ケイは体を強引に入れて侵入を阻害した。これ以降は一般人、しかも女性が多いのだ。ここで暴れられたときに被害がか弱い女性に集中させること避けなければならない。
「なんだ、お前は‥‥」
「いえ、お祭りは祝う人達が参加するものですからね〜」
すっとぼけた顔でケイは青年達を外に押し出した。
「何をする。我らが目的を邪魔しようと‥‥」
男の一人がケイにつっかかり、残りの人間が再突入を試みる、が、リーディアとサラの花籠渡しとサービスコーナーによる人だかりが彼らの動きを阻止し、近づこうとすればするほど外へと押し出していった。そこで場外乱闘が起こるが、人々の目には大した騒ぎにすら映らない。
「あらあら、作戦成功のようですね。あ、そこの人‥‥」
リスティア・レノン(eb9226)はくすくすと笑って四苦八苦している青年達の様子を見て笑っていたがすぐにその顔が強ばった。
何人かの人間が教会になだれ込んでいたが、腹が減ったとわめくデモ隊くらいなものだ、下手に争って、この大群衆を混乱に陥れるよりある程度は教会内に詰めている司祭守護に関わっているメンバーに任せておくしかない。
「大丈夫かしら」
リスティアはなだれ込む人々を視界の片隅に置きながらも、視線はもっぱらヨシュアスの元であった。一番狙われやすいのは、彼なのだから。
そのヨシュアスのすぐそばでは、普通の女の子の衣装で、1ファンに扮している(普段でもかなりのファンであるが)クラリスが警護に当たっている。目からハートが飛び出ているのに本当に警護になっているのかは若干謎であるが。
「ヨン様、だーい好き☆」
クラリスはやっぱり仕事そっちのけっぽかった。近くにいる同年代の少女に軽い威嚇をしながら、一番ヨシュアスに近い場所を常時キープ。だが女の子も負けていない。花束を持った少女がそれを渡すべく接近を試みている。
「テメェ〜僕のヨン様に近付いたら、殺っちゃうぞ‥‥コラ」
「ま、負けないもん! ヨシュアス様は‥‥」
「おおっとすまんのぅ」
先ほどの農夫が少女とクラリスの間に倒れ込んできた。彼が持っている白色のリボンの花籠をみて、クラリスはその場で硬直した。
「な、なんなのよ。おじいさん!!」
「う、ぅ、ふぇぇぇん、籠が落ちちゃったぁ」
即座に大群衆の足元に消えてしまった籠を憐れむようにして泣き声を上げるクラリス。その声を聞いて、リスティアが即座に動き出した。遠くにいたリーディアもサラも、リーディアは軽く指二本を立てて合図を送りつつ。そしてもみ合っていたケイも青年達を放ってその場に駆けつける。
「おおおぉ嬢ちゃん、悪いのぅ。ほれ、お詫びに花輪をやるからな。そこの嬢ちゃんも。わし、その災厄で家を失い家族を失って」
農夫はわびしさを漂わせながら、クラリスと花束の少女に花輪をかけた。
「え、あの私はいらないですよぉ」
「ほっほっほ、そうはいかんよ。それ主にも幸せをじゃ」
農夫の笑みとクラリスの笑みが重なる。
「「暗殺は阻止しないと、ね」 な」
その言葉が終わったか、終わらなかったか、リコリスの花びらと一緒に、少女が握っていた花束が上空を舞った。
同時にそのリボンに隠れていた小型のナイフを花束の少女は引き抜いて、次の動作でヨシュアスに向かって投げつけていた。それも二本。直線的な動きと円弧を描く弾道。更には花束の中からもナイフがまるで手品のように飛び出てそれぞれヨシュアスに向かって走る。曲芸もいいところだが、3本の射撃物を同時に扱うのは並大抵の能力ではない。
「だーかーら、やらせないっつてンでしょ」
「まっ、たく、ですな」
クラリスが直線的に飛んだナイフを初速に至る前に素手で、そして放物線を描いていたナイフはケイが体を張って受け止めていた。
そして花束から零れ落ちたナイフは、太陽の輝きに紛れて飛んできたリンカによる矢の一撃ではじき飛ばされた。
「‥‥冒険者っ!!」
少女はそれだけ言うと、憎悪に満ちた顔に変貌したが、そのまま攻撃するようなことはせず速やかに最も人混みの多い場所へと消えていった。
「ま、てっ、っく!?」
クラリスは即座に追いかけようとするが、手に走る強烈な痛みに思わずうめいた。半分スリとったような形になったのだから、それほど傷は深くならないはずである。だが、手を開けてみれば真っ赤であった。刃は、返しのついた、のこぎりのような形状。明らかに悪意のレベルが違う。
幸いなのはこの異変にほとんどの人間が気づいていないこと。アルティラの投擲芸が達人並であったため、周囲にいたほとんどがその動作に気づけなかった。
「今、たすけるよ」
「ああ、愛しのヨ、あの、ヨン様がいいんですけどー? 見ず知らずのおじいさんはちょっと‥‥」
老農夫が介護しようとする様子を見て、クラリスがジト目で呟いたのを見て、リスティアがくすくすと笑った。
「尾上彬(eb8664)さんですよ」
「それでも、やっぱりヨン様がいい」
どっちでもいいらしい。すると、壇上にいた白い衣の騎士がそっと壇から降りて、クラリスの手に触れた。
「大丈夫ですか?」
「う‥‥僕はもう駄目‥‥最後に」
キスして、と願おうと思ったが、何かおかしい。クラリスの中のヨシュアス様センサーの反応がちょっと鈍い。
何故だ。端正な顔、長い金髪、爽やかな青の瞳。に優男のフェイス。白い衣に、白い鎧。そして灰色のマント留め。
ん、灰色? 確かヨシュアスは茶色‥‥
「‥‥ふ、ふふふふ、フランさん!!!?」
「ヨシュアスですが、ナニカ? フランは自宅で暗殺者に襲われて、生死の境をさまよっています」
嘘つけ。なんかおかしいと思ったんだ。一番の暗殺の対象を矢面に出すなんてあり得ないと。偽物には注意を払っていたが、まさか、まさか、警備対象そのものが偽物だったとは!
クラリスはショックのあまりそのまま気絶してしまったのである。合唱。
●
リコリスの花びらで地面が完全に覆い尽くされる頃、農業祭は終わりを迎える。片付けは相当大変だろうが、無事に乗り切ったことを考えれば、それほど苦しくもないだろう。人々は最後の最後まで、この農業祭の隠れた使命に気づかず、そして自分たちがその使命にいかに貢献していたかも知らずに帰って行くのだ。
「それにしても残念だ。すぐ見失ってしまった」
リンカは苦々しげにそう言った。アルティラに対して攻撃を入れようと上からテレスコープでチャンスを狙っていたリンカだったが結局、周囲への影響から矢を放つことはできなかった。
「パッドルワードで聞いても分かりませんでした。人混みの中で別の変装をしたのかもしれません」
リスティアもどちらかというと不満な方であった。この人混みを瞬時に利用されるとは思いも寄らなかったのである。
「それでも無事に目的は達成されたのですから、良かったではありませんか」
笑顔でスープを差し出したサラはそう言った。それぞれの役目を効果的に果たせたのだから、それでいいじゃなないですかと。
「それにしてもフランさん‥‥生き霊だったり、実はヨシュアス団長だったりと大変だったのですね」
リーディアは花びらのお片付けのために箒を持ちながら溜息をついた。
「まあ、無事に終わったんだからいいとしようぜ。あれだけの手練れと他の団体も片端からガードできたんだしな」
ヤードはリンカから投げ返されたスクロールをしまい込んでそう言った。
確かに。大きな被害もなく済んだことを喜ばなければならない。5月の預言は間違いなくこちらが主導権を握ったまま、達成できたのだから。