●リプレイ本文
依頼を受けた冒険者達は、まず村へ向かった。神父のミドミドは他の村人達と、畑の手入れをしているところだった。
「こんにちは」
「ああ、よく来て下さいました。みなさん、彼らが依頼を受けてくれた方々ですよ」
ミドミドは村人達に冒険者を紹介してくれた。村人達は喜び、自分たちに出来ることは何でも手伝うと言ってくれた。
「じゃあ、さっそくで悪いけど、誰か私の馬を預かってくれないかな? 墓場まで連れて行くわけにはいかないからね」
ヒースクリフ・ムーア(ea0286)が言うと、中年の男が請け負ってくれた。
「使いたい道具があるんだ、誰か貸してはくれないか?」
布、網、油といった道具の名を挙げるマナウス・ドラッケン(ea0021)。どうやら彼は、墓場にいろいろな罠を仕掛けるつもりのようだ。
「死んでいたという墓荒らしの遺体を見せて頂きたいのだが、よいか?」
ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)が頼む。だが、残念ながら2人の遺体はとっくに墓に埋めてしまっている。
「医師の診断書はありませんか? 死体の状態と、死因を記したものは?」
ルーラス・エルミナス(ea0282)とセルフィー・リュシフール(ea1333)はそれを求めたが、ミドミドは困ったように首を振った。
「そんな、明らかに体を千切られて死んだものを、さらに死因を調べたりしませんよ」
認識の違いだろう、この小さな村では、盗人が死んだぐらいでその記録を残したりはしない(村の人間ですらそんな事をされるかどうかは分からない。少なくともそのような記録を残すとすれば、かなり身分の高い者にのみ、だろう)。
「まだ1週間も経ってない前のことですから、私はかなり正確に覚えているつもりですが、それでも分からないことがあれば、その時には棺桶を掘り返しましょう」
ミドミドは約束した。解決のためとはいえ、神父が墓を暴くというのだ。よほどの覚悟の事だろう。そして同時に、彼が本当に今回の事件を恐れているのが分かる。
「神父さん、問題の墓場へ案内していただけますか?」
と、イフェリア・エルトランス(ea5592)とアイン・エクセルス(ea1886)が頼む。あまり遅くなって欲しくない。墓荒らしが襲われたのが夜だというなら、できるだけ同じ時間帯に墓場へ行くのは避けたいのだ。
「そうですね、それでは」
「じゃあ私は、ミドミドさんの代わりにここを手伝うよ。その代わり、みんな、いろいろ話を聞かせてくれるか?」
サリエル・ュリウス(ea0999)が畑に残った。そして、一緒に働く村人達と話をすることにした。
墓場に現れた怪物、その正体について誰か知っているものはいないか、手がかりになるものはないか、そんなふうな事を期待して。
「墓荒らしの死体は、どのように?」
「肉片が、ここから、このあたりまで、飛び散っていました」
ウォルフガングの問いにミドミドは、実にはっきりと明確な記憶で答えていった。
「かなり広範囲だ‥‥一カ所で襲われたのでは、ないようだな」
「たとえば、熊のような獣が、くわえて噛み千切ったとして、そんなに飛び散るものかな?」
これまで勉強したモンスターについての知識を丁寧に思い出して、セルフィーは考える。
「この足跡は、ミドミドさんのかしら?」
イフェリアは、墓地のそこかしこで土が乱れているのを見つけた。ミドミドは頷くが、全てが自分のではない、と言った。
「一番多く出入りするのは私ですが、村人も墓参に来るでしょう。もっとも、ここ数日は、誰も来ていませんが」
イフェリアは気になった。
野生の獣のような足跡はない。巨人でも、大蛇でも、鳥でもない。ただの、人の足跡だけがいくつも残っているのだ。
「そろそろ日が暮れます。続きは明日にしませんか?」
アインは言った。そして村へ一旦戻り、皆で調べた情報を整理し直してみようと。
ミドミドの親戚の家を貸して貰えた。冒険者達はそこでマリー・エルリックが用意してくれた食事をとり、調べたことを報告し合うことにした。
「これまでこの村にモンスターが出たなんて話はないようだよ。だから、外から来たモンスターだと思うな」
畑を手伝いながら入手した、年寄り達からの貴重な話を、まずサリエルから発表した。
「そのモンスターが普段はどこにいて、どこから墓場に来たのか、ということが問題だな」
マナウスは昼間の内に、鳴子罠を作っていた。鳴らせる部分の素材を2種類に使い分け、音をかえているものである。
「外から来たのか、最初から中、あるいは空から来るものか」
怪物が罠にかかったとき、その音で判断できるようにしたものだ。
「地面の下から、というのは考えられませんか?」
ルーラスは、墓荒らしは上半身が残っていたのだから、下から現れたものに足から食われたのではないかと言う。
「それが気になったので、村の人に手伝って貰って、こんなのを作ってみたのですよ」
と、ルーラスは、木を組み合わせて作ったものを見せた。長い棒に、足場をくくりつけた、いわゆる『竹馬』である。
「少し歩くのにバランスが必要ですが、地面から体を離しておけます」
ウォルフガングはその竹馬を見て、更に脚の部分にランタンをくくりつけ始めた。墓場警備の効率を考えてのことだろうか。
「仮眠は取れる内にとっておこう。夜は長いからね」
ヒースクリフの提案に、皆は賛成して、それから完全に日が沈むまで、全員で体力を温存しておくことにした。
鳴子をしかけ、交代で見張りを立て、モンスターはもちろん墓荒らしに襲われることを警戒しながら、彼らの作戦は続いた。1日、2日と経つが、まだ正体不明のモンスターは現れない。
それから、数日。
月のない、真っ暗な夜だった。
「こんなに暗くなるなんて、困ったね」
セルフィーもイフェリアも視力に自信があった。けれど、それも光がなければ難しい。ランタンの明かりが届かないところには、何があるかが分からない。アインがブレスセンサーを発動させてその分を補う。この時点ではまだ、自分たち以外の存在はない。
闇の中にぼんやりと、2つの灯りが見える。そろそろ慣れてきた竹馬で、ルーラスとウォルフガングが『囮』として、墓場をさっきからうろうろしているのだ。脚の低い位置にランタンがついているので、離れたところでみると、まるで背の低い二人組のように見える。
何度目かの周回を終えようとしたときだ。
マナウスの仕掛けた鳴子が、ガチガチと堅い音を立てた。
「木の鳴る音‥‥外周の鳴子だ!」
墓地の外にある茂み、そこからガチガチ、ガチガチと立て続けに音が鳴った。侵入者はその音に驚きも怯みもせず、今度は内部にあった金属音の鳴子にぶつかっていた。
外周の鳴子は、まだ鳴っている。
「‥‥1匹じゃない、数がいるぞ!!」
闇の中に、足音が響く。1匹、2匹、3匹‥‥?
「4匹だ!!」
アインが最終的な数を把握した。大人の男ぐらいのモンスターが4匹、ルーラス達の持つ灯り目掛けて動いていた。
気をつけて、そっちに向かっている‥‥セルフィーが叫んで教えてくれた。ルーラス達は360度の視界を確保し、じっと堪えて気配が接近する方向を探った。
ザ‥‥ザ‥‥ザ‥‥ザ‥‥。
摺り足のような足音だ。あまり活発そうな感じはしない。
全ての足音が、囮たちを狙っていた。
「見えた!!」
ランタンの明かりが届く視界に入った。
それはモンスターも同じこと。獲物を見つけて、飛びかかろうとする。
それよりも一瞬早く、ウォルフガングは竹馬を捨てて飛び退った。
「皆、離れろ!」
言うが早いか今度はマナウスが、わずかな灯りに浮かぶモンスターに布をかぶせる。間髪入れず油を浴びせかけ、持っていた松明で火を付けた。
真っ赤な炎が広がる。辺りは一瞬で明るくなった。
そして、露わになったモンスターの正体は、4匹の生ける屍、ズゥンビだった。
「やはりズゥンビだったね」
ヒースクリフの予想は当たっていた。これにそなえて、オーラパワーを満たしていたのだ。より有利に、より確実に力をぶつけることが出来る。ヒースクリフは思い切りよく、剣を振りかざした。
「おまえも燃えてしまえ!」
ズゥンビの一つの首に、輪にしたロープをうまく引っかけることが出来たサリエル。これにも油をかけ、火を放った。燃える首輪をはめられたズゥンビは、腐った皮膚を更に焼け爛れさせる。
「悪魔兎の狡猾さ、舐めんなよごるぁっ!!」
最後にナイフでとどめを刺すと、ズゥンビは動かなくなった。
それでも、まだズゥンビは残っている。長い腕と鋭い爪で、美味しい獲物を喰らわんと襲いかかってくる。
その両腕が消えた。
地面に、離れた腕が転がっている。
「死者の冥福のために、斬ります」
ルーラスの剣に腐肉が付いている。
ズゥンビは痛覚まで死んでしまったのか、まだ立ち、動いている。
腹を切り、胸を切り、脚を切り、喉を切り。ようやく次のズゥンビも沈黙した。
1匹減り、2匹減り、こうなると後は早い。こちらのほうが人数的にも圧倒的に勝っているのだ。
ランタンの油を全部使い切ってしまうのと同時に、ついにモンスター退治は完了した。
「ズゥンビだったのね。でも、この教会のお墓に入っていた人じゃなかったのが、幸いかしら」
イフェリアは思った。教会で神の祝福と共に魂を天国に送ったのに、体が魔物として生き返ったのではミドミドも辛かっただろう。このズゥンビは余所から来たもの、今回だけの事故だったのだ。
「全部片づいたら、お腹がすいたよ」
セルフィーが言う。
東の空がうっすら明るくなっていた。
「お腹が空いた? 私はそれより、疲れて眠りたいけどね」
「あたしは先に朝ごはん。成長期なんだから、いっぱい食べなきゃ」
宿に戻ると、ミドミドはもう起きていた。
事件解決を知らせると、まるで子供のように飛び跳ねて喜び、突然、倒れてしまった。
「ミドミドさん!?」
「‥‥寝てる??」
彼はずっと怯えていた、そしてその恐怖が、今、やっと晴れたのだった。