トオヤ村長からの依頼

■ショートシナリオ


担当:江口梨奈

対応レベル:1〜4lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 80 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜08月29日

リプレイ公開日:2004年08月30日

●オープニング

 2年前からずっと行っていた水路の工事が、やっと完成した。これで、村中の畑の周りを、まんべんなく水が回るようになった。山側から湧き出る水が、この水路を通り、畑を潤して先の川へと繋がる。川はよどみなく海へと続く。そこに動きが出来たことで、水路はいつも綺麗な水が流れるようになった。
「やあやあ、これは想像以上にうまく作られたものだ」
 トオヤ村長は嬉しかった。村人総出でとりかかった水路は素人ゆえのイビツさはあるが、十分便利なものに仕上がったのだ。うねうね曲がりつつ村中を走るそれは、トオヤの目を通せばまるで神々しい蛇の姿を写し取ったかのように見えた。
 という、自慢の水路だが。
 ある日、そこから水があふれていた。
 何かが流れて、川と繋がる部分が詰まっていたのだ。
「って、これはいったい何だ??」
「まるでうどんですね。ご存じですか? ジャパンの麺ですよ」
「ええい、冗談を言っているヒマがあったら、あの白くて細長いものをどけるんだ」
 『白くて細長いもの』、それが水路をびっしりと埋めていたのだ。
「こりゃあ、枯木だ。でもどうして真っ白なんだ?」
「うわあ、また流れてきた!」
「上流から‥‥? さては、木こりのバテソーのしわざか?」
 バテソーは変わり者だ。山の奥に一人で住んでいる若いジャイアントだ。乱暴な上に時々、突飛な行動をするので、村の皆に煙たがられている。
「どうしよう、このままじゃ水路が壊れちゃう」
「バテソーはいったい、何のつもりなんだ?」
「ああ、また流れてきた。木がどんどん、積み上がっているよ」
「手の空いているものは手伝え。この木をどけるんだ」
 しかし、どけてもどけても木は無くならない。それほどまでに、たくさん流されているのだ。
「バテソーと話をしないとな」
「でも、話なんか通じないぞ。すぐ殴りかかってくるからな」
「うーん‥‥助っ人を、頼もうか」
 トオヤは冒険者ギルドのことを思い出していた。どんな厄介な仕事でも引き受けてくれる、心強い人々のことを思い出していた。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3827 ウォル・レヴィン(19歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4329 李 明華(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 水路は村中の畑をくまなく回るように、ぐねぐねと複雑なカーブを描いて先の川まで繋がっている。
 そのカーブの所々で枯木は引っかかっている。小さなカーブにぶつかると変な形に折れて、木同士が絡まるようになってしまい、最後のほうでは岩のような固まりになって、どっかりと水路を塞いでいた。
 ウォル・レヴィン(ea3827)がその木について調べてみた。この付近ならどこにでも生えている、ごく普通の木だが、この細さから見るに、まだ樹齢の若いものばかりだ。色が白いのは、どうやら成長が不十分なことが原因のように思えた。しかし、なぜ成長していないか、その理由までは分からない。
「ジャパンの麺のようだと聞いてたんだけど‥‥そんな生やさしいものじゃないようだね」
 と、アシュレー・ウォルサム(ea0244)は言った。依頼を聞いた当初は、細長い白いものだと聞いていたが、時間の経過と共に状況が悪くなっていたのだ。
「男手を総動員して撤去しているんだけど、とても追っつかない」
 依頼主であるトオヤ村長は、忌々しげに上流の方を見た。
「バテソーというのは、どういう男なんだ?」
 誰もが知りたくもあり、知らなければならない事柄を、閃我絶狼(ea3991)が代表で尋ねた。
「怒りっぽいやつなんだ。村に時々薪を売りに来るが、突然怒鳴り散らしながら、その辺に薪をぶちまけて帰ったり、な」
「ほら、小さな子がちょこちょこするのって、しかたないじゃない? バテソーはそれでも『うるさい』なんて言うのよ」
「バテソーさんがそんなふうになったのは、いつから?」
 李明華(ea4329)もサーシャ・クライン(ea5021)も、それが気になった。しかし、村人の答えは「昔から」だ。特に、なにか理由があってバテソーはそうなったのではない。生まれ持っての性質なのだろう。
「本当は相手にしたくないんだが、まあ、薪を買ってやらなきゃ、あいつも生活できないからな」
 皆、口を揃えて『厄介者』と言う。しかし、厄介者なりに、距離の置き方も心得ているようだ。
「乱暴者で話が通じない、と‥‥」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)がため息をつく。何らかの原因でバテソーが心を閉ざしたのなら、わだかまりを消すための方法があったかもしれないが、どうやらそれは望めそうにない。実際に会ってみないと何とも言えないが、最終的には力に頼ることにもなりそうだ。
「でも、本当に今回の件は、バテソーさんのしわざなのかな?」
「ともかく、バテソーさんに会いに行こうよ」
「会って、事情を聞いて、それからだよね」
 チカ・ニシムラ(ea1128)とレフェツィア・セヴェナ(ea0356)は、顔を見合わせ、頷いた。
「俺はここに残って、水路の修理を手伝う。バテソーのほうは、頼んだぞ」
 ウォルは一人残って、トオヤ達と一緒に、目の前の問題を片づける方を選んだ。

 水路を遡る。どんどん山の中へ入っていく。人工的な水路がとぎれ、谷の底にある自然の川と合流した。その谷を、更に数時間ほどかけて上る。そしてようやく、目的地が見えた。
 バテソーは、山の中腹あたりにある洞穴を住処にしているそうだ。トオヤは、行けばすぐに分かると教えてくれ、事実、冒険者達は迷うことなくここに到着した。
 洞穴とは言うが、立派な扉を構え、煙突のような空気穴が付けられた、野性的で立派な家である。しばらく様子を見ていると扉が開き、中から色黒のジャイアントがのっそりと姿を見せた。
(「あれは斧か。木を伐りに行く気だな」)
 絶狼たちは物陰に身を潜め、バテソーの行動を観察した。大男は体を揺らしながら、林の奥へ入っていく。
(「あ、あれ!」)
 サーシャが指さした先にあるものをみて、誰もが驚いた。
 バテソーの入った林は、白く枯れた木が所々に生えていたのだ。
 バテソーはその周りをぐるぐる回り、木の様子を見、少し何か考えたあと、持っていた斧でそれを伐り倒した。
 何本か伐ったそれを、バテソーはまるで藁束でも担ぐかのように軽々と持ち上げ、そして、少し離れた谷へ投げ捨てた。
 冒険者達が上ってきた、水路に繋がる谷である。

「ああ、やっぱりあんたか‥‥」
 アシュレーは、思わず声に出していった。
 声に気がついたバテソーが、振り返った。
「誰や、誰か居るんか?」
 それで冒険者達は全員、バテソーの前に姿を現した。

「なんじゃ、おまえらは? わしンとこに、何の用や」
 野太い声で、バテソーはいきなり、そう叫んだ。
「おまえは今、谷に木を捨てたな? それで川下の村の人が困ってる、それを言いに来たんだ」
 絶狼が説明をした。
「はぁ? 川下の村がどうしたって?」
 しかしバテソーは、話など聞いちゃいない。ただ、目の前の闖入者に不快感を露わにしている。
「待ってください、キミに相談があって、来たのです」
 努めてにこやかに、明華は言った。
「そうだよ。話があるんだ」
 サーシャも、拙くはあるが丁寧に、柔らかく、笑顔を添えて喋った。
 しかし。ああしかし。
 バテソーはやっぱり、彼女たちの話を聞いていない。
「知らん、知らん。出て行け! 早よ出て行かんかい!!」
 斧を振り回し、追い出そうとする。
「‥‥もう、本当に短気なんだね」
 話には聞いていたが、これほどとは。チカはそれをかわしながら、今度は逆に己の手に力を込め、生じさせた風の刃でバテソーの服を軽く擦らせた。
「何のつもりじゃ、こらぁ!」
 火に油。チカは威嚇のつもりだったかもしれないが、バテソーには通じない。
「少々、手荒なことをさせて頂きます」
 力ずくで押さえ込もう、そう考えたルーウィンは剣と盾を構え、アシュレーは矢をつがえる。太刀筋も何もない斧を盾で受け、剣を突き、矢を放つ。だが、殺すわけにはいかない。なのにバテソーは殺しかねない勢いで襲いかかってくる。
「二人とも、離れろ!」
 絶狼のバーストアタックは、バテソーの斧を狙っていた。仲間が避けたと同時に斧は木っ端みじんに砕け、バテソーは右手に走った衝撃に顔をゆがませた。
「これで‥‥」
 武器を失ったバテソーは戦う気を無くす。
 ‥‥と、彼らは思っていたが、甘かった。
 斧がなければ、今度は拳だ。怒りは治まるどころか、ますます興奮し、手が付けられなくなる。
 村人が手を焼いていた乱暴者のバテソー。
 経験を積んだ冒険者達に助っ人を頼まなければならないほど、危険な男だったのだ。
「これで‥‥止まれ!」
 レフェツィアの唱えたコアギュレイトが、バテソーを捕らえた。動けなくなったジャイアントは地面に倒れ、あたりに轟音を轟かせた。
 
 バテソーはしばらく、意味不明の言葉を吐きながら暴れていたが、身動きが取れないとわかると、徐々に大人しくなった。
「手荒なことをしてごめんなさい。でも、どうしても教えて欲しいのです。あの、白い枯木について」
 明華はバテソーの顔のすぐそばにしゃがみ込んだ。そしてやっぱり、最初の時と同じ態度で、柔らかく尋ねた。
「森に詳しい木こりのバテソーさんなら、この異変の原因をご存じではないでしょうか?」
「その前に、わしを起こさんかい」
 言葉は荒々しいが、もう暴れる様子はなさそうだ。3人がかりで抱き起こし、そして話を聞くためにそこに全員が座り込んだ‥‥大人しく話を聞こうと、武器を全て手放し、背筋を伸ばした姿勢で。

「原因ってもなぁ。2年ぐらい前から、木の育ちが悪ぅなってな」
 バテソーは教えてくれた。
 彼は年に何度か、若木を山に植えているという。それが2年前に植えたものから、根付きが悪いというのだ。それ以前に植えたものは十分に根を張っているので順調に育っているが、それ以降は育ちが悪く、多くがひょろひょろに枯れてしまったのだという。
「水路が出来たことで、この辺りの土質が変わったのでしょうか‥‥?」
 確かに時期といい、それが原因かも知れない、けれど、この時代ではそれを証明する手段が無く、あくまで憶測でしかない。
「でも、谷には捨てない方がいいと思う。村の人が困ってるから」
「?」
 不思議そうな顔をするバテソー。
 実はバテソーは、谷川が村の水路に繋がっていると、知らなかったのだ。
 本来の広さの川なら、バテソーが捨てた程度の枯木で詰まったりはしなかった。けれど、トオヤら素人が作った水路は水の流れをイビツに変え、流れ込むはずのないバテソーの枯木を自ら導き入れてしまっていたのだ。
「病気の木を伐るお手伝いはします。ですから、谷以外の場所に捨てるようにしていだけませんか?」
 終始穏やかに話す明華に、素直にバテソーは肯いた。浅黒い顔がほんのり色づいていたのには、誰も気づかなかった。

 村に戻ると、ウォル達の行っていた撤去作業は8割方終わっていた。
「‥‥なるほど、バテソーが全部悪いってのは、違ってたんだな」
 村人達はバテソーを好ましく思っていない。だから、全てを彼のせいにしてしまっていた。けれど、村人にも反省すべき点が多くあった。
 今回のことだけでなく、これまでのこと、これからのことも、もう一度考え直して欲しい‥‥事情を聞いたウォルは、心からそう願っていた。